● 小さい頃、ヒーローになりたかった。 勿論現実ではアニメやゲームの様にはならず、それは薄れて消えかけていた幼い夢。 まさか突然、得体の知れない化け物に襲い掛かるなんて思いもよらなかった。 その時俺は何も出来ず、ただソイツが迫り来るのを見る事しか出来なくて。 ああ、今ここで死ぬんだと思ったそんな時。 俺の”体内”から飛び出た”槍”が、目の前の化け物を貫いた。 その日から頭で念じると、手足を使う様な自然な動きで槍を取り出す事が出来た。しかも手の届かない遠距離では非常に柔らかく且つ伸縮自由である程度カバー可能。 ……正直、何が起こったかわからないし実感もない。 だけど、この世界にはこんな化け物が人知れず潜んでいて、また誰かを襲うなら。 見逃す事はしたくないと、そう思った。 俺が謎の能力に目覚めてから数週間。 あの日以来やたら変な化け物に遭遇する様になったけれど、全て片付ける事が出来た。其処には誰も居らず、何の見返りも無かったがそれで良い。 (そう言えば、昔ヒーローになりたいなんて思ってたな) 薄れかけていた夢を思い出そうとしていた、その時だった。 「いやあああああああっ!!」 「!?」 耳元を劈くかの様に大きな女の子の悲鳴。それが”アレ”と関係しているかはまだ不明だが放っておく訳にはいかない。……声がした方向はこの距離からは遠くない筈だ! 猛ダッシュで辿り着いた先には、今までも……初めて化け物と対峙した時よりも酷い残状だった。 まず大きなバケツを勢い良くひっくり返した様な血溜まりに、元の持ち主らしき衣類がバラバラに散らばっている。その周りに居るのは大型犬程のトカゲが五体……間違いなく、化け物の一角だろう。 尻餅をついて動けない少女を尻目に、そいつらは真っ赤な塊を千切って貪っている。 「…………おとうさん、おかあさん」 少女が呆然と呟く言葉通りの、直視したくないが。 ああ、”それ”は、”そう”なんだろう。 「……助けてやれなくて、ごめん」 唇を噛み、足を進める。 化け物達は食事に夢中で少女の相手をする余裕はないらしく、お陰で彼女とソイツ等の間に割り込む余裕が出来た。 動けない女の子を庇う様に前へ立ち、化け物を見遣る。 今までに相手した奴等よりも多分、コイツ等は強いだろう。だけど自分がここで退いたら、この子は死んでしまう。 駄目だ、そんなのは真っ平御免だ。 「せめて君だけでも……助けてみせるから!」 今その為に、この力を使うんだ。 俺は背後の少女にそう告げると、体内の武器を敵へ向けるべく延ばした。 ● 「結論として、彼は彼女のヒーローにはなれなかった」 静まり返るブリーフィングルームの一室。水を落とす様に語る『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)の口調は、何時になく重い。 彼女の背後のモニタ―には、呆然とした様子で抵抗の色も見せずトカゲ達に貪り食われる青年の様子が映されていた。ヒーロー志望の生気に溢れていた姿は、其処には無い。 その背後には、年端もいかない少女が血を流して倒れている。青年の奮闘虚しくトカゲにやられてしまったのだろうか。否、それにしてはあまりにも綺麗なままであまりにも無機質だ。まるで”鋭利な刃物”で一突きされたかの様に。 「この女の子は、彼の放つ槍に殺されてしまったの。……故意ではなかったけれど、結果的にそうなってしまった」 リベリスタ達の間に沈黙が広がる。 もしもこの青年が運命を得たならば、リベリスタとして同じ様に闘い続けただろう。運命を、得たならば。 「久我沼隼人、彼はノーフェイスだったの。でも彼自身はそれを知らない。この世界の仕組みについてもはっきりと知らないまま、その力を使い続けていた。……自分の、正義感に基づいて」 しかしノーフェイスである以上はフェーズは進行する。このまま放置しておくと望まずして自身の正義感を傷つける未来になる事は、リベリスタならば理解出来るだろう。 「彼はまだ理性は保てている様だけど、彼の槍が攻撃範囲を見誤る事があるみたい。その事に注意して」 フェーズ進行中のノーフェイスとE・ビースト。対処すべき事は、どれも同じだ。 少し間を置きイヴは強い瞳でリベリスタを見つめ、告げる。 「バッドエンドは絶対に回避して。