● 「ねえ貴方、ジルコニアの魂は何処から来るの?」 女は不思議そうに首を傾げ、傍らの男へと問い掛ける。 彼女は夢見がちな女であった。 宝石が輝くのは、地中より出る宝石達が、大地の子供達で魂を持つからだと信じていたのだ。 非常に幼稚な発想だと男は思ったが、それでも彼女のそんな夢見がちな所も気に入っていたので静かに諭す。 「ねえ君、そんな偽物よりも此処にはもっと素晴らしい物が一杯あるだろう。ほらこっちの紅玉なんかはどうだい?」 男は自分で築き上げた財力に自信とプライドを持っていたので、連れ歩く彼女が安い人工石、もっと言えば偽物に興味を示すのを恥ずかしく思ったのだ。 キュービックジルコニアは模造ダイヤとも呼ばれる、外見がダイヤモンドと非常に酷似している人が作った、つまり天然石ではない宝石だ。 「違うわ貴方、この子は偽物なんかじゃないの。だってこんなに輝いているんだもの」 女の言葉に男は溜息を吐いて店員を呼ぶ。 彼は彼女が言い出せば聞かない性格である事を知っていた。 そして矢張り、それも含めて彼女を気に入っていたのだから仕方ない。 「ねえこれからはずっと一緒よ?」 女は自分の我が通る予感に、石の放つ輝きに、唇を綻ばせて語りかける。 其れが凡そ10年前。 夢見がちな女は男と結ばれ、それなりに幸せに暮らす。 けれども夢見がちな女は夢見がちなままに、夢の世界へと旅立った。 死因は車に轢かれそうな子供を助けた其の身代わりに。 病院に運ばれるも事切れる彼女は、最後に自分の指に光るジルコニアへと語り掛けた。 「ねえ私はもう行くわ。でも……、アナタの魂は何処へ行くの?」 ● 「……それに人を害する悪意は無いが、其れでも災厄は災厄なのだ」 一つ溜息を吐き、『老兵』陽立・逆貫(nBNE000208)は告げる。 彼が今回リベリスタに依頼するのは一匹のエリューション、E・ゴーレム退治だ。 「1人の女の積もった想いが、いまわの際の言葉を切欠に其の品からエリューションを生んでしまった」 其れはもう起きた事。今更変えようの無い出来事。 女は死に埋葬され、遅れて形を成したE・ゴーレムは彼女の埋葬された墓を目指す。 「其の行動は子が母を求めるが如き本能的な物だ。そのエリューションは『今は』自衛の為以外で人を襲う事はないだろう」 逆貫が差し出す資料の写真には、宝石で出来たお姫様、或いは妖精とでも言わんばかりの美しい何かが写っている。 生まれたばかりの赤子の様なE・ゴーレム。だがフェーズが進んでいけばやがてエリューションとしての本能に目覚め人を害する存在になるだろう。 「キュービックジルコニア、CZ、敢えてこう呼ぶが『彼女』は母の眠る墓に辿り着けばフェーズを進行させるだろう。そして墓に眠る残留思念から1体のE・フォースをも呼び起こす」 資料 エネミー1:ジルコニアのお姫様 立方晶ジルコニア、キュービックジルコニアの指輪がE・ゴーレム化して人型を成した物。 外見は1m強程度の大きさの透明な宝石で出来たお姫様や妖精といった感じの見た目。 高度1m程の高さを飛行している。もっと高く飛ぶ可能性も勿論ある。 キュービックジルコニアはモース硬度(旧版)で8~8,5とかなり硬く、E化に拠って其の硬度は更に増していると推測される。 光を使った攻撃や、自身の硬度を活かした攻撃を行う力を持つが、現状では自身の身に危害が及ばされない限りは其の力を行使しない。 エネミー2:夢見がちな女(母)の魂 未だ出現して居ないエリューション。エネミー1が墓に辿り着くと出現する。 所持能力は抱擁によるエネミー1への回復。 「生まれて間もない彼女等は難敵には程遠い。外が今回の敵に興味を持ったようで同行を申し出ているが、どの様な形で決着をつけるかは諸君等に任せよう」 逆貫の言う『paradox』陰座・外(nBNE000253)とは彼の親戚であり、ある程度の符術を修めたインヤンマスターだ。 