●永遠のエデンの園 「神よ、お許しください。私は誓いを破って恋をしてしまいました」 敬虔なシスター・アリアが懺悔室で胸の内を開ける。美しい少女の閉じた目にはうっすらと熱いものが込みあげていた。傍らで同じように彼女の親友のシスターたちが祈る。 恋の相手は毎週教会に通ってくる青年だった。無邪気に子供たちと遊ぶ姿や大柄な割に威張ったところはなくて誠実な人柄にいつしか心奪われてしまった。 二人はついに結ばれた。それが神への冒涜になることはわかっていた。それでもマリアは自分の想いに嘘をつくことができなかった。 村の外れにある教会には3人のシスターたちしか住んでいない。彼女達は幼い頃に孤児としてこの教会に預けられた少女たちだった。 そこには年老いた神父がいた。優しくて面倒見の良い神父で、長い間ずっと1人でマリアたちを育て上げてきた。神に身も心も捧げた立派な修道女にするために。 「恋をするなんて絶対に許されない。神の罰があたるぞ」 神父はマリアを叱った。それでも彼女の恋心を抑えることができなかった。マリアはいつしか神への信仰を失ってついに育ての親である神父の命を奪った。 「ごめんなさい。もう後戻りはできない。私は信仰を捨てた破戒のシスターとしてこれからもあの人と一緒にいたい。だから邪魔する者は誰であろうと容赦しない」 彼女の親友たちも心を決めた。親友のシスターたちにもひそかにみんな恋心を抱いている男がいた。彼女の気持ちはよくわかった。神父がいない今となって頼りに出来るのは心の中を知り尽くした親友たちだけだった。 「エデンの園を作り上げる。誰にも邪魔をされない箱舟に乗って、永遠の世界で愛する人たちとともに生きる。神なき世界へ旅立つことに祝福のあらんことを――」 ●神への冒涜者 「村外れの教会にノーフェイスのシスターたちが現れた。彼女達はミサで集まった青年たちを人質にして立て篭もっている。はやく彼女達の暴挙を止めてきてくれ」 『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)が手短に説明した。一刻を争う状況に話を聞いていたリベリスタたちも唾を飲み込む。 少女のシスターたちは恋をして神を裏切ったことをきっかけにノーフェイスに墜ちてしまった。神への冒涜者になったシスターたちは自分たちの育ての親である神父を図らずもその力で殺してしまった。 殺すつもりのなかった彼女達は深く嘆き悲しんだ。すでに人を殺めた罪を背負ったシスターたちは覚悟を決めた。こうなってしまってはこの世界でまともに生きられない。 バリケードの作られた教会にはすでにE・アンデッドになってしまった神父や他の信者たちが周りを固めている。状況はすでに険しくなっていた。 「誰かの手に取られるくらいならいっそ自分の手で――シスターたちは万が一の時には人質の青年達を殺害する。人質の無事を確保するためには、説得を行う必要があるが必要以上に彼女達を刺激しないように気を付けなければならない。罪なき青年達をなんとか救ってきて哀れな修道女たちに最期の慈悲を施してきてくれ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:凸一 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2013年07月17日(水)22:38 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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●踏み潰された十字架 教会の前には信者と神父たちが徘徊していた。精気のない青ざめた表情をしているが、目つきは鋭く尖っている。リベリスタがやってくるとすぐに襲い掛かってきた。 「やれやれ。神を冒涜、か。宗教は自らが幸せになるために信じるものなのかと思っていたがね。まァ、悪く思うな。これも運命だった、とまでは言わないがこうなってしまった以上は仕方がない……そうだろ?」 『アッシュトゥアッシュ』グレイ・アリア・ディアルト(BNE004441)が狙いを引き付けてシュバルツリヒトを撃ち込んだ。その隙に『さぽーたーみならい』テテロ ミミミルノ(BNE004222)が翼の加護で全員をサポートする。 魔陣を展開させた『尽きせぬ祈り』シュスタイナ・ショーゼット(BNE001683)もフレアバーストで一気に敵を焼き払いにかかった。 