● 「モリゾーさん、モリゾーさん」 「……おう」 三高平の市街地で、偶然知り合いの『運命嫌いのフォーチュナ』高城・守生 (nBNE000219)を見かけて、『風に乗って』ゼフィ・ティエラス (nBNE000260)は呼び止めた。エルフ耳をしたファンタジー衣装の女の子が学校帰りの学生を呼び止める街なんざ、日本広しと言えど三高平位のものだろう。 守生はいつものように不機嫌そうな顔で応えるが、ゼフィはどこ吹く風だ。 「ちょっとお聞きしたいことがあるのですが……」 「俺の答えられることならな」 「『学校』って何のためにあるんしょうか?」 ゼフィの言葉に自分の眉間を抑える守生。 ボトムに降り立ったフュリエ達は、それぞれに学び、この世界に順応していった。その中でも、ゼフィの順応速度はとびきり遅い部類に属する。どの位遅いかと言うと、お爺ちゃんお婆ちゃんに紛れてパソコンを習い、同じペースで学習出来るレベルだ。 「わたしがこの世界のことを教えてもらっている場所はある訳ですが……『学校』というのは何か違うと思うんです」 この辺で守生は理解した。詰る所は、教育制度そのものが理解できていないのだろう。考えてみれば、そもそもラ・ル・カーナには「子供」が存在しないのだ。種族間での意思疎通も容易に行えていた訳だし、そりゃあ現代日本の教育制度に違和感があるのも無理はない。 ゼフィが何を理解できていないのか、守生はなんとなく分かった。しかし、その違いを説明するのは、彼にとって中々の難題だった。彼の場合、学校と言う環境が苦手なタイプなのである。 とは言え、ここで答えないのにも問題はある。ゼフィはゼフィで内気な性質であるものの、好奇心は強い。このまま、放っておくというのはあまり上手い手とは言えない。 「えっと……そうだな。……待てよ? アレがあったな」 そこまで言った所で何かを思い出した守生は、鞄の中を開いて、1枚のパンフレットを取り出した。 そこにはこう書かれているのだった。 『三高平学園祭』と。 ● 三高平市中央部に存在する三高平大学。 そこは小中高の付属校を持つ一貫教育機関であり、三高平市に住むリベリスタ達のための学び舎だ。 教育機関である以上、今までにもいくつか小規模のイベントが開催されてきた。 リベリスタの数も増えてきたのを受けて、大規模の学園祭が計画されたのだ。 これはその1カ所。 学園祭という空間で、もっとも広く行われるイベント。 喫茶店が立ち並ぶスポットのお話である。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:KSK | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年07月09日(火)22:45 |
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● 「がくえんさいはたのしんだひとがかちっ! えんじょいがくせんさいっ!」 ミーノは三高平学園の入り口で、いつものポーズ(ぶれいくひゃー)を決める。準備は万端だ。 今日は三高平学園学園祭。年に一度の学生たちのお祭り。 一番おいしい店が何処にあるのか確かめずにはいられない。五感を総動員して、おいしい店を探す。 「こっちからもっ……あっちからもっ! おいしそーなにおいだらけ……っ」 しかし、ふたを開けてみれば、どこからもおいしそうな気配が漂ってくる。これは予想外だ。 「よーし、ぜんぶまわってたべるっ!」 そして、一大決心を決めたミーノは学校の中へと駆け出していく。 とても良い笑顔だった。 ● 「いらっしゃい! 甘味処『えむじぃけぇ』にようこそ!」 「よくぞ参られた、客人よ。