●あまいあまいソレがすき 飴を食べよう。 まんまるソレを、一つ摘まんで。 舌で転がし甘味と成す。 美味しいなぁ。あぁ美味しいなぁ。 口の左から右へ。右から左へ。正しく舌で転がし。味を楽しむ。 極論してしまえばただの砂糖の塊だと言うのになんたる美味か。 これぞ正しく人類の英知。究極の食べ物――え、何? 言いすぎ? 知らない。美味しいから良いや。 「……おい。そこの飴舐めてる女は……」 「あぁ彼女に関しては御気になさらず。それよりも取引を続けましょうか」 なんか柄の悪い男がこっちを見ている。なんだっけ? 武器の取引がどうだのこうだの慶介さんは言っていたけれど、覚えていない。まぁ難しい話は全部この人に任せておこう。うん、それが良い。 私は邪魔が入った時に動くだけ。それまで飴でも舐めて、待っておこう。 も一つ摘まんでゆっくりと。口に運んで舌で遊んで。 あぁ。飴、美味しいなぁ。 ●のーきん! 「恐山に所属するフィクサード達が、武器の売買を行うようです――それの妨害を行って貰います」 『月見草』望月・S・グラスクラフト(nBNE000254)が真面目な調子で呟くは、恐山の話だ。 彼女が見た未来。それはフィクサード同士の取引である。 恐山主導の元に行われる武器売買。 真面目な口調で語られる内容は、説明を聞いているリベリスタ達の身を引き締め―― 「もしこの取引が問題無く遂行されればアークにとって利はありません。何せ恐山は資金を増やし、フィクサード集団は武器を得ていずれどこかの地区で暴れまわる事でしょう。 未来の被害を防ぐためにもこの取引を皆さんには全力で ブ ッ 潰 し て もらいます!!」 ――る、かと思えばなんだか後半から説明が投げやりになってきた。 真面目な雰囲気を保っていた口調も何時の間にやら崩れ始めて、 「もうとりあえずめんどくさい事考えず乗り込んでブン殴ってくればそれで良いんじゃないですかね!! あ、でも“この場の取引”だけを滅茶苦茶にしても、また今後取引が行われたら元の木阿弥ですからね! だから最低限、取引責任者を倒すか、取引相手のフィクサード集団壊滅させるかはして下さいね! 私との約束ですッよ――!!」 つまり取引にとって重要な者を逃がさない程度の策、というか案は必要な訳だ。望月は「脳ー筋ッ! のーきんッ!」と叫びながら腕を振り回しているが、そういう訳にもいくまい。 恐山もその取引相手も、どうやらアーク介入の警戒はしているようで。いつでも戦闘に入れる態勢は整えているらしい。 どのように攻撃を仕掛けるのか。どのようにして取引を潰すのか。 それは現地に赴くリベリスタ達に委ねられたのだった。 ●取引現場 「アークに察知されるかな」 ……何が? 「この取引が、さ。実際来るのかは知らないけれどね、今回はなんだか面倒な事になりそうな気がするよ」 ……どっちでも良い。私は仕事をするだけ。飴舐めながら。 「ブレないな君は。まぁいい、もし“その時”が来たら宜しく頼むよ」 「ん。分かった」 口の中で小さくなった飴を噛み砕いて。ざらつく触感を味わいながら、彼女は待つ。 取引相手も、敵も。両方を。 ただ、出来るなら面倒がなければ良いな、とは心のどこかで静かに思って。 直後。 「――と、来るぞ。取引相手だ」 何かに反応したかのように、慶介は視線を戻して裏の入口を見据えれば、 扉が、開いた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:茶零四 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年07月17日(水)22:42 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●襲撃 「……ああ、クソ。本当に来るなんてなぁ……」 取引の最中。 いよいよ金と武器の引き渡し、と言える段階にまで至ったその時に。慶介は倉庫の周囲に近付く“音”を感知した。 偶々近くを通りかかった一般人……と言うには足並みが揃っている。これは、ああ。どうやら本当に“彼ら”が来たようで、 「チースッ! 