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絡み付いて離れない

●願いは純粋に
 なんだ。
 あんたがいなくても、私、ちゃんとできるんじゃない。

 ね、ちゃんと足撃って転ばせられた。
 ほら、ちゃんと頭も撃ち抜けた。
 わあわあ騒いでたガキも全部黙らせた。
 有り金は少なかったけどね。
 でもそんなの、あんたがいても一緒だったでしょ。

 いつだって本当の大物は狙わないで、ちょっとした金持ちばっか狙って。
 それで思ったより少なくって失敗だったなあ、ってぼやくんでしょ。
 私の家を狙った時だって、そうだったんでしょ?
 しかも何思ったのか、足手まといにしかならないガキ連れ出して。
 強盗殺人に誘拐までくっ付けて、何がしたかったの。

 別に、恨んでないよ。
 あんたがどうしようもないクズで、おまけに間抜けだってのも知ってる。
 人を殺さないでいられるような凄腕でもなく、殺さないなんて美学もないのも知ってる。
 私の家族ぶっ殺したのも、単に気付かれたからなんでしょ。
 でも恨んでないよ。
 どうでもいいよ。
 私、どうせ覚えてないもん。
 ママの作るカレーは簡単だからって油断してしょっちゅう焦げてたとか。
 パパが頭撫でる時は力が強すぎてちょっと痛かったとか。
 弟の柳太郎はいつも私の食べてるおやつを一口欲しがったとか。
 もう、ぼんやりとしか覚えてないもん。

 それよりあんたが格好付けてつけてる香水のせいでバレる事が多いとか。
 缶コーヒーで飲めるのは微糖までだとか。
 逃げるやつ狙う時はいっつも右から狙うって事とか。
 こっちが逃げる時はさり気なく私が退路確保するまで待ってるとか。
 そんな事ばっか。覚えちゃったよ。

 だからお願い。
 かえってきて。
 こんだけ派手なことしてるんだから、気付いてるんでしょ。
 早く、かえってきてよ。

●行為は残酷に
 人の心ってのは複雑なもんだな、と『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)は呟いた。
 画面に示されたのは、男と少女。
 揃って銃を持った二人の写真は、監視カメラから印刷したのだろうと推察される。
「強盗殺人、傷害を繰り返してたフィクサード連中さ。名は衣川・恭介と鼎・早紀。数年前までは、男一人だった。だが、少し前から二人になった。男が得たバディは、以前に襲った家の娘」
 まだ十代の半ばだろうか。
 少しキツメの顔立ちをした少女は、睨むような表情で些か軽そうな格好の男を見ている。
 だが。

「そう。小金の為に家族を殺害した男と、娘は何故か組んで強盗を繰り返していた。記録から窺う限り、娘と家族が不仲であったという事実はない。ついでに言うなら、騙されてた訳でもないようだ」
 少女は男と背中合わせになるような体勢で、その銃口は男とは別の方向に向いていた。
 男の方は少女を見てもいない。
 少女の事など全く、警戒していないように。
 信頼してそちらを任せているかのように。
「ストックホルム症候群? そうだな、現象を単語で括るならそうなるかも知れない。彼女が何らかの好意を、絆を男に抱いて、あまつさえ本来なら憎むべきであろう行為に自ら加担しているのは事実だ」
 伸暁は微かに笑い、肩を竦めた。
「そして数ヶ月前に、男をアーク未所属のリベリスタが追い詰めた。デッドオアアライブ。下された判定はデッド。男は死んだ」
 何のやり取りがこの二人にあったのかは分からない。
 少女が何を思ってこの男についていたのかも分からない。
 最初はただただ恐怖から従っていたのかも知れない。
 それともいつか殺してやるつもりだったのかも知れない。
 しかし、少女を縛っていた鎖は切れた。そのはずだった。

