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<Verzweifelt>Sturm wind

●狩猟再開
「カァァァル! カァァァル!! 進捗を述べよオォォォッ!!」
「Jowohl。荒れてますねアイゼンベルク准尉」
 とある雑居ビルの一角。鼻を付くアルコールの香り。
 大音量で叫ぶ巨漢の男に、ひょろりとした黒い男は嘆息と共に礼を返す。
 先の撤退戦以降如実に増えた酒量は上官の機嫌の悪さを示している。
 本来であれば軽口を叩く余裕など有りはしない。
 彼、カール・ブロックマイアーの直属の上官に当たる所の准尉。
 『鉄錆雷光』ヴェンツェル・アイゼンベルクは言うなれば“暴君”だ。
 常に己が最前に立ち、常に己が身で道を切り拓く。その姿勢を評価する者も居るだろう。
 けれど同一の部隊に属す者からすればこれ程迷惑な話もない。
 例え軍人と言えど人間だ。大義の為の犠牲は厭わずとも無駄死にしたい訳はない。
 にも関わらず、指揮官が敵陣中に突貫など仕掛けてしまっては部下が退く事など出来ようか。
 と言って、助言を素直に聞き届ける様な性質ではない。策を巡らせるのは常に副官である彼だ。
 そして其処には上官の性格上許容される範囲、と言う要素がどうしようが付き纏う。
 結果、ヴェンツェルの率いる部隊は常に危険な戦場を担当し、人員損耗率も極めて激しい。
 こんな上司の下に付かされ喜ぶ者が何処に居る。有り得ない。例え鉄十字を掲げる猟犬の内にあってすら。
「現在、戦況は停滞中。第二フェイズへの移行は近日中と――」
「そんな事はァ、聞いておらんのだアァァァ――ッ!!」
 がつんと放り投げられたグラスが額にぶつかる。みるみる滲み滴った鮮血が瞳を染める。
「次の作戦はまだかッ! あの劣等共にアーリア人の優等を見せ付ける機会はァッ!!」
「Jowohl。準備を急がせます」
 表情を隠しそう告げる。据え置きの電話が鳴り響いたのはそんな好悪の判断に困るタイミングだった。

「なるほど? それで俺にお呼びが掛かったってわけ」
 肩を竦める仕草が様になる。と言うのは西欧に於ける一つのステータスであると言える。
 特にある程度見目に優れた男性であれば尚更に。
「そういう事です。制圧戦である以上は――」
「まあ、アレを使わない手はないだろうねえ」
 ヘルムート・フォン・ヴィルヘルム、と言う男は、つまりそういう類の人間だった。
 階級は曹長。軍人と言う職種の似合わない、軽薄かつ軟派な優男。
 浮き名も相応に馳せている物の、色恋沙汰の悪評には事欠かない。
 おまけにWW2からの残存組ではなく、つい30年程前に『親衛隊』に合流した若造も若造である。
 貴種の血を引く生粋のアーリア人であるとは言え、そんな人間が何故猟犬に居続けることが出来るのか。
 それは即ち彼がある特異な技術を有するからに他ならない。代用が効かないが故の苦渋の決断である。
「OKカール。顔馴染みに免じて安くしとこうじゃないか」
「……同胞から金銭を巻き上げようとは、全く……貴方と言う人は」
 破天荒極まる彼が、乱戦に於いてすら完璧に近い射撃を行う支援掃射の技巧を持つ事は果たして何の皮肉か。
 されど、『親衛隊』が予測していたよりも尚『箱舟』は厄介である。
 少なくとも『狂犬番』と呼ばれるその目立たない男はこれを半ば確信していた。
 実体験としての批評以上に、各所から上がる“襲撃成果”がそれを如実に現している。
 猟犬に在っては珍しくもアーリア人の優等を盲目的に信じている訳ではないカールにとって、
 信ずるに足る物は忠誠を誓うリヒャルト少佐の命令と、算出されたデータのみなのだ。
 再度の失態は許されない。その為に有効であるなら、部隊の爪弾き者を呼び込む事すら厭うまい。
「何、戦争だって楽しまなくちゃ嘘だろう?」
 子供の様に笑むヘルムートに、また一つ嘆息を溢す。けれど――そう。けれど。
 第二フェイズの意義はそれ程までに大きい。