毎度どうもありがとう清掃作業しに来たっす!! ――人のなッ!」 思えば、来た。表口からだ。 『殴りホリメ』霧島 俊介(BNE000082)の突入を皮切りに、倉庫内に侵入する数は四。いずれもが武装したリベリスタ達であり、 「武器取引なんて言語道断! 見逃すとでも思いましたか、アーク舐めすぎですわよ! それと――そこの貴方!!」 威勢よく『ふらいんぐばっふぁろ~』柳生・麗香(BNE004588)も突入。 剣を片手に。気楽そうに飴を舐め続けている恵を右手で指差せば。 「どれだけ飴を舐め続けてるんですの! 血糖値いくらか病院で診ーて貰いなさい!! 絶対恐ろしい結果が出ますわよ! ええ、そりゃあもうきっと背筋が凍るレベルで!」 「ん。大丈夫。飴は美味しい。美味しいから血糖値上がらない。ノープロブレム」 「む、無茶苦茶な理論が来ましたわねコレ?! 日本語通じてますの?!」 多分きっと飴限定で話が通じて無いが、所詮敵だからあまり気にしない方が吉だろう。うん! ともあれ。突然の乱入者に慶介以外は大なり小なり驚きを見せつつ。されど“敵”である事を認識して迎撃の大勢を整える。アークが来る事は予想出来ていた事である故に―― 「故に――我々が来た時点で諦めるべきではないかね?」 『Dr.Tricks』オーウェン・ロザイク(BNE000638)の言葉が飛ぶ。 今宵の恐山は“商売人”。そして己は“科学者”たるならば。彼は、己の見解を相手にぶつける。 「お前さんたちは商売人と見たが……商売人と科学者には、共通する点がある。双方ともに最も重要なのはリスクとリターンの計測である事だ。己が身を危険に晒し、更にアークの恨みを買うリスクを負うほど、この取引のリターンは大きいのかね?」 「おいおい。そうは言うがね、こっちもアークがきたから即撤退、なんて事やってたら商売になりやしない。そっちこそ今なら“何も無かった”事にするから退いてはくれないかな……こっちの恨みを買いたいのかい? それに、我々と争うリスクとリターンやらに、君らの労力は見合うのかな?」 「愚問だな。こちらのリスクとリターンは既に計算された上でここに来ている。何も問題ない」 どちらも退かぬ。そう簡単には退けぬ、とそう言う事だ。恐山にも面子がある。アークが来たからと、そう簡単に退いていては商売もだが面子も汚す事になろう。なにより己らよりも少ない人数に、全くの抵抗無しでなど尚更に。 「そう言う事なら、お互い仕事と行こうか。 ……人間相手の戦闘ってのは、何度やっても好きにはなれんのだけどね」 そして愚痴りながらも、仕事は仕事と気を引き締めるは『遊び人』鹿島 剛(BNE004534)だ。人と人との闘いとなると乗り気ではない、が。かと言ってここで彼らを見過ごせば“ここでは無いどこか別の誰か”が被害を受けるのだろう。それもまた見過ごせない。 だからこそ、あぁ。彼は腕時計の秒針を、静かに見据える。 時が来る。付与を行うフィクサード達を眼前に。“予定”していた時間帯が、あと、もう。数秒で。 「どうもォ――! ごきげん麗しゅう恐山のみなさん! 元気かいッ!!」 その時。倉庫の奥。裏口側の扉が開いて。 瞬時に飛び出してきたのは『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)である。 胸の奥から精一杯の声を張り上げて。 彼は、考えない。 今、この時に集中すべきは依頼の事だ。“その他の事”は、考えない。考える、べきではない。 その様に己を律して。僅かに喉奥へと吸い込んだ酸素を、吐き出せば、 「今日もいつも通りに――アークの時間だよ!」 あぁ。 鏡は無いが、 僕は、いつも通りの顔が出来ているのだろうか。 ●挟撃 夏栖斗の突入に『百合色オートマトン』卯月 水華(BNE004521)が続く。 リベリスタらが取ったのは、前後からの挟撃作戦である。まず表から先の四名が突入し、気を引きつける。そうして一手稼いだ後に、裏口から別班が突入する計画。 しかしこの行動に恐山の慶介は疑問を抱いていた。リベリスタが前後に分かれていたのは彼の“耳”――集音装置の能力で直前に分かっていた事だが、タイミングをずらした理由がよく理解出来ていなかったのだ。 ……何故、十秒の時を? 疑問し、思考した―― 刹那。 「何? これは……!?」 理解した。己れらが周囲に広がる魔術の結界を。 閉じ込め、逃がさぬ、世界から隔離する――陣地結界。 成したのは、『K2』小雪・綺沙羅(BNE003284)。彼女である。 「――ん。これで結界は張れた。どうやら挟み撃ちは気付かれてたみたいだけど、問題無さそうだね」 「あぁ。後はやれるか、やれないか、だ。」 この為だったのだ。一手稼いだのは。 本来なれば作成に二十秒は掛る陣地結界だが、彼女の高速たる詠唱方法があれば時間を詰める事が出来る。故、僅か十秒で。一手の時間丁度で彼女は結界を作り上げたのだ。 「安心しな。嬢ちゃんに危害は加えさせねぇよ」 そんな綺沙羅を護衛するように『侠気の盾』祭 義弘(BNE000763)は布陣する。 相手が逃げ出そうとするなら陣地を破壊すべく綺沙羅を狙うは必然。ならばそんな時、いつでも彼女を庇えるようにと。義弘は警戒している。無論、実際に敵が誰を狙ってくるかはまだ分からないが。 「面倒な……! 取引は一旦中止し、手分けして対応するしか無いな」 と、どうやらフィクサード達はそれぞれの派閥で別れてリベリスタに対応する様だ。 恐山の面々は裏口側に前進、その他が表口側へと。フィクサード同士とは言え別々の組織。連携に期待は出来ないと判断して綺麗に別れたのだろう。どの道リベリスタが敵なのは双方の共通点。共闘するは当然として。 「まあ、僕らとしてはこの取引を潰しにきたわけで。 君らが素直に帰ってくれるのであれば僕らも楽なんだけどね。どう? 退く気、ていうか大人しくしてる気はまだ無いのかな?」 「ハハハ。こんな魔術結界まで張っておいてよく言う……! 信用出来んなッ」 そっか、と夏栖斗は呟く様に。 陣地結界を展開した事よって相手の逃亡は封じる事が出来た様だが、その分、恐山の面々を本気にさせてしまった様だ。まぁリベリスタに取ってみても交渉が上手く行かないのは想定の範囲内。ならば、 「教えてやんよ――そもそもアークが来た時点で、取引はもう無理だってなぁッ!」 俊介が叫び、放つは裁きの光。 フィクサードらを呑み込み、砕かんとして。障害物がいくらか邪魔をするが関係無い。最終的に全滅させてしまえば同じ事だ。万が一の取り逃がしが無い様には注意する必要があるが、結界が継続している間は心配いらないだろう。 「ッ、恵!!」 「ん」 後方から来る攻撃に対し、突破口を見出そうとする恐山は恵を最前衛として行動を開始。 裏口方面へ、恵は身の丈にあったサイズの日本刀を構え、往く。 目指すは一点。陣地張りし綺沙羅の元へ。 「――とぉ! させねぇよ!!」 されど通さぬと。義弘が前進し、恵を迎え撃つ。 盾を正面に。腰を落として身体を前のめりに。重心を前面へと押し出せば――地を蹴る様に突進。 振り下ろされる刀と交錯。瞬間に金属衝突音が鳴り響けば、義弘は更に盾持ちし腕を伸ばして、 「ッ、ぉらぁ!」 そのまま恵へと。盾で殴る様に衝撃をぶち込んだ。 「お前さんがたを狙うつもりは無いんだが……闘うってんなら仕方ないな」 「どうでもいい。私達の邪魔をするなら――」 衝撃を逃す様に後方跳躍を果たす恵。 そこにて刀を構え直し、そこをどけ、と言わんばかりの目線で睨み付ければ、 「捩じ伏せる」 口内の飴を噛み砕いて。敵対の意思を。 「やれやれ決裂とはな。俺個人としては、そこいらの組織よりも寧ろアークと取引した方が大きな利益を挙げられるのではないかと思うのだがな? ……まぁそこは俺の権限ではない故に、これ以上は控えておくとしよう」 オーウェンが言うは、恐山のもっと効率の良い方法だ。 各地に点在する弱小組織よりも、アークという組織ならば。遥かに大規模な取引も可能だろうと。気糸を眼前のフィクサードに放ちながら利を説く、が。 「ふむ。残念だが。アークと取引、は論外だな。君らとは所詮敵同士。一時の都合で共闘する事はあっても、長い目で見た場合は少々話が違ってくるんでね。ま、その辺りはウチの御老体にでも言ってくれよ」 慶介が拒絶の言葉を述べる。 リベリスタとフィクサードの線引きだろう。アークと取引がそうそう容易く出来ないのは。