●“適当” 『――Guten Abend,ハンネ、ヴェラ。俺だ、ブレーメだぜ』 「やぁやぁブレーメさんこんにちばんはですッ! ハンネだよぉ――!」 「Guten Abend. こちらヴェラ。通信に問題が無い様でなによりです」 通信機から聞こえる声はどこか軽快に。人を食ったような声色で会話を始めたのは――かの、ブレーメ・ゾエ曹長だ。返答する声はソレと比べれば格段に幼い、少女の様な高い声であり、そんな二人に。 『おう、元気そうで何より。さて、そんなお前等にお仕事だぜ。 ――方舟がそっちに向かってる。ちゃあんと“おもてなし”出来るかい?』 ブレーメは問う。いや、それは問いであって問いでは無い。 答えは分かっている。答える側も分かっている。そんな形式上の問い掛け。 故にこれは問いと言うよりも――確認なのだ。 出来るか。出来ないか。やれるか。やれないか。 “勝て”るか。 “負け”ないか。 「フ、フフ! ヤッ、ヴォール! お任せ下さい軍曹殿! たかだか劣等の群れ如き、軍人なりの“テキトー”加減で“おもてなし”するつもりですよ!」 「こちらとしても同様に。ええ、軍人の“適当”を見せてやりますよ。今度こそ」 通信機越しの声からでも伝わるは、殺意か闘気か。 あぁ、全くもって悪くない。そうだよそうそう。“負け”なければ良いんだ。 例え遥か過去に“国が負けても、負けていなければ”。何も問題ない。要は、 『そうそう。要は“勝て”りゃいいのさ。 何をしようが、どうなろうが。“適当”に頑張れよう。――Sieg Heil!』 「「Jawohl ! Sieg Heil Viktoria!」」 ブレーメの声に、二人の返答が重なり合わせて。 士気は充分。“数”も充分。電波の感度も良好。 軍人の“テキトー”を見せてやろう。正しく、真の意味での“適当”を。 この、Donnergott作戦で。 ●ブリーフィング 「皆さーん!! まーたまた親衛隊が動きましたよ!」 『月見草』望月・S・グラスクラフト(nBNE000254)が放つ言葉は“親衛隊”。またも連中である。 「電波中継車みたいなの使って、一般人を操ってる事案、知ってますか? あれで結構な数の人達が精神を蝕まれて、ノーフェイス化し犠牲になっているんですが……」 知っていても、知らずとも問題は無い。 重要なのは、親衛隊出没以降そういった事件が発生していた事である。親衛隊が関わっている以上の情報はよく分からず、楽団とは少し違うが“現地調達”される被害も馬鹿にならない。 一般人をノーフェイス戦力化した上でのゲリラ作戦など展開されればアークとして死地面倒な事この上ないのだ。散々悩まされ、情報の取得が非常に困難だったこの事件。親衛隊にイニシアチブを握られっぱなし―― “だった”が、 「とうとう見つけたんですよ――彼らの電波発生拠点を!!」 部屋のモニターを操作して、映し出すは巨大な、“塔”だ。 なんだ、あれは。30、40……いや、50mはある。自然に発生したなどとはあり得ないだろう建造物。まさか、これが原因なのか。 「“雷神電波塔”って言うらしいです。全部で六つ。さっきの、一般人のノーフェイス化を行っている元凶アーティファクトがこれなんですよ! だけど、逆に言えばこの塔を潰せれば親衛隊の思惑を挫く事が出来るんですけどね!」 コレがある限り向こうは一般人ノーフェイス化を図ってくる。 されど望月の言う様に逆説的に考えれば、コレを破壊するだけで彼らの狙いを潰す事が可能なのだ。問題は、この“雷神電波塔”とやらが“六つ”もある事だが―― 「その点はご安心を!! 