●Rain World 灰色の緞帳が振り落とす無数の雫の煌きは温く、冷たく――時に震える程に心を揺らす。 古来より多くの詩人が『一時』を謳った雨は平等に眼窩の世界を濡らす空の涙のようである。 ――…… 声にならない幽か。 まさに正しく幽玄と称するに相応しい『それ』の声をその瞬間に聞き取れたリベリスタは居なかった。止み掛けの雨の光景に佇む『白いワンピースの少女』はその実人間等では無い。幾つかの偶然と、幾つかの不運に一握りの運命(スパイス)が加わった事で産み落とされた世界の忌み子は――しかし、まるでボトム・チャンネルの市民権を得たかのように確かに存在している。 「……面倒な奴だ」 呟くように漏らしたリベリスタの一言は彼等が相対するその『敵』の性質を正しく射抜くものである。どんなストーリーがあるのかは知れない。エリューション・フォースがどういう経緯でここに生まれたかはその実定かではない。重要なのは『彼女』を撃滅せしめる為には『雨が必要』という事態の方であった。 「万華鏡による精密予測によれば『雨』が期待出来るのはこれから凡そ五分間」 「その五分の間も万全じゃない。何せ『雨』は止み掛けだ」 天(そら)が涙を流し続ける限り、彼女に傷を刻む事は可能である。しかして、空が泣き止んだならば――彼女の能力は彼女を守る。 周囲を浮遊する『滴り』の数はいよいよ多く。 特殊な条件に時間制限のついた仕事は決して簡単なものではない。 それでも。リベリスタ達はあくまで世界の番人なのである。 「さあ、始めましょう」 路地裏に揺らめく白い影は濡れている。 リベリスタ達も弱い雨音に濡れていた。 「――雨の、やまないうちに」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:YAMIDEITEI | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 10人 | ■サポーター参加人数制限: 4人 |
■シナリオ終了日時 2013年07月18日(木)23:19 |
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■メイン参加者 10人■ | |||||
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■サポート参加者 4人■ | |||||
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●雨のやまないうちにI 灰色の緞帳が振り落とす無数の雫の煌きは温く、冷たく――時に震える程に心を揺らす。 古来より多くの詩人が『一時』を謳った雨は平等に眼窩の世界を濡らす空の涙のようである。 「この安きを受けし時に、雨雲は晴れたり。悩みあらず涙もなく、歌声のあるのみ――」 清浄な祈りの言葉にも似て、『蒼き祈りの魔弾』リリ・シュヴァイヤー(BNE000742)の声は朗々と世界に響く。 街を水浸しにした雨はすっかりその勢いを弱めている。薄くなった雲の切れ目から六月の太陽の光を覗かせようとしていた。 「――雨は優しい天の恵み。降っているうちは、泣いてもそれと分からない。 ――それとも、神様。貴方も人知らぬ内に泣いていらっしゃるのですか……?」 「はてさて。止まぬ雨は少女を思う天の涙雨。 声ならぬ声が、想いが形なすこの世界では、神の采配は今日も世界に綻びを為します。 尤も、『何が正解か』を語れる唇を持つ程ワタシは『敬虔』ではありませんけれど!」 リリ、彼女に応えた『ヴァルプルギスナハト』海依音・レヒニッツ・神裂(BNE004230)――『対照的な二人のシスター』を含む合計十四人のリベリスタ達が雨の日に目指した路地裏(もくてきち)には当然と言うべき怪異が存在していた。彼女等の瞳の中に佇む『白いワンピースの少女』はぼんやりとした希薄な存在感だけを湛えてそこにある。 