 けれど伸暁は目を細めて言葉を続ける。
「帰ってこない男に焦れた娘は、数日後に自分一人で『仕事』をやろうとする。今までよりも派手にね。わざわざ真正面から乗り込んで、家族全員皆殺し。男と自分の間にだけ通じる合図を残して」
 数ヶ月も帰ってこない男。
 例え平穏に生きていたとして、心配し身を案じるには充分な時間。
 日の当たる場所を歩いていない少女にとって、どれだけ長かったか。
「彼女も、薄々は気付いてるはずさ。だけど、認められないから、今回強引な手段で男を引っ張り出そうとしている。……出てこないのにね」
 男の不在に少女が行うのは、その生活からの逃亡ではなく、続行させる為の手立て。
 何の罪もない平和な家族の命を、金の為ですらなく『合図』に使うようになった少女の心の変遷など、分かるはずもない。
「――処遇は任せる。彼女もある意味被害者かもしれない。だが、今までにやらかした事は重い。これ以上、被害を広げる前にこの歪な片割れを止めてやってくれ」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:黒歌鳥  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2011年07月18日(月)22:04
 心が触れ合う相手を見付けてしまったのは幸か不幸か。黒歌鳥です。

●目標
 フィクサード『鼎・早紀』の討伐。
 生死は問いません。

●状況
 早紀が家を襲うのは数日後のため、
 今回の戦場は彼女が現在の拠点にしている閉鎖された社宅となります。
 内部で戦うと少々狭いかも知れません。
 一日中篭もっている訳ではなく、日が沈む頃には食糧調達の為に出てきます。
 駐車場はそこそこの広さです。

●敵
 ・フィクサード『鼎・早紀』(かなえ・さき)
 14歳。女。ビーストハーフ(ネコ)×スターサジタリー。
 公式記録上では7年前に両親と弟を強盗によって殺害された際に行方不明。
 実際は男と共にいて、3年前から犯罪を繰り返していました。
 年の割には冷静で、自身の状況が不利と見れば逃亡も試みます。
 大変身軽であり、また射撃の正確さも秀でています。
 ・スターサジタリーのスキル複数
 ・宿業罪過(全/呪縛)

●備考
 ・フィクサード『衣川・恭介』(きぬがわ・きょうすけ)
 享年31歳。男。主な罪状:殺人、傷害、強盗、未成年者略取。
 数ヶ月前に討伐済。
 死体や遺留品は既に処分されています。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
スターサジタリー
エナーシア・ガトリング(BNE000422)
マグメイガス
雲野 杏(BNE000582)
デュランダル
新城・拓真(BNE000644)
スターサジタリー
モニカ・アウステルハム・大御堂(BNE001150)
覇界闘士
宮部乃宮 火車(BNE001845)
デュランダル
イーシェ・ルー(BNE002142)
スターサジタリー
ヴィンセント・T・ウィンチェスター(BNE002546)
インヤンマスター
雑賀 暁(BNE002617)

●とある男の言い訳の回想
 最初は革醒したガキがいたから攫っただけだ。
 連れ回しても早々死なないし、いざという時の人質にもなる。
 アイツも運命の気紛れ引き当てたって気付いた時にゃ喜んだね。
 化け物になって俺を襲う事はないわけだ。どうせガキだから少し脅せば言う事聞くだろうってな。
 だけどあっという間にガキは俺の技を全部覚えやがった。飲み込みが早いってこういう事なんか。
 育つにつれて口も達者になりやがって、「ヘタクソ」って馬鹿にしてくる憎たらしさったらなかったね。
 何で殺さなかったのって、そりゃあ……ああ、ほら、殺しにくいだろ、あっちも運命に愛されてんだから。めんどくせぇんだよ、殺すのも。
 だからだよ、だから。

