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悪逆の徒

●悪逆の徒
 その昔、この山には悪逆非道極まる山賊達が棲んでいた。
 通り掛かる者その老若男女を問わず、金目の物があると見れば殺し、犯し、奪い去る。
 時には武の心得を持った武士でさえも、彼らの牙の前に打ち倒されその身を剥ぎ取られたという。
 その山賊達の名は――座胴丸(ざどうまる)一味。
 一味の頭領である座胴丸は、座して刺客の胴を断ち切る程の剛力を持っていたと、実しやかに語られている。
 彼らの史実の最期は、それは壮絶な物であった。
 山に押し入るは時の江戸幕府の警察機関、同心を中心とした30余名の武士達。
 一味は正面切って切り結び、その命を散らせども、それら同心郎党皆殺しの相打ちに持ち込んだのである。
 死した同心達の何人かは、その胴体を真っ二つにされていた者もあり、彼の名を歴史に刻みこむ確かな証となっていた。

 そして現在。

 彼らが拠点にしていた廃寺は今、再び邪なる者達に占拠されていた。
「全く、世の中どうなる物か分かったもんじゃねぇ」
「本当でございやすねぇ、おかしらぁ!」
 騒がしく、下卑た声が荒れ野となった寺の本堂に響く。
「いいか、今は力を蓄えるんだ。そうして溜めに溜めて溜めきって、一段と身に力が宿ったその時にゃ……」
「ウチらの天下だ!」
「またやりたい放題やりやしょうぜ! おかしら!」
「おうよ! この荒山の座胴丸様の晴れ舞台、お前らにもしっかり拝ませてやるぜ!」
 群れた男達の中心、一際体格よく、気風よく、そして誰よりも強欲な目をした男。
 座胴丸がここに蘇っていた。

●悪の芽、討つべし
「早急に対処が必要な問題が発生しています」
 集まったリベリスタ達に、『運命オペレーター』天原和泉は手早く資料を配り確認を促した。
「ある人の手を離れた廃寺に、エリューション・フォースの集団の存在を確認しました。それらは過去、そこを根城に活動していたという山賊の座胴丸一味である物と思われます」
 エリューション・フォースとは、エリューション化して半実体化した思念体の総称である。強すぎる思いや意志が形を取った物等をそう呼ぶ。
「頭目である座胴丸はフェーズ2、戦士級までエリューション化を進行させており、更なるフェーズ進行の恐れも持っています」
 エリューション化が進めば、敵はますます強くなり、遂には世界に見逃せない傷を残す事になる。
 特務機関『アーク』はそのような事態を許す訳にはいかない。
「皆さんは準備が出来次第速やかに現地へと向かい、本格的な活動を行う前の彼らを討伐して下さい」
 未来を視た彼女の瞳が強く訴えかけている。このまま放置してしまえば、どのような悲劇が起こるのかを。
「彼らが潜んでいる廃寺は放置されて久しく、周辺の道ももう道として成り立っていない様な所です。移動手段が使えず徒歩による接近が必須ですが、代わりに一般人を気にする必要はないと思います」
 手渡された資料には、現地周辺の詳細な地図も記してある。現地まで道に迷う事もないだろう。
 リベリスタ達に求められているのは、純粋なる討伐の力。
「敵にとってその廃寺は言わばホームです。敵が来たとなれば地の利を最大限に活かして迎撃してきます。更にはエリューション化して得た異能も用いてくる可能性が高いです」
 座胴丸一味の過去の悪逆、そして散り際の逸話は、嘘ではない。決して侮って相手に出来る者達ではないのだ。
「敵は強大、ですがそれを放っておく事など出来ません」
 大悪党が相手でも、臆する事も逃げる事もリベリスタ達には許されない。
「どうか皆さん、よろしくお願いします」
 そう言って締め括り、和泉はリベリスタ達に頭を下げる。
 ざわついた戦いの気配が、確かにそこにはあった。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:みちびきいなり  
■難易度:HARD ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 2人 ■シナリオ終了日時
 2013年07月11日(木)22:54
こんにちは、こんばんは。みちびきいなりです。
今回の相手は思念体です、お化けです、悪党死スベシ慈悲ハ無イ。

