● 「諸君、近い将来、我々は『究極兵器』を持つようになる。 かつて私は、それを細菌かウイルスだと考えて諸君に話したことがあったが、今では、もっと強力なものが見えている。『心理兵器』や『意志兵器』がそれだ。 『特殊な電磁波』を媒体として、我々自身の意志をそのまま兵器にする。それは敵に命令し、少なくとも敵を無力化させ、我々の望む通りに動かす。軍隊に限らず、人類全体をそのようにできる。 今、『アーネンエルベ』と『AHS』でその研究をさせており、目鼻はすでについている。それさえ完成すれば、べつに毒ガスや核兵器など使わなくても、戦わずして我々はあらゆる敵を、人類全体を支配できるようになるだろう。」 ● 「……『親衛隊』が、三ツ池公園の襲撃に動き始めました」 重厚な空気がブリーフィングルームを満たす。 津雲・日明(nBNE000262)が告げた内容は、それほどに『絶望的』なそれであり、故に相対するリベリスタ達の浮かべる顔色は、そのどれもが苦渋に満ちたものであった。 「奇しくも、主流七派が動き出した時期に合わせて……ではないでしょうね。 私見には成りますが、凡そ今回の件は、『親衛隊』の側が七派首領が動き出した好機に合わせて行動を開始したものと考えられます」 「……形勢は?」 「聞きますか? 僕としては、これ以上皆さんのモチベーションを下げる事はよろしくないと考えているのですが」 ぐ、と拳を握るリベリスタ。 日明の言うとおり、この状況下で天秤がどちらの側に傾いているかなど、問うまでも無い事だ。 軍需産業に聡い大田重工と、神秘兵器に強い『親衛隊』による新兵器は、今なお相手方の武力強化に大きく貢献を為し続けている。 平時のアークならば、未だそうした相手にも拮抗するだけの力が在っただろうが――先にも言ったとおり、七派首領の対応によってエース陣が出払っている現在、残存兵力でのみの戦闘を強いられるアークが何処まで『親衛隊』に通用するかは『危うい未知数』と呼んで良いだろう。 「……何よりも、此度の『親衛隊』は、本作戦を重要なものと位置づけているらしく、その気概も今までのそれを大きく上回っています。 精神論とは言いませんが、只でさえ劣勢下の状況下で高揚した敵陣営に対して、生半な戦法で挑めば返り討ちに遭うだけでしょう」 其処までを言い終えて、日明も小さく歎息を吐いた。 予断の一切が許されない状況下。それでも自らの為すべきを見失わない――見失ってはならない責任に関して言えば、リベリスタもフォーチュナも、其の『重さ』は変わりないのだ。 「……今回、皆さんに対応していただく場所は三ツ池公園の北門駐車場、並びに其処に面する森林内となります。 敵の数は十五名。その内、どの個体もがアーク内に於ける一線級の実力を有しています」 「――――――」 息を呑むリベリスタ達。 アークの最精鋭クラスとも成れば、その実力が如何ほどのものかなど、当のリベリスタ自身が良く知っている。 それが、十数名。対する此方は、僅か八名で相手をしなければならない……? 「いえ、八名ではありません。 僕達(アーク)としても敵の侵入地点にして封鎖地点である北門には十分な戦力を配置しておりました。結局突破されてはしまいましたが、未だ残存戦力は此方で戦闘を続けているはずです」 日明の説明を要約すると、元々この北門駐車場には数十名から成るリベリスタの防衛陣を構築していたらしい。 が、それらは経験の浅いリベリスタによるものであり、『防衛』と言うよりは『警護』のみを目的とした構成だったとのことだ。 『親衛隊』の襲撃後の今となっては、その数は五分の一以下となったが、リベリスタ達が彼らとの共同戦線を上手く取れれば、それらは十分に戦力としても機能できるだろうという事。 更に、北門突破を担当した『親衛隊』自体も、それら数十名との戦闘で幾許かの消耗を取られているため、付け入る隙は十分に有り得るだろうとの予測も説明された。 「当然、気を緩めて良いという相手ではありません。