● 某月某日 白目に膜がかかったようになったから、コンタクトを外し忘れたかと思って触っているのにとれないのだ。 では、目やにか? とれない。 眼球がはれているかも知れないと思い当たって、ネットで検索してみると、たいしたことはないらしい。 軽ければほっといても数時間で治るし、抗菌目薬をさしておけばいいらしい。 でも、寝て起きたら、白目の中に黒い粒が。 粒はどんどん大きくなって、それが黒目だと気がついたときには、眼球が四つに増えていて。 2、4,8,16,32,64,128,256,512,1024,2048,4096――。 たすけて。 涙を流したいのに。 目から目があふれてくる。 ● 「かえるの卵――」 『擬音電波ローデント』小館・シモン・四門(nBNE000248)の顔色が青いのは、空調が効き過ぎているからではない。 「目玉にアザーバイドが寄生していて、増殖してる」 歯の根が合っていない。いつものペッキをくわえていないのは、今ものを食べる気にどうしてもなれないからだ。 「目から涙みたいに滴り落ちる未発達の眼球がプルプル震えて、黒めに該当する部分からおたまじゃくしがぬるんって――」 視線が天井をさまよっている。握り締めているのはスナック菓子の袋ではなく、げろ袋だ。 「寄生状態、完全に一体化。憑き物落としの可能性、なし。規制部分の生体部分からの完全分離後焼却が効果的」 四門は大きく息を吸い込み、ぎゅっと手を強く握り締めた。 「一刻も早く、保護対象者から眼球を摘出。アザーバイドの除去をしなくちゃいけない。このままでは増殖性拡散現象によって、彼女がノーフェイスになってしまう」 そうしたら、彼女の命がなくなる。 「現時点で確認されている治癒の奇跡では、失われた人体帰還の再生は不可能。彼女は、すでに正気を失っている。回復の見込みはない。生き延びるためには、更に両の眼球を失うことになる」 理不尽な。あまりにも理不尽な運命。 「アザーバイド、おたまじゃくしも含むの殲滅が今回のお仕事です。よろしくお願いします」 紙みたいな白い顔をして、フォーチュナは頭を下げる。 「俺には答えが出せませんでした。だから、現場に出るみんなで。彼女をどうするか決めて下さい」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田奈アガサ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年07月19日(金)22:35 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 三田奈津子の家は、単身者向けマンションの一室だった。 事前に周囲の地形や隣近所の入居状況などの情報は『やわらかクロスイージス』内薙・智夫(BNE001581)から各員に配布されている。 「セイギノミカタとして出来る事をやらなくちゃいけないん、だよね」 こういう依頼では、智夫は逃げない。 「可能なら、三田さんも救いたいし」 難しいことなのは分かっている。 帰るたびに思うのだ。「出来たらたすけてあげたかった」 「正直しぬほど気持ち悪いんだけど、これなんでこんなことなっちゃったの?」 ブリーフィングを聞いていなかった訳でもないのに、『超合金コントラバス』福澤 千円(BNE004572)はそんなことをあえて口にする。 なんで。どれだけの前世の因縁があったら、こんな目に遭うのにつりあうんだ。 「でもさーやるしかないよね。ないない」 軽い口調で、そう締めくくる千円。 「人の眼球に寄生するアザーバイド――一般人がそんな状況に陥ったら正気で居られる筈がないな」 『アウィスラパクス』天城・櫻霞(BNE000469)は、被害者・三田の心中を思う。 (ありえないことが本当に切り替わる、それが神秘という代物だ。どう転んでも災厄と地獄を撒き散らす最低最悪の害毒) 苦いものがこみ上げてきていた。 (碌な結果にならないなんて、最初から解りきったことだろう) 「目から蛙の卵が零れ落ちるとは、興味深いアザーバイドでございますわね。いろいろ調べてみたいところではありますが――」 『飽くなき探究心』ヴィオランティア・イクシィアーツォ・クォルシュテェン(BNE004467)の好奇心はとどまることを知らない。 「三田奈津子様の救助が最優先ですわね」 だが、それも刻と場合によることはきちんと認識している。それゆえのリベリスタだ。 知識欲に呑み込まれれば、フィクサードと同じものになる。 「陳腐な相手だが、やっていることが極悪だの……まぁ人間も視点を変えればそうでもないが……」 『大魔道』シェリー・D・モーガン(BNE003862)は、あまり乗り気ではないようだ。魔女は、カエルの卵や目玉を鍋で煮るという固定観念は捨てるべきなのだろう。 「できる限り救ってやりたいが、まずは命を」 これで、結構情が深いなのだ。 「見たくないものを見てしまって、正気を手放して大変不運……が、正気でないから耐えられたのだとしたら、それは……」 『視感視眼』首藤・存人(BNE003547)は、羨ましい。の言葉を呑み込んだ。 「やるせないですね。チカラがあったとしても、もうカノジョのヒトミをとりもどすことはできないのですから……」 『不倒の人』ルシュディー サハル アースィム(BNE004550)は、ようよう日本語をつむぐ。 アザーバイドに侵食された眼球はもう取り返しがつかないと、フォーチュナは言っていた。 「それでも、まずはおちこんでるばあいじゃない。いまなおカノジョはくるしんでいるんですから、いそいでカノジョをたすけましょう」 できれば、三田を生かしてやりたい。と、リベリスタは考えるまでもなく思っていた。 だから、『夜翔け鳩』犬束・うさぎ(BNE000189)のポケットには、スタンガンとスプーンが入っている。 「できることなら幸せにしてこう」 千円が、そう締めくくった。 ● 「きゃーははははは目が流れるながながれるよめのなかでかえるがないてるよこうびして卵産んでるよたすけてだれかきもちわるいきゃははやだもうやってらんないきゃははははあはははうぐえきもちわるいよきゃはっかへっほうひゃははたすけてはははっ!」 玄関に飾られた花、整理された部屋、使い込まれた台所。小さなテーブルの下には、実家から送られてきたと思しき段ボール箱。 部屋の様子を見れば、彼女のまじめな人となりが見えた。 仕事して、女子会に行って、時々は同じ面子で旅行をして。ごく普通の生活。 リベリスタを迎えたのは、抑制を欠いた笑い声だった。 そして、フローリング一面に広がる半透明に盛り上がった目玉のような涙――のような、カエル型アザーバイドの粘液まみれのおたまじゃくしが三田の頬を伝い、あごを伝い、胸元から腹、座り込んだ太ももひざにたまり、床一面に広がっているのだ。 時折口に入る卵を慣れた様子で西瓜の種を飛ばすように吹き出しながら、三田奈津子は笑い続けている。 「何れにせよ絶対触りたくない。きもちわるい。やばい。むり」 戦闘経験のないに等しい千円が泣き言を言う。実際、気色悪いことこの上ない。 歴戦のリベリスタでさえ、一瞬言葉を失う。 「鳴声共鳴を使わせない事を最優先、次に三田さんを殺させない事を優先して行動するよ。本当は三田さんの安全を最優先したいけど……鳴声共鳴で詰む可能性があるからね」 智夫の少女めいた容貌とかけ離れた、闘将としての抑制された声が響いた。 うさぎが廊下を駆け抜けた。 おたまじゃくしがじゃまだったから、背には仮初めの翼。 「きをつけて!」 ルシュディーが、此度は聖戦であると加護を放つ。 うさぎは、手の中の機械の電圧を上げた。 スタンガンは痛いが、意識がある方がなお痛い。 発生したオゾン臭と火花。 本来一般人には憚られる大出力での電撃に、三田奈津子の体は動くのをやめる。 まだ、体はアザーバイドの影響を受けていなかった。 