基本的に、根本で相容れないのだ。以前に一時的な共闘をした事があるが、それも別段“味方”になったというレベルではなかった。 まぁ。それこそ彼らのトップ。恐山斎翁が判断を下せば話は別かもしれないが。それはこの場ではなんとも言えない話である。 「な・ら・ば!! 纏めて倒すだけの話ですわ! 弱者を攻撃する為の武器取引など絶対に許しません! 精々足掻いて見せなさい下郎ッ!」 麗香の切り込みが表口側フィクサード達を襲う。 剣を振るい、薙ぐ様に。眼前に立ち塞がる者らを烈風の如く払い除け、血飛沫が舞って、 「そうだな……ま、これ以上、気を使う必要が無くなるのは楽になるね」 同時に剛も。恐山との交渉が必要なくなった代わりに、彼らも纏めて攻撃の対象と成す。 それまでは恐山を除いたフィクサード達に連続射撃を行っていた彼だが、これ以上の気遣いは不要と判断。裏口側の味方に当てぬ様にフィクサードらが展開する中心点を狙い定めて。閃光弾を投げ入れれば、一部の敵が怯みを見せる。 「だけど。それだけでは倒し切れんよ?」 されど。慶介の言う様に。敵の竦みは、敵の力によって解除が成される。 イージスのブレイクフィアーだ。奇しくも、恐山をも巻き込みの対象にしたが為に、表側方面前衛に展開するイージスへは閃光弾の効力が届かない。表側の彼らの実力はさほどでも無い故、いずれは撃破出来るだろうが――プロアデプトに攻撃を絞っている現状。イージス撃破までの時間は、もう少し掛りそうだった。 「なら、せめて。邪魔な人をどかすぐらいはしようかな」 そこへ綺沙羅が。式神としての鴉を生み出し、プロアデプトを庇う者の排除を試みる。 陣地張りし己の身は、既に生み出し影人に任せ。隙を見据えて狙いを絞る。暗闇の問題は暗視ゴーグルで乗り越え、射線が通った瞬間。投擲するかのように鴉を射出。 直撃すれば庇いの手が離れて。これで多少は撃破しやすくなっただろう。 「やぁ! その飴さっきから舐めてるけどさ。美味しそうだよね、一つ貰って良い?」 「――ん。良いよ」 一方で。恐山と向き合っている夏栖斗が恵に声を掛ける。 さすれば指先で。弾く様に放られる、飴。夏栖斗の顔面に山なりの軌道を描いて向かって、 「食べれたらね」 恵の言葉と共に、直後。放られた飴諸共、夏栖斗を包み込む“闇”が発生した。 逃さぬ様に。数多の苦痛を与える闇の壁が。彼を向い入れる。 構築に一瞬。痛みも一瞬。肉体的に精神的に。思い出させるかのように。彼に“苦痛”を与える。 彼にとっての最大の“苦痛”とはなんなのか。さて、はて。 ともあれ恵は終わらせない。闇が解けぬ内から身を低くし、赤く染まりし刀を構えて。 勝負を決めんとする一撃を。未だ闇の中の夏栖斗に。超速たり得る速度の突きを、放ち―― 「――舐めんなよ」 「ッ!? な、に……?!」 されど、決まらぬ。決められぬ。突きが直撃した手応えが、無い。 闇が晴れる。舞う様な、円弧の動きで刀を掠めながらも回避した夏栖斗は、 ――お返しとばかりに蹴りを恵の腹へとぶち込んだ。 「ついでに、も一つ――ッ!!」 そこから発生するは飛翔せし技。 恵の身を通りぬけて、そのまま蹴りの衝撃が表側のプロアデプトにまで直撃。先の攻撃の被害すら頓着せず、彼は闘う。 苦痛は辛い。しかし、それでも。手を止めぬ事を彼は忘れない。 手を止めなければ。歩みを止めなければ。 “何も”考えなくて済むから―― しかし。そんな彼らの奮闘も。 勝利には、僅かに届かない。 ●飴 恐山への説得が成功していればかなり簡単にはなっただろう。 無論、向こうも取引が潰されるのは面白くない。故にそう容易く応じる事は無いだろう。が、 皮肉にも。彼らの説得に置いて最も邪魔をしたのは、彼らの張った陣地結界だった。 「あああ、もぉおお! 大人しくしてれば見逃すっつってぇぇぇぇぇんッ!!」 「言ったろう! こんな魔術結界まで張っておいて、逃亡不可能な状況で信用できるか!」 俊介の叫びも届かず。虎の尾を踏む――とは少し意味合いが違うが。陣地結界は恐山の面々に本気を出させてしまった。 恐山側からすれば陣地解除と見逃される保証が無いのだ。