●ぐっない 「皆々様、本日は『見たい夢』が見れるでしょう」 と、『歪曲芸師』名古屋・T・メルクリィ(nBNE000209)がニコヤカにそう告げた。まるで天気予報、不思議な運命予報。 「フェイトを得た友好的アザーバイド『夢見の霧』――霧の姿をしたそれが今夜、三高平を覆います。 夢見の霧の中で眠るとですね、なんと! 『見たい夢』が見れてしまうのですよ」 お腹一杯美味しいご飯が食べたい、と思えばそういう夢が。強い敵と戦いたい、と思えばそういう夢が。憧れのあの人に会いたい、と思えばそういう夢が。 「さて、皆々様はどんな夢をご希望ですか……?」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ガンマ | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年07月06日(土)22:55 |
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■メイン参加者 26人■ | |||||
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●オヤスミナサイ 曰く、その日の見たい夢が見れるらしい。 それはつまり、会いたい人に会えるという事。ならば眠らぬ手はないと、五月は瞼を閉じる。 「母様」 目の前に居る故人の母を呼んだ。父は居ない。母を置いてさっさと死んだので会えなくていい。五月は母親に駆け寄る。とは言え、何をしたいか特に無いのだけれど。ならば。 「話を、しましょうか」 のんびりと。思えば母の生前は団欒なんて出来なかったから。良いだろう、夢の中ぐらい。 水姫の眼前にも家族が居た。今の姿では絶対に叶える事が出来ない事――『家族と仲良く過ごす日常』。 「今の私は、凄く『ないすぼでぃ』だぜ?」 ドヤァとせくしーぽーず。自称『昔の姿』。18歳ver。ぼんきゅぼーん。本人の願望が混ざった結果なので、仕方ないですね。 マルタ共和国を吹き抜ける風に、ルアの髪が靡いた。赤色のストレートヘア。弟よりも目線の高いその姿は、『何も知らず幸せだった頃』。 学校帰り。勉強と部活の後の心地よい疲労感。3人の友人と街を行く。ナタリアはビスクドールの様な綺麗な金髪が可愛らしく、勝気なティーナは男子としょっちゅう喧嘩をし、皆を見守るフィオレはまるで母親の様に優しい笑顔で。 行き付けの場所は、街のオープンカフェ。頼むのはいつだって、お気に入りのキャラメルマキアート。甘い香りに包まれて。咲かせるのは笑顔と、他愛も無い会話。けれどとっても楽しくて――気が付いたらもうこんな時間! 「また明日ね」 いつもの様に手を振って。軽快な足取りで家のドアを開ければ、「ただいま」と言えば、両親と弟が笑顔で「おかえりなさい」と迎えてくれて。三歳の時にやって来た愛犬のペスがじゃれ付いてくる最中、母親が今日のディナーの献立を教えてくれるのだ。 嗚呼――それは、凄く、幸せだった記憶。 光介は笑顔だった。小さなテーブルを自分と姉と父で囲んで、お夕食。ここは何処のビストロ? 訊ねると、姉が自慢気に教えてくれた。 「そっか、また姉さんが探してきたんだね」 本当、こじゃれた店が好きなんだから。素敵なディナーの良い香りに包まれて、いつも活発で陽気な姉は弟を見遣る。 「光介、こーゆーの家でも作ってよ!」 「またそんなこと言って、姉さんったら」 苦笑を浮かべる。そんな中、ふと父へ視線を遣れば何か耳を澄ませているようで。 「あ、店内のBGM?」 頷いた父がワインのツマミに語り出すのは音楽の蘊蓄。今日もまた。光介は笑みを浮かべて耳を傾ける。何とか派が~とか、始まると長いんだよね。 でも。 わかってるんだ。夢だって。姉も父も、もうこの世に居ないんだって。 こんなにも幸せなのに、涙が出てくるんだもの。 「……ごめん。もう行かないと」 そっと席を立つ。