続けざまに、智夫が閃光弾を部屋の中に投入する。 ヒトミカエルを含ませようとするが、三田のまぶたに遮断され、視線が通らない。 「落ち着いて、作業して。終わるまで、僕が犬束さんを守るから」 後衛からの斜線確保のため、廊下からリビングまでの扉を固定しながら智夫が声を上げる。 聖戦の加護によって増幅された意志の力が、うさぎを気丈に働かせる。 「眼球が強化されてるかも。なので、『刳りぬき』 ます」 うさぎは無表情だ。降りたまぶたをめくり上げると、白目を向いていた眼球がぐるりと動いた。虹彩は、うずくまる茶色いカエルにとって変わられていた。 (目と眼窩の間に捻じ込み、視神経等を千切って眼球を刳り出せば、眼球の耐久度とは無関係に取り出せる筈……) 狙いを定めるうさぎをあざ笑うように、彼女の瞳の中のカエルはケロケロ鳴いている。 音は聞こえない。しかし、のどが震えている明らかに、ケロケロと笑っていた。 敵への嫌悪感以上に、「普通の」人を傷つける感触が、敵に対してはいかなる姑息な手段を弄してでも迅速に確実に殺すうさぎの手を凍らせている。 どの道正気の回復の見込みはない……徒労だ。彼女を生かすのはリベリスタの自己満足ではないのか? 神秘事件の被害者の彼女は行方不明になるのだ。そして、偽装工作が終わった頃、家族に『不幸な事故にあった』彼女のことが連絡される。 狂気に陥った彼女の存在は負担になるのではないか? 彼女の尊厳を脅かすことになるのではないか? 人間、生きてりゃいいってもんじゃないだろう? 命だけはお助けを? この世界には、死んだ方がましだという事態は塵芥の数程ある。 「ええい、だめで元々じゃ。妾に見せてみろ。なにか他に方法があるやも知れぬ」 オタマジャクシを蹴りたてるように部屋に入り、シェリーは三田を凝視した。 持てる限りの魔術知識を駆使するが、これは魔術ではなく、異世界の生物の習性だ。 それでもたすける手立てはないものかと思考に没頭していたシェリーの背中にぞくりと粟立つものがあった。 脚にびっしりとオタマジャクシが張り付いている。 閃光弾の影響が薄れたのだ。 ぞぶぞぶぞぶぞぶ。 床でぶるぶると震えるオタマジャクシは、まだ親蛙の庇護を必要としている。 闖入者は排除するべき存在だった。 数限りないヒトミガエルのオタマジャクシが、親の窮地を救うべくリベリスタに向けて無秩序に雪崩れ込んでくる。 智夫は、うさぎをかばうので精一杯だ。 びしびしとシェリーの体に無数の打撃が連続して飛び掛り、それが大きな打撃となる。 自分の命を顧みない特攻だ。群体の中のどれか一匹でも生き残れば利己的遺伝子の勝利だ。 いつ終わるとも知れぬ連撃。 物理攻撃に極端に耐性のないシェリーも恩寵を磨り潰して戦意を保つ。 しかし、炎を呼ぶ暇も有らばこそ。 ほかならぬ彼女の炎で瓦解しかけた群体の復讐にも似た執拗な攻撃により、崩れ落ちる。 いびつな兄弟愛の勝利だった。 「生きていれば、瞳を失っていても、生きる光を見つけることができるかもしれん」 そう呟き、シェリーは目を閉じる。 うさぎのスプーンを握る指に力がこもる。 「――彼女は『たすけて』と言ったんだ。助けを求めてるんだ」 笑いながら、たすけてと繰り返す。助かりたいのだ。なら、その意志を汲む。 「だったら助けるしかねえだろうが!!」 スプーンが、三田の眼窩に触れ、突き入れられた。 ● 「三田に関しての対処は各々に任せる」 玄関からリビングまでは風呂場とトイレと納戸のスペース。 その数メートルが恐ろしく遠く感じる。 櫻霞は、玄関先から見える範囲のおたまじゃくし全てに銃弾を叩き込む。 びちびちと跳ねる様子が生理的嫌悪感をかき立てる。 「彼らにとって生命活動の一環で悪意がなかったとしても、これが広まっては困る」 その銃弾をかいくぐるようにして、存人がおたまじゃくしに四色の魔力の奔流を叩き込んだ。 毒に染まり、びちびちと水分を吐き出して干からびかけたおたまじゃくしのかたまり。