名古屋さんにギロチンさん、響希さん、数史さんとそして、まるるる――ローゼスさんの協力も得ての一斉攻勢計画を立てました! 六つ同時に攻撃し、全ての破壊を目指してもらいますッ!!」 成程。確かに、この規模は一斉攻勢だ。 しかしチャンスはこれっきりだろう。親衛隊が位置のバレた塔に対策しないとは思えない。 ここしかない。今しか、ないのだ。 「向こうもこっちの動きに気付いて防衛体制を整えて居る様ですが……それでも、ここで退く訳には行きません! 最優先するのは“電波塔の破壊”と“現地ノーフェイスの殲滅”です! 厳しい闘いは予想されますが、どうかご無事に!!」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:茶零四 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年07月24日(水)22:54 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●叫 「ヴェラたんたんたーん!!」 天に聳える電波塔。 急行せしリベリスタ達の前に、その塔を護るべく展開する親衛隊の姿があった。数多のノーフェイスらを前面に押し出している彼ら。その影を捉えるなり最前線に飛び出したのは『合縁奇縁』結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)で。 「よぉ! 俺だよ、俺俺! 覚えてるかい!? 今度こそ、あの少尉なんか放っておいて俺と仲良くしようぜ!」 「ま、ままままた貴様か劣等ッ――!! ええい口を閉じろ耳が腐ーるッ!!」 思わずハンドガンを構えて迎撃態勢を取るヴェラ。結局行っている行動自体は親衛隊への付与援護行動なのだが、何故か竜一へ苦手意識を持っている様である。以前の闘いにおいても己に声を掛けて来た劣等である故か覚えて居た様で。殺意全開である。 ともあれ。その竜一の右後ろ側には。 同時に最前線に躍り出た水無瀬・佳恋(BNE003740)の姿もあった。走り込み、一気に彼我の差を詰めれば、 「押し留めます――御覚悟を」 竜一には当たらぬ様に範囲を絞り。 激しき、烈風の如き一撃を。放って連中を薙ぎ払う。 「アハッハ――! なんだいきなり豪快だねぇ。劣等しょーくん! 必死だねぇ。ばっかみたいに必死だねぇ! アハハ――」 「……口を開くな、でござる」 薙がれたバウアー達の奥にて。笑うハンネの罵りに、 彼は言う。静かに。ただ殺意を乗せて。 『家族想いの破壊者』鬼蔭 虎鐵(BNE000034)は、 「貴様らは――邪魔でござるよッ!!」 最前線からは少し後方。およそ中衛と言える位置にて咆哮と共に。空を割く一撃を、傷付いたバウアーへと叩き込んだ。 バウアーの肉が割れ、骨が砕かれる。絶大たり得る彼の一撃。見事と言わざるを得ない。そも、この技は己が素の力だけでその威力が決定されるのだ。普通に穿つよりも少々当てやすくは成るが、威力そのものには何も乗らぬ。彼の腕力的な基礎が、全てを決めるのだ。 故に。コレがソレほどの威力を持ったと言うのは純粋に、彼の実力の高さを表している。 “破壊者”の名に恥じぬ、ある種、デュランダルの極点だろう。 「一般人をとうとう巻き込み始めましたか。……これは、前回負け越した私達の不徳の致す所、ですかね」 だが彼の、虎鐵だけで終わりでは無い。 先の攻撃に立て続ける形で雪白 桐(BNE000185)が放つのもまた、距離を超え、宙を穿つ一撃だ。真横に振るった、閃光たり得る剣撃が追撃とばかりにバウアーを切り裂き潰す。 もはや負けぬ。負けられぬのだ。