 全ては純然たる悲願の為に。全ては奪われた“過去(みらい)”の為に。全ては、猟犬の王の為に。

●防衛三度
 ――神奈川県立三ツ池公園。
 ブリーフィングルームに集められたリベリスタ達が目の当たりにしたのは、
 所属が長い者なら既に大凡見慣れたろう“閉じない穴”の映像。
 その穴が展開されている公園の一角に、パラシュートを着けた兵隊が次々降下して来る情景だった。
「緊急事態です」
 『運命オペレーター』天原 和泉(nBNE000024)の声は硬い。
 それもその筈だ。主流七派の首領が活動を開始した、と言う情報が流れたのはほんの少し前の事。
 アークの主戦力の何割かが其方に割かれている以上、これは偶然では有るまい。
 続け様に起こった事件と言うのは言葉以上の危険を孕む。その規模が大きければ尚更だ。
「神奈川県立三ツ池公園内に、『親衛隊』からの襲撃が仕掛けられるとの未来を万華鏡が探知しました」
 さもありなん。昨今の『親衛隊』の暗躍はアークも良く知る所である。
 このタイミングで緊急事態となれば彼らが無関係である事などまず、有り得ない。
「逆凪より齎された情報が正しいとするなら、恐らく狙いは三ッ池公園の制圧。
 及び“閉じない穴”の軍需利用だと思われます」
 以前、逆凪首領、黒覇とアークの精鋭とが相見えた際、彼は『親衛隊』の目的について一つの推測を語っていた。
 それによれば『親衛隊』の最終目的は“第三次世界大戦”を勃発させる事。
 その過程として一般人でも使える『革醒新兵器』を製造し、ばら撒こうとしているらしい。
 もしもこの推測が正鵠を射ている物と仮定するなら、“閉じない穴”の利用法もまた限られて来る。
 そして例えそれが誤っていたとしても、過去の亡霊等にこれを渡す訳にはいかない事に変わりは無い。
「いずれにせよ、『親衛隊』は大田重工や主流七派と結ぶ事で現在も力を蓄えているだろうと思われます。
 これに対抗する為実戦経験の殆ど無い三ツ池公園の警備隊をぶつけるのは無茶と言う物です」
 求められるのは連携も去る事ながら一定以上の個人戦闘力。

 七派の首領達の動きと連動しているのだとすれば、露骨に誘っていると言えるだろう。
 けれどそうでなければ悪戯に犠牲が増えるだけ。それもまた紛れも無い事実。
 分かっているのだ、これまでの戦いで嫌と言う程に。
「皆さんには正門より北へ少々行った地点、芝生の広場の防衛をお願いします」
 モニターの表示が変わると、一瞬おかしな間が開いた。
 それほどまでに画面に映し出された物が予想外だったか。或いは……自分の目を疑ったか。
「敵の編成は、先日退けた『鉄錆雷光』ヴェンツェル・アイゼンベルク、
 及び『狂犬番』カール・ブロックマイアー以下7名。それに――」
 ダララララ、と銃火器の連射音の様な独特の音色。メインローターが大きく弧を描き旋回する。
 その飛行物体より跳び下りる8つの影。それが何か、と態々問うまでも無いだろう。
 そう、見たままだ。
「――それに、戦闘ヘリコプター型革醒新兵器。識別名“Sturmwind”」
 鉄十字猟犬は本気だ。今までの『狩り』とは訳が違う。
 リベリスタ達は今一度深く理解する。これは――戦争なのだと。
「今までのセオリーとは大分異なる相手です」
 くれぐれも気をつけて下さいと。締め括った和泉の眼光は鋭い。
 現実的な意味で脅威的な戦力。だが、そんな事は今に始まった話ではない。
 これまでだってそうだった。これからだってそうだろう。
 常に格上と戦い続けて来たからこそ、アークの“現在(いま)”は在るのだから。 