ゆるりと旅の疲れを癒していくと良い」 「ようこそ迷える子羊達ヨ、どれだけ注文しても神はお許しになるでショ~」 薄桃の着物に紺の女袴を穿いた瑞樹が元気良い声を出すと、着流しを来た侍姿の優希が礼儀正しく迎え入れる。最後のは怪しげな宣教師姿をしたツァインである。 ここはツァインが企画した和風コスプレ喫茶、学園茶屋甘味処『えむじぃけぇ』だ。 「色んな人の和装が見れる」という、いっそ清々しいまでのコンセプトで始められたそれは、わいわいがやがや。学園祭らしい喧騒に包まれていた。 「わ、美味しそ……じゃなかった、白玉餡蜜と緑茶お持ちしましたー!」 「これは見回り! 査察なのよ! 遊んでるわけでもサボってるわけじゃないのよ!」 言い訳がましく叫ぶソラ先生の元へ瑞樹が料理を運んでくる。料理も雰囲気に合わせている訳だ。 素人臭さも味と言うもの。 それらもひっくるめて、思い出になるものなのだから。 「え? 御代? ほら、査察だし。タダじゃなくても教員価格とかなんとか」 でも、料金はしっかりいただきますので悪しからず。 騒がしい甘味処『えむじぃけぇ』の一角で、鷲祐とリリは何やら熱く語り合っていた。 前には抹茶アイスに、かき氷、白玉餡蜜が並んでいる。 「結構皆凝ってるもんな。本当に不思議だよなぁ。何故あんなに肌を露出して……」 「……どんなに性能が良くても、肌を出し過ぎるのは……えっちなのはいけないと思います」 当初は鷲祐が速さに拘る理由について話していたはずなのに、どうしてこうなった。リリも当初は、生まれて初めて食べるかき氷に舌鼓を打っていたものの、すっかり話に夢中になってしまっている。 まぁ、ほら。 友達同士でバカ話に興じるのも大事ですよね。 火車と黎子はお茶をしながら、割と普段通りの駄弁りを楽しんでいた。 「学校なんて久し振りですねー。なんだか不思議な気分です」 「まぁそうか、学校くらいは普通行って……たのか? たのかぁ……」 黎子の言葉に思わず首を捻る火車。学生経験が無いリベリスタは多いし、黎子も「そちら側」だとばかり思っていた。 黎子の方はと言うと、火車の反応を気にせず、奔放に楽しんでいる。 「メイドさんとかいませんかね! 三高平ですし」 「メイドは居らんが、巫女やら姫やら舞子が居っぞ」 無愛想に答える火車。 そんな中、黎子は唐突に真面目な顔になる。 「朱子は勉強遅れてたから中等部に行こうとしてたんでしたっけ? 友達とかいたんですかねえ……」 「ダチもソコソコ居たぞ。バーベキューやったりしたしな」 わずかに沈黙が流れる。 そして、黎子は自分からそれを壊すようにはしゃいでみせる。 「それじゃ、ちょっとコスプレっていうの見てみましょうか」 「ようようお前ら、この、アークの御紋が目に入らねえか! 三高平のフッさんこと、焦燥院フツとはオレのことよ!」 袴姿でフツは肩をはだけて、ポーズを決める。 あなたは神かと言わずにいられない似合いっぷりである。いや、仏だったっけ。 「かなり決まってる……素敵! よっ! 徳高いっ! ノリノリなフッさんも好きぃ……! 片腕! 筋肉! あっ……凄くイイ……あひるを懲らしめて! キャー!」 恋人であるあひるの反応を見ても、それは明らかであろう。と言うか、お嬢さん壊れ過ぎ。 しばらく騒ぎながら、デザートを食べる2人。 そして、わいのわいのと他の企画を覗きに出かけて行った。 今日、ここにいるのはアークのリベリスタではない。三高平の学生、フツとあひるなのだから。 ● 落ち着いた雰囲気の喫茶店。売り物は本格的なコーヒーの味だ。 そこでウェイターをしていた雪佳は、新しく入って来た客に対して礼をする。 「いらっしゃいま……ああ、ひより。来てくれたのか。その恰好は?」 「えへへ、見て見て。今日だけ学生気分」 雪佳の前でくるりと一回転して見せるひより。