●任務達成条件
・E・フォース『座胴丸一味』の討伐

●戦場
それなりに敷地面積のある廃寺が舞台となります。
空間はボロボロながらも塀に囲まれており、寺の本堂は荒れ野となった今もその建物としての機能を失っていません。
最速で向かった場合、戦場に到達する時刻は朝と昼の間頃です。天候は晩まで晴れ。

●敵について
深い強欲の思念が生み出した江戸時代の大悪党座胴丸とその部下達です。
座胴丸がフェーズ2、戦士級。その他がフェーズ1、兵士級のE・フォースです。
以下に彼らの攻撃手段等を記します。

“荒山の”座胴丸
戦闘開始時は本堂の仏像の前に胡坐をかいて座っています。大きく劣勢になるか本堂に侵入者があれば動き始めます。
・大悪党の威信
 A:神遠味全付・大声で号令を掛けて部下を奮い立たせます。HP中回復と、物攻と命中小UP。自身対象不可。
・座胴断ち
 A:物近複・手にした太刀を豪腕で振るい正面の敵を薙ぎ払います。物理の大ダメージ。[必殺][流血]
・無限の欲望
 P:自・心の底から湧き上がる欲望が力を与えます。また気持ちがぶれません。リジェネレート小。[精神無効]

座胴丸討伐が遅れた場合、フェーズが進行する恐れがあります。その際、座胴丸はHP回復効果以外の全てのスキルの効果が一段階強化されます。

“太刀の”重三/団平/五太郎/甚兵衛/長助/文五
重三と団平は座胴丸と行動を共にし、他の四名は本堂の外で見回っています。彼らは時に味方をかばいます。
・斬撃
 A:物近単・手にした太刀を振るって攻撃します。物理の中ダメージ。

“弓の”伝蔵/安吉
手に入れた異能である[飛行]を駆使して、本堂の外で有利な状況を作って戦おうとします。
・射撃
 A:物遠単・弓を射って攻撃します。鏃には毒が塗られています。物理の小ダメージ。[毒]
・矢の雨
 A:物遠複・大量の矢を番えて撃ちます。命中精度が落ちるが複数攻撃を可能とします。物理の小ダメージ。[毒]

“荒縄の”お景
座胴丸一味の紅一点、仲間内の誰よりも速く動き、得意の縄技で座胴丸を補助します。加虐趣味の女好き。
・縄撃ち
 A:神遠複・神秘武器になった縄を放ち、対象を呪縛します。ダメージ0。[呪縛]
・鞭打
 A:物近単・鞭を使って対象を激しく打ち据えます。物理の中ダメージ。対象が[呪縛]されている場合大ダメージ。[不殺]

敵全体の思考として、お景を除いて悪党の常、数の暴力。多対一になる様に動く傾向があります。


死して尚、欲深な心が残った悪党を倒す依頼です。
自分を殺した同心達を恨むでもなく無念でもなく、もっと悪い事したかったという思いが残った迷惑加減。
敵は厄介極まりませんが、それ故倒す事に躊躇はいらないでしょう。
如何にして勝つか。リベリスタの皆様、どうかよろしくお願いします。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ナイトクリーク
星川・天乃(BNE000016)
ソードミラージュ
ソラ・ヴァイスハイト(BNE000329)
デュランダル
ランディ・益母(BNE001403)
マグメイガス
風宮 悠月(BNE001450)
クロスイージス
日野原 M 祥子(BNE003389)
ダークナイト
フランシスカ・バーナード・ヘリックス(BNE003537)
ソードミラージュ
義桜 葛葉(BNE003637)
ソードミラージュ
鹿毛・E・ロウ(BNE004035)
■サポート参加者 2人■
クリミナルスタア
エナーシア・ガトリング(BNE000422)
ホーリーメイガス
エリス・トワイニング(BNE002382)