 閉じない穴、伝説の跡、幾度も鮮血を吸った因縁の地に、 
 ――鉄十字の猟犬が、今再び牙を剝く。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:弓月 蒼  
■難易度:HARD ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年07月01日(月)23:29
 85度目まして、シリアス&ダーク系STを目指してます弓月 蒼です。
 戦況は単純ですが難易度相当です。御注意下さい。以下詳細

●作戦成功条件
 敵過半数(4名)の撃破。
 ヴェンツェル、カール、いずれか1名に戦線を突破されない。

●『親衛隊』
・『鉄錆雷光』ヴェンツェル・アイゼンベルク
 階級は准尉。WW2からの残留組。短金髪の巨漢。
 優良人種たるアーリア人が世界を管理運営する事が世界平和の為。 
 と、真っ向切って信じこんでいる典型的第三帝国軍人。口が悪く脳筋。
 物神両用の火力特化デュランダル+スターサジタリー。
 活性スキルはハニーコムガトリング。
 及びアルティメットキャノン、ジャガーノート。
 EXブリッツェンゲヴェールを保有。
 彼が健在の場合、『親衛隊』は半数が戦闘不能になった時点で撤収する。

・EXブリッツェンゲヴェール
 神遠複、高命中、中ダメージ、状態異常[ショック][雷陣]

・『狂犬番』カール・ブロックマイアー
 階級は上級曹長。WW2からの残留組。黒髪黒目の目立たない男。
 リヒャルトに拾われた恩を返す為に従軍している変わり者。
 指揮官の肌の後衛型レイザータクト。
 活性スキルはオフェンサードクトリン
 及びシャイニングウィザードのみ判明している。
 彼が健在の場合、『親衛隊』はヴェンツェルが戦闘不能になった時点で撤収する。

・破界器『ビスバルトの砂時計』
 『狂犬番』の所有する砂時計の埋め込まれたペンダント。
 所有者の視界内で回復スキル、状態異常回復スキルが使用された場合、
 該当スキルと同量のEPを消費する事でスキルの効果の発揮を遅延させることが出来る。
 遅延するターンは1~3ターンの間でランダムで選ばれる。
 この効果はビスバルトの砂時計の所有者が戦闘可能である限り永続する。

・親衛隊員×7
 『親衛隊』の正規メンバー。
 クロスイージス×3、マグメイガス×1、
 ホーリーメイガス×2、スターサジタリー×1。
 ランク2までのスキルとLv30スキルを1つ活性化しており、錬度は高い。
 原則的に、特殊な指示が無い限りアークを撃破の後戦線を突破する。
 但し、ヴェンツェルが戦線を突破した場合これに追随する。

●識別名“Sturmwind”
 大田重工製武装ヘリコプター。
 地上30mを旋回しており、2ターン毎に1度支援攻撃を仕掛けて来る。
 支援攻撃は以下の3種類から選ばれる。

・支援攻撃1
 設置式改良機関銃による地上掃射。
 戦場内の任意の「半径5m円範囲」に状態異常[致命]を含む
 物理ダメージを与える。この攻撃は『親衛隊』を巻き込まない。

・支援攻撃2
 煙幕弾による防性支援。
 戦場内の任意の「半径10m円範囲」に煙幕を張ることで、
 その領域内の覚醒者の命中を一律―40する。
 煙幕は投下後3ターンで消滅する。

・支援攻撃3
 ナパーム弾による爆撃支援。
 戦場内の任意の「半径10m円範囲」に状態異常[火炎][業炎][獄炎]を含む
 神秘属性の大ダメージを与える。このダメージは回避出来ない。
 この際ヘリの高度は20mまで低下し、次の支援攻撃まで上昇しない。