まあ確かにこの人数ならば戦力的には充分だろう。 「ターゲットとの遭遇予定時刻は夕暮れ時、夕焼けの光に輝く彼女を探すのは容易い筈だ。夜には近くの神社で小さな花火大会があるので望むなら見てから帰ってくると良い」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:らると | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 6人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年07月19日(金)22:52 |
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■メイン参加者 6人■ | |||||
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● 「二酸化ジルコニウムと安定化剤の混合物のイミテーション」 白煙が夕暮れの空へと昇る。 大きく息を吐き、義手の指先で安物の煙草を握り潰したは『足らずの』晦 烏(BNE002858)。 「ジルコニアってのはそんな人工物だがね、万物に魂が宿るってのは嘘じゃねぇもんだな」 続ける言葉は一体誰に向けた物か。 肩を並べる仲間達へか、未だ未熟な『paradox』陰座・外(nBNE000253)へか、それとも死を与えねばならないイミテーションの姫君へか。 「害が無いままなら放置してやりたいもんだが、中々にままならぬ難儀な稼業だよ」 運命を皮肉って歪む唇は、けれども厚い顔隠しの奥に。 彼等、リベリスタ達が遠目に見守るは夕陽を反射して煌めくジルコニアのお姫様。 リベリスタ達がエリューションの討伐にあたって出した結論は、例えそれが偽りに満ちた物であろうと母と子を再会させようと言う物だった。 彷徨うイミテーションの宝石は、死した持ち主の、母の、残り香の様な気配を頼りにゆっくりと進む。 そう、リベリスタ達は彼女を見守っていた。ほんの少しの時を置けば、自分達の手で破壊せねばならぬ相手を、複雑な視線の中に、それでも最も強く優しさを滲ませながら。 せめてその会瀬の一瞬の幻想が、煌々と光る宝石のように素敵なものでありますようにと願いをこめて。 「外くうううううううううううん!!!!!! 久しぶりだね! 可愛いね!! 今日も食べちゃいたいくらい素敵だね!!! 舐めて良い? 舐め回して良い? 舐め回したあげくに持ち帰って良い??? やん意外と毛深い」 だからこの物凄い勢いで迫り来る『骸』黄桜 魅零(BNE003845)の態度も、場を、或いは自分の気持ちを少しでも和ませようとしているのだろうと外は考える。 何故なら魅零が本気になれば幾ら非力な外が彼女の顔にパンダのぬいぐるみを押し付けて抵抗しようと、払いのける事は容易い筈だから。 いやまあそれでもこれで相手がおっさんだったら躊躇わず迷わずすぐさまに110番に通報しただろうけれど、流石に女性を相手にそれは無い。 「お久しぶりだね、ハイテンション先輩改め黄桜先輩。しかし其れはさて置き下の名前で呼ぶなんて随分気安いんじゃないかな。ボクと先輩は何時からそんな関係になったん……、ごめんなんでもないから力強めないで」 無言のままに強まった圧力に外の手がぷるぷると震えた。 夕陽は少しずつ山の向こうへと沈んで行く。感傷に浸ろうと、ふざけて誤魔化そうと、時はゆっくりと迫り来る。 「外たんはこういうお話、好き?」 薄明るい空に、それでも見え始めた星の下、『ピンクの害獣』ウーニャ・タランテラ(BNE000010)に問う。 