● 通信機から聞こえてきたのは、聞き飽きる程に耳に馴染んだ声だった。 『――イェンス・ザムエル・ヴェルトミュラー曹長。聞こえるかね?』 上官を真似たその口ぶりに対し、彼――イェンスは笑いもせずに答える。 「ブレーメ。俺は貴様の下手な芝居に付き合うために此処にいるのではないぞ」 『冗句だよ、冗句。ったく真面目だな、まあだからこそ“信頼”できるんだが――』 彼の僚友たるブレーメ・ゾエは、いつも通りの軽口を交えた後に声のトーンを落とした。 『ところでイェンスよ、方舟が気付きやがったぜ』 「間もなく、此処にも来るか」 『そうだな。そうだろうよ』 短いやり取りの間に用件を伝え終えると、ブレーメは元の口調に戻って付け加える。 『……まあなんだ、“好きなように”やればいい。要は勝てばいいのさ。応援してるぜ?』 「言われるまでもない。――貴様もこれから向かうのだろう、武運くらいは祈っておいてやる」 通信を終えると、イェンスは傍らの部下に声をかけた。 「軍曹。此方に方舟が近付いているようだ、迎撃準備を」 「Jawohl(了解しました)、曹長殿」 「そう。我々に必要なのは勝利、それ以外に無い」 ――Sieg Heil! 高らかに声を上げ、鉄の猟犬は敵襲に備え牙を研ぐ――。 ● 「――『親衛隊』絡みで状況が動いたぞ」 ブリーフィングルームに全員が揃った直後、『どうしようもない男』奥地 数史(nBNE000224)はそう言って話を切り出した。 「連中が、妙な電波中継車を使って一般人を洗脳していた事件は知ってるな? 人間を怪電波で発狂させて革醒を促し、ノーフェイスとして手駒に加える――。 いかにも、『親衛隊』の考えそうなことだが」 ここ最近になって頻発していたこれらの事件は、彼らが『Donnergott作戦』と呼ぶ作戦の一環らしい。 一般人という『補充に困らない材料』を用いて『便利な道具』を増産すると同時に、ノーフェイスの対応に追われるアークを疲弊させるという、まったくもって『効率の良い』作戦である。 「まあ、“Donnergott(雷神)”とはよく言ったもんだが……。 実は今回、例の怪電波の発生源を突き止めた」 数史が端末を操作すると、正面モニターの表示が切り替わった。 日本地図に、六個の光点が浮かび上がる。 「怪電波の発生源――アーティファクト『雷神電波塔』は六ヶ所に散っている。 他の地点は、それぞれ名古屋さん、断頭台、月隠、望月、丸や……ローゼスの担当だな」 この電波塔を破壊できれば、一連の事件は食い止められる筈だ。 さらに、『親衛隊』の戦力を削ぐことが出来るという“おまけ”もついてくる。 当然ながら、簡単な話ではないのだろうが――。 「皆に向かってもらうポイントにいる戦力は、『親衛隊』のメンバー八名にノーフェイスが十体、そして自律式ロボット『Ameise』が六体。 防衛の指揮を執るのは『イェンス・ザムエル・ヴェルトミュラー曹長』、以前にもアークと交戦経験がある」 敵戦力について纏めた資料を全員に手渡した後、黒髪黒翼のフォーチュナは顔を上げた。 「見ての通り、この人数で敵戦力の全てを倒し切るのは難しい。 今回は、『電波塔の破壊』と『ノーフェイスの殲滅』、この二点を最優先に考えてくれ。 ――そして、任務遂行が不可能と判断された場合は速やかに撤退してほしい」 「我々の中から死者が出ることは避けねばならない、ということですね」 『Eile mit Weile』フェルテン・レーヴェレンツ (nBNE000264) の言葉に、数史は頷いて。 