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【七業】碧潭の淵を越えよ


 誰が為に力を振るう等、愚か者にすぎないと感じたのは何時の話しであろうか。
 リスクを考えての言葉ではない、何らかの利益が無ければ自身が動かないなどと自分の価値を高く見積もった訳でもない。ただ、自分の力を発揮できる主の元にあり付きたいと力を振るう機会に恵まれなかったのだ。
「ねーぇ、詰まんない。皆、皆、箱舟に邪魔されたんでしょー?」
「吁、少し黙ってくれないか」
 だらしなく椅子に腰かけた中華服の男の髪は今は下ろされている。彼の言葉に小さく頷いた巨漢の男はさっさと背を向けて、扉の方へと近寄った。
「ねー、ボクの話し聞いてくんないのー? もーっ! 折角この『廉貞』が喋ってるのに!」
 足をじたばたさせる彼が詰まらない詰まらないと騒ぎ立てる。彼がこの場に居るのも一つは『頼み事』を果たしてくれたからであった。男が唯一恩義を感じている相手が行う計画に己が乗らぬ訳ではない。
 だが、男は力しか知らなかった。ただ、我武者羅に己の件を振り被る以外は脳が無かったのだ。それ故に、『恩人』の狙いを己では果たせないと態々、騒がしく両足を揺らす男へと小細工を頼んだのだ。
「ほら、いってらっしゃいよ、『巨門』。楽しいコトしなきゃ、ボクだって、それにあの人だって暇だよ」
 長い黒髪を何れは黙って結われる事を待っている男から渡された風水盤へと視線を落とす。
 吁、そうだ、之があればあの方が為に――


「御機嫌よう。お願いしたい事があるの。まずは此方を見て頂けるかしら?」
 モニターの前に立って笑みを浮かべていた『恋色エストント』月鍵・世恋(nBNE000234)がリベリスタを見回した。資料を握りしめ、言葉少なにモニターに映し出されたのは一つの風水盤だ。
「こちら、風水盤。因みにアーティファクトよ。識別名は『暗澹』。このアーティファクトが作用することで周辺の動物へと覚醒を促すわ。そして、其れを使役できる。
 詰まる所、崩壊度を上げたいと言う意思の元で作られたものなのね」
 其処まで云えば判るかしら、とリベリスタを見回す世恋は「止めなきゃいけない」と一言加えた。
 彼女が言葉少ななのは何か意味があるのかと見やるリベリスタに小さく笑みを浮かべて手をひらひら。
「最近力をつけてきたフィクサード集団。その一人、名前はええと『巨門』と呼ばれていたかしら。
 かなり無口な性質らしいので、私も無口になってみちゃった」
 てへ、と笑うフォーチュナにリベリスタがハイハイと小さくため息を吐く。
『暗澹』を使用することでエリューションを作り出し、更には周辺の崩壊度を上げ続ける行為。正しくフィクサードと言えるソレは即刻止めるべきと一言で片づけられる。
「ええとね、彼の目的はよくわからないわ。詰まる所、彼と同じ組織の人物があらわれているけれど『同じ目的』で、同じ様に動いている割にはその全貌を彼等は『面白可笑しく隠して居る』の。
 ――まあ、私達と交戦しながらそのアーティファクトの性能を試して居るんでしょうけれど、目的が判らない以上厄介でしかないわ。あと、そうね……彼等の使用するアーティファクトもその効果も、全て彼等の目的には合致してるそう」
 アザーバイド関連が多いみたいだけれど、何かしらね?と首を傾げる世恋はリベリスタに向き直り資料を手渡した。
「こちら『巨門』。一言でいうなら考えるより体が動くタイプね。殴るタイプ。
 彼か、その配下が持っている風水盤を壊してくる事が今回のお願い事よ。ああ、勿論、革醒したエリューションの討伐もお忘れなく……面倒事が多いけれど、どうぞ、よろしくね?」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:椿しいな  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年07月18日(木)23:17
こんにちは、椿です。

●成功条件
・アーティファクト『暗澹』の破壊
・敵性エリューション殲滅

●場所情報
時刻は昼間。太陽が燦々と降り注ぐ港。周辺には幾人かの人が居り、海では魚が良くとれます。
足場はコンクリートであり心配はありません。

●アーティファクト『暗澹』
手のひらサイズよりやや大きめの風水盤。フィクサードの何れかが所有。
周囲の『動物』へ革醒を促し、使役する能力を持つ。代償不明。
目的としてはその革醒により崩壊度を上げる事となる。また、暗澹によって革醒した対象の数が多くなるごとにフェーズ進行が早くなる。