●討ち入り御免
 古には人通りもあった道は既に無く、その廃寺に至る事は困難であった。
「……暑い」
 『マグミラージュ』ソラ・ヴァイスハイト(BNE000329)は自前の安全靴で大地を踏みしめ、じっとりと掻いた汗をぬぐった。
 彼女に限らず、道中の困難さに少々の疲れを見せているリベリスタは居る。
「こ、これも鍛錬……!」
 『黒き風車』フランシスカ・バーナード・ヘリックス(BNE003537)等幾人は、容易に飛べないのと準備不足が祟っていた。
「そろそろか」
 厳しい足場にも凛と立ち、『閃拳』義桜 葛葉(BNE003637)が遠くを見やる。木々の影に小さく建物の塀の様な物が見えた。
「間違いなく、居る」
 卓越した五感を誇る『無軌道の戦姫(ゼログラヴィティ』星川・天乃(BNE000016)は、遠く廃寺に纏わりつく邪悪な気配を察した。
「手順は憶えてるだろうな? 手抜かりが出来る相手じゃねぇぜ?」
 昂揚した様子の『墓掘』ランディ・益母(BNE001403)が振り返り、後続のリベリスタ達に声を掛ける。
「問題ないのだわ。祝福の用意も万全に」
「……まかせて」
 『BlessOfFireArms』エナーシア・ガトリング(BNE000422)、エリス・トワイニング(BNE002382)両名の返事を受けて、ランディは視線を廃寺の方へと向き直した。
「同心達の戦訓を鑑みるに、正面からのがっぷり四つはどうにもコワい」
「足止め班が頑張って下さっている間に、私達で何とか頭目を始末出来れば良いのですが」
 思案顔の『必殺特殊清掃人』鹿毛・E・ロウ(BNE004035)と『星の銀輪』風宮 悠月(BNE001450)は今回、ランディ等と共に敵の本丸に殴り込む本隊だ。
 その邪魔になる者を排するのは、高所を取れるフランシスカと、外の敵を足止めする役目を負った葛葉とソラ、そして……
「大丈夫。外の連中はあたし達でしっかり押さえてあげるから」
 一際煌びやかな装飾を纏った『蜜月』日野原 M 祥子(BNE003389)である。
「そのワンピース、動きにくくないですか?」
 ふわりと近づいてきたフランシスカが祥子に尋ねると、彼女は困った様な顔で笑った。
「動きは問題ないんだけど、肌出しちゃってるから虫がね」
 季節は夏、山間部の森の中ともなれば当然か。
「歓談の所済まないが、そろそろ仕事の時間だ」
 蒸し付いた暑さの中でほんの少し和んだ場を、葛葉の静かな声が制する。場が引き締まり、戦いの気配を強く感じさせる様になった。
 自然と冷えていく感覚は、これからの状況が死地である事を意識させる。
「この時代の平和は私達が守るという事で……」
 真面目モードに切り替えたソラが、音頭を取る。
 過去に多くの同心達がその命を賭して討ち果たした悪を今、現在の守護者が完全勝利を目指して挑む。
 狙うは悪党『座胴丸一味』の全首級。
「亡霊退治と行きましょうか」
 気合は十分。リベリスタ達は一斉に、廃寺の正門へと駆け出していった。