●愛か病か
「親殺しの相手に対する愛、ですか……何と言うか……」
「愛と言う程に大仰なものではないでしょう。単なる依存に過ぎません」
 歯切れの悪い『一途な魔術師』雑賀 暁(BNE002617) の言葉を、『デストロイド・メイド』モニカ・アウステルハム・大御堂(BNE001150)はあっさりと断ずる。愛など一種の病に過ぎないと言ったのは誰であったか。どうでもいい、彼女らの愛が本物だろうが偽物だろうが、倒すべき相手である事に変わりはない。
『心理としては極めて健全だと思いますけれどね。憎しみ続けるのも疲れますから』
 幻想纏いから聞こえるのは、『ネフィリムの祝福を』ヴィンセント・T・ウィンチェスター(BNE002546)の声。小さく入った音は彼が愛用する得物の音。
「他人を人生の中心に据えるからこうなっちまうんスよ。哀れッスね」
『あー、ハイハイ可哀想可哀想。だが、やってる事は気に食わん。だろ?』
 人の気配は感じなかったが、念の為にと結界を張る『キシドー最前線』イーシェ・ルー(BNE002142)の呟いた言葉を、『不退転火薬庫』宮部乃宮 火車(BNE001845)が少々面倒臭そうに切った。気に食わない。だから事情など斟酌する必要性も感じない。戦う理由がある。それで充分。
『……ああ、彼女が起こすのは理不尽な死だ。それを許す訳にはいかない』
 ほんの少しの間は、決して訪れない幸せな結末を思ったものか。『誰が為の力』新城・拓真(BNE000644)が小さくも決意の篭もった声で応じた。ヴィンセントと彼が想定した香水の特定は叶わなかったが、だとしても行う事に差はないのだ。
「そうね。馬鹿が馬鹿をする前に、殴って言い聞かせに行きましょう」
『BlessOfFireArms』エナーシア・ガトリング(BNE000422)が声を潜める。扉は目前。獣の神経を持った相手は気配を感じ取ったらしい。誰何の声は聞こえないが、警戒の気配を感ずる。

『こちらは準備万端です』
 ヴィンセントの通告。慣れた鎧へと姿を転じたイーシェがドアノブをこじ開ける。めきりと何かが形を変える音をさせ、次いで伸びた誰かの足が扉を内へと蹴り込んだ。
「ああ、ドアまで壊れちまったッス」
「いいわよ、どうせ壊す気だったのだもの。――初めまして、こんばんは!」
 明るく告げたエナーシアを胡乱気に睨むのは、黒髪の少女。
 部屋の中心に立った少女は、銃口をリベリスタに向けている。響いたのは窓の割れる音。砕いたのは早紀の銃弾ではない。両手に剣を構えた拓真は、真っ直ぐに早紀を見た。
「鼎・早紀だな。衣川・恭介について話がある」
「……は?」
 油断なく侵入者を睨め付けていた少女の目線が、拓真に向く。
 黒い翼を震わせながらヴィンセントが笑った。
「お探しでしょう。居場所を知りたければ全員倒して下さい」
「この機会逃したら、どうなるか分からんぜ?」
 次いで飛び込む火車、注目、挑発。再び響く翼の音。
「ね、早紀ちゃん。アンタにこの人数がやれるかしら?」
 狭い手すりの端に爪先を乗せ、『重金属姫』雲野 杏(BNE000582)は薄ら笑った。
 突如齎された台詞と、その意味を理解して少女は舌打ちをする。
 足止めの為のハッタリは効くか否か。銃弾と駆け引きの始まりだ。 

●とある男の行動前の言い訳
 でもさすがにさ、いつまでもはやってけねぇって思ったんだよ。
 アイツもいい年だし、一緒に歩いてて娘扱いされるのも気に食わねぇ。
 精々一人の方が仕事が捗るんだ、って所を見せてやって、そんで終わりだ。
 アイツなんかいなくても俺はやってけたんだ。
 うまく使えなくなったガキなんてもういらねぇ、って言ってやる気だったんだ。
 俺に脅されて仕方なくやってた、って言えば人の良い誰かに拾って貰えるかも知れねぇだろ。
 お互い要らない存在なんだから。