●フィクサード『巨門』
デュランダル×メタルフレーム。Rank3一部まで使用可能。
武器として大剣を所有する中年男。考えるより体が先に動きます。非常に無口であり、恩義を尊ぶ性質です。
闘いだす事でテンションが上昇します。何よりも闘う事が大好きであり、他人との触れ合いは戦いの中で見出します。
EXP:潜闘論
EX:勇軍業火

●配下フィクサード×6
種族ジョブ雑多。中にはホーリーメイガス、クロスイージスの姿が確認されています。巨門か彼等の何れかが暗澹所有。巨門が危険になった際は一番に庇う行動をとります。

●『暗澹』により革醒した動物×初期4体
周囲の人間、魚、鳥等、様々な動物が当たります。アーティファクトによって革醒を促され、数ターンに一度、40%の確率で革醒します。
また、周囲に『暗澹』によって革醒した対象が居る事でフェーズ進行率が上昇する効果があります(革醒した場合は一番に敵とみなす対象へと襲い掛かる様に『暗澹』からの暗示が掛けられています)

●備考
本シナリオの登場フィクサードは下記シナリオと知己に当たりますがご存じなくとも支障はございません。

『貪狼』:【七業】北天巡る貪りの獣(風見鶏ST)
『武曲』:【七業】智たる武の奏(風見鶏ST)
『廉貞』:【七業】縹渺たる水音(拙作)
『禄存』:【七業】黎明たる牙(そうすけST)
『文曲』:【七業】暗愚たる文の闇(宮橋輝ST)
『破軍』:【七業】優艶たる愛欲(麻子ST)

以上になっております。
どうぞ、宜しくお願い致します。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ナイトクリーク
星川・天乃(BNE000016)
プロアデプト
逢坂 彩音(BNE000675)
マグメイガス
宵咲 氷璃(BNE002401)
クロスイージス
ユーディス・エーレンフェルト(BNE003247)
ソードミラージュ
カルラ・シュトロゼック(BNE003655)
ホーリーメイガス
石動 麻衣(BNE003692)
マグメイガス
コーディ・N・アンドヴァラモフ(BNE004107)
覇界闘士
片霧 焔(BNE004174)