●戦闘予定地点
 三ツ池公園、芝生広場。見渡す限りの芝生。
 身を隠す場所に欠けますが、視界の通りは抜群に良いです。
 光源は不用。足場も特に難は有りません。

●重要な備考
1、『<Verzweifelt>』には『<絶望的な>』の冠を持つシナリオに参加しているキャラクターは参加出来ません。参加が行われた場合は、参加を抹消します。この場合、LPの返還は行われませんのでご注意下さい。
2、『<Verzweifelt>』はそれぞれのシナリオの成否(や状況)が総合的な戦況に影響を与えます。
 各シナリオによる『戦略点』が一定以下となった場合、三ツ池公園が陥落する可能性があります。
 損失点は『シナリオの難易度』、『シナリオの成否』、『発生状況』、『苦戦度合い』等によって判定されます。
 又、シナリオが成功した場合でも上記判定により『戦略点』が減少する可能性があります。
 以上二点を予め御了承の上、御参加下さるようにお願いします。

●Danger!
 このシナリオはフェイト残量によらない死亡判定の可能性があります。
 予め御了承下さい。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ナイトクリーク
星川・天乃(BNE000016)
インヤンマスター
焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)
スターサジタリー
モニカ・アウステルハム・大御堂(BNE001150)
スターサジタリー
桐月院・七海(BNE001250)
★MVP
スターサジタリー
雑賀 木蓮(BNE002229)
インヤンマスター
高木・京一(BNE003179)
ダークナイト
黄桜 魅零(BNE003845)
クリミナルスタア
熾竜 ”Seraph” 伊吹(BNE004197)

●メイドと暴風と砂時計
「どうだいカール、空からの眺めは。中々絶景だろう」
「軽口は結構ですヴィルヘルム曹長。あまり『箱舟』を軽く見ない方が良い」
 武装ヘリコプター“Sturmwind”。“暴風”と名付けられたそれは優雅に空を旋回していた。
 地上と上空との距離感は、陸に於ける同一線上のそれと比べ遥か遠く感じる物だ。
 安全圏からの援護。概ねその心算で言葉を紡いだヘルムートに、けれど『狂犬番』の声は素気もない。
 双眼鏡を手にじっと眼下を見つめるその瞳は幾つかの視線に気付いていた。
 そしてその大半が、何らかの火器を構えている事にも。

「合図をしたらラダーを打って急旋回して下さい」
「……は?」
 戦場設定から乱戦になる事は間違い無い以上、この超低空と言える高度は仕方がない。
 鬼才と称されるヘルムートの技巧を以っても、これ以上から支援射撃を成立させる事は不可能だからだ。
 だが、それが齎すリスクを――この時彼は認識していなかった。
「そういえばヘリコプターってかの帝国の発明品でしたね」
 『デストロイド・メイド』モニカ・アウステルハム・大御堂(BNE001150)が、手元の奇形的砲台を操作する。
 その射線上には件の武装ヘリが在る筈だが、流石に夜空。照準を合わせる手はやや危うい。
 しかし同時に彼女は確信もしていた。
 もしその一撃が命中したならば、例え神秘的加工を施された新兵器と言えど唯では済まないだろう事を。
「ドンパチメカ造るしか能の無い脳筋企業と結託して戦争とか、冗談は名前だけにして下さいよ」
「Mach schnell!!」
 号砲一つ。放たれた死神の弾丸は一直線に空を切り裂き――
「!? ――!」
 チッ、と外装を掠め奔った火花と共にヘリの挙動が大きくブレる。
「お、オイオイオイオイ、何だ今の何だ今の!」
 カールの監視と指示が無ければ何の仕事もせずに撃墜される所だったと言う緊急事態。
 テールローターを撃つと言う標的の正確からさから言っても、平和ボケした民間人の思考ではない。
 遊覧気分は何所へやら。冷や汗を掻いたヘルムートに、カールもまた苦く僅かに笑むと
「アレが――『箱舟』です」
 一言、そう呟いた。

