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虚栄の再燃、哀枯の訪れ


 ――かつて、手足をもがれた女神が居た。
 彼女は酷く我が儘で、自分の望みが叶えられないと直ぐに癇癪を起こし、怒りの侭に人を殺し、物を壊し続けていた。
 それを、許せなかった者達が居た。
 彼らは女神から自由に動く手足を奪い、その身を傷だらけにし、最後には殺そうとして――けれど、それだけは叶えられることがなかった。
「あ――――――ァ」
 だから。
 だから、女神は怒り狂った。
 ただ一つ、命だけを永らえてしまった彼女は、それゆえに、失った物の大きさに絶望し、その全てを破壊した元凶達への憎しみを、抑えることが出来なかった。
「彼奴、等は……」
 壊したい。
 殺したい。
 願うことは、唯、それだけ。
 この身を苛む激情は、そうすれば収まるのだと、自らに言い聞かせながら。
「アイツら、だけは……!」
 女神は気付かない。
 その苦しみは、永遠に癒えないモノであることを。
 自らが『そう言う存在』である以上、
 その自我は、時と共に失われてしまうものであることを。

 唯、彼女は。
 ヒトが望んだ声に、応えただけの存在だったのに。

「――――――リベリスタァ!」


「初めまして、この度アークのフォーチュナとして皆さんのバックアップをします、津雲と言います」
 ブリーフィングルームに訪れたリベリスタ達を出迎えたのは、褪せた色の印象が強い、壮年の男性だった。
 津雲・日明(BNE000262)。自らをそう名乗ったフォーチュナは、挨拶もそこそこに、早速依頼に関しての説明を開始する。
「今回の依頼内容は、かつて皆さんが交戦したエリューション、その討伐任務となります」
 言うと共に、モニターが展開された。
 映ったものは、美しい衣装をまとった女性の姿……だが。
 その末端は微かな炎によって絶えず燃えており、何よりもその表情は醜い怒りの感情で歪められている。
 なまじその容姿が優れているだけに、その憎しみと、それを体現したかのような炎は、モニター越しに視線を交わすリベリスタの心に、不快な思いを抱かせるには十分だった。
「『虚栄の女神』。おおよそ二年前、真白イヴさんによって感知されたE・エレメントです。
 増殖性革醒現象を意のままに振るう特性を持つことで危険視されていた彼女でしたが、現在に至るまでその影響に会う者が居ないまま、この度再度の捕捉に成功しました」
「そりゃまた、何で」
「幾つか理由は考えられます。大っぴらな行動を起こすことで、負傷した身に追撃が掛かることを恐れた。若しくは単に彼女の『お眼鏡』に掛かる存在が見つからなかった。或いは――」
 一時、言葉を切って、日明は小さく呟く。
「――『堕ちた』彼女の変化で、その能力は失われたのか」
「……進行したんだな。フェーズ」
「ええ。前回皆さんが交戦した際のフェーズは2。あれから二年近くの時が経ったと考えれば、この状態は妥当と言えます。
 ……ここまでの説明を聞いていただければ解ったと思いますが、彼女の能力はその全貌が掴めていません。ひょっとしたら全く未知の能力が、皆さんを襲うことも考えられます」
 自らの力不足を恥じ入るように、日明は小さく顔を俯かせた。
 元より、人との交流には慣れていないのだろう。そのままリベリスタ達に視線を合わせることなく、彼はモニターの側へ顔を向ける。
「ですが、逆に朗報も在ります。現在、フェーズ進行した彼女の能力はその方向性が非常に拙く、更には比較的高い自傷能力まで獲得しています。
 皆さんの戦術、並びに対象が隠している能力にも因りますが、或いは他の同フェーズ個体よりも、この依頼は比較的楽に終えることが可能かも知れません」
 言った後、彼はテーブルに置いてあったファイルを一部ずつ、リベリスタに配布する。
 確認した能力は確かに乱雑さが目立っており、ともすれば日明が言ったとおり、戦闘を容易に終えることも可能かも知れない、が。
「……ええ。決して軽んじて掛からないでください。
 前回の相対から今回の捕捉にかかった時間は二年。もし今回が失敗し、また同じだけの時を費やすとすれば、最悪、彼女が未確認のフェーズ4へと進化する可能性は大いに有り得ます」
 語るフォーチュナの眼は、厳かな光を放っている。
 初依頼。でありながらフェーズ3の案件を任せられた彼の緊張は、前線で闘うリベリスタのそれと同じだけものかも知れなかった。
「僕には、武運を祈ることしか、出来ませんが……どうか、お気をつけて。
 長きに続いた妄念を、貴方達の手で、取り払ってきてください」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:田辺正彦  
■難易度:HARD ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年06月28日(金)23:33
STの田辺です。
以下、シナリオ詳細。