●愛が病か
「いきなりなんなのさ、あんたら!」
 早紀はトリガーを引く。煌く銃弾は一足早い星の瞬きを部屋に招いた。光は吸い込まれるかのようにリベリスタへと集中する。
 想定以上の当たり具合。しかしエナーシアは彼女の動きを視る。宛らフォーチュナの様に、見えないものまで見通そうと。
 早紀の動きは機械の如く精密であり、彼女の扱う集中力はエナーシアが扱う射手としての感覚よりも一段高い。恐らくは、その集中力を扱えばエナーシアやこの場の射手の誰よりも遠くの的へと当てる事さえ可能であろう。早くて正確。面倒な相手。
「何だよ、もうビビったのか?」
 まだ状況を理解しきらない早紀の頬を、目を眇めた火車が比喩ではなく燃える拳で殴りつける。浅い。だが当たった。ならば重ねるのみ。
「っ、うるっさいよ、どこにいるのさ、あいつ!」
「言ったでしょう。あなたが僕らを倒したら、と」
 倒せたならば。倒させはしないが。ヴィンセントは少女の脚を狙う。拓真の、イーシェの闘気が格段に増す。モニカが正確な狙いを定めるべく少女の動きを刻み込む。杏は窓から離れず手に馴染む得物を掻き鳴らした。
「アンタがこれから行おうとしてる事、そんな理由でされても困るんスよ」
 兜の向こう、少しくぐもったイーシェの表情は分からない。年より少し幼くも真っ直ぐな少女の刃は渾身の気合と溜めた力と共に迷わず振り下ろされた。
 事前情報どおり、早紀は素早い。重ねられたリベリスタの攻撃の幾つもを紙一重で流している。
「……そう言う愛の形もあるんですね……」
「愛?」
 綻びたローブを翻し、指先を踊らせ守護の印を切った暁の呟きを聞きとめ、齢十四の少女は鼻で笑う。
 渋面を作っていた表情が初めて動いた。
「前準備は杜撰、計画は穴だらけ、困った時はとりあえず殺す。典型的なクズに何が愛?」
「そのクズに対し、随分ご執心の様子だが?」
 仲間が塞ぐ以外の退路はないか確認しながら、拓真が早紀に肉薄する。
 少年と青年の狭間で大人びた雰囲気を漂わせる相手を、少女は再び睨み付けた。
「だから私がいなきゃいけないのよ。私がくっ付いてなけりゃ、あいつは間違いなく殺すんだもの」
 
 少女は銃口を床に向けた。放たれた銃弾は床を穿つだけのはずが、次の瞬間、唐突に足元から飛び出した黒い鎖に、リベリスタの大半が絡め取られた。
「おっ……!」
「クッ!」
「私はあいつより強くなった。だから私があいつの傍にいて、手伝ってやればあいつは『殺さないでも盗める』様になるはずなの」
 絡み付く重さは、そのまま少女の心を縛る何かか。身動きの取れなくなった火車の顔を覗き込み、早紀は続ける。運命と才能に愛された少女はシニカルに笑う。
「犯罪? 知ってる。でもあいつが他のマトモな事で生きてけるハズないじゃない。クズなんだから」
「……コッチはそれこそ知ったこっちゃねえな」
「あなたがそれを行う事で害される他人の事情を省みないのと同じ様に、ね」
 身を締める鎖を解くべく力を込める火車の後ろ、ヴィンセントが放った銃弾は、一歩右に避けた早紀の背後の壁に一つ穴を増やした。
「お前の理由がなんであろうと、理不尽な死を招く事など許されない!」
「アンタ自身の為にも、ここで止めてやるッスよ」
 拓真の刃が、イーシェの剣が、思いを乗せて少女を裂く。
 己の理想と正義を貫く彼らとて、思う事がない訳ではない。だがそれは早紀の思惑とは相容れない。彼女は一人の少女であると同時、無力な少女ではないのだから、止めねばならない。
「しかし、聞いていればまるで相棒気取りね」
「一人残されている所を見ると、衣川はそう思っていなかった様子ですけれど」
「仕方ないんじゃない? お子様だもの。ねーぇ?」
 肩を竦めたエナーシアの声に、モニカが淡々と答え杏が笑う。挑発、本心、隠された意図、少なくとも少女よりは長く世間を見ている女性達の言葉に舌打ちした早紀は、顔を歪めた。
「うるさいんだよ。私はあの馬鹿の傍にいないといけないの。――知ってんなら頭吹っ飛ばされる前にさっさと言えよ、グズ共」
「……負けるつもりも、逃がすつもりもないですから」
 毒吐き少女に挑発でもなく偽りでもなく告げられる暁の言葉。
 彼の手から放たれた符は、巻き付いた鎖によって痛んでいたイーシェを癒した。