此処を相手に占拠されると言うことは、敵の敗走時、逃走経路を確保されてしまうと言うことでもあります。 それでも……皆さんなら、この戦況を打破してくれると、僕は信じています」 各個とした意志。 それを吃と言い切った日明は、深々と頭を垂れて、「お願いします」と言った。 「勝利してください」と言うだけではなく、 「無事に、帰ってきてください」と言う、強い願いを込めて。 ● 「……ふむ」 硝煙と鉄の匂いが充満している。 濃密な『死』の気配に覆われた森林内から、軍服を着た少年は駐車場に立つ敵を監視していた。 「損耗が激しいな。其方はどうだ、エルマー」 「大凡、此方と変わり在りません。長引けば負けを見るのは此方でしょう」 傍らに立つ男性に、少年は「そうか」とだけ呟いた。 その瞳には狂気がなかった。 しかし、それと同じほどに理性の光もなく、或いは生死の感情も、個や全と言った区別すら、彼は失しているように見えた。 「……貧乏籤を引いたか?」 「難しいところです。この後に来るであろう敵の増援が、どれほどの力量かにも因りますが」 「成る程」 淡々とした口調からは、負けを認めんとする気概の一切が感じられない。 其れは逆に、感情に左右されたブレが無いという事でもある。 機械のように、着々と最適手を選択し続ける。それはこの少年――アーレ伍長の強みでもあり、同時に弱みでもあった。 「頃合いだな。タイミングを見てアレを使え」 「――――――、は」 淀みない口調で告げられた命令に、エルマーと呼ばれた男は小さく息を呑み、言葉を返した。 思想兵器。嘗てアーネンエルベ、並びにAHSと呼ばれる、当時のドイツにおけるエリート養成機関において研究された、兵器とは別種のカタチを得たもの。 未だ試作段階の域を出ないそれを模造し、この戦場に持ち込む伍長には、火と鉄の兵器で闘う兵士の矜恃と言うものへの執着が極めて薄かった。 それでも。 「勝つためだ」 「………………」 「総統閣下の意志を為す。その為に、今一度は臍を噛め。 総てが終わり、我らの理想が形を為したその日、お前達は私を思想の反逆者として殺せばいい」 エルマーは、その言葉を聞いて、彼の後頭部に差し向けていた銃口を降ろした。 矜恃はなく、意志もなく、思想も理想も願いもなく、 唯、少年は他に類さぬ忠誠心だけを秘めていた。 それだけが少年の、アーレ伍長の全てであり、 それを知った部下達もまた、彼に追従することを良しとしていた。 「――さて、ここからが正念場だ。 始めよう。全ては我が指導者のために。その意志を遂ぐる為に」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田辺正彦 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年07月04日(木)23:39 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 牙城は既に崩される時を迎えていた。 支援役を庇い続けるクロスイージスは立っていることがやっとだろう。それに守られてきた三名のリベリスタ達も、ならば無傷かと言えばそうでもない。 拉ぐ身体は保っている。保っていることで、精一杯。 対する軍服の男達――『鉄十字猟犬』を名乗る彼らは、その様をせせら笑いながら、背後に在る上官に問うた。 「アーレ伍長、如何しますか?」 「『さて?』」 問うた部下に対して、返す少年は無表情の侭だ。 「……は?」 「いやさ、失礼。貴官は実に優秀だ。 与えられた使命に忠実であり、上官の意見を決して見逃さず、聞き逃さない」 『現状に於いて』圧倒的優位に立つ親衛隊は、奇矯な言動を綴る伍長に奇異な視線を向けている。 だから、気付かない。 「……斯く言う『木偶』だから、折角の好機を取り逃がす」 「分析が得意なご様子で」 「「「!!?」」」 親衛隊でも、リベリスタでもない。 唐突に響く『第三の声』は、手にするグリモアールに魔力を込め、現世に在らざる神意の加護を戦場に振りまいた。 