●一気呵成
 ボロボロの、辛うじて張り付いていた木の扉を吹っ飛ばし葛葉が叫ぶ。
「座胴丸一味よ、お前達の目論見もこれまでだ! 此度の戦い、相討ちで済ませられると思うなよ!」
「な、何もんだお前ら!?」
「親分! 侵入者だ! 武器持った連中が攻めてきやがった!」
 突然の襲撃を受けた一味の子分達は皆、一様に驚き口々に慌てふためいた声を出している。
 彼らの姿は皆どこか薄ぼんやりとした青白い色に染まっており、正しく亡霊と呼ぶに相応しい見た目をしていた。
「どうした? 噂の座胴丸一味というのもこの程度か? これでは、座胴丸という頭も期待出来ぬ只の雑魚か」
「なにぃ!?」
 先陣に立つ葛葉の挑発に、一味の一人、小汚い鎧の長助がいきり立つ。
「ぶっ殺してやる!」
 飛び掛かり、一文字に振り下ろした太刀を手甲で受け、彼は更に叫ぶ。
「その程度か? ……その程度では、俺一人倒す事すら出来んぞ!」
 度重なる葛葉の挑発は、寺の外で見回りをしていた太刀持ち達を怒らせるのに十分だった。
(狙いが逸れましたね)
 突入と同時に自身の周囲を強大な守護の力で包んだ悠月が、ランディ達を促し本堂へと足を向ける。が、直後に空から降り注いだ数多の矢の雨にその足を止めた。
「くっ!」
 痛みは無い。だが、直撃を受けた身に毒が回るのを自覚する。例え物理的なダメージを無効化出来ても、それは万能ではないのだ。
 しかし、この程度の毒で気が折れる程、彼女は弱くない。
「そこです!」
 短時間に練り上げた魔力が四色四連の魔光となって矢の飛んできた方へと放たれる。
「ぎゃっ!?」
 痛みに鳴く声が聞こえればそれでいい。悠月は空を見もせず移動を再開していた。
「安吉!」
 魔曲の直撃を受けた相棒を見やり、もう一人の弓兵――伝蔵は即座に状況を判断する。
 人を越えた力を得た自分達と同じ様に、敵も異質な力を持っていると、ハッキリと自覚した。
「こいつら手を抜けねぇぞ!」
「その通り、手を抜かれるのは困るんだよね!」
 同じ高さからした声。同時に彼の視界を暗黒が染めた。
 本当は飛んでいる二人共を巻き込みたかったが、そうも言ってられない。
 直撃を躱し、抜け出してきた伝蔵に向かってフランシスカが高らかに謳う。
「性根は如何あれ、実力は不足無し。自分を鍛えるにもちょうど良い……さあ!」
 常闇を振り撒いて、黒き風車、フランシスカが空を舞う。
「道を切り開きます、よ!」
 ただ一人、リベリスタの意図に気づいて動いた太刀の五太郎を弾き、ロウが縁側に飛び乗った。
 尋常ならざる加速を得た彼に、この戦場の誰一人として追いつく事は出来ないだろう。
 不意に身の内から湧き上がる力は、祥子の与えた加護の力か。
 最速で床を蹴り、後続の為に最速で扉を打ち破る。
 そしてロウは、視線の先に敵を捉えた。
 幾年の月日を流れて色褪せぬ意匠の立仏像の、その下で。
「早いな。まるで雷だ」
 この場所、この時、そしてその背にある物まで自分の物であるかの様に、胡坐を掻いて鎮座する男。
「立って……きっとその方が、強いし、楽しめる」
 ロウの開いた道を追い天乃が、そして他のリベリスタ達が続々と本堂への侵入を果たす。
「強い思念。あなたが核ですか」
「へぇ! 今の時代は女も矢面に立てるのか。そいつぁ困った」
 男がガバと、大きく口を開く。瞳も細まり、人目にそれが笑っているのだと容易に分かる様に。
「女が出しゃばる様になったら、ちんけな男じゃ生き残れねぇ」
 片膝を立て、ゆっくりと体を持ち上げる。
「つまり、だ。……俺様の時代になったって事だ。ええ? そうだろ?」
 厚顔不遜、2mに届こうかという体が、青白い光に幽かに揺れる。
「俺様は強いぞ? 試してみろ。但し、俺様が勝ったら……」
 幽鬼となろうと、その男の瞳だけは変わらない。悪徳に澱む狂眼だ。
「お前等の全てを、貰い受ける!」
 悪逆の徒、“荒山の”座胴丸。その魂が今、確かにそこに在った。

