●らぶれたー。 ロマンチックな言葉を並べるだけなら、幾らだってできると知ってたのです。 真っ直ぐに伝える事が何時だって難しいのだって知っていました。 難しい事だと思うと僕は負けず嫌いですから、真っ直ぐに、ただ、一生懸命伝える事を選びました。 だから僕は、今、只管に想いを伝えようと、そう思います。 僕はあなたが好きです。あなたが居るだけでしあわせになれるから。 使い古された言葉ではあるけれど、一番に伝わる言葉だと思っているから。 今日も、僕はしあわせですね。 ●拝啓、――様。 乾いた風が心地よく、初夏に似合う花が咲き誇る水無月――そんな日に突拍子も無く拳を突き上げはしゃぐのが『恋色エストント』月鍵・世恋(nBNE000234)である。 「お手紙書きましょうよ! アザーバイドがいるんだけど、識別名は『メッセンジャー』。 フェイトを得た優しい隣人なんだけど、ボトムでお散歩してる時に見た紫陽花にとても感動したらしいの」 ソレがどうしてお手紙を書くに繋がったのだろうか。 首を傾げるリベリスタ達に世恋が羽をぱたぱたしながらアルパカぬいぐるみもふもふ。 「メッセンジャーはその名前の通り、お便りを届けてくれるアザーバイドなの。 彼がくれる葉っぱがあるの――此処に沢山用意したわけですけれども! それにお手紙を書けば、『どんな場所』の『誰にでも』届くと言われているわ。 メッセンジャーさん紫陽花に感動したから、そのお返しにお手紙を届けてくれるそうよ!」 ……というお伽噺があったんだ。 と『槿花』桜庭 蒐 (nBNE000252) が付け加えると世恋が頬を膨らませ「ホントだしっ」とブーイング。 「あーちゃんは何がしたいの? 鬼ごっこ? ヒーローごっこ? あとで、何でも一緒にやってあげるから!」 「っ、ち、違う! はしゃぎたいけど、違うしっ! タ、タイムカプセルとかしたくて……」 どうかな、なんて視線を送る蒐に良いと思うわ、と世恋は小さく微笑む。 「でも、遊びたいのよねっ!」 違うとじたばたする少年にえへんと無い胸を張った月鍵世恋(24)はリベリスタへと向き直る。 「と、まあ、そういう訳でお手紙を書かないかしら? 好きな場所でお手紙を綴る――両手で葉っぱを持って、お祈りしたら窓辺や外に面した場所に置いてね? ――なんと! 気付いたら、そのお手紙は『メッセンジャー』が拾って行ってくれるわ!」 その他は思い思いに過ごしてくれればいいのよ、と世恋は小さく微笑んだ。 仕事の合間に、休日に、ぼんやりと想いを綴ると言うのもたまには悪くはないだろう。 「たまにはそんなロマンスも如何かしら?」 お手紙を書きましょうね!とぴょんぴょんと跳ねる世恋に蒐がコイツ何歳だっけとぼんやりと呟いた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:椿しいな | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年06月21日(金)22:32 |
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■メイン参加者 30人■ | |||||
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●本部 三高平に訪れた爽やかな朝にうんと伸びをした琥珀はメッセンジャーの葉を手に『麗しのお姫様』への手紙を書き綴っていた。葉っぱを手に目を伏せて想い浮かべるフィリスの顔――なのだが、どうやら自分イメージでは実物よりも更に美しく神々しくなりそうだ。 『艶やかな紅い髪と真紅のドレスを携えた姫君よ、今日も健やかに過ごして居る事だろうか? 気丈な精神は崇高かつ眩い輝きを放つものだが倒れん程度に無理はほどほどに! リラックスだZE☆ 麗しの My majestic princessへ BY匿名希望』 「な、なんちゃって――!」 恥ずかしさで死ぬと本部の床をだんだんと蹴り続ける。