● 「チッ、気に食わねェ」 言葉とは裏腹に、唇に笑みを貼り付けて、主流七派が『過激派』裏野部の首領、裏野部一二三は顔の刺青を一撫でする。 無論気に食わないのは事実である。手下共なら兎も角、仮にも裏野部の首領である自分を動かそうとする要請が先ずは腹立たしい。 何様の心算だろうか。 けれどその怒りの感情とは別に、これから先の展開に期待する自分が居るのもまた事実であった。 それに何より、 「まあだが珍しく他の連中も動くってなら、黙って座ってる訳には行くめェよ。全く本当にトサカに来るぜ」 他派の首領達が動くと言うなら『過激派』である自分は誰よりも大きく破壊し、誰よりも多く殺さなければ、それは裏野部の名が廃ると言う物であろう。 毒づく一二三の表情は矢張り実に楽しげだ。 何故なら他派の首領達も動くこの事態、ならば煩わしい協定、『首領が自ら動く際は他派の首領へ通達すべしという、最大戦力が他所へ出張っているタイミングを、組織の腹を見せねばならぬ煩わしい鎖』を気にする事なく好き勝手に動く自由が降って湧いたと同義であるのだから。 「さぁて、じゃあそうだな。久しぶりに鏖殺といこうじゃねェか。なァ愚老」 振り返る一二三に、大きく頷くのは裏野部に在りながら自らは殺しを行なわないが、組織に己の作品を提供する事で間接的には並みのフィクサードは及びも付かぬ程の数の悲劇に関与している破界器製作者の梅芳・愚老。 そして彼の手で設置された大掛かりな儀式装置。 「私の芸術を一二三様がお求めとなれば此れに勝る光栄はありません。しかし息子が飛行機なら自分は星とは、一二三様も随分可愛らしい事を仰る」 恭しく一礼する愚老に、一二三が笑う。 身を縛る鎖から解放された獣は、今この国に巨大な死を齎そうとしていた。 「なぁ、アークよ。今回も期待して良いんだろう?」 百虎か、或いは仏教野郎の首の1つでも挙げてくれれば言う事無しだが、そうでなくともアークが相手なら充分に楽しめるだろう。 さあ早く来い、戦う意思の刃を携えた人間どもよ。 ● 「諸君、……すまない、冷静に聞いてくれ。絶望的な事態だ」 集まったリベリスタ達を前に『老兵』陽立・逆貫(nBNE000208)が声を絞り出す。 まるで運命を恨む様に宙を睨み、危険と知ってリベリスタ達を送り出すしかない自分の無力に歯噛みしながら。 「日本各地で、主流七派の首領達が複数同時に動き出した」 ………………逆貫の言葉に滲むは絶望。 主流七派、この国の闇を司る七つの柱。其の長等はどれも強大な力を持つ魔人達だ。 「突然のこの動きに大部隊を編成して差し向ける時間は無い。精鋭たる諸君等に対処して貰わねばならん……ッ」 どれ程精鋭と言葉を飾ろうと、そして彼等が確かに精鋭であろうとも、其の任務の危険度が飛び抜けて高い事に変わりは無い。 逆貫は今、リベリスタ達を死地に送り出そうとしているのだ。 「諸君等に動いて貰うのは、……この外れ籤ばかりの中でも一際外れの、裏野部一二三への対処だ」 主流七派が1つ『過激派』裏野部。其の枕詞が示す通りに、主流七派の中でも危険度の高い裏野部に於いて、一二三はその裏野部を体現するが如き首領である。 血と死と絶望を齎す者。怒りや恐怖、負の想念を喰らうモノ。 資料 現場と状況:中部地方の都市部の一際背が高いビル。 ビルの屋上中央には巨大な儀式装置が設置されており、儀式装置はビルの配列により増強された地の力を利用して、遥か空の彼方の隕石を引き寄せている。 隕石のコースが安定する前に儀式装置を破壊するか、或いは停止キーを作動させれば隕石は海へと落ちると思われる。 隕石のコース安定後は儀式装置が如何どうなるかには関わらず都市部へと落下するだろう。 時間は多くは残されていない。 裏野部一二三は停止キーを持って儀式装置の前に居る。ビルの外周は裏野部飛行部隊が飛行状態で警備しており、ビル内の屋上へ至る道も警備グループが居る。 隕石のコース安定後は裏野部達は撤退する。儀式装置は頑丈であり、停止キーは使用に集中と少しの時間を要する。 屋上 フィクサード:裏野部一二三 「さァ、オレと遊ぼうぜ」 裏野部首領にして、この国で最も凶悪と言われる男。 顔に彫られた刺青は『凶鬼の相』と言う名のアーティファクトで、怒りや恐怖等の負の想念を吸収して蓄え、一二三の力に変える。 所持EXは『布瑠の言』。 ビル内警備グループ フィクサード1:『爆轟』焔硝 爆破を心より愛する裏野部フィクサード。ジョブはプロアデプト。 