こんな結末は、誰も望まない筈だから」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:裃うさ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年07月09日(火)22:52 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●1ねん2くみ くがぬまはやと ぼくは大きくなったらヒーローになりたいです。 なぜかというとつよくてかっこいいからだけではなく、人をたすけられるからです。 ヒーローはふつうの人じゃたすけられないような人もたすけてみせます。 ぼくはそんな人になりたいです。 ヒーローになって、みんなのえがおをふやしたいです。 ● 足が震える。 常識外の化け物と対峙したのは、今が初めてという訳でもないのに。 それ程までに目の前の存在は強力に感じた。 だけど背後に少女を下がらせている以上、自分が退く訳にはいかない。 (俺がやらないと……いけないんだ!) 意を決し、目の前の脅威に自ら歩み出そうとしたその瞬間。 「助勢に来たぞ、Mrヒーロー!」 「……!?」 少女――『臓物喰い』グレイス・グリーン(BNE004535)の凛とした声に瞳を見開く。 久我沼隼人が振り向いた先。其処には8人の男女、リベリスタ達が立っていた。 「え、あんた達は」 「話は後です。彼女は我々が引き受けます故」 突然の第三者の登場。今一つ状況が読み込めていない様子の隼人に『ヴリルの魔導師』レオポルト・フォン・ミュンヒハウゼン(BNE004096)が語り掛ける。 その横でグレイスは明るく微笑むと、背後に隠れていた少女の方へと近付き目線を彼女へと合わせた。 「今まで怖かったな。でももう大丈夫だ……お姉さんと一緒にここから離れよう!」 自分の手の位置に差し出された一回りも二回りも大きな手を、少女は受けるべきか少し迷った様子だったが。悪意を感じさせない優しげな笑顔が緊張感と恐怖心を柔らかく解していく。 「スマンな、多少手荒になるが許してくれ!」 「わ、わぁっ!」 差し出された手を握り返し、くいと引き寄せそのまま抱き上げる型となる。少女は小さく驚きの声を上げる、がその声に拒絶の意は籠められてはいない。 「そのまま安全な所まで頼んだでござる!」 「おっけー、そっちこそクソ畜生に鉄槌頼んだ!」 『家族想いの破壊者』鬼蔭虎鐵(BNE000034)へと一声投げかけると、裏路地を軽快な足取りで駆け抜けその影は遠くなっていった。 そこで少女の家族を完全に屠り、噎せ返る様な血の臭いを漂わせながらトカゲ達がにじり寄って来る。 「……これは、ひどい」 周囲に結界を張り巡らせると同時に、レオポルトの顔が歪む。翳る空とアスファルトの色に紛れて見えづらくなっているとはいえ、其処にあった惨状は完全には隠せない。 「っ……どうか、目の前の”獣”に集中を」 唇を強く結び、『風詠み』ファウナ・エイフェル(BNE004332)は隼人の方へと呼びかける。彼は体勢を整えると同時に、リベリスタ達の方へ一度顔を向ける。 リベリスタ、と呼ばれているこの年齢も性別もバラバラの男女の事を隼人は知らない。 だが彼等が自分に助勢に来た事と、嘘を吐いているとは思えない様子も見て取れる。故に、彼はひとつの推測を立てる。 「あんた達も、俺と同じなのか?」 「ああ。……貴方と同じ異能と志を持つ者だ」 隼人の問いに若干の間を持って『百叢薙を志す者』桃村雪佳(BNE004233)が返す。彼の言葉には正確にイエスと答えられなかったが、今その本意は知られなくて良い。 「後で話がある。だが今はこの怪物達を倒すぞ!」 「……わかった、一緒に頑張ろう!」 ”話”とは何かと疑問は有るが、化け物を倒す事に先んじた方が良いだろう。隼人はリベリスタ達を受け入れる事に同意した様だ。 『折れぬ剣《デュランダル》』楠神風斗(BNE001434)の声に力強く頷くと、自身の体内から槍を出現させる。 「……行きましょう。奴らを放って置いてはいけないのですから」 自身に聖霊の加護を宿し。