そこで、自分の雰囲気が少々場違いだったことに気が付いて、縮こまってしまう。 それに気が付いて、フォローを入れる雪佳。 「それでは、カフェオレなど如何でしょうか?」 「うん、やっぱり似合ってる!」 同じ喫茶店でホットケーキを食べながら、旭は満足げに霧音の姿を眺める。 一方の霧音は普段の和装と違って制服姿。普段は着慣れないためか、どこか恥ずかしそうだ。 「少し場違いに思えて来ちゃうけれど、そんなことは無い……のよね」 微笑んで答える旭。 霧音は「普通の学校生活」とは無縁に闇の世界の住人として今まで生きてきた。 「同級生の友達と過ごす学園祭」など、夢にも見なかったのである。 学園祭の時間は短い。だから、一分一秒、油断をすると戦況は変わって行く。 その一瞬を余さず受け止めながら。 「ね、きりねさん。はじめての学園祭はどーお? たのしい?」 「ええ、とても楽しいわ、旭」 これからも2人一緒なら、楽しいことはいくらでもあるのだ。 涼はおしゃべりに興じながら漫然と思っていた。多分、1人きりだったらこんな店に入りはしなかったのだろう。自分はこのアリステアという少女と話すようになり、色々と変わってきている、と。 「ねぇ、聞いてる?」 アリステアがぷすっと頬を膨らませる。 「あぁ、聞いてるよ。でも、制服姿なあ。そんないいもんじゃないけれど」 「制服姿の涼、見てみたかったの。もう少し年が近ければ、放課後一緒に遊びに行ったりできたんだけど、ちょっぴり残念だなぁ」 せっかくなので、アリステアはちょっぴり拗ねてみせる。 すると、涼は笑いながらアリステアの頭に手を置いた。 「ま、そういうのが楽しみたかったら放課後迎えに来るから、そーゆーので我慢しなさい」 その言い方と、笑顔は反則だ。 だから、仕返しがてら、アリステアは悪戯っぽい笑顔でこう言った。 「放課後のお迎え、約束だからね?」 洋風喫茶店のど真ん中で、レイラインは緑茶を啜りながらゼフィと話していた。一応、学業についても語ったものの、反面教師の言でしかない。もっとも、ゼフィもプロ級の世間知らず。なので、同じ緑茶を頼み、真剣に聞き入っていた。 イギリス人が緑茶ってのはどーなんだ。 「良いか、緑茶と紅茶は元を辿れば同じ茶葉。今のわらわには、採れたて若さぴちぴちの緑茶がお似合いと言うものじゃ!」 でも、あなた還暦超えてるじゃないですかー。 「うるしゃい、尻尾ビンタだぶるあたっくじゃー!」 アウトサイドは伊達じゃない。猫又の尾で華麗にビンタを繰り出す。 「若者には若さぴちぴちの緑茶が似合う、と……」 その横でゼフィは真剣にメモを取っていた。緑茶の方がよっぽど年寄り臭い気もするけど。 すまし顔でカフェオレを飲むひより。 ようやく落ち着いてきた。その一方で、先ほどとは別の緊張も高まっている。 言いたいのは、簡単な言葉1つ。 ウェイターの少年、雪佳がカップを下げにやって来た。 今こそ、勇気を出して。 「あのね、あのね、休憩時間空いてる? わたしと学園祭デートしてくださいなの……!」 勇気を持って出た言葉に対して、雪佳は照れ臭そうに答える。 「ああ、分かった。もうすぐ休憩だから、一緒に回ろうな」 今日は日常の中の非日常。 欲しいのは自分達だけの特別。 ● なんのかんのと言いながら、学園祭は続く。 その中でカレー喫茶で小梢はいつも通りにコトコトとカレーを煮込んでいた。そして、窓の外から別の教室を見て、小首を傾げる。 「モリゾーさんの後ろにいる緑色は何?」 「クラスの連中が置いたんだ、俺は知らねーっての! そんなことより、自分のクラスはどうした。そっちだって、一応学生やってんだろ?」 何かのマスコットキャラ『モルゾー』を背にして、ウェイター姿の守生は冷やかしに来たエナーシアとコイツに関して話していた。