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三高平の一週間


 ――三高平市は、静岡県の東部にある。

 特務機関『アーク』が本部を置くこの街は、そこに所属するリベリスタ達の本拠地(ホーム)であり。
 同時に、世界の神秘に触れてしまった彼らが『何でもない日常』を過ごせる唯一の場所でもあった。

 革醒と同時に変わってしまった、目や髪の色も。
 獣の耳も、尖った犬歯も、機械の四肢も、空を翔ける翼も、長い耳も。
 幻視で隠したりせず、誰にも気兼ねなく『ありのままの姿』で歩くことが出来る。
 リベリスタ達のために作られた、リベリスタ達の街。

 今や神秘界隈でも有名になってしまった『アーク』のリベリスタだが、彼らとて常に戦いに明け暮れているわけではない。
 慌しい日々の合間に少しだけ、彼らの日常を覗いて見ることにしよう――。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:宮橋輝  
■難易度:VERY EASY ■ イベントシナリオ
■参加人数制限: なし ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年07月24日(水)22:30
 宮橋輝(みやはし・ひかる)と申します。

●概要
 ・7月の三高平市における『リベリスタの日常』を描くシナリオです。
 ・月曜日~日曜日までの1週間を描写しますが、具体的な日付の指定はできません。
  (「今日は誕生日だからケーキを食べます」といったプレイングはマスタリング対象になります)
 ・特定のシナリオに直接絡めた描写(「○曜日は~の依頼から帰って来た」等)もNGとします。
  (時間軸がややこしいことになるのを避けるため)
 ・曜日や時間の指定(「金曜日の午後にカフェに行く」等)はOKです。

●ロケーション&推奨行動
 三高平市のどこか。
 (ゲームマニュアルの“●三高平市と特務機関『アーク』”等が参考になると思います)

 よほど無茶な指定でない限り、どこで何をしても問題ありません。
 アーク本部をうろつくのも、恋人とデートを楽しむのも、友達と遊ぶのも自由です。
 自宅などでのんびりしても構いませんが、『参加PC以外のキャラクター(設定上の家族など)』に関しては描写できませんのでご注意下さい(ペット等は状況次第でOK)。

 ・プレイングは一場面に絞るのがお勧めです。
 ・状況によっては、プレイングの内容を見て他の参加者と場を共にさせる可能性があります。
  (足を運んだ公園で偶然同じベンチに座る、等)
  空気を読む努力はしますが、他の人と会うのはちょっと……という場合は【絡み×】とご記載下さい。

【禁止行為】
 ・未成年(実年齢)の飲酒・喫煙。
 ・公序良俗に反する行い、あるいは他の方に対する迷惑行為。

●描写人数
 可能な限り全員を描写します。
 (白紙プレイング、上記の禁止行為については描写致しかねます。
  シナリオ概要から著しく外れたプレイングも同様です)

●NPC
 奥地 数史(nBNE000224)、フェルテン・レーヴェレンツ (nBNE000264)の2名がいます。
 日中はアーク本部にいることが多いですが、休日は街中をうろうろしているかもしれません。

 面識の有無に関わらず何らかの反応は返しますので、話し相手が欲しい方などはお気軽にどうぞ。
 お誘いも歓迎ですが、曜日や時間の指定はあまり厳密にしないで頂けると助かります。

 また、過去に宮橋のシナリオに登場したNPC(現在において敵勢力に所属するフィクサードは除く)も、ご希望があれば可能な限り対応します。

 ※お声掛けがない場合、原則として描写は行いません。

●備考
 ・このシナリオはイベントシナリオです。
 ・参加料金は50LPです。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
 ・特定の人と絡む場合は『時村沙織 (nBNE000500)』という形で名前とIDをご記入ください。
 ・グループで参加する場合は【グループ名】をプレイング冒頭にご記入いただければ、全員の名前とIDの記載は不要です。
  (グループ全員の記載が必要です。記載が無い場合は迷子になる可能性があります)
 ・NPCに話しかける場合は、フルネームやIDの記載は不要です。
参加NPC
奥地 数史 (nBNE000224)
 
参加NPC
フェルテン・レーヴェレンツ (nBNE000264)


■メイン参加者 47人■
デュランダル
鬼蔭 虎鐵(BNE000034)
覇界闘士
ヘルマン・バルシュミーデ(BNE000166)
デュランダル
雪白 桐(BNE000185)
ナイトクリーク
犬束・うさぎ(BNE000189)
デュランダル
結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)
ソードミラージュ
司馬 鷲祐(BNE000288)
ホーリーメイガス
アリステア・ショーゼット(BNE000313)
ナイトクリーク
斬風 糾華(BNE000390)
ホーリーメイガス
天城 櫻子(BNE000438)
クロスイージス
新田・快(BNE000439)
ソードミラージュ
須賀 義衛郎(BNE000465)
スターサジタリー
天城・櫻霞(BNE000469)
クロスイージス
白石 明奈(BNE000717)
スターサジタリー
リリ・シュヴァイヤー(BNE000742)
クロスイージス
祭 義弘(BNE000763)
ソードミラージュ
上沢 翔太(BNE000943)
インヤンマスター
ユーヌ・結城・プロメース(BNE001086)
ナイトクリーク
児玉 仁彦(BNE001184)
ナイトクリーク
神城・涼(BNE001343)
デュランダル
楠神 風斗(BNE001434)
プロアデプト
如月・達哉(BNE001662)
覇界闘士
宮部乃宮 火車(BNE001845)
ソードミラージュ
鴉魔・終(BNE002283)
ホーリーメイガス
エリス・トワイニング(BNE002382)
覇界闘士
焔 優希(BNE002561)
ソードミラージュ
リンシード・フラックス(BNE002684)
マグメイガス
ラヴィアン・リファール(BNE002787)
クロスイージス
日野原 M 祥子(BNE003389)
クリミナルスタア
曳馬野・涼子(BNE003471)
ダークナイト
フランシスカ・バーナード・ヘリックス(BNE003537)
デュランダル
水無瀬・佳恋(BNE003740)
スターサジタリー
靖邦・Z・翔護(BNE003820)
レイザータクト
ベルカ・ヤーコヴレヴナ・パブロヴァ(BNE003829)
ダークナイト
館伝・永遠(BNE003920)
ナイトクリーク
ロアン・シュヴァイヤー(BNE003963)
ホーリーメイガス
六鳥・ゆき(BNE004056)
ナイトクリーク
アーサー・レオンハート(BNE004077)
レイザータクト
梶原 セレナ(BNE004215)
ナイトクリーク
浅葱 琥珀(BNE004276)
ソードミラージュ
蜂須賀 朔(BNE004313)
ダークナイト
グレイ・アリア・ディアルト(BNE004441)
ホーリーメイガス
鰻川 萵苣(BNE004539)
クリミナルスタア
鮎川 小町(BNE004558)
ホーリーメイガス
レディ ヘル(BNE004562)
ダークナイト
廿楽 恭弥(BNE004565)
インヤンマスター
赤禰 諭(BNE004571)
スターサジタリー
御経塚 しのぎ(BNE004600)
   