信者たちは悲鳴をあげて散り散りになった。逃げようとする敵に向かって『輝く蜜色の毛並』虎 牙緑(BNE002333)が前に立ちはだかる。 「ここの神様の教えでは、自殺者は地獄に落ちるんじゃなかったっけ。ひとり殺してるから、どっちにしても地獄行きか。お前たちもそう思うだろ」 不敵な笑みを浮かべた牙緑に信者は恐怖を覚えた。その直後にアッパーユアハートを無残に食らう。信者は怒りを食らって混乱した。 「貴方たちに罪はありませんが、こうなった以上は仕方ありませんね」 『子煩悩パパ』高木・京一(BNE003179)が作り出した不吉な影が信者を襲った。絶叫が辺りに木魂してその場に彼らは崩れ落ちた。 「信者たちに何たる冒涜! 許しません」 神父は十字架を取り出して雷撃で反撃する。『アカイエカ』鰻川 萵苣(BNE004539)と『落ち零れ』赤禰 諭(BNE004571)が狙われた。 「そうはさせません!」 『鋼鉄の戦巫女』村上 真琴(BNE002654)が間に入って二人を庇った。攻撃を受けてダメージを食らってしまう。だがすぐに萵苣が回復を施す。 「あんたらの敵はこっちら、がおー!」 『ましゅまろぽっぷこーん』殖 ぐるぐ(BNE004311)が神父の前に躍り出てきて威嚇する。それを見た神父がすぐに雷撃を放ってきた。 ハイスピードに乗って攻撃を交す。すんでの所で敵の攻撃を避けたぐるぐは、敵の横から目にも止まらぬ速さで迫った。 「ぐふふふああああっ!!」 一瞬にして斬られた神父は十字架を放りだした。そこへディーゼルエンジンの爆音とともに『ヴリルの魔導師』レオポルト・フォン・ミュンヒハウゼン(BNE004096)の乗ったゲレンデヴァーゲンがなだれ込んでくる。 十字架を踏みつぶして敵を跳ね飛ばした車は教会の入り口で止まった。助手席の扉からレオポルトが転がり出る。すぐに身体を起こして敵に拳を向けた。 「この度の愚行は神の御許しも御座いますまい。僭越ながら私が神に代わって慈悲というものを施して差し上げましょうぞ!!」 レオポルトは拳から魔炎を召喚させて残った敵とバリケードを焼き払った。絶叫しながら炎に包まれた敵は次々にその場に崩れ落ちた。 「レオポルトさん、いいところに来てくれました。さあ、脳味噌お花畑の幸せなシスターたちに会いにいきましょうか」 教会の扉をたたき壊しながら諭は言った。侵入するとすぐに影人を出してリベリスタ達の前を警戒させた。さらにファミリヤーで近くにいたネズミを支配する。こっそりと地下室のほうへ先行させた。 ●神の粛清 「あなたたち私たちを邪魔しにきたのね? でも、もう手遅れよ」 薔薇の刺の鞭を持ったアンナはうっとりした表情を浮かべていた。すでに正気の沙汰ではない。伸縮自在の鞭を伸ばして踊りかかってくる。 天井を飛翔していたガブリエルとミカエルに命令した。空から急降下して火炎放射と氷流をまとめて吐き出してくる。 レオポルトが焔に捲かれて後退した。側にいたグレイも氷流を浴びて身動きが取れなくなる。そこを狙ってアンナが鞭で二人を同時に縛り付けてくる。 「こしゃくな。ぐぬぬぬぬぬぬっ!!」 首元を強烈に締めつけられて息が苦しくなる。次第に身体から力が抜けて行くような錯覚を覚えた。このままでは窒息死させられてしまう。 「あきらめないで! がんばってください!」 テテロがなんとか助けに行こうとするが、上からガブリエルがそうはさせまいとい火炎放射を放とうとする。ぐるぐはテテロが攻撃に晒されるよりも早く動いた。 「ギヒ! それ(アンナ)やっといてよ!」 ぐるぐはガブリエルに向かって飛びかかる。相手も火炎放射を放って威嚇攻撃するが、ぐるぐは縦横無尽に飛び回って的を絞らせない。 ついに敵の背後をついた。上から回転をつけて――叩き斬った。 「ぐあああああああ」 ガブリエルは首を切り落とされた。ぐるぐは、ついでに石翼を叩き斬ってそれを懺悔室の扉に突き刺した。 「神を信じぬ無神論者が死後の世界を語ることに違和感を感じないのですか? 愛した男に毒を呷らせ、自分への人身御供にでもされるおつもりか!」 レオポルトは苦しみながら叫んだ。 その時だった。諭が影人で分身を増やし、アンナに向かって重火器で一斉に攻撃を放った。あらぬ方向からの突然の攻撃にアンナはダメージを食らう。 「次はお前ら!」 ガブリエルを倒したぐるぐは、今度は目にも止まらぬ速さでアンナに襲いかかった。高速で剣を操ってめった斬りにする。