●チェンジリング 嬰児交換。取り替え子。古来より偶さか起きる自然現象。 本来育てるべき親から、何らかの事故で持って子が離れてしまい、異なる種の親に育てられる。 その結果、その子供は異なる環境を経て、異なる常識と異なる技能と異なる才能を開花させる。 だが、取捨選択。一種の生物の形成した、社会の受け皿と言うのは決して広くはない。 異物は排除され、異端は排斥される。一旦外れた物は二度とは戻れない。 例えばそう、幼い頃にリンクチャンネルへと落ちた子供が、偶々運良く生き残り。 あちらの世界で育ち、あちらの環境に適応し、あちらの常識、技能、才能を開花させ戻った所で。 その子供に“こちら”で生きる術など、既に残されては居ない。 彼女は真っ暗闇を通り抜け、夕暮れの繁華街に足を踏み入れた。 ●ヒトガタさん ゴシックロリータと言うのだろう。フリルが付いたひらひらとした黒一色の衣服を纏い、 髪はさらさらと、丁寧に手入れをされた金の長髪。瞳は蒼い硝子玉。 透き通る様な白い肌は道行く人々の目を酷く惹き付けた。 背中に背負ったバイオリンケース。周囲を見回してかくんと首を傾げる仕草は愛らしく。 他人には距離を置く事の多い今時の人々が、思わずお節介を焼こうかと、 そんな事を考える位に、その少女は未成熟であどけない魅力に満ちていた。 それは例えば――鮮やかに咲き誇る食虫花の様に。 「ねえ、君。何処から来たの。モデルさんか何か?」 目聡い青年が思わず声をかける。駄目で元々、御近付きになれたら万々歳。 そんな如何にも軽い気持ちが、この場合は明暗を分けた。 硝子玉が青年を眺め、瞳を細めにこりと微笑む。嬉しそうに、愉しそうに、幸福そうに。 次の瞬間、青年の頚椎が切断され、血飛沫を吹きながら頭部が転がった。 「RrrrrrR、rrrR、rrrR、rrrrrr――」 詠う様に、澄んだ声で何かを呟きながら、 バイオリンケースから取り出した、薄く潰した鉄塊を振るう。 振る度に人の首が跳ぶ、跳ねる、舞い上がる、彼女と共にダンスを踊る。 少女はとても楽しそうに愉しそうにたのしそうに舞う。血飛沫を浴びて優雅な程に。 「rrR、rrR、rrR――」 5分後、繁華街には誰も居ない。誰も居なくなってしまった。 一部の幸運な人間は逃げ、大半の運の無かった者達は死んだ。 無数の遺体の転がる繁華街。少女は寂しげに目尻を落とし、首を狩った遺体を齧る。 かりかりと、ぐちぐちと、啜り、貪り、口中を血と粘液で染め上げる。 食事を終えると彼女は去る。次の狩場へ、次の街へ、自動人形の様に、ふらり、ふらり。 昆虫の様な意志の篭らぬ眼差しで、異邦人は止まらない。 ●殺人依頼 それを、アザーバイドと分類して良いのか。それは誰にも答えられない。 運命を見通す万華鏡は、それに是と応えている。けれどそれは何処までも、情報でしかない。 「綺麗な花には棘がある。毒を持った生き物ほど艶やかだって言うのは、 何処の世界でも変わらないみたいだよ。バッドドリーム、夢は現実で見る物じゃない」 『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)が何かを悟ったかの様な事を言うのは、 今に始まった事ではないが、今回は殊更に実感が篭っていた。 モニターに映し出されたのは庇護欲を煽る小柄で美しい少女である。 しかし、この少女が出現した直後から殺害すると予知された人数は、 ちょっとした規模どころではない。僅か半日で、小さな町1つが根こそぎである。 その戦闘能力は常軌を逸している、明らかに、一般人が有するそれではない。 「世界を渡った先で、良くも悪く適応、変質、進化したんだろうね。 ちょっとしたミュータントだ、区分としての人類からは逸脱してると言わざるを得ない」 伸暁はこれをアザーバイドだと割り切った様である。 どちらにせよ、“こちら”の人間は彼女を許容する事は出来ない。 人を殺害・捕食対象としか感知出来ない怪人等と言う物は、討伐される以外に無いのである。 