● 指先だけ繋いだ手を離さない。 彼女の望むまま、ローカル電車を乗り継いで、こんな所まで来た。 けろけろと蛙が鳴く田んぼ道。 駅に付いたのは昼前だったけど、散々道に迷ってこんな時間になってしまった。 もうすぐ日も暮れる。 誰ともすれ違わない、ぞっとするほど赤い空。 あんまり遠くに来すぎて、日本のどこに今いるのか自分でもよくわからなくなってしまった。 すっかり汗をかいて、ぬるくなっている最後のペットボトルを差し出しても、彼女は首を横に振るだけだ。 (大丈夫。不要。あなたには必要です。できればもう一本購入することをお勧めする) 汗一つかかず、口も開けない彼女の考えが瞬時に分かる。 やっぱり、普通の人じゃないんだ。 長い髪、大きく見張られた目は瞬きしない。 白いTシャツとチェックのシャツ、ジーンズは僕のだ。 足元は、お母さんのママさんサンダル。 (お母さんごめんなさい、三枚千円の買い置きのパンツ、開けてないのもらいました。だって、僕のはかせる訳に行かないしっ) 昨日の真夜中、ベランダに現れたすっぱだかの闖入者。 テンプレラノベすぎて、妄想乙って感じだ。 とにかく何か着せなきゃとひっくり返したたんすの中身は、僕の部屋で山のまま放置されている。 片付ける間もなく、部屋に飛び込んできた連中から逃げるために。 (私の存在は、この世界にとって害。おそらく、彼らは私の存在を抹消するために現れた。この世界にとって正しい行為。あなたは彼らに協力するべきです) 抹消って殺すってことだろっ!? 聞こえてくる声は落ち着いて聞こえたけど、ひどくおびえているのがよくわかる。 (最終的に、この世界の物として再構築された私の生命活動を停止させるという行為なら同意です。その後、私の存在要素を再構築させることが出来るかは未知数) それはいやだって思ってるじゃないかよ。 どうにかならないのかよ。 (私の本来所属する世界との次元接点確認。そこからこの世界から離脱すれば、彼らの襲撃目的に近い結果に到達できると推察します) それでいこう。 彼女をそこから帰す。 そして、僕らは現在に至る。 ● 「このあとすぐ、とあるリベリスタ集団が、『彼』と『彼女』に介入する」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、相変わらずの無表情でリベリスタを迎えた。 「その集団、通称「彼ら』。アザーバイド専門」 モニターに、黒スーツにサングラスの三人組が映し出される。 このクールビスなご時勢に、悪目立ちこの上ない。 「発見したら即襲撃って訳でもない。送還出来るものは送還するんだけど、やけに時間に几帳面で、発見から24時間以内に事態を収束させないと世界が崩壊すると妄信している点が玉に瑕。一般人に極力危害を加えないのでその点は安心できる」 ただ、とイヴは付け加えた。 「田んぼの真ん中で、彼女が発見されてから23時間30分を経過している。それまで監視していた『彼ら』も痺れを切らせたという訳」 介入すると決めたからには、『彼ら』も本気だ。と、彼らは言う。 「……この直後、圧倒的な敵意に反応した彼女が暴走し、周囲に大被害。もちろんマスコミ大挙で取材合戦。神秘は秘匿されるべき」 『この平和な農村で、なにが起こったと言うのでしょうか』とマイク片手にカメラに問いかけるリポーター×番組数。 ありえない。 「『彼ら』が『うまく』やれば、『彼女』だけが排除され、『彼』は無事におうちに帰れる。そして、一人のフィクサードが誕生する。アザーバイドをかくまうことに特化し、今度は注意深く隠蔽する」 イヴは、首を横に振った。 「それは、アークにとって『うまくない』。それで生じる崩界の危険性は、無視できない」 モニターに映し出される映像。どこかの駅の監視カメラ。並べて、写真入学生証。 どこにでもいそうな、人のよさそうな男子中学生。道を聞くにはちょうどよさそうだ。 「彼の存在は奇跡。彼はまだ気づいていないけど。彼女のテレパス能力は受信専門。アザーバイドとの接触により、彼は他次元存在とのコミュニケーションに特化する方向で革醒を果たした。