所持EXは『爆轟』。所持アーティファクトは『連鎖爆破』。 『爆轟』 触れた手の平から爆発する思考を注ぎ込み、対象と其の周囲を爆殺する。衝撃波が発生する程の速度で燃焼を起こす為、威力が高い。近範、業炎、弱点、必殺。 『連鎖爆破』 左右一対の手袋型アーティファクト。EXスキル『爆轟』の発動の後、逆手でもう一度、連続して『爆轟』の発動が可能。(つまり2回攻撃) フィクサード2:『雪女郎』氷雌 裏野部に所属する女性フィクサード。裏野部内では実力者で名が知られている。 ジョブはインヤンマスターだが魔氷拳等も使用。 所持アーティファクトは『雪女郎』と『氷水晶』。所持EXは『陰陽・氷戦像』 『雪女郎』 このアーティファクト所持者の近接範囲に入った者はBS氷像の付与を受ける。 『氷水晶』 E化した石英の塊を材料に作られたアーティファクト。所有者に氷の力を与える。 『陰陽・氷戦像』 氷雌の陰陽術と氷水晶の力で、術者に忠実な氷の戦像を作り出す術。溜2。 氷戦像はタフで力が強く、また自爆で氷の飛礫を周辺に撒き散らす事も可能。 氷雌が初期段階で引き連れている氷戦像は3。 裏野部飛行部隊 フィクサード1:『爆撃機』久那重・佐里 裏野部に所属する若い女性フィクサード。種族はフライエンジェでプロアデプト。 特徴としては攻撃性能と命中が非常に高い。 EXスキルとして『ナパーム』と『クラスター』を持つ。 EX『ナパーム』神遠2範。鈍化、業炎。 EX『クラスター』神遠域。無力、崩壊、連。 フィクサード2:『戦闘爆撃機』鬼弐・麗一 裏野部に所属する若い男性フィクサード。種族はフライエンジェでインヤンマスター。 命中と回避が高め。 EXスキルとして『火龍』を持つ。 EX『火龍』神遠2域。極炎。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:らると | ||||
■難易度:VERY HARD | ■ ノーマルシナリオ EXタイプ | |||
■参加人数制限: 10人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年07月03日(水)23:37 |
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■メイン参加者 10人■ | |||||
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● 地の力が星を呼ぶ。 天の牙が地を穿つ。 儀式装置を通して天に登る龍の如き力に唇を歪め、裏野部一二三は葉巻をゆっくり口に咥えた。 其の力の流れに異物、星を止めようと、破壊を阻止しようとする意思が混じった事を感じながら。 昔話を1つしよう。 遥か古、この国の統治の為に神が降りた。 天孫降臨と呼ばれる逸話でこの国のヌシとなった神、瓊々杵尊が革醒者だったのかアザーバイドだったのか、はたまたもっと別の何かだったのか、実在したのかどうかさえも不明だけれど、其の名は今も伝わり、其の裔とされる者達によってこの国は長く栄えて来た。 しかし天照大神の孫とされる瓊々杵尊よりも早く、彼の大神より十種神宝を授かってこの国に降りた神が居た。 その神、饒速日命を祖神としたのが歴史の教科書にも名を残す敗北者、物部氏である。 飛ぶ様にリベリスタ達は階段を駆け上がっていく。 常人であれば徒歩で昇る等考えもしないであろう膨大な数の段差を、それでも彼等は自らの足で踏み締める。 革醒者であるリベリスタならば、そしてその中でも精鋭と呼ばれるクラスの彼等ならば、確かに自分の足で昇ろうとも然程時間のロスには繋がらない。 それに何より、ズン……と遠くで爆音が響き、高層ビルが小さく揺れた。 爆音に混じって『狂気的な妹』結城・ハマリエル・虎美(BNE002216)の耳、集音装置が捉えたのは、人が発した罵り声。 きっと恐らくは、ブラフの為に無人で上がらせた壁面のエレベータが屋外を舞う飛行部隊からの攻撃に破壊されたのだろう。先の罵り声はブラフである事を知ったフィクサードの物。 もし仮にエレベーターでの移動を選んで居れば、外からの攻撃を受けるなり、上り終える前にワイヤーを切られるなりと其の結果はきっと悲惨な物だった筈だ。 虎美の頷きに、唇を噛み締めた『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)の足により一層の力が篭る。 