本当に何なんだ、これ。 「ふぇ? 自分のクラスは良いのかですって? 私が仕切ったりするとせっかくの学園祭らしいアトモスフィアが偏に風の前の塵に同じになってしまうからなのですよ」 そう言いながらも、エナーシアの瞳は明らかに接客に四苦八苦する守生の様子を見て楽しんでいるものだ。逃げたればこその余裕もある。 「やーん、おいしー♪ 舞ちゃん小食な乙女だけど、もっと食べたくなっちゃーう♪」 その横で舞姫は楽しそうにパクついている。目の前に広がるのは、ナポリタン、ホットケーキ、ジャンボパフェ、クリームソーダ、etc、etc。明らかに「小食の乙女が軽めに頼む量」ではない。 「それにしても舞姫ちゃんはよく食べるなぁ……」 悠里もアイスティーを飲みながら、半ばあきれ顔だ。 もっとも、舞姫の財布はとっくの昔にクライマックス。 友人を見つけたのでたかろうという腹だ。既に目薬を仕込み、泣き落としを行う準備は出来ている。ターゲットは実行委員の快だ。楽しい学園祭のためにも、簡単に金を出してくれるに違いない。 そんな思惑を知ってか知らずか快はと言うと、拓真とアイスコーヒー片手にのんびりモード。今は休憩時間なのだ。 「こんな時くらい、学校に顔出すのも悪くないだろ?」 「はは、そう言われると耳が痛いな。だが、確かに言われてみればそうかも知れん」 アークの戦いは常に苛酷だ。 気が付くと戦いのことばかり考え、他の大事なものが疎かになってしまう。 だからまぁ、たまにはこういうのも悪くは無い。 と、その時だった。 がらがらがしゃーん 教室の入り口で何かが崩れる音がした。 「何だ何だ!?」 そこには折り重なるように倒れる木蓮とエリエリの姿があった。 わずかに時を遡ろう。 「わたし、中学生なのですよね。みとめたくない事実」 エリエリにとって背の低さはコンプレックス。そろそろ伸びても良い頃なのに。これでは、人のせいで学園祭の様子が良く見えない。だから、木蓮は提案してみた。肩車で行ってみよう、と。 「わたしの手足となり、うごくのです! ごー、もくれんがー!」 「どうだエリエリ、上からならよく見えるかー?」 風よりも速く、機関車のように力強くモクレンガーは走った。 入り口で目についた喫茶店に入ろうとした時……目測を誤った。 「さて、守生の喫茶店はー……あっ! ここか! おじゃましま……!」 そして、悲劇は起きた。 角が扉に引っかかって倒れるという、三高平ならではの事件だった。 「ゴメン、エリエリ! 頭吹っ飛んでないか!? お詫びといっちゃ何だが好きなもん奢るぜ」 「不注意はあることです。木蓮さんが悪いという訳ではないです。それに、お小遣いに不自由はしてないのです!」 幸いにしてすぐさま場は片づけられて、木蓮とエリエリも今ではパフェを頼んで楽しく過ごしている。 騒ぎの被害と言えば、その中でヘタだけ残して苺が消えたこと。エナーシアが「会計は新田に」と言って逃げ出したことだ。 そして、こっそりと席を立ちながら拓真は守生に声を掛けた。 「高城は学園祭、楽しんでいるか? 俺は大いに楽しませて貰っている。このアイスコーヒーも暑さも相まって絶品だな」 「思っていたよりも、な。人が集まると、意外と楽しいことが起きるもんだ」 「俺は実行委員の仕事に戻るから! モリゾー、何か困ったことがあったら、実行委員に教えてくれよ。」 「あ、後でなんかコンテスト? みたいので出し物するから、暇だったら見に来てね。それじゃ!」 それぞれに去って行く客。この後に『Ignite Fate』というユニットが爆誕する訳だが、それはまた別の話。 「……って、いつの間にか、新田さん達いないよ!?」 その後、皿を空にした舞姫が勘定書きを前に叫ぶ。 言うなれば、上流から流れてきた砂の堆積する三角州。 