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<三尋木>穏健派三分クッキング。三分間の身体と心の壊し方。『都会』


 狂気染みた遊びが有る。

 それは積もる衝動を抑えるため。
 研ぎ澄まされたナイフを隠すため。
 日々のストレスを発散するため。

 そんな芝居がかった、三尋木のペテン師が運営する血塗れたサーカスが存在する。
 ……といっても本日は別のお仕事の話。

「やっほー、お集まりのサーカス団員の諸君。
 今夜も血や女に飢えているのかな? それとも俺に会いに来てくれたのかな?」
 全身赤色の男は、奇抜な恰好の部下達へと……目が笑ってない笑顔を作って見せた。
 仲間と久しぶりに会った、なんていう和やかな雰囲気なんてとんでもない。むしろ張りつめた空気しか存在しないこの空間に、馴れ合いなんてものは存在はしない。
「団長、そんなクソ話はクソどうでもいいんです。早く本題を。この――クソ『群れないサーカス団』である僕等をクソ集めたからにはクソみたいな理由があるんだろう?」
「話が解る馬鹿共で俺はとっても嬉しいです。その本題ですが。脱出ショーやるんです!! 超楽しみです!!
 ……つっても俺の趣味とお前等の趣味は全く合わないから、手伝ってくれる奴だけ残れば良いんです」
 長い鎖をジャラリと引く。その先に着いた赤い首輪には、目隠しに、ご丁寧に口に猿轡をされた少女が一人捕まっていた。頬には涙の痕が色濃く残っている。
「とある地主の娘です。えーっと……『菱沼伽凛』でしたっけね。
 同僚の仕事が終わるまで面倒を見なければならないんです。ですが、事には不祥事が付き物です。大きく動けば、大きく動く程、ね……」
 含みを持たせた言い方に、団員の一人は大きく舌打ちする。
「なので皆さん、この子の面倒を一緒に見てくれる優しい保護者、募集です☆ 命に関わらなければ、お好きな事シていいですよ?」
 例えば合法じゃない薬を飲ませてみたり、芯の奥深くに疼く欲望を晴らしてみたり、はたまた暇潰しにお喋り相手をしてみたり、口を利くかはどうかは別として。他にもお人形遊びの方法は多々ある事だろう。
「ロリコンは団長の管轄……かと」
「俺一人だと、うっかりこの子を殺しちゃうので……っ!」
「うわぁ。クソ引くわー」
 団長と呼ばれたこの男――『Crimson magician』は数年前に杏里という少女を飼っていた。彼女はフェイトを持っていたからこそ壊しても壊しても立ち上がった。だが、今此処に居る彼女は違う。
「冷ややかな目線は慣れっこです。で、手伝う奴は手あげてー、はい! 決まり! あとは解散! また会う日まで顔も見たくないです、サヨウナラ!」


「皆さんこんにちは、お仕事です。急ぎです、今から行けば、間に合うのです!」
 『未来日記』牧野 杏里(nBNE000211)は少し青ざめた顔で、ゆっくりと口を動かした。
「とある神秘的に優れた山が存在するのですが、それを三尋木のフィクサードが狙っています」
 古い文献にはアザーバイドが封印されているとあった。その大きな存在の力を吸い取り、生命力として変換し続けて、山が潤い、草木が生い茂るシステムが完成している。またそんな神秘で溢れている山だが一般人等に増殖革醒等の影響が無い事も解析済みだ。
 その山で三尋木が何をするのかは読めない部分であるが、彼等の手に渡って良い事は無いとだけは言える。
「三尋木ですので武力交渉では無く、穏健的な圧力で山を買収しようと……既に地主の方が軟禁状態になっており、三尋木の交渉と戦っている最中です。が、其方は違う班が対応します。此方はその地主の娘さんの救出を行います」

 地主『菱沼 与一郎』の娘――『菱沼 伽凜』は山を買収するための交渉材料である。
 彼女は『Crimson magician』クリム・メイディル率いる『群れないサーカス』の団員の下で監禁されており、交渉のために命の保障はされているものの、その他の保障は一切無い。その通りに、伽凛はリベリスタが到着した頃には命に関わらない程度での拷問を行っている最中に遭遇するという。
「娘の危機です……拷問なんて、そんな境遇になったら親は山よりも娘の無事を取ると思うのです。でも、それだけはさせてはいけません……なんとしてでも彼女を救出して下さい」