そうしなければ、彼はおそらく恐慌状態になった彼女に殺されていた。生命保全のため、的確な現象とも言える」 スカウトしたいと、イヴはまじまじと資料を見ている。 「このアザーバイド『彼女』、非常に臆病。ある一定のレベルを超えて動揺すると、自分の周囲を爆発させる。自分も含めて。識別名『自爆娘』にしようかと思ったんだけど」 止められた。と、イヴは若干不本意な様子。 「今回は送還。彼女にはD・ホールから速やかにお帰りいただく。彼女の情緒安定のため、ぜひとも彼には極力自力でやり遂げて欲しい」 第三者の介入は、彼女を少なからず動揺させるだろう。と、イヴは言う。 「今回の逃避行を秘密裏にサポートして欲しいの。今から行けば、彼らが列車から降りてきた時点に到着できる。推奨行動としては、さりげなく『彼』と『彼女』を護衛、さりげなく『彼ら』の足止め。D・ホールへさりげなく誘導」 ちなみに、D・ホールはここ。と、イヴはモニターに赤い点を表示させた。 襲撃予定地点から目と鼻の先だ。 「ここは、川の土手に当たる。だから、最悪、『彼ら』に襲撃されたところに介入して、『彼』と『彼女』を連れてD・ホールまでダッシュっていうのもあり」 でも、それは最後から二番目の手段と、イヴは言う。 「『彼女』の混乱、不安は頂点に達する。あなた達も巻き込まれる可能性がある。土手が壊れるのは非常にまずい」 やっぱりか。 「戦闘はなるべく回避して欲しいけれど、それでも不殺の方向で」 あくまで、最後の手段。と、イヴは念を押す。 「他の組織とのいざこざは避けたい。彼らを傷つけないで。彼らに傷つけさせないで。彼らに傷つけられないで」 とても難しいけれど。そう言って、イヴはわずかに笑んだ。 「夏の田舎の思い出は、とにかくきれいであるべきでしょ?」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田奈アガサ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2011年07月14日(木)22:11 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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● 電車を降りたら、タクシーを拾えばいいと思っていた僕の思惑は外れた。 タクシー乗り場がそもそもない。 バスが出てるのは分かったけど、そのバス停がどこだかさっぱりだ。 改札から、ばらばらの制服を着た女の子達。 年齢もばらばらだ。 僕の目の前を、右と左の目の色が違う子と髪が紫の子と、腰から羽根が生えた子が小走りで通り過ぎて行く。 こないだテレビで町おこしでそういうかっこしたりするトコがあるとか言ってたな。それかな。 誰も気にしてないし。 「うわあー遅刻しちゃうわ!」 羽根がある女の子が、あわあわと走って行く。 「お兄ちゃん達もバス停行くの? 急がないと間に合わないよ? よければついて来て!」 目の色が違う子が、足踏みしながら僕に声をかける。 「あなた達見ない顔だけど。もし急ぐなら」 紫の髪の高校生くらいの人が言う。 なんだろう、このおせっかいなおばちゃん状態。 「でも」 「これ逃したら、次来るの、何時間先だと思ってんの?」 ここでバスに乗れなかったら、一巻の終わり的差し迫った雰囲気。 僕の返事を待たずに、変な格好の女の子達は走り出した。 僕は、指をきゅっと握る彼女の手を引いた。 「行こう。バスには乗らなきゃいけない。逃したら大変みたいだし」 まだ、追いかけられてないとは限らない。 辺りを見回す。 それっぽい人は見えない。 さっきの女の子たちがどんどん離れて行く。 見えなくならないように、後を追いかけることにした。 ● 『山田さんはさっき。あひるちゃんは田んぼのおばあちゃんちへ。ボクは、みんなが降りた後に』 紫の髪『残念な』山田・珍粘(BNE002078)、目の色が違う『ごくふつうのオトコノコ』クロリス・フーベルタ(BNE002092)、 腰から羽根が生えてる『みにくいあひるのこ』翡翠 あひる(BNE002166)の偽女学生三人組は、時間差支援行動の真っ最中。 