せめて家族の前では笑顔を浮かべて。夢に囚われてしまわぬように。 それはきっとあり得ない夢。 手を伸ばしても掴めない。そんな夢。とっても幸せな夢。 夢は夢でしかないけれど、それでも望んでやまない夢のお話―― ミリィは『何も知らない一般人』だった。 周りには両親が、姉が、優しいお手伝いさん達が。ただ幸せに笑い合う。ありきたりだけど、だからこそ陽だまりの様な。されどミリィは脳の奥底で、これは夢なのだと自覚する。そうだ。これは夢だ。故に、目覚めなくてはならないのだ。 「あのね」 言葉を出そうとすると涙が出そうになって。それを堪えて。笑顔を浮かべて。ミリィは言った。 「育ててくれて、ありがとう。私は、元気です」 それは現実では言えなかった感謝の言葉。 いってきます。そう伝えて。踵を返す。 「いってらっしゃい」 そんな少女の小さな背中にかかるのは、優しい声だった。嗚呼――目が覚めたら自分は泣いているだろう。けれど。その涙は決して、悲しみの涙ではないのだ。 湖の傍はシンと静かで。膝を抱えた羽衣は瞼を閉ざす。 「羽衣」 夢はいつだって優しい。父が、母が、己の名前を優しく呼んで。笑って。髪を撫でてくれて。 しあわせだ。暖かいリビング。流れる時の、刹那までも。 でも――『わたし』はもう、そこには入れない。 わたしはもう大人だから。 わたしにはもう両親が居ないから。 ううん――わたしがそれを壊したから。 死にたくないからって。運命に愛されなかった2人を、殺したから。 嗚呼、夢。わたしに優しくないのね。どれだけしあわせでも、あの日の声が、「殺して」って泣く声が、何処かで。 「ねえ。羽衣が、わたしが、悪い子だったから、みんなみんな失くしてしまったの?」 吐いた言葉は夢か現か。白い頬に流れる涙はひとしずく。ひとりきり。 さぁ目を開けよう。大丈夫。次に起きた時は、また子供の夢を見られるから。 彼女の名は桜嵐と云った。姐御肌で荒っぽくて手厳しいが、誰よりも思いやりの強い優しい人。 恩人にして師匠にして、革醒の切欠となった人。そしてもう、この世には居ない人。 そんな彼女が、亘の眼前に居た。 「ふふ、お久しぶ……ごふぁ!?」 わーいぶん殴られた。 「なんだその口調、気持ち悪」 「え、貴方ですよね、クールで優しい紳士なイイ男になれって言ったの」 「煩いよ青もやし」 「むー言わないで下さいよ、昔よりはずっと強くなりまし……って殺る気満々で楽しそうにナイフ構えるの止めて下さっ うわぁぁぁ!?」 壮絶などたばた劇。猛烈な追いかけっこ。彼女の飛び蹴り。吹っ飛ばされる。地面に転がり、青い空を仰いで――嗚呼。これも、それも、自分が作った物。 でも。亘は笑みを浮かべる。ありがとう。会えないに人に会わせてくれて。 この夢を糧に、更に前へ。 スタンリーの横に座るそあら曰く。 「見たい夢を自分で決めれるなんてすっごいとおもうです。でも夢で願いを叶えてしまってはいけないともおもうのです」 「何故です?」 現実ではどう足掻いても不可能な事、数多の願望。それが叶うのは良い事ではないのか。けれどそあらは首を振る。 「夢で見ちゃったら現実じゃ叶わないかもしれないじゃないですか! 夢に満足して夢の中から出たくないって思っちゃったり、夢でもいいもんとかなったりとか」 「ふむ、一理ありますね」 「そうなのです! 夢で起こったことを現実にすればいいだけなのです。あたし、頭いいのです」 やだ、はずかしい! うねうねするそあらに、「そうですね……」とスタンリーは苦笑を漏らした。その次の瞬間。 「じゃ、あたしさおりんの夢みてくるです」 (えぇー) 「だって夢でも願いが叶うなら叶えたいことあるのですっ」 きりっ。 「神父様!」 三高平公園。神父服をちょっとだらしなく着崩して、ポケットにウイスキーの瓶を覗かせた『その人』に。アンジェリカは思わず走り出す。瞳に浮かんだ涙。抱きついた。見上げると、優しい笑顔。もう一度彼を呼ぼうとして――「待ちな」という声にかき消される。 