先の三ッ池公園での出来事を思い出し、桐は苦き思いを巡らせる。 しかし。無論。だからこそ、 「勝たせてもらいます。次こそ勝つ為に」 今ここを、乗り越える気概を固めるのだ。 「大量の一般人を洗脳だなんて……絶対に許せません!! ここは突破させてもらいますよ!」 気合いの入った声の主は『勇者を目指す少女』真雁 光(BNE002532)である。桐とは少々種別こそ違えど、塔を破壊すべくの心は同じ。 洗脳などと言う手段が許せない。己が心中で輝く“勇者”の背中が、彼らの行いを卑劣と断じる。剣が輝き、周囲を照らすかのように豁然と輝いた瞬間に振るえば、 雷光直下。一条の激しき光が、視認し得る全ての敵を焼き払う。 「ほう。だが“駒”が傷付いた程度では痛くも痒くも無いな」 電波塔側親衛隊後衛。ヴェラが腕を振るい、“駒”たるバウアー達に指示を出す。 突撃せよ、と。 多少の損害等どうでも宜しい。元より素材は“劣等の塵芥”。 そんな者が一つや二つ。極論すれば十でも百でも千でも万でも傷付こうがどうでも宜しいのだ。 故に行け。死にに行けと。突撃命令を出す。他の親衛隊はその後方から、あるいはそれらの射線をバウアーで封じて。安全圏からの攻撃を行う様に口頭し。 「人の命を弄んで……そんなに楽しいの?」 瞬間。一斉に突撃を行ったバウアーの一体を『腐敗の王』羽柴 壱也(BNE002639)が押し返す。 剣を相手の胸にめり込ませ、手首の力で肉を押し、武器を振り切り直撃を。これ以上前進させぬとばかりに。 「どこまでがテキトーでどこまでが適当か……そんな下手なものさしで計れる程、わたしたちは弱くない! 来なよ! わたしたちの全力、あんた達に見せてあげる!!」 群がる様に押し寄せるバウアーの数にも、後方に備える親衛隊にも怯える事は無い。 何が劣等だ。何が優良人種だ。下らない。そんな思想に負けるものか。 八名中六名デュランダルという攻撃的な編成がバウアーらを寄せ付けない。前衛の二人が範囲で薙ぎ、中衛の四名がそれぞれ討ち洩らした者に対処。中々に偏った編成ではあるが、逆にそれが上手く機能している様だ。無論、親衛隊やバウアーの攻撃に晒されれば彼らの体力も削れて行くのだが、そこは、 「回復援護はワタシ達にお任せください……皆様は攻撃に集中を!」 「親衛隊――今まで嫌悪感はそこまでなかったのですが、ね」 残る二名にして、双方ともにホーリーメイガスたる『青い目のヤマトナデシコ』リサリサ・J・丸田(BNE002558)と『Dreamer』神谷 小夜(BNE001462)が支援の態勢を整えている。 初手で言えば小夜が皆に飛翔せし加護を行き渡らせ、リサリサが攻撃の為の集中行動を行っているが、必要となれば即時癒し手たらんとするだろう。攻撃手八・癒し手二というハッキリと役割の別れた、ある意味偏った編成はやはり、良い方向に流れている様だ。 さりとて。まだ結果は分からぬ。 バウアー達は所詮“駒”。それを幾ら削ろうとも、最終的に親衛隊、引いては“塔”に損害を与える事が出来なければ何の意味も無いのだ。 塔は、未だ聳えている。 ●攻防 「ハハハ――!! やるねぇやるねぇ猿がさぁ!!」 雷光の如き動きを纏う、ハンネ。 残念ながらこの状態の速度に対応できるリベリスタは今メンバーの中には居ない。黒き影がバウアーの波の中に潜みながら、接近。さすれば最前線にいる竜一に超至近距離から射撃を連打。光の飛沫が散る様な一撃に思わず一瞬魅了されそうになる、が。 「ッ、おお! 残念だけどそいつは無駄だねぇ!」 初手にて、移動しながら蓄えていた“闘気”が彼の身を守った。 数多のBSを無効にするソレは、ジャガーノート。