 何処からともなく海鳥の鳴き声が響く港は今は夏の強い日差しに晒されてホットプレートの様に暖められたコンクリートを蹴りあげた『無軌道の戦姫(ゼログラヴィティ』星川・天乃(BNE000016)は金色の瞳を細めた。幾度となく見えた何処か共通点のある者たちが居た。全員が全員、身体のどこかに星を有する者たちだ。
「……今度の、は、気が合いそう、だね」
 彼女の目が見据えたのは爽やかな港が似合わぬ男だった。大剣を手にし、腰に己の『星』を冠した男が立っている。如何にも戦士然としたその姿に戦闘狂とも呼べる天乃が親近感を覚えるのも致し方無いだろう。
「……吁、お前らが邪魔をするという」
「そう、アークよ? 相変わらず似た様な事を繰り返してたのね」
 乙女の拳を固め、炎を想わせる赤い瞳を曇らせた『炎髪灼眼』片霧 焔(BNE004174)がじっと男を見据える。彼女がその対話を行いながら周囲に張り巡らせたのは所謂、周辺対応である強結界だ。熱感知を駆使し、探索すると言うのも『炎』に魅入られた彼女らしいとも言えるだろう。
 周囲に存在する魔力をかき集める様に体内に取り込みながら、長い前髪で隠した表情を曇らせたのは『おとなこども』石動 麻衣(BNE003692)だ。幼ささえも感じさせる痩身は何処か恐怖を覚える様にふるり、と小さく震える。
 この場に赴く前に説明されたアーティファクトがあった。『暗澹』という名をつけられたソレが希望を与えるものでないと言う事を麻衣は効果からもよく分かっていた。
「フィクサード達も恐ろしいアーティファクトを持っているものですね……。これが、人が大勢いる場所で使われたら、と想像すると……」
 その背に走る悪寒は本物であった。ついさっきまで隣で笑っていた人が突然、『人ならざる者』に為る可能性だってあるのだ。そんな光景を目にしたら――ふるふると首を振る麻衣を横目に浮き上がりながら、夏の暑い日差しを箱庭を騙る檻でシャットダウンしていた『運命狂』宵咲 氷璃(BNE002401)が涼しげな瞳を伏せる。纏うゴスロリドレスの裾が夏風に揺れ、視線は、男と周囲に存在するフィクサードへと向けられる。
「崩壊度の上昇、アザーバイドの召喚と使役……其処に隠された目的が何であろうと大差ないわ。
 私達が容認出来ない内容である事は明白だもの。申し訳ないけど、その運命閉ざさせて貰うわ」
 じ、と見据える瞳に面白いと言わんばかりに男の――巨門の瞳が細められる。彼の星の名を騙る男に訝しげな視線を送った『境界のイミテーション』コーディ・N・アンドヴァラモフ(BNE004107)はじ、と目を凝らし周囲の思惑を手探りで求め続けた。
「メラク……北斗七星に限るとすれば、これで全員か。組織の実体が把握できん以上、他にいないとは限らんがな」
「吁、その通り。我は巨門。その星を騙る者だ」
 自身がその星を名乗るに相応しいか、男は知らなかった。只、恩義ある『人』がその名を与えてくれたならば己が名乗らぬ訳にはいかぬ――そのような考えが男にはあっての一言であろう。手探りで探る中、何処か高揚する気持ちを抑え、持ち前の勘の良さを使って、周辺を見回して居た『黄昏の賢者』逢坂 彩音(BNE000675)がコーディをちらりと見詰める。
「ふむ、中々に隠し事が上手の様だ」
「それでも、人の心の中までは隠しきれんのだがな」
 くす、と笑ったコーディの言葉に彼女の視線を辿った『Spritzenpferd』カルラ・シュトロゼック(BNE003655)の憎悪に満ち溢れた瞳が細められる。だが、直ぐにその視線は逸らされ、ただ、一人にのみ殺気を湛えて与え続けられた。大剣を手に戦う事しか知らぬ不器用な男に、不器用なまでに憎悪を滾らせ、決して枯れる事のない憤怒を滾らせたカルラは答えを求める様に――その男の不器用さを否定する様に拳を固めていた。