思えば自分達と裏野部の因縁も、もう随分と長くなった。 けれど夏栖斗は思う。裏野部の存在をはじめて知ってから、奴等に対して燃える胸の内の怒りは一度たりとも冷めた事がないと。怒りの炎は、相まみえる度に激しさを増すばかり。 奴等は何時もそうだ。嫌がる事を、見過ごせ無い事を、目を覆わん悲劇を、遊び半分で的確に狙って来る。 其れは奴等の首領である裏野部一二三が負の想念を喰らう者である以上、ある種当然ではあるのだろう。 この身を焦がす怒りすら、奴等の狙いの内であり、裏野部一二三の糧とされているのだ。 だがどうして其れを止められようものか。 「氷雌と焔硝、最上階フロアで屋上への道を塞いでいます!」 重さを感じさせぬ足運びで地を蹴る『スウィートデス』鳳 黎子(BNE003921)が千里眼で見通した屋上への障害となる敵の位置を味方に告げた。 天の星は刻一刻と迫り来る。それではさあ、死闘を始めよう。 ● けれど今日、物部氏の名は概ね蘇我氏、或いは厩戸皇子とセットにして認識している者が殆どだろう。 この国の教科書には、物部氏は始めから朝廷の連として登場する。 饒速日命は瓊々杵尊よりも早く天孫降臨を行なったにも拘らず、其の末裔は下に置かれた。 古代出雲系王権に関しては諸説あるが、大神に連なる神の裔であるにも関わらず、彼等は皇たれなかったのだ。 ズン、とヘッドフォンから重低音が漏れ聞こえる。 リズムに合わせて足踏みしながら上機嫌でリベリスタ達を待ち構えるのは、爆発する思考の持ち主『爆轟』焔硝。 そして惨劇を、爆殺への期待を隠さぬ彼を鬱陶しげに眺めるのは『雪女郎』氷雌だ。 互いの力への信頼はさて置いて、熱と氷、相反する特性も相俟って2人の相性は然程良くない。 ……と言うよりも寧ろ氷雌はハッキリと焔硝を嫌っていた。こんなに暑苦しい男と任務をこなす羽目になるなんてなんてついてないのだろう。 どうせなら、例えばそう『コイバナ』辺りとだったらもっと楽しく時を過ごせただろうけれど、その彼女もアークに倒され既にこの世に存在しない。 実に忌々しい。そう言えば朝の占いも水瓶座は最下位だった。自分でも卦を見ておくべきだっただろうか? 何とはなしに感じた不安に氷雌が首を傾げた時、不意にバチリと焔硝が指を鳴らした。 「来てるぜ下の階。ネズミがチュウチュウ10匹だ。何時も報告に上がってる通りの数だな」 見れば彼の瞳は、其の奥の頭脳の活性化を反映して不思議な色を放っている。 どうやらアークのリベリスタ達は既に間近まで来ているようだ。戦闘準備に入った焔硝の姿に、氷雌も符を用いて白虎を呼び出す。 戦いの風は激突の瞬間から最大風速で吹き荒れた。 「邪魔だ!」 怒号と共に己が身体を槌として氷戦像にぶちかまし、仲間の道を切り開かんと試みるは『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)。 質量で言うならば氷戦像は彼を軽く上回っていたけれど、だが革醒者としても歴戦の快の膂力は氷の木偶を上回り、其の一体を押し運ぶ。 快の開いた隙間を閉じようとする他の氷戦像達に、けれども小さな体で立ちはだり食い止めるは2人の女性『蒼き祈りの魔弾』リリ・シュヴァイヤー(BNE000742)と虎美である。 2人ともが左右の手に銃を携え、力で勝るであろう氷戦像とは組み合わずに体裁きで相手をその場に留め置く。 力ずくで抉じ開けられ、人の身体を楔として、其処に道が現れた。 リベリスタ達が其の力を要注意であると認識したが故に、必ずこの場で仕留めねば成らぬと心に決めた氷雌への道が。 そして一斉に数の力で氷雌を圧し潰しに掛かるリベリスタ達。 「……ふぅん、で? 俺はアンタ1人で抑えて残りの皆で氷雌狙いかよ。まあ随分舐めてくれたな」 だがそんな中で唯一人其の流れに参加せずに、焔硝の抑えに回った男が居る。 落ち着きの中にも鋭利さを感じさせるあきらかな日本人離れした容貌の、軍服を纏ったロシヤーネ『T-34』ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680)は静かにコンバットナイフを構えた。 「ああ自分が相手になろう」 皮肉でも侮蔑でもなく、焔硝の殺意をするりと受け流してウラジミールは前に出る。 ● 物部氏の凋落は更に続く。 皇の座とは遠いが、それでも兵器の製造管理を掌握して大連すら排出した有力軍事氏族であった彼等だが、百済からの仏教伝来により其の運命は大きく変わる。