硬い床も驚きの八つ当たり具合である メッセンジャーは全ての手紙を届けると云う 昼下がり、小さな子犬を連れて羽衣は瞳を輝かして居た。 「御機嫌よう。約束通りさくらを連れてきたの! そういえば、蒐は漫画が好きなの?」 握りしめた週刊誌を見詰め面白いのかしらと首を傾げる羽衣に蒐はさくらを抱きしめながら頷いた。 俺の好きなの、と開かれた頁には何とも少年が活劇を繰り広げるファンタジーが描き綴られている。絵が一杯だと首を傾げる羽衣が思わず『漫画』に意識をとられている時、慌てたように「蒐」と呼んだ。 「あ、あのね、羽衣とお手紙書きましょう?」 「オッケー! じゃあ、俺はさくらと羽衣さんに書こうかな」 任せろ、と笑う蒐に頷いて。言葉は音になって消えてしまうけれど綴った文字は消えないから、日記を書くのも好きだった。その日記が何時止まってしまったかなんてロケットペンダントに隠したけれど。 目を伏せて差出人である少年の事を想う。 「ふふ、秘密よ?」 そっと窓際に置かれた手紙に添えられた言葉は「蒐が大好き」の一言だけ。何だろうと首を傾げた蒐へと悪戯っ子の様に小さく笑った。 一日の終わりを感じながら快が葉を握りしめたのは良いが、予想だにしない手紙の差出人である。 『誰にでも届く』と言う事は死者や無理な相手に届けると言う事も可能であると言う事でもあろうが―― 『いつもいつもお世話になっております。特にイベシナでは』「か、カットカット!!」 慌てる世恋に何と快が告げる。彼の手紙の内容はダイジェストでお送りしよう。 『水族館を寿司屋にしてすいません。でも後悔はありません。あの時(SS)、ショッピングを天麩羅にしてすみません。でも、天麩羅凄く美味しそうでした。 飯テロが大好きです。三度の飯の次くらいに好きというか三度の飯を食べながらの飯テロが大好きです。 勿論一番好きなのは美味しいご飯を食べることです。ご飯にお連れ出来ないのが残念でなりません。 これからも飯テロを頑張りたいと思いますので、よろしくお願い致します』 いやはや相手がこの私であるとは誰が予測したであろうか。思わず驚き、快の目の前で代理人こと世恋とて「は、はい」と戸惑いを浮かべているではないか。 食べに行けないなら飯テロすればいいじゃない! 「……」 何をしているんだろう、と見詰める天乃は自分が握りしめる葉へと視線を落とす。手紙は慣れたものではないが書き散らすだけ書き散らそう。 「バッドダンサー、に……危なそう……だけど、メッセンジャー、は死ぬほど、頑張れ」 ――何とも死を覚悟する相手だ。 『久しぶりだけど元気にしてる? と書くのもなんだか変な話だと思うけど。 今回手紙を出すのは感謝の為。 アークという微温湯に浸かり、錆付くだけだったかもしれない私を砥ぎ直してくれたのには感謝してる。 それだけ。 再戦の時までどうか死なぬよう。次は絶対届かせて見せる。 楽しい楽しい闘争の宴を、お得意の謀略を巡らして用意してくれるといい。 胸糞の悪くなるようなと人は言うかもしれないそれだって私には楽しいスパイスには違いない。 期待して待ってるよ』 名前を添えて溜め息をつく、何時か出逢える時が来るならば今度こそその狂闘に身を任せる事だ。 鮮やかな瞳がその戦いを期待する様にぎらりと光った。 「折角だからお手紙書くよ! メッセンジャーさんってもふもふしてる?」 どうかしら、と首を傾げる世恋の前で黎明がわさわさしたいなと手をわきわきと動かして居る。 さて、葉っぱをぎゅ、とし願うというシステムはどんなものであろうか。文字に自信が無い黎明は受け取り手の元に届く時に自身の文字が『みょいん』と現れる不安を胸に視線を揺れ動かした。 「書き直しが利かない!?え、どうしよう長い言葉は黎明ちゃんきっと噛むし……!」 唸りながら絞り出した言葉は一言。長ったらしいよりも一番自分を表した言葉じゃないだろうかと可笑しくなって小さく笑った。 『拝啓おにいちゃんへ ダイスキ 黎明ちゃん』 ●月鍵☆チャレンジ ソレは何時も通りの午後と言えるだろう。アルパカを前からもふもふするミリィは世恋と共にアルパカを眺めている。 