●大逆
 境内では、居残った葛葉達と、空中戦を継続するフランシスカが激戦を繰り広げていた。
「女ぁ! その綺麗な服ごと俺のもんにしてやる!」
「あら、あたしってばこう見えてなかなか頑丈で、そう簡単には倒れなくってよ?」
 祥子の身なり良く、それでいて脆そうな装備は敵の格好の標的となっていた。葛葉への怒りが収まれば、狙いは自然と祥子へと向く。
 囲まれていたが、前衛に立てるこの三人に死角は無かった。
「少数だからって、舐めないで欲しいわね。人数が少ない分、多く動けばいいのよ。祥子、葛葉、一歩バック!」
 軽快な動きで敵の背面を取り、一閃。ソラの斬撃はその一太刀で甚兵衛と文五を巻き込み切り裂いた。
「いでぇ!?」
「こいつ! ガキの癖にやりやがる!」
「私は大人だー!」
 コンプレックスに直撃。ソラは激怒した。
「まぁまぁ、っとと、そっちには行かせないわよ」
 背を向け本隊を追いかけようとしていた五太郎に、祥子のジャスティスキャノンが掠る。それは牽制として十分に働いた。
 現状、彼らに負けの色は全くと言っていい程ない。守りの要となる葛葉に高い回避力が備わっていたからだ。
 回復は祥子の加護とソラの存在が大きい。足止め役は皆、自らの役目を十全に果たしていた。
「こ、の。ちょこまかと!」
 空舞う少女はひらりひらりと宙を舞い、狙いすました矢を一本たりとて刺させない。
 お返しとばかりに巻き起こす常闇は、不運を宿した安吉達に鋭く命中した。
「ぎゃあ!」
 揺らめき、存在の力が薄れたのが分かる。しかし、消滅にはまだ少し遠い。
 相手が例えば自分達と同じ様な存在であるフィクサードであれば、既に倒せたダメージは蓄積している自信がある。
 だがそれでも健在なのは、やはり相手が世界の猛毒、E・フォースであるからか。
(耐久力は、一人前以上ですか!)
 力の抜けた腕を抱く。敵の攻撃こそ掻い潜っているが、彼女の体は自らの技によって蝕まれていた。
 タイミング良く、ソラの支援が彼女にも届く。ゆっくりと傷が癒えていくのが分かった。
「よし、まだまだ……」
 その時だ。本堂から、この場全てを一括する様な大声が聞こえたのは。
「てめぇら! 一から気合、入れ直せ!!」
「!」
 野太く渋い男の声は、恐らく敵の頭領。座胴丸の物だろう。その激励の意味する所を、リベリスタ達は知っていた。
「強化か!」
 葛葉が覚悟を決め直す。強化されるのは、敵の火力と命中精度。ここからは直撃も視野に入れなければならない。
 守りに主眼を置いている足止め組だったが、この時点で敵を一人も落とせていない。それは少々厳しい状況かもしれないと、冷静な頭が訴える。
(援軍として向かうのは、少々難しい、か?)
 鋭さを増した刃を手甲で受け止めて、葛葉は苦い顔を浮かべた。
「ど、どやされる前にやらねぇと!」
 空に揺らめく安吉達は、どうやら効果の対象外だったらしい。空中戦を強いたのが功を奏したのかもしれない。
「あと、少し!」
 安吉はもう限界が近い。フランシスカには確信があったが、もう一手が足りない。
 だがそこは百戦錬磨のリベリスタのチーム。その一手を補う特大の一撃が届く。
「逝けよやぁぁァァァッ!!」
 裂帛の声と共に、集中に集中を重ねたランディの熱撃が放たれた。
「う、ぎっ!?」