崇仏派と排仏派の争いが始まったのだ。 排仏派として物部氏は崇仏派に対して過激に振舞った。其れは単なる権力闘争では無く、国家祭祀の対立、古い価値観と新しい価値観のぶつかり合いでもあったのだ。 そして物部氏は其の争いに敗れてしまう。彼等は大きな力を誇ったが故に、苛烈に一切の容赦なく踏み躙られた。 再起が不可能である程に。 氷雌に対して一斉に襲い掛かった4人のリベリスタの身体が氷に覆われる。 薄く微笑む氷雌の白い繊手を伝う赤い血は、彼女のアーティファクトが発動した証左。 しかしだ。氷像と化したリベリスタのうち2人が、己が身を縛る筈の氷を纏わり付かせたまま更に氷雌へと迫る。 ジャガーノート、圧倒的な力を示す其の単語。破壊の神の如き戦気で氷雌の氷を遮断して、刃を振るうは『折れぬ剣《デュランダル》』楠神 風斗(BNE001434)。 突き出した刃は氷雌を掠め、白い和服を風圧で裂く。 そしてそんな彼女の退路を断つ様に、回り込んだは絶対者『ディフェンシブハーフ』エルヴィン・ガーネット(BNE002792)である。 何者にも侵されざる絶対者の前には、強力な束縛である氷像であろうとも其の効果を発揮し得ない。 いとも容易く己の領域に踏み込む2人の男に、氷雌の冷たい顔に僅かな怒りが浮かぶ。 けれど其れは此れより彼女を襲う猛攻、或いはリベリスタ達にターゲットとされてしまった不幸のほんの序章でしかなく、濁流を放つ堰は今解放された。 虚ロ仇花、目にも止まらぬ速度で繰り出された武技は最早理屈すら関係なく氷雌を目掛けて『飛翔』する。夏栖斗の功夫は正に達人の域まで練り上げられて居る。 夏栖斗だけではない、頭上へ降り注ぐはリリの放つ業火の弾丸、ヒンドゥー教の聖典であるマハーバーラタに登場する超兵器の名を冠する技、インドラの矢だ。 そして降り注ぐ業火の中を密やかに、動く針の穴さえ撃ち抜くといわれる精密射撃、虎美の針穴通しが氷雌へと突き刺さる。 更には氷雌の護衛である氷戦像達を薙ぎ払う炎、炎の申し子、火龍の愛し子、『フレアドライブ』ミリー・ゴールド(BNE003737)の焔腕。 炎は邪魔者を蹴散らし、氷を目指す。熱い、熱い魂が近付いて来る。 けれど氷雌とてむざむざ一方的にやられはしない。先の一連の攻撃で氷雌をまともに捉え得たのは虎美の針穴通しのみであり、彼女が反撃にと用いるのは符を用いた四神創造、玄武招来だ。 圧倒的な水気で炎を、己に迫る災いを全て叩き伏せんとした氷雌。……だがリベリスタ達の攻撃は未だ終っていなかった。 戦場を覆う清浄なる光。其れ自体には何ら攻撃力も無い……、ただ邪を祓う神の光、ブレイクイービル。 しかしそれが引き起こす現象は、氷雌にとって非常に厳しい物である。 氷像より解き放たれた2人、『閃刃斬魔』蜂須賀 朔(BNE004313)と黎子が自由になってしまったのだ。 無論氷雌の傍に居る以上2人が再びの氷像と化すのは時間の問題だけれども、如何な氷雌とて代償や反動無しに氷像化を為している訳ではない。 それに、快より大きく速度を上回る上にトップスピードで更に加速している朔は兎も角、遅い黎子は氷像からの解放後に動くのである。 精度では無く、理屈では無く、高い確率でまぐれ当たりを叩き込んで来る黎子は、誰にとっても面倒臭いアタッカーだと言うのに。 だが、氷雌に対して戦いを優勢に進めるリベリスタ達とは裏腹に、唯一人仲間達から離れて焔硝と対峙するウラジミールは、非常に厳しい戦いを強いられていた。 ● 物部氏の特徴として広範な地方分布がある。中枢での争いに破れて追われたからと言って彼等の全てが皆殺しの目にあった訳ではない。 けれどもだ。代わりに彼等はまつろはぬもの、鬼の烙印を押される事となる。 むかし、むかしの、はるかむかしから、ずうっとずっと。 迫る焔硝の掌、『爆轟』に対してウラジミールはハンドグローブ、サルダート・ラドーニでいなしを試みる。 無論裏野部の中でも精鋭と称される、しかも命中に優れたプロアデプトである焔硝を相手に攻撃を完全に封じれるとは流石のウラジミールも思っていない。 けれど少しでもダメージを減らして反撃の糸口を掴む為に、……サルダート・ラドーニで逸らされた焔硝の右手はウラジミールの肩に触れ、彼の左肩を焼き尽くす。逸らし切れぬのは判っていたから、少しでも被害を抑える為にと犠牲にされた左腕。 しかし、それでも反撃の機会は訪れない。 