本当の地獄はここからだ。 ● 「ふっふっふ……。学園祭にこっそりしんにゅうしたなどとはおしゃかさまでもきづかないのです」 学園祭の隅っこで盗んだ苺を食べながら、壱k……怪盗ストロベリーは密やかに笑っていた。 恐山のネームドクラスが動く、まさに絶望の一幕(笑)だ。 「つぎのいちごをさがしにいくのですぅ! このよのいちごはあたしのものです! ……さっそく、はっけんですぅ!」 訓練された猟犬の如き嗅覚(笑)で皿に盛られた苺を見つけるストロベリー。華麗に(笑)奪い去るべく皿を手にしたその時だった。 「かかったな、恐山壱子」 「はかったなですぅ。あと、壱子いうな」 近くに立っていた棒が縄で引っ張られ、巨大な籠がストロベリーを捕える。天才・陸駆の罠だ。 ええんかい、お互いに。 「久方ぶりだな! 恐山壱子! 今日は学園祭だ。ゆっくりしていくとイイ」 「だから、壱子いうな」 「大人の男らしく、奢る準備は出来ているのだ」 陸駆がいちごあめを差し出すと、ストロベリーは迷わずその手を取った。 「こっち、こっちですよ!」 髪を束ねて執事風の格好に身を固めた壱和が手を振る。その先からやって来るのは、同じようにウェイトレス姿のシュスタイナだ。どちらもクラス企画の休憩時間。タイミングを合わせて、一緒に学園祭めぐりをする約束だ。 「壱和さんは、かっこいいわね。すごく似合ってるわ」 シュスタイナは待ち合わせ場所に立っていた壱和を眩しく見つめる。自分が着ている服は柄ではないが、壱和の場合、とても凛々しく見える。 「でも、シュスカさんのウェイトレス姿、すごく可愛いですよ」 実の所、自分の衣装が似合っていないと思うのはお互い様。 アークの構成員は平均年齢と比べて2人は若い。だからだろうか。とても自然に会話が弾む。 「それじゃ早速だけど、お化け屋敷やってるみたいね、行く?」 「シュスカさんと一緒なら」 シュスタイナの悪戯っぽい誘いに、びくりと体を震わせながら乗る壱和。 それでも、2人仲良くお化け屋敷に向かっていった。 三高平学園音楽愛好会のメイド喫茶にて、いつも通りに竜一とユーヌはいちゃついていた。 場所が場所ならば、密かに人気を伸ばしつつあるインディーズバンド『BoZ』のDragonである竜一も、恋人と一緒の時は話は別。犯罪者にしか見えないレベルで甘い時間を過ごしていた。 「ユーヌたん、暑いでしょ? アイスきたよ! はい、あーん! おいしいかい?」 「ん、あーん。まぁ、悪くはないが、あまり遊ぶな、くすぐったい」 いつものように、竜一があれこれスキンシップ過度に、ユーヌが淡々と世話焼かれながら過ごしている。 学園祭と言う非日常だろうが、いつも通りだ。 見様によっては竜一が一方的に尽くしている見えるがそんなことは無い。 「ふむ、アイスをもう一つ。途中から食べてなかっただろう? ほら竜一、あーん」 「むっふっふー! ユーヌたんは今日も可愛いなあ。あーん」 やっぱり、ラブラブなんである。 「これが……学園祭! うおォ、なんかキンチョーする!」 若い身空で数多くの戦場を駆けずり回って来たコヨーテは、『学園』というもののあまりの規模に愕然としていた。そこで同じようにしているゼフィを発見。初めてコンビで、一緒に手近なメイド喫茶に入ることになった。 「学校って勉強するとこだよなァ? 勉強なんか楽しくねェと思うんだけど、ココにいる皆はすっげェ楽しそうだな」 「そうですね、皆さんとても活き活きとしています」 頷くゼフィに気を良くしたコヨーテは、胸をどんと叩いて見せる。 「きっと学校には、勉強もヤじゃなくなるよーなヒミツがあんだ! これから一緒に探しに行こうぜ!」 と、2人の前にケーキが運ばれてきた。 途端にコヨーテはパワーダウン。 「あ。オレ甘いの食えねェんだった。