「雨の日は貴女にとって最悪な日な様ね――」 何処か冗句めいて、或いは半ば以上は本気で『骸』黄桜 魅零(BNE003845)が言う。 凛とした面立ちに雨の日らしい灰色を乗せ。良く通る声に憐憫を乗せ。 「――そんな所に居たら、風邪引いちゃうよ。傘、要る?」 「――……」 さりとて幽玄たる薄い唇が紡ぐのは言葉ならぬ声――否。声にもならぬ何かでしかない。 雨に打たれても微動だにせず、薄く光るその姿は彼女が『恐らくは幾らか不遇な運命が産み落とした』エリューションなる忌み子である事を告げていた。 「雨と共にある女の子。空の涙は彼女を守る盾であり、同時に彼女を傷つける刃でもあるんだね」 神妙に言った『月奏』ルナ・グランツ(BNE004339)の言葉に仲間達は頷いた。 「さおりんと一つの傘でラブラブ歩くのは悪くないかなぁって思うです。でも……」 『ぴゅあわんこ』悠木 そあら(BNE000020)の乙女的事情は置いておくとして。 少女はとてつもなく『面倒』な能力を持っている。 「雨が降ったら、無敵性を維持出来ない……か。ん? 逆か。雨が降ってなきゃ無敵なのか」 「ふむ、まるで雨に紛れて泣いているようじゃのぅ。雨が止んだら殻に篭って弱さを隠しているようじゃ」 首を傾げた『蒼き炎』葛木 猛(BNE002455)に『陰陽狂』宵咲 瑠琵(BNE000129)が応え、彼は「厄介な相手だが……まぁ、面白い喧嘩は出来そうだ」と一つ気を取り直した。 雨が止んでいる時、少女は不滅性を獲得する。 雨が降っている時、少女は際限無くエリューションを召還する。 本部、万華鏡から彼等が受け取った情報は五分の猶予しか許してはいないし、その五分も磐石では無い。『降ったり、止んだり』が起きれば状況はその都度表情を変えるだろう。止みかけの雨のロケーションはリベリスタ達が彼女に勝利する為の『リミット』を感じさせるものだ。 「誰か俺と賭けすようぜ──そうだな。内容は俺達の勝敗で!」 「――まあ、そう言う運次第、てのは嫌いじゃないぜ。 ……とは言え、ギャンブルは最後にゃ勝たないとツマラナイ。 つまり、降るか止むかは兎も角として、それじゃ賭けは成立しないって話だろ?」 しかし、多少の不利と――苦労を承知で猛は、『パニッシュメント』神城・涼(BNE001343)は嘯いた。 「受けて立つぜ。やらせて貰うさ」 涼にはまがりにも『グランドギャンブラー』を自認する矜持がある。「そりゃそうか」と納得した猛の様子を見れば分かる通り――そうでなくてもリベリスタの敗北にBetする者は居ないだろう。 「『能力』が生まれた理由は気になるけれど、今はそれも後……だよね? 見過ごせば、誰かが傷ついてしまうから――」 ルナが見据えた――路地裏の少女の白い影が揺らめいた。 そこに寝そべる物語も煙る雨の向こうでは分からない。雨音の向こうからは聞こえない。 だが、そこに怪異があるのは確実で――リベリスタ達はあくまでその神秘を撃滅するものだった。 「まぁ、出自も由来にも興味はないが――だからこそ結論は分かり易いな?」 一方で淡々と告げた『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)は動じない普段の様子のまま、戦場に散る敵と味方の状況に視線をやり、頭の中で整理をした。路地裏はさして広くない。戦場のロケーションとしては『オールフリー』と言える状況ではない。睨み合う格好となった両者はやがて激突するだろうが、この急行をしても周囲には五十体程度の配下エリューション『滴り』が既に存在している。 パーティの作戦は戦闘行動の或る程度制限される路地裏を逆に利用しようというものである。 予めの打ち合わせで彼等は『愛を求める少女』アンジェリカ・ミスティオラ(BNE000759)、ユーヌ、猛、魅零、そあら、『夜翔け鳩』犬束・うさぎ(BNE000189)、『デストロイド・メイド』モニカ・アウステルハム・大御堂(BNE001150)で一斑を、残る瑠琵、『ネメシスの熾火』高原 恵梨香(BNE000234)、リリ、涼、海依音、ルナ、『百獣百魔の王』降魔 刃紅郎(BNE002093)で二班を構成する事を確認していた。