目的:
『虚栄の女神』の討伐

場所:
三高平から離れた某市街地。其処に続く非舗装路です。
悪路というわけではありませんが、ここ最近の梅雨によってその地面は所々が泥と水たまりに成っております。通る者はそう居ないでしょう。
時間帯は夜。街灯などは存在しません。

敵:
『虚栄の女神』
E・エレメント。フェーズは3。かつてアークのリベリスタによって討伐一歩手前まで追いつめられた個体です。
拙作、『虚栄の女神、愚鈍な民衆』にも登場しておりますが、読む必要などは有りません。
フェーズ進行によりその能力、スキルは軒並み底上げされておりますが、対象自身の激情によってその方向性は定められず、あまつさえ自傷能力まで獲得してしまいました(=過去依頼結果に於ける一部ボーナス)
以下、能力詳細。

【非戦スキル】
・仇敵喰い(戦闘中、五感に干渉する悪影響を無効化します)

【P系スキル】
・自傷能力(「判定する事に」中度のダメージを負うスキルです)
・嘲笑(遠全 効果範囲内の対象全てに[虚弱][圧倒][鈍化][ショック][死毒]が与えられます)
・基礎能力向上(全てのステータスが一定値上昇し、尚かつスキルを介さない攻撃を行う場合、更に判定にボーナスを得ます)

【A系スキル】
・羨望の美:劣化(遠貫 [魅了])
・宝飾(神自付 回復 [BS無効])
・咆哮(神遠全 高ダメージ)

・理性喪失(??? ???[???][???])



それでは、参加をお待ちしております。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
デュランダル
鬼蔭 虎鐵(BNE000034)
スターサジタリー
リリ・シュヴァイヤー(BNE000742)
インヤンマスター
焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)
デュランダル
阿野 弐升(BNE001158)
デュランダル
楠神 風斗(BNE001434)
マグメイガス
宵咲 氷璃(BNE002401)
クリミナルスタア
坂本 瀬恋(BNE002749)
ホーリーメイガス
海依音・レヒニッツ・神裂(BNE004230)


