●俯瞰の使いは夏の夜に笑う 「ハハハ……ハハハハハハァ!」 笑う。笑う。夏の夜に笑っている。 道路に佇むのは一人の男。乏しい街灯の灯りは丁度彼の直上に在り、まるでスポット・ライトのように男を主張させる。 ――彼の目の前には、一人の少女が居た。 彼女の意識はない。しかし服は乱れてはおらず、傷も一つとしてついてはいない。 但し、その瞳は涙で濡れ、 その顔は、恐怖に凍っており、 それを――笑う。男はただただ笑っている。 被害者の少女をいっそ誇らしく笑う男は、何処までも歪んでいた。 「あぁあ……絶景かな、絶景かなァ!」 空は雲一つ無く、数多の星を映している。 一つの凌辱を終えた男は、それを見上げながら、唯、笑っていた。 ●シリアスな依頼? 笑わせんじゃねぇ! 「このフィクサードは、持っているアーティファクト『ガリバー・チャンネル』を使用することで、夜道を歩く女の子を巨大化させ、そのスカートの中を覗いているらしいの」 おい先刻までの雰囲気が一瞬で壊れたぞ。 非難の視線を向けるリベリスタ達に対し、「そんなの知ったことではない」と言わんばかりにぶんむくれているのは、ちっちゃい淑女こと、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)たん。 その表情から見ても解るとおり、何故か彼女はこの依頼に対して少々お怒りのご様子である。閑話休題。 「詳しく説明すると、敵は一人のフィクサード。彼はかなり遠くから<暗視><イーグルアイ>を併用しつつ、夜道を歩く女の子を物色していて、自分の好みに合う……要はスカートを穿いた女の子を見つけた瞬間に接近、所持しているアーティファクト、『ガリバー・チャンネル』を展開する。 逆を言えば、そう言った獲物が居ない限り、彼は自分から姿を現すようなことはまずないと考えていい」 「……そのアーティファクトって言うのは、具体的にどういう効果なんだ?」 流石に聞いておきたい部分であるため、リベリスタ達も幼女のふくれっ面に負けじと質問する。 「『ガリバー・チャンネル』はその名の通り、所持者がアーティファクトを握ることで、周囲一体を疑似的な異世界に変える能力。 一つ目の効果は、所持者が指定した対象以外の一般人を一時的に消失させる能力。 二つ目の効果は、効果範囲内の無機物に高速かつ強力な自己修復能力を持たせる能力。 最後の効果は、効果範囲内にいる任意の対象を、所持者が望むことで巨大化させる能力。これは視線の通る通らないに関わらず発動するよ」 使いようによっては恐ろしい脅威になりそうな物品なのに、使い手がアレなおかげで見事にしょうもなく聞こえてくる。 「それぞれのアーティファクトの能力は、所持者がアーティファクトを手から離すまで元に戻ることは出来ない。 その間、対象は攻撃、防御、命中が二倍、回避が半分になると共に、攻撃射程が戦場全体にまで拡大される」 「……それ、もしかしてこっちにエラく有利じゃないか?」 「うん。普通に戦えば楽勝。……ただ」 と言ったところで、イヴはちらりとリベリスタ達を一瞥する。 「……巨大化した味方のスカートの中に釣られるような人が居なければ」 「……」 ああ、怒っている理由はそっちですか。 まあ実際、そういう人間が居たり、それによってある種の同士討ちとか起こって阿鼻叫喚になる可能性は否定できないけど。 「件のフィクサード自体の能力は、ぶっちゃけレベル1か2あるかどうか。戦法とか作戦とかめちゃくちゃでも囲んでボコれば勝てると思う」 身も蓋も無い言いようである。 ともあれリベリスタ達は疲れた表情でブリーフィングルームを出ていく――寸前。 「……あと、穿いてない人は男女問わず、必ず穿いてくるように」 さっくりとフォーチュナ様からの釘を刺されたりした。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田辺正彦 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年07月18日(月)22:00 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● フィクサード。異能と共に世界の祝福――フェイトを得ながらも、己の力を私利私欲に使う者達の総称。 近日に於いては<相模の蝮>を始めとする者達が記憶に新しいだろう。その実力や思想など、此度の事件を元にフィクサードという存在に対しての認識に更なる警戒をもたらされたであろう事は想像に難くない。 ――そして、此度現れたフィクサードの討伐、捕獲に向かうリベリスタ達は、皆一様に同じ思いを抱いていた。 「そ の 最 中 に コ レ か よ」と。 「……女子のスカートの中身をみて悦に浸る。しかもその為にアーティファクトの悪用まで」 暗い夜道、自分と同じようにスカートを履いた仲間達と共に歩きながら、『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)は腕を組んでうーむと唸る。 「なんともフィクサードらしいとはいえるが……ボクは少女だから、こういった悪はゆるせないのだ」 世のフィクサードの認識はこの少女の中でどうなっているのか、切に問いだたしたい。 「折角の便利そうなアーティファクトなのに、その……『えっち』な目的に使うなんて」 そんな雷音の言葉に、真っ赤な顔でこくこくと頷いているのは『童話のヴァンパイアプリンセス』アリス・ショコラ・ヴィクトリカ(BNE000128)。 青を基調としたエプロンドレスはまるで童話の彼女を連想させるかのように、幻想的で、故に触れればかき消えそうな朧気を感じさせる。 まあ詩的な表現使っても敵のすることは変わりませんがね? 「高性能なアーティファクトも使い手次第では駄目駄目になるんですね~」 「本当にね……。正しく使えば神秘を秘匿したまま戦うのに便利そうだというのに」 ぽやっとした表情を崩さず、存外容赦のない言葉を吐くユーフォリア・エアリテーゼ(BNE002672)の言葉に、『運命狂』宵咲 氷璃(BNE002401)も呆れた表情を隠さずに返した。 ガリバー・チャンネル。その本来の能力を上手く利用すれば、完全な人除けと周囲の被害に対する考慮の必要性を排せる上、仲間達の戦闘力を大幅に向上させることも可能な素晴らしいアーティファクトである。 そんな万能な『鋏』をナマクラにしている馬鹿の手に余らせておくのは、余りにも惜しい。 「ああ、ところで貴方達……性別『?』になる覚悟は出来たかしら?」 言って、氷璃が振り返った先にいたのは、『正義のジャーナリスト(自称)』リスキー・ブラウン(BNE000746)と『エースランナー』音無 光騎(BNE002637)の二人。この依頼に於いて数少ない男性陣である。 ゴスロリ少女の婉然たる微笑みに対して、両者は全く違った反応を返す。 「何を言ってるんだ。俺は今回の依頼に対してやましい気持ちなんてこれっぽっちもないんだぜ? ああ、カメラ? これは商売道具さ。ほら、今回の事件もしっかりと記録を残さないといけないだろ?」 「いや、うん。無い。俺自身はそんな気持ち全くない。……だけどこう、 春のそよ風が、夏の潮風が、秋の木枯らしが、冬の北風が 戯れにめくったスカートの中に視線がいってしまうのは、仕方がないことだと――」 あ、討伐対象二名追加で。 片や使命を、片や偶然を装って一行に混ざっている造反者共に向かう女性陣の視線は、氷点を確実に切ってると確信できるレベルにまで冷え切っていた。 「と言うか、ねえ……この面子で例のフィクサードはやってくるのかな?」 心温まる掛け合いを交わす仲間達の中で、不意に現実的な話を切り出すのは、雷音同様、敵の注意を惹くために三高平中等部の制服を着た『呪印彫刻士』志賀倉 はぜり(BNE002609)。 彼女の懸念は尤もである。何しろ年齢差を無視した組み合わせにちぐはぐの服装。あまつさえエリューション属性を持つフィクサードは、光騎の幻視(使ってすらいないが)を通してその変容した頭部と尻尾を容易に確認することが出来る。 此処まであからさまな構成だと流石に変態といえども、 「お嬢さん方、ちょっとお待ちいただこうか!」 すいません今の発言撤回しといてください。 夜道を歩くリベリスタの前に現れた存在。街灯の頼りない光に照らされているのは、このクソ暑い夏の夜に真っ黒なコートを着込んだ三十半ばの中年だった。 変態野郎が釣れたら堂々と口上述べてやろうと思っていた『なのなのお嬢様なの』ルーメリア・ブラン・リュミエール(BNE001611)までもが若干退いている。いや見た目もそうだけど、実際に目の当たりにしたときのオーラ的な何かとか、色々。 展開がどうなるかは十分理解できてはいるが、それでも心優しいアリスは一応、フィクサードに対して降伏勧告を行う。 「あ、あの、大人しくアーティファクトをこちらに渡して下さい!でないとお仕置きしちゃいますよ……!」 「……フン。成る程。貴様らはリベリスタか」 変態の癖に無駄に格好良い口調で話すフィクサードは、次にこう言った。 「アーティファクトを渡す? 別に構わんよ。