『騎士の末裔』ユーディス・エーレンフェルト(BNE003247)はその世界の理不尽さをよく知っていた。何かを守る為には何かを犠牲にしなければいけない事もよく分かっていたのだ。己の両親が運命を失ってまでも戦おうとしたその現実。世界の理不尽さを理解するには簡単な事だったではないか。
「……増殖性革醒現象ともまた違う、謂わば世界を侵す為に在る能力。そのアーティファクトはその名前の通り世界を暗澹冥濛の極地に導こうとする。――在り方そのもの、という所ですか……」
 ぎゅ、と魔力槍を握りしめた騎士の表情が変わる。仲間達へと与えた加護は神々の声を仲間達へと与えると同義だった。
 戦う為に適する能力を与えたユーディスの支援を元に、さっそくと動き出した天乃が地面を蹴る。港と言うロケーションなど物ともしなかった。水の上をぱしゃぱしゃと走り、コーディと彩音が視線を向けた先――『暗澹』を所有するフィクサードの元へと滑りこむ。
「さあ、踊って……くれる?」
 体をひくフィクサードの元へと真っ直ぐに気糸が縺れこむ。まるでマリオネットだ。縛り付けるソレに動きを阻害された所へ、黒き鎖が伸び込み包み込んだ。
 くすり、と笑みを漏らす氷璃の微笑みが深くなる。流れる血を鎖に変えて、彼女の拘束は強く縛り付ける。周辺を警戒する様に見回す薄氷の瞳は空を飛ぶ鳥も、海から顔を出す魚も全てをその鎖で絡め取らんとする。
「武曲は『杓』を名乗ったそうだから、貴方は差し詰め『魁』の巨門かしら? 如何?」
「……如何にも」
 何処か目を見開く様に反応を示す男に氷璃は矢張りと微笑みを深くする。男の『潜在的な』戦闘理論。潜闘論は魔術を嗜む氷璃からすれば興味の対象だ。戦いに身を委ねたソレがどの様な者であるか――他者へ与える効果はどれほどか、示され、そして己も身に付けたい。
 深い笑みを浮かべる氷璃の目の前でフィクサードが猛攻を始める。小さな体躯の麻衣を狙おうとする其れをコーディが体を滑り込ませ、身を張って庇い続ける。
「合理的な判断だ。要所を突くと言うのは戦法として正解だ」
 頷きながら、頬を掠めた攻撃が紫の髪を散らす。魔力杖で受けとめながら、敵フィクサードが使役する動物が翼を武器に飛びかかる瞬間に、金の瞳がにぃ、と笑う。
「――っとに面倒な組織ね? 崩壊度を上げた先に何があるかは知らないけれど、『詰まらない』とかそういう理由でそんな事をされたら堪ったもんじゃないわ!」
「あやつは阿呆だからな」
 小さく囁かれた言葉に焔がそうね、と同意を示す様に形の良い唇を釣り上げる。乙女の拳にぐ、と力を込め熱されたコンクリートを蹴りあげる。跳ね上がる蹴りが動物ごとフィクサードの体を裂いていく。
 増えて行く動物達に、焔が鬱陶しいと眉を寄せた。何事も、程々に、だ。増える魚も鳥も、――周囲の人だって数が多ければ多いほど、鬱陶しいには違いないのだから。
「一番に敵にみなすって……ああ、そういうこと」
 くす、と笑った少女の目の前では、フィクサードが動物たちに見向きもしない光景が広がっている。敵意を敏感に感じ取り易い動物らしい判断と言っても良いだろう。何よりも敵意をむき出しにし、『暗澹』を狙うリベリスタを『敵』だと認識した動物たちが鳴き声を上げ、攻撃を仕掛け続けているのだ。
 陣の中央、じ、と立っていた男の前に立ちはだかったカルラの瞳に浮かぶ憎悪は何時だって同じものだった。過去と悪夢を忌避し被害者を救いに奔る事――己の信念に間違いが無いと思っている。
 それでも満たされないままの心がある事をカルラは知っていた。倒れた時も、目的を果たせた時も、何かが足りない。届かない。頂は、何処だ。
「なぁ、戦う事しかできないフィクサード。あんたは満たされてるのか? 欲しい物を手に入れてるのか?」
 何処か、問いかける様な声であった。巨門の切れ長の瞳が揺れ動き、カルラに向けられる。唯真っ直ぐに只管に向けられる言葉に男は何処か疑問を覚えた様に目を細めたのだ。
 澱み無き拳は只管に男へと振るわれる。破壊的なオーラを纏った切っ先が真っ直ぐにカルラに向けて振り下ろされるが彼は気にも留めず、髪を靡かせて拳を突き立てる。
「我は満たされている」
「なら見せてみろよ――見せつけてみろよ! その剣で、その力で! 潰してやる。砕いてやる。
 満たされてるってんだろ? 外道が満たされてる世の中なんざ、俺が認めてやる義理はねぇ!!」
 ただ、其処に在ったのは憎悪だった。フィクサードへの強い憎悪。その言葉にぴくり、と体を揺らした巨門の瞳が楽しげに歪められる。闘争の果て、青年との携わりで何か得られるとでも思ったのか。その体がカルラへと真っ直ぐに向けられる。
 隙間を縫う様に、天乃は巨門の配下であるいフィクサードへと飛びかかる。熱されたコンクリートを蹴り、水の上を滑る様にして、少女はその身を縛り付ける。
「……動く、な」
 ダンスを求める割にはその動きを認めない。踊るのは常に天乃主導の元だ。的外れなダンスなどいらないのだから。
「踊って、あげる」
 絡みつけては離さない。集中領域に達した脳で周囲をぐるりと見回した彩音は豊満な胸を抱く様に常の通り腕を組み、唇から牙を零す。希望の輝きが打ち出す気糸が『暗澹』目掛けて飛び交った。
「出来ればね、巨門、君の『秘密』を知りたい所なんだが。私は君の話し相手になりたいんだ」
 笑う彩音へと反撃を繰り広げるフィクサードが避ける事を得意としない彼女の腕を切り裂いた。出来うる限りを攻撃できる位置――射線が通ると言う事は氷璃も彩音も狙い易いと同時に狙われ易い場所に居たのだ。
「小賢しい相手だ、と想われますか? ……これも世界の為ですから」
 魔力槍が真っ直ぐに男の懐を貫いた。ユーディスの掌まで伝う赤い血に、『暗澹』の所有者であるフィクサードが「巨門様」と静かに呼ぶ。トビウオが海から飛び出し放つ真空刃を受け止めて、ユーディスは澄んだ空色の瞳をふ、と細めた。
「一般人は誰も傷つけさせやしません……往きましょう」