「場所は八月あたりに取り壊しが決まった工場内部です。中は暗いので暗所対策は忘れずに、ですよ。
 その中にはクリムと、その部下二名と、使役されているエリューションが居ます。伽凛さんは最奥付近で椅子に張り付けられている状態ですので自ら動く事は不可能ですね」
 工場が生きていた頃は内部に機械類が所狭しと並んでいたが、今は全て撤去されて中は正に長方形の地面があるだけになっている。戦闘する分には十分な広さがあるだろう。
「それでは、宜しくお願いします」


 冷たい椅子に座る伽凛。手はベルトで手もたれに固く固定され、その下には何やら恐ろしい歯車がついていた。おそらく何かの拷問椅子。歯車が回転し始めれば時間と共に手が引っ張られていき、最終的には腕が引き千切れるというものなのだ。
 そして彼女の目の前にはカメラが設置されている。それはリアルタイムで何処かへ彼女の様子を送っている様で――あ、と思い出すようにクリムは団員へと釘を刺す。
「カメラを壊したらお仕置きしますからね? ほら、向こうも娘の姿が見えなくなったら、不安になってしまうでしょう?」
 笑いながら言う彼に団員は、ただただ首を縦に振った。
 恐ろしい話をしている男達だ、と。伽凛は不安と恐怖に満ちた表情の中に、「タスケテ」と訴える瞳をクリムへと向けた。だがクリムは伽凛の額へキスをひとつ落とすだけ。
「腕が無くなったら、ご飯食べ辛くなりますねぇ」
 さあ、此処から脱出ショーの始まりだ。判子を一つ押せばすぐに成功する脱出ショー。
「人の心ってどれくらいまで追い詰めれば壊れますかねぇ。ね、沙救・仁。制限時間は三分ですよ、それでは良い返事をお待ちしていますね」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:夕影  
■難易度:HARD ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年07月10日(水)23:02
 夕影です 連動です

●成功条件:18T内で、一般人の救出

この依頼はらるとSTの依頼『<三尋木>穏健派三分クッキング。三分間の身体と心の壊し方。『田舎』』とリンクしており、同時に参加する事は出来ません。また、依頼の結果が相互に影響を与え、どちらかが失敗した場合はどちらも失敗となります。

●一般人:菱沼伽凛
・菱沼与一郎の一人娘
 手足だけが拘束され、椅子に張り付けにされている状態により、動く事は不可能

 18Tが終わった時点で両腕が引きちぎられます。その時点で交渉材料として意味を失くしますので、その後は命の保障はできません
 また、らるとSTの方のフィクサードが商談失敗した場合も交渉材料として意味を失くしますので、命の保障はできません

●三尋木(全員暗視持ち)
・『Crimson Magician』クリム・メイディル
 ヴァンパイア×デュランダル
 RANK3までのスキルを使用
 CT特化であり、残りの火力はアーティファクトで補っています
 左腕が義手型アーティファクト(P:物神攻強化、攻撃時反動30)

・『Chop Clown』アイオライト
 ジーニアス×プロアデプト
 RANK3までのスキル使用
 面接着を活性化
 印を刻んだEゴーレムを操る指輪型アーティファクト『切り裂きピエロ』を所有

・『WAT』ラピス・ラズリ
 RANK3までのスキル使用
 ビーストハーフ×レイザータクト
 戦闘指揮Lv3、ハイリーディングを活性化
 心を通わせたEビーストを操る腕輪型アーティファクト『テイマー×テイマー』を所有

●エリューション
・Eビースト(ライオン、鳩×3、クマ)
 ライオンは体力が多く、攻撃力が高い
 鳩は素早さがあり、回避力が高い
 クマは耐久力があるが鈍い
・Eゴーレム(ナイフ×8)
 全ての攻撃に致命が付与されます、また攻撃は遠距離単体攻撃のみ

●場所:工場
・暗いです
 工場内部の機械は全て撤去されているので、広さには問題ありません
 入り口はひとつであり、伽凛はそこから遠い場所で拷問椅子に座っています
 壁には小窓が等間隔にありますが、小さすぎて子供でも通り抜ける事は不可能です


・自前自付は認めません
 リベリスタが突入した時点で歯車が動く1T目が開始されます

それではよろしくおねがいします
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
クロスイージス
春津見・小梢(BNE000805)
インヤンマスター
焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)
★MVP
クロスイージス
ツァイン・ウォーレス(BNE001520)
クロスイージス
ゲルト・フォン・ハルトマン(BNE001883)
スターサジタリー
雑賀 木蓮(BNE002229)
スターサジタリー
雑賀 龍治(BNE002797)
ダークナイト
熾喜多 葬識(BNE003492)
ソードミラージュ
紅涙・いりす(BNE004136)