髪を直す振りをして、手鏡片手にあひるが背後を確認しているうちに、クロリスは短い文面を打ち込むと、仲間全員に送信した。 (わざとらしいとか、いっちゃダメ) (大丈夫。向こうもこっちを気にしてないよ) 小声で言葉を交わした。 人に見られても不自然ではないメール。 これが、第一段階終了の合図とは、最後部にちょこんと座っている「彼」と「彼女」も気がつくまい。 窓の外に目をやれば、自転車で全力疾走していく山田……もとい、なゆなゆの姿が見える。 なゆなゆはこれから更なる誘導工作に励む算段だ。 「彼女」の感情は、今のところ安定している。 「彼」と「彼女」のぎこちない感情の行き来が、クロリスに流れ込んでくる。 クロリスは、感情探査の網に彼女が気がつかないことに安堵した。 路肩に、黒塗りのセダン。 窓際に座っていたあひるが、手を振る人に気がついて、小さく手を振って立ち上がった。 「ここで降りちゃおっかな。田んぼの向こうのおばちゃんちによって行きたいしっ!」 こそっとクロリスに手渡される手鏡。 後部座席の二人はあひるの声に頷き合い、バスを降りる準備を始めた。 手鏡でそれを確認したクロリスは、あひるにゴーサインを出した。 ● バス通りの路肩に黒のセダン。 黒スーツ、黒ネクタイ、黒サングラスの三人組。 後部座席にはノートパソコンが置かれ、地図の上をなにやらピコピコ動いている。 こんこん。 窓ガラスを叩く相手に、パワーウィンドウが降りて行く。 「アナタハ~、カミヤホトケヲ~、シンジマスカ~?」 褐色の肌にスキンヘッドのお兄さん。 着慣れた様子の袈裟にサングラス。 手に数珠まではいいが、首から十字架で、ゆってることは宣教師くさい。 『てるてる坊主』焦燥院 フツ(BNE001054) 「……」 上がるパワーウィンドウ。 がしっとつかむフツ。 「オウ、アナタモ、カミヤホトケカライタダイタ、フシギナチカラヲオモチナノデスネ~?」 にっこり笑って、ギリギリと下におろす。 「なるほど。足止めか。アークも介入するのか」 パソコンを叩いていたエージェントCが呟いた。 「もっと変装に気を使うべきだ。焦燥院フツ。君は君が思っているより顔と名前が売れているんだよ。われわれのデータベースに乗る程度にはね」 ぐりんとフツに向けられるパソコンの画面。 フツがすっげーいい笑顔で写ってる写真。 それを見たフツは、十字架をはずして懐にしまった。 「なら、話は早い。じゃ、リベリスタらしく、足止め続行させてもらうぜ」 にゃ~ん。と、ボンネットにどこからともなく現れた巨大な猫が乗り、フロントガラスにばんざーいと腹をべったりと張り付ける。 続いて、ばんざーい、ばんざーいで、フロントガラス一面猫の腹で埋め尽くされた。 振り返れば、リアウィンドウも猫がべっとり張り付いている。 慌てふためくエージェントの車に排気ガスを吹きかけるようにバスが行く。 中に乗っている青い目の子と目があって、フツが手を振ったら、中の子もそっと手を振った。 ● 僕と彼女がバスを降りて、少し歩くと、Y字路があった。 どっちに行ったらいいんだろう。 (方向としては、真っ直ぐです) 残念。まっすぐには道はない。 「バス停はそっち……」 地図を持った女の人がうろうろしている。 「あっちは……行き止まりだからダメですね」 地図を見ながら、三叉路の一つを指差している。 「おばさんの家は田んぼを抜けた先だから」 女の人は指差した。 「こっち!」 と、ちょっと大きな声を出した。 ふっと顔を上げて、僕らと目があった。 女の人は、僕らににこっと笑って、すたすたと歩いていってしまった。 恥ずかしかったのかもしれない。携帯で電話を掛け始めた。 とにかく、僕らの行く道も分かった。 あの人の後を付いて行けばいい。 (そうですね) 「お疲れ様っ。もう少し行ったらわき道にそれてねっ」 『”使えない”覇界闘士』花凪 五月(BNE002622) が電話をかけた相手は『ヴァルプルギスの魔女』桐生 千歳(BNE000090)。 