『おとなこども』 石動 麻衣(BNE003692)――彼女の出現を皮切りにして、その場には八名の闖入者が現れる。 「きゃっ、公園が大変な事になってる! しかもこの状況。何だか、その……すっごく、大ピンチ?」 「また鍵十字の亡霊が出ましたわね……しかしこの公園毎回狙われるのがなんとも、いい加減に常駐警備隊を設置したほうがいいですわね」 『運び屋わたこ』 綿雪・スピカ(BNE001104)、『甘くて苦い毒林檎』 エレーナ・エドラー・シュシュニック(BNE000654)の簡単な掛け合いの後に、傷んだホーリーメイガスの身に精神の同調が施される。 「っ。君、たちは……」 「無理はせず、とっとと下がりな。後は、俺らが引き受けた、ってな」 反し、後方より一挙動を以て親衛隊等に肉迫したのは『気焔万丈』 ソウル・ゴッド・ローゼス(BNE000220)であった。 振りかざされた釘打ち機が、牽制の意を込めて路上に巨大な穴を穿つ。 「戦場にルールはねえつっても、俺には俺のルールがあるんだよ。 だから、うちの同僚をやらせはしねえよ」 「素晴らしい。我を貫いて自己の判断で動く。そうした『有情さ』は時として爆発的な能力の源泉たり得る」 炯々とした瞳で殺気を放つ彼をして、対岸の少年は涼しい顔の侭だ。 単純に評価をする。実力を認めたから警戒する。 道理と言えば道理。戦士ではなく兵士だからこそ為せる思考。しかし、それは彼にとって―― 「……嗚呼、気色悪い」 継いだ言葉をそのままに、『ピジョンブラッド』 ロアン・シュヴァイヤー(BNE003963)が、銀の鋼糸をゆるりを交わした。 「何時の日も、どんなものでも、狂信者ってのは面倒だね。 そうそう、僕も差別主義者で……君らみたいなゴミクズは、とっとと死ぬべきだと思ってるんだよね」 「……確か『ピジョンブラッド』だったか? 神を嫌い、その『代替』足るべく研鑽を積み重ねた信仰者」 親衛隊の幾人かが、怯えて一歩を後退る中――唯一人、伍長と呼ばれる少年は、純粋な興味と、疑問の視線で彼を見る。 「其方の主義に意見する気はないが、奇妙なものだ。 その主張に従うのなら、真っ先に殺すべきはお前の妹だろうに」 「生憎、身内には甘い身でね」 「何とも短絡な」 顎に手を当て、ふむと歎息する伍長。 「……そういえば、似たような者がもう一人居たな。 まあ、其処の銀髪ほど苛烈ではないが、確か、アリアドネの――」 「――不動峰、杏樹」 まるで、其れが何かの呪文のように。 響く銃声。直上を向けて放たれた銃弾は、瞬きの間に幾条の火矢と成り、喧噪の公園を轟音の音でかき消した。 『アリアドネの銀弾』 不動峰 杏樹(BNE000062)。 正しくその本人が向ける視線の先には、僅か前、予見者に告げられた『火に非ぬ兵器』の姿を思い浮かべている。 思想兵器、と。そう呼ばれた洗脳型のアーティファクトを想い、彼女は銃把を固く握りしめた。 「……似たような神秘なら幾つか知ってるよ。意志を奪って操り人形にして、そうやって捨て駒にされた者は救われない」 気に入らない。それを確と呟く杏樹に対して、射線の向こう側に立つ少年は、何処か眩しいものを見る目で彼女に言葉を返す。 「貴様の其れが言うのは、理由無き無辜の人間を呪う類のものか? 生憎と、これは戦争だ。騎士の決闘ではない。 賊軍(はいしゃ)は骨の髄まで食い尽くされ、官軍(きょうしゃ)はその血肉を啜って更なる高みとなる」 「……何が言いたい?」 「『敗北の先』の覚悟を持たずして戦場に立つなら、悪くは言わん。平穏な場所で長閑に暮らせ。 『これ』はそう言うものだ。戦争のために作られ、戦争のために使われ、戦争の果てに消えゆくだけのもの。貴様の持つ銃と何ら変わりない。それとも――」 「伍長」 横合いに発された言葉が、少年の声を其処で留めた。 「……そうさな。今更言葉も無用だろう。勝ちたければ――殺せ」 「――――――」 眇めた瞳に、子供がヒトリ。 その忠誠は強靱であり、その精神は狂人であり、その闘気は凶刃である。 