 回復手である麻衣を狙う攻撃をコーディは懸命に受け流す。癒しを与える麻衣の支援によって、前線で戦い易くなった焔が細腕に力を込めて、殴り飛ばしたい意志を堪えながら蹴りを放つ。
「燃やしてあげるから待ってなさいよ?」
「……先に、爆ぜろ」
 焔の炎を撒き散らす様に天乃が引火させるソレは死を告げる爆発を引き起こす。周囲に血の華を咲かせる彼女の体を濡らすのは彼女のものか、それとも他の誰かのものとも解らない赤であった。
 水上の上を掛け、跳ねる飛沫を蹴りあげて、血を浴びながら天乃の唇が釣り上がる。戦いに求める想いが何よりも其処に在ったのだろう。
 庇い手として、其処に佇んでいたコーディの興味は何よりも巨門そのものだった。七星のうちの一人。未だ見えぬ組織の全貌に好奇心を擽られぬ訳でもない。
 観察眼を駆使し、辿りついたのは男が得意とする攻撃は身体を燃やし、その勢いのまま相手の体を仰け反らせる者である事が解る。未だ、使用されないそれが何時使われるか。
「……そろそろ、使うのだろう?」
 コーディの警告とも取れる言葉にそろそろ戦いを終わらせよう、と言わんばかりにユーディスが盾を構える。身体を捻り軽やかに攻撃を受け流し、髪を靡かせたユーディスは騎士としての信念を胸にフィクサードの懐へと滑りこむ。
 光り輝く槍はもう一度、狙いを定めて『暗澹』を突き刺した。ぴき、と音を立てる其れから魔力が引いた事に『魔術の知識を有する』氷璃は気付く。同時に、カルラが拳を巨門へと突き立てた。
「おい、余所見してる暇はねぇだろ?」
 男が連れる配下が彼を庇う事等許せなかった。拳を只管に突き立て、答えを求める様に、カルラは拳を振り被る。
 ホーリーメイガスであろうフィクサードが放つ神気閃光に彩音の体が燃える様にじくじくと痛む。倒れる訳にはいかぬとばかりに踏ん張る彼女の目は、ただ、一つの目的に向いていた。
「貴方のその身に宿った闘争の意志。其処に理屈はないのでしょうね。生まれ持った天賦の才による潜在的な本能。
 身体に染み付いた尤も効率の良い条件反射。それが貴方の『潜闘論』――でしょう?」
 氷璃の瞳はただ、求めるモノを求めるままに見すえていた。飛び交う鳥をその鎖で巻き込みながら、破壊した暗澹の欠片を睨みつける。
「魅せてみなさい。私は不可能と諦める事はしない。それは運命に流されているも同じ。
 頭で考えるより実践してラーニングしてみせる。貴方の技を私の身に宿してあげるわ」
 揺れる箱庭を騙る檻。天蓋が強い日差しから氷璃を守り、決して解けぬ『氷』の意志を強く巨門へと示す。
 彼の性格からよくわかる。振り上げた拳を振り下ろすだけと言う単純なルーティン。その身に宿す力を高め、自身の気持ちが高揚すると共に麻薬の様に作用する。攻撃を避ける速度が速くなっていく事を相手にしているカルラは感じていた。
「速度、命中、回避の何れかが上昇して、反射が付与される? ああ、違うわね。回避が上がって、リジェネートでもしているのかしら」
 厄介な能力だわ、と小さく唇を歪めた氷璃に『戦いに特化した能力があるのか』とカルラの瞳が歪められる。
 倒れて行く配下を横目に、ただ、面白いと笑った男は目の前のカルラの拳を受け流し、剣を握りしめる手に力を込める。流れ弾を受けながらも傷つく彩音の眼が細められる。
「おお、来るか……!」
 待ち望んでいたのは己が身に付けた技術を上手く使いこなす事だ。魔術に長ける氷璃とてそれを目にする事を望んでいた。身体全ての力を込めて、カルラの体へと振り下ろされる剣。炎を纏った切っ先が真っ直ぐに振り下ろされた。
 身体を焼くその炎に、瞬時にふっ飛ばされる様に身が捩れたソレから耐える様にカルラが足に力を込める。靴底が地面を擦り、体勢を崩した其れを受け止めた天乃は楽しみだと言う風に殺気を漲らせた。
「お待たせ……さあ、踊ろう?」
 長い髪が揺れ、地面を蹴る。巨門へと問いかける言葉の前に、喋ることさえも忘れて戦闘に身を預ける男に唇を歪めずには居られない。
 戦いだ。戦闘は何よりも褒美である。その楽しさに身を任せ。一番重要な戦いに天乃が身を委ねた。
 飛び交う鳥が彩音の胸を突き刺す。その嘴を押す様に気糸が鳥を絡め取る。攻撃を喰らい続けていた、コーディが鮮やかな赤い翼を広げ、金の瞳を細めた。
「人の心を読むのは、中々に興味深い。私は生者の想いも亡者の想いも読み解くのみ」
 翳した手は、雷を誘発する。その雷光の下、拳を固めて、赤い髪を靡かせた焔が地面を蹴った。
 走って言って殴り飛ばす。蹴り飛ばすより、その乙女の拳で全てを語る事こそが彼女その物なのだから。
「言葉は不要。全ては拳で語り合い、理解しろってことでしょ。解るわ!
 風水盤はもう壊れた! 今度は小細工なしに遣りあいましょう?」
 赤い血が少女の視界に入る。魅せられたように炎に焦がれ、燃え滾る拳を巨門の刀へとぶつける。受け止めた、巨躯が一歩下がる。にこりともせずに闘争に魅せられていた天乃がふと足を止め周囲を見回した。
 肩で息をするコーディがゆるりと唇を歪める。残るフィクサードはどれもが巨門の事を庇おうとその周囲に集まっているだけになっていた。
「小賢しいやり取り、など、望まぬでしょ……?」
 前線で戦い続けた天乃は頬から流れる血を拭い、じ、と何処か虚ろな色を灯す瞳で巨門を見据えた。口内に溜まった血を吐き出して、小さく震えた体を立たせた男は未だ立つリベリスタへと視線を送る。
「吁」
 一言。口数の少ない男は脳内でお喋りな『友人』が「箱舟はとっても強くってボクも邪魔されたんだ」と笑う声を想いだす。天乃やコーディが出逢った長い髪の中華風の男の姿が巨門の脳裏をチラついた。
「七星のうちの五人とは直接会った。どれも曲者揃いではあったが、組織の長と言う感じでは無かった。
 ……七星を束ねる者は他に居るとみて良いのかな? どうだ、巨門」
 じ、と見据えるコーディが答えを求める様に男の思惑の中へと沈んでいく。男に伸ばされる指先が彼の腰の星を指差して下ろされるのが見える。