 『澱』が、其処に在った。
 曇天の夜。星月の灯りすらも乏しいその場に於いて、それでも尚暗く昏い存在を、リベリスタは知覚する。
「拙者は戦った事ないでござるが……女神というには、醜すぎるでござる」
 頭を振るい、囁くように告げたのは『家族想いの破壊者』 鬼蔭 虎鐵(BNE000034)。
 恐ろしくもあり、おぞましくもあり、故に憐れにも見えるその姿を、虎鐵はせめて、破壊によって救うことを心に決めた。
「破壊者の務めとして」。
 自らをそう嘯く彼を、その彼自身が為し上げた家族が聞けば、なんて、無意味な仮定かも知れないけれど。
「そう、アレからもう2年も経つのね――」
 『運命狂』 宵咲 氷璃(BNE002401)の告げた言葉は怜悧な其れだ。
 中空に視線を送る双眸は、届かない過去を臨むように、微かな感傷を浮かべたままで。
 『虚栄の女神』。
 凡そ二年前。先の氷璃を含めた八名のリベリスタが相対し、死闘の末に取り逃した妄執のエリューション。
 眩み、歪んだその姿は、あの時より尚も尚も醜く、それ故に見る者の瞳を――蠱惑ではなく、奇異として――あの時より強く、引きつける。
「まだ生きてたのかよあのババァ。今更ノコノコ出てきやがって」
 『ザミエルの弾丸』 坂本 瀬恋(BNE002749)もまた、彼のエリューションと矛を交えた一人。
 アークに所属して初の任務。其処で知った敗北。
 幸いにも、彼女はそれを経験に変える強さを持っていた。
 あの時より幾多の死線を越えた今なお、彼女がこうしてヒトとして立ち続けている。それは一つの奇跡であり、自らの内に変革を為した彼女の象徴としても在る。
 それでも――ならば、今眼前に在るエリューションに憎しみは無いかと言えば、否だ。
「……初仕事のやり残しだ。きっちりブチ殺してやるよ」
「――――――ハ」
 『女神』は笑う。
 笑い、嗤って、嘲い尽くして。そうしなくてはいられないと言う風に。
「ハハ、ははははははッ!
 殺す? お前達が、私を? 何故、何故!?」
 理解を捨てた眼。
 認識を廃した涙。
 見地を棄した声。
 奪われたのは自分ばかりだと。
 今こうして、『何も失うことなく』生きているお前達が、何故自分を憎むのかと、そう問わんばかりの疑問の叫声。
「本当に、」
 訥、と言葉を切るのは、『ヴァルプルギスナハト』 海依音・レヒニッツ・神裂(BNE004230)だ。
 『女神』の名を冠したソレに対して向けた廃神論者の視線は、声は、毒を交えた茨のように。
「本当に――神と名の付くものは、度し難く、忌々しい」
 手製の人形に己を崇拝させ、己を女神を酔い痴れて、
 その声が失われれば荒れ狂う、餓鬼にも劣る精神性。
「ああ、安心したよ」
 そうした彼女に反して、何処か清々しいほどの感情を言葉に乗せたのは、『折れぬ剣《デュランダル》』 楠神 風斗(BNE001434)。
 ヒトは倒したくない、殺したくない。そうした甘さを未だ自身の内に内包する彼としては、此度の敵は正しく『在らざる者』に他ならない。
 剣は軽く、心は湖面のように。
 『自らの定義したヒト』以外を軽々と廃すると言う危うさは、少なくともこの場に於いて十全の機能を果たしてくれている。
「……さあ、『お祈り』を始めましょう」
 語り、語る。己が思いを告げ往くリベリスタ達の言葉を留めたのは、『蒼き祈りの魔弾』 リリ・シュヴァイヤー(BNE000742)。
 夜闇を見通す蒼の双玉は、己の警句を以て自身等が立つ場所を結び、異界と為す。
 同様に、短節の呪言を言祝ぎ、自身そのものを光の加護とする『てるてる坊主』 焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001034)が瞳を眇めれば――戦場の殺気は、倍ほどに膨れあがった。
 それは、リベリスタ達の覚悟の表れでもあり、
 同時に、『女神』が自らの本能を、其れに溶かした事も意味していた。
「な――――――」
 息を呑んだのは、誰であろうか。
 理性喪失。
 彼の『女神』が有するとされた、正体不明のスキルが、最初手に用されるなどは、この場の誰も想像していなかった。
 肉体が地面に定着し、その体躯を数倍以上に膨れあがらせる。
 弾け飛んだ衣服の下は、元の彼女が有していた美しさなど微塵もなく、唯『敵を排除する』事に特化した攻撃性と耐久性を表す鱗状の表皮を形成していた。
「……は、は、は」
 口の端を歪め、短音を三つ。
 『群体筆頭』 阿野 弐升(BNE001158)が小さく笑みを形作れば、戦斧のなり損ない、『断頭台の喝采』を片手で振りかざし、狂喜に満ちた合図を撃つ。
「良い殺気だ。実に心地良い。狂いきった残骸、上等。愉しませろ」

 ――リベリスタの群体筆頭アノニマス。テメェの敵は此処だ。


 二対の戦神が顕現した。
 神秘を知らぬ者はそう語るであろう、瀑布の如き闘気を、その時虎鐵と風斗は迸らせた。
「いざ、尋常に勝負でござる!」
「鬼蔭さんとオレ、二本の剣にて神(キサマ)を磔にする、動けるものなら動いてみろ!」
 豪の声は猛く、其れ一つで何人をも縫いつけるかのようにすら思える、が。
『――、――――――?』
 生憎と、其れは原始的な感情を介しうるモノに対しての話だ。
 己の眼下に見据える蟲に対して、故に女神が取る行為は、先ず。