並び、炎の果てにふらりと立つ『親衛隊』の姿にも、その廃人性は見て取れた。 「戦争って解りやすくて良いよね」 其れを見て。 誰とも無く言を発すのは『デストロイヤー』 双樹 沙羅(BNE004205)。 双手に担う大鎌は昏い。直上に浮かぶヨルを内包したかのような殺気は、使い手の意志を喰らうかのように濃密な『死』をイメージさせて。 「強者が怯える姿が好きだ。血が好きだ。死が好きだ。 ……さあ、見せてよ、このボクに戦争を」 口の端を歪め、空を一閃。 ぎし、を音を立てて、痛みすら振り切った身が、豹の如く、鉄と火の軍人達に飛びかかった。 ● 「ったくもー!なんでこんなに忙しいのよっ。馬鹿姉は危ないところ転戦してるし……」 開幕早々、愚痴を盛大に吐き出す『尽きせぬ祈り』 シュスタイナ・ショーゼット(BNE001683)の頬は紅潮していた。 アークの危機、日本の危機、世界の危機。 現状を知り、己の役目も識る。それをしても感情とは往々に理性を裏切るものであり、故に今すぐでも無二の肉親へ向かいたい思いを堪える彼女のココロは、成る程、確かにリベリスタたり得る『強さ』を有している。 「さっさと立ち上がりなさいよ。泣き言は聞かないわよ。生きるために頑張りなさい!」 「……すまん!」 激と共に為された賦活で、屈しかけたリベリスタもその体力の大半を回復させた。 残る者もその行動は『仲間を守り』『敵を倒す』事に特化している。 続けざまの攻撃、或いは自己強化。そうした所作を取るリベリスタ勢に対して、しかし。 「――成る程」 森の向こうより、少年が前に出る。 スピカが声に出すまでもない。堂々とその姿を現した彼が手にする炸裂弾が中空に浮かべば、次いで出でるは神秘の閃光。 「――――――ッ!!」 魔力の集積を己に施していた麻衣は、その時点で忌々しげに臍を噛む。 他の面々も同様だ。付与効果を砕かれた者、複数の状態異常に身体を拉がせる者、そうして乱された『場』を呑み喰らわんと、親衛隊勢も己の装備を敵に構えるが…… 「おいコラ、手前ェ何処見てやがる」 「な――」 後衛に進まんとする親衛隊の襟首を掴み、ソウルがそのうなじに目掛けて釘打ち機を叩き込んだ。 絶声。只の一撃で気を失いかけた彼のサポートに回るべく、残るフィクサード達も足を止めた、が。 「良いの? そんな所で止まっちゃって」 戸惑いは、エレーナの声から為されたものだ。 構わず、地を蹴ったソードミラージュが多角の剣閃を放とうとした折……地から伸びた気糸の群れが、彼の脚を次々と突き刺していく。 「ほうら、毒が回っちゃった」 「所詮はサル共の飼い犬か……ッ!?」 言いかけた言葉が、黒死の一閃で閉ざされた。 凶刃の向こうには沙羅の姿。にいと嗤った少年が、最後方に位置する少年(アーレ)へ言葉を投げかけた。 「アーレ。君の主への忠誠は本物だね? 精神的強者も好きだよ、同時に憎い。 手段を選ばず、勝利に貪欲。欲しいのは大義かい? 名分かい?」 「知ったところで何が変わり、何を代える? 目的も手段も大義も、少なくとも同胞達にとっては単一に統べられるものであり、俺自身が如何なる思想であると其処に追従している限り、語れることは其処で終わっていると思うが」 血だまりに伏す部下を平然と見下ろし、アーレは淡々と告げる。 「貴様等は不思議なものだな。闘争は望むモノの過程と嘯きながら、其処に途絶した意味を求める。 脇目を振る余裕が有るのか、立ち止まる猶予は在るのか。そら、そうして留まる内に、貴様等も好機を逃したぞ」 「ッ!!」 気を緩めたが最後、振り下ろされるのは幾条の剣、拳打、魔力の群れ。 『間断無い一個』に纏められたそれは、唯の十秒で沙羅の命を挽き潰し、運命の炎を熾火へとくすぶらせる。 「お前等……っ!!」 「流石に、攻撃の中途で余計な横槍を刺されたくはない」 そう語る彼に対して、純粋な瞠目を見せたリベリスタ。 今の一連で何をされたか、と言うなら、それは単純なことである。 彼らは全員が待機を行い、後の後に於いて続けざまの攻撃を一気に撃ち放ったという、それだけ。 