『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)が静かに告げると同時に、リベリスタ達も戦闘を開始すべく行動を始めた。 (ああ、なんて悲劇的なのかしらぁん!) 少女を助ける為に協力し合い、悪へと立ち向かう。 その姿は比極一般的な正義の在り方に等しいだろう。 だからこそ、だからこそだ。そんな様子を一瞥し、『愛と平和と狂気を愛する』ルートウィヒ・プリン(BNE001643)は悲観するのだ。 久我沼隼人。彼は未だ、その先を知らないのだから。 ●BREAKDOWN! 食事の邪魔者。彼等をそう判断したのか、5体のトカゲがリベリスタ達を睨み付け。襲い掛からんと飛び掛る様にして間合いを詰めていく。 対するリベリスタ達も黙って受け入れる訳ではない。異物達へと向かいアラストールを先頭に虎鐡、雪佳、ルートウィヒ、風斗が前へと出る。虎鐡達4人が配下のトカゲを、硬いアラストールが親玉の抑えに向かうという作戦を予めリベリスタは考えていたからだ。 「……ありがとう、正直俺だけじゃ厳しいかもって思ってた」 少し余裕と勇気が湧いたのだろう。この時、初めて隼人が笑みを零した。 そして一足先に飛び出したるは音速の戦士の称号を持つ雪佳。己の大業物を抜き取ると一気に配下のトカゲへと叩き付ける。猛烈に穿ったその攻撃は敵を痺れさせるに充分で、解けるまでは若干の時間が必要になりそうだ。 続いて魔方陣が展開される中、レオポルのト持つ杖から四重の閃光がトカゲの身体の自由を奪う。鋭い牙を持っていようが行動を鈍らせる声を持っていようが、放たれなければ意味はない。 共闘する”仲間達”を横目で見つつ、隼人も負けてられないとばかりに槍をトカゲの方に叩きこむ、つもりだった。 「うわ、っておい! 大丈夫か!?」 「…………!」 だが渾身の一撃はトカゲの前をすり抜け、隣に居た雪佳へと向かってしまう。間一髪で避ける事は出来たが、擦れ擦れの位置まで槍が近づいて来た事は間違いない。 「何でこんな時に限って……何時もはこんなミスした事無いのに」 「否、気にすることはない。大丈夫だ」 雪佳の心配をする隼人から後方、彼に聞こえない様に小さくレオポルトとファウナが目配せ合う。 「これは、中々に」 「……不味いですね」 初手からの攻撃ミス。其処まで彼の中の”時間”は、刻一刻と時を刻んでいるという事だ。 「ならば、尚早く目の前のトカゲ達を倒さなくちゃならんでござるな……!」 猛烈なる戦気を纏い、漆黒の刀が舞う。有り余る力の籠った一撃はトカゲの腹部を深く抉り、避難したグレイスと少女達とは正反対の場所へと吹き飛ばして行った。 仲間を傷つけられたのが理解出来たのだろうか、残るトカゲ達がのそりのそりと間合いを詰めていく。しかし前衛達が、これ以上の浸食を許さない。 「あらぁ、ここから先は通さないわよぉん!」 万全の配下トカゲの一体へと立ちはだかるは黒き衣の混沌。ルートウィヒの鋭利な爪から放たれる打撃がトカゲを穿つ。 爪撃の反動でのた打ち回るかの如く地面に這いつくばる獣を、真空から風斗による刃が襲う。鎌鼬の様に鋭く疾いその攻撃で、トカゲの血がどぽりと地面を伝った。 「その動き、封じます」 蛇の舌をちらつかせながら、重い動作で襲い掛からんとする親玉トカゲに向かいファウナが詠唱開始を宣言する。ふわりと解き放たれた精霊は巨体へと纏わり付き、氷像へと姿を変える。 そして動けない氷塊へと、アラストールが光り輝く己が剣で叩き付けた。 先出して麻痺に氷結を繰り出したリベリスタ達の攻撃は優勢気味、確実にじわりじわりとトカゲ達の体力を擦り減らしていく。 そんな状態から脱出すべく抵抗するかの様に、呪いが付与していないトカゲが虎鐡へと喰らいついた。防御の硬い虎鐡に与えたダメージは少ないものだったが確り回復されてしまっている。 畳み掛ける様に、攻撃を逃れたもう一体のトカゲが金切声を響かせる。不気味な、それでいて悲鳴の様に痛ましくも感じられる叫び声に雪佳、隼人、レオポルトが捉えられた。 「……っ!」 「堪えるんだ、自分が何をしたいかという事だけ考えろ……!」 ずしん、と何か重たい物が上に乗り掛かる様な感覚から抜け出せず困惑する隼人に雪佳が呼びかける。隼人は獲物を確りと見詰めたまま、力強く頷いた。 「俺、は……護りたい。