● 誰だって欲しい物があると思う。 そう告げる喝宮コトハにとって知的好奇心を満たす事は何よりも有意義な事であった。 自身がやりたい事を出来る逆凪はとてもいいところだと思う。頷きながら彼女がある程度の規模がある駅前に構えたのは『逆凪』の名を持った化粧品のテスター配布のブースであった。 「喝宮さーん、マジでやるんスか? 面倒なんスけど。誰花さん居ないし帰っていいですかね」 「上司居ないと帰るんです? 苛めです? やだなー。コトハも怒っちゃうぞ」 ぷう、とワザとらしく頬をふくらます先輩に楸ヒイロが小さくため息をついたのも仕方がないだろう。 『ドラマチックシンドローム』喝宮コトハは別に出世にも興味はない。逆凪の一社員としてぼんやり過ごすだけでも良いのだが、どうせなら興味のある事で一つ社へと利益を齎そうと思った次第であった。 「このアーティファクトですね、『マジカルキラー』を女性に配布して、美しくなったと思いこませる事がどれ程出来るか。まあ、99%出来そうですけどね! ちょっと観察してみたいのですよ!」 「んでもって?」 「継続使用することでノーフェイスへと変化させる事ができる。どれ位使い続ければ出来るか判りませんし、検体は多いに限りますですから。ヒーロちゃんだって、これ研究して『上司』とかに持って帰ればいいです。 なんたって、言う事を聞かせる事ができるノーフェイス生成実験ですからね!」 役に立つですよ、とへらへら笑う女は営業の顔に切り替わり、近場に居る女へと「綺麗になるプレゼント無料配布中ですー」と香水を差し出して居た。 ● 「悪趣味っちゃ悪趣味だけど、ある意味頭が良いとでも言えるのかしらね」 首を傾げた『恋色エストント』月鍵・世恋(nBNE000234)が差し出したのは香水である。赤い瓶に入った液体の量はそれ程は減って居ない。 「それ、ダミーなんだけどね、普通のお水が入ってるの。それと同じ瓶に入れられた香水の無料配布を行っている逆凪のフィクサードが居るわ。 香水はアーティファクトから精製されるものでソレを小分けにしてるみたいなんだけど、この効果は『一般人に使用する事でノーフェイスを作り出す』事と『幻覚作用を齎す事』となっている見たい。何がしたいかというと、テスターをバラ撒いて効用実験ってわけね」 瓶を揺らし、なんともまあ、と世恋は呟く。ソレだけで有れば、簡単なアーティファクト実験と変わりない。 悪趣味、と告げた部位にリベリスタが首を傾げた事に世恋は待ってましたと言わんばかりに微笑んだ。 「因みにこの香水、キャッチがありまして『きれいになれるプレゼント』とかいうものなんだけど。 主に女性客に配布して、自分が綺麗になったという幻覚を見せつける。それから、その香水を欲しがる客に配布し続ける事で操作可能のノーフェイスの作成を目的としているのね」 「何でまたノーフェイスの作成を?」 挙手をし質問を行うリベリスタへと世恋も何故でしょうねと小さく首を傾げる。 「戦力の増強とか、あとはフィクサードである喝宮の趣味とも言えるでしょうね。 何であれど逆凪は全てを含むわ。喝宮コトハは恐山や三尋木、六道に属するよりもより手広く自分のしたい事を出来ると思ったのでしょうね」 はた迷惑なフィクサードだわと唇を尖らせた世恋は資料を捲くりながら情報よとリベリスタへと伝える。 「喝宮コトハ、及び6人のフィクサードが駅前で香水の配布を行っているわ。ソレの補佐として楸ヒイロという男も一緒に動いてるみたい。コトハがホーリーメイガス。ヒイロがダークナイトよ。後者は働き者なので、コトハの趣味に興味がある……みたいね」 何かを含む様に告げた世恋は咳払い一つ。