「ミリィさんは結構パカってるけど、飽きないの?」 「ふふ……お姉さま、それは愚問と言う物です。飽きるなんてことないのです、絶対に!」 ――その自信は何処からくるのであろうか。ソレにしてもミリィにもふもふされるアルパカが切なげだ。 「お姉様は誰かお手紙を送りたいと思える人はいるのですか?」 悩ましい世恋が名前をあげるのは自身と同じように予知を行う面々だ。姉貴分や友人の名をあげながら、ミリィさんは?と彼女は小さく首を傾げる。 何処か戸惑った様にミリィは頬を掻く。アルパカも「パカァ」と鳴いた――気がした。実際は鳴かないがもういっその事「パカァ」と鳴けばいいと思う。 「悩みます、ね。その人たちが今、私のことをどう思っているのか。……複雑ですよね、家族って」 「そうね、私も家族は妹だけだから……複雑ね」 小さく笑みを零す世恋に一緒に居る間は楽しみましょう、と手を握りぶんぶんと振り回す。 用意した手紙にはお姉さまへと日頃の感謝を一生懸命に書いたそうだ。 「世恋。アルパカだな。俺の勤めてる牧場にもアルパカが沢山いるが、近寄った事が無いのだ」 「大きいわよ? あと、結構怖いわ」 ちょっと怖いと戸惑う伊吹からすると『世恋『が』懐いているのだから優しい動物なのだろう』と先入観を振り払おうとしていた。此処で『世恋『に』』では無い所がやはり月鍵(24)の正式な扱いなのであろうか。 そっと近寄ると独特なアルパカ臭と、特徴的な顔が迫ってくる。 「……あたたかいな」 もふもふとアルパカに触れながら、生き物の温もりに落ち着きを覚える。健気な命を見ていると慈しみに胸が一杯になった。何処か弱気になる自分に戸惑いを隠せないで居る事に伊吹は苦笑する。アルパカも苦笑した――気がした。 守るためには強くならなくてならないのに、とより一層もふればアルパカが応える様に鳴いた。 「……手紙を出す当てが無かったのだ。世恋に送るとしよう」 「あ、じゃあ、私も伊吹さんに送るわね?」 アルパカに出してももしゃもしゃされるだけだし、と小さく微笑む伊吹にアルパカが美味しそうだと言う様に鳴き声をあげた。 「アルパカは……正面には立つなよ?」 「う、うん。大きいねぇ」 凄いね、と言いながら兎を撫でる夏奈の横顔に小さくため息が漏れたエルヴィンは安心した様に微笑んだ。少し前にアーティファクトに囚われて居た彼女の事を思い描いての事である。 「元気そうで良かったよ。あいつらには怒られたろ? 心配かけんな、ってさ」 御免なさいと俯く夏奈に「ソレだけ愛されてるってことだよ」と肩を叩く。 「……だからさ、ひとりで頑張ろうとしなくていいんだ。 リベリスタとかフィクサードとか、そんなのどうでもいいんだ。 君らの絆の前には無意味な定義だ。変に気にせずに、これまで通り一緒に頑張ればいい」 それがきっと幸せ何だろうからと笑うエルヴィンに小さく頷いた。 「俺も側に居る。それが良いものなら手伝うし、悪いものなら止めるし、ヤバいなら護ってやるさ」 嬉しいと夏奈は微笑む。こうして自分を助けてくれると言われる事は身寄りのない少女にとっては何よりも心強いものだ。お兄ちゃんと笑う少女にエルヴィンは頭を掻いて柔らかく微笑んだ。 「こういう性分なんだよ。君が笑顔で、幸せで居てくれる事が俺にとっての何よりのお返しさ」 「じゃあ、お兄ちゃんも幸せで居てね? そしたらきっと夏奈も嬉しいから」 ね、と笑った少女にそうだな、と微笑んだその時――其処へと異変が訪れた。 『月鍵ちゃれんじ』とは正に彼女の為の言葉であるように思える。 「ふっ、よくぞ現れたな月鍵世恋よ」 すた、と地面へと降り立ったイーシェに世恋の表情が曇る。同時に伊吹が首を傾げていた。 何故彼女はアルパカに乗っていたのであろうか。 「今回も可愛く可憐ッスね、24歳」 「えっ、ちょ!?」 「世恋さん!?」 普通に抱え上げ、アルパカに乗せられる世恋を見詰めるミリィ。トムソンもこれには驚きである。 「アルパカレースッス! ソレこそが今回の勝負! ちなみに世恋さんの乗ってるアルパカはアタシがみっちり安全走行を教え込んだッスので安心ッスよ!」 