●とある男の死に際の思考
 ああ。嘘吐いたからバチが当たったっつうのかな。
 何でだか知らねぇけど、この恭介様が、アイツいないと駄目になってたみたいだ。
 
 なあ。神様。今更縋るのなんか虫が良すぎるのは分かってるけどよ。
 アイツ、俺がいなくなったら一人なんだよ。
 だって、俺がアイツの家族殺しちまったから。
 なあ。神様。
 アイツをどうにかしてやってくれよ。

 頼、


 ――かくて男の運命を賭けた願いは届いたのか。
『神の目』は、少女を捉えた。

●病の愛か
 回復の薄いリベリスタは火力で押し切る方針を通したが、それは早紀とて同じ。
 援軍の望みもない彼女は、最大火力で抜け道をぶち抜く以外に方法がないのだ。
 早紀が両手を交差させ頭上に掲げる。先刻、少女の技を見抜いたエナーシアが顔色を変えた。
「気を付けて、炎が来るわ!」
 警告と同時に撃ち出された銃弾は天井で弧を描きながら無数に分散し、炎の雨と化し降り注ぐ。
 インドラの矢。銃士の基礎を、星の光の如き無数の弾を放つ技を身に付けた実力者が扱える一撃。
 消耗は激しくも、威力は絶大。
 そして。
「あっつぅ!?」
「ぐっ……!」
 身を焼く炎は、一気に体力を削ぎかねない。
 イーシェは咄嗟に振り払ったが、ヴィンセントは炎に巻かれている。鎖にも巻かれたままの彼は、それを払う事もままならない。熱い。全身が炎に耐え切れないと悲鳴を上げている。倒れかけた彼が呼び寄せた運命の加護は炎を消し去ったが、立ち続けられるのもいつまでか。
「……駄目だ、止めてやる……!」
「アンタは馬鹿ッスよ……!」
 最前に立ち注意を引き続けた拓真とイーシェが倒れる。暁の手は己か、被害が激しい誰かに癒しの符を投げるので手一杯であった。一人か二人。暁が倒れた仲間を数えられたのは、その辺りまで。意識は閉ざされた。

 回避に特化した早紀に対し、正確に狙いを定められる射手は多かった。
 しかし、早紀は広範囲に銃弾をばら撒く術を知っている。狭い室内となれば前も後ろも関係なく撃ち抜かれた。
 そして少女の腕は、リベリスタより更に正確。威力は暁の守護で削る事ができた。だが足りない。
 黒い鎖に捕らえられ、身動きの取れなくなる者が、想定以上に多かった。火力で押し切るのに、手が足りなくなる程度に。
 鎖は振り払おうという強い意志さえも奪い、更に戦局を困難なものとしていた。