お願いしたい事があるのよ、とリベリスタを見回した。 「皆にお願いしたいのは彼女等が配布している香水の元となっているアーティファクトの破壊。 『マジカルキラー』という名前なんだけど外見は普通の瓶よ。その瓶は同じ様な容器を並べた駅前ブースに同じ様に整列してる。コトハ達も皆が現れ、マジカルキラーを壊そうとすると其れなりに対応を行うと思うわ。一般人への被害を出来る限り軽減しながらそのアーティファクトの破壊をお願いね?」 それでは、どうぞよろしく頼むわね、と世恋はリベリスタへと手を振った。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:椿しいな | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年06月28日(金)23:32 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● ざわつく駅構内で「きれいなれるプレゼントです」と可愛らしい声を発する女が居る。ルージュをひいた唇が紡ぐ言葉を耳にしながら幻視で白い翼を隠した『虚実之車輪(おっぱいてんし)』シルフィア・イアリティッケ・カレード(BNE001082)が『落ち零れ』赤禰 諭(BNE004571)と腕を組みながらそのブースへと近付いて言った。彼女の胸元で小型犬が震える。 「……いい子ですね」 小型犬に語りかける諭の声に犬は小さく鳴き声を漏らす。ファミリアーを駆使し、小型犬を五感を共有する諭は何処か緊張した面差しで逆凪ブースへと足を踏み入れた。 ブースから離れた場所でその様子を千里眼で確認しながらハイテレパスを駆使し、情報を共有する……心算であったが、その術を持って居なかった『朔ノ月』風宮 紫月(BNE003411)は周囲のフィクサード――革醒者の有無を認識しながら行き交う一般人の姿を視認する。現状の作戦の要であった彼女のハイテレパスではあるが、その用意を整えて居ない紫月は幻想纏いを手に、困りました、と小さく呟くのみ。 「しかし、フィクサード達七派とは戦いは避けられぬ状況。こちらの疲弊も何れは起きうる事でしょうが……」 「一先ずはやるべき事、ですね。逆凪は遣る事が手広うございますね」 困った様に笑う『紫苑』シエル・ハルモニア・若月(BNE000650)は懐中電灯-星の欠片-を握りしめながら灰色がかった翼を隠す。目標たるアーティファクトの場所を探る紫月を伺っている。代替策として幻想纏いを用意していたシエルに、仲間達はその通信が繋がっている事を確認して頷きあった。 人通りの少ない裏路地をリサーチした 『運命狂』宵咲 氷璃(BNE002401)は純白の六つの翼を幻視で隠し、人払いを行っている。翼が無い以上、幼さを残す氷璃に何処か戸惑いを隠せない一般人ではあるが、その補佐を行う『Type:Fafnir』紅涙・いりす(BNE004136)が一般人にしてはやけに尖った牙を出し嗤うものだから一般人達もそそくさとその場を後にしていた。 用意した通行止めキット。周辺地図で把握した地形に人気の無い場所を探したいりすは何処か寂しげに肩を落としている。いりす自身、一つの目的が合ったとも言える。逆凪ブースに居る楸ヒイロという男は一度アークとの接触を行っていた。 (楸様にはナポリタンについてお話し致しませんと……) 何処か不思議な問いを一度は繰り出した事のあるシエルの記憶にも新しい。いりすの狙いはヒイロの友人――ひょっとすれば上司に当たるのかもしれない――であるイナミという剣士であった。 