これはあくまで、俺の力を補助する道具に過ぎない。……条件はあるがね」 「条件?」 訝しげに単語を鸚鵡返しにする雷音に対し、フィクサードは然りと頷き、言った。 「此方の条件は二つ。 君たち女性陣のパンツ姿をデジカメで一人三十枚、そして三分間実視させて貰うこ」 「ヤるわよ」 「うむ」 号令の氷璃、従う雷音。 と言うわけで、フィクサードの口上の最中に、女性陣の遠距離攻撃が炸裂した。 ● で、結果。 「ば、馬鹿な……」 フィクサードは地に倒れ伏した。 「いや戦闘不能になるの早すぎだろう!?」 「騙されたな阿呆め、俺はフィクサード! フェイトを使えば立ち上がることなど造作もない!」 「半死半生じゃないですか!?」 「と言うか運命の加護を何だと思っているのだ」 仰るとおりです。 ともあれ、高レベル帯まで入ったリベリスタの一斉攻撃に、実力もないフィクサード一人が耐えられるわけもなく、僅か十秒でHPを削られたわけである。 え、フィクサード周囲の男性陣も何故かボロボロ? 流れ弾じゃないっすかね。 まあこんな調子で、倒すには後一押しにまで至ったリベリスタではあるのだが、逆を言えばその間で敵の行動を止めきれなかったこともまた事実である。 その時間を使ってフィクサードが何をするのかと言えば、予想は出来ようというもの。 「興せガリバーの幻想! 我が理想を現世に召還せよ!」 フィクサードがそれを言うと共に。 周囲から人の気配が消え、 僅かに欠けたアスファルトの路面が急速に修復し、 そして―― 「ちょっ……い、いやーっ! 見てるんじゃねーなの!?」 偶然にも、この女性陣の中で『防護対策』をしていなかった一人であるルーメリアが、巨大化の餌食第一号になった。 「ハハハハハハァ! さあ行くぞお嬢さん。君の真理を我が前に晒し給え!」 「いざ、聖地を巡る旅へ!」 「こ、これが未知への探求の喜びか……!?」 え、何か変な声が二つ聞こえる? アレだよ。プラズマの所為。 高画素のデジカメ片手に持った中年のおっさん(と、もう二人)が自分の真下にやってくるのを見て、ルーメリアは半狂乱で叫んだ。 「ひゃっ……写真とか、取るなぁー!?」 言うと共に、咄嗟に屈んでスカートの中を守ろうとするルーメリア。 具体的に言うと、巨大化したお嬢様の臀部が急降下していくわけである。 尻餅はつかない為身体全体が潰されはしないにしても、そうした場合下にいる人間がどうなるか。 ぐいっ、ぱきん。 微妙に小気味の良い音と共に、真下にいたフィクサードの首がヤバい方向にねじ曲がった。 失われる意識、目には見えないHPゲージが急激に減っていく様が何故か幻視される。 が。 「未だだぁぁぁぁぁぁぁっ!」 はい、復活入りましたー。 両の足がくずおれる前に大地を踏みしめ、握ったデジカメから何度もフラッシュを飛ばした後、フィクサードは再び疾走する。未だ見ぬ遙けき理想郷を目指して。 で、次の被害者になったのは。 「え、え? こ、今度は私ですか……!?」 フィクサードが念じると共に巨大化するアリス。 そして走る男性『陣』(ツッコミ禁止)。 下校時の学生集団を装って密集しすぎていたため、その移動距離が短いのはある意味、彼女らの作戦に於ける失点であった。 「童話のお姫様の下着をこの目で見られるとはな……いざ!」 意味もなくスライディングしたフィクサードはアリスの真下に滑り込み、その下着を覗いた。 ドロワーズだった。 「馬鹿なァァァァァァァ!?」 「いやぁぁぁぁぁぁぁ!」 「ぐほぁぁぁぁぁああ!」 見られても平気なように対策はしたものの、やはり純真無垢な女の子としては男性にスカートの中を覗かれるというのは羞恥心が強くなってしまう。 混乱した挙げ句ひたすらじたじたと足踏みをするアリスによって、フィクサードの身体が見る間にボロ雑巾へと変化していく。まあ武器使ってないからダメージあんまり高くないけど。 「んー、まあ若干残念ではあるが、ドロワーズもわるくないな。うんうん」 「いや、大丈夫だ。俺は見たいなんて思ってないから、別に中身がそうでなくてもショックは受けてないんだ。大丈夫なんだ……」 因みに執念深くアリスの真下に居続けたフィクサードと違い、一目見るだけに留めた男性陣二人は既にアリスの足下を離れており、各々の感想を独り言のように呟いている。君たち女性陣が先刻からロックオンしてるのに気づいてますか? 「ふ。中々、手痛い代償だった……ぜ……」 あ、フィクサードが漸く抜け出してきた。 そんでもって、懲りずにまたアーティファクトを構える。 「だが、俺はこれで倒れるほど――弱い信念を持ってはいない!」 