『トリレーテイア』彩歌・D・ヴェイル(BNE000877)が、この先で待機中だ。 「わかりました。自然に出来ていればいいのですけれど……良いですね……甘酸っぱい恋」 五月に千歳が応じる。 「終わりはいつも、別れが世界の真理。でも経過ってのは大切よ」 「是非、彼らにとって良い思い出となるよう任務を遂行させたいです。それでは、のちほど」 頷いて、五月は通話を切り、脇道にそれていった。 土手の上に、黒塗りのセダンが見えた。 ● 双眼鏡で「彼」と「彼女」を監視中なエージェントAに、エリス・トワイニング(BNE002382)がすたすたと近づいて、驚きの自然さでよろめき、ソフトクリームをなすりつける。 「すいません、うちの子が。ああ、スーツにこんなに……」 バックからハンカチを取り出して、エージェントAが何か言う前にスーツをがっちり掴んでトントンと叩き始める『サイバー団地妻』深町・由利子(BNE000103)、渾身の演技。というか、地? ブラウスの胸の開き加減を気にすることなく、しきりに子供の粗相をわびる団地妻をむげにできる男がいるだろうか。いやいない。 「仕事中なんで……」 「申し訳ないです。ほら、ちゃんと謝って」 「お母さん、もう……」 「しつけの問題です!」 「ごめんね……おじちゃん……でも夏に……その黒服は……暑くない?」 つまんなそうにあさっての方向を向いて言う少女の発言に、半径2メートルに吹き荒れる気まずさブリザード。 「なんてこというの、あなたは!」 百合子さん、スーツ握りしめたまま、お説教モード。 「ふふっ、可愛い人達。あ、いけない、自分のお仕事はしないと」 千歳は、物陰から『彼ら』を監視中。 「自分でぇす。『彼ら』は土手で『親子連れ』と遭遇中~。今のところは順調」 ● 白いワンピースに麦わら帽子。 髪の長い女の子がスケッチブックを持って、土手に座っていた。 土手の下には、自転車。 「あなた達、どこ行くの。そっちに行くと山に入っちゃうわよ」 草を滑るようにして、道まで降りてくる。 背は僕より低いけれど、どうやら年上の人みたいだ。 「えっと。このまま真っ直ぐ……?」 彼女が僕の後ろに隠れながら頷いた。 「……この辺、初めてね。じゃ、これ貸してあげる。乗れるでしょ?」 ずいっと自転車のハンドルを押し付けられた。 「え……」 「私、今日は日暮れまでここで絵を書いているから。自転車使わないの。自転車で往復できない距離歩いていく気? 日が暮れるわよ」 ちゃんと返してね。と、女の子は言う。 「かごにGPSも入ってる。この辺、私有地が多いから、行き止まりがいっぱいあるの」 山狩りはめんどくさいわ。と怖いことを言って、女の子はすたすた土手を上がっていった。 どうしよう。 (お借りしましょう) 大きく深呼吸しながら、彼女が言う。 (昨夜の人たちが来ないうちに。交通手段は正直助かります。行こうとしている道が行き止まりでないことを確かめられるだけでもずいぶん違う) かごのGPSを手にとって、彼女は少しいじって、すぐ頷いた。僕はそういうのはさっぱりだ。 (ちゃんと返してくださいね。私はいませんから、あなたが責任を持って) これを返すとき、彼女はいない。 当たり前のことなんだけど、なんだか妙にさびしくなった。 僕は荷台に彼女を横向きに乗せてから、自転車にまたがった。 (大丈夫。ちゃんとつかまってますから……) そっと、彼女の手が、僕の腰に回された。 ● 「彩歌様から伝言です。二人は自転車で移動中ですって。うふっ。青春ですね」 状況報告の千歳。 「自分は、一般の方にお手伝いいただいて、『彼ら』の足止めお願いしちゃってます」 千歳から少し離れた田んぼの真ん中に黒のセダン。 エージェントBが、あたふたと地元のおばあちゃんに対応中。 「我々は地上げ屋じゃありませんよ」 「みなそげなぐいうんでがすじろじろでんぱだみできもすけわりごだなんべんきだってうんねよけらいけらい!」 「なんて言ってんだ……」 「さあ……」 千歳の魔眼一発。 『あの車は、地上げ屋の車です』 おばあちゃん、えらい勢いで突進していった。 「うふっ、ありがと。