ここまでで一つの群体と容易に分かるようになった。 「いけませんわね」 ヴィオランティアは、オタマジャクシに光球をたたきつける。 それによって動きの鈍ったオタマジャクシは櫻霞にとってはいい的だ。 後衛から見える範囲のオタマジャクシはみるみる狩られていった。 だが、射線をさえぎらないように位置どった智夫とうさぎに癒しは届かない。 「前衛で体張ってる人を援護したいっつーのにっ!」 今の千円に、オタマジャクシがのたうつ廊下を渡り切るだけの技量はない。 その前に、オタマジャクシにたかられて昏倒するのが目に見えていた。 後衛に迫るオタマジャクシに魔法の矢を叩き込むことに専念するしかない。 うさぎの作業が終わるまで、智夫はうさぎをかばい続けると決めていた。 智夫の体力が尽きるのが先か、リベリスタが廊下のおたまじゃくしを倒して部屋の中に駆け込むのが先か。 見えない位置で神秘が炸裂する音を聞きながら、うさぎは指先に神経を集中させていた。 うさぎの耳は二種類の苦鳴をとらえていた。 三田の耳をつんざく絶叫。 どたんばたんと跳ねる体を、うさぎは元暗殺者の要領で押さえ込んだ。 声も出させないで人を制圧する術は、不本意ながら体に染み付いていた。 三田が舌を噛まないようにと、口の中に布を突っ込む。 もう一つは、智夫の押し殺した苦鳴。 うさぎには、オタマジャクシ一匹飛んでこなかった。彼の本質は、クロスイージスなのだ。 スプーンでくりぬくという苦渋の選択が、ヒトミカエルの行動を大きく抑止していた。 アザーバイドとはいえ、この世界の法則には逆らえない。 『視線が通らなくては神秘は発動しない』 そして、今、ヒトミカエルの視線は、三田の眼窩につきこまれたステンレス製食器に阻まれている。 なす術もなく、寄生主から抉り出されるのを甘受せざるを得ないのだ。 うさぎが眼球を壁にたたきつけるように後衛の斜線に投げつけると同時に、ヴィオランティアは、部屋の中に駆け込み、三田に向けて、自らのフィアキィに癒しを願う。 「後遺症を残さないようにしなければいけませんものね」 出血は止めなくてはならない。 生命の器が満たされたのを確認したヴィオレンティアは、プルプルと床の上で震えている群体に目を落とした。 「ヒトミカエルはもちろんでございますが、おたまじゃくしも一匹残さず撃破しましょう。成長して第二、第三の被害を出させるわけにはいきません」 起きてしまった悲しいことは取り返しがつかないけれど、この先起こらないようにすることは出来る。 人の眼窩から解き放たれた眼球がもぞりと動いた。 虹彩の変わりに、のたうつ一対のカエル。 ――を見たと思った瞬間、脳髄の中をかきむしられるような不快感。圧倒的な嘔吐感。 それが音なのだと認識したときには、目の前が真っ赤になるほどの暴力衝動。 その中で、存人は必死に正気を保とうとしていた。 ぶつけられる神秘をよけることが不得手の存人が、このときばかりは歯を食いしばった。 (鳴声が不愉快でも見境なく放つ程に理性吹っ飛ばしたりはしない。例え理不尽に目を失うとしても、其れでも三田さんに生きて欲しいから此処に来ている。其れを忘れるな) 生きていて欲しかった。目がなくたって、生きていて欲しかった。どんな姿でもかまわないからずっと一緒に生きて欲しかった。 あの日死んでいった愛しい人と、三田が重なる。 だから、まだ生きている君は、死なないで。 「それ以上鳴かせる訳にはいかないっ!」 智夫は、青ざめた頬で気を吐いた。 うさぎを無傷でおくために、延々とオタマジャクシにたかられ続け、服の隙間からのぞく肌はどす黒い内出血でしゃれにならなくなっている。 生理的嫌悪感でとことんまで追い詰められて削られたなけなしの魔力を、智夫は神威の光に変えて放った。 部屋の中を満たす鮮烈な光に、カエルの鳴き声が途切れる。 「三田さん。三田さんの目は悪い目になってしまったんです」 つむぐ呪文。 聞こえていないだろうけど、話しかけずにはいられない。 