「アルパカ凄いわね!?」 何故かもう一体のアルパカに乗ったイーシェと遠くでエルヴィンと夏奈が見詰めている。 混沌とする移動動物園(アルパカ広場)。 ルールは簡単だ。移動動物園外周を3周したらゴール! イーシェの投げたハンカチが地面に着いたらスタートである。 「いざ、勝負っすよ!」 ぱ、と投げられるハンカチが地面に着いた途端、アルパカが地面を蹴る。 「いっやああああ!?」 「世恋さんー!?」 ――そして勝負が始まった! ●タイムカプセル タイムカプセルしたいし遊びたいんだと意気込む蒐に望は笑みを零して未来の自分へと願いを込める。 『みんなが笑顔の世界になってます様に』 にはは、と微笑んで誰に何を書こうと悩んだ結果であった。想えば三高平に来てから長い時を過ごしたように思える。のんびりと過ごしてきたと言えどソレだけでは済まないだろう。 「あーしの願い、開いた時に叶ってるといいなっ」 うん、と頷く蒐がタイムカプセルの中へと望の葉を入れて居る所へと参上する亘。特製オニギリとお茶を要した彼は穴を掘る準備万端である。 「さぁ、あーちゃんさん。皆と未来の自分の為に一緒に頑張って掘りましょう!」 「お、おう」 ――今、さらっと呼び名が変わってた。 準備を一緒に行おうとKIAIは十分な亘の隣で『トンファー先輩』こと夏栖斗も任せてよと穴を掘り進んでいる。 「トンファー後輩、こういうのって10年後とかに開けてみるんだよな。10年後の27歳の僕かぁ。 ひょっとして僕等マジカッコイイ渋いイケメンになってるんじゃね?」 ソワッとする夏栖斗に蒐が緊張した様にそうだな、と両手を振りまわす。 「きっとイケメンですよ! あーちゃんさん!」 「まじか、俺カッケー!」 ――この年代の男子とは何時もこうである事は言わずもがなだった。 そっと手紙を綴るセッツァーはタイムカプセルの中へと自分の想いを閉じ込めた。 若かった頃恋焦がれた愛しの君、一度として会話できなかった君。 歌声を笑顔で聞いてくれた愛しい彼女。あれから数十年たった今、彼女は何をしているのであろうか。 あの時の様に可憐では儚げであろうか? セッツァーの歌は彼女に向けられたものだった。 歌を生業としてこれからも歌い続ける。その思い出を胸に。 歌い出すセッツァーの声を聞きながら、竜一がユーヌの手を引いていた。 「タイムカプセルにお手紙投入! うひょー! お手紙かきかき、埋め埋め!」 「掘り出す時には忘れてそうだが……何を書いたのか気にするのは愚問か?」 小さく笑い合う二人の手紙は何時かこの先、共に読んで笑うのであろうか。 『未来のユーヌたんへ。 お元気ですか、僕は元気です。 月日がたつのは早いもので。ユーヌたんと付き合い始めてからそれなりな年月が流れました。 そちらはどうでしょうか。 まだ俺と一緒にいてくれているのでしょうか。というか、俺は生き残れてるでしょうか。 俺の唐突な気まぐれは、たぶん死ぬまで治らないし変わらないと思う。 同じようにユーヌたんへの想いも変わらない。 愛してます。 今までも、今も、これからも。死が二人を分かつまで。 結城竜一より愛を込めて』 『前略 結城竜一様。 さて、まだ竜一の隣に私は居るだろうか? 私が愛想を尽かされてたら仕方がない。読むだけ時間の無駄なので捨てると良い。 又は目の前で読み上げるのも良いかもしれない。忘れてるだろうしな? 未だ私は愛が何か理解してないが未来で理解できてるなら竜一のお陰だ。 私一人では何百年かかっても理解不能。中身が伴って無くとも、外から整えられるのは竜一ぐらいだ。 故に愛があるなら竜一が成し遂げたことと誇るが良い。 ありがとう竜一。過去から未来その先も感謝し続けられれば幸いだ。 早々』 「ユーヌたん、何書いた?」 「秘密だ。どうせ未来になれば読めるのだからな」 二人のやりとりを横目に、緊張した様にルナが「蒐ちゃん、どうしよう」とそわそわと周囲を見回して居る。 「私、実はこういうの初めてなんだよね」 どんなものを埋めればいいのだろうか。ユーヌや竜一の様に手紙を添えれば良いのか。