おばあちゃん」 ● 電気工事の人に、そっちの道は私有地だって怒鳴られた。 お坊さんに、気をつけて行きなさいって励まされた。 田舎の人はあう人あう人みんな親切だ。 そして、彼女の「このまま、まっすぐ」は、終点を迎えた。 (ここです) うん。ここなんだろうな。 田んぼの真ん中に小さな丘。 木立の中の小さな祠の後ろ。 そこが、なんだか他のところとは決定的に違う気がした。 (私は、これで私が完全に私になれるところに帰れます) 彼女はニコニコ笑っている。 でも、彼女はとてもとても切ないのだ。 (読まないで。あなたはあなたが望めば私の精神防壁なんてあっというまに壊せるから。私の心を探ろうとしないで) 彼女は悲しくなって、僕に向かって首を横に振った。 ……何で、僕は彼女の考えてることが手に取るようにわかるんだ。 (私の心の扉はあなたに比べると狭すぎて、私の想いを取り出そうとしたら私は壊れてしまうから。扉を通るくらいしかあなたに読んでもらう事しか出来ない) 強い言葉は彼女を壊す。 僕は彼女を壊したくないから、ここまで来た。 だから、できるだけ遠回りに。彼女が壊れない柔らかい言葉で自分の気持ちを伝えなくちゃ。 もっと、国語の勉強しておけばよかった。 「僕は、この指を離すのがつらいよ」 (はい。私もつらいです) ● 鎮守の森の鳥居の前に一台の車が止まり、小さな騒ぎを起こしていた。 中から渾身の力でドアを開けようとする『彼ら』 意地でも開けさせないと、外から押さえつけている『アーク』 共に正義の味方だが、方向性の相違がこの騒ぎを生んでいた。 「どけ、アーク! 少年達がここに入ってからどれだけ時間がたったと思ってる。このままでは二十四時間たってしまう。この分水嶺は大きいんだ!」 「此処から先は、通さないんだから……っ!!」 あひるは、ぐいぐいドアを押し込む。 「動かないで! あの二人に何かするって言うなら、自分がお相手するわ! 絶対行かせないんだから!」 千歳が歯を食いしばる。 「相手はアザーバイドだぞ。われわれと精神構造が違うんだ。あの少年に何かあったらどうする!?」 「少し、ほんの少し待って。運命の加護でも、偶然送還が可能なことでもなく。彼が彼女を助けたいと思った事こそが一番の奇跡だと思うから」 彩歌は、必死にドアを押さえながら叫んだ。 ● (もういかなくちゃ) もうちょっとだけ。 そう考える僕に、彼女は苦笑して首を横に振った。 (だめ。あなた、日暮れまでに自転車返さなくちゃいけないんですよ? 帰り道、きっとあなた迷子になるから、早めに行かなくちゃ) 彼女は笑った。 (ちゃんとありがとうを言って下さいね。私の分まで) うん。 (絶対ですよ) うん。 (さよなら。あえて嬉しかった) さよなら。あえて嬉しかった。 ● 「今、一つの感情がこの世界から消えた」 ずっと感情探査をしていたクロリスが唐突に言った。 「『彼女』、行っちゃった。ボクたちが争う理由はもうないよ」 アークのリベリスタ達は、車のドアから手を離した。 複数の車の停止音に、一同が振り返る。 足早に近づいてくるアークの別動班。 「さて。今回は不幸な情報の行き違いがあったが、アークは諸君と敵対するつもりはない。この件の詳細なデータを渡す用意がある。アザーバイドはこの次元から排除されるべきだという考えは、アークも変わらない……」 今まで別動班に混じってデータ解析をしていたアザーバイド研究機関に所属する『ナイトビジョン』秋月・瞳(BNE001876)が、「彼ら」に今回のアークの対応の趣旨の説明を始める。 瞳と『彼ら』は、アザーバイド排除という観点で、どうやら馬が合うようだ。 この件の折衝は彼女に任せればうまくいくだろう。 手持ち無沙汰になったリベリスタ達は、鎮守の森を振り返る。 「彼、出てこないね……」 「もうちょっと待ってあげようよ。まだ日も暮れてないし」 せめて、頬の涙が乾くまで。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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