「いなみんがいない……小生がっかり。激しくがっかり」 「ええ……ですが、あまりに人が居過ぎると此処は面倒な戦場ですね」 工事現場等の標識。看板を立て掛けながら周囲の感情を探しまわる『戦奏者』ミリィ・トムソン(BNE003772)は一般人を警戒する様に目を細める。裏方としてこの戦場を整える彼女等は所謂アークとしての戦歴が多い面々である。普段は表舞台で活躍する彼女たちではあるが、今は『アークである』事を悟られぬ様に行動していたのだ。 紫月がちらり、と仲間を見やる。ブースに近寄るシルフィアと諭、その様子を携帯電話を弄りながら伺う『無銘』熾竜 伊吹(BNE004197)は溜め息交じりにその様子を眺めている。彼の超直観を駆使した観察眼はその戦場を上手く見極めていた。 「さあ、動き出しますよ」 「はい……誘導して下さるお味方を信じつつ最善を尽くしましょう」 きゅ、と両手を組み合わせ紫苑乃数珠-祈-を握りしめるシエルにこくりと頷いた氷璃が薄氷を想わせる柔らかな髪を指先で弄りながら箱庭を騙る檻を開いた。 ● 運命の寵愛を得れるアーティファクトなのであればそれで戦力の増強をと考えたシルフィアであるが、運命の寵愛を自由自在に得れるアーティファクトでない『マジカルキラー』は所謂、革醒を促すだけの残念兵器と言えるであろう。 「ねえ、責任者を呼んで頂けない?」 真っ直ぐに逆凪のフィクサードたる楸ヒイロに向かうシルフィアであるが、青年は幼さの残るかんばせでじ、と彼女を見据えた。胸元で揺れる幻想纏い、幻視で隠した翼はヒイロの目にはばっちり移っている。 「……何スか?」 「いいえ、貴方方が配った香水が不良品だったようでしてね、彼女がお怒りなんですけれど、どうにかしてくれません?」 やれやれと言った様子で肩を竦めた諭にヒイロが訝しげな視線を向ける。それもその筈だ。一般人に配っていた香水を革醒者には配って居ないのだから。男が品定めをする様にじろじろとシルフィアと諭を見詰めている。その間にも楽しげな声を上げて香水を配り続ける喝宮コトハはアーティファクトの所在を認識しながら平気な顔をしてその仕事を続けている。 「綺麗になれるプレゼント。試供品ですよぅ! お一つ如何?」 まあ、素敵等と声に出し受け取っていく女たちに伊吹は妖しい売り文句に踊らされ過ぎだろうと溜め息を吐かずには居られない。女心はどうにも解せぬ。優しい言葉に踊らされ、そして平気で文句を口にする。いやはや、女という物は判り難くそして判り易い。裏表がある人種であるとは良く言われるが、此処までのものであるか。 (……最近は女に振り回される仕事が多い気がするのだ……) 女運の無さに悪態をつきたくなる気持ちも致し方ないと言ったところであろう。じ、と見詰めるヒイロの動きが極端に変わった事を伊吹は気付き、一歩足を踏み出す。 「あー……オタクさんら、革醒者ですよね? で? 此方が何かしたって?」 「知り合いから貰ったこの香水、ちっとも効かないじゃないの! どういうことなの!?」 責任者が来ると認識し切っていたシルフィアにヒイロは全くそのそぶりを見せない。新入社員的な風貌であると言っても彼も立派な逆凪の『社員』である。クレーマーの様にちくちくと文句を言い続けるシルフィアに対して、男が詰め寄る。 「革醒者には香水を配ってないんスよね」 「あ、あと、犬がこの香水に興味があるみたいです。良いですかね?」 くんくんと鼻をひくつかせ前足を伸ばす小型犬を見詰めたヒイロが良いですけど、と香水を手放した。俄然、クレームを続けるシルフィアも仲間からの相互連絡が無い事に何処か不安を覚えずには居られなかった。 「だから! 