「蝮原さん?」 振り返ったそこに無頼。銃を手に、険呑な眼差し。 「アンジェリカは――そいつぁ俺のモンだ。離れな」 「お前、俺のアンジェに手出しやがったのか?」 アンジェリカを護る様に立ちはだかる神父と咬兵の視線が搗ち合う。火花。 (え? え?) 一方のアンジェリカは顔をボフンを赤くして。その間に二人の男は死闘を開始する。凄まじい音。どうしよう、おろおろ。 「え、駄目だよ、ボク二人共好きなんだもん。ボクの為に喧嘩しないで……!」 止めに入ろうと、した瞬間。 ごつん。 衝撃。 ハッ、と目を覚ました。ベッドから落ちていた。でもその顔は未だ赤く、胸はドキドキ。 神父様と蝮原さん、一体どっちが勝ったんだろう? レイラインとかじかみテリー。二人きりで夜空をデート。現実じゃ出来ない事を、という訳で。 「ほれほれ見て見てなのじゃ! わらわも今夜は空飛べるぞよ~♪」 尻尾をくるくるぱたぱた、空を飛ぶ。 「よっしゃ、じゃあ追っかけっこでもすっか!」 「のぞむところじゃて」 ※理想:まてまてこいつ~うふふ~つかまえてごら~ん ※実際:ソミラのガチ勝負 でもまぁ楽しいからいいか。 「いやー、飛べるって気持ちいいもんじゃのう……ん? どうしたのかえテリー?」 ふと見遣ったテリーの顔が真っ赤だった。呆然とレイラインをガン見している。夢の中でも風邪をひいたりするのだろうか……と思った瞬間。レイラインは全てを理解した。 現在位置:テリーの上空 今日のお召し物:店員曰く『暑い夏場に彼氏を悩殺☆超ミニスカ仕様ですわ!』 「み、み、み、見るにゃぎゃーぁー!!」 「夢見の霧さんありがとう!」 褐色の荒野に、乾いた風が吹き抜けた。 長く靡く赤いマフラー。夜明けの光を背に受ける男の名は、コヨーテ。見澄ます先には、熱に揺らめく地平線の向こうからやって来る、敵の大群。 「フフ……迎え撃つ!」 拳をガキンと搗ち合わせ。鬨の声を張り上げて。男は、荒野を往く。 おおおおおおおッ。獅子奮迅、敵の真っ只中に飛び込んで。唸りを上げる拳。空を切り裂く蹴撃。荒々しくも華麗な身のこなし。傷付こうとも己で傷を癒し、拳を燃やし、立ち向かう。 立ち続けていられりゃイイ。敵が誰だとか、どうしてとか、全部どうでもイイ! 終わりだって来なくてイイ! 命が燃え滾る限り、永遠に、この拳は敵を粉砕し続ける! そんな! 強くて負けねェ! すっげェ! オ! レ! 「……ッくゥ~! 気ン持ちイイーッ!」 物凄く良い笑顔でした。 「何でわたこ、あなたが私の家にいるの? しかも枕と毛布……自分の家あるでしょ」 エレーナは自宅に押し掛けてきたスピカをぺちぺちする。えへへーと笑うスピカはお気に入りのベビードールをふわりと揺らし、ベッドをどーんと占拠。そろそろ休もうと思った矢先にこれだ。エレーナは肩を竦める。 「……流石に今から返しても危ないし今日は良いわよ、寝てる間に変な事しないように」 「分かってるって」 エレーナのジト目にスピカは苦笑で返し。電気を消して、おやすみなさい。 で。 朝。 目覚めてみると。 「夢のマシュマロおっぱいになってた!」 ぱんぱかぱーん。推定Hカップ。『ぺたん』が悩みだったスピカは一度でいいから魅惑のたゆんおっぱいをこの手にと願い続けていた。それが、今、ここに。これには感涙を禁じえない。 「見てみてエレーナわたし超ないすばでーになってt」 感動と共に振り返ったそこには。 「ん……あれ、私こんなに背が大きかったかしら? それに……お胸がたゆんに……びくっくりなの」 でもこれでちみっこだのぺたんなんて言われないの。目覚めたエレーナは片手で自分のをむにむにしながらもう片方の手でガッツポーズ。 「エレーナがアダルトロケットおっぱいになってるっ」 「ってわたこもたゆんになった上にアダルトに」 「うーん……でもこれなら二人で色々遊べそうね」 「……心なしか。