何か辛いのねェかな……」 コヨーテは慌ててメニューを見直すのだった。 賑やかな喫茶店の片隅で、シエルと沙希は静かなお茶会を開いていた。 彼女らの間に言葉はいらない。 E能力さえあれば意思の疎通は叶うし、そのようなものに頼らなくても、考えることはある程度分かる。 形は違えど、「楽しい学園祭」と無縁だったという共通点もある。かたや親族に疎まれた半生、かたや人のために自分を犠牲にし過ぎる性分。致し方ない所はあるのだろう。 そんな者でも、幸せになることが出来るのがこの三高平という街ならば……せめて、それが長続きすることを願わずにはいられない。 「注文したローズヒップのハーブティー来ましたよ♪ あら、その絵は……?」 注文の品が届いた時、シエルはようやく声を出す。そして、沙希がスケッチブックに描いていた絵を目にする。 学園祭の楽しげな景色が描かれていた。しかし、現実のものではない。楽しく過ごす人々に紛れて、鬼のような外見の大柄な戦士が遊ぶ姿があったからだ。 「嗚呼、確かにあの人達はお祭り騒ぎが意外と似合っていたかもしれませんね」 シエルの言葉を聞いて、沙希はティーカップを手に取った。 「よう、チョーシはどうだ? 楽しんでるか?」 「勿論でござるよ。みんな色々考えるものでござるな」 クレープを片手にリトラへ応じる虎鐵。娘のカフェのために、学園祭の喫茶店を片っ端から回っているのだ。 「これも今後の為でござるしな。アレンジできそうな物は、学園祭が終わったら出来るか実験してみるでござる」 虎鐵は自慢げな顔をしている。娘の役に立てることが嬉しくてたまらないのだろう。 ちなみに、格好は何故か高校制服。 おまわりさん、こっちです。 「たしかに、最近の喫茶店って、色々あるもんだな……」 頷くのは同じく通りかかった水姫(68)。若返りはしたものの、学生たちにはついて行くだけで精一杯だ。 ちなみに、彼女の格好は何故かスク水パーカー。 おまわりさん、やっぱりこっちです。 「そういえば姉さんはどこにいったか知らないか? 大体想像はつくが」 「拙者は見てないでござるが、多分正解でござろう」 リトラと虎鐵が頷き合う。大方、屋台の食べ歩きをしているのに違いない。 「さて、姉さんを探しにいこうかな。そろそろ満腹でどこかでのんびりしてそうだし」 多分、向こうも似たようなこと言って、リトラを探し始める頃じゃないっすかね。 ● 「ウォォォォ!」 三高平学園音楽愛好会のメイド喫茶は、今やライブ会場と化していた。 元より企画していたサプライズだ。このために、前々から念入りに準備と練習を重ねていたのである。 一曲終えた所で、フィオレットがマイクを手に取り、自己紹介を始めた。 「ギター、珠緒先輩!」 「よろしくな~」 「イェェイ!」 珠緒が手を振ると、ギャラリーは大きな声で答える。 「キーボード、エリー!」 「よろしくお願いします」 「イェェイ!」 恵梨香はクールに一礼すると演奏に戻る。 「ベース、フィオレット!」 「イェェイ!」「そしてボーカルは……全員でお送りします!」 「イェェェェェェェイ!」 自己紹介が終わった所で、ライブは派手に始まった。 この歌声よ この魂の旋律<メロディ>よ 鮮やかに舞え! 壊れゆく世界 彷徨う旅人たち その手を伸ばして 未来をつかみとれ 迫る闇と絶望 空をかける一筋の道標<うたごえ> 希望見失わないで 開けない夜なんてない 心に刃を持って 運命を切り開こう いつかは誰もがたどりつける 最果ての楽園 目指して 輝ける明日へと駈け出そう 赤く染まる朝焼けに 新しい時代<とき>を感じて 遥か永遠<とわ>に響け our song 「すっごく……たのしいのですっ!」 最初は驚いていたミミミルノもいつの間にか引き込まれていた。 