●猟犬侵攻
 眼前には敵影。風は凪、脇道に据えられた照明が煌々とその戦場を照らし上げる。
 対するリベリスタから見ても、その錬度は極めつけに高いと言わざるを得ない。
「『親衛隊』との交戦は今回が初めてですが……」
 『子煩悩パパ』高木・京一(BNE003179)が厳しい眼差しで呟く。
 彼はリベリスタ達の中でも『無銘』熾竜 伊吹(BNE004197)と並び年嵩だ。
 であればこそ、その眼は世界の広さを知る。“専門家”の恐さを実感として理解出来る。
 相手は殺し殺されを半世紀余りも続けて来た狂人達だ。家族を愛する京一には理解出来ない。
 けれど推し量る事は出来る。『親衛隊』と『楽団』が同格であるならば。
「前世紀と同じ過ちを繰り返すか……亡霊は亡霊らしく在れば良い物を」
 サングラス越しに見つめる伊吹の視線は一つ所に留まらない。周辺に気配は無いかと探り続ける。
 違和感に気付いたのはギリギリだった。それはモニターで見た敵影の数。
 おかしいのだ。敵は9名――最悪ヘリを含めれば10名、居る筈だった。
 なのに、降下して来たのは8名。
(隠れられる様な場所は無い筈だが……)
 伏兵を警戒するのは“古兵”である伊吹ならではの慎重さだと言える。
 そしてそれを裏付ける様に響き渡る回転翼の羽ばたく音。8人の視線は上と下に二分される。
「おっと、やっぱり2人乗ってるみたいだぜ」
 その中で唯一人。鷹の眼を持つ『てるてる坊主』焦燥院“Buddha”フツ(BNE001054)だけが、
 コックピットに並ぶ2つの敵影を肉眼で捉える。想定通り、伏兵は地ではなく空に居た。
 それに続け後方より響く号砲。それをかわすヘリの動きを見れば何となしに伏兵が誰かも知れて来る。

「……かわしましたか」
 モニカの声に被さる様に自動砲の弾装が切り替わる。
 思った以上に反応が良い。恐らく近代軍用ヘリの基本として旋回性は余程考慮されているのだろう。
 加え地上からの対空射撃は隠蔽性が肝だ。事前に射線を見切られていては当たる物も当たらない。
「Sturmwind……暴風か、随分厄介なヘリみたいだな」
 けれどそれは、射線が一つであればの話。
「空飛ぶヘリも煩い狗も、全てこの広場に沈んでもらうぞ!」
 『銀狼のオクルス』草臥 木蓮(BNE002229)の意気込みに、視線を交し合った前衛陣が頷き合う。
 奇襲を取られなかっただけでもプラスである事に変わりは無い。
 後は眼前の敵と頭上の敵。2つの動きを阻み切れば良いだけの事。
「相手にした獲物が実は獅子であった事、思い知らせてやる」
「墓参りする暇もない……でも戦勝報告という土産くらいは、持っていきます」
 『骸』黄桜 魅零(BNE003845)が昏く哂うや、殺戮を象徴する様な大型のチェーンソーに火を入れる。
 勝ちたいではなく勝つ。負けられないとの気負いはこの中の誰より一際重い。
 そしてそれは、上下を見比べ呟いた、『弓引く者』桐月院・七海(BNE001250)もまた同じだ。
 かつて『鉄錆雷光』と相対した彼は、その出鱈目なまでの暴力を良く理解している。
 だがそれによって何を奪われたか。何を溢したかを想えば怖気付いて等いられない。
 決意は強く強く固められた。迫り来る猟犬の群に、刃を、槍を、拳を、弓を、引き絞る。
「総統閣下、の好きな……闘争、を始めよう」
 『無軌道の戦姫(ゼログラヴィティ)』星川・天乃(BNE000016)の黄色い瞳が爛と光を映し反射する。
 血戦を、死線を、血塗れ肉爆ぜる闘いを。戦闘狂たる彼女は真っ直ぐに最前より駆ける暴君を捉える。