真実、強力なスキルであり、デュランダルでも精鋭しか使えぬ技の一つである。 されど今宵。驚く事にジャガーノートを使えるのは彼一人だけに留まらない。というよりも―― 「駄犬がちょろちょろと調子に乗るなでござる……!!」 「へぇ。結構早いんだね。あんた」 虎鐵に壱也が言葉と共に闘気を身に纏い、そして今は使っていないが桐も。 合わせてなんと“四名”ものリベリスタがジャガーノートを使用可能なのだ。八名限りの戦場において半数も使えるとはある種、尋常ではない事態だが、まぁそれはともかくとして。 「ねぇ。わたしと勝負しない? あんたたちの“適当”とわたしたちの“本気”、どっちが強いか……試してみようよ」 壱也が言う。 前に出て来たハンネの抑えに回るべく、己も前に出て。 挑発する。 掛ってこい臆病者。全力で命を掛けると言う事の意味を、見せてやる。 「……そんな安い挑発に乗ると思った? 雌猿如きが。 まぁ、でも良いよ。前に出て来たのなら“遊んで”あげようじゃないかッ! ハハッ!」 ハンネは挑発に乗った訳ではない。それは確かだ。 しかし前衛潰しに取り掛かるハンネとしては、誰に攻撃を集中させても構わない。前にいるのなら潰してやろう。壱也が前に出たが故にこそ、ハンネとの戦闘は成立したのだ。 「ぉおお――! 砕・け・ろです――!!」 光が再び剣を振るえば、天が震えて雷光が敵を撫でる。 バウアーの自爆は厄介だ。長い間放っておくわけにはいかない。故にと急いで、彼女は行動する。それでもなお雷を超えて接近してくる者には、 「癒し手の皆さんには……絶対に、触れさせませんよ!!」 雷では無く、剣で直接押し返す。これ以上後方に進ませてなるものか。その為に己が備えているのだから、と。 さてここまで。総じて言えばバウアーとの闘い自体は順調に進んでいた。 攻撃手が充足していた事が最大の理由だろう。フェーズ2はともかく、フェーズ1に関しては殲滅の目処が立ちつつあったのだ。時折、死に際寸前で発生する自爆がリベリスタの身を削りはするが。それもまだ想定の範囲内と言える被害。その点に関して問題は無かった。 しかし、 「撃て。撃て。撃て。殲滅しろ」 敵後衛から放たれる数多の射撃がリベリスタ前衛を襲う。 マグメイガスの魔術、クリミナルスタアの射撃。バウアーフェイズ2の支援放火。 ヴェラの指揮と支援スキルによって強化されたその攻撃群は苛烈という他無い。前衛の一部はジャガーノートの効果によりBS影響は免れているが、他のメンバー。特に後衛の小夜、リサリサには、 「クッ――しかし、この程度の攻撃……なんともありません……!!」 攻撃が集中する。当然と言えば当然の事だ。癒し手から狙って潰すのはセオリーであり、手堅い戦術は親衛隊の十八番である。 だからか。ああ、リサリサは決意する。 足止めの為に使用した魔力の矢。回復たる癒しの風の発生を捨てて。 長大たる鉄扇を広げ、防御に徹する事を。 「神谷様、ご安心を。今より貴方への攻撃はなるべく私が受け止めます」 「……すみません、ね。頼みます……!」 それは、彼女の少し後方にいる小夜を護る為。 庇う訳ではないが、射線を潰すだけでも攻撃の被害は減る。直接的な回復力では小夜が勝るのだ。ならば耐久力が高い己が盾となるが良き策だろうと考え、彼女は行動する。 苦しむ顔は見せず。ただただ微笑を携えて。 護るのだ。安心させるのだ。最後の最後まで“ソレ”を成した人物を、己は知っているのだから―― 「それなら私達も、成すべき事を成しましょう」 言うは佳恋。竜一の後ろ側左右を度々移動して、なるべく多数の敵を巻き込んで攻撃せんと、駆ける。 己が成すべき事は敵を倒す事だ。