責任者を出しなさいよ! こんな水みたいなのが新商品ですって!?」 香水のクレームを続けるシルフィアとソレを受け流すヒイロの間にす、と入る伊吹がサングラスに覆われた視界で困った様に肩をすくめる。 「やれやれ……お前らカタギではないだろう。こんな所で騒いでいいのか?」 「まった、革醒者が増えた……。コトハさーん。何か可笑しいっスよ!」 肩を竦め大声で言う言葉に香水を配り続けていた女がちらりと見詰める。逆凪のフィクサードが違和感を感じるのも仕方がないだろう。配っても居ない香水へのクレームをつけ続ける女に、その仲裁に現れる革醒者。 「で、騒ぐのはNGなんスか? こわーいバックがいるとか?」 「ああ、近頃有名な正義の味方が飛んでくるかもしれんぞ?」 「『アーク』……?」 こてん、とワザとらしく首を傾げた女がゆったりと笑う。回復を得意とした女がひゅ、とシルフィアに向けて飛ばした魔力の矢は避ける事を得意としない彼女の胸に突き刺さる。 「ッ、な!?」 「ずーっとクレームつける女はモテないって言ってましたですよ? まあ、良いんですけども!」 くすくすと笑うコトハ。その様子を遠くから眺めていた紫月は立ち上がり、準備いたしましょうと仲間を促した。 ● 騒がしさを増す戦場では一般人も何かのデモストレーションであるかのように彼女等を見詰めている。 「ねえ、こんな所じゃ周りが五月蠅くて話もできないわ……!」 もっと静かな場所にとワザとらしく騒ぎ立てるシルフィアにいら立つようにコトハが攻撃を繰り広げる。その仲裁を行う様に、伊吹と諭に視線を映すヒイロは「場所を変えよう」という言葉に応じることなく、武器を手に取った。 「……そこまでです! 御機嫌よう、逆凪の。貴方達にとっては確かに『社への利益』であるかもしれませんが、ソレは御社以外となると最悪以外の何ものでもありませんね」 始まって居た戦闘に一歩遅れながらも辿りついた『待機班』の面々は其々が戦闘の準備を整えている。気になる人目に、整えていたバリケードが上手く活用できなかった不甲斐なさもあるが、此処からが本領発揮だとミリィはフィクサードを見据える。 滑り込み、声を張り上げるミリィの元へと社員たちが武器を手に詰め寄った。出し物の様にも見えるそれを掻い潜り、鼻をくんと鳴らしたいりすが何処か哀しそうな顔をしてヒイロへと詰め寄る。 「やあ、今日はいなみんはいないの?」 「来てないッスね。残念ですけど直刃の皆さんはお仕事が忙しいんスよ」 見慣れた顔にヒイロがやっぱりアークだと笑う。シルフィアから離れ周囲に存在する一般人に避難を呼びかける諭は年よりか幾分か若く見える顔から普段の飄々とした雰囲気を消し、真剣だと言った風に赤い瞳を剥ける。 「三途の川が満員御礼溢れるとややこしいんで、さあ、みなさん離れて下さいね? さあ、逃げて逃げて。危ないですよ。巻き込まれて良い事ないですよー」 明後日を指差し、一般人を散らす事を真っ先に考えた諭の背後、くす、と笑う氷璃が何処か呆れを灯し、傘を握りしめる白い指先でコトハを指し示す。 「あら、逆凪の社員がこんな所で騒ぎを起こす心算かしら? 逆凪の名を掲げている癖に……」 「どうやらソチラさんが避難活動をしてくれてるみたいッスから良いんじゃないですか? てゆーか、傍から見てれば難癖つけたのは其方のお胸の大きなお姉さんですしね」 へらへら笑うヒイロ。今のうちだと瓶を握りしめ、逃げ出そうとしたコトハの前へと立ちはだかったのはシエルであった。何よりもその瓶を以って逃走される事が一番の困り所だ。アークの代表として逆凪カンパニーに訪れた事のある氷璃までが現れたこの場で戦闘を行うのは『利益』よりも『損益』が多くなってしまうのではないであろうか。 