相手の攻撃を受け切って、次は自分の番とカウンター気味にКАРАТЕЛЬ、特異なブレードラインをもつコンバットナイフを繰り出しかけたウラジミールの瞳は、己に迫る死神を見た。 トン、とウラジミールに触れたのは、手袋型アーティファクト『連鎖爆破』に包まれた焔硝の左手。 そう、爆発の華は二度咲くのだ。片手を防御に、逆手を攻撃にと役割を分担させていた攻防一体のウラジミールでは、暴虐な攻撃を両方は防げない。 爆轟とは爆発の中でも爆速が音速を超える物を言い、強い破壊作用を持つ。其の圧倒的な火力に己の身を焼かれながら……、けれどもウラジミールは強く歯を食い縛った。 雪女は少しずつ赤に染まっていく。雪の様に白い肌が空気に晒され血を噴き出す。 回避、命中、速度に優れ、バッドステータスをばら撒き相手を翻弄する特殊型の氷雌は、並みの者と比すれば兎も角、裏野部の中でも精鋭と呼ばれる他の連中に比べるならばどうしても耐久度に劣ってしまう。 回避を活かして何とか凌いではいるものの、流石にリベリスタ9人がかりの猛攻の前では限界の訪れは然程遠くない。 この場に居るもう一人の裏野部の精鋭、焔硝は相手を圧倒しているが、ウラジミールの驚異的な粘りに拠って此方へ来るのはもう少し時間がかかるだろう。 実に厄日だ。氷雌の思念に呼応して氷戦像の一体が爆散し、リリ、夏栖斗、快、虎美等が氷の破片に切り裂かれていく。 特に氷戦像の爆散を間近で受けてしまったリリは凄惨な有様だ。大小無数の氷の欠片が、僧衣を裂いて彼女の肉へと食い込んでいる。 そして放たれる四神玄武の圧倒的な水気が傷付いたリベリスタ達を更に押し潰す。 けれど同時に氷雌の肩口を貫くは、氷の欠片の、そして辺りを覆う水気の、合間を縫って放たれた虎美の針穴通し。 並みの革醒者であったなら、先の連続攻撃で終いだったろうに。 エルヴィンの聖神の息吹に拠ってリベリスタ達は体勢を立て直す。彼は盾であり、癒し手。どちらも特化型には及ばぬ物の、戦線を維持する為の存在としては理想的だ。 風斗の切り込みを避けた氷雌に、偶然其の回避先に技を放っていた黎子の爆裂クラップス、辺り漂う魔力のダイスが不運な氷雌を飲み込み爆発の花を咲かす。 「しぶとすぎるだろ。捨て駒のおっさんよ」 焔硝は頬を流れる血を拭い、重傷を負いながらも未だ倒れぬウラジミールに呆れた視線を向ける。 攻撃力の高い爆轟を幾度も受けながらも未だ立っているウラジミール。それどころか、彼は満身創痍になりながらも相打ち狙いの攻撃を幾度か決めすらして見せたのだ。 無論運命を対価にしての踏み留まりは使い果たしているし、もう次の一撃を耐える事は到底出来ないだろう。 「簡単にはいかせない」 けれどそれでもウラジミールは炭と化した腕でコンバットナイフを構える。 諦める事無く、己に課された任務を果たす為に。 ● 裏野部一二三はそんな物部の氏族の1つに生まれる。 恐らく其の氏族は彼等の末裔の中でも有力な1つだったのだろう。 何故なら十種の神宝の一つである蛇比礼が、完全な形を保っているのかどうかは兎も角として凶鬼の相と言う名の技術として遺されていたのだから。 他の彼等の末裔が現在どうであるかは知らぬけども、一二三の生まれた其処は非常に陰気な場所だった。 過去からの仕来りに縛られ、遺産を守り続ける事ばかりに腐心する。 折角の遺産を、力を使う事すらなく、隠し保存し、一体何になると言うのだろうか? その癖、過去の栄光や大神に連なると言うプライド、そして長年置かれた境遇に対する理不尽への恨みはぐつぐつと煮え滾っていたのだから……、思い出すだけで不快で陰気な連中だった。 まあだからこそ一部の例外を除いて滅ぼしたのだけれど。 遺産を受け継げばもう用は無かったし、寧ろ受け継いだ遺産の丁度良い滋養だった。 今思えば、彼等が長年に渡って蓄積した怨念は、ああして滋養になる為に降り積もったのだろう。 世の中の全てには何らかの意味がある。いや正確にはこの世界に存在する全ては裏野部一二三にとっての何らかの意味を持つ。 物部氏の祖神が天孫降臨を果たしたにも関わらず彼等が皇たれなかったのも、一二三が自身の其の手で天を握る為に。 そして今此処へ向かうアークのリベリスタ達ですら……。 遂に最後の氷戦像が爆散した。 強力な爆発の前には運命を対価にしての踏み止まりを余儀無くされた者も居るが……、それでもリベリスタ達にとって幸運だったのは保身を捨て切れなかった氷雌が3体同時の爆破を行わなかった事だろう。 