エレーナの方が大きくない? ちょーっとチェックさせてよねっ」 「っていきなりもまないのーー」 真っ赤っ赤になるエレーナに、おりゃーとちちもみ攻撃を仕掛けるスピカ。なんて、ベッドでキャットファイトをしていると。 『目が覚めた』。 「ふぇ……ゆめ?」 「夢……」 目を擦りながら、ハッと。己の胸を見てみれば。 「……ええ、夢ね、ええ……」 「ですよねー……夢……」 ぐすん。 「ボクが来たからにはもう好き勝手にはさせないぞ! フィクサード」 「げぇぇぇ! お前は三郎太! アークの三郎太だなっ!!」 『アーク精鋭リベリスタ』である三郎太の登場にフィクサードがたじろいだ。だが戦意は失っていない。故に、三郎太は後輩リベリスタと仲間である精鋭リベリスタにアイコンタクトを。 相手はかのバロックナイツの幹部だ。油断はできない。 「行くぞぉおおっ!!」 そして強く地を蹴って――目が覚めた。ベッドの上で呆然。そして夢の内容を思い出して、恥ずかしくなって、ごろもだ。 三郎太の夢は少しでも早く一人前のアークリベリスタになる事で。出来すぎた夢だ。でも――夢を夢のままには、したくない。 いつか、絶対に、正夢になるように。 「……頑張ろう!」 きっとやれると信じて! 「ふふーっ、どんな夢がいいかな?」 ルナはニコニコ考える。美味しい物もいっぱい食べてみたいし……うーんと、うーん……考えていると瞼が重くなってきて。ああ駄目だ、しっかり考えてから眠らないと―― 「はっ!」 気が付いた。眼前には、沢山のお菓子! わぁっと歓声を上げる。いただきます! 「ふふーっ、こっちの世界のお菓子は本当に美味しいよね!」 あっちにも美味しいものはあったけれど、それはどれも見知ったものばかりで。この世界は常に変わっていて、知らないもので満ちている。だから、ルナは思うのだ。この世界を見て回る為にもこれからも頑張らないとっ! その間にもモグモグ。ああ、しあわせ…… 「はッ!?」 目が覚めた。突っ伏していた机に涎の海が出来ていた。 あれ。今、何か夢見てたっけ? ベルカは霧の中、ベンチに座っていた。彼女は今『後藤』を待っている。夢特有の謎設定。 そこに現れたのは一人の男だった。 「隣、宜しいですか?」 「ええ、どうぞ」 そして始まるのは他愛も無い世間話。なのに、その男は初対面なのに妙に親しげで。しかしその口調は知性と優しさが感じられるもので――そうこうしていると彼は立ち上がる。礼を述べて、踵を返す。 「待ってくれ。もう少し話を」 「なに、また三高平でお会いできますよ。私はいつもリベリスタの皆々様を応援しとりますぞ!」 驚くベルカに振り返る、その男は。まさか。貴方は―― 「そう言いかけて。目が覚めたのです。不思議でしょう、同志ティバストロフ」 いつもの様にメルクリィの肩を磨きながら。 「ただ、どうしてもその人の顔を思い出せんのです……」 「ふむ。……いつか、会えると良いですな! そうそう、夢と言えば私も――」 『メルクリィ、たかいたかいしていいぞ』 陸駆の目の前には、メルクリィ。「勿論ですぞー」といつもの様に高い高いしてくれる。怖い顔だけど優しい大きな男。自慢の友達。年齢が倍以上も違うけれど、そんな事は天才にとって些事でしかないのだ。 「僕はメルクリィより大きくなるぞ! あと10年たったらな! 楽しみにしていいのだぞ!」 「目指せ2mですな! 応援しとりますぞ~」 うむ。と頷いて。高い高いの後は、その膝の上に。理由は知らないけれど、彼の膝の上は落ち着いた。機械の手で撫でて貰うと、もっと落ち着いた。 「果報は寝て待て、寝る子は育つのだ!」 「では、おやすみなさいですね」 「うむ! おやすみなさいなのだ!」 「――という夢を」 笑顔でメルクリィはそう言った。その膝の上では、陸駆が静かに寝息を立てていた。 ●ゆめをみるから、ひとはつよい いつも隣に彼女が居た。意地っ張りな癖に繊細で、毒舌で我儘で。なんで自分の事を好きなの? なんて思った事もあったけど、それでもやっぱり、いつも隣に居たのは彼女だった。 