それとも―― 悩ましい、と共に悩む蒐に自分で考えついたのは身につけて居るものだった。アクセサリーでも、雑貨でも、何でも良い。ルナの身に付けたものを埋めればきっとこの先、想いだして貰えるだろうから。 「私の身につけてたものでも埋めておこうかな。だって、そうしたら、もし私が居なくなっても……」 「俺が覚えてるし、ルナさんは居なくならない。大丈夫、だからそう言うのは」 「うん、もうこんな事は云わないよ! 今は大変だけれど皆で頑張っていこうね、蒐ちゃん!」 蒐ちゃんという呼び名に「君」のが格好良くないかなぁと唇を尖らせつつ頷いて。一緒に手紙を書こうとルナへ提案する蒐の隣、葉を手にした夏栖斗が二人の様子を見て小さく笑う。 リベリスタは何時も死と隣り合わせだ。明日死ぬかもしれないし、このタイムカプセルを開く事も出来ないかもしれない。だからこそ、こうして残す事に意味があるだろう。 「あーくん、何て書く?」 「ひーみーつ。夏栖斗先輩は?」 「僕は、そうだな。いい加減甲斐性なし卒業して、甲斐性のある男になってろよー! とか」 ちゃんと生きてろよと書こうとして手を止めた。フラグはポッキリと折っておこう。 隣で全力で手紙を書く亘に蒐は「何時も通り?」と笑う。何処か照れたように「何時も通りです」と云う彼に何処かで黒羽の少女がくしゃみでもした事だろう。 今もこの手紙を読んだ自分もその先の自分も彼女の隣に何時でも全力で居れる様に。 その決意を胸にタイムカプセルへと手紙を入れて、蓋を締める。せっせと埋めながら、まだ時間がある事に気付き亘はくるりと振り返った。 「さ、あーちゃんさん、遊びに行きましょうか!」 ●自宅 朝のティータイムと共に葉と睨めっこを行う彩音は普通の手紙を横に置き、葉を眺めていた。 『お父さん、お母さん、お元気にして居られますか? 家を出て3年と少し、連絡もせず申し訳ありませんでした。 私は今、三高平市に居ます。1人暮らしは少し大変ですが、新しい友人もできて有意義に過ごしています。 また、折を見て手紙を書くので、心配しないでください』 レターセットに添えた手紙にどうしても書く事の出来ない言葉を思い描き、彩音は赤い瞳を揺れ動かせる。 「……自分で書くには恥ずかしい事を葉っぱに書いておこうか」 戸惑いながら願う思いが葉に反映されたと小さくため息をつきメッセンジャー宜しく、と窓辺へ置いた。 切手を添えた本物の手紙を手に、今日の一日を始めようか、と彩音は小さく伸びを一つ。 届いた頃、きっと育ての親達は笑うだろうか――? 『おとうさん、おかあさんへ。ありがとう、大好きだよ』 昼下がりに葉を握りしめる雷音に胸を高鳴らせる虎鐡は娘の手紙が自分に来るものだと思い込んでいる。 「拙者雷音に送るでござるよ!!」 「誰に送るかは秘密だ。って、何故ションボリする。お前にはいつもメールを送っているだろう!」 任務の後に電子メールを送る事が彼女の習慣だ。娘が誰に手紙を送るのか判らない以上、彼氏等ができたのではないかと不安になるのも娘が可愛いが故だ。 しょんぼりとする虎鐡が目を伏せて葉へと向き合うと同時、大きな翡翠を揺らした雷音は言ノ葉をゆっくりと綴る。 友人のあの子へ。伝えられない言葉を送ろう。きっと、届く筈だから。 『ボクも君と友達でよかった』 葉を窓辺に置いて『少しの欲張り』として虎鐡へと向き直る。葉へと乗せる言ノ葉に虎鐡が「ら、雷音!」と幸せそうに涙ぐんだ。 「拙者嬉しいでござるよ! ござるよ!!」 「う、煩い。お前からの手紙が読めないだろう? 静かにするのだ」 『愛しい雷音へ 彼是もう9年が過ぎた。とてもとてもいい子に育ったと思う。 だが、俺の為にずっと笑顔でいる必要はないんだ。泣いたりともっともっと自分を解放してもいいと思う。 安心しろ。俺は死んだりはしない。必ず、お前を世界一幸せにしてやる だから、もっともっと素直になってくれ。全てを見せてくれるのが俺にとって一番嬉しいんだからよ』 こほんと、小さく咳払いをする娘の表情に幸せでござると虎鐡は微笑んだ。 