「厳しい戦いになることは間違いないが、どうか無事に戻ってきてくれ。頼んだぞ」 真摯な表情で、そう締め括った。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:宮橋輝 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年07月23日(火)23:45 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 静かで、きな臭い空気を孕んだ夜だった。 先に見えるは、全長50メートルの巨大な鉄塔。そびえ立つ威容を視界に映して、『Friedhof』シビリズ・ジークベルト(BNE003364)が平然と口を開く。 「なんだ。また妙なモノが立っているな」 先頭を走る『薄明』東雲 未明(BNE000340)が、呆れたように答えた。 「よくこんなデカブツ用意したもんだわ。勤勉なのか暇なのか」 あれこそが、今回の撃破目標――アーティファクト『雷神電波塔』である。 怪電波を発して一般人を洗脳し、発狂に追い込むことで革醒を促す『親衛隊』の兵器。生み出されたノーフェイス『バウアー』は、彼らに忠実な“使い捨ての道具”と化す。 『Spritzenpferd』カルラ・シュトロゼック(BNE003655)が、忌々しげに表情を歪めた。 「洗脳電波ね……イカれたテメェらの中身でも垂れ流してんのかっての」 「ったく、いい加減にしてくれよ。マジでそういうのはゲームだけで良いんだって」 軽く肩を竦めて、『パニッシュメント』神城・涼(BNE001343)が応じる。そこに、シビリズの不敵な含み笑いが重なった。 「……フ、フフフ。宜しい、それだけでも闘うには充分な理由だ」 あの滑稽な電波塔を、我々の手で破壊してやろうではないか――! 「ま、きっちりとやってやるぜ」 背中越しに頷きを返し、涼は身に纏った鴉の濡れ羽色のロングコートを風に靡かせる。 まずは、あの電波塔を射程に収めないことには始まらない。 目標まで約20メートルの地点に至った『リング・ア・ベル』ベルカ・ヤーコヴレヴナ・パブロヴァ(BNE003829)が、神秘の閃光弾を手に取った。 「一箇所に固まっているとは好都合、纏めて封じてくれる!」 『雷神電波塔』のすぐ手前で守りを固める『親衛隊』の機先を制し、閃光弾を投擲する。彼らの中央でそれが炸裂した瞬間、轟音が響いた。 間髪をいれず、『レーテイア』彩歌・D・ヴェイル(BNE000877)が指先から気糸を放つ。 彼女の神経系とリンクした論理演算機甲「オルガノン」は、一瞬にして最適な狙撃ポイントを導き出していた。煌くオーラの糸が黄色の『Ameise(蟻)』を貫き、後方に立つ電波塔をもろともに射抜く。 「彼らの言い分じゃないけれど、ダメージは効率良く与えていきたいものね」 直後、『親衛隊』が動いた。己を“盤上最強の駒”と化したウルリヒ・ツィーゲ軍曹を筆頭に、足並みを揃えて10メートルほど前進する。 クロスイージスと思しき男が神の光で閃光弾の影響を消し去ると、三色に塗り分けられた六体の『Ameise』が一斉にプログラムを作動させた。 全力で距離を詰める黒蟻の後方で、赤蟻がリベリスタの後衛目掛けて炸裂弾を放つ。爆炎が紅蓮の華を咲かせた時、黄蟻が癒しのエネルギーで自らの周囲を包んだ。 助走をつけた未明が、地を蹴って跳躍する。戦場を俯瞰する彼女が狙いを定めるは、装甲を穿たれた黄色の蟻。 「二ヶ月という期限が決まった今、勤勉な相手で良かったと思うわ。