アンナは堪らず胸を抑えてその場にうずくまった。出血がひどくなって咳き込んだ。 ようやくレオポルトとグレイが鞭の攻撃から逃れることができた。だが、すぐにミカエルのほうがグレイに再び襲い掛かってくる。 グレイは反転して遠くからペインキラーで反撃した。ミカエルはまっすぐ突っ込んできていたせいで攻撃を回避することができない。 「悪いな。……オレに痛みはないが、まァ、オレの分のダメージまで受けろよ。しかし、人を守るであろう天使がね。こうやって人と相対する。……皮肉なもんだ。それとも信者以外は全て粛清の対象などと言うつもりか。だとすれば、……こうなるのは当然だったのかもしれないな」 ミカエルは地面に激突して破壊された。グレイはそんなミカエルの無残な姿を見て吐き捨てて言った。 「よくもやってくれたわね。邪魔しないで、って言ってるでしょ!」 アンナは歯をむき出しにしてレオポルトに迫った。 「レオポルトさん、今です!!」 諭の声にレオポルトが大きく頷いた。オープンフィンガーグローブの拳をアンナに向かって突きつけると腰を引いて一気に重心を低くする。 「我が血を触媒と以って神の静粛と成さん……我紡ぎしは秘匿の粋、黒き血流に因る葬送曲!!」 暗黒の濁流がアンナに襲い掛かる。一気に呑みこまれたアンナは苦しさのあまり辺りに絶叫を撒き散らした。レオポルトはそれでも攻撃の手を緩めない。 「ぎゃああああああああああ――――」 アンナは苦しみながら最後の雄叫びをあげて散った。 ●我がままで身勝手な恋 「馬鹿みたい。神様なんている訳ないじゃない。……でも。信仰心とか、それを破ってまで見つけた欲しいものに対する気持ちとか。そういうのまで否定はしないわ。心なんて、コントロールできるものじゃないでしょ?」 シュスカが懺悔室でクリスと対峙する。それを庇うように前に真琴が立ちはだかっていた。後ろの講堂ではまだ戦いの最中だ。そちらへの注意も当然怠らない。 「さあ、そこをどきなさい。さもないと貴方たちを倒すことになる」 真琴は拳を構えてクリスに迫った。相手が攻撃をしてくればいつでも反撃にでる用意はできていた。 「そんなことあんた達にできるの? だったらやってみなさいよ!!」 クリスは焔を拳に纏わせていきなりシュスカにむかって殴りかかった。真琴がその前でブロックして攻撃を受け止める。 だが、クリスも立て続けに蹴りで鳩尾を狙ってきた。これには真琴も顔をしかめる。その隙にシュスカはマジックミサイルでクリスを撃った。血を吐いて懺悔室の隅に倒れ込んだクリスにシュスカは歩み寄る。 「……ねぇ。人を好きになるのって素敵よね。そして同時に恐ろしいわよね。自分が自分じゃないものに変わっていくの。時に周囲を巻き込んで。今の貴方達がそうよね? 信仰心と自分の心との間で揺れて、結果こうなってしまった。それを責めるつもりは殊更ないわ」 シュスカはクリスに向かって声をかけた。後ろからやってきた萵苣や京一、牙緑がその隙に地下室への階段を降りて行く。 地下室には二丁拳銃のトリガーハッピーと人質の三人が転がされていた。やってきたリベリスタを見たマリアが銃口を青年に向かって突きつける。 「それ以上、動くと撃つわ」 マリアの目は真剣だった。本当に動くと容赦なく撃つつもりだろう。もちろんそうなれば人質の命は救えずに任務は失敗してしまう。 「毒は無意味です。このまま死なせたらエデンの園どころか二度と会えません。死体は笑わないし、声も聞けない。彼等は死んだら神の居る世界へ逝く事でしょう。ただ少女に恋をしただけの罪無きただ優しい青年なのですから。貴女達のところに残るのはただの死体です。たんぱく質の塊です。腐るし臭うし、見れば見るほどただ辛くなるだけです。一緒に居たい? 居られると思っているのですか?」 萵苣は相手の目を見ながら出方を伺った。相手は交渉に優れている。こちらが隙を見せれば相手に付け込まれる。けっして油断はできない。 「ずっと一緒に居るわ。たんぱく質の塊でも私の愛した人に変わりない。それにもし彼が誰かに取られるくらいなら彼を殺して私も死ぬ」 「じゃあ貴女達はどうです? 神の意思に背いて恋をし、父である神父を殺し、更に愛した人まで殺そうとしている。神はお許しになるでしょうか? これほどまでに自分勝手なシスター達を。死後の世界でも一緒になるとは思えない」 萵苣の言葉にマリアは歯ぎしりした。銃を持った手が小刻みに震えている。シスターたちはまだ心のどこかでまだ神の存在を信じているようだった。 