こんな奴等に殺されなくていい人を、助けられる様闘いたい!」 頭に浮かべたのは護れなかった人達と、護りたい女の子だろうか。鈍る身体を引きずりながら、放つ槍は今度は逸れずトカゲを貫き通す。 こうしてダメージを蓄積し続けた結果、消え去るのは一斉で。 「神聖四文字の韻の下に。……我紡ぎしは秘匿の粋、禍つ曲の四重奏ッ!」 先ずはレオポルトの放つ光条により、悲しげな声を上げて一体の配下トカゲが白へと融ける。続けてファウナの放つ光球がもう一体のトカゲを強かに打ち、風斗の刃が止めを刺した。 残るうちの一体は未だ抵抗するかの如く虎鐡へと噛みつくが、矢張りダメージは与えられず。お返しでござるとばかりに勢い良く叩きつけられた剣戟が致命打となり、ルートウィヒの爪が完全に葬り去る。 攻撃は残る配下一体へと集中する。先程からの攻撃で消耗しきっていた肉体では、噛み付いただけの回復量からでは補い切れない。 頭上へとファウナの光球がぱちりと弾け飛び、レオポルトの光輝に灼かれ。雪佳の業物が一閃を描くと、最期は呆気なく地面に崩れ落ちた。 「……さて、残るは。あと一体ですね」 アラストールが呟く目先に残された異物は、一際大きなトカゲの親玉。氷から解放された蛇頭の獣はその長い舌で、打ち払うかの如く隼人と風斗を叩き付ける。 だが、それも此処まで。攻撃先が不安定だとはいえ、隼人を含めた9と1では余りにも、幾らフェーズ2だからとはいえ分が悪すぎる。更にブロックしていたアラストールによって徐々にダメージを与え続けられていたから、尚更の事だ。 「此処まで来たら一気に終わらせるぞ!」 「わかってるって!」 そう、攻撃の間も与えぬ程。動き出したのならばまた封じれば良い。 雪佳の刀撃が親玉を地面へ縛り付け、光球がその上を飛び爆ぜる。 更に虎鐡の全力が籠った一閃が激しく炸裂すると、抵抗する余地も無いまま巨体はアスファルトへ溶け込む様に倒れ伏した。 こうして、一人の少女の両親を奪い、彼女の脅威であった”化け物”はこの場所には居なくなったのだ。 「終わった……のか?」 安心した様に隼人が息を吐く。だがしかし、周りの助けてくれた人達の表情は先程よりもずっと重く、暗い。 「いや、まだ終わってない」 未だ手にした武器はそのままに、状況を理解しきっていない様子の隼人へ風斗が口を開く。 「話があるんだ。久我沼隼人、あんたに関する大切な話が」 ● 赤色が深みを帯びていく空の下。 先程まで此処に在った喧噪が嘘だった様に、辺りには静寂のみが支配する。 「……何だよそれ、何だよ相容れない力って……。あんた等の力とじゃあ違うってのか!? それとも俺があいつらと同じとでも言うのかよ……!!」 絞り出すかの如く吐き出される言葉を否定しようとする者は、此処には居なかった。 ノーフェイスという存在は、フェーズが進行しておらず且つ運命を得たならば倒す必要はない。 可能性としては低い物であるが、もしも奇跡が起こるなら。雪佳とアラストールはそう願っていた。 しかし、運命の加護は現在も隼人に降りる可能性は見当たらない。 つまりは彼は変わらず運命に見放たれた、この世界とは相容れぬ存在でしかないのだ。 「だから、お前には死んで貰わなくてはならないんだ」 そして再びの沈黙。突然の死の宣言に、隼人は言葉もなく暫くの間押し黙り。 「……ああ、やっぱそうなのかな」 悔しい様な、悲しい様な。色々な気持ちの籠った顔で、泣き笑った。 多くは語らない。彼が既に化け物と同じになってしまっている事。生きていれば何れその力が他人を傷つける事になろうとも、リベリスタ達が訪れなければ護ろうとしていた対象を殺していたかもしれない事も。彼には話さない、そう皆で決めた。 だけど自分が先程の化け物と同じという事に否定しなかった以上、彼は自分にとって最悪の事を想像してしまう。 「……クソ、もっと疑うべきだったんだよな……。いきなりこんな力使えるようになって、何か可笑しいとでも思うべきだったんだよ……っ!」 「……申し訳ありません」 堰を切る様に叫ぶ隼人を前に目を伏せ、ファウナは己の弓を強く構える。 「恨んでもらっても、構わないのでござるよ」 自身の帰るべき場所を思い、虎鐡も己の願いを護るため。業物を握るとそのまま隼人へと向けた。 