間が空かないもの」 九月十日には、『魔人王』キース・ソロモンと一戦交えなければいけない。『親衛隊』との決着を急ぐ必要があると考えれば、彼らの動きが活発なのは不幸中の幸いと言えるだろうか。 空中で身を翻し、やや長めに作られた愛剣を閃かせる。頭上から強烈な斬撃を浴びせられ、黄蟻が悲鳴にも似た金属音を響かせた。 「Feuer eröffnen(撃ち方始め)」 部隊後方に控えたイェンス・ザムエル・ヴェルトミュラー曹長が、鋭く号令を放つ。 両脇のプロアデプトが全身から気糸を発射すると同時に、イェンスの大型拳銃『鉄の双子(Zwillinge des Eisens)』が火を噴いた。 気糸と弾丸の嵐がリベリスタ達に襲い掛かる中、第二の命令。 「――Angriff(突撃)!」 吶喊する十体のノーフェイス『バウアー』を眺め、『癒し系ナイトクリーク』アーサー・レオンハート(BNE004077)が男らしい眉を顰める。 「軍人や兵隊、革醒者だけならともかく、一般人まで巻き込むとは悪趣味なことこの上ないな」 「……神秘等という異常な世界の事は、せめて其処に携わる者だけで納めるべきだろう」 紅と蒼、左右で色の異なる瞳で『親衛隊』を睨み、『祈花の導鴉』宇賀神・遥紀(BNE003750)が魔術書のページを捲った。記された聖句に指先を滑らせ、生命(いのち)言祝ぐ詠唱を響かせる。大いなる癒しの息吹がリベリスタを包むのと時を同じくして、前列の仲間に合流したアーサーが“レイディアント・レクイエム”のトリガーを絞った。 銃弾の代わりに放たれた魔道式が、一条の雷となって戦場を駆け巡る。『親衛隊』のクリミナルスタアがお返しとばかりフィンガーバレットを連射する中、『Eile mit Weile』フェルテン・レーヴェレンツ (nBNE000264) が防御動作の共有で自軍の守りを固めた。 「同郷諸君! また勝たせてもらうぞ!!」 昂然と胸を張ったシビリズが、天からの声に導かれて“運命”を告げる。 「――神々の黄昏を知れッ!」 死せる戦士(エインヘリャル)たちよ、武器を取れ。この地はヴィーグリーズの野なり! ● ラグナロクの加護を受け、ここまで待機していた涼が仕掛ける。 『雷神電波塔』からおよそ20メートルの地点で彼我の前衛がぶつかり、やや後方には赤と黄の蟻を従えた『親衛隊』の姿。 まずは、邪魔な雑魚から蹴散らす―― 『バウアー』の群れに接近し、魔力のダイスを宙に舞わせる。弾けた爆花が、死神に魅入られた哀れな一体を呑み込んだ。 「悪いな。運が悪かったと思え。……ま、この爆破に巻き込まれている時点でな」 効率動作の共有化で皆の戦闘攻撃力を高めつつ、ベルカが“Donnergott(雷神)”の名を冠した電波塔を見据える。 「ふん、雷神だと? その禍々しい電波塔が神像とでも言うつもりか?」 祖国で父祖から伝え聞いた通りの大仰さだ、と告げて、彼女は眼前の敵に視線を戻した。 いくら雷が苦手だからといって、あんなものを恐れはしない。決して。……たぶん。 「とっととネタ使い切って枯れ果てちまえば、まだ可愛げあるんだが――」 果敢に踏み込んだカルラが、魔力鉄甲に覆われた拳を固く握る。 「ゴキブリは生命力強くてイヤんなるぜ、なぁ?」 悪態とともに繰り出された音速の連撃が、金切り鋏を構えた『バウアー』の鳩尾を抉った。 「――軍曹」 「Ja!」 イェンスの命を受け、ウルリヒがリベリスタの後背に閃光弾(フラッシュバン)を投じる。 しかし、直撃を受けた筈の彩歌は麻痺に陥ることなく行動を再開した。サングラスの丸レンズ越しに電波塔を見て、そこに照準を合わせる。 