●Monday
 ――ピピッ、ピピピピピッ。

 枕元で単調な電子音を響かせるアラームを、手探りで止める。
「うーん……もうあさ~?」
 寝床との別れを惜しむように身じろぎした後、終はむくりと起き上がって。
 朝ご飯は何にしようと考えながら、台所へと向かう。

 体に染み付いた習慣とは、実に偉大なもので。
 少しばかり眠気が残っていたところで、朝食を作る彼の手際は変わらない。
 パンケーキに、温野菜のサラダ。
 まだ少し余裕があるから、ポーチドエッグも乗せてみようか――

 ふと気付けば、もういつもの時間。
「ぱぱーん、ままーん! 朝だよー! 起きてー!」

 ――さあ、新しい一週間の始まりだ。


“ヴァンピー(※ヴァンパイア+一般ピープル)”を自称する萵苣の日常は、驚くほどに単調だ。

 ネットをして、ゲームをして、寝て起きて、その繰り返し。
 そんな彼女だが、決して自宅に引き篭っているわけではなく。
 毎日、学校には休まず通う――そんな一面を持っている。
 かといって、学歴以上のものを求めるわけではないのだが。

 休み時間、机に突っ伏してスマートフォンを弄る。
 授業中に当てられなければ、一日中ずっと黙っていることも珍しくなかった。
 級友とのお喋りに憧れる気持ちも、無いわけではないけれど――。
 手を伸ばして、得られなかったら苦しいだけだから。それなら、最初から一人でいた方がいい。

 この平穏こそが、今の彼女の日常――。


 特務機関『アーク』に所属するリベリスタの日々は、常に戦いの連続だ。
“仕事の無い日”はあっても、“戦いの無い日”など存在しない。
 この日、自ら戦場に足を運んだうさぎも、そんな修羅の宿命に縛られた一人だった。

 作戦決行は、16時30分。
 初手で最優先目標に吶喊した後、移動後行動を駆使して端から攻略開始。
 順番は先に定めた通りだが、他者が規定の人数を超えて肉迫している場合は下位を繰り上げ。
 密集により移動が困難な場合、フィールドの広さを活かし迂回とする。

 流れを頭に叩き込み、黙して待つ。
 頭上からの声が、“戦闘”の始まりを告げた。

『ご来店の皆様、お待たせ致しました。只今よりタイムセールを開始致します!』

 かっと目を見開き、卵のコーナーに駆ける。何があろうと、これだけは外せない。
 パックを掴み、予め定めたルートで精肉売り場へ。
 所詮この世は弱肉強食。戦いとは、かくも過酷である。


 日が落ちた頃、ロアンは仕事明けの数史を誘って行きつけのオカマバーに向かう。
 行き先を聞いた時、数史は意外そうな顔をしたが――
「……女装はしないよ?」
「や、そういう問題じゃなく」
「まあ、一杯付き合ってよ」
 このようなやり取りを経て、そのままロアンについて行くことになったのだ。

 辿り着いた店は、予想に反して静かである。
 店員の姿は見当たらず、注文を取るのはロアンだ。
「飲みたい種類とかある?」
 数史の視線を受け、ロアンは酒を作りながら事情を話し始める。
「このバーは、元々は別の人の持ち物でね。
 僕がアークに来た頃、お世話になった人が始めた店なんだ」
 今は遠い所にいる彼の代わりにロアンが店の手入れをしているのだと聞き、数史も合点がいった。
 互いにグラスを傾け、しみじみと言葉を交わす。
「出会いも別れも本当、色々あるよね」
「ああ。馴染みの顔が欠けると、堪らない気持ちになるな」
「幾つになっても辛いもので、なかなか……」
 お代わり要る? と訊くと、数史は黙して頷いた。


●Tuesday
 二度目の邂逅は、アーク本部で訪れた。
「わぁあ、こないだお隣の席だったおにーさんだ!」
 先日、クラシックコンサートで出会った男との思わぬ再会に、小町は声を弾ませる。
「おにーさんアークの人だったですか。リベリスタさんー?」
 対するグレイが答えるより先に、彼女はびしっと自分を指差して。
「こまちはー……こまち! おにーさんお名前は? クラシックすきなの?」
 自己紹介もそこそこに、いきなりの質問攻めである。
 矢継ぎ早に語りかけてくる少女を前に、グレイは思わず苦笑した。
 自分より話相手に向いている者など、ここには幾らでもいるだろうに。
「グレイだ。一応リベリスタをやっている。……クラシックは、まァ、嗜む程度にな」
「ぐれいさんも好きなんだぁ。ウィーンのオケくるの知ってる?」
 ああ、と頷きを返せば、小町はにっこり笑って言った。
「チケットあるし、一緒しませんかどーですかっ」
 それを聞いて、グレイは呆気にとられる。
 殆ど初対面の人間を誘うとは、つくづく物怖じしない娘だ。
「あ、ナンパとかじゃなくてね!
 こっち来たばっかりでお友達いないし! おにーさんが初なのです。
 会員番号1番ですよ、おかいどくっ」
 まあ、そういう事情なら分からなくもないし、件のオーケストラには心惹かれるものがある。
「……だが、構わないのか?」
「なにが?」
「友達、と言うなら、もう少し同年代のヤツを探したほうが良いんじゃあないか?」
「歳みておともだち作るの? へんなのー」
 でも、もう決めちゃったもん――と小町が告げれば、グレイも何も言えない。
 彼がチケットを受け取ると、羊の少女は約束だよ、と笑って念を押した。