「さあ、ステップ……を踊ろう?」
「邪魔だァッ! 女アァァァァァ!!」
 交差する、鋼の拳と巨漢の銃口。けれど彼の暴君と相対するは独りではない。
 相手との力量差を解すればこそ、リベリスタ達もまた相応の警戒を以って対していた。
「貴様も敗残兵か」
 向けられた砲塔の巨大さに、表情を変える事も無く真正面から伊吹が応じる。
 両腕に身に着けた白い円環が光を放ち、自律意志でも持つかの様に飛翔したか――
 直後、一直線に放たれる雷撃の魔弾。
「俺も13年前、NDで何もできなかった負け犬だ。だが、あの時と今は違う」
 けれどそれより伊吹の動きの方が僅かに速い。駆け抜ける白輪。
 乾坤圏が砲塔の男、ヴェンツェルの深く斬り裂き後方へと抜ける。手応えは、確かに。
 しかし次の瞬間体躯を貫いた衝撃は、与えた打撃を上回って余りある。
 なるほど、手抜き無しとはこういう事か。指先まで伝播した痺れを確かめ伊吹はサングラスを掛け直す。
「余所見は、駄目」
 そこにふわりと降った声。空間を埋め尽くす様に放たれる気糸の群。
 放った天乃の体躯にもまた電撃の影響は色濃く残る。
 気糸の一部が巨漢の軍人の体躯に突き刺さるも、普段に比べれば精細に欠ける。
 とは言え、2人掛かりである以上徐々にダメージは蓄積する。唯一不安要素があるとすれば、それは。
「クッ、ハハハハハハアァー! 痒い! 痒いわッ! そんな児戯で我らの首が取れる物か――!!」
 対するその男が余りにもタフであると言う事か。
 まるで無傷である様に、血に染まった巨漢は平然と小銃を構え直す。

●鉄錆の轟雷
「Guten Abend! und Auf Wiedersehen! アハハハハハハハ!!」
 チェーンソーを振り回し、魅零が敵前衛、クロスイージスと交差する。
 ジェラルミンの盾と回転する刃が激しく異音を散らし、突撃の勢いが其処で停止する。
「さぁさぁさぁ! 楽しもうよ、戦争を!!!」
 狂気にも等しく跳ね上げたギアで、叫びながら放たれる無明の闇。
 流石に射線を意識はしているか、盾となる前衛に阻まれて完全な効果こそ期待出来ない物の、
 『猟犬』がノーガードで突っ込んで来た代償として、
 生みだされた光無き世界は1人の魔術師と2人の前衛を一度に飲み込み傷付ける。
「こりゃ、なかなかキツいなァ」
 他方、フツが展開するのは広大な範囲の敵の速度を奪う極縛陣。
 インヤンマスターの本領とも言える呪法に気付いたクロスイージスが邪気を払わんと神威の光を放つ。
 半ば相殺、けれどそれにより火線の展開が遅れた事は間違いあるまい。
 しかしそれは、リベリスタ側もまた――

「なるほど……確かに、おかしな手応えだ」
 癒しの歌を奏で終え、京一が小さく呟く。空にはヘリの回転翼が騒音を響かせ続けている。
 だが、効果は無い。遅延しているのだ、砂時計の効力によって。
 その視線が空からの物である以上、これを阻む事は困難極まる。
 更には時折空から降ってくる広域閃光弾。ヘリの装備ではない、『狂犬番』の操る高精度の神秘だ。
 折角の翼の加護が十全に生かし切れない事に、歯噛みせざるを得ない。
「それでも、私がやることはただ1つ」
 想定したいたよりも尚、戦況は厳しい。
 遅延によって効果の発揮タイミングがまちまちとは言え、回復を絶やせば瞬く間に戦線は瓦解するだろう。
「前みたいなのはもう十分だ……ここで全て、消却する」
 その理由の1つが、護りを無視して蓄積する反射ダメージである事に疑いは無い。
 放たれるインドラの矢。爆ぜる様なその一撃はヴェンツェル含む前衛を纏めて飲み込むが、
 一方でその分だけの体力を射撃手たる七海から削り取る。
 普段であれば然程気にする事の無いだろう痛手も、癒しが安定しない戦場では馬鹿に出来ない。
 その上――
「……来た!」
「次こそ、墜とします」
 木蓮とモニカが其々の火器を構えたか、戦場に降り注ぐ支援射撃がリベリスタ達だけを確実に撃ち抜く。
 頻度は然程では無いとは言え、味方のみ加算されるダメージは敵後衛の支援――
 雷龍の魔術と蜂の巣の弾丸も相俟って特に前衛に相当大きな負荷を強いている。
「ヘルム……しかし惚れ惚れする腕だ」
 射撃手として、その技巧に敬意を覚え無い訳ではない。けれど、戦場に於いて感傷は禁物だ。
 専業軍人ならではの地に足の付いた圧迫感。確かな戦術論で以って押し込まれている感覚。
 苦戦を予期させる苦味に、七海は汗で張り付いた前髪を掻き上げる。

