下記よりログインしてください。
ログインID(メールアドレス)

パスワード
















リンクについて
二次創作/画像・文章の
二次使用について
BNE利用規約
課金利用規約
お問い合わせ

ツイッターでも情報公開中です。
follow Chocolop_PBW at http://twitter.com






アンダーテイカー。或いは、ある男の悲劇……。

●アンダーテイカ―
 煌々と照りつける太陽が、じりじりと肌を焼いていく。皆が眩しそうに目を細める中、1人の異様な男が通り過ぎる。
 顔を包帯で覆い隠した、全身真っ黒の男だ。背中には大きな棺桶を背負っている。
 陰鬱な表情をしているだろうことが、包帯から覗いた瞳を見ればわかる。夏の暑さに似合わない、どんよりとした雰囲気を纏ったその男は、しかし、道行く人々の好奇の視線などものともせずに、ただただどこかへ進んで行く。
 まるで、何かに呼ばれるように、その足取りに淀みはない。
 しかし、淀みない足取りとは裏腹に1歩1歩はゆっくりしていて、出来る事なら前へ進みたくない、とでも言っているようだ。
「はァ……」
 重たい溜め息を零す、棺桶の男。何かのコスプレだとでも思われているのだろうか、時々写真に撮られているが、気にした様子はない。
 黒いローブが熱気を吸収する。暑いのだろう。男の呼吸は少々荒い。
 と、その時だ。
 地面が揺れて、辺りに轟音が鳴り響く。交通事故だ、と解るのに、さして時間はかからなかった。
 男は、背後をちらりと振り返る。
 そこには、電信柱に衝突し、ぐちゃぐちゃになった軽自動車の姿があった。
 それを見て、男はもう1度、溜め息を零す。
「まただ……。まったく、どこへ行っても不幸は俺を追ってくる」
 何もかも諦めたような男の表情。
 棺桶を背負った彼はくるりと踵を返し、事故に湧くその場を後にした。
 彼は、何処へ向かうのか……。
 足取りは真っすぐ、北へ向いている。

●不幸な男
「男の名前は(アンダーテイカ―)。アザ―バイドよ」
 モニターに映るのは、拡大されたアンダーテイカ―の映像だった。陰鬱な表情。暗い目をした背の高い男だ。手足の先から顔まで包帯で巻いていて、肌の露出している場所は極端に少ない。
 黒いローブを纏っていて、見るからに暑そうだ。
 そして何より、異彩を放つのはその背に背負った大きな棺桶である。
「背負った棺桶の中には(不幸)と呼ばれる存在が入っていて、アンダーテイカーに寄生しているみたい」
 どういう関係かは知らないが、(不幸)を運ぶ為にアンダーテイカ―は棺桶を背負っていて、またそれを捨てることはできないのだ、と『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は言う。
「どうやら、海の方向へ向かっているみたいね。街を抜け、そろそろ工場地帯へ入る頃」
 恐らくアンダーテイカ―と遭遇するのは、海辺の工場地帯になるだろう。昼間である為、周囲には人の姿もある。
 アンダーテイカ―自身は目立つ格好をしているので、発見は容易だと思われるが……。
「どうやら、アンダーテイカ―を海へ向かわせているのは(不幸)のようね」
 共生関係にあるのか、それとも寄生され利用されているだけなのか。
 そもそも(不幸)とは一体どういう存在なのか。
 詳しいことは不明のままだ。
「恐らく(不幸)の能力だと思うけど、アンダーテイカ―自身とその周辺で不幸な事故や事件が多発するみたい」
 不幸に寄生されているせいだろうか、アンダーテイカ―は傷だらけ。纏った雰囲気が重たく暗いのも仕方のないことかもしれない。
 アンダーテイカ―が不幸に寄生されてどれくらいの期間が一緒だったのかは分からないが、きっと今まで、何度も不幸を味わってきたのだろう。
「アンダーテイカ―自身の能力として、棺桶を召喚する技を持っている」
 アンダーテイカ―がこの世界へ来たのは、ほんの数十分ほど前だろうか。
 街の外れにDホールが開いている筈だ。
「送還、討伐は任せるけど、Dホールの破壊は忘れないでね」
 そう告げて、イヴな仲間達を送り出すのだった。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:病み月  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年07月27日(土)23:16
こんにちは、病み月です。
皆さん、いかがお過ごしでしょうか? 暑くなってきました。熱中症には気をつけてください。
そんなわけで、依頼です。
今回は、異世界から来た謎の男と、男に寄生する謎の存在の物語になります。
それでは、以下詳細。