博打にも近い戦法だった。そもそも対するリベリスタ達の中で、行動不能の状態異常を持つ者が、賦活能力を有するクロスイージス、ホーリーメイガスを一斉に狙っていれば、その時点で『親衛隊』勢はサンドバッグに成り下がるも同然だったのに。 「数と職業の多様性、並びに『足手纏い』へのサポート。 其方が定石通り回復役を狙いに来る可能性が低いことは予想がついている」 くん、と空を泳いだ腕が、彼の部下に対する次の命令とは直ぐに解った。 ● 敵陣を崩すには、火力の低さが目立つ。 否。破城の槌は実に良く機能していた。只、対する城壁が、微かにでも崩されれば組み直されるだけで。 「ああ、もう! 何人倒してもキリが無いわ!」 切れかけた息を怒りで無視して、魔曲・四重奏を撃ち奏でるスピカの思いは、その場のリベリスタ全員が抱くものと相違ない。 「鉄に庇護を。焔に加護を。猟犬に妙なる怒りを――――――」 撓めた呪言が曇暗に響けば、次いで為される大天使の息吹は『親衛隊』の悉くを癒し経た。 力量と数が揃う敵は純粋に脅威である。敵方は森林内に配置した『思想兵器』の防護班に一切の回復役、防御役を配置していなかったがため、その分の回復リソースが総て駐車場内の戦闘で用されていた。 「ホーリーメイガスだけなら兎も角、インヤンマスターにクロスイージスまで回復スキルをセットさせるとか……」 「此方も、回復の手厚さには自信がありますが」 対し、敵陣の攻撃に傾いだ仲間にに於いても、シュスタイナ、並びに麻衣が癒術を施す。 必要時にはエレーナとスピカ、更に救援された警護班リベリスタによる回復が施される彼らもまた、先の『不意打ち』を除けば、少々の攻撃で身を揺るがすようなことは無い。 が、逆を言えばこれは―― 「……地力の続く限りの消耗戦?」 最前線にて鮮血の舞曲を為すロアンの言葉こそが、現状を正しく表現した一言と言える。 四枚以上から成る回復弾幕のぶつけ合いは、逆を言えばその分双方の攻手に弱みが出ることとほぼ同義だ。 そして、その点にのみ関して言うならば分は些かリベリスタ側に難があると言える。 パーティの回復役はEPの自己回復を有する者が少ない。厳密に言えばマナコントロール等による効果こそは存在するが、それらは敵方によるブレイク攻撃の集中で中々効果を発揮しづらい状況に在るのだ。 対し、敵方はそうした自己チャージを存分に振るっている。何よりもパーティ内で唯一人他者へのチャージ能力を持つエレーナはその能力を比較的最大EPの低い警護班リベリスタに集中させていたため、じりじりと仲間内でのEPの枯渇が目立ち始めていた。 「――あ、」 汗が滴り、所作に歪みが見えた麻衣を巻き込み、獄炎にも似たゲヘナの火が吹き荒れる。 軋んだ身体、小柄な彼女を守るべく、エレーナが一歩を踏み出し――其処で、止められる。 次いで、爆音。 「……『盾』が守られるなんて、笑い話にも成らんな」 エレーナよりも早く、麻衣を庇った警護班のクロスイージスが、その時点でダブルシールドの構えを解く。 「貴方……」 「体力の低い君たち後衛陣は此方でカバーを行う。済まんが攻撃は任せた!」 自らの役目に完全に立ち直った彼らを見て、シュスタイナもまた静から動へと意識をシフトした。 「それじゃ、お言葉に甘えてキッチリお仕事しましょうか」 指先から滴る雫が、濁々とした黒鎖を無条に生み出し、現界を縛る異象と化す。 突如として『回復役』と思っていた者達が高威力の攻撃を行えば、其処には動揺が生まれ、次いで、杏樹が動いた。 「――助かる」 優勢劣勢の状況に綻びが生まれたとすれば、或いは今がその時だろう。 後ろを振り返らず、言葉ばかりの最大の礼を告げた杏樹は、そうして魔銃の弾丸を星光へと転化する。 「それと――よく頑張ったな。もう少しだけ耐えてくれ」 敵を軽んじているとも思われる言葉は、為された結果がそれを冗句と思わせない迫力を帯びていた。 降りた光が、敵を灼く。 