 一通り、資料の閲覧を終えて。恭弥は、長く息を吐く。
「こうして見ると、日本のリベリスタも捨てたもんじゃないですね」
 ナイトメア・ダウンにより『極東の空白地帯』などと不名誉な冠言葉で呼ばれていた日本だが、ここ最近の戦果には目を見張るものがあった。
 もっとも、それは『アーク』――特にそのエース陣が異常というだけの話かもしれないが。
 師の言葉を思い浮かべつつ、悩ましげに溜息をつく。
 足りていないものを学ぶには良い場所と聞いて来たのだが、せめてもう少し具体的に示してくれないことには何をどう学べば良いかも分からない。まあ、宿題を知るのも宿題のうちということか。
 資料を元の場所に戻し、軽く伸びをする。
「堅苦しい文章ばかり読んでいたら疲れましたね」
 帰りは、漫画喫茶で息抜きしていくことにしよう。

 恭弥と入れ替わりに資料室を訪れたのは、琥珀。
 革醒が遅かったため、『楽団』が暴れていた時期より前の出来事は知らない。
 賢者の石争奪戦、ジャック・ザ・リッパーとの聖夜の決戦、鬼道との戦い――
 たった数年の間にも実に色々な事件があり、何人ものリベリスタが使命に殉じて散っていった。
 神妙な気分になり、思わず報告書に向かって敬礼する。
 その時、入口から数史が姿を現した。いつか出会った、彼にそっくりなアザーバイドを思い出す。
 未来を“視る”のも、それはそれで大変なことなのだろう。
「いつも有難うございます」
 敬礼すると、数史は驚いて目を丸くした。
「……いきなりですけど、奥地さんは息抜きってどうやってるんすか?」
「そうだなあ。誰か捕まえて飯食ったり酒呑んだり……って未成年? じゃ、今のナシね」
 ふんふんと頷きつつ、彼の答えを聞く。
 しっかり英気を養って、皆で力を合わせて乗り切っていこう。この先、何があっても。


 食堂には、スタッフと打ち合せを行う達哉の姿があった。
 やむにまれぬ事情で暫く三高平を離れなければいけなくなったため、その引き継ぎ作業である。
「いくつかレシピを残していくので、自由に使ってくれ」
 そう締め括った後、各所に簡単な挨拶を済ませて食堂を後にする。
 最近まで“本業”をすっかり忘れていたのだが、本家の会議に招集されたとなると出席しないわけにはいくまい。後継者絡みの抗争が起こったとなれば、尚更だ。
 数ヶ月は、あちらに留まることになるだろうか。
 軽く息を吐いて、彼はエレベーターに乗った。


 さて、七月といえばお中元のシーズンである。
 まずは、何かと世話になっている仁蝮組の面々に贈ろう。
 そう決めたはいいが、足を洗って久しい虎鐵には最近の極道事情など分からない。
 果たして、どんな物が好まれるのやら。

 熟考の末、彼がこしらえたのは特製のバケツ塩プリン。
 先方の人数と構成を考慮して、サイズは大きめ、甘さは控えめ。
「いやー、流石にこれを作るのはちょっと骨が折れたでござるな!」
 額の汗を拭いつつ、満足のいく仕上がりになったことにひとまず安堵する。
 あとは、届ける方法をどうするかだが――やはり、ここは宅配便が無難だろうか。
 互いの都合がつけば、挨拶がてら直接手渡したいところではあるが。
「……喜んで貰えるといいでござるな」
 自身の力作を前に、虎鐵は思わず表情を綻ばせた。


 この日、三高平市に越してきたリベリスタが居る。
 御経塚 しのぎ――革醒したての十九歳で、鋭い眼光と、穏やかな気質を併せ持つ女性だ。
 いざ私の城へ、と喜び勇んで来たはいいものの、彼女はいきなり苦難にぶち当たる。
「え? 聞いてない?」
 どうやら部屋の契約に不備があったらしく、管理人は知らぬ存ぜぬの一点張り。
 今から手続きを取ろうにも、そもそも空きはないとのことだ。
 彼女はめげずに下宿を探したが、条件に合うところは無く。ホテルすらも、運悪く満室だった。
「どうなってるの……」
 街角にダンボールを敷き、膝を抱える。
 すっかり途方に暮れていたしのぎを見つけたのは、外食帰りの朔だった。
「君、そこで何をしているのかね?」
 声をかけられ、しのぎが顔を上げる。
「あの、しのぎさんは今日引っ越してきて、えっと私の城が崩落してて……」
 話を聞くも、いまいち要領を得ない。そもそも、三高平に城などあっただろうか。
「それは大変だったな……」
 適当に相槌を打っていると、しのぎは縋るような視線を向けて。
「……泊めて……貰えないかしら」
 いきなり凄いことを言い出した。
「泊める……。泊めるか……」
 とりあえず、助ける義理はないが放置するべき理由も特にない。
 まさか、こんな間の抜けたフィクサードも居ないだろう。
 寝泊りさせるくらいなら構わないだろうと了承すれば、しのぎは途端に表情を輝かせて。
「良いの!? やったー!!」
 その直後、ばたりと気絶した。どうやら、安心して緊張の糸が切れたらしい。
 どうにも面倒ごとを背負い込んだ気はするが、ここで放り出すわけにもいくまい。
 気を失ったしのぎを引きずりつつ、朔は自宅の鍵を取り出した。


●Wednesday
 簡単なトレーニング設備と体操スタジオを併設した屋内プール。
 風斗がこの施設の管理人になってから、早くも一ヶ月が過ぎようとしていた。
 幸い、客の入りは順調である。なかなか良いスタートを切れたと自画自賛したくなるが、ここで満足していてはいけない。
 かくて彼は、より多くの人にこのプールを知ってもらおうと一つの作戦に出た。
 それが、今回のCM動画撮影である。
 常連に協力を仰いでプールの良さをアピールしてもらい、ネットで宣伝しようというのだ。
「ではみんな、よろしくお願いします!」
 ビデオカメラをスタンバイした後、全員に声をかける。――本番、スタート!