『××××××――――――!』

 セカイすら震わせる、咆哮。
「か……ッ!」
 敵の攻撃能力の全てが神秘方向に傾倒している事を知り、防御対策を取った瀬恋、弐升をして、ただの一撃で吐血する。
 頭蓋が震え、脳がかき混ぜられる感覚。臓腑の全ては最早液体の其れにすら思えて。
「……悪いな。その叫び、此処までだ」
 緋槍を以て為した即席の『座』は、彼の『女神』の動きを極端にまで鈍らせ、同時に謳われる怨嗟もその声量を大きく落とす結果となる。
「貴女が感じている怒りも、絶望も。
 所詮は利己的なものでしかないのでしょう――?」
 機を逃がさんと最初に動いたのは氷璃だった。
 淡々と、滔々と。妄執の具現を前に淀みなく綴る問い掛けは、正しく己の名の如く、冷たい氷のようでいて。
 撃ち込まれた魔曲。四色の光輝は違い無く『女神』の四肢を穿ち、弾け飛ぶ。
 だが、その真意を、後方にて確と戦闘を注視する海依音は理解していた。
「……巫山戯た真似を取る事で」
 回避を『出来なかった』のではなく、『行わなかった』。
 自らの自傷能力を恐れて、と言うよりは、唯怨敵を討つことだけに特化された本能は、そうした所作を行う機能すら失われたと言うことだろう。
 その証左と言うべきか、今なお『女神』の体表を覆う鱗は。回避機能を捨てた対価として、氷璃の魔曲の大半を弾き返している。
 回復に乏しいこのパーティに対してのこの能力構成は、正しく天敵と言うに相応しい。
「よぉ、バァさんよ。いい加減気づけよ。もう誰にも求められてねえって事によ」
 ――だが、それがどうした?
 能力低下を恐れずして、前へ踏み込み、右拳を当てる。
 迫り出した砲身は断罪の具現、瞬間、先の咆哮にも負けぬ轟音が夜を満たす。
『――××××……!!』
「テメェが苦しんでて嫌がる奴も、お前が死んで悲しむ奴ももうこの世界にはいねえ!
 テメェはもう二年前に終わってんだよ!」
 元は挑発として用意された台詞は、けれど違わぬ瀬恋自身の本心でもある。

 桃髪の少女は異界へと去った。
 翠眼の彼女は悪鬼に喰われた。

「……この喪失感を、貴女は決して理解出来ない」
 幾許かの熱を込めたコトバ。告げた氷璃の意志をすら、執念の果ては喰らい付くすのか。
 負うた傷みを癒すべく為された宝飾。異形に似合わぬ虚像の虚飾もまた、リリが連射する呪詛の精弾は丹念に砕いていった。
「七つの大罪の一つ……強欲の罪。
 加えて神を騙るその思い上がり、目に余ります」
 侮蔑すら込めた宣言は、死刑勧告と相違ない。
 双手に担う『祈り』と『裁き』は、彼の者に対する死神足るべく、次々とその巨躯を削ぎ穿っていく。
 傾いだ『女神』に尚足らずと、接敵し続ける弐升が、静かな侭に咆え猛った。
「随分と侮ってくれたな。人間、舐めるなよ」
 火線の集中直中に於いて、未だに傷一つをすら避け得ている眼鏡の向こうに在るのは、爆発的な感情の源泉だ。
 交差した双腕に得物を番える。両手には握らず、曲芸のように腕を起点として廻る大戦斧が、間断なく巌の如き皮の内側から血を吹き出させる。
 きい、と歪んだ悲鳴、一つ。
 万物を阻む甲膚すら、強引な地力で砕き往く。リベリスタ達の凄絶な意志に、始めて壮図の蟲は怯えを孕んだ。
『×、×、×××……!』
 聞こえもしない声、だのに、次の瞬間に為された技が、その意思を明確に伝える。
 独つ、双つと、肥大化した体躯から生えた、艶めかしい女性の裸身。
 希うように手を伸ばし、犯すように謳を吐く。
 狙われたのはフツ。視界に濁が混じり、揺らいだ身体が、担う魔槍を仲間に向けるより早く、次手に動いた海依音が神の愛を朗唱した。
「海依音ちゃんの愛は有料ですので、お忘れなく!」
 きゃらきゃらと笑う少女の姿に、『出資者』の青年は辟易とした表情で肩を落とす。
 が、それをしても後方よりの回復、対状態異常への援護は見事と呼ぶに相応しい効果を上げていた。
 元より魅了能力を持つ攻撃に対しては、複数名が巻き込まれぬよう十全の対策を講じたリベリスタ達である。純粋なダメージ総量で言うのなら、その形勢は互角。ともすれば『女神』の側に不利にも映る。
 ――だが、だ。
「……全く」
 聞こえた声は、後衛から。
 精彩を欠いたそれに、前衛の誰かが視線を向けた先には。
「無様、ね」
 『ただの一度も攻撃を受けていない』氷璃が、運命の炎を燃やした姿が、在った。