その動きを引き金にリベリスタ達は次々と、先程まで共闘していた相手へと武器を差し向ける。 言わずともこの先に起こり得る事は、彼ならば理解していた筈だ。 しかし、彼は何をするでもなく。唇を噛みしめ其処に立ち作るのみだった。 「…………抵抗しないのか、俺達はお前を殺そうとしているのに」 「さっき言ってた事、嘘に思えなかったから」 隼人が話しているのは、リベリスタ達が助勢に来てくれた時の事だろう。化け物に襲われていた少女に向かった優しい笑みも、助けたいと言っていた事も、彼女に対する気遣いも。全て嘘を言う程の悪人とは思えなかったのだ。 「俺があんた等を攻撃したら、あの化け物と同じになるじゃないか……それ位なら、いっそ」 其処まで言って、言葉を止める。そして、真っ直ぐに正面を見詰め瞑目した。これから先を受け入れる覚悟が出来ているのだろう。 「では、参ります!」 レオポルトの一言が切っ掛けに、一斉攻撃が始まった。 ”護りたい”という願いが齎した結果だろうか、自身のフェーズよりも非常に体力の高い隼人を完全に討つ事には予想以上に時間が掛かったが。 事前の闘いで消耗していた分に踏まえ、一切の手加減を加えていない攻撃が確実に彼の余力を削っていく。 今まで感じた事のない猛烈な痛み、零れ落ちていく命の感覚、潰える未来の願い。初めて間近に感じる死の概念が隼人の覚悟を迷わせるが、それでも歯を食い縛って耐えていた。 だから、せめてこれ以上の苦しみを感じない様に。 「……あんたの行動は、決して無駄じゃなかった。見ず知らずの誰かの為に闘えるあんたは、間違いなくヒーローだ!」 最期に風斗による全力の闘気が籠められた一撃によって。 久我沼隼人、ヒーローに憧れた青年は誰の命を奪うことなく生涯を終えた。 ●残滓 もう、感覚はわからない。 世界から切り離されている様な感覚だけど、不思議とそれを孤独とは思わなかった。 そうだ、あの子は今何をしているだろう。 まあ、あの人達なら安心出来るかな。任せろって言っていたから多分大丈夫だ。 今何処かでやって来た事が無駄じゃないって、肯定してくれた声が聞こえた様な気がしたけれど。 胸を張って良いんだろうか。 だけど、本当は。 あんた達みたいになりたかった。 出来れば、これからも一緒に戦ってみたかった。 夢見るだけなら、いいかな。 ● 「……みんな、どうしてるかな」 戦闘が繰り広げられていた裏路地から数十メートル離れた曲がり角。 化け物達が届かない位置に予め配置された車内にて、少女とグレイスは隠れていた。 自分と家族に起こった出来事を目の当たりにしてしまったショックから言葉少なだった少女が、そんな事をぽつりと口にした。 「心配しなくて良いよ。あたしの仲間はとても強いんだ、怖い化け物なんて一瞬でやっつけてくれるさ!」 「ほんと?」 「ああ、だから安心しなよ」 助手席に座る小さな頭を優しく撫でながら、グレイスは思考する。 そろそろアクセス・ファンタズムから連絡が入る頃合いだろう。仲間達と合流したらトカゲの腹掻っ捌いてでも遺品を回収しよう。 それから本部に連絡して、この子を専門職に引き取って貰って……。 やる事は沢山ある、だけど嫌な気はしない。護れる存在が此処に、居るのだから。 思考の途中、くいと袖を引くと少女が上目遣いで何か言いたげに此方を見ている。 「ありがとう。……わたし、おれいがいいたい。みんなにも、おにいさんにも」 「……うん。皆と合流した時にでも、な」 ふわりと微笑んだ時、アクセス・ファンタズムから発信音が流れる。 どうやら終わった様だ。 リベリスタの活躍によってヒーロー志望のノーフェイスは死に倒れ、神秘はひとつ護られる。 「世界を拒絶したアタシが世界に受け入れられ、世界を受け入れようとしている子が世界に拒絶される。……なんて、ねぇ」 仮面の中で、ルートウィヒは苦笑する様に呟いた。 闇色へと変化する空の下、アスファルトの上で久我沼隼人は眠っている。 何れこの場はアークによって処理され、何事もない日常に還るのだろう。 だから、今だけは。 レオポルトは遺骸の前に立ち、少しの間目を閉じ呟いた。 「……戦士に、安らかな眠りを」 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|