各七名の戦力はそれぞれ正面から敵に向かう迎撃班と翼の加護付与からの強行突破で後背に布陣をする挟撃班の性質が企図されていた。与えられた時間は正直短いが、それが故の大胆な動き方である。 「雨だからと殊更センチになる事もないんじゃない? 悲しい涙雨だけが雨ってわけではないもの……穢れを洗い清め、命を育む恵みの慈雨もある」 大粒のルビーを思わせる恵梨香の瞳に枯れた涙では消せない炎が揺らめいていた。 「まさか世界を守る為に雨乞いをする羽目になるなんて、予想もつかなかったわね――」 「始まる……! 気をつけて――」 独白めいた恵梨香と、アンジェリカの視界の中で動き始めた白い影は『その時』が来た事を告げていた。 ルナは云う。 「始めようか。雨の止まない内に。優しい誰かが涙を流してしまう、その前に――」 ●雨のやまないうちにII 雨は、降っていた。 「一人遊びに差し入れだ。水のお代わり御自由に――!」 北の星宿の神格化。玄天上帝とも称される北の守護者は高いレベルの陰陽術士がここぞと頼む奥義の一つである。ユーヌの呼びかけと共に現れた猛烈な玄武の『水気』は、蠢く水達と少女を纏めて叩きのめさんと荒れ狂う。十分な速力から素早く放たれた先制の鏑矢はこの時ばかりは巻き込む味方を考慮しない。これは華々しい戦いの号砲に相応しかった。 少女は言うに及ばず―― 歪んだ滴り達はその動きを大きく制限されながらもやや『非力』なユーヌの一撃を耐え切った。 されど、リベリスタ側はそれを最初から承知の上であった。 「敵の能力はあたしが見切ったのです!」 そあらの声が素早さに然程優れず、耐久と攻撃力を持つ敵性質を看破した。 「ンじゃまぁ、今回も派手に行くとしますかねえ……!」 それもまた良し、と―― 両手の魔力手甲を合図の如くガチンと合わせ、濡れたアスファルトを蹴り上げたのは猛である。 喧嘩上等、正面最高――少年の直情の気は実に分かり易くその能力と戦闘スタイルに反映されている。狭い範囲に数十体に及ぶ敵がひしめいているのだ。こんな時に彼が繰り出すのは―― 「あらよっと!」 ――目にも止まらぬ足技が繰り出す虚空を奔る蹴撃だ。 胸がすくほど真っ直ぐに飛翔する一撃の威力は進行方向の滴りを次々と貫き薙ぎ斬った。 「では、まぁ――予定通りという事で……!」 うさぎの声が響き、仲間達の背に小さな翼の加護が舞い降りた。 「征くぞ! 我に――続け!」 勇猛な気合の一声と共に『獅子王』を構えた刃紅郎の身体がふわりと浮いた。 猛然と目の前に展開するエリューション達に切り込んだ彼を、 「数が多いなら私たちの出番だよね? ――ディアナ、セレネ!」 自身の周囲を旋回する二体のフュリエに呼びかけたルナが援護する。 「私たちで――皆の路を切り拓くよっ!」 「おおおおおおおおおおお――!」 二人は後背に陣を展開する二班の戦力だが、状況上即座に飛び込むには邪魔のリスクが否めない。 ならばと近接の一番槍を挑んだのが刃紅郎であり、敵陣に火炎弾を注いだルナである。 猛烈な火炎が水浸しの世界を打ち払う。威力と爆風に吹き飛ばされた滴り達は大きく乱されていた。 「助かるぜ――」 乱れた敵陣を見逃さず驚異的な行動力を発揮したのは涼だった。翼の加護で空を駆け、滴りと少女をやり過ごす。路地裏の向こう側に爪先から降りた彼は一瞬でその体を反転させ、切り返し―― 「――ダンスのステップはこう踏むもんだ」 ――先着した第一波として踊るように敵陣を切り裂いた。 殆ど狙いもつけぬその動きは無造作で無差別であるが故に華麗である。烏のようなロングコートの袖口に仕込まれた無色透明のイノセント、漆黒の断罪ノットギルティの二刃は雨の世界に飛沫を立てる。 「優しくしてあげたいけど……倒さないとなんだ」 『ごめんね』 リベリスタの仕事を全うしない訳にはいかない魅零から漆黒が溢れ出す。 