 時刻、戦闘開始より二分前後の事である。


 予想を超えていた、と言うのが、彼らの正直な感想である。
「面の皮ばっかり固めやがって……!!」
 告げる瀬恋が出だした爆手は、未だ『女神』の身を完全に破壊することが出来ずにいる。
 自らの尊厳――美貌の有り様を損ねてまで獲得したその能力は、一線級のリベリスタ達をしても攻めあぐねる程度には効果を発揮していた。
 当然、対する『女神』の側もその動きが精彩を欠いている事は一目に見て取れる。
 些少な動作にすら無理を強いる自傷能力がその効果を現す頻度は少ないと言えど、既に双方が交わした鍔迫りは十合と幾らかを超えている。
 その度に、またリベリスタ達が付与した状態異常の回復にすら身を爆ざすまで『進化』し『劣化』した肉体は、最早限界が近しいことを示しているのだ――が。
(果たして、其処まで此方が持ちこたえることは出来るのか……!)
 切迫した表情を浮かべ、其を思うのは唯一負傷の一切を避け得ているリリである。
 パーティには回復手が居ない――正確に言えば、居はしても味方全体をカバーするほどの地力が無い――以上、敵の攻撃によるダメージが此方全体を潰す前に、手数の多さで攻めきるしかないというのがリベリスタ達の考えだった。
 そして、それは全くの正解であった。多少のプラスアルファが在っただけで。
「く、う……!!」
 虎鐵が、咆える。
 圧倒的な破砕の戦気を以てする彼と風斗、敵の射程範囲外にいるリリは別にしろ、他の仲間達は『女神』による呪い……所作に対する阻害と、直接的に生命力を削る能力により、パーティは幾名かが倒れ始めている状況だった。
 特に、その能力が顕著だったのは体力に難がある氷璃である。
 執念とでも言うべきか、既に幾度か地に伏しかけた身を、運命の力にすら頼らず立ち上がる姿は、正しく劇的(ドラマティック)と呼ぶに相応しい其れである。
「全く。神を嫌うワタシが、神の愛でもって誰かを救おうとするなんて……」
 支える海依音の側も、言葉とは裏腹に尋常成らざる能力を行使し続けている。
 運命の消費など当然のこと。其れに次いで喚び降ろす神意はあと二、三で二桁に届こうとしているのだ。
 氷璃の運命使用を後に、自分を含めて体力が落ちかけた仲間を順次癒し続ける彼女の労力は並大抵のそれではない。
「ちゃんと金払うんだから、その分働いてもらうぞ、神裂さん!」
「勿論、一回につきいちまんじーぴーですよ?」
「一戦闘だろう!?」
 其れを知ってか知らずか、後方の彼女に激を飛ばす――或いは気勢を賦活する風斗に、海依音も笑顔で応える。
 微かに、誰かが笑う。
 敵が強大であることなど、難敵であることなど、予見視の彼の説明で知っていたこと。
 多少の苦境で気を削ぐな。笑え、踏み出せ、咆えろ、何よりも猛く。
 自らがリベリスタであることを……その時、誰もが思い出した。
「破滅だろうと再誕だろうと何だってやってやる。上等だ。かかってこい、挑んでこい!」
 イの一番に叫んだ『群体筆頭』が、これ以上ないほどに『女神』へ朱い身を近づけ、零距離の砲撃を穿ち劈く。
 ぎしり、更に深く傾いだ身体を挽き潰すかのように、虎鐵が既にある傷口へ刀身を突き刺した。
 刀身は動かさず、唯、剣気を満身より得物に集めるだけ。
 瞬間、高威力の爆弾が破裂するように、『女神』の内側は膨れあがり、壮絶な肉と血を迸らせた。
「醜い……醜いでござるな。
 仮にも女神でござろう?美しい部分はないのでござる?」
 嗤うように、憐れむように。
 虎鐵の嘲弄に乗ったわけでもないだろうが、対する『女神』の側もいよいよ必死となっていた。
 宝飾、次いで為される異形の咆哮は、弐升を、瀬恋を揺るがし、横たわらせるには十分であった、が。
「……ぶっ倒れたって構やしねえ」
 息も絶え絶えに、彼女もまた、氷璃と同じくする執念を以て耐える。
 身体は既に瀕死の其れだ。次、毒によるダメージが来れば倒れることは必至。
 だが、その程度は恐ろしくもない、と。
「負けっぱなしなんざ、性に合わねえんだよ。
 アタシのホンキでこいつをぶっ潰す! 徹底的にブチ殺してやる!」
 前のめりに伏す彼女が残した置き土産(ギルティドライブ)が、終ぞ地に根付いた女神の根本を打ち砕いた。
『――――――――――――!?』
 瞠目、する。
 他の動きを止めた者達と同様、自らが倒れた。その意味を理解しない……する機能を失した『女神』は、必死に上半身だけでも持ち上げ、再度の攻手に出ようとする。
 だが、もう総ては決まり着いていた。
「……いいんだ、恨み言だって構わねえ」
 先の女神と同じくして、一挙動による二つの術式を生み出し、フツは瞑目と共に、『女神』を想う。
 変質した肉体に於いても、末端を灼く炎は消えない。
 理性が失われた身。本来は自分達に対する感情すら失われる筈の身。
 それが、今なおこうして自分達に相対するのは――エリューションという識外の存在故か、自らを斯く在る存在として変革したのか。