 視界いっぱいに広がる、無人のプール。
 大きな窓からは燦々と陽がさし、水面をキラキラと輝かせている。
 カメラが横方向に動くと、プールサイドには真っ白なビーチチェア。
 そこに寝そべるのは、日焼けした健康的な肌と引き締まった肢体の少女だ。
 イージーリスニングが流れる中、カメラは足元からゆっくり彼女を映していく。
 しなやかな指が麦藁帽子を持ち上げれば、その下からはボブの美少女――我らが『箱舟あいどる水着部隊』明奈ちゃんの姿が!

『最高のロケーション。あのプールは貴方をお待ちしています』

 手書きのテロップと共に、最高の笑顔で決め。実にいいですね。正統派ですね。
 お次はリリ。どちらかと言えばシンプルな水着も、彼女が纏うと実に可憐だ。
「少し前まで、水には全く入った事が無くて怖かったのですが……
 そんな私でも、今ではここまで出来るようになりました」
 おもむろにプールに入り、軽く蹴伸びをする。泳げるようになるまで、あと少しといったところか。
「というのも、プール主の楠神さ……んのおかげなのです。一から優しく教えて頂きました」
 未だ慣れぬ『さん付け』に苦戦しつつも、リリは柔らかく言葉を紡いでいく。
「私は毎日通って、楽しく練習頑張っています。
 今まで泳げなかった方も、これを機に挑戦してみては如何でしょうか。
 外の光を浴びながら泳ぐのは、心身ともにとても良いリフレッシュになりますよ――」
 うんうん、素晴らしいですね。

「いや、だから今日は一般開放日だから。撮影貸出は明日からだから。
 レコーディングトォモロー。OK?」
 一方、受付ではSHOGOが大忙しだ。
 いつだってNO JOBな彼だが、本日はプールでアルバイトである。
 CM撮影のために身内でほぼ貸切になっているので、招かれざる客はお引取り願わねばならない。
 それにしては、ある特定の業種の方々に偏りすぎている気もするが。
 まあ、プールの方でもハーレムな管理人が女子とにゃんにゃんしているだろうから問題は無……って、んな訳あるか! 全年齢! このゲーム全年齢ですから!!
「……ノー・フェイス・レコーディング。OK?」
 今日は、少しばかりお小遣いにありつけそうだ。

 さて、こちらは新田酒店。
 プールと受付の喧騒を同時に聞きつつ、自販機に飲み物を補充するお仕事である。
「プールのお客さんが増えるってことは自販機のお客さんも増えるってことだから、嬉しい話だよね」
 そう独りごちて、清涼飲料水の自販機にペットボトルを入れていく快。
 塩っぽいライチ飲料の売れ行きが群を抜いているのは、最近の気温の所為だろうか。
 お次は栄養ドリンク。ファイトが一発だったり、男がタフになったり、24時間戦えたりするアレである。……というか最後、年齢的にギリギリ。
 最後は、新田酒店の本領ともいえる酒類。
 そろそろ某フォーチュナもビールが恋しい季節だろうかと、ふと考えて。
「今度は生ビールのサーバを置くことも考えようかな……」
 泳いだ後に冷えたビールは、また格別だろう。

 その頃、プールでは実に“赤い感じ”の軍歌が流れていた。
「暑くて死ぬ。やる気も出ない。そんな時は、『あのプール』で水中戦闘訓練だ!」
 そう言ってプールを指差し、ベルカは水に飛び込む。
「うおおーっ、敵前での渡河作戦! 戦友の死を無駄にするなー!」
 ざぶざぶざぶざぶと水中を進み、反対側のプールサイドに上陸。
 大きく息を吐いた後、彼女はポーズを決めて高らかに叫んだ。
「リベリスタには割引も効くぞ! あのプール、あのプールをよろしくお願いします!」

 ……と、いうわけで。

「こんな楽しい人たちも集まる、当プールにぜひお越しください!」

 ――管理人は、いつでも皆様をお待ちしておりますっ!


 色々あったので、癒しを求めて猫カフェに行こうと思い立った。
 とはいえ、自分一人では猫たちを怖がらせてしまうかもしれない。
 そんな危惧をおぼえたアーサーは、たまたま見かけたフェルテンを誘う。幸い、彼も動物は好きらしい。

 平日であるためか、この日はさほど混んでいなかった。
 最初は遠巻きにしていた猫たちも、次第に好奇心に負けて近寄ってくる。
 猫じゃらしを振りつつ、飛び掛かる猫たちの仕草に頬を緩ませるアーサー。
 度重なる戦いで疲れ果てた心も、たちまち癒えてしまう。

 ――ああ、にゃんと可愛いことか!

 ちなみに、彼は犬派でも猫派でもない。
 もふもふは正義。可愛ければそれで良いのである。
「フェルテンも戯れてみるといい」
 そう言ってもう一本を手渡すと、フェルテンはややぎこちない動きで猫じゃらしを振った。
「どの猫も人懐こいですね」
 猫を撫でる彼を見て、アーサーは密かにほくそえむ。
 もふリスト仲間、一人ゲット。


 アーク本部の廊下を歩きながら、翔太は行き交う人々を眺める。
 さっきすれ違ったのは、事件現場に急行するリベリスタだろう。
 今日はたまたま体が空いているが、自分も同じ立場になることは多いのでそのあたりはよく分かる。
 でも、彼はいつも思うのだ。アークの中で、一番忙しい筈の人々のことを。
「――なぁ、数史?」
 資料の束を抱えた馴染みのフォーチュナを見かけて、声をかける。
「ん、上沢か。どうした?」
「いやぁ、特に急ぎの用じゃないんだけど」
「うん」
「フォーチュナっていつも、万華鏡の力で膨大な情報を手に入れたりするだろ。
 それを整理して、俺達に伝えるのって大変だよなぁって」
「んなこと考えてたのか。俺らは“視る”だけだよ」
「俺達も、片付けてくるだけさ」
 そうかな、と返す数史の手から、翔太は資料を半分受け取って。
「まぁ、今日は数史の仕事の手伝いをさせてくれ」
 ただし後で奢ってくれよ――と付け加えると、数史は「交渉成立だな」と笑った。