 しかし良くも悪くも、戦況は必然的に推移する。試行する事3回。
 それは決して油断の結果ではなく、それは幸運が故でもない。
「さあいい子だ、そのまま動くなよ……」
 時間が静止している。様々に検討した結果、2つの銃口が狙うのはテールローター唯一箇所。
 最初からタイミングを合わせていれば、もう少し早く射落とす事が出来たろう。
 大型機械と言う物は一度操作すれば惰性で動く。回避運動を取れば急制動など出来ないのだから。
 とは言えそこまで到らずとも、木蓮の“針穴を通す様な精密射撃”はヘリの回避を凌駕していた。
 響く銃声、文字通りヘリの最も弱い一点を貫いた銃弾が通り抜けると、
 規則的に回転していた尾翼がコマの様に空回る。
 “暴風”と称されたヘリが回転を始める。ぐるぐるとぐるぐると。
「尻尾を切られたヘリって、自分の尻尾追い掛ける犬みたいで面白いですよね」
 尾翼を失ったヘリなど、恐れる理由は何も無い。モニカが殲滅式自動砲のトリガーを引くとほぼ同時。
 飛び降りた2つのシルエット。空中で火を吹き墜落する武装ヘリ。
 開かれたパラシュートが眼下に降りて行くも、次弾を装填するだけの時間はない。
「……やりましたね」
 七海の声に、何所か詰まらなそうな視線を向けるモニカ。
 それはそうだろう。折角の戦果、撃墜の功績は少なく無い。とは言え第一功は木蓮に有る事は疑い無く。
 何よりそれ以上に――
「後は勝てれば、一番なんですけど」
 それ以上に、地上での戦いはいよいよ以って窮状を呈していたのだから。

●70年目の鉤十字
 何が問題だったのか。最大要因は護衛兵の処理だろう。
 状態異常で攻めるフツと魅零がその力を最大限発揮する為には、ラグナロクとブレイクイービル。
 この2つの障害が余りにも邪魔だった。ヘリに2人を裂いている以上実質戦闘は6対8。
 せめて木蓮が初期からクロスイージスを抑えていればまだ多少余力も有ったろう。
 けれど敵火力の分散不足は回復の閉ざされた戦場では、そのまま被害の増大を招き――
「どうした女ァ……威勢が良いのは最初だけかアアアァ――!」
「まだ……まだ。本番は、ここから、でしょう?」
 守りを得手としない天乃が膝を付き、或いはまた一方では。
「箱舟は! 精鋭不在でも負けないって、証明するまでは死ねないのよォォォオオ!!」
 揮い続けた血塗れのチェーンソーを振り上げ、祝福を削った魅零が立ち上がる。
 しかし、それも決して長続きはしない。
「皆が無事に生還できるよう……どうか!」
 砂時計を持つカールが戦場から撤退した為、漸く取り戻した癒しの機会。
 京一の歌声が戦場に響き渡る。が――事、この場に限っては。
 前衛に負担が極端に偏っていたこの戦場に限っては、彼の選択は凶と出る。
「チッ……」
 伊吹が思わず舌を打つ。手足に残った痺れが攻撃の精度の著しく落としている。
 掠めはする分余計に厄介だ。掃射出来るタイミングでは積極的にこれを狙っているが、
 反射と回復がほぼ相殺してしまっている。即ちヴェンツェルの一撃がそのまま次へ持ち越される。
 猟犬の尉官は伊達ではないか。相手の癒し手を崩せていない点も小さくはない。
 もしも真っ向勝負をだったなら伊吹と天乃、2人であれば十分打破出来たろう。
 けれど相手は“部隊”なのだ。その構成を殺し切れなければ勝利は覚束ない。
 或いはそう。例え被害を覚悟しても最初に『親衛隊』の数を減らしておく事が出来たなら。
 打破して尚“暴風”は戦場に消し得ない禍根を刻み込む。