手紙を見詰めた悠里は旅人となった友人へと手紙を送ろうと葉を見詰める。 念じて手紙を書くなんて面白いではないか。葉っぱの手紙はきっとぐるぐに良く似合う。 『ぐるぐさん、元気かな? こっちは相変わらず色々大変だけどみんな元気でやってるよ。 ぐるぐさんは……多分相変わらずだよね。今はどんな宝物を追いかけてるのかな? ぐるぐさんがいなくなって寂しいけど、また会えない訳じゃないよね いつか、こっちのゴタゴタが全部片付いてアークのお仕事がなくなったらぐるぐさんを探しに行きたいな。 探しに行ったらぐるぐさんは隠れんぼだーって隠れそうだけど。じゃあ、またね?』 名前を添えて、陽の当たる窓際へと置いた手紙。きっと受け取ったトリックスターは面白そうに笑って手紙を見詰めるだろう。 よろしくねとメッセンジャーに向けた言葉に何処かから鳥の声が聞こえた気がした。 夕方過ぎの通り雨は糾華の心を憂鬱にさせるに容易かった。用意した三枚の葉を手に小さくため息をつく。 一つは旅だった桃色の天使へ、一つは体を光りの矢に変え鬼を射抜いた親友へ。 「……一つは」 共にある事を約束した掛け替えのない貴女へ。大切なのは心にあるものだと知っているから。 『毎日顔を合わせて、いつも一緒にいるのに手紙を書くのは可笑しいって貴女は笑うかしら? でもね、私、こういった可愛い無駄が案外大好きなの。 知っての通り、私って存外にロマンチストだから、覚えていてね? 貴女に伝えてない事、まだ一杯あります。 貴女に伝えたい事、まだ沢山あります。 貴女の知りたい事、まだまだあります。 少しずつ少しずつ埋め合わせて行けたわ良いね。恋をして愛に成るってこういう事だと思うから』 届けば、いいな、と小さく囁いた。 給仕の時間を終え、リコルは葉を見詰め首を傾げる。 「この手紙は未来にも届くのでしょうか? 10年後のお嬢様へ、お送りいたしましょう」 夕飯の支度の合間、大切な主人の事を思い描きリコルは小さく笑みを漏らす。 『異界の伝達者様の好意によってこの手紙は届く事でしょう。 10年後のお嬢様はさぞ美しくご成長されている事でございましょうね。 好きな方はおられますか? どんな夢を持たれましたか? わたくしはお嬢様の側でそのお手伝いをする事が出来ているでしょうか? お嬢様の事、自身の理想を叶えるべく邁進されているのでしょう。 わたくしはそれを信じています。 苦しく険しい道でしょう。けれど喜びもある道でしょう。 長く困難な道の果てにお嬢様に幸福が訪れますよう。 敬愛する我が主人へ 10年の時を超えて、リコルより』 幼い姿に変わった自身はきっともう家族とは逢えないだろうと自嘲した。 水姫は家族の生死を知らない。死んでしまっているだろうし、生きて居ても自分を認識して貰えない。 手紙を書くのは別れを告げるのに丁度いい機会であった。 『ちょっと、世直しの度に出てくるんだぜ! 水姫』 たったその一言だけ。破天荒な人だと笑う家族の事が浮かび、きっと伝わる筈だと妙な自信を胸に抱き、葉を窓辺へと添える。 ――きっとこれで伝わっている!(妙な確信) 晴れた空には月が昇っている。空を眺め縁側で溜め息をつく拓真は高揚と不安の混ざり合う感情を抱き葉を握りしめた。 「祖父、どうやらまた大きな戦いが起きる様です」 どれだけ戦いを重ねて己を鍛え上げようと喪失に恐怖する事は乗り越えられずに居る。 恐怖を抱えてこそと、貴方は云うのでしょうか。葉へと込められる思いに拓真は小さく誓いを立てる。 「新城弦真、誠の双剣──その名と、誇りに恥じぬ戦いを」 祖父の名に誓う。嘗てこの場で誓い願ったものが、憧れから己の芯へと転じた想いが。 『祖父よ、見て居て下さい。俺を、仲間達を。 貴方達が守ったこの世界の未来を守って見せます。そして必ず戻りましょう。この、俺の帰るべき家へと』 再度誓うソレに祖父は何と云うであろうか。ざあ、と吹いた風が祖父の激励の様にも思えた。 窓辺から差し込む月の光を眺め桐は自信が傍に居た友人の事を思い描く。 何時も何時だって、自分より先に友人達は逝ってしまうものだった。天月さん、紅涙さん、宵咲さん。 