「かつて彼らが、特にソビエトに辛酸を舐めさせられた理由を考えると、 物量を求めるのも分からなくは無いけど……」 だからと言って、無辜の民を“道具”として扱って良い筈は無い。 自らの射線上に黄色の機影が重なった瞬間、彼女はオーラの糸を奔らせた。すかさず跳んだ未明が、機械仕掛けの蟻を両断する。まずは、一体。 クロスイージスとホーリーメイガスに回復支援を命じ、イェンスが敵軍の後衛を睨んだ。 「……厄介なことだ」 銃の射撃モードを切り替え、赤蟻たちとタイミングを合わせて炸裂弾を撃つ。 前衛のブロックをすり抜けた『バウアー』が、後衛を突き崩すべく雪崩れ込んだ。 巨大なハンマーが骨を軋ませ、金切り鋏の刃が肉を断つ。ノーフェイスの一体を抑えるフェルテンが、聖なる光で炸裂弾の炎を払った。 「優良種などという幻想に突き動かされた黴達は、速やかに清掃された方が良いんじゃないかい?」 癒しの聖句を唱える口で辛辣な言葉を紡ぎ、遥紀は魔道書を携えた手に力を込める。 身に纏うは、冷酷と慈愛の矛盾を孕みし“Adversus Haereses(いとわしくもいとおしきせかい)”。 ふわりと巻き起こった神の息吹が、リベリスタ達の負った傷を瞬く間に塞いでいく。 視界を埋める敵、そして後方にそびえる『雷神電波塔』を射程内に収め、アーサーが低く声を放った。 「その物騒なアーティファクトは破壊させて貰うとしよう」 荒ぶる稲妻の後を追うように、雷鳴が轟く。弱点となる電撃を浴びて、蟻たちが一斉に身震いした。 序盤の数手でリベリスタの出方を窺っていたイェンスが、遥紀を見て得心したように頷く。 「――成る程、あの男か」 彼自身は先日の三ツ池公園制圧作戦に参加していないが、射撃手として尊敬する上官から幾つかの話は伝え聞いている。その一つが、“優秀すぎる回復手”の存在だった。 「アルトマイヤー少尉が認めるだけのことはある。落とさねばなるまい」 部下に命じ、一点集中で遥紀を狙う。そこに立ち塞がったのは、英霊の魂からなる闘衣に身を固めたシビリズだった。 「倒させんよ。私がいる限りな」 それを認めて、イェンスは舌打ちする。 同郷を自称するこの男が、要塞と呼ぶに相応しい耐久力を誇っていることを彼は知っていた。聖骸の加護を得た今は、状態異常も効くまい。 即座に方針を切り替え、融通のきかぬ蟻たちを除く全員に待機を命じる。 数瞬後、シビリズの瞳に映ったのは己に殺到する『バウアー』の群れ。守りを固める彼の側面から、対戦車ハンマーが次々に打ち込まれた。 「……ッ!」 最初の二撃は耐えたものの、三度目でその身を弾き飛ばされる。 イェンスの放った魔弾が、『親衛隊』の集中攻撃に晒された遥紀の胸を貫いた。 ● 運命を、手繰り寄せる暇も無かった。 地に伏した遥紀が知覚したのは、視界を染める赤と、鼻腔をさす鉄の臭い。 意識が闇に閉ざされる瞬間、彼が思い起こしたのは“護れなかった”あの日の記憶――。 「芳しくないわね」 戦場を見渡した彩歌が、「オルガノン」の制御機構を「Mode-Assault」にチェンジする。 先からの狙撃で最優先目標の黄蟻は二体とも倒し切っていたが、この段階で回復の要を失ったのはあまりに痛い。 しつこく纏わりつく黒蟻を拳の連打で沈めたカルラが、奥に立つ『親衛隊』を睨め付けた。 「電波塔の前に電波野郎共を潰してやんぜ!」 「……! 駄目、突出しないで!」 カルラの意図を悟った未明が制止するも、間に合わない。一瞬にして最高速に達した彼は、『親衛隊』の本陣に切り込んで指揮官に迫った。 