●Thursday
 今日は、とてもいい天気。
 三高平公園のベンチに腰掛け、フランシスカはゆるりと空を見上げる。
 この街に住み始めてからそれなりの年月が経つが、いつ来ても落ち着く場所だ。

 おもむろに立ち上がり、遊具の方に向かう。
 普段は子供達の声で騒がしいくらいだが、今は自分一人しか居ない。
 誰にも憚ることなく滑り台を楽しみ、ブランコに乗る。
 今年成人を迎える者としては些か幼稚かもしれないが、戦いの中に身を置いているからこそ、こういった他愛ない時間を大切にしたいと思う。
 帰りはどこに寄り道しようかと考えつつ、彼女はぐんとブランコを漕いだ。

 その頃、涼子は公園の外周を延々と走り続けていた。
 学校に通っていれば、何だかんだで退屈することは無いのだろうけれど。
 彼女の暇潰しと言えば、トレーニングをするか、只管ぼんやりするかの二択しかなくて。
 今日はどちらにするかと考えた結果、とことんまで自分を苛めることにしたのだった。

 嫌になるまで走って、走って。さらに走って。
 いよいよ足が動かなくなれば、適当な木を嫌になるまで殴って。さらに殴り続けて。
 限界を超えたその先に、己を導こうとする。

 いつだったか、誰かが言っていた。苦しくなってからも続けるからこそ、意味があるのだと。
(ウソくさい話だけどね)
 実行している自分すら眉唾物と思うし、今更こんなことで強くなれるわけでもないだろう。
 それでも、止める気にはなれなかった。
 きっと、そう遠くないいつか――負けた時に、自分に言い訳を許さないために。

 いつも通り、木陰で野良猫と戯れて。
 昼寝しようと瞼を閉じた時、聞き慣れない声がエリスの耳に届いた。
 興味を惹かれ、立ち上がって声の主を探す。どうやら、公園の一角で人形劇が行われているらしい。
 そっと歩み寄り、観客たちの後ろに腰を下ろす。冒頭こそ見逃したものの、まだ序盤を少し過ぎたばかりのようだ。
 演目は、一組の男女が織り成すラブストーリー。
 ありきたりの展開といえばそれまでだが、どういうわけか引き込まれるものがある。
 やがて、愛し合う二人の別れで人形劇は幕を閉じた。
 ハッピーエンドとは言えずとも、それは彼と彼女が選び取った結末の筈で。
 それを『悲しい』という言葉で片付けてしまうのは、何か違う気がした。
 物語の余韻に浸りながら、エリスはそっと公園を後にする。これだけでも、有意義な一時だったかもしれない。


 こないだタウン誌に載っていたソフトクリームが、あまりに美味しそうだったから。
 大の甘党としては見過ごせぬと、義弘は祥子を伴って話題の店へ。
 幸い、今日は仕事も休みだ。街中を散歩がてら、恋人とデートを楽しむのも良いだろう。

 件のソフトクリーム屋に辿り着き、二人でメニューに目を通す。
 どうやら、牧場の絞りたて牛乳や季節の果物を使ったソフトクリームが人気のようだ。
「あたしはメロンソフトにするわ。ひろさんは?」
「……やはり、基本のソフトクリームだな」
 二人分のソフトクリームを頼み、店内のベンチに腰掛けて。
 義弘が自分のを一口食べれば、濃厚なコクと、それでいてしつこくない甘さが舌の上に広がった。
 注文して良かった、としみじみ思いながらソフトクリームを味わっていると、「それも美味しそうね」と祥子の声。折角なので、少しずつシェアして二つの味を楽しむことに。
「あたしのも食べてみて?」
 メロン味のソフトクリームをスプーンで掬った祥子が、それを義弘の口元に近付ける。
「祥子、ここであーんはちょっと……」
 周囲の人目を気にして尻込みする彼も、やがて覚悟を決めて口を開けた。

 食べ終わったら、次はどうしよう。あたりを散策するか、それとも別の甘味処でも探すか。
 今日も暑いが、こんなにいい陽気なのだし、二人で一緒に歩くのがいい。
 最愛の恋人とゆっくりと歩調を合わせて、休日を心ゆくまで楽しもう――。


 学校が終わったら、大好きな人と待ち合わせ。
 迎えに来てくれた涼がどこに行こうと問えば、アリステアは彼の部屋がいい、と答えて。
 偶にはそういうのも構わないか――と、涼は彼女を自室へと誘う。

 初めて入る部屋は、物が少ないためかさっぱりとした印象で。
 ついつい周囲を見回してしまうアリステアに、涼は笑ってソファーを勧めた。
「面白いものとかないだろ?」
 手早く紅茶を淹れて彼女のもとに戻りつつ、隣に腰を下ろす。
 そのまま、茶を味わいながら二人でお喋りを楽しむ筈だったのだが――。
(あれ? いつも何お話してたっけ……)
 いざ口を開こうとしても、言葉がさっぱり出てこない。
 アリステアの胸は、まるで早鐘のように鼓動を打っていて。
 ここで初めて、彼女は自分の異変に気付いた。一体、この気持ちは何だろう。
 そんな変化を感じ取ったのかどうか、涼は優しくアリステアに語りかけた。
「映画でも見る?」
 渡りに船とばかり彼女が頷くと、彼はプレーヤーにDVDをセットして。
 相変わらず黙ったままの恋人の隣で、海外のコメディ映画を眺める。
(あー、なんだか緊張するね)
 彼女を初めて自宅に招くというシチュエーションに胸を高鳴らせていたのは、彼とて同じ。
 勿論、嬉しさの方がずっと勝ってはいるのだけれど。
 涼の手が、アリステアの髪をそっと撫でる。その温もりを感じながら、アリステアはただ、この心臓の声が彼に聞こえないようにと祈っていた。映画の内容など、もはや頭に入らない。
 不意に、こんなことを思う。
(気づかれても、いいのかな……)
 今、隣に居てくれているのは――他の誰より、大切な人だから。