花火大会会場への誘導看板の設置、つまりはエリューションの進行ルートからの一般人の排除作業を終えて来たばかりのウーニャを、外は手を小さく振って出迎える。 「真逆」 けれどその問いに対する答えは、酷く声が冷えていた。 興味深く思わぬ訳では無い。綺麗な話だとも思う。 だが余りに縁遠くて、実感どころか想像すら及ばぬ其れは、 「甘過ぎて反吐の出そうな話だね」 素直に好きだと言うには眩しすぎる。 革醒現象の齎したイミテーションの輝きに過ぎなくとも、指の間から零れ落ちた光は余りにも。 ● ドンドンと、空に花火の音が響き始める。 暗い墓場で抱き合う人ならざる母と子を、空に咲く花が照らし出す。 その光景にポタリと、涙が一つ零れ落ちた。 眼前の光景に意味は無い。彼女達が何処まで行っても滅ぼさねばならぬ世界にとっての害悪である事に変わりは無く、其処に何がしかの救いを求めても其れは幻想の様に儚いだろう。 例え誰かと重ね合せて見た所で、その誰かに届きやしない。 頬を濡らした『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)の肩に、不意に置かれたのは『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)のとても大きな暖かな手。 けれどその暖かささえもが何故か辛くて、雷音は首を横に振る。 「人はね、……死ぬんだよ」 快の言葉に、雷音の体がビクリと震えた。 「なあ、雷音ちゃん。俺は君のことを優しい良い子だと知ってる。けれど今の君は自分でも気づかない内に、とても自分勝手になってる」 「女の夢から生まれた宝玉の姫が魂の母と再会する。……まるで絵本のような物語」 吐息の様に小さく、『K2』小雪・綺沙羅(BNE003284)が呟いた。 元は物、それもイミテーションに過ぎぬ其れに命を吹き込んだのは人の技か、それとも業か。 綺沙羅はそれを羨ましいと感じる。夢見がちだったその女は、己の夢だけで命を産んだのだから。 母と子の再会、人外達の放つ喜びは空に咲く花火よりも美しい。 けれど優しい時間にも終わりが来る。彼女達は所詮人外で、優しさよりも殺戮に喜び狂うエリューションとしての本能は何時か必ず目を覚ます。 雷音と快の話の続きを待たず、抱擁を終えた母子の姿に、綺沙羅は両手を開き周囲の空間を切り離す。 築き上げられるは特殊空間。とある魔女がアークに齎した固有領域を作り上げる秘儀、陣地作成。 「全く持って、因果なもんだな」 二五式・改、散弾銃をガシャリと鳴らし、烏は夜空に溜息を吐く。 ● 例えどんな想いを抱いていても、成すべき事を成さねばならない。 どんなに辛かろうとも、どんなに襲い来る運命が理不尽であろうとも、リベリスタであるならば、世界を守らねばならない。 「子よ、母の胸はさぞや愛くるしかったでしょう。おっぱいとか落ち着くよね! ね! 外くん!」 お、おう。 魅零の物言いに、リベリスタ達の唇に苦笑いが浮かぶ。 ああそうだ。片付けねばならない。終らせなければならない。 感傷は胸に秘めろ。歯を食い縛っても良い、笑って受け流しても良い、やり方は何でも良い。 力を奮え! 想いの丈を飲み下して符を構えた雷音に、快が頷く。 嗚呼、思えばこの中断は丁度良い。雷音が抱えた懊悩は、快が投げかけたその言葉は、間を置かずして受け止めるには些か重すぎたのだから。 「武器を手にする、その意味は」 額のビンディに手にした力を秘めしカード、FOOL the Jokerの先端を当てて呟くウーニャ。 己の意思で、武器を手にして、目指す所は唯一つ。 「反射に状態異常無効、ついでにチャージと来たもんだ」 未だ自分からは動かぬ宝石の姫をエネミースキャンで調べ取り、彼女がフェーズの進行によって得た能力を仲間に晒す烏。 告げる口調は飄々とした物だが、その内容たるやとんでもない代物である。 