「……逆凪の皆さん、御機嫌よう? 私達からお話しがあります」 「私は私に出来うる事をさせて頂きたい。皆さんの利益が私の損益につながるのです。 ……そのマジカルキラー、此方に渡して頂けませんか? その場合はこの場は見逃しましょう」 配下であるフィクサード達の一斉攻撃を受けながら声を張るミリィの言葉を受けても損益よりも利益が大きいと判断したのかコトハが真っ先に広げた閃光が周囲を焼き払う。唐突な攻撃を避け、氷璃がくすくすと笑いながら血の鎖を繰り出した。 「全く以って悪趣味な実験だこと。好奇心は猫を殺す、とその身に教えてあげましょうか?」 箱庭を騙る檻が満天の星空を映し出す。敵が逃走するのではなくその場で戦闘を行ったのは予想外ではあったが、上手い事避難誘導を行い始めた諭のお陰か彼女は自由自在に戦いを行えるようになっていた。 マジカルキラーを握りしめたコトハを見据え、広い視界でカムロミの弓の先を定めた紫月は真っ直ぐにその手を狙う。咄嗟に反応するコトハがソレを庇うが、掌から零れ落ちそうになる瓶が少し欠け、女の戦闘意欲を煽るに過ぎない。 「此処から逃がす訳にはいかんのでね」 乾坤圏を構え、未だ人目がある事を気にして、真っ直ぐに拳を突き立てた伊吹はシエルの援護に入っている。逃走する余地なく包囲網を完成されているコトハは自身の部下たちに戦闘態勢を整える様にと声を張り上げた。呆れの色の濃いヒイロが放つ黒き瘴気に最初に狙われたのは至近距離に居たシルフィアである。 クレームによって挑発を続けたからか、男の攻撃を真っ直ぐに受け止めた彼女は抵抗を見せる様に仕込み杖を翳し、一歩下がりながら雷で敵を穿つ。 彼女を支援する様にお祈りを続けるシエルは癒しの息吹を呼ぶように手を翳す。ヒイロを狙ういりすの無銘の太刀が淡く輝き、寂しげな濁った瞳を青年へと向け続けた。 「いなみんのお顔なめなめしたかった。仕方ないから猫の尻尾もぐ」 「ちょっ、喝宮さーん! 尻尾もがれそうッスよ!」 「いやああ!? 継澤が居ないから!? 何、その理由!」 この戦場に存在せぬ逆凪のフィクサードを求めるいりすに慌てて回復を行いながら、部下へと指示を出すコトハ。前線へと繰り出すデュランダルの剣を受け止めるミリィが一歩下がったところへと氷璃の黒き鎖が絡みつく。 「失礼、手が滑りました。お手元のゴミを代わりに処分しようと思ったのですけどね?」 くつくつと咽喉を鳴らし遠距離での射撃を行う諭にコトハが舌打ちを漏らす。彼女の様子を見てか、混戦状態となったリベリスタ達の陣を乱す様に逆凪フィクサードが生み出す不可視の刃が前線で戦うフィクサード諸共に攻撃対象にと含んでいた。この場での戦闘が『逆凪の不利益になる』と告げ続ける氷璃による攻撃に、全体を見据える紫月の炎の矢が交わり続ける。焔はめらめらと燃え続け、フィクサードの動きを阻害し続けた。何よりもシエルが与える回復が少しずつもリベリスタの支援を徹底し続ける。 ホーリーメイガスであるアーティファクトの所有者はその集中狙いに耐えられないと唇を噛み己の回復の身を行い続けていた。しかし、『逆凪の不利益』だと尤もな言葉を告げた氷璃の言葉もあってか人目のある駅までの戦闘を控える逆凪のフィクサード達にリベリスタはある程度の避難誘導を行いながらも優位に戦う事が出来ていた。想う様に闘い始めたリベリスタが固めた包囲網に『いのちは大事に』の精神で戦い、自身の実験を行いたい『ドラマチックシンドローム』――自分の望む運命が見たいという典型的な女らしさを発症しているコトハの中で『利益』と『損益』の天秤がぐらぐらと揺れる。 