突撃の勢いをのせて、虚を突かれたイェンスの鳩尾に拳を見舞う。 上官をフォローすべくカルラの抑えに回ったウルリヒが、僅かに表情を歪めた。 「劣等に与する蛮人めが……!」 「優良? 最適? だから何だよ。害虫の分類なんざ気にして駆除ができるかボケがぁ!!」 舌鋒鋭く吼えるカルラを前に、ウルリヒは自らの武器――複数の銃身を備えた長銃型のアーティファクトを構える。 「何とでも言うがいい。我々は『負けなければいい』のだ」 至近から発射された弾丸が、カルラの脇腹を撃ち抜いた。 「負けなければいい……、か。至言ね」 独りごちつつ、彩歌が前進する。『雷神電波塔』を20メートル射程内に捉えると、彼女は防具に仕込んだ九つの補助演算機構を作動させた。 全身から伸びる極細の糸が、射線上の敵と電波塔を次々に貫いていく。 極限まで薄く作られた二振りの刃――“純粋(イノセント)”と“無罪(ノットギルティ)”を舞わせて敵前衛を押し留める涼が、茶色の目を僅かに細めた。 「マジ好き勝手やってるな、親衛隊」 魔力のダイスを炸裂させた後、爆発に巻き込まれた『バウアー』に視線を移す。 半開きになったノーフェイスの唇から漏れるのは、まるで意味をなさぬ呻き声。その瞳は、既に焦点を結んでいなかった。 ――これ以上、連中の非道を見過ごすわけにはいかない。 運任せの賽子から闇のオーラへと攻撃手段を切り替え、破滅の一撃を繰り出す。 「雷神とか大層な名前つけやがって……!」 こめかみを打たれた『バウアー』が力尽きた時、手にしていた対戦車ハンマーが地に落ちた。 一方、『親衛隊』はカルラを包囲しつつ彩歌に狙いをシフトする。 可能な限り敵前衛の陰になる位置についているとはいえ、射線を遮るには限界がある。『親衛隊』の殆どがフリーの現状では尚更だ。 バリアシステムの力場を貫いた気糸と弾丸が、彼女の華奢な身体に突き刺さる。 運命を代償に己の身を支えた彩歌に、アーサーが大天使の微風を届けた。遥紀を欠いた今、傷を癒せるのはもはや彼しか居ない。 前衛に打ちかかる『バウアー』が、金切り鋏の一撃で加護を断ち割る。それを見て、シビリズが再び“神々の黄昏(ラグナロク)”を発動させた。 戦線を支え、仲間を支えることこそ、彼が己に課した使命。さぁ、勝とうか――! 活力と再生を齎す神の導きを受け、未明が“鶏鳴”を握る両手に力を込める。 「変な兵器も改造人間も、七派の馬鹿だけで間に合ってるのよ!」 彼女は『親衛隊』を一息に飛び越えると、渾身の一撃を『雷神電波塔』の脚部へと見舞った。 僅かな焦りが、胸中をよぎる。『バウアー』と『Ameise』の数は減りつつあるが、肝心の電波塔攻略がはかどっていない。 堅さがほぼ均一で、特に脆い部分も無いとなれば地道にダメージを重ねていくしかないが、リベリスタは『誰も電波塔に近接できていない』。つまり、遠距離攻撃スキルを持たぬメンバーは手も足も出ないということだ。 加えて、『親衛隊』はカルラのブロックをクロスイージスに任せ、他は近接攻撃が届かぬ程度の距離で彼を囲んでいる。ベルカが、思わず苦い表情を浮かべた。 「くっ……!」 これでは、閃光弾で『親衛隊』の全員を封じるのは難しい。『最適化システム』を有する敵には、フェルテンの命中力では心許ないという事情もある。彼と共に、電波塔の攻撃に専念すべきか。 だが、敵陣で孤立する形になってもカルラの闘志は未だ潰えていなかった。 怒りと憎しみを糧に拳を握り、どこまでも執拗に喰らいついていく。 自らの生は、ただ只管にフィクサードを砕く――そのために。 ● 熾烈を極める戦いの中、彩歌がイェンスの魔弾に倒れる。 