仮定の話であるが、もし、アークが取引相手らを倒した後、陣地を解除せず、返す刀で恐山も狙った場合どうなるか。 勝敗の問題では無く。数で勝る初期よりも、恐山は確実に不利な状況で相対する事になるは間違いなく、最悪そのまま皆殺しだ。アークの目的が“取引の妨害”であるのか“フィクサードの殲滅”であるのか。彼らは知る由が無い事も含めて。 「チッ――! こいつはキツイ事になってきやがったな……!」 裏口側。義弘が不利を悟り始める。恐山の猛攻に晒され、水華が倒れたのだ。 そうして一人欠けた始めた所から徐々に戦況は悪化して行く。元より恐山側は逃げる事を考えると、どうしても綺沙羅を倒す必要がある為に。影人による庇い防御も追いつかず、途中から義弘が庇いに掛り切りと成ってくれば攻撃の手も減り。 「だが“倒させねぇ”なんて言ったんだ。意地は通させてもらうぞ……!!」 それでもと。綺沙羅だけは倒れぬ様に、彼は立ち続ける。 “侠気の盾”とは、伊達や酔狂ではないのだと。彼は、証明するかの様に。 「ちょっと! あともう少しなんだから大人しく叩き斬られなさーい!!」 「邪魔な……リーダー格が、追えん」 表口側。麗香とオーウェンが相手取るフィクサード達だが、しぶとく生き残りを図っていた。 己れらだけでは、地力で叶わぬ事を悟ったのだろう。リーダー格のプロアデプトは傷付き、倒れる寸前に物質透過を駆使して障害物のコンテナの中に隠れた様だ。もはや闘う力はあるまいが、それが成功したのは配下達の数が多かった為。一人二人引き剥がせても、まだ配下はいる故に。 それでも戦闘が始まった頃に比べれば減った方だが――生き残りに全力を掛けて防御重視となった彼らを潰して行くには、少々時間が足りない様だ。 「皆大丈夫か――!? 倒れて、死ぬのだけは、避けろよ!」 剛は閃光弾を積極的に炸裂させながら、回りに注意を払う。 生き残るのが第一だ。死ぬまで殴り合いたい状況には非ず。あっちも、こっちもだ。 「おぉおおおおらあああ!! 負けっかよぉおおおお!!」 詠唱と共に、俊介は癒しの力を放つ。 当初こそ光を放ち、怪しそうな障害物を燃やしに掛った彼だが、回復にも手を入れ始めた。強力な加護が届く限りの味方を癒し、回復して行く。 だが。しかし、それでも。 「ん、潰す……!!」 「押せッ! 勝機はもうここしか無いぞッ!!」 恵がその回復を打ち破らんとする勢いで、極小のDホールを開く。 リベリスタが二班に分かれた為、黒死病を効率的に打ち辛かった彼女だが。それでもタイミングを見計らって、己が最大威力の技をリベリスタ達へと放つ。数多の毒と、確かな殺意を含んで。 同時に慶介も。赤い月を顕現させてリベリスタ達に追い打ちを掛ける。数は減り始めている。しかし、リベリスタ達を払い除けるにはもうここで攻勢を掛けるしかないだろうと判断。配下も含んでの一斉攻勢を開始。 正しく。恐山達は“全力”をもってリベリスタの迎撃に取り掛かっていたのだ。 この全力が無ければ、多少なり薄ければ。リベリスタらはまだ挽回可能だったかもしれないが。 「くっ……そ……!」 歯ぎしりをする。夏栖斗は。己が意図せずして。 ああくそう。何故だ。何故“いつも通り”に。いかない。どうしてだ。 何故。何故。 「ねえ。その飴美味しい?」 その時。フィクサードらの攻勢に後退しつつある中、綺沙羅が恵に声を掛ける。 自分の右手に飴をいくつか携えて、 「どんな味がするの? どこで手に入れてるの? ……キサの飴と少し交換して!」 己が飴を恵の手に渡る様に。シュートの如き勢いで恵へと飴を投げれば、 「ん。なら、これあげる」 受け取り直後にウエストポーチから。返礼とばかりに一つ、飴が来る。 そして。 「――食べれたら、ね」 夏栖斗の時と同様に。飴を渡した瞬間に、攻撃を行う。 そして、再び開く。Dホールが。 放った飴諸共重圧で戦線を破壊し。 ……ああそうか。彼女が渡したのは、飴の甘味ではない。 敗北の、苦い、苦い味わいだ。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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