 あの表情、あの炎。
 生きながらにして地獄にいるとしたら、こんな姿なのだろうか。

 他のリベリスタのように、彼女へ『怒る』ことは、フツにはどうしても出来なかった。
 慈しむように、或いは愛おしむように、瞳を開いて悠然と彼女を見下ろす――見下す、ではなく――フツは、只術の成功を確認して、一歩を退いた。
『……!!』
 だが、動きは止まず。
 白条の帯に囚われた身は、まだ終われないと叫ぶように。手を伸ばして藻掻き続ける。
「――何があろうと」
「――Sanctus Dominus Deus Sabaoth(聖なるかな、万軍の神なる主)」
 それが、止む。
 止むときが来るのだ。紅の剣閃と、蒼の魔弾によって。
「ただ目の前の敵を屠ることを忘れるな、楠神風斗!」
「Pleni sunt caeli et terra gloria tua……!(主の栄光は天地に満つ)」
 胴に穿たれる小さな疵、
 其を起点に、差し込まれた剣が、異形の頭蓋までを切り上げた。



 総ては、そうして終わる。
 二年を越えた先に果てる妄執は、只血と泥と炎に塗れ、無惨なままに消えていくのだ。
 消えゆく姿を見守るリベリスタに、浮かぶ表情は何もない。
 これは只の夜話。何時か見逃した景色を見られる時が、今夜だったと言うだけの話。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
田辺です。相談お疲れ様でした。
結果はご覧の通りとなります。ご満足いただければ幸いです。
次回以降も、皆さんの相談、プレイングに期待しております。
本シナリオのご参加、本当に有難う御座いました。