●場所
海辺の街。及び、港の工場地帯。
トラックなど出入りするので、道路は広い。また昼間であるため太陽光が強く、周囲には人気もある。
戦闘の邪魔になる障害物などはないだろう。
港の傍には、外国人墓地や船着き場、工場、公園など存在する。


●ターゲット
アザ―バイド(アンダーテイカ―)&(不幸)
棺桶を背負った全身真っ黒の男。体中に包帯を巻いていて、どんよりとした陰鬱な雰囲気を纏っている。
背中の棺桶の中には(不幸)という存在がいて、アンダーテイカ―に寄生しているようだ。
彼がこの世界へ来て、どこかへ向かっているのも全て(不幸)に導かれてのことである。
アンダーテイカ―の周囲では、不幸な事件や事故が多発する。
なにかしらの目的があってこの世界へ来ているようだ。説得しても、納得してくれる可能性は低いかもしれない。


【バッドエンド】→神遠範[不運][呪い][毒]
棺桶から溢れる不吉なオーラが、対象を襲う。バッドエンド使用時、アンダーテイカ―の意識は不幸に操られている状態になる。
【コフィンレイン】→物遠範[ブレイク][圧倒][連]
無数の棺桶を降らせる能力。降って来た棺桶は、暫くの間その場に残り続ける。
【コフィンブレイカ―】→神近複[隙][呪縛][致命]
自身を中心に、オーラで作り出した棺桶を展開し相手を捉える能力。棺桶に囚われている間ダメージを受ける。


以上になります。
それでは、皆さんのご参加お待ちしています。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
覇界闘士
大御堂 彩花(BNE000609)
ホーリーメイガス
シエル・ハルモニア・若月(BNE000650)

浅倉 貴志(BNE002656)
スターサジタリー
宵咲 灯璃(BNE004317)
ホーリーメイガス
キンバレイ・ハルゼー(BNE004455)
スターサジタリー
三影 久(BNE004524)
インヤンマスター
赤禰 諭(BNE004571)
スターサジタリー
アルテミス・フォレスタ(BNE004597)

●墓守
 重い足取りで進む黒衣の男が居た。包帯だらけの体に、陰鬱な眼差し。陰気な雰囲気を撒き散らし、ゆっくりと歩く。
 その背に担いだ棺桶が、一際異彩を放っていた。
 果たして、男は何者なのか。
 海へ向かって歩いているようだ。まるで何かに、導かれるかのように、男の足取りに迷いはなかった。
 彼の名は(アンダーテイカー)。棺桶に収まる(不幸)に寄生され、彼はこの世界へやって来たのである。
 そんな彼の進路に、8つの人影が現れた。
 アーク所属のリベリスタ達だ。リベリスタ達の登場にも、アンダーテイカーは動じない。
 どんよりとした瞳に、8人の姿を映し、彼は小さく溜め息を零した。

●不幸とダンス
 アンダーテイカーが溜め息を吐いた。それと同時に、背負った棺桶からコールタールみたいな不吉なオーラが溢れだす。地面を這うようにオーラが飛び出し、リベリスタ達に迫る。
 先制を取られた、と8人が察した時にはもう遅い。咄嗟に回避行動に移る8人。
 組んでいた陣形も崩さた。
 その直後だ。足元のアスファルトが揺れ、大きな亀裂が走ったのは。
 アンダーテイカーの周辺では、不幸な事件が多発するのである。
「不幸に追われている葬儀屋……。戦うのは怖いですが、弱音を吐いてはいられないんです」
 弓矢を構え『イツワリの女神』アルテミス・フォレスタ(BNE004597)が後ろへ飛んだ。その矢はアンダーテイカーの背後、背負った棺桶に向いていた。無気力そうなアンダーテイカーよりも、彼に寄生している不幸の方が厄介だと感じたからだ。
 不幸を倒せば、アンダーテイカーは救われるのか否か。それはまだ分からない。
「じめじめと辛気くさい。梅雨に逆行したいんですか? ……っと、今の音を聞きつけて、誰か寄ってきそうですね」
 ファミリア―で鳥を支配し、周囲の様子を監視していた『零れ落ち』赤禰 諭(BNE004571)が、苦笑い。構えていた重火器から手を離し、自身の周囲に影人を呼び出す。
 影人に下した命令は、近寄ってきそうな一般人を遠ざけること。
 酷薄な笑みを浮かべたまま、諭は小さく溜め息を零す。