「ねえ、そんな悪い目玉は要りません。俺が焼いてあげますね」 魔力弾が、目玉に突き刺さる。 「今、首藤さんが撃った方に攻撃を集中させてください。1匹になったらもう増殖は出来ない筈だ!」 うさぎが叫びながら、ぶすぶすとこげる眼球の中のたうつヒトミガエルに刃で出来たタンバリンを叩き込む。 ぐちゃっという手応えがとことん不快だった。 「これ以上増殖されても厄介だな」 櫻霞は針穴を通す精密射撃で、ヒトミカエルを撃ち貫く。 「早く終わらせるんです。三田さんを移送しなくちゃいけませんから!」 リベリスタ達の攻撃は、ヒトミガエルとその血脈が全て途切れるまでやむことはなかった。 ● 「ごめんなさい。いまのボクたちにアナタのひとみをなおすてだてはありません」 ルシュディーは、時々舌をもつれさせながらも話を聞いているのかどうかもわからない三田に謝り続けた。 (正気も意識も失っているならば無意味かも知れませんが) それでも存人は言わずにはいられない。 「助けに来ました」 (俺は医者でも正義の味方でもないけれど、せめて其の心に僅かでも安寧があると良い) 「傷口から菌が入って云々、なんてヒサンすぎるし。後味悪いし。包帯でくるくるっとするだけでも違わない?」 千円が急場しのぎにと包帯を巻きだす。 「医療班をお呼びしました。眼球、視力は戻らないとしても治療は必要でしょうし、お顔の形状を維持するためにも義眼等は必要でございますわね」 ヴィオレンティアの吸収した知識は、そんなことにまで及んでいた。 「そして、今の彼女に最も必要なのはメンタルケアですわね」 回復の見込みはない。ブリーフィングでリベリスタの迷いを断つべく告げられた言葉が想起される。 「予知がどうだろうと、見込みが無かろうと、出来る事をするんです」 うさぎは、はきゃきゃ、はきゃきゃと引きつった笑いを繰り返す三田の手を握った。 「でなきゃ私達は何の為に居るって言うんだ……!」 うさぎの搾り出すような声が響いた。 (どんなに力があっても、誰かを本当に救う事が出来ないなら……その力に意味ってあるのかなぁ?) 智夫は、そんなことを考えていた。 望んで持った力ではない。いつの間にか、したいことをするには力を育てるしかなくて。それでも届かないものの方が多いと思うことだってある。 意味が欲しいのだ。たすけたい者をたすけられないのはいやなのだ。 リベリスタは、多かれ少なかれ、そんな病にとりつかれている。 世界にとって、有用でいたい。 恩寵にすがって生きる免罪符のように。 「生きてればなんとか、いいこたーあると思うんだよね。知らんけど!」 千円は、そう言い放つ。 まだ神秘の世界に足を踏み入れたばかりだから言える台詞かもしれない。 それでも、今は信じたい。 生きていれば、いいことがある。少なくとも、死んだら、いいことなんかない。 誰も先のことはわからない。フォーチュナさえも起こる事象はわかっても、それがなにを意味するかの全てがわかるとは言えない。 治る見込みがなかろうと、幸せになれないなんて誰も断言なんて出来ない。 だから、出来ることをするのだ。 革醒者は万能ではない。 誰も彼もを本当に救える存在がもしいるとするならば、その存在の名は、『神』 という。 戦闘終了の知らせを受けて、別動班が駆け込んできたのはその数分後である。 「命拾いしたな。ただの悪い夢だ、さっさと忘れてしまえ」 聞こえないほど小さな声で、櫻霞は彼女に告げる。 ああ、そうできれば。それが最大の幸せだ。 ● 三田は、現在アーク関連の施設で静養中である。 穏やかな日々を送っているという。 でも、リベリスタは忘れない。 死に直結した狂気の中で、それでも彼女が口にした『たすけて』という言霊を。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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