少しでも多く。一体でも多く。削らねばならない。 故に放つ。何度でも。烈風の如き一撃を。何度でも。 地を踏み締め、ステップを踏む様に移動して。 バウアーを倒す。己が白い長剣で。 「――道が、開けてきましたね」 武器を素早く振り抜き、居合切りを後方の親衛隊に牽制として叩き込みつつ。前を視る。 さすれば桐の見えた先は、電波塔だ。 まだ敵はいる。親衛隊との接触寸前。しかしバウアーの数は大分減った。リベリスタらの被害も決して少ないモノではないが、それでもまだ皆倒れる事無く健在だ。 誰かが思った。行ける、と。 瞬間。 「図に乗るな劣等」 言葉と同時。閃光弾の破裂する音が戦場に響き渡った。 ●パンツァー フラッシュバン。 ヴェラの放った閃光弾がリベリスタ前衛を襲う。 目的は、ジャガーノート解除だろう。支援特化のヴェラではいくらか命中に難があるが、それでも幾度か投げれば、 「っ、しま――」 壱也の後ろで閃光弾の炸裂がギリギリ範囲内で届く。同時に、彼女の身から付与の力が消えたと思えば、 眼前に、銃口があった。 身体が動くよりも先に額に衝撃。命中。視界に映る世界が反転する。 「アウフ・ヴィーダゼーエン。モンキー」 “くたばれ劣等” そんな言葉が耳の奥に。伝わり響いて。だから、 「舐め、るなッ――!!」 倒れる体を無理やり修正。運命砕いて身を正す。 刃を斜めに片腕で。至近の距離から高速の大振り。 斬。裂。鮮血。 吐血同時に驚愕するハンネに。 どうだ雌犬と見据えてやれば、 「こ、んのクズがあああ!!」 パンツァーファウストを取りだしてきた。 否。何にせよこのタイミングだったろう。戦況の山場。壁たるバウアーの健在。 バウアーが全て倒れてから使うのでは妨害が入るかもしれない。故に、ヴェラが指揮してハンネにヴェラを庇わせる。フェーズ2を庇いに付ければ、壱也が急いで吹き飛ばしの技を放つが、ハンネには一手届かないから。 パンツァーを。 撃っ、 「――たせませんよ」 横から。引き金を引き絞る寸前に。 桐が、介入した。 「ここでの悪行は潰させてもらいます。その為には、それを撃たれる訳にはいきません」 僅かの障害も見逃さない。足運びには注意して、踏み込み。 「さぁ――斬らせて、もらいます」 ぶち込んだ。 ハンネの身が豪快に揺れ、 ……されど。 「惜し、いね。モンキー」 僅かに届かない。吹き飛ばすには至らない。 庇ったバウアー分も届けば話は別だったろうが、言っても詮無き事だ。 パンツァーを使うタイミングはハンネ次第なのだから。 射撃音。射出された。 範囲は壱也に竜一、桐に佳恋。そしてハンネを庇ったバウアーの五名だ。 特別強化された一撃が爆炎と共に膨れ上がる。 「皆さん――! くっ、ご無事ですか?!」 小夜の声が飛ぶ。すぐさま癒しの力として、高位存在からの読み取り具現を行うが、どうなった事か。 とはいえ他人の心配ばかりもしていられないのだが。庇われている訳ではない為、彼女の身には攻撃がいくらか届き、削れ始めている。このままではいずれ運命を消費する事になるだろう。 効果が届く。残念ながら壱也だけは元々受けていた傷が深く、倒れてしまったようだが。 他の者らは踏みとどまったようだ。特に桐は、ほぼ限界なれど運命消費する事無く立っている。 急速な回復。高速の細胞新生。 それが彼の体力を繋ぎ止めているのだろう。 心臓の鼓動が早い。呼吸が荒い。 しかし。それでも。 己は生きている。立っている。 ならばまだ闘えると――彼は、前を向いて。 「適切に、事に当たるか。いいね! きっとそれは正しいんだろう。けど、正しくない方の“適当”もいいよ!」 竜一が、往く。