「……ったく面倒くせぇな」
 崩れて行く足元に舌打ちを零し、見影 久(BNE004524)が踏鞴を踏んだ。バランスを崩し、倒れそうになる姿勢を無理矢理整え、アンダーテイカー目がけ飛んだ。
 足元を流れて行く不吉なオーラに背筋が粟立つ。冷や汗が頬を伝って落ちた。
 陰鬱な目をしたアンダーテイカーが腕を上げる。突如として、久の眼前に棺桶が出現。避けきれず、顔から棺桶に衝突してしまう。
「っぐ、ぉ」
 久の口から尖った歯が1本、抜け落ちた。

 無数の棺桶が降り注ぐ。まるで雨のように止め処なく。いったい何処から湧いてくるのか。降って、落ちて、地面にぶつかって砕けてしまう。
 そんな雨の中を縫って、飛ぶように駆ける人影が2つ。否、片方は実際に飛んでいた。
「先ずは始めまして、だね。灯璃達はリベリスタ。えーっと、この世界の守り手って言えば判るかな?」
 飛びながら、『断罪狂』宵咲 灯璃(BNE004317)はアンダーテイカーに語りかける。なるべく和やかな雰囲気になるよう、心がけて、だ。
 しかし、アンダーテイカーは無言。表情1つ変える事無く、こちらの様子を見つめている。
 アンダーテイカーの意識は残っているのか、と不安になる。寄生している不幸は、条件次第では彼の体を操るというからだ。
「力なき正義は無意味……。だから僕は力を欲する」
 降って来た棺桶を、正拳突きで打ち砕く。浅倉 貴志(BNE002656)の空けた道を、灯璃が飛んでいった。少しでも、アンダーテイカーに近づくために。際限なく降る棺桶が、貴志の体に叩きつけられる。
 流れた血が、地面を濡らす。貴志の身を傷つけるのは、棺桶だけではない。足元に漂う不幸のオーラも、彼の身を蝕むのだった……。

 所変わって、こちらは戦場から幾分離れた道路の上だ。一般人の接近と、仲間の負傷具合に気を配っているのは『紫苑』シエル・ハルモニア・若月(BNE000650)とキンバレイ・ハルゼー(BNE004455)の2人である。
「回復力ではシエルさんに負けるけど、おっぱいでは負けないです!」
 豊かな胸を大きく揺らし、キンバレイはそう言った。
「……頑張らないといけませんね」
 一瞬、シエルの頬笑みが引きつった。しかし、すぐに自然な笑顔を取り戻し回復役としての務めを全うすることを宣言する。
 同じコーポレーションに属する2人だ。連携もバッチリだろう。回復役は厚いと言える。
 だからこそ、前衛の仲間達は戦闘に集中できるのだ。
 2人の視線の先には、コーポレーションのリーダーでもある『ライトニング・フェミニーヌ』大御堂 彩花(BNE000609)の姿があった。地面を蹴って矢のように駆けるその姿。長い髪をたなびかせ、拳振りあげアンダーテイカーに迫る。

 飛んできた棺桶を、灯璃の剣が撃ち抜いた。鎖で繋がった2本の剣の、片方だ。投擲武器として使用できる、少々風変わりな剣である。
 砕け散った木端の中を、彩花が突き抜け、飛びだした。
「不幸の排除を望んでいるのであれば、強力しますよ?」
 広げた掌を、アンダーテイカーの眼前に翳す。数十センチの距離まで肉薄されても、アンダーテイカーの顔色は変わらない。
「………どうにもできないさ。引け。不幸は常に、私の周りに存在している」
 ググ、と何かに引っ張られるようにアンダーテイカーの腕が上がる。
 次いで噴き出す、不吉なオーラ。棺桶の中に潜んでいるのは何なのか。不気味な気配に、彩花の頬が引きつった。
 溢れたオーラに飲み込まれる彩花。彩花だけではない。アンダーテイカーに接近していた、灯璃や貴志、久も纏めて、広がるオーラに飲み込まれた。