流石にフェーズの進行による強化は洒落にならぬが、だがそれも判って、覚悟の上で選んだ道だ。 再会を見届け、終らすと決めた。今更怯む事等あろうものか。 振り翳した快の手に、リベリスタ達の体にラグナロク、神々の黄昏の大戦すら戦い抜く勇気を与える、加護の力が湧き上がる。 そして雷音の手から放たれるは式符・千兇。幾重にも分身した符は千を超える兇となり、鳥を模り敵を啄ばむ。 リベリスタ達がまず狙うのは、生まれたばかりのエリューションである母、夢見がちな女の魂。 「心配しないで、この子も後でいくから」 更にはウーニャの放つ道化のカード、ライアークラウンが半透明の女の体を抉り取る。 其れは子殺しの予告。けれど何故だろう。篭められた感情は余りに暖かい。 母への攻撃に、ジルコニアの姫が怒り狂い光を放つ。だがその光が飲み込むは、作り出されたイミテーション、外の符が生み出したデコイである影人だ。 雷音からの指示内容は、エリューションのフェーズ進行により無意味とされた。手を余らせるくらいならばと生み出された即席の壁だが、それでも一手を凌ぐ程度には使えるのだから。 綺沙羅の放った鴉に打たれ、母の姿が薄れ行く。 声を発せぬジルコニアの嘆きは、光となってリベリスタ達を撃つ。 だがリベリスタ達は誰も怯みはしない。 母が傷付き、倒された痛みはきっとこんな物では無い筈だ。それだけの痛みを与えたのだから、怯むなんて事が許されよう筈が無い。 烏の幾度か目の銃撃、ジルコニアの同じ面を、同じ角度から撃ち続けた其れは、彼女の体に確実に罅を刻んだ。 リベリスタ達の攻撃は、嗚呼、激しさを増す。 「キサはあんたの誕生を祝福する」 だがその攻撃に篭る気持ちは、……いっそ愛と呼ぶのが近しい。 異性の愛ではなく、子への愛。 「さあ、母親を追っていけ」 綺沙羅の放った鴉の嘴が、罅だらけのジルコニアを砕き行く。 最後の足掻きとばかりに放たれた光を避けずに受け止め、身を焼く痛みに塗れて魅零は語る。 ジルコニア、よくお聞き 貴方はそうね、本当にダイヤなのでしょう 偽物じゃない、本物の ダイヤの石言葉を知ってるかな? 永遠の絆、だよ きっと貴方はそれを全うするのでしょう 行くべき場所へ、逝きなさい 永遠の絆のために 夜泣きの子供をあやすかのように。 「ばいばい。ママに会えてよかったね」 力を失って死に行くジルコニアに優しく触れて、ウーニャはぽつりと呟く。 輝きを失う宝石は余りに物悲しいが、だがそれでも祝福してあげるべきなのだ。 「これからはずっと一緒ね」 大好きなあの人と、ずっと。 ● 解除された空間に、そして突如大きな音が響く。 花火のクライマックスが近付きつつあるのだ。 夜空からの明かりに照らされた墓場。花火の音が止んでしまえば余りに静かなその場所は、綺沙羅の陣地作成によって一切荒らされる事無くあるべき姿を保っている。 ウーニャが地面より拾い上げたのは、一つの指輪。中央の宝石が罅割れてしまった、ジルコニアのお姫様の残骸。 彼女はそれを一つの墓に収め、振り返る。 「じゃ、花火見て帰ろっか」 ウーニャの笑顔が事件の終りを皆に告げた。 戦いの緊張から解放されて、張り詰めた神経が切れてしまって、雷音が快の胸で泣き崩れる。 彼女が今抱える懊悩を知る者達は、或いはそうなるであろう事を予測していたけれど、かける言葉も無く、さりとて去れず、唇を噛む。 彼女の抱えた懊悩は、何れ己達の身にも降りかかるかも知れぬ。だが決してその時にならねば共有など出来ない。 だからその沈黙を打ち破ったのは強さであったろう。 「外くん、花火見ない?」 外の袖を引き、問うは魅零。無論花火は此処からでも見える。 けれど魅零が言うのはそういうことではない。 外は僅かに迷う様にちらりと視線を送り、目の合った快が僅かに頷く。 