もし其れが行なわれていたならば、彼等の受けた被害はもっと深刻で甚大な物だったに違いない。 しかし例えそう思い切れていたとしても恐らく氷雌の運命は変わらない。ぐらりと揺らいだ彼女の身体に、より一層激しさを増したリベリスタ達の攻撃が降り注ぐ。 夏栖斗からの攻撃に氷雌の身体に季節外れの花、仇花が咲く。 邪魔な氷戦像が無くなった事で氷雌へと近寄るミリーが凍り付く。だが此れでまた1つ氷雌の体力を削る要素が増えた。 そしてトドメとばかりに風斗が己が武器の切っ先に破壊的な闘気を集中させ、けれど異変はその時起きた。 爆音と共に焼け焦げた虎美の身体が吹き飛ばされて床を転がる。 「よう氷雌、お待たせ。何でお前死にそうなの? ハハッ、だせえ」 割り込んだ焔硝の嘲笑に押し倒されるように、限界を迎えていた氷雌の身体が地へと崩れた。 瀕死の氷雌の生き死にを握るは眼前で刃を構える風斗。 だが風斗が氷雌にトドメを刺す前に、先んじて叫んだのはブレイクイービルで氷像と化した仲間達を解放した快だった。 「走れ!」 彼の叫びに突き動かされた様に駆け出すリベリスタ達。 其の行動の素早さは、クレバーな司令塔としての実績を築き続けた快への信頼に裏打ちされた物だったのだろう。 誰よりも早く倒れたウラジミールの元に辿り着いて彼を肩に担ぎ上げたのは、戦いに魅せられ、戦いを深く知るが故に快の意図をいち早く理解した朔だった。 そして其の動きを阻害しようとした焔硝の足が、床に転がったまま放たれた虎美の針穴通しに貫かれて縫い止められる。 その場を抜けて走るリベリスタ達の後姿に、後を追おうとした焔硝はけれども足を止めて溜息を吐く。 例えば其処に倒れているのが雑魚ならば焔硝は気にせずリベリスタ達を追っただろう。まだ倒した獲物、ウラジミールにすらトドメを刺していないのだ。 一二三の支援と言う役割を抜きにしても、彼の爆殺衝動は未だ満たされていない。 けれどもだ。倒れているのが氷雌クラスであり、尚且つ未だ生きているのなら話は変わる。 このクラスの実力者は裏野部にとっても簡単に替えが効きはしないし、また焔硝にとっても恩を売るメリットは充分にある相手なのだから。 かくて焔硝による追撃は中断される。氷雌の殺害を中断させた快の意図通りに。 ● この破界器の作成者、梅芳・愚老は本気で隕石を落したかったのだろうし、出来れば怨念をたっぷり吸った隕鉄の回収も行ないたかったのだろうが、裏野部一二三にとって其れは単なる余禄だ。 一二三にとって一番重要なのは、アークのリベリスタ達が其れを阻止しに出て来る事である。 己に同調する手下達を集め、人を苦しめ殺し恐怖させ怒りを煽り、無数の負の想念を喰らって一二三はこの国の七柱の1つに数えられるまでになった。 だが此処は決して一二三にとっての終点ではない。 まだ数種しか其の手に収めて居ない十種の神宝も何れは全てを揃え、そしてこの国の皇と、或いは神とならんとする彼にとって此処はあくまで通過点だ。 京介なら兎も角、日本最強だの仏教野郎、陰険眼鏡や引き篭もりの爺等と同格に何時までも甘んじている心算など毛ほども無い。まあ一二三には元より毛は無いが。 けれど一二三が更に上へと進むには、もっと上質な贄が必要であるのだ。 有象無象の苦しみは喰い飽きた。強い力を持った革醒者達の恐怖と怒り、更には絶望。それこそが今の一二三の求める物。 出会い、観察し、そして一二三は結論付けた。 アークこそが自分を次の段階に押し上げる贄であるのだと。 この世に存在する全ての物には意味がある。裏野部一二三にとっての意味があるのだ。 「やっと来たかよ。まァ随分と待たせてくれたじゃねェか」 幾本目かの葉巻の吸殻を床へ投げ、裏野部一二三は親しげに、まるで友にそうする様に、アークのリベリスタ達を出迎える。 凶相の魔人が笑う。 「前は名乗り損ねました、裏野部一二三。鳳黎子です」 「『閃刃斬魔』、蜂須賀 朔。推して参る」 名乗り、儀式装置を目指して屋上を駆ける2人に一二三が哂う。 「ハッ、オマエ等重なってんのかよ。何だいもう一回死んでみてェですってか?」 其の瞳に何を写したのか、1つ嘲りを飛ばして魔人は吸殻を踏み躙る。其の言葉に冗談の響きは一切無く、嗚呼きっと一二三は言葉通りに彼女達を殺すだろう。 けれど魔人が彼女等の元へ辿り着く事は無い。 真っ先に、まるで闘犬の様に真っ直ぐに一二三に噛み付いた男達に拠って、魔人の歩みは止められた。 