 遠目に見ると、まるで空中に墨汁を撒いたようにも見える。霞にも似た不吉なオーラが、辺り一帯を覆い尽くしているのだ。霞に遮られ、アンダーテイカーや飲み込まれた仲間の姿が見えなくなった。
「射線が確保できませんね……。近づきます」
 弓を構え、アルテミスが前出る。徒弓と呼ばれる技術。移動しながら、狙いを定めて矢を射るのだ。遠目からでは、霞の向こうのアンダーテイカーだけを撃ち抜くことはできない。
 誤って、仲間を射てしまう可能性だってあるのだから。
「冬虫夏草ですか? 哀れな虫なんですか? 妙なものを背負い込んで、入水自殺で勝手に死んでくださるなら止めないのですが。只でさえゴミが多いというのに、ゴミが増えては迷惑です」
 薄ら笑いに歪めた口元。吐き出されるのは罵詈雑言。慇懃無礼な態度でもって、諭は重火器を構え直す。周囲に配置した影人と共に、その銃口を霞へと向ける。
 次の瞬間、鳴り響く轟音。地面が揺れて、火薬が爆ぜた。宙を走る弾丸は、まっすぐ霞の手前に着弾。飛び散る瓦礫と、舞い上がる爆風。
 オーラの霞を、吹き飛ばす。
「背中の棺桶を狙い撃ちます」
 弦が鳴る。空気を切り裂き、矢が走る。緑色の閃光と化し、それはまっすぐアンダーテイカーの背負う棺桶へと突き刺さった。
 バランスを崩すアンダーテイカー。棺桶の重さに引っ張られ、そのまま地面に倒れ込んだ。

 霞が薄れ、消えて行く。地面に倒れた仲間達を視界に捉え、シエルは即座に動きだした。展開する魔方陣。飛び散る燐光が、仲間達を包み込む。
「少し……頭を冷やして差し上げますね?」
 冷たくも、憤りの籠った眼差しをアンダーテイカーに向けるシエル。彼女の周囲に渦巻く光は、強く瞬き、傷を癒す。その様子を見て、アンダーテイカーは「ほぅ?」と呟いた。
 ゆっくりと起き上がるアンダーテイカー。治療を終えたリベリスタ達も起き上がる。
「シャチョーさんは10万馬力ですよー!ってラプターのエンジンが35000馬力でしたっけ?」
 彩花に駆け寄り、キンバレイはその身を抱き起こす。アンダーテイカーの技をまともに受けたのか、彩花と、それから貴志の2人は傷が酷いようにみえる。
 無論、シエルとキンバレイの2人が居れば、回復が間に合わないということもないだろうが。
「ぐッ……。棺桶に」
 呻き声をあげる貴志。不吉なオーラのただ中で、彩花と貴志は、アンダーテイカーの棺桶に囚われていたようだ。
 それでも立ち上がった2人は、アンダーテイカー目がけ飛びだした。握り拳を振りあげ、左右から黒衣の男へと迫る。
「………私は不幸に憑かれている。そこに私の意思はなく、また私の体に自由もない。ただただ不幸をばら撒くだけだ」
 腕を持ち上げ、振り下ろす。突如現れるオーラの棺桶。貴志の体を捉えて身動きを封じる。次いで、棺桶は彩花の体を飲み込んだ。棺桶の蓋が閉まるその直前、彩花の手がアンダーテイカーを捉えた。
「……う、っぐ!!」
 棺桶が閉まるのと、アンダーテイカーの体が地面に叩きつけられるのは同時だった。アスファルトに罅が入るほどの衝撃が、男を襲う。
 だが、彩花も無事ではいられない。意識を失い、そのまま地面に倒れ伏した……。