以前の闘いで彼の手札は幾らかヴェラにバレている。 故にと。彼は場合によっては捨て石になる覚悟すら決めて。厳しい前線に立ち続ける。刀を構え、最後のフェーズ2を相手取れば、身が軋む。だが言葉は止めない。 「さっ! 肩の力抜こう! なので“適当”なところで撤退をお勧めするよ。俺とヴェラたんの仲だし。退いてくれるなら追わないけどなぁ」 「…………図に乗るなと言ったろうが劣等ッ!!」 ヴェラから銃撃。竜一の身を穿つ。 回復が追いつかない。未だに回復手を落とそうとする攻撃群に、リサリサは防御の手を緩める事は出来ないからだ。 彼女か、あるいは別の“誰か”が癒す事が出来ればまだ前線は持つのだが―― 「前衛の者は癒し手に成れぬなど、誰が決めましたか! ――癒し手はここにもいるのですよ!!」 そこで、光だ。 今まで雷光を放っていた彼女だが、実は彼女には回復の手段がある。 全体攻撃に回復手段。そこまで幅広く技を扱えるとは、“勇者”というのも真実伊達では無い。高位からの具現が始まり、周囲の味方の傷を癒す一旦となれば、 「無力であったとしても、やれることはあるものです」 パンツァーの爆風を乗り越えて。佳恋が親衛隊イージスを吹き飛ばさんと駆け抜け、剣撃を。 「貴様ら駄犬は有害でござる」 そして虎鐵が地を踏み締める。ヴェラの閃光弾で既に闘気は解除されている、が、気にしない。 “今更そんなモノ”がなんだと言うのだ。 邪魔な親衛隊の一人を見据え、彼は言う。漆黒に濁り輝く刀を構えて、 「生きている価値など一寸たりともありはしないでござる。だから……」 だから、 殺 し て や る で ご ざ る 。 呪詛の塊。怨嗟の集合。憤怒の極致。 横一文字の斬風が突き抜けると同時に、守護していたイージスの一人を肉塊と成す。 駄犬を斬り殺すに必要なのは“闘気”では無い。 ただ一つの“殺意”があれば、それで良し。 ……家族が。 大切な“家族”が失われた事が、彼の怒りを導いていた。 失われたから、この怒りは失われない。 されど。 それでも彼は、間違えない。 今、最も重要なのは復讐では無い。怒りをぶつける事では無い。 「――」 見る。“塔”は目前だ。 さぁ行け壊せ。破壊しろ。 諸君らの勝利が、そこにある。 砕く。砕く。砕かれる。 電波塔はまだ持つだろう。大丈夫だろう。まだ闘えるだろう。しかしヴェラは。 「…………撤退」 これ以上は損害が大きいと判断した。護り手たるイージスがいくらか落ちた時点で、彼女はホーリーメイガスとマグメイガスを更に後ろに下げてもいて。正直、ブレーメ・ゾエ直属では無い彼女にとってみると、電波塔と同等に、自身の配下が失われるリスクも避けたい気持ちがあったのだ。 ではこの状況。相手が塔を狙うなら今の内に、と。そう言う事だ。 それでも良い。 ここでの敗北は、まだ敗北ではない。 生きてさえいれば、とは“彼”の言なのだから。 「……ッ、退きますか、親衛隊は……!」 絶対者による堅牢な防御行動を行っていたリサリサが、膝を付く。 嵐の如き攻撃は過ぎ去った。運命を消費こそしたが、それでも彼女は結局最後まで戦場に立ち続ける事が出来たのだ。 口元に笑みを携えて。彼女が誇る、母の様に。 同時。彼方に退く親衛隊の姿が見えなくなった頃。 聳えていた塔が、崩れて果てる。 それは。勝利の音。 三ッ池で敗北したアークが求めていたモノを、今宵。彼らは手に入れたのだ―― |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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