ずっと一緒にいれると、思っていた。 「なあ、こじり、そうだろ?」 目の前に居るのに。夏栖斗の言葉に、彼女は無言だった。そんな彼女を抱きしめる。ぎゅうっと。暖かい。彼女のかおり。涙が溢れる。嗚咽が零れる。背中が震える。泣きじゃくる。子供の様に。 まだ生きているって信じてるんだ。自分の手から離れてしまったなんて嘘だ。そんなの嫌だ。 そんな夏栖斗を、彼女は困った顔で優しく撫でる。頭を、頬を、唇を。仕方ないわね。そんな眼差し。優しい目。 分かってる。全部。これは夢だ。 「もっと思い出を作りたかった、もっとかっこいい男になってこじりを守りたかった……こじりの自慢の僕でありたかった!」 先に逝くなよ。何でだよお。どれほど泣いても喚いても。 「いいから帰ってこいよ、こじりぃ……!!」 ただ、目を閉じる。 見付けたのは馴染み背中。 「おいおい、何でこんな所にいるんだよ」 「虎鐡?」 虎鐡が呼びかけると、振り返ったのは咬兵だった。 ここは夢の中。これは虎鐡の夢。だから――偶には弱音をぶちまけてもいいよな。 「まぁいい、ちょっと付き合え」 座れよ。促して。向かい合う。酒があるのもきっと夢の中だからだ。 「先日よ」 目を細め。酒を含み。虎鐡は徐に語り出す。 「……俺の大切な家族が逝っちまった。息子の嫁になる奴が掛け替えのない大事な娘を守ってよ。 俺は剣林だ。戦いの事は分からなかったしそれ以外に興味も持たなかった。だからよ……」 溜息一つ。目を伏せる。この感情が何なのか、良く分からないのだ、と。 「傷ついてるあいつらを見てるとどうしても目を逸らしたくなる……俺はもっともっと強くならねぇといけねぇんだろうけどよ……やっぱしんどいぜ……」 普段は絶対に言えない事。聴かされる咬兵には迷惑かもしれないが……これは夢だ。夢なのだ。天を仰ぐ。咬兵はじっと虎鐡を見据えていた。 「それでも前向いて進む他にねぇだろうが。『強くならねぇと』って思ったんなら、血反吐はこうが最後まで覚悟決めやがれ」 無頼の溜息。けれどそれは、何よりも大切な友人だからこそ。「これは夢だからな」と付け加えて、咬兵は虎鐡の杯に酒を注いだ。 目の前に居る青年の名を、悠里は知っていた。三ッ池公園の戦いにおいて、自分達を護って散って逝った彼の名を。 「創太くん」 渦巻く感情。上手く言葉にならなくて。それでも、紡いだ。 「僕はね、恩返し、かな……いや、ちょっと違うね。君の行動の正しさを証明したい、と思うんだ」 拳を突き付ける。『勇気』の左手を。 誓おう。あの場所を取り戻すと。 証明しよう。君が守った僕達に、その価値があった事を。 強くなろう。強くなる事が、君の生きた証になると信じて。 「君のことを誰にも馬鹿にさせない。誰よりも勇敢で強くて、優しい剣士のことを」 謝る事はしない。謝罪は彼の信念を穢す事と同義である。 だから――「ありがとう」。 「またいつか、遠い日に会おう。それまでの間、さようなら」 「負けた」 瀬恋は、眼前の咬兵に告げた。 「同じ相手に二度も負けちまった。何も、出来やしなかった」 こんな事、本人に言えるわけがない。だから『今』、瀬恋は言うのだ 「頑張った、よくやったって言う奴もいるかも知れねえ。だから何だってんだ……あの場所を奪われて、仲間が殺されて何をやったつーんだ!」 糞。糞。ムカつく。あの糞共め。けれど、何より許せないのは自分自身で。そして、終わった事はどうしようもなくて。 この苛立ちはきっと、借りを返さないと消えやしないのだろう。その為に、先ずあの場所を取り戻し、駄犬共を一人残らず徹底的にブチ殺す――絶対にだ。 「でもな、じっとしてられねえんだよ。このむかつきを抱えっぱなしってのは無理だ」 だから。構えるのは、拳。夢の中だけど、夢の中だからこそ。 「付き合えよオッサン。憂さ晴らしによ」 「……いいぜ。かかって来い」 ゴキン。鳴る拳。踏み出す脚。応えるように瀬恋は咆哮を張り上げる。 