 よたよたと起き上がるアンダーテイカー。意識を失っているのか、貴志と彩花は地に伏したまま動かない。アンダーテイカーを睨むシエルとキンバレイ。遠くからは、諭とアルテミスが彼に狙いを定めていた。
 そちらに視線を向けながら、しかしアンダーテイカーは踵を返した。邪魔者になど構っていられないということか。海を目指して侵攻を再会する。
「大人しく帰ってくれない? 不幸が一緒じゃ、此処から先には通せないもん」
 アンダーテイカーの眼前に立ちはだかるのは灯璃であった。両手に下げた剣を持ち上げ、アンダーテイカーに突きつける。唇を尖らせ、片手の剣を弄ぶ。
「ここから先、いや…この世界にお前の歩く道は無い。失せろ」
 背後からは久の声。十字に組み合わされた刃が、アンダーテイカーの首に触れる。口の端から血を流し、それでも久はにやりと笑った。

 遠距離から放たれる刃の嵐。前後から行われる怒涛の攻撃に対し、アンダーテイカーの反応は間に合わない。周囲に棺桶の雨を降らせるが、それも諭やアルテミスの攻撃によって破壊されてしまう。
 斬られた黒衣の切れ端と、噴き出した鮮血が飛び散った。
「……はァ。どうせ、無駄なのに」
 ゲホゲホと血を吐きだしながら、アンダーテイカーが独りごちる。
「あぁ、おい……溜め息ばかり吐いていると幸せ掴めねぇぞ」
「この先で、不幸に事故起こされると困るんだよね」
 じゃらり、と灯璃の鎖が鳴った。次の瞬間、灯璃は剣を放り投げる。まっすぐ宙を駆け、灯璃の剣がアンダーテイカーの肩口に突き刺さる。棺桶を固定していたベルトが切断される。
 地面に落下した棺桶を、久の手裏剣が貫いた。木端を散らし、棺桶の蓋が砕け散る。
 灯璃と久が、同時に着地。剣と手裏剣を手元に戻し、棺桶の中の不幸へと視線を送った。
「……。そうじゃない。そうじゃないんだ。不幸っていうのは、いつでもそこに居て、見えないものなんだよ」
 ぼそぼそと呟くアンダーテイカー。砕けた棺桶から、不吉なオーラが噴き出した。
 勢いよく噴き出したオーラが、灯璃と久を飲み込んでいく。アンダーテイカーの瞳が虚ろに変わる。意思の宿らぬ暗い瞳に、リベリスタ達の姿を映した。
 地面に膝をつく灯璃と久を一瞥し、アンダーテイカーは拳を宙へと振りあげる。

●不幸に憑かれて
 思えば(不幸)に憑かれて結構な時が流れた。不幸は時折、アンダーテイカーの意思とは無関係に彼の身を乗っ取り、何処かへ不幸をばら撒きに行く。
 今回もそうだった。アンダーテイカーは、彼に寄生した不幸という存在に導かれるままに、この世界へやって来て、そして今も、海へと向かっているのだ。
 不幸が動き始めた後は、決まって大きな事故が起きる。死人が増える。何度も回避しようとして失敗したのだ。アンダーテイカーの手は、不幸な犠牲者の血で汚れている。せめてもの罪滅ぼしに、能力を使って遺体を土に埋めることにしている。
 故に葬儀屋(アンダーテイカー)と名乗っている。
 何度も自殺を図ったこともある。しかし、その度に失敗してきた。不幸によって、自殺を止められているのだ。それこそ、彼にとっては不幸以外の何物でもない。
 今回もきっと、不幸な事故が起こるだろう。
 せめてその前に、誰か自分を止めてくれ。
 そう願いながら、アンダーテイカーの意識は途切れる。

 瞳の焦点がずれている。恐らくすでに、その身にアンダーテイカーの意思は宿っていないのだろう。そう判断し、シエルは警戒を強める。それと同時に、再び回復術を展開。飛び散る燐光が、灯璃と久を包み込む。
 仲間の回復を担う為に、彼女が倒れるわけにはいかない。あくまで後衛。回復役としての仕事をこなすだけだ。とはいえ、無駄だと分かっていても、思わず想いが口から飛び出る。
「どうか、お帰り願えませんか?」
 シエルの声は、しかし誰にも届かない……。
 