燐光を纏ったアーティファクトが、次に巨大化させる対象へと向けられた。 ● 掛け合いはどう見てもギャグでしかないが、実は戦況は地味にリベリスタ側の劣勢に動き始めていた。 巨大化された対象は、勢い余ってアーティファクトを破壊しないように、若しくは仲間を巻き添えにしないようにと攻撃を控える方向で居り、その為時と共に巨大化対象が増えると言うことは攻撃手の減少を意味する。 加えてアーティファクトの対象に選ばれないであろうどっかの二名(プライバシー保護のため実名は控えております)も、フィクサードに半ば迎合して戦闘する気が有りゃしねえ。 下手をすればこのまま逃走の可能性が有る。……有るのだが。 「む。今度はボクが狙いか」 「老若を問いはしないのが俺のポリシーだ。そのスカートの中貰っ馬鹿なァァァァァァァ!?」 「其処かぁぁぁぁぁぁぁ!」 「ぼるぁぁぁぁぁぁぁ!?」 「おお、スパッツも悪くないな。こうしっかりとラインが覗けて」 「くそっ、くそっ、何を悔しがってるんだ俺は!」 「今度はうち? ロリコンだねえおじさんも」 「何とでも言うが良いさ! 俺は決して自分の理念を曲げはしな」 「私は見られても困りませんけど、他の女の子が嫌がることをしちゃいけませんよ~? えい、幻影剣」 「べぐふっ!?」 「み、見てはだめだ見てはだめだ見てはだめだ見てはだめだ!!!」 「そんなに見たいのなら……もっと地面に這い蹲って懇願なさい」 「どうか御願いいたします!」 「フレアバースト」 「ぎゃぁぁぁぁぁあ!?」 「重傷? フェイト? そんなもの気にするな! 神秘探求のためには多少の怪我なんて付きも」 「マジックミサイル」 「まじ……すんません……」 嗚呼、何と言う阿鼻叫喚。 敵味方入り乱れての混戦の果てがどうなったかなんて、聞くのが野暮というものである。 経過時間はおよそ一分。フィクサードは活動を停止し、その手からアーティファクト、『ガリバー・チャンネル』をぽろりと零した。 ● まあ結局、本依頼の一件はある意味でつつがなく終了し、ある意味では致命的な損害を被っての辛勝となったわけである。 え、被害? ええと具体的には、 「み、見られたの……。て言うか撮られたの。以前は脱がされかけて今回は下着見られてしかもあ んな中年のおじさんに(以下略)」 「うう、とっても恥ずかしかったです……。ドロワーズを履いてるから大丈夫だと思ったんですけど」 フィクサード退治の現実を魂に直接刻み込まれた、体長が十倍近くにまで至ったお嬢様方とか? 肉体に於けるダメージが皆無にしても精神が負ったダメージは聞くまでも無い。取りあえず現在進行形で泣き濡れているルーメリアと、顔を真っ赤にするアリスはそっとしておいて、残る女性陣の視線はリスキーと光騎に向けられている。 「……取りあえずリスキー、そのカメラを渡すのだ」 強硬手段も辞さないとしている雷音に対し、リスキーはあっさりと持っていたデジカメと一眼レフを渡した。 怪訝な表情を隠せない雷音が、フィルムとデータをそれぞれチェックするも……やはり其処には何も映っていない。 「キミたちはおにーさんをなんだと思ってるんだ。おにーさんは紳士だよ? さすがにスカートの中を本気で撮影なんてするはずないじゃないか」 見るだけで十分アウトです。と言うツッコミは置いておいて。 信用できないと睨んでいる女性陣から離れて、リスキーはこっそりと呟いた。 「……まぁ瞬間記憶でこの頭の中にちゃんと保存してあるしね」 「おっけー。それじゃこっちのおじさんも一緒に鑑賞代払って貰おっか」 「おじさんじゃな……え?」 振り向いたリスキーの視界に映ったのは――現在進行形で氷璃様の『ご褒美』を喰らっている<集音装置>持ちの光騎が挙手している姿であった。 「……さあ、貴方達は何が悪かったのか、言ってみなさい?」 聖女の如き柔らかな微笑みを浮かべる少女の言葉は、だからこそ彼女の名の如く男衆を凍らせる。 ――んでもって。 その後はぜりからロリコン呼ばわりされたり雷音の数十分にわたる説教をこんこんと受けたり氷璃の飴と鞭を存分にかっ喰らわされた男性陣の末路は余りに悲惨であるため、一足先にアーティファクトを持ち帰ったユーフォリアのこの言葉を以てご理解していただきたい。 「リベリスタの誰かが仮に酷い目に合わされてても、私には解りません~」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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