「リンクチャンネルは開いて、すぐ閉じてる。処理するしかないね。 こっちのメジャーじゃ測り切れないのはアザーバイドのお約束だけど、 彼女の単純な脅威度はかなり高い。トップギアで頼むぜ」 命名、人形さん。明らかに何処かの無表情少女の筆跡で書かれた紙をテーブルに置き、 黒猫はクールな笑みを浮かべる。 「イヴもなかなかロックってものが分かって来たよな。 件の彼女をアザーバイド“ヒトガタさん”と認定する。厳しい戦いになるだろうが、宜しくな」 最後に付け加えたのは、彼なりの免罪符。 それはノーフェイスでもなく、エリューションでもなく、フィクサードでもなく。 恐らくは、アザーバイドですら無かった筈の―― 運の悪い、一人の少女の殺人依頼。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:弓月 蒼 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年07月14日(木)22:09 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●ヒトガタさんと、幸せな人々 その瞬間まで、街の人々はそれぞれに平和で何事もない退屈な日々を過ごしていた。 ただ漫然と過ぎて行く、日常の一端でしかなかった筈の穏やかな時間。 けれどそれは突然破られる。 「ここは危険です!」 駆け込んできた人々。『錆びない心《ステンレス》』鈴懸 躑躅子(BNE000133)が上げた声に、 何事かと視線が集中――するや、直後に爆音。聞き慣れない異音に周囲が一気に静まり返る。 「ここら一帯に爆弾が仕掛けられてる、とっとと避難しやがれっ!!」 駆け込んできた一人、『Not A Hero』付喪 モノマ(BNE001658)が上げた声に、 反応した者は極々少数だった。至極平和なこの国の人々の、危機感の薄さは生半可な物ではない。 この段に有って、まだ現状の危険性が浸透し切らない。 一部の人間は爆発音の有った箇所へ携帯を向けている。 「……なあ、何か匂わないか?」 ――が、そこへ漂ってくる異臭。一言で言えば至極不快な香りに、漸く人々がざわめき出す。 「爆発があってそこから……うぇっぷ……」 「ガスです! 皆さん逃げて!」 『素兎』天月・光(BNE000490)が行き掛けに撒いた香水と、腐臭に近い香りの缶詰。 それを助長する雪白 桐(BNE000185)の声に、漸く動揺が広がり始める。 これはヤバイのではないか。そこに思い至った人間が距離を取り、敏い人間が逃げ始める。 しかし駄目押しになったのはそれではない。彼を見たほぼ全ての者が引き攣り後退った。 『蜥蜴乱闘士』リ ザー ドマン(BNE002584)。幻視も何も無しに街角へ現れた、 その頭部が蜥蜴なビーストハーフは、一見した時点で既に特撮物の怪人である。 「ギャー ギャギャー」 ギャーギャーと鳴く姿は確かに多少の愛嬌がありコミカルですらあっただろう。 但し、それはあくまで見ているだけならば。視聴者としてであれば、である。 リアルにこれが迫って来るのは、少々、いや、大分、かなり、恐い。 リが歩く。群衆が退く。そこには心理的な壁とも言うべき物が築かれていた。 「―――。」 だが、猶予は此処までである。 何の脈絡も無く、その中心。異臭漂う爆心地の直下に、彼女は、居た。 背中に背負ったバイオリンケース。さらさらと流れる金糸の髪に青く澄んだ硝子玉。 イヴをして人形の様と評させた、造り物めいた可憐な少女が、ぽつんと一人。 その姿は余りに人目を惹いた。近くに居た男が焦った様に手を伸ばす。 「君、そこに居たらは危な――」 「近付いちゃだめっ!」 『禍を斬る剣の道』絢堂・霧香(BNE000618)が跳びかかり、善意の市民の声は遮られる。 そう、危ないのは彼女ではない。彼だ。 かちゃん、とバイオリンケースが開く。