穿たれた銃痕に倒れる者も現れる中、とん、とステップを踏んだロアンが、著しく傷ついた者へ――己の影を以て、口づけを贈る。 「亡霊は亡霊らしく墓場に帰りなよ? 手伝ってあげるから」 触れた唇を起点に、影は敵を『呑んだ』。 黒いヒトガタの檻の向こう、聞こえる悲鳴と悲痛な異音に屈託無い笑みを浮かべて、ロアンは笑う。嗤う。嘲う。 「……ふむ」 言った伍長が、パキン、と鳴らした指。 喧噪の直中で奇妙に響いたそれを機に、『親衛隊』達が転身した。 「……逃げる気か? 手前ェら」 「何か文句が?」 けろりとした表情に、たった今『親衛隊』の腕一本を撃ち貫いたソウルが、ち、と舌を打つ。 警護班リベリスタ達の戦いの参入によって状況が好転したように見えても、実質の其れは薄皮一枚の優勢だ。 元より練度が足りず、体力の最大値が低い彼らに対して、回復も務めるメンバーの多くはこまめに回復を『送りすぎた』。 リソースの消耗はまだ限界と言わずとも、双方どちらが潰れるかまでの域に達せば、音を上げるのは此方の側だ。 それならば――一先ずの勝利で手を打つに、越したことはない。 「……あ、『思想兵器』の方は?」 「アレの持ち出しや破壊は困るな。何しろ総統閣下が着手した明確な遺産の一つだ。 と言うより、既に森林内に残していた部下はそれを抱えて動いている。今更向かっても逃げおおせているだろう」 沙羅の言葉に対する返答に、リベリスタの凡そ全員が拳を握る。 其処に――ほんの僅かだけ、胡乱じた瞳を送った伍長は、「いずれにしても」と言葉を続ける。 「おめでとう。これで此の地は君たちが勝ち取った。 敗者である我々は、潔く『この場から』退散しよう。――では」 「……?」 奇妙なアクセント。 問い返そうとするより早く、彼もまた身を翻し、木陰の中に姿を消した。 結果として、 リベリスタ達は交戦状態にあった警護班リベリスタ達を全員救い終えた後、北門駐車場付近の森林に在る敵一団を撤退させる事に成功する。 それは明確な勝利であり、誰に於いても誇るべき戦果とも言えた。 ――それだけで、総てが終わったのなら。 ● 「被害は?」 「死者四名、負傷者五名、動けるものは六名ですが、その内一名も十分に回復を行わなければ厳しいでしょう」 「そうか」 即時の判断によって戦場から逃げおおせた『親衛隊』達は、適当な木に寄りかかりつつ、現状の確認を行っていた。 「『兵器』の方は」 「……無傷です。相手方は戦闘中、此方を全く狙いませんでしたからね。 持ち出すのは比較的簡単だった、と言えるでしょう」 「……成る程」 幾度か口の中で何かを呟く伍長は、些少の間をおいた後にゆらりと歩き出す。 「つまり、『直接的な』交戦は厳しい、と言うことだな?」 「……その通りです」 付けられたアクセントに、気付かない者はこの場には居ない。 「……負傷者は本隊に戻れ。行動が可能な者は私と共に、『兵器』と共に散発的な奇襲と、未だ戦闘中の味方部隊への支援に回る」 リベリスタ達は『親衛隊』と言う存在を、並びに『全体作戦』と言う此度の戦闘を甘く見ていた。 此度の目的は確かに『現戦場に於ける親衛隊の撤退』であったが、それはあくまで全体からの俯瞰に因れば『必要最低限の目標』に過ぎない。 結果が現状である。彼らが見逃した兵隊は、微かでも今はこうして息を吹き返し、反撃の牙を少しずつ研ぎ始めていたのだ。 (――全く) アーレ伍長は、小さく嗤う。 能面のように、人形のように、ヒトとしての精神性の一切を欠損した彼は、今久方ぶりに笑ったことを自覚した。 (アレを正義と定義するならば、今の世は、どうにも甘すぎる) その胸に、微か、宿る思い。 嘗ての総統に対しての忠誠心のみで動いた彼は、今初めて、個としての意志を以て、彼らへの思いを口にする。 「……嗚呼。貴様等は、『俺』の中で、確かに倒さねば成らん敵らしい」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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