今は、今はただ、何も考えずに、殴り合いたい。 人が記憶を脳内で再生し、情報として取り込む過程で生まれるもの。即ち、夢。 ならば今、自分が見ているものは何だろうか、と鷲祐は思考した。間違いなく自分だ。だが今の自分ではない。髪は長いし眼鏡も無い。革醒前の自分だろうか。そう見えるが、その実態は? 記憶の再生か、情報の過程か? 不明。今の自分には。ならばこの夢は何なんだ? 過去の自分を見ている事に何の意味が? 「己を見つめなおせということか?」 今撃ち放った弾丸は今の自分なのだろうか。考えれど答えはなく。夢が答えを示す事はなく。 だからこそ。 「……強くなるさ」 オレが見てぇ夢ってのはなんだろうな。寝れば分かるか。そう思って、火車は目を閉じた。 そして、『目を開けて』。朝だった。テレビを見ながら用意された朝食を摂り、ああ今日はどんな事すっか、なんて、ぼけーっと考えて……いると。 ぐいぐい腕を引っ張ってくる手と、授業参観の旨が描かれたプリントを眼前に突き付けてくる手と。 「ちゃんと来てよね、『コレ』」 「こねーとなぐるからな!」 「うっせぇなぁ そりゃ行くだろ当然だわ」 全く姉弟揃って。誰に似たんだか。苦笑しながら、火車は二人の赤い髪に掌を置く。 「安心しろよ。オレもアイツも行くし 交代で両方見るからよ」 「「運動会も?」」 「ちゃんと二人揃って行くって……アイツ等のガキにだきゃあ負けんじゃあねぇぞ?」 父兄参加は毎年熱くなっちまうから抑えねぇとなぁ。子供臭くはしゃぐ二人に、目を細めつ。 なんて。 「ククッ……くっくっくっく……ッ!」 嗚呼。こりゃあ、夢だ。理想的でロマンティックて。正しく『オレ』の夢なんだろう。 そうだ。夢だ。でも、夢だ。 「夢なんだよ……っ!」 吐き捨てた。夢。希望。現実――だからこそ! 「突き 拓く! 圧し 通る!」 そして火車は、『目を開く』。 ●昨日にサヨナラ、今日にオハヨウ ぼっち()だけど、今日の竜一はテリーへの腹パンを自重。その代わり、彼の前に居たのは。幼女! 「こんばんは、夢見の霧です」 それはアザーバイド『夢見の霧』だった。姿は多分、竜一のカルマ的な願望の具現的な。友好的という情報に違わず、彼女は優しく微笑んで。 「私に会いたいだなんて、変な人ね」 「折角会えたんだ。どうせ別れるなら、もっと仲良くなってからの方がいいだろ? これも一つの合縁奇縁さ」 一期一会の縁は大事に。そう言う訳で、にやりと笑った彼が携えるのはギター。異文化交流には、言葉より分かり易いものがある。 「さあ! 俺の曲を聞けー!」 新進気鋭バンドBoZのギタリストは伊達じゃない! ミュージック&ミュージック。 皆の夢に流れる音楽。 更にコインがキラキラ、降り注ぐ。 「あーっはっはっはー!」 豪快に笑う陽子は手を広げると共に大量のコインをばらまいた。そこはラスベガスのカジノ。大勝ちに大勝ちだ。スロットを回せば777、ルーレットの席に入れば番号をピンポイント的中、ポーカーをすればロイヤルストレートフラッシュ。 ジャカスカ稼いで築き上げたコインの山。あぶく銭ならぬあぶくコイン。嗚呼、どうせ夢だ。だったら盛大にお裾分けといこうじゃないか! さぁ振れ、金の雨。何処からか聞こえる歌と共に。 どいつもこいつも楽しくなっちまえばいいのさ! きらきら。 目を、覚ます。 「……」 エリスは自室のベッドの中に居た。見た夢は、かつての暮らし。 もしも、という仮定が有るとするのなら、自分の生活はもっと穏やかで、感情豊かな人生を送ったのだろうか? 冷静な観察だった。冷めた目だった。そうして覚めて。でも、頬には濡れた感触。 窓を見遣る。朝日が差し込んでいた。 そして、今日もまた、一日が始まる。 『了』 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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