 久と灯璃にトドメを指すべく、アンダーテイカーが拳を振りあげた。オーラが集まり、禍々しい棺桶が形成される。
 叩きつけられるように、棺桶が降ってくる。久と灯璃目がけ、容赦なく。
 思わず目を閉じ、防御の姿勢をとった灯璃。しかし、いくら待っても、予想していた衝撃は襲って来ない。恐る恐る目を開けると、そこに居たのは、額から血を流す彩花だった。
「不幸の排除を望んでいるのであれば、協力しますよ?」
 彩花がよろける。崩れ落ちそうになる膝に鞭打ち、次々と降ってくる棺桶を打ち砕いていく。
 彩花の後ろでは、拳を振りあげエールを送るキンバレイの姿があった。彩花を応援しながら、彼女は回復術を展開。彩花の負ったダメージを回復させていく。
「おーみどーの回復力は世界一なのですー! ブラック企業の恐ろしさを思い知ったかなのですー!」
 楽しそうに飛び跳ねる。回復術の燐光が舞い散る。シエルとキンバレイ、2人合わせて、どれほどの回復力になるのだろうか。
 一方のアンダーテイカーは、満身創痍であった。包帯に血が滲む。虚ろな瞳からは、生気が薄れていくようでもある。
 ドロリ、とアンダーテイカーの周囲に不吉なオーラが渦巻いた。水飴の中に腕を突っ込むような、気持ち悪さを久は感じる。思わず、十字手裏剣を持ち上げ防御体勢を取った。
 オーラが久を飲み込む、その寸前。
「不味いですね……」
 アンダーテイカーの首筋に、諭が牙を突き立てた。

「辛気臭さで、不味さも二割増しに」
 口の端を伝う血を、諭はぐいと手の甲で拭った。諭の方へ振り返るアンダーテイカー。その側頭部目がけ、諭は重火器を叩き付けた。大きくよろけるアンダーテイカー。諭は、冷たい視線をアンダーテイカーに注ぐ。
「ちょっと偏見かもしれませんが、葬儀屋って不幸の象徴みたいな気はしちゃうんですよね」
 キリリと弦を引き絞る音。片目を瞑り、アンダーテイカーに矢を向けるのはアルテミスだ。囁くように呟いて、アルテミスは矢を放った。
 風を切る音。薄緑の軌跡を描きながら、アルテミスの矢は宙を疾走。
「………不幸は、いつも私の傍にいるんだ」
 どんよりとした眼だ。しかし、アンダーテイカーは僅かに笑みを浮かべた。その直後、アルテミスの矢が彼の喉元に突き刺さる。口から血を吐き、白目を剥いて、アンダーテイカーは地面に倒れた。
 ゴボ、と血の泡を吐くアンダーテイカー。その体から、黒い霞のようなオーラが零れて消える。恐らく、その霞のようなオーラが不幸の正体なのだろう。
 アンダーテイカーに近寄るリベリスタ達。自分を見降ろす異界の戦士たちを眺め、アンダーテイカーは呟いた。
「本当の不幸は……死ねないってことだ……。だが、これで私の不幸は終わり。あぁ、清々しているよ」
 そう告げて、彼はゆっくり目を閉じる。その身に寄生していた不幸は既にいない。
 体の端から、アンダーテイカーが崩れ始めた。まるで砂の城が崩れるように、アンダーテイカーの遺体は崩れていくのだ。
 ほんの数十秒。残ったのは、棺桶1つと、砂の山だけ。

 不幸、という概念に寄生されたアンダーテイカー。彼の周囲では、常に不幸な事故が起きていた。彼の行く先では死人が出るし、不幸に導かれ大事故の現場に居合わせることも少なくなかった。
 そしてなにより……。
 死にたくても死ねなかった、という事実が、何より彼を不幸にしていたのだ。
 いったい何年間、彼は死人と生者の狭間を過ごしたのか。
 長い期間、無理矢理動かしていたせいで、アンダーテイカーの体は限界を迎えていたのだろう。
 リベリスタ達は、棺桶の中に砂を詰め、それをDホールへと送り返す。
 笑いながら死んでいったアンダーテイカーのことを思い出し、皆一様に、無言であった……。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
お疲れ様でした、異世界の葬儀屋の話、これにて終了となります。
不幸ともども、アンダーテイカーは殲滅されました。不幸の起こそうとしていた大事故は未然に防がれました。依頼は成功です。

いかがでしたでしょうか? 異世界の葬儀屋の話、お楽しみいただけましたか?
お楽しみいただけたなら幸いです。
それではそろそろ失礼します。また縁がありましたら、別の依頼でお会いしましょう。

このたびはご参加、ありがとうございました。