 扉が開くと共に、其処からは光が漏れた。闇へと出は8つの影。
 『Type:Fafnir』紅涙・いりす(BNE004136)が入口から壁を走り、天井を辿りながら赤と黒の道化の仮面を顔へ。
「クソみたいにわらわらと、お客さんだぜ!」
 対して黒い燕尾服の男、アイオライトが笑う道化の仮面を顔に。此方も壁に足を置き、飛び、天井へと足を置いた。
「客人8名お持て成し、開始……かと」
「受けは上々です。本日は貸し切り満員御礼ですね」
 サスペンダーに挟んだ短パンの少年、ラピスはクリムに戦況報告しながら鞭を取り出した。それを床へと叩けば、動き出したのは餓えた獣達だ。
「あれが朱里の父親か」
「そうだ、嫌でも忘れられるものか」
 『鋼鉄の砦』ゲルト・フォン・ハルトマン(BNE001883)は『八咫烏』雑賀 龍治(BNE002797)と歩を合わせていた。
 狙うは、全ての敵を含んで攻撃ができる絶好のロケーション。カンテラが進む道を照らす中、龍治は眼帯を抑えて追憶を感じて止まない。
 ――どうすればこの縁を断ち切れるだろう。
 それは『銀狼のオクルス』草臥 木蓮(BNE002229)も同じ事を思う。無意識に目線が辿ったのは、大事に思う彼の背中だ。
『ゲルト、頼んだぞ』
 AFへ、こっそり流した想い。ゲルトは木蓮へ振り向いて約束を誓った。

 歯車は回る。徐々に動いていく手元に、伽凛の第六感がマズイと信号を出していた。一気に奪われてしまえば苦しみも一瞬。しかしだ、拷問とは時に『少しずつ苦痛を増やす』ために余念が無い。味わえるのは、死へ落ちる恐怖と痛みの重複。
 哀れんだか、苦しいか、そんな感情、何処かへ忘れちゃったよ?
 ただ少女を見つめたクリムの背後の先――。
「はいさいこんにちは」
 『殺人鬼』熾喜多 葬識(BNE003492)が、にへらと笑って手を振っていた。まるで友に向ける笑顔の様な。
「面白いサーカスへのご招待ありがとー、美少女ちゃんの緊縛とかえっち☆」
 葬識の目線の先。クリムが此方へ向いて、顔を斜めに傾けた。困った顔で、笑いながら。
「えっちな事も仕事なんです」
 だから見逃せ。とか言って見逃す箱舟では無いが。
「俺様ちゃん、えっちな事は解らないけど、俺様ちゃんの知ってるコならよく解ってるかもしれない」
「そうですか、今度紹介して下さいね」
 1人は鋏を、1人は大鎌を手に。満面の笑みな2人は同時に床を蹴った。

 今日もフィクサードの行動は理解できませんでした。それが普通かもしれない。『まだ本気を出す時じゃない』春津見・小梢(BNE000805)はぼぅっとした虚ろな眼をクリムへと向けていた。
 解らないのは彼等の世界だ。見ている場所が違うなら、理解する事もまた不可能。はぁとため息をつきながら、
「吉なのか凶なのか」
 と呟いてみれば、『てるてる坊主』焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)はその言葉の真意は掴めねど「さぁな」と答えた。
 深緋で肩を叩くフツは20m圏内に自ら入って来たクリムへ札を放つ。だが彼にはジャガーノートが味方をしていた。札は弾かれ、意味を成さない。
『フツ、もう普通に殺そう? 深緋が綺麗に切ってあげるよ!』
「うむ……それができれば苦労しない相手だぜ」
『フツ』
「おう?」
『前!』
 フツ目掛けてナイフが飛ぶ――それをブロードソードで叩き落としたツァイン・ウォーレス(BNE001520)。転がっていくナイフを見ずに、彼は違う場所を見る。
「絶対……助けるさ」
 目の前、その奥。回る歯車に怯えて、椅子をガタガタ揺らして、拘束から身体を抜けようとさせる伽凛の姿だ。杏理だって、こんなもんじゃない拷問に耐えたんだ。だからこそ、少しの辛抱だ、耐えてくれとツァインは内心願っていた。

「助けに来た! もう少しの辛抱だからな! 地主のおっさんも聞こえるか! 今から娘さんを