 数多の傷を作りながら、少女は嗤う。
「恭介を連れて来ないって事は、どうせアンタら、もし居場所知ってたとして手ぇ出せないって事でしょ? なら別にアンタらに聞かなくったって自分で探せる。ナメんなバァカ」
 嘲笑を交えたそれは、自身へ言い聞かせる言葉でもあったのだろう。
 半数以上を血に沈めた少女が、完全に逃亡の意志を固めたのが残った者達には理解できた。
 だが、それは即ち、早紀にはこの場の全員を相手取る力がもう残っていないという事でもある。
 なら余計に逃がす訳にはいかない。
 少女の細い脚が動き出すより早く、火車が飛びついた。
「衣川の居場所はそっちにねえよ!」
「へえ、教えてくれるの?」
「だから言ってんだろ、俺ら全員潰せたら、」
「ふぅん? 具体的な事は何も言えない癖に?」
 心底忌々しげに顔を歪めた早紀は、組み付いた火車の頭に向けた銃口をトリガーを引く瞬間ずらして、肩口を撃ち抜いた。
 咄嗟に肩を押さえた火車は、凄絶な笑みを浮かべて己の血で滑る手を振り払う。
 今立つのは、火車を含めて三名。杏の四色の呪いを横跳びで避け、モニカの銃弾に転びかけた早紀は、抜け易い方を選択した。
「手がかりを自ら投げ捨てますか。実に考えの足りないお子様ですね」
「アンタのがガキじゃん。死ねよ」
 清潔感のある衣装を、今は血と埃で汚しながら無表情で言い放ったモニカの細い体に狙いを付け早紀は撃ち放つ。
 幾度目かの意識の混濁。先と同じ様に平常心のまま揺らいだ身の平衡を保とうとしたモニカだったが、機械の右目にノイズが走る。そして暗転。
 ゆっくりと倒れるモニカを視界の端に捉えながら、愚直なまでに一筋の、だからこそ迷いのない火車の一撃が早紀を打つ。先程一度少女の動きを止めた、杏の力を秘めた曲が奏でられる。
 モニカを倒し振り返った早紀の両腕は、動かなかった。

 戦意を失ったのか、だが倒れるまでは油断ならないと畳み掛ける様に火車の拳が更に小さな体を打ち抜き、掻き鳴らされた杏の得物はステージ上のライトの如く目まぐるしく色を変えながら早紀の体を貫く。
 だが、よろめいた早紀はまだ倒れない。
「……探しに行かなきゃ」
 俯き、表情の見えぬまま口の端を上げた少女は二人の行動が終わるのを待っていたかの様に、踵を返す。
 倒れるリベリスタを抜けて、遠く、遠く。呟かれた台詞とは裏腹に歪んだ顔。既に真実を悟っているのを拓真は理解したが、伏した彼の手は少女を掴めない。
 次の手の為に間合いを計っていた二人の反応が遅れた僅か、距離は開いていた。
 杏の翼が羽ばたき、火車の爪先が力強く床を蹴り始める。ほぼ同じ速度で走る火車は距離を埋める術を持ち合わせなかった。
 窓から杏が飛び出せば、早紀が駐車場を一心不乱に走る姿が見える。
 早い。あと一撃。沈められなくとも、杏の光が早紀の体を止めれば火車が叩き伏せるだろう。丁か半か。ならば彼女は攻めに転ずる。

 一か八かに賭けた勝負師の一撃は、アスファルトを穿った。

 伸ばした手は、届かない。
「現実から逃げてるんじゃないわよ、小娘っ!」
 駐車場に響いた憎々しげな怒声の裏にあるものに、少女は気付いたか。
 希望的な観測だけを持ち続ける子供に対する、精一杯の警告。
「――うるさいんだよババア!」
 振り向き様に口汚い罵声を吐き捨てた早紀の目に湛えられている涙と、血が滲む程に噛み締められた唇を見たのは、杏だけ。
 後はもう、それっきり。
 長い黒髪の少女は、痛んだ体を庇いながらも夕闇に沈み始めた街の中へと走り去った。

■シナリオ結果■
失敗
■あとがき■
 死体や遺留品はない、とコメントに書いてあるのにはそれなりに意味が在ります。
 騙したり動揺を誘ったりするには道具に頼らず、もう少し凝った言葉が必要だったかもです。
 今回の戦闘で皆様が与えた痛手は、一つの家族の命を救いました。
 お疲れ様でした。