先ほどまでウェイトレスをやっていた少女達の姿は無い。ここにいるのは、愛と情熱を歌う、歌姫達だ。 プロの歌ではないかも知れない。 それでも、音楽への愛に変わりは無い。 そんな少女達の思いの丈を込めた歌声は、教室を震わせるのだった。 ● そして、場面は再び甘味処『えむじぃけぇ』に戻る。 相変わらず鷲祐とリリが激論を繰り広げており、盛況は続いている。 その中で、糾華とミリィは久々に2人でのお茶を楽しんでいた。 「2人きりでお茶するのも久しぶりかしら?」 「えーと……その、すいません」 謝るミリィに、糾華はちょっといじめてみただけと笑い、緑茶を啜る。 2人とも次第に広く名が知られてきたリベリスタ。そして、それは裏を返すと常日頃、死地に身を置いていることに他ならない。だからこそ、こうした時間が愛おしい。 「でも、一緒に戦って心強いのも本当よ。頼りにしてるわ」 「はい、そんな私を怒ってくれる。止めてくれる人が居るから。今、こうして踏み止まっていられる。 だから、ありがとう御座います」 お互いの心を確かめ合ったのなら、リベリスタとしての時間は終わりだ。 今は目の前を楽しもう。そうでないと、せっかくの白玉餡蜜が温くなってしまう。 「貸衣装と記念撮影ですって、どう? やってみる?」 「ええ。是非、記念に」 幸い、サラダ煎餅が来るまで時間はあるようだ。 夏らしく浴衣を楽しむのも悪くない。 「注文入ったよ~」 見るからに怪しげなツァインが厨房のメンバーに声を掛ける。今日の『えむじぃけぇ』を支えた精鋭たちがそこにいた。 優希はすっかり煎餅焼きに慣れた模様。「中々面白い料理であるな」と評している。 義弘に至っては、普段から甘味処で働いているのだ。これ程頼りになる男はおるまい。甚平姿も様になっている。 「祭さんが厨房居てくれてすげぇ心強いんだけど、着替えて少しフロア出てみない? 武蔵坊弁慶とかどう?」 「いや、みんな似合っているし、楽しんでいるな。俺はそれを見るだけでも満足だよ」 「残念ね。普段と違うひろさん、素敵なのに」 和風メイドな祥子はちょっと残念そうだ。彼女は着物とスカートの上に、大正浪漫を彷彿させるひらひらのエプロンで決めている。 「このメンバーだったら、ぼったくり喫茶でも行けたと思うんですけどね」 危険な発言をするのは生佐目。厨房に立てない彼女も和風メイドスタイルでウェイトレス役だ。「それっぽい格好をすると可愛く見える」とは優希の言。 そうやってメンバーで駄弁っている所に、改めて瑞樹が駆け込んでくる。写真の注文が来たようだ。すると、ツァインはノリノリで向かおうとし、仲間達に振り返る。 「後で記念撮影するからな、忘れんなよ」 ツァインの言葉に頷く仲間達。そして、ツァインは改めて店へと向かっていった。 「これはエレキテルきゃめらイイマス。魂が吸い取られるらしいけど気ニシナイヨ。ハイチーズ!」 「どう? 学校。いろんな人が集まって、いろんな想いがあって、面白いだろ?」 「はい、とても楽しかったです。これが学校なんですね。えっと……」 夏栖斗とゼフィは一緒に煎餅を齧っていた。 そして、ゼフィの様子を見て夏栖斗は助け舟を出す。 「っと、僕は御厨夏栖斗、カズトでいいぜ! よろしくな」 「はい、カズトさん。ありがとうございます!」 ゼフィが顔をほころばす。 こうして、学園祭の日は暮れて行く。 青春という時は、速く、短い。 リベリスタ達よ、このわずかな平和を、今日という日を楽しむが良い。 今日という日は、2度とやって来ないのだから。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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