躑躅子、モノマ、リがとび出す。 バイオリンケースが落ちる。霧香が小太刀を抜き放ち、光が缶詰を投げようと振り被る。 桐が踏み込む、大きく一歩。少女の最も間近へ。ケースから何かが引き抜かれる。 ハイ&ロウを仕掛け終え、見下ろしていた『二重の姉妹』八咫羽 とこ(BNE000306)と、 同じく中空を飛行していた『鷹の眼光』ウルザ・イース(BNE002218)が、 目視できちんと確認で来たのは、けれど此処までだった。 横一閃。 激しく飛び散った血飛沫が街角を染める。 ●ヒトガタさんと、戦う人々 頬にはねた液体の感触に、庇われた男は自身の頬へと触れた。 空を飛ぶ人間、一人には羽が生えている。蜥蜴の化物。 それに自分を庇った一人はいびつに巨大化した金属の腕を着けている。 見れば分かる。異常だ。普通ではない。尋常な出来事では決してない。 頬から話した手は赤黒く濡れていた。見れば分かる。血だ。吹きかかった血飛沫の一部だ。 視線を戻す。そこに居た少女はフリルで飾った愛らしさばかり目立つ服に、 べったりと、多量の返り血を被っていた―― 「――、。」 息が止まる。臓腑が恐怖と本能と吸い込んだ大気で満たされる。思考が解凍され喉が震える。 「――――ぅ、わあああああああああああああああああああああああ!!!」 悲鳴が上がった。そして恐怖は伝播する。生存を脅かされ漸く、 “普通”の人々の危機感が警鐘を鳴らす。パニックが起こる。 人が人を押し退ける。転ぶ。踏みつける。一歩でも、僅かでも、一足早く遠くへ。 「っ、あの細腕の、どこからこんな」 弾き飛ばされながらも小太刀を杖に。ギリギリ耐え切った霧香が息を吐く。 「ギャウ、ギャ、ギャ……」 他方、横一文字の斬り傷から血を溢れさせるリに到っては、意識を手放す寸前である。 「大丈夫ですか! 今癒しますから!」 躑躅子が癒しの符をリの傷口へと押し付ける。路上は見事に赤く染まっていた。 戦いを楽しむ暇もなく、見た目を裏切った一閃の威力は絶大かつ過剰。 耐久に劣る面々が被った害は意識を刈り取られかける程に甚大極まる。 だが、最も傷付いていたのが誰かと言えば、それは彼らでは決して――無い。 「Rrrr……Rrrr……」 詠う様に透明な声を上げながら少女が迫り、鉄塊が振り被られる。 軋む様に苛烈な金属音を立て、振り下ろした少年の大剣がこれを押し退ける。 「これは、流石に近付かせてはくれませんかね」 半身を血に染め、けれども最至近で武器を交える桐の体躯は動く度に悲鳴を上げる。 庇うと言う行為は護りを固めると言う効果を内包する。 であればこそ、至近に迫っていた彼の受けたダメージは他の面々に比べても一際大きい。 その上更に前に立つとあれば、ヒトガタさんの狙いは彼に一点集中する。 たった数合でも悟らざるを得ない。これは命懸けの前衛である。 「綺麗なものが傷ついていく様をみて幸福を感じる 自分がそんな変態だったらよかったのになぁと思うよ。割とマジで」 それを阻む様に放たれるは、狙いすました気糸の網。 けれど放った側のウルザの口調にはどうも苦い物が混じる。彼とて年頃の男子である。 可憐な美少女に思う所のあれやこれ、無いではない。目が惹かれる事もまた、否めない。 するりと、まるで決められた舞台の様に網目を抜ける少女の舞は、 それほどまでに澄み切っていた。不純物の無い、混じりっ気無しの最適解。網が空を切る。 「感傷に浸る暇はねぇ。お前も殺り合った方がわかりやすいだろ!」 しかし先の薙ぎ払いを受けたモノマにとっては、そんな事情はさて置かざるを得ない。 実感として理解する。手を抜けば狩られるのは自分達の側であると。 虚空を蹴り上げ放たれたかまいたち。視界は良好、精度も十分。 漸く、と言うべきだろうか。奔り抜けた斬風脚がヒトガタさんからクリーンヒットを奪う。 人形めいた可憐さに、人を表す赤が滲む。彼女はあくまで、人間であるのだと示す様に。 「前略、余りの臭さに心がくじけそうです。