●Friday
 午前中は目が回るような忙しさだったが、昼を過ぎてからは若干落ち着いてきた。
 三高平市役所の相談窓口で働く、義衛郎の業務は多岐にわたる。
 手続きを行う窓口が分からない人を案内したり、市民の苦情を聞いたり、他の部署の手伝いに回ったり――まあ、言わば“体の良い何でも屋”だろうか。

「次の方、どうぞ」
 窓口に現れたのは、外国人らしき長身の男だった。確か、どこかで見た記憶があるのだが。
 書類の名前を確認して、彼の名を思い出す。そうだ、フェルテン・レーヴェレンツだ。
「その手続きでしたら、あちらの3番窓口ですね」
「ありがとうございます」
 一礼して去っていく背中を見送りつつ、時計を見る。
 今日が終われば、明日から休みだ。


 夕方、自室で寛ぐユーヌの隣には遊びに来た竜一の姿。
 ほんの一年前には、部屋に入るなり深呼吸を始めたり、室内を観察しまくったりしたものだが。その時に比べれば、彼も大分落ち着いているようだ。
「映画でも観ようか。何が良い?」
 振り返った恋人の問いに、竜一は迷わず「ユーヌたんのおすすめ!」と答える。
「俺が選ぶとアメリカンヒーローものになっちゃうしね!」
 裏には、彼女のことをもっと知りたいという男心。どのようなものを好み、心を動かすのか。これらを把握するのは、理解を深めるための近道だ。
 対するユーヌは、軽く首を傾げて映画を選び始める。
「悩むな。ディストピアやらしんみりしたのも好きだが、あまり竜一の好みに合わない気もする。
 ホラーは見慣れすぎてて面白みがないし……」
 いっそ、対処法を予測しながら観るのも楽しいかもしれないが――などと言いつつ、彼女は二本を手に取った。
「これは、発狂しかけた主人公が電動ドリルで自分の頭に穴を開けるような話だが。
 ……こっちのホラーと、どちらが観たい?」
 まあ、ユーヌのチョイスが万人向けと言い難いのは承知の上である。
 寄り添って映画を鑑賞するうち、竜一の腹が鳴った。
「ユーヌたん、おなかすいたー!」
「ふむ、少し待て」
 立ち上がったユーヌが台所に向かった隙に、竜一は彼女のベッドにダイブ。
 枕に顔を埋め、香りをふんすふんすと嗅――って、以前にも同じことやっただろ貴方!?
 良からぬ気配を察したユーヌが戻れば、彼は何食わぬ顔で本棚の卒業アルバムを開く。
「別に見ても良いが、あまり荒らすなよ?」
 ――そんな、二人の日常。


 リビングのラグに腰掛け、恋人をじっと見詰めて。
 尻尾をゆらゆらと振りつつ、猫撫で声でおねだりスタート。
「ふにゃ~うにゃ~、櫻霞様の作ったご飯が食べたいですにゃ~」
 櫻子の唐突なリクエストに、櫻霞は吸っていた煙草を揉み消して。彼女の頭を、そっと撫でてやる。
 メニューは何が良いと尋ねれば、櫻子は猫の尻尾を嬉しげに揺らして。
「勿論、櫻霞様のスペシャルフルコースで♪」
 と、満面の笑顔。
 ふむ――と立ち上がると、櫻霞は台所に向かいながら口を開いた。
「急な注文だが、久しぶりに腕を振るうとしようか」

 メインディッシュのローストビーフをオーブンで焼く間、手早く前菜の準備を進める。
 調理の手順は全て頭に入っているのか、櫻霞の動きにはまったく無駄というものがない。
 すぐ傍には、待ちきれないといった様子でそわそわしっ放しの櫻子の姿。
 ちょうどローストビーフが焼き上がったので、端を小さく切って彼女に食べさせてやる。
「味見ついでだ、もう少し待ってろ」
 試食でいっそう期待に胸を膨らませた櫻子は、「完成が楽しみですにゃ♪」と笑みを零した。

 コースの締めは、デザートのパンケーキ。
「久しぶりのフルコースはご満足いただけましたか、お姫様?」
 幸せそうにパンケーキを食べる櫻子に声をかけると、彼女はたちまち頬を染めて。
「す、凄く美味しかったですけれど……お姫様は照れますぅぅ……」
 はにかむように、下を向いてしまった。
 そんな櫻子の反応を見て、櫻霞は自分の腕がまだ鈍っていないことに微かな満足を覚える。
 食事が終わったら、一緒にソファーでのんびりしようか。たまには、こういう日も悪くない。


 居酒屋では、ヘルマンが笑顔で客を迎えていた。
「いらっしゃいませー! 三名様ですか?」
 入店したグループを席に案内すると、間を置かずあちこちのテーブルから声がかかる。
「申し訳ございません、ただいまホッケの方切らしておりまして!」
「こちら油を温めている最中ですので、少々お時間いただいてしまいますが」
「繰り返させていただきます。生中三つ、カシスオレンジ二つ、モスコミュールが一つ……」
 金曜の夜だからか、やけに忙しい。
「――以上でよろしいでしょうか!」
 アルバイトに励む彼の明るい声が、店内に響く。今日は、お待ちかねの給料日だ。

 仕事を終え、ヘルマンの手には給与明細。
 さて労働の成果は――と中を改めれば、書かれていた金額は予想よりも少なくて。
 そして、先日に怪我で休んだことを思い出す。
「すみませえええん店長、今月シフト増やせませんか!?」
 なかなかどうして、生計を立てるのも楽ではない。


●Saturday
 今日はお休みだけれど、少し早起き。
 土曜日の午前中はお菓子作りに励むのが、ここ最近の日課となっていた。
 週末に館を訪れる人々のおもてなしと、自分達のお茶の時間に彩りを添えるために。