神父を図らずも殺してしまったことで後戻りができなくなっている。もしそうでなければ彼女達もこんな暴挙にでなかったはずだ。 「アンタたちだって普通の女の子だったんだから、恋愛して結婚してって言う普通の幸せな未来もあったはずなのにな。でも、アンタらはもうこの世界では生きていけない。恋人には一緒に逝く計画、話してあるのか?」 牙緑の言葉にマリアは返せなかった。無理やり毒を飲まして気絶させてしまったせいで彼らがどのように思っているか聞いていなかった。 「アンタたちは自分勝手な想いを恋人に向かってぶつけてるだけじゃないのか? だとしたらそれはエゴだ。恋と言えるもんじゃない。わがままで身勝手な自分の理想を押しつけて迷惑を与えているだけだ」 「うるさい、あんたなんかに何がわかるっていうの!」 マリアがついに人質の彼を盾に銃を突きつけた。 「恋することは誰にでもあること。ただ、貴女たちはこの人たちに愛されていると思いますか? 愛されていると思うなら助けてあげるべきですよ」 京一が堪らず口を挟む。その言葉にマリアが動揺した。その隙に京一が人質のほうに割り込んで入った。不意を突かれたマリアが慌ててマシンガンを向ける。 「きゃああっ!」 その時だった。マリアが悲鳴をあげる。指にネズミがガブリと噛みついていた。それは先ほど諭が先行させていたネズミだった。 「オレたちがアンタに引導を渡してやるから、先に行ってさ、恋人が天寿を全うして天国に行くのを待ってるのはどうだ? 「永遠」に比べたらきっと一瞬で再会できると思うけどな!」 牙緑がその隙にマシンガンを剣で薙ぎ払った。見事に命中して片方のマシンガンが手から離れていく。 それでもまだマリアは負けていなかった。牙緑がもう一方のマシンガンの銃撃を正面から浴びた。吹き飛ばされて地面に叩きつけられて血を吐いてしまう。 なんとか助け起こして萵苣が回復を施した。京一はその間に人質を部屋の隅にやってその前に立ちはだかった。仲間にAFで応援を要請する。もうこれ以上は間が持ちそうになかった。 ●運命の皮肉 シュスカは京一から連絡を受けてついに心を決めた。 目の前にいるクリスをまずこの手で倒す。真琴が魔落の鉄槌で反撃したところをすかさずシュスカが詰め寄った。 「ごめんなさいね、私は同情するわ。でもただそれだけよ。この世界に害をなすのなら貴方を倒さなければならない」 迫ってくるクリスに容赦なくマジックミサイルを叩きこむ。クリスが悲鳴をあげてその場に崩れ落ちた。 講堂で敵を倒したレオポルトたちがその横を通って地下室へ救助に向かう。京一はすでに人質に応急の回復を施していた。 レオポルトとグレイと諭が青年達を協力して担ぎあげる。諭は影人にも手伝わせながら一目散に安全な階上へと向かう。 「これで邪魔者はいなくなりましたね。これでようやく本気が出せます」 京一は呪印封縛でマリアを捉えにかかった。激しいマシンガンの攻撃に耐えながらなんとか敵を捕縛することに成功する。 「次はお前? もういっちょ行くらー」 応援にやってきたぐるぐが、喜んでマリアに斬りかかる。背中を切られて後退したところをすかさずシュスカと真琴が同時に狙い撃った。 前のめりに崩れたマリアは血を吐いて崩れ落ちる。そこに牙緑がデッドオアライブで背中から斬った。 「ぎゃああああ――」 絶叫が辺りに響き渡ってついにマリアは動かなくなくなった。 「もう大丈夫ですぞ。あとは我々に任せなさい」 人質を救出したレオポルトは急いで青年たちを車に乗せた。とりあえず青年の延命には成功した。あとは病院で本格的な治療を受けるだけだ。 リベリスタ達は激闘を戦って疲労していた。幸いなことに豊富な回復によって重大な損傷は逃れていたが激戦だった。 まだ教会の内部や周辺には敵の無残な姿が転がっている。 「箱舟に乗るつもりがその箱舟が邪魔をしに来たというのは運命の皮肉ですかね。そして世界の祝福を得られずノーフェイスと化した事も。つくづくこの世界というのは……」 京一は居たたまれずそう呟いた。運命というのは残酷だ。それでも自分にも愛するべき家族がいるのだ。この世界をこれからも守っていく。 京一は胸に手をやって目を閉じた。 敵味方なくみんながこの世界で幸せな笑顔を見せられるように。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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