 ただの直撃では済まない一撃が、安吉を飲み込む。放たれた熱量の塊に巻き込まれるまま、その思念は焼失した。
「チッ。手間取らせやがって」
 消え去った雑魚に悪態を残し、ランディは急ぎ本堂へと駆け込む。相手も馬鹿ではなかったのか、ここまで射程から逃れていたのだ。
 だがそれも一体となればそうも行かないだろう。激励を受ける為にも高度を下げるしかない。
「あ、待って~!」
 後を追いフランシスカも本堂へ。彼女の最低限度の目標は達成された。後は早くに座胴丸を倒すべく動くべきだと決めている。
「座胴丸! てめぇの相手はこのお……!?」
 本隊に少しだけ遅れて本堂へと入った二人の前には、予想していなかった景色が広がっていた。
「悪くねぇ殺気だ。悪くねぇ」
 チームの生命線であるエリスと絶対者であるエナーシア二人を除いた突入班の全て、回避に長けたロウでさえも、その身を青白く輝く荒縄に縛られていた。
 神秘の縛はリベリスタ達を拘束し、きつく締め付けその悉くを封じている。
「あんたいい女だねぇ? 後ろに立ってる娘がそんなに大事かい? そうさ、女って奴は誰かを庇ってやれるくらいの度胸がなきゃあねぇ」
 エリスの前から動かないエナーシアに、お景が胸元から取り出した鞭を振り上げ、打ち付ける。
「――ッ!?」
 痛みに声にならない声をあげるが、それでもエナーシアは引かなかった。
「ぞくぞくするねぇ、あたしがたぁっぷり可愛がってやるよ!」
 お景は恍惚に頬を染め、激しく興奮していた。
「狙いは良かった。まるで俺達の力をぜぇんぶ分かってるみてぇな動きでよ。迷わずお景を狙ってきやがった」
 呪縛され動けない天乃を後ろ手にして捕えた座胴丸が、彼女の体に舐る様に手を這わせながら、ランディ達に笑う。
「だがだからだな。お景を庇わせてる重三と、後でおっつけた団平は深手を負ったが。お前らが纏まってくれたよ」
「後は一網打尽って訳だね。フフフ!」
 座胴丸の言葉に続き、再びお景がエナーシアへと鞭を振るう。
 痛々しい音が本堂に響いた。
「一瞬の隙がそっちに出来れば、ご覧の通りよ!」
 座胴丸が天乃を蹴って前へと押し出す。そこに……
「ぜぁあッ!」
 横薙ぎの大太刀が振るわれた。
「がっ!? ぐぅっ」
 必殺の斬撃が天乃を襲い、彼女の体は床に何度も跳ねた。
「あん、勿体ない」
「へっへっへ。わりぃわりぃ」
 悪党達が笑う。地の利を活かし、待ちであった事を活かし、奇襲を返した彼らが嗤う。
 そこに一つ。唾を吐く音がした。
 ランディが、手にした斧を背負い、ゆっくりと顔を上げる。
「……すんだよ」
「あー?」
 ぼそりと呟いた言葉に、座胴丸が首を傾げる。
「……イライラすんだよ、俺より強ぇって面してんのがな!」
 ランディが吼えた。古き木造りの本堂がビリビリと震え、奥の立像が、みしりと鳴った。
「あァ、いいぜ、座胴丸。そういう馬鹿を徹底的に叩きのめすのは大好きだ」
 笑い、牙を剥く。座胴丸によく似た、毒めいた笑みを。
 毒には毒、悪には悪。
「あなたが座胴丸? ……残念だけど、思い上がりも甚だしいよ!」
 澄んだ紫色の瞳で、そして凛とした声で、フランシスカが宣言する。
「わたし達を、リベリスタを、舐めないでよね!」
 悪を滅する正義もまた、折れてはいない。