 ――『  』。巨門。

 思惑を読み解かんとするコーディに彼女の知らぬ名が、聞こえた。それは目の前の男の本名であろうか。巨門と言う通り名とは違う、別の名前。
「……吁」
 ただ、一言。彼女の問いに応える様に男は応答した。
 コーディが今まであった廉貞も、禄存も、文曲も破軍も、そして巨門も誰もがトップに立つものではないと頷いたのだ。そうか、と杖を降ろすと同時、コーディが膝をつく。
「……吁、『暗澹』が壊れたか。此度は終わり、か」
 小さく囁かれた言葉は己の負けと引き際を弁えているからであろうか。自身の目的がある以上その達成が出来なかった巨門に此処に居残る必要はないのだろう。大剣を引き摺り、切れ長の瞳に何か羨望を抱く様にカルラを見詰めた男は地面を蹴り、背を向ける。
「逃がさ、ない」
「次だ。次もまた貴殿らと戦いたい」
 その背を追いかけようと踏み出す天乃が男の言葉を聞いて、ぴたりと足を止める。
 残るエリューションを殴りつけたカルラの拳は其の侭、コンクリートへと突き立てられた。歪められた表情は、悔しさからくるものだろうか。
「……こんなんで、何が掴めるってんだよ……畜生ッ」
 零される声に応える言葉はなく。ただ、傾く陽光が翳を落として居た。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 お疲れさまでした。
 巨門への声掛け等有難うございました。七業、と言う訳で巨門でした。
 まさかの巨門のEXをあれやこれやと予測し、丸裸にされるとは予想外でした。

 謎ばかりではありますが、解き明かされる事を楽しみにして。
 ご参加有難うございました。また別のお話しでお会いできます事をお祈りして。