新田・快、一体誰が呼び始めたのか人呼んでアークの守護神と、そして其の相棒であるところの、 「初めまして、ご機嫌麗しゅう、子供のおいたを止めたら今度はパパ?」 夏栖斗が二人掛かりで一二三を阻む。 そして彼等に回復が及ぶ位置取りでエルヴィンが確りフォローの準備を整え済みだ。 隙の無い布陣と迷い無く目的を果たそうとする其の姿に、一二三は得心が行ったと1つ頷く。 「成る程、確かに重じゃオマエ等相手には出し抜かれるだろうな」 一二三は殺すだけしか能の無い息子、其れは其れで切れ味の良い自慢の玩具なのだけれど、の作戦がアークに拠って潰されていた事を思い出す。 まあとは言え、如何に相手の手際が良かろうと一二三には然して関係が無い。相手に隙があろうがなかろうが、圧倒的な力で叩き潰す事に何ら変わりはないのだから。 此れより吹き荒れるは暴虐。不意に、快の眼前から一二三の姿が消える。 ● 次の瞬間、首に衝撃を受けた快は床へと転がっていた。半ばまで抉られた首から、血が滝の様に流れ行く。 「あ? 生きてんのかオマエ。随分とまァ頑丈だな」 頭上から落ちてくる哂い声。一二三が放ったのは高速で背後に回り込み急所を掻き切るクリミナルスタアの技の1つ、ナイアガラバックスタブ。 だが一二三が其れを放った場合にそうと認識される事は稀で在る。何故なら一二三が放つ其の一撃は大抵の相手ならば首を捻じ切ってしまう為に別の技に見えてしまうから。 アークの中でもトップランカーと呼ばれるレベルのクロスイージスである快に放ったのでなければ、矢張り其の技はナイアガラバックスタブには見えなかっただろう。 一二三の一撃を受けても未だ首が繋がって居る事こそが、快の実力の高さの証明である。とは言え体力の半ば以上、有体に言ってしまえば殆どを一撃で削り取られた彼が危機にある事実に変化は無い。 「相棒!!!」 仲間の、掛け替えの無い親友の危機に夏栖斗が放つは、一二三の背後の儀式装置までを巻き込んでの虚ロ仇花。 次々と連続して放たれる飛翔する武技が一二三の身体に次々に突き刺さり突き抜けていく。 しかし……、一連の動きの最後の一撃、フィニッシュの蹴りが一二三の身体に突き刺さり止る。 「良い怒りだ。随分と熟成されてやがる。其の若さでオマエは何を見て来た? でもよ、それはさて置き痛ェだろうがボケェ!」 足を掴まれて床に叩き付けられた夏栖斗の身体が、屋上に巨大な凹みを拵える。全身の骨が砕ける音を聞きながら夏栖斗は大きく血反吐を吐く。 けれどのんびり痛みに浸る暇は無い。痛み軋む身体を無理矢理動かした夏栖斗へ降り注ぐのは一二三の踏み付け。 地を転がった夏栖斗を逸れ、地を打った踏み付けは屋上の凹みを更に巨大な物へと変える。 リリは必死に意識を凝らし、儀式装置の理解を試みる。 恐らくこの儀式装置は作られたばかりの物だろう。其の作成法も愚老オリジナルかも知れない。 だが必ず何処かには既存の魔術技術の流用が為されている筈だ。理解の糸口を求め、リリは深淵を覗き、己の魔術知識をひっくり返す。 余りに理不尽で圧倒的な一二三の暴虐に、足止めに向かった連中が持つのはほんの僅かな時間だろう。 焦りに、そして邪悪な魂に作られた作成物の理解を試みているが故に、彼女の心に影は忍び寄る。 邪な芸術品は、人の心に闇を差し込む。邪を理解する事は邪に染まる事。 「焦るな、まだ間に合う、落ち着いていけ!」 けれどその時、決して其れを察した訳では無いだろうが、エルヴィンの仲間の心を静めようとする声が響く。 力強く、そして落ち着いた其の言葉は、決して口先だけでは無く、自分が何とかしてみせるとの自負に満ち溢れた物だった。 エルヴィンの放つ癒しの力。其れは快のラグナロクと合わせても尚、一二三の暴虐には圧倒的に及ばない。 「俺は護る為にここに居る、誰も死なせてたまるか!」 しかしエルヴィンの強い覚悟は、仲間の心に勇気の火を灯す。 気付けばリリは不意に頭の痞えが取れたかのように、儀式装置の破壊すべき部分が理解出来た。 「楠神! 結城様! ミリー様! 鳳様!」 指し示す指に導かれる様に、風斗が、虎美が、ミリーが、黎子が、己が技を装置へと叩き付ける。 「ハッ、愚老の作品を理解するかよ。随分と頭の螺子がぶっ飛んだお仲間が居るな。で、おかわりはオマエか?」 真っ直ぐに突っ込んで来る朔に、待ち構える一二三が拳を握る。 一二三を抑えて先に力尽きた夏栖斗や快に比べれば、ずっと耐久度に劣る朔では暴虐の一撃に耐えるには運命を対価にする事が必要だろう。そして二撃目を耐える手段を彼女は持ち合わせて居ない。 