お母さん」 これに畳み掛けるべく、缶詰を振り被った姿勢のまま吹き飛ばされた光が前衛へと戻る。 事前に色々としていたお陰で投げ損なった、缶詰がどうなったかは推して知るべし。 概略、酷い有様になりながらも放った八つ当たり気味の高速斬撃。 だが――二度は続かない。外される。削ってはいるのだ、だが反応が早い。直撃が遠い。 「とあ、行くの」「とこ、やっちゃえ!」 一人で二語を操りながら、舞い降りたとこが全身から気糸を伸ばす。 これも空振る。接近と退避を同時にした為か、ぶれた射線ではフリルを揺らす事しか適わない。 「あれはアザーバイド。あれは斬るべき禍……斬るしか、ないんだ」 踊る、踊る、それは楽しげであるとすら思える演舞の様な瞬間回避。 人間が此処までの反応を得る事が出来るのかと、瞠目するほどに。感動するほどに。 であれば彼女、禍つを斬る霧香の太刀は僅かであれ迷う。 その迷うを断ち切る様に、腰溜めより抜く居合いは虚空にすら斬光を残す。 けれど、浅い。辛うじてとは言え当たりはするのだ。徐々にであれ、傷は増えている。 ――しかし。 「Rrrr、rrrr……RrR」 1、2、3、ワルツのリズムで跳ねたヒトガタさんが担いだ鉄塊を全力で振り下ろす。 足止めをしていた桐の身体をその切っ先が通り抜け―― 「――っあ……」 吹き上がる。命の水が赤く朱く紅く、噴水の様に。 彼でなければ、先ずこれほどは保たなかっただろう。稼いだ時間は無駄ではない。 漸く周囲からは人が居なくなっていた。彼の奮戦が一般人の犠牲を0へと抑え込んだ。 だがその代価もまた、少なくは無い。桐がよろめき、ヒトガタさんの方へと倒れる。 奇しくも抱き締める形となり、一瞬身を引いた少女が瞬く。不思議そうに、困った様に。 「――これが、人の温もりです、よ」 戸惑う様な彼女を想い、呟く言葉に後悔は無い。彼はただ放っておけなかっただけ。 何も知らず、知らされぬまま終わる何て、だってそんなのは――哀し過ぎて。 桐はそっと、意識を手放す。 ●ヒトガタさんと、もっと戦う人々 「おおっと! やめろ馬鹿こっちくんなー!」 最前線で無理を言う、光が華麗なバク転を決める。 間一髪ギリギリを避けながら最前線を張る彼女のお陰で、機はリベリスタ達へ向いて来ていた。 「rrr、rrr、rrrrr……」 返す刃で放った連撃を、こちらも少女はひらりとかわす。互いに間一髪を奪い合う。 その様はまるで達人が行う剣舞の様に。 「ギャウ ギャー ギャギャ!」 「疲れてきたの」「疲れてきたね」 ああもうちょこまかと! 的な事を言ってるらしいリが声を上げ、とこが疲労を訴える。 しかしこれはヒット&アウェイで攻撃を仕掛けている面々に共通して言える状況である。 とにかく、当たらない。元々動きながらの攻撃は当たり難いとは言え、 余りにミスが続くと心身共に徒労感が募るのは、この際仕方が無い。 「こっの、斬り裂けぇ――っ!」 例外は、数度の直撃を放っていたモノマである。 遠距離から神経を研ぎ澄まして放たれる真空の蹴りは、流石のヒトガタさんも軌道を読み切れない。 流れる水の様に相手の挙動に動きを合わせたかまいたちがヒトガタさんの鉄塊を打ち上げる。 「これで、どうだ――!」 すかさずウルザが気糸を放つ。かれこれ何度目か、浴びせ続けた束縛の網。 時に回避され、時に切り裂かれ、縦しんば当たったとしても完全には決まらなかった。 それが―― 「rrr……rrr……?」 遂に、絡み付く。その隙を逃さない。小太刀を脇に構えた少女の影。霧香が振り抜く居合い一閃。 「……入った!」 この日初めてのはっきりとした手応え。裂かれた衣服、ヒトガタの少女から血液が零れ落ちる。 光の後ろで彼女を癒していた躑躅子が、けれどぎくりと身を固める。 「歌が……」 開戦以降奏で続けた、ヒトガタさんの歌声が――止まった。 ひり付く様な鋭い気配。とことウルザが揃って空へと大きく距離を取る。 「あ、やば」 光の声がぽつんと残された。 