「さあ、雨に歌えばなんて嘯くのは吝かではございませんが――綻びは繕わなくてはいけませんね!」 海依音は予定通りに涼に続き―― 「この世に未練があるのなら聞いてやろう。雨が止まぬ内に、成仏させてやるからのぅ」 「出来れば、満足してくれたら一番だとは思うけど、ね」 「願わくば、ですが。それでも…… この身は救済の為遣わされし神の魔弾。一切の世界の歪みを正します。どんな小さなものであったとしても――」 ――長い髪を濡らす雨にも余裕の風を崩さない瑠琵、恵梨香、そしてリリが同様に着地して敵を挟撃にかかる。 パーティの連携は比較的スムーズに彼等が望んでいた状況を作り出し始めていた。 しかし、少女にダメージが募るのは『雨の降っている時間のみ』である。ユーヌやルナの一撃は敵の主体たる少女を幾らかは削っていたが、強力なエリューションは多少の攻撃で沈められる程、容易い存在では有り得ない。 おおおおおおおお……! その姿らしからぬ、人ならざる怨嗟は少女のなりの上げたもの。 鼓膜を震わせる呪怨の声は心臓を鷲掴みにするようなプレッシャーをリベリスタ達に与えていた。 さりとて、挟撃は幾らか奏功。コレを食ったのは前方に位置し続けていた戦力のみである。 呪縛を生じるこの攻撃が行動速度的にモニカ以外に手数の被害を生じさせなかったのも大きい。 「ご存知ですか。メイドは傘差しちゃ駄目なんですよ?」 「『滴り』の位置は――言った通りだよ! 数を減らして集中攻撃にかからないと……!」 一方で面接着を利用し、側面を立ち位置に『四人目の前衛』とならんとしたのは『幸運で』プレッシャーを避けたアンジェリカ。 少女の魔眼は千里を見通す力を秘めている。赤いその瞳は敵の位置を逃さず、 (倒すには雨が必須。何故だろう? 彼女は雨が嫌い、という事なのかな?) 微かな疑問を生じた少女の抱く赤い月はその照射で少女を含む滴り達を赤く灼いた。 (……薄幸そうな少女。もしかして病弱で外にも出られず、命を終えたのかもしれない。 外で思い切り遊びたい、そんな思いが形になったんだろうか? でも、それならきっと、晴れていた方がいいよね――?) 忌み子に身を落とした少女にそれを答える術は無い。 しかし、唇をきゅっと引き結んだアンジェリカは悼みの雨に決意を強める。 ●雨のやまないうちにIII 「楽しい仕事かどうかと言えば――そうでもありませんけれど」 海依音の宿す審判の光は『彼女の嫌う誰かさん』の融通の利かなさを思わせる程に鮮烈た。 それを望んでも――望んだとしても溜息を吐き出す自分を海依音はきっと欺瞞であると知っていた。 「どうした? 誰にも本音を打ち明けられず――死の間際まで強がり続けでもしたのかぇ!?」 雨の路地に和装の少女が躍動する。童女のようなその姿、動き難そうなその衣装は――時間と合わせればそれ自体が『怪異めいて奇妙』。しかしてその白魚のような指で天元・七星公主を繰る宵咲瑠琵は決して見た目通りの人間では有り得ない。 (……全く、エリューションという連中は面妖な) 挑発めいた言葉と共に式符・鴉を繰り出す彼女は専ら少女本丸を狙う形で戦いを進めていた。 「回復は任せて下さいなのです!」 仕事の重みを意気に感じるそあらに、 「水玉遊びか。まるで童心に返るようだな」 滴りを我が身に引き付け、敵陣に隙を生じさせ続けるユーヌに。 仲間達に戦線を支えられ攻勢を強めるのは瑠琵だけに非ず、 「雨は嫌い? 良かったら雨の日に何があったのか聞かせて欲しいな。 それを聞けても私達はこの手を緩める事は出来ないけど――」 明確な答えが返らぬ事を、そこに存在し得ない事を理解しながらもそれでも言葉を紡ぎ続ける魅零もまた同じである。夜の闇に暗黒と無明を施す少女には、その業の逆を向く優しさがあった。 (――可能な限りは、叶えたい。それが、どれ程難しくて、無意味な事だとしても――) 不出来ばかりの運命に、不具合ばかりの世界にそれが常に実るとは決して言えないとしてもである。 