「全く大した威力だ……」
 再度放たれた稲光。インドラの矢と良く似た――けれど決定的に異なるそれ。
 戦場を制圧すると言う一点に特化した『鉄錆雷光(ブリッツェンゲヴェール)』が体躯を貫く。
 火力は然程問題ではない。しかしその精度は戦線に多大な影響を及ぼす。正に戦争の為の神秘。
「だけど、追いつけない程じゃない。追い抜けない程でも……ない!」
 七海の放った雷撃が漸く堅牢極まる3枚の壁の1つを遂に射抜く。
 魅零が無明を只管被せ、伊吹が光輪をばら撒き続けた結果だ。
 しかし未だ1匹。鉄十字の猟犬を正面きって突破するにはこれだけの困難が付き纏う。
 甘く見ていた訳ではないだろう。油断が有った訳でも無いだろう。しかし――
「……親衛隊なんて時代外れの物が、こうまで厄介だとは思ってなかったぜ」
 漸くフリーのイージスに張り付いた木蓮の視界の中、3人目となる伊吹が血煙を帯びて地に膝を付く。
 いや、むしろ限界なのは概ね誰も同じだ。
「縛っても縛ってもすぐに解除されちまう……参ったな」
 魔槍を血色に染め上げたフツも、掠れた声で唄を奏でる京一も、そして京一の前に進み出ている七海も。
 運命を噛み砕き血を飲み下しギリギリで立っている。
 例外は雷龍の被害しか被っていない木蓮とモニカの2人だけだ。
「……俺様には帰らなきゃいけない所がある」
「こっちも、無傷で帰れるなんて端から思っちゃいないですから」
 相手もまた、傷付いているとは言え7対5。
 倒れた3人全てが前衛で有る事を考えたなら、無理を押せば間違いなく死者が出る。
 そして――誰一人この戦いに命を賭す意義を見出す事は出来なかった。
「俺様達が支援する……悔しいけど、退こう」
 それが、最後の一押し。

「……皆が無事で生還する。それが、第一ですか」
 悔しげに奥歯を噛んだ京一が、七海と共に後ろへと退がる。
 未だ何とか動けるフツが天乃を、木蓮が魅零を、そしてモニカが伊吹を引きずる様に足を掴むと、
 駄目押しの様に放たれるハニーコムガトリングの弾幕。殿とても無事で済む道理はなく。
「ギャハハハハハハハ! 何たる醜態ッ! 実に滑稽ッ! 愚か! 愚か! 愚かッ!
 その無能に恐怖を刻め、劣等共オオオォ――ッ!!」
 嘲る様なヴェンツェルの哄笑を、退きながら放たれる2人の射撃手の二重奏が覆い隠す。
 この期に及び、漸く剥がれる盾もう1枚。されど余力は既に無く。
 その手は確かな戦果を得ながらも紙一重届かず、猟犬達の歩みは止まらない。
 重く低く響く銃声は徐々に遠く、吹き抜ける鋼の歯車と鉄錆の香り。
 血染めの公園にまた一つ、70年目の鉤十字が刻まれる。

■シナリオ結果■
失敗
■あとがき■
参加者の皆様、お待たせ致しました。
ハードシナリオ『<Verzweifelt>Sturm wind』をお届け致します。
この様な結末に到りましたが、如何でしたでしょうか。

ヘリの撃墜には成功した物の、地上の猟犬は2名を撃破した時点で撤収。
初動の誤算を最後まで引き摺った形となってしまいました。
MVPは早期のヘリ撃墜を成立させた功労者である貴女に。
敗因等仔細は作中に記してある通りです。傷を癒して再起下さいませ。

『親衛隊』との戦いはまだまだ続きます。
この度は御参加ありがとうございました、またの機会にお逢い致しましょう。