 エプロンを身に着け、二人で台所に立つ。
「今日はプリンと杏仁豆腐を作りましょう」
 作業を主に担当するのは糾華で、彼女を手伝うのがリンシード。
 それがいつもの形なのだが、今回は交代よと言われて。
 相変わらず不器用だからと及び腰になるも、糾華の励ましでリンシードはとうとう腹を括った。
「うぅ……はい、解りました……頑張ってみます」
 プリントアウトしたレシピと首っ引きで手順を確かめるリンシードだが、失敗したらどうしよう――と、そればかり考えてしまって。一向に震えが止まらない彼女の手を、糾華が不意に握った。
「ひぇっ……お、お姉様……!?」
 頬を紅潮させて慌てる少女を、糾華は真っ直ぐに見て。
「落ち着いてやれば大丈夫よ? 前よりずっと手際良くなっているんだから」
 リンシードと一緒に、そっと深呼吸。
 ひとたび混乱が過ぎ去れば、作業は驚くほどスムーズに進んだ。
「なんとか、終わりましたね……」
「ね、簡単でしょ?」
 あとは、冷蔵庫で冷やすだけ。
「お姉様、お手伝いありがとうございました……」
 リンシードが小さく頭を下げて礼を述べると、糾華は微笑んで答えた。
「出来上がったら、一緒にお茶しましょ?」
 穏やかな休日の午後、テーブルに並ぶのは手作りのお菓子。
 手間暇かけて作ったその味は、きっと格別だろう。


 雑談の折、彼女は「あまり部屋の掃除はしていない」と言った。
 だから、嫌は予感はしていたのだが――あまりの惨状に、セレナは黙って頭を抱える。

 トレーニング用のダンベル等が床に転がっているのはまだ良い。
 教科書や本の類が直に積まれているのも、まあ許そう。
 だが、しかし。下着を含めた衣服が、あちこちに散乱しているのはどういう訳か。
「いい歳した女性がなにをしてるんですか」
 軽い眩暈をおぼえながら、桐が呆れ顔で口を開く。女性の下着を見たくらいでは動じないが、これは別の意味で酷い。
「ええと、何か不味いのでしょうか?」
 一方、部屋の主である佳恋は事の深刻さがまったく理解出来ていない様子。
「きちんと洗濯はしてるのですから、置き場所まで気にしなくても……。
 手近な場所に置いておけば、汗をかいてもすぐ着替えられるので、むしろ衛生的です」

 ――あ、これはもう性根から叩き直さないと無理かも。

 セレナが、すぅと息を吸い込んだ。
「なんです、この部屋! まるで空き巣が入った直後みたいじゃないですか!」
「はぁ……」
 叱り付けた後、気の抜けた返事をする佳恋を頭のてっぺんから爪先まで眺める。
 驚くべきことに、今年成人を迎えた筈の彼女は名前入りのTシャツと小豆色のジャージという格好で。
「――その芋ジャージも! 年頃の女の子がそんな格好してちゃ駄目です、
 せめて郵便配達の人とかに見られていい服を着てください!」
「これも駄目なのですか? 高校の頃のジャージをそのまま使ってるのですが」
「駄目ですこんなの!」
「そういうもの、なのですか……」
 ここまで言っても、佳恋はいまいち腑に落ちていないようだ。
「……ああもういいです。私達で片付けますから、少し端っこで大人しくしててください!」
 ひとまず説得を諦め、桐と手分けして部屋の片付けを始めるセレナ。
 かなりの意識改革が必要と思われるため、桐はあえて荒療治を行うことに。
「水無瀬さんってこんなの履くんですね。……これとか、もうゴムのびちゃってますよ?」
 下着をちらつかせて佳恋の羞恥心を煽る作戦だが、当の本人はまったく堪えていない。
 後で説教しないといけないだろうか――と溜息をついた時、セレナがそういえば、と彼を振り返った。
「……桐さんって下着、どうしてるんですか?」
 以前、女物の服を着ていたことを思い出して、ふと気になったのだが。
「ボクサーパンツとかですね、さすがに女性用下着は履かないです」
 至って真っ当な答えが返ってきたので、セレナはほっと胸を撫で下ろした。


 彼女は、独り暮らしには些か広すぎる大きな日本家屋に住んでいる。
 近所のよしみで、よく遊びに行くのだけれど――今日は、ホラー映画を観るというので一緒に付き合うことに。

「どうぞ寛いで下さいませね」
 訪問した仁彦を奥の座敷に通して、ゆきは柔和な笑みを浮かべる。
「麦茶で宜しいかしら。それともサイダー?」
「あ、おれサイダーがいいな」
 飲み物で喉を潤しつつ、いざ鑑賞開始。
 ラインナップは、ゆきが好む“精神に訴えかける系”の邦画三本。
 彼女曰く、グロテスクなものはあまり興をそそられないらしい。
 対する仁彦は、ホラーは割と好きだが特に拘りはないタイプである。
 むしろ、ゆきと一緒に観られるのが嬉しい。
「ホラーがお好きでしたら、きっとお気に入りますわ」

 ――三十分後。

「え……ナニコレこわ……」
 仁彦は、早くも顔色を失っていた。
 ゆきが厳選したホラー映画は、なるほど納得の怖さである。
 例えるならば、尖った氷で背筋をぞろりと撫でられるような――そんな感覚。
 ふと横を見れば、ゆきも微かに身震いしている。
 やはり怖いのだろうとある意味ほっとしたのも束の間、驚くべき言葉が彼女の唇から漏れた。
「……素敵」
「ユキ……こわくない、んだ?」
 正確には、ゆきも同様の恐れは感じているのだが。
 それを娯楽として楽しめるかどうかが、仁彦との差であるらしい。
「あら、まあ。震えていらっしゃるのかしら……?」
 初めこそ否定していた仁彦だが、次第に耐えられなくなって。
 やがて、観念したように「側行っていい?」と口にする。
「えぇ、構いませんわ。いらっしゃいな――」
 彼女の体温が近くにあるだけで、仁彦は暗闇に松明を得た気分だった。


●Sunday
 ――月末には、26回目の誕生日を迎えるのだったか。

 その事実をふと思い出して、鷲祐はこの一年を振り返る。気付けば、あっという間だ。
 一つ一つ出来事を反芻する彼の近くを、散歩に訪れた火車が通りがかる。
 知った顔を発見して軽く挨拶を交わした後、火車は今やテントと動かない4WDがあるばかりの“司馬邸跡地”を見やった。不幸な事故により彼のツリーハウスが全焼したのは、もう半年近く前の話である。
 まだ再建してなかったんかい、と火車が言えば、鷲祐は僅かに口篭って。
「ああ、まぁ、うん……。ちょっと、物の整理がおっつかなくてな……」
 ぶっちゃけてしまうと、細々とした品がなかなか処分出来ないのである。
 依頼の時に使った切符とか、デートの時に持ち帰ってきたガムシロップだとか。
 ごくささやかな物であっても、いざ捨てるとなると様々な思い出を揺り起こすから。