一方でぶちかまし、仕事する事に熱心なのは或る意味でプロ意識の高いモニカであった。 「他に出来る事がある訳でもなし――定番月並みですが、幽霊ってのは成仏させてやるのが優しさですよ」 ともすれば皮肉を並べ連ねる少女(38)は口程に無感動な人間では無いが。手を抜いている余裕も無い程に滴りが生まれ続けるのだから、弾幕屋としては手が離せないのが実情である。 既に戦闘開始から数分。 たった今。雲間から光が覗き、雨が止めば――少女は全ての攻撃を受け付けない。 「……雨が戦いを分けるのね。皮肉だわ」 ずぶ濡れは兎も角――自らの心を冷ましてくれる雨を恵梨香は嫌っていない。 強制的に残り時間を減らす焦れる時間が数度訪れれば……追い込めるかどうかが『勝負』であった。 「不運だな。雨が止んでも蝕まれ。削れて消えるがお似合いだ」 無論、状況を押し込んだのは陰陽の呪いで無効能力にさえ牙を剥くユーヌや、大技をこれでもかと連発するルナ、モニカ、うさぎ等の継戦能力も大きい。 「運なんざ、どこぞのダイスの女神様次第で如何とでも転ぶ。 けど、一つ言える事は負け腰の奴は女神様にゃ愛されない。 賭け事はドラマがあってこそ楽しめるもんだ――違うか?」 猛の見得が武技と閃き――リミットの迫る戦いは続く。 「これで――」 恵梨香の詠唱が暗闇に青い雷撃の網を吐き出した。 目が眩む程の魔術の迸りは大魔道の名の下に敵達を奈落の闇の底へ追いやる。 「ね、貴方の望みはなんですか? この雨の夜に何を望みますか?」 エイメン、かくあれかし――と。忌み子がせめて空に瞬く星になれますようにと。そう願った海依音の『聖言』が焼き尽くすように『居てはならない少女』を蝕む。 「――のぅ、お主。さっき何を言おうとしたのか、もう一度言ってはくれぬかぇ?」 瑠琵の術に水が弾ける。白いワンピースの少女は傷む。 反撃の水の弾丸がリベリスタ達を撃ち抜いた。滴りに群がられた誰かが悲鳴を上げる。 削り合いながらもリベリスタ達はその地力で押していた。しかし砂時計に残る時間は殆ど無い! 「――さあ、『お祈り』を始めましょう。右手に祈りを、左手に裁きを」 Veni, Sancte Spiritus, Et emitte coelitus Lucis tuae radium 「いずれこの炎が、我が身を焼く日が来ようとも――Amen!」 リリのインドラの矢(さいだいかりょく)が敵陣を焔の色に染め抜いた。 勝敗を分ける重い蓋は天運。 見上げた空には止みかけの雨。運命をこじ開けようとするのは―― 「晴れは好きかな? 植物がよく育つよ、お空が綺麗だよ。 一緒に遊びたいね、お日様欲しいね。そう、思わないかな?」 ――『不運な少女に晴れを望ませようとした』魅零の働きかけ(うそ)なのか。 (次に生まれる時は、外で思い切り遊べるといいね――) それとも、自らの得物の女神に祈りを捧げる『幸運な』アンジェリカの祈りによるものか。 ゆらりゆらりと揺れ動く最後の天秤が僅か、リベリスタの側に傾いた。 空から零れる申し訳ばかりの『雨』は皮肉な世界が彼女に与えた最後の慈悲、恐らくはそれそのもの。 「悪いな――」 何れにせよ、『グランドギャンブラー』はここに居る。 「――この一撃でショーダウンにしてやるぜ!」 ――無罪であれ潔白であれ、断罪するのはこの涼の正義だけ。 閃いた不可視の殺意は世界に人間(ひと)として在り続ける一人の青年の断罪(エゴイズム) 切り裂かれた白い影が暗い世界に何の痕跡も残さない。 ざん、と風が吹き抜けた。 只、静まり返る夜の時間に刃を収めた刃紅郎の一言がやけに耳に響いていた。 「やはり……我は晴れた日のほうが心地よい」 世界がどれだけ痛み(あめ)を望んでいようとも――きっとリベリスタは止まらない。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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