●終の強欲
 癒しの息吹が巻き起こる。傷を癒し、邪なる戒めを解く聖神の息吹が。
「がんばって」
 庇護を受けし少女の小さな声援。それが何よりも心強い。
 復帰に驚く間も与えずに、彼らはそれぞれ動き出す。
「! 懐に!?」
「零距離。外し様が無いのだわ」
 響く銃声。お景の半実体の体が大きく揺らぎ、その存在を希薄にする。
「姐さん! うッ!?」
 庇おうとした重三の、腹を貫く人斬り包丁。
 二尺四寸、大般若。ロウの刃が影を残して切り抜ける。
 重三が消え、お景が叫ぶ。
「あたしにその刀を向けるんじゃないよっ!」
「では、刀でなければ?」
 四色の輝きを侍らせて、座胴丸との間に悠月が立っていた。
「何時の世でも……如何様な形であろうとも」
「馬鹿野郎、躱せ!」
 座胴丸が胴を薙ぐ。しかしそれを、彼女の守りが許さない。
「あなた方の様な存在を討たんとする者は、居るのです」
 守りを抜き、出来た切り傷から血を流しても、悠月は止まらない。
「こ、の!」
 お景が再び縄を放とうとして、四色の魔術は彼女を貫いた。
「ぎゃあ!」
 四重の呪いが彼女を縛る。毒に血を吹き、痺れ、心の底の不安が芽生える。
 その不安は、即座に現実の物となる。
「縛って貰うのも嫌いじゃないんですけどねぇ、残念です」
 不吉を引き寄せたお景に、迫りくる連撃の刃を耐える力は無かった。
「チッ、馬鹿野郎共が!」
 座胴丸が、悪態を吐いて距離を取る。
(外からの増援が来ないのは、こいつらにまだ仲間がいて、手一杯だからか)
「歯ぁ食いしばってしっかりぶちのめせ! 座胴丸一味の名折れだぞ!」
 叱咤の声を上げ、生き残った仲間達を鼓舞する。
(あの防御、厄介だ)
 ルーンシールドを張った悠月に、自分達の攻撃が通じない事を座胴丸は悟っていた。
 だが、思考に伴わず彼の口元には笑みが絶えない。
(いいねぇ。欲しい、欲しいぜ。いい女だ!)
 最初に殺気を飛ばしてきた女もいい女だった。そう意識をほんの少し緩めた瞬間だった。
 野生の勘か、座胴丸はその場から大きく飛び上がる。直後に奔ったのは数多の気線。
「さすが……でも、楽しいのは、これから」
「くたばってなかったか!」
 ボロボロの天乃がそれでも明瞭な意志で、座胴丸の首を狙い気糸を張り巡らせていた。
「星川さん!」
「大丈夫、死んでない」
 ヒット&アウェイで距離を取り、彼の敵の射程から逃れる。その間を即座に悠月が埋めた。
「カァッ!」
 吐き出す息と共に、座胴丸は歓喜の声をあげた。
「欲しい、欲しいぞお前ら! 俺様の物になれ!」
 この世に留まった魂の奥底からの念。強欲が彼を突き動かす。
 追い縋る常闇を避けた座胴丸を、ランディの放つ熱塊が包み込む。避けがたい一撃は座胴丸の体を激しく吹き飛ばした。
「お前も、お前もだ! 俺様の物だ!」
「いやはや、分かり易い」
 強欲に、ロウは高速の剣技で応えた。
 吹き飛ばされたのを利用して、傷つきながらも座胴丸は本堂を駆ける。狙うのは、彼らの生命線。
「……!」
 横薙ぎの刃がエリスを襲う。だがそこには、エミーリアとランディが既に立っている。
 二人が身を挺してエリスを庇い、またしても彼女は危機を逃れた。
 そして彼女を守る限り、リベリスタ達は負けない。
 クロスレンジ。
 血を吐き、ランディが疾風を越えて斧を振るう。
「くたばりやがれ!」
 その剛刃は胴を薙ぎ、振り抜くままに相手を分断する。
「―――ッ!」
 強欲の妄念は、最期まで目の前の物に手を伸ばしながら消滅した。

●結
 剣戟の音は程無くして消え、廃寺に静寂が戻る。
 深い傷を負った者も、古傷が開いた者も居たが、誰一人として欠ける事無く彼らはそこに居た。
 過去の守護者が相討った敵を、現在の守護者は見事に乗り越えたのである。
 悪逆の徒は、ここに完膚なきまでに討ち果たされたのだ。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
お疲れ様でした。
敵の布陣に対して二分したチームのバランスも良く。足止めも本隊もしっかり機能していました。
お景の攻撃も役に立ったのは本編の通り一回だけで、集中攻撃の前にあえなく撃破。
全員がそれぞれにしっかりと役目を果たした良いプレイングが生んだ結果だと思います。

悪の芽も潰れ、山に平和が戻りました。
お見事!

楽しんでいただけたのなら幸いです。
また機会ございましたら、よろしくお願いします。