全員が待機して行動すると言う、その戦術は決して間違ってはいない。 けれどその戦い方は、どうしても、遅い。 使用法を誤れば相手の切り札を、移動を、誰も止められないと言う意味でも有る。 彼女を束縛していた気糸の網が千切れ、ヒトガタさんが、光の間近へ優雅に跳び込む。 「R――――」 間延びした様な一瞬、ガキン、っと金属同士を噛み合わせた音が聞こえたろうか。 ぐわぁー! と言う悲鳴が上がる。血塗れの街角は更に鉄の香りを被せられる。 だが、それでも尚、終わりではない。まだ終わらない。暴風は、二度吹き抜ける。 次は金属音もしなかった。悲鳴も聞こえなかった。 肉が削げる音。そして、粘性のある液体が空へと撒かれる音。 「――――rrrrR」 鉄塊を振り払った姿勢のまま、ヒトガタさんが周囲を見回す。 残っているのは4人。空へと逃れた、とことウルザの2人 「そん……な……」 「ちっ、絢堂、俺が前に出る! 2人を頼む!」 そして大きく距離を取っていた、霧香とモノマ。 けれどそれは――彼らに、運命の祝福が無かったのであれば、の話である。 「……貴女の……好きなようにさせるわけには……いかない」 躑躅子が、喉元を治癒の符で抑えながら立ち上がる。 「……今時の素兎さんは……粘り強くないとやってけないんだよ」 最至近で直撃を受けた光すらが歯を食い縛り、立っては剣を握る。 傷付いて尚可憐さを残す人形に対し、血塗れの泥塗れ、綺麗等とはとても言えない。 それでも彼らこそが人間である。人形にはなれない。ならない。だからこそ、相容れない。 「うぉぉぉ、ぶちぬけぇっ!」 炎を纏ったモノマの拳が、あたかも驚いた様に硬直したヒトガタさんへと突き刺さる。 「かわいそうだけど、しょうがないの」 「本当、虚しいったらないよ!」 とこの放った死の爆弾に、重ねられるウルザの気糸の網。 これを跳び退き避けた、少女の足がふらりと、ぐらつく。 重ね続けた攻撃が、彼女から奪い続けた血液が、此処に漸く実を結ぶ。 「ねぇ、貴女は何を見てきたの?」 硝子玉の瞳が見る。迫る少女剣士の幻影を。瞬き刹那、交差する。 「……寂しくは、無かった?」 瞳を伏せたのは霧香の方だったろう。貫いた小太刀を伝う様に、まだ温かな人形が倒れ込む。 手に持った鉄塊を、振るう余力は有るように見えた。 けれど人形は小さく笑んで、凶器からゆるりと手を離す。温もりを語った少年の様に。 ただ無邪気なまま、人形は逝く。 それで、終わり。 ●ヒトガタさんと、呼ばれた少女 「桐ぽん、大丈夫?」 「……まあ、何とか」 重傷者達が意識を取り戻しての帰路。俯く霧香が声を上げた。 「遺体は、運んだ方が良いよね」 その申し出を受けて、多少余裕の有ったモノマが人形の。 ヒトガタと、そう名付けられた少女の遺体を背負う。 まるで眠っている様に見える、その表情は白く、青く。逝って尚、人形の様だった。 「もしこちらの世界でまっとうに育っていたら……」 言い掛けた躑躅子が、頭を振る。意味の無い仮定。訪れなかった未来。 そんな物に想いを馳せたとしても、どうしようもないのだろうけれど。 「難しい数式が綺麗に解けた時くらいの喜びとか、あればなあって」 思ったんだけどね。呟くウルザが、残された遺体へ目を向け、視線を落とす。 そう容易くは、割り切れない。それが人であると言うことだから。 それが、人形でないと、言うことだから。 「任務完了、だ。帰るぜ」 モノマが背負い、歩く。かかる重みは、思う以上に軽く。小さく。だからこそ。 「こっちで生きてりゃ、普通に生きられただろうによ……」 残る感傷。それが人形ではない事を、その重みを背負いながら、彼らは歩む。 迷いながら、戸惑いながら、それでもただ、一歩先へ。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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