「さあ、逃げてしまえば? 正しその瓶は置いてってもらえるかしらね?」 小さく笑みを零す氷璃の鎖が絡み付き、フィクサードを巻き込み続ける。ぎ、と睨みつけるコトハが優先して攻撃を受けるのも全てはリベリスタの攻撃の優先対象に彼女が――アーティファクトの所持者が当てはまっただけだ。 「ッ、いったぁい!」 わざとらしい『少女』っぽさを作り上げたコトハに呆れる様に溜め息を吐きだす紫月の矢がふかぶかと突き刺さる。腕から溢れる血に回復を施しながらもコトハは懸命にリベリスタ達を傷つけるように指示を繰り出して居た。 「小生はいなみんと遊びたいんだけどなぁ」 「新入社員じゃ満足できないッスか? 我儘な人だな」 傷を負いながらも複数対象を攻撃し続けるヒイロにいりすは「恋ってやつは衝動だからね」と応えながらも意地悪く笑った。こぼれ出る牙が光り、獲物を求める様に――空腹を抑える様にヒイロへと斬りかかる。 前線で戦うフィクサードを殴り、その体を地に伏せさせる伊吹に、支援を行う様に繰り出す雷。同時に全体を狙う事が出来るシルフィアは運命を削り、色違いの瞳で前を見据える他ない。 「……何だかねぇ」 全く以って面倒な戦場だと呆れを浮かべるシルフィアが膝をついた所へと、氷璃の黒き鎖が援護する様に飛び交った。癒しを送るシエルが切なげに目を細めるのと同時、弓をキリ、と引いた紫月がコトハの手を狙う。 周囲を燃やし尽くす様な勢いで戦闘を行い続けていたミリィが果て無き理想の先をす、とコトハへと向けた。 「再度警告です。そのマジカルキラー、此方に渡して頂けませんか? そうでない場合は痛い目を……。 言ったでしょう? ね? 私は本気ですよ。喝宮コトハ」 じ、と見据える指揮官の瞳にたじろぐコトハが瓶を目の前に立ち、闘争を妨害する伊吹とシエルを見詰める。手を伸ばすシエルへと瓶を手渡せば、確かに受領いたしましたとシエルは小さく微笑んだ。シエルの前をすり抜け走る女の背を追いかける新入社員の風貌の男は痛みを堪える様に眉を顰めた。 「嗚呼、其処の新入社員。次はいなみんを連れて来るように。小生、寂しいじゃない。いなみんらぶい」 「その告白は本人にやってくださいッスよ。また――」 去ろうとする背中に、あ、とシエルが手を伸ばす。一度見えた事のあるその顔に警戒する様に青年が動きを止め、じっと彼女の顔を見詰めた。周囲を囲む影人の妙な圧迫感の中、戦場である事を忘れさせる笑みを浮かべたシエルがヒイロ様、と仲の良い知人へ声をかけるが如き雰囲気を纏い呼び掛ける。 「ナポリタンお好きでしたよね? 私のお勧めは七色の霞というお店なのですよ」 唐突な声掛けに足を止める青年に未だ警戒したままの伊吹と紫月は武器を下ろさずに青年を見詰めている。で、と続きを促す青年に安心したようにシエルは笑い、質問が、と首を傾げる。 「ヒイロ様、粉チーズはどの程度かけますか?」 「気分に寄りますね。我々、気まぐれなんで!」 思わず気の抜ける問いに、小さく笑みを零し、其の侭走り抜ける青年はまたの機会にと其の侭その場所から姿を消す。怪我を負った一般人の確認をしながら、溜め息をつき、氷璃は人気の無くなった駅前を見詰める。 「全く……女としては生まれたから美しくありたい――その弱みに付け込むなんて厄介な猫だこと」 悪態を吐くその声に、応えるものはなく。只、通り過ぎる電車の音だけが響き渡っていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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