避け切る自信も特には無い。或いはこの突撃は無謀なのかも知れない。 だが朔の唇には笑みが浮かぶ。其れでも今、この場にこの役目を果たせるのは自分以外には居ない。 そして朔には夏栖斗や快が持たなかった武器があるのだ。 一二三の眼前で更に加速した朔は、そしてダブルアクション、二度目の行動を可能とした。 不意に変化した速度に、一二三の表情に僅かな驚きが走る。舞い散る光の飛沫は朔の愛刀、葬刀魔喰が放つ銀光。 ● 「街一つを巻き込む大破壊……させてたまるか! 絶対に、絶対に!」 心の中に留め置く心算だった筈の言葉は、けれども無意識に風斗の唇から零れ落ちる。 背後では、1人1人と仲間が倒されて行く。其の様は確実に心を抉り来る。けれど己の持ち場は此処なのだ。 此処で為さねば全てが無駄になる。多くの人が傷付き死に行く。 だがその時、リベリスタ達にとっては希望と言うべきリリの言葉が響き渡る。 「それです! それが隕石を守る魔力障壁を生み出しているパーツです!」 外壁を破壊され、剥き出しになった一つのパーツ。頑丈な儀式装置を闇雲に破壊して隕石の軌道を逸らすには時間が足りないと判断したリリが考え出したのが、大気圏突入時に隕石を保護する魔力障壁を解除する事で、隕石其の物を燃やし尽くす事だったのだ。 「おおおおおおおッ!」 瞳に力を宿し、己が刃をパーツへと叩き付ける風斗。 「当たれ」 静かに命じる黎子の言葉に、撒き散らされた魔力ダイスが爆花を咲かす。 2発の強力な攻撃に歪みの生じたパーツへと、更に襲い掛かるは炎。 「こんなもんミリーが溶かしてやるってのよ!」 振り回された腕を覆う炎が、歪みの生じたパーツを焼き溶かし、僅かな隙間を作り出す。 ミリーは決して諦めない。胸に抱くもう一人の記憶の彼女がそうであった様に、受け継いだ記憶と勇気は裏切らない。 朔が倒れ、今一二三と相対するのはエルヴィンだ。 「絶対に護り抜く! 何処からでもかかって来やがれ!!」 盾、最後の教えを構えるエルヴィンは正に、最後の防衛線だ。彼が倒れれば一二三は此処に雪崩れ込んで来るだろう。 そうなればもう儀式装置の破壊は不可能である。 もうリベリスタ達にもはっきりと判る。一二三からは何が何でも儀式を成功させようと言う意思を感じない。恐らく裏野部の首領は自分達で遊んでいるのだろう。 彼の魔人の考えが、其の目的とする所が何なのかは窺い知れぬが、浸け込むべき隙に浸け込んで、漸く此処まで辿り着いた。 「お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん」 虎美はAlcatrazzとRising Force、2丁の拳銃を胸に抱き締め念じる。 ふざけている訳ではない。彼女にとって其の呟きはどんな祈りよりも力をくれる。 「ねぇお兄ちゃん、止めるから、褒めてね」 引き金を、引き絞って放たれるはこの日幾度目かの針穴通し。 風斗、黎子、ミリーの攻撃に拠って作られた、そう、其れこそ針穴程の隙間を通して、虎美の弾丸はパーツの中枢を撃ち抜いた。 ● 「遊びが過ぎたか。愚老が怒るな」 クツクツと上機嫌に笑いながら、一二三は跪く二人の部下、航空部隊の前で葉巻をふかす。 目的を果たしたリベリスタ達は倒れた仲間達を抱えて、屋上から飛び降りた。翼の加護を其の身に宿して。 リベリスタ達を逃がさず追撃する事は勿論出来た。けれど一二三は敢えて彼等を見逃し、尚且つ航空部隊の迎撃をも禁じたのだ。 ゲームの勝者が帰り道で事故で死んだのでは、折角楽しんだゲームにケチがつく。 其れに一二三は充分に目的を果たしたのだ。 充分に上質な怒りと恐怖を喰らい、あの忌々しい陰険眼鏡からの要請も果たした。 装置の破壊に間に合わ無かった時の絶望を味わい損ねたのは残念だが、其れも彼等が三高平に帰り付いた時に、自分等の留守中に起こった出来事を知った時の驚きを思えばまあ構わない。 隕石は間も無くこの地点を目指して降って来る。けれど魔力の保護を失った小さな星は、大気圏突入時に燃え尽きるだろう。 「さァ、じゃあ〆に花火を見て帰るとしようぜ」 まあ其れでも見世物としてなら充分だ。 そうして其の日、中部地方の空に星の花火が咲いた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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