その直後、残る『バウアー』のうち数体がフェルテンに襲い掛かった。 「――いかん!」 異変を察知したアーサーが注意を促すも、僅かに遅い。咄嗟に庇おうと動いたシビリズの眼前で、フェルテンを羽交い絞めにした『バウアー』が次々に砕け散った。 運命の恩寵で一度は耐えられても、二度目はどうにもならない。爆風の向こう側、フェルテンが力なく膝を折るのが見えた。 これで戦闘不能者は三人。安全に撤退することを考えるなら、あと一人が限界だろう。 「流石に、こんなところで倒れる訳にはいかないからな」 闇に溶ける漆黒の影を伸ばし、涼が最後の『バウアー』を屠る。彼も決して無傷ではなかったが、時に全力防御も交えて守りを固めていたため、まだ若干の余裕は残っていた。 「ふざけた偶像は私が叩き潰してくれる!」 絶対零度の視線で『雷神電波塔』を射抜くベルカに続き、未明が空中から長剣を振り下ろす。 しかし、圧倒的に手数が足りない。電波塔は今もなお、揺らぎもせずに立っている。 逆境に昂ったシビリズが、肩を揺すって笑った。 「滾る滾る、血が滾るぞ!!」 劣勢であればある程に愉悦をおぼえ、鋭さと輝きを増すのがシビリズという男である。 「塔は健在か!? 宜しい、ならば私も健在だ――!」 熱を帯びた視線で『雷神電波塔』を見上げ、愛用の双鉄扇を構える。 さぁ死合おうか、と嘯いて。彼は敵陣に残された仲間を救うべく敵陣へと突入した。 全身の膂力を爆発させ、『親衛隊』の一人を打ち据える。僅かに前後して、集中攻撃のターゲットとなったカルラが己の運命を燃やした。 両腕を撃ち抜かれ、胴に風穴を穿たれようと、脚は動く。目も見える。――自分はまだ、闘える。 聖句を唱えたアーサーが、清らかな風を届けてカルラを激励し、傷を塞ぐ。この期に及んでチームが総崩れにならないのは、彼とシビリズの功績によるところが大きい。 再び拳を握り締めたカルラが、銃剣を構えたクロスイージスに仕掛ける。懐に飛び込んだところで攻撃の手が鈍るとは考え難いが、ここに来て縮こまるような醜態を晒すのだけは御免だった。 攻撃が飛び交う折、彼に銃口を向けたイェンスが低く声を放つ。 「……その闘志、その激情。嫌いではない」 「あぁ、そうかい。生憎、俺はテメェらが大嫌いだ」 唾を吐くような口調でカルラが答えると、イェンスは微かに唇の端を持ち上げた。 「貴様は随分と役に立ってくれた。礼を言う」 一発の銃声が、カルラの意識を刈り取る。閃光弾を握り締め、ベルカが声を放った。 「――退却だ!」 合図とともに閃光弾を投じ、一瞬の隙を生み出す。 シビリズがカルラの身体を抱え上げた直後、未明が頭上からの強襲で『親衛隊』を牽制した。 「試合終了みたいね。次こそは決着を望んでるわ、それじゃ」 そう告げて、彼女は重傷者を抱えた仲間達の最後尾について撤退に移る。勝負せずに終わるのは癪だが、ここで犠牲者が出るのはもっと避けたい。 「Feuer(撃て)!」 イェンスの号令で、『親衛隊』がリベリスタに銃撃を浴びせる。 相次いで運命を削るアーサーとベルカの前に立った涼が、敵を振り返って叫んだ。 「いつまでも、お前らの好きにはさせないからな……!」 力の限り走り、追撃を振り切る。 誰も欠けずに帰還を果たせること――それが、リベリスタにとって唯一の幸いだった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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