 そんな話をしているうち、箒を手に仁王立ちする優希の姿が見えた。
「……焔じゃないか」
 二人に気付いた優希が、彼らのもとに歩み寄る。聞けば、公園の掃除に訪れたらしい。
 休みだというのに随分と真面目なことだが、そこが優希の良い所でもあるのだろう。
 そのまま、成り行き任せに一帯を清掃することになった。
「焚火熾してやっからドンドン燃やせ、ファファファ……」
 笑いながら火を焚く火車の傍らで、優希がせっせと地面を掃き清める。
「秋であれば、落ち葉を集めて焼き芋をするところだがな」
 半年前の悲劇が蘇るのか、複雑な表情を浮かべる鷲祐に、そういえば――と優希が声をかけた。
「司馬は今月誕生日であったよな、おめでとう」
 その言葉を聞き、鷲祐は口元を綻ばせる。何よりも、覚えていてくれたことが嬉しい。
 祝いに何か奢ろうと告げられ、暫し思案。
「それじゃあ、肉がいいな。分厚いラム肉に赤ワインのソースで」
 少し意外に思ったのか、火車が横から茶々を入れた。
「鷲祐はなんだ? グルメか? お前何でも食うじゃねぇか、量重視じゃ……」
 確かにその通りだが、偶の誕生日くらいリッチにいきたいと答える鷲祐。
 何気なく彼の尾を眺めていた優希が、ぼそりと呟いた。
「……トカゲの尻尾に足か、輪切りにしたら肉厚で美味いかもしれん」
 ビーストハーフは食べ物の好みもリンクするものかと不意に興味が湧いたのだが、どうやら斜め上の方向に思考が発展したらしい。
「どこ見てんだお前」
 思わず、コイツマジか――と目を剥く火車。かなりドン引きである。
 身の危険を感じ取ったのか、鷲祐が勢い良く尾を振り回した。


 カードゲームショップでは、ラヴィアンが対戦の真っ最中。
 何せ、今日は大会である。いつもより、気合も入るというものだ。
 彼女のデッキは、コストの重いヘビー級のモンスターで組まれたパワー型。ここまで見た目に違わぬ威力で対戦相手を蹴散らしてきたが、三回戦目にして思わぬ苦戦を強いられていた。
「俺はこのドローに勝負をかけるぜ!」
 ありったけの念を込めて、山札からカードを一枚引く。
 直後、ラヴィアンは会心の笑みを浮かべた。
「……来たっ! このカードで一発逆転だ!」

 超つよい(´・ω・`)かっこいい  ←どっかで見たような最強モンスター

「いけぇ、スーパーキングドリン!」

 ――さて、勝負の行方はいかに。

 パンケーキを食べに行こうと、前に約束していた。
 何かと慌しくて、延び延びになってしまったけれど。今日、それが叶うのだ。
 二人で訪れたカフェ。テーブルを挟んで数史と向かい合い、永遠はメニューを手に取る。
「チョコバナナと苺、どちらも興味がありまして。宜しければ、二人で分け分けしたいな、なんて」
 数史は面食らった様子だったが、一人で両方は食べられないので――と告げると「いいよ」と笑った。
 届いたパンケーキを中央で切って、半分ずつシェアする。
 ふと、数史が口を開いた。
「あのさ、前も訊いたけど。ここに付き合うの、俺で良かったの?
 こういうとこ詳しくないし、気も利かないから」
 ふわり笑って、永遠は答える。
「僕は奥地様と居ると、とても安心するのですよ。……その、父の面影があるので」
「そっか」
 それで数史は納得したようだが、彼女は全て打ち明けたわけではない。
 自覚したのだ。この想いの正体を。
 父に似ているからではなく、異性として彼を見ていることを。
 今は、まだ秘密だけれど――。


 ――この日の夕陽は、恐ろしい程に赤かった。

 翼を休めに舞い降りた港湾地区の一角で、レディ・ヘルはふと物思いに耽る。
 蘇るのは、かつての記憶。討ち滅ぼした“悪”の返り血を、乾いた風が撫ぜて。
 運ばれた血の臭いが、逃した“敵”の戦意を駆り立てる。

 ――あの時、死ぬべきだった。

 刹那、背後から聞こえてきたのは、まだ若い男の声。
「またですか。悪い猫でも、もう少し可愛げがある」
 振り返ると、諭の姿があった。着地した時の物音を聞きつけ、屋根の上まで様子を見に来たらしい。
「………」
 仮面で素顔を隠した女は、一言も“声”を発しない。
 微かに眉を動かし、諭は「もう少しにこやかにしたらどうですか」と言葉を重ねた。
「それで、日々鳥らしく虫でも食べてるんですか? 野生児ですか?
 人間の尊厳どぶに捨ててるのですか、やれやれ――」
 彼の真意を測りかねて、レディ・ヘルは只管に沈黙を保つ。
 少しして手招きされた時、彼女はようやく心配されているのだと気付いた。

 自宅のプレハブにレディ・ヘルを招き入れ、諭は彼女に食事を勧める。
「仮面の下はのっぺらぼうではないのでしょう?
 知った顔が餓死のニュースを見るのもせんない、夕食ぐらい食べていったらどうですか?」
 ややあって、レディ・ヘルは念話で彼に語りかけた。
(意思疎通ができなくなるが?)
 それぐらい身振り手振りで出来るでしょうに、と告げられ、彼女は仮面を外す。
 余人に見せたことのない素顔は、神の手が創った彫刻のようで。
「おや、中々の美人。愛想が良ければなおよしですが」
 誘った甲斐がありましたね、と囁く声に、レディ・ヘルは変わり者だな――と心の中で思った。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 白紙無し、全員描写です。
 (万一、お名前が出ていないという場合はお知らせ下さい)

 場面を限定しないイベシナはかなり新鮮で、楽しく執筆させて頂きました。
 お気に召しましたら幸いです。
 ご参加いただいた皆様、ありがとうございました!