そう、この場にいても雷音に対してしてやれる事は無い。共有できぬ想いを、聞いてしまうべきでもないのだろう。 「死者の慰霊と悪霊退散とも言われた花火が送ってくれると良いが、せめて最後の最後ぐらいはな」 其れは果たして誰に向けた言葉だろうか? 咥えたタバコに火をつけた烏が、長いコンパスをさっさと動かし去って行く。 まるで促す様に。 だから、 「そうだね。うん、行こうか先輩」 外は唇を緩めて、笑顔を見せた。 「ボクは死ぬことが怖い。誰かが死んでしまうのが怖いのだ」 皆が去り、遠くの花火の音だけが残るこの場所で、漸くぽつりと雷音が溢す。 背中に回された快の腕が、雷音を強く抱き締めた。 まるで儚げに消えてしまいそうな彼女を強く繋ぎ止めんとするが如く。 「俺も、夏栖斗も、そして君だって。譬え自分の命を賭しても皆を助けたいと思ったことがあるはずだ。偶然、まだ自分に順番が回ってきていないだけで」 そしてその為の手段は多分に運命に愛されたリベリスタならば其処にある。手を伸ばせば届いてしまうかも知れない、命を対価に願えば叶うかも知れない、フェイトの起こす小さな奇跡、歪曲運命黙示録が。 常に死と隣り合わせのリベリスタ達だから、仲間の命を救う為に、自らの命を投げ棄ててでも起こせる奇跡は、時にとても魅力的に映る。 「もし『順番』が来た時、君は守った人に何を思う? 自分の死で悲嘆にくれる毎日を生きる事を臨む?」 その問いはとても残酷で茶番染みている。答えなんて判っている癖に。 正しいであろう態度、答えは頭では判ってる。ただ納得出来ないのは心なのだ。 「悲しんで生きることを望んでないのは分っているっ! だけどボクが……」 その通りに死んでいれば、身代わりになったあの人は生きていた。兄は恋人を失わなかった。 言って返る事じゃない。言って良い事でもない。口には出さずとも、胸に刺さった棘は抜けない。 ● 「たーまやー」 「かーぎやー」 ウーニャと魅零、ノリの良い二人の声が夜空に響く。 ちなみに玉屋と鍵屋は江戸時代の花火屋の屋号であり、玉屋は鍵屋から独立した弟子だったそうな。 墓場よりも見晴らしの良い場を求めて歩くリベリスタ達。 夏の夜の匂いは独特だ。 外はふと、この場に浴衣が無い事を残念に思う。いやどうせ自分は着ないけれど、ウーニャや魅零、そして綺沙羅達が浴衣を着ていたならば、この場の雰囲気も随分と変わっただろう。 烏の浴衣姿は怪しすぎて想像できないが、嗚呼、そもそも浴衣で戦う訳にもいかないか。 とりとめない思考を咎める様に、己を見ろと叱る様に、一際大きな音と共に夜空に大輪の花が咲く。 花火の命は一瞬だ。咲いた次の瞬間には散らねばならない。 けれどだからこそその様は、より深く人に感銘を与えるのだろう。 空の花火に瞳を細め、綺沙羅は密かに願い、誓う。 自分もいつかは作りたい。作ってみせる。 あのジルコニアや花火の様に、生まれてきてくれてありがとうと、そう言える素敵な何かを。 抱き締めたままに時は過ぎる。 彼女が落ち着くまで、ずっと、ずっと。 快の腕の中で、雷音の体の震えは、少しずつ小さくなっていく。 「ねえ」 充分に待って、快は小さく呼びかける。両腕で簡単に包めてしまう儚い少女に。 「こじりさんの最後の願いも、聞き届けてあげようよ」 腕の中の親友の妹は、彼の言葉にほんの僅かに頷いた。 けれど動き出すには時間が掛かる。簡単に割り切れよう筈がない。 花火はとうの昔に終ってしまった。それでも唯只管に、抱き締めたままじっと待つ。 涙を拭い、笑顔を向けてくれるその時を。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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