名前を口にして、葉を握り目を伏せる。 『いつも最前線で戦っていた皆さんはそちらでも戦っていそうですね。 シンヤやジャックともまたやりあってるんでしょうか? いずれ私もいくと思いますから、倒し尽くしたりしないでくださいね? 近いうちにまた新しい相手がそちらに増えると思います。今度は親衛隊のバロックナイツだそうです。 お陰で此方はごたごたしてますけどね。 とりあえず私は元気です。また会ったら一緒に遊びましょうね』 届けばいいな、と願う様に桐はそっと窓辺へと葉を置いた。 足を揺らし、自室のベッドに腰掛けたアンジェリカはじ、と葉を見詰めていた。誰にでも届くと世恋が逝っていた言葉を想いだし、戸惑いを浮かべた彼女は葉を胸に当てぎゅ、と抱き締める。 『神父様、ボクだよ。アンジェリカだよ。 ボクは今三高平にいるよ。貴方を追いかけて此処まで来たんだ。 貴方を此処で見たって聞いて。待っててって約束を破ってごめんなさい。 でもどうしていなくなったの?どうして何も言ってくれなかったの? 会いたい。貴方に会いたい。 お願い、ボクに会いに来て。今度こそ此処で待ってる。ずっと待ってるから……』 溢れ出る思いに、言葉が浮かばなくなって、涙がぽた、ぽたと落ちて行く。窓辺に置いた葉に零れた涙を其の侭にして、あの人へと小さく囁いた。 堪え切れない嗚咽に倒れ込んだ其の侭、眠りにつくその時まで、大きな赤い瞳からは涙が零れ続けて居た。 手紙を書くと言うのは悩ましい。元気で健やかにやってるか、と告げる事は何だか可笑しい気もする。 胸に抱く思いを吐露するのも良いかと言う一寸した気まぐれであった。 「……おかしいな」 『オレはまぁ…そこそこ楽しくやってる。空いた穴は埋まる事などありやしねぇし。 心底満足を得るなんてのもまだまだ遠すぎる お前と一緒に居た時間はそれ程長くは無かったけれど。 それでも楽しかったし、嬉しかったし、尊い時間だった。 我侭を言やぁ、もっと抱きしめていたかった、 頭を撫でてやりたかった、手を繋いでいたかった、好きと言ってやりたかった。 今でも一緒に居たかった。毎日を共に過ごしたかった』 ふと、其処まで想った時にガラじゃないな、と葉へと炎を宛がった。端から燃えて行く思いに、手紙では無く届けるなら自分自身でやろうと火車は想う。 生きて居る限り人は何時か死ぬ。何時か必ず彼女の元へ逝くだろう。胸の篝火は何時だってあの消えない火――結晶と共にあるのだから。 ● 『世界に仇為す卑しき者たちへ。 邪悪を前に、正義の怯む事はもうない。この剣を前に“天か地か”まみえることになるだろう』 そう綴ったレディ ヘルは空の闇へと溶けようと翼を広げた。 街を一望できる場所に彼女は立っていた。じ、と眼下の街並みを見詰めたヘルは風に葉を流すと同時、地面を蹴った。 茫と街を見詰める終は葉を見詰めて、誰にでも届く手紙かと小さく呟いた。 自分は誰に、何を、どんな言葉を届けたいのだろう。 話したいけど、もう話す事が出来ない人たちが何人も何人も頭に思い浮かんだ。 ヒーローみたいに格好良く居なくなったくにっち、優しすぎて居なくなったヴィ兄。優しくて残酷な約束だけ残して居なくなった二人の親友の事を想い浮かべて終は小さく笑った。 死にたがりのピエロが想い浮かべる言葉はきっと二人に言えば怒られてしまうだろう。 逢いたい。そっちへ行きたい。もう一度逢いたい。――逢いたいな。 特別で無い、何でもない話をして何でもない事で笑いあって、それから……。 「オレ、手紙苦手だから」 伝えたい事が多過ぎて、言葉にならないんだなぁ、とぼんやりと思う。大切な事は、伝えたい事は何時か直接言うから。だからその時まで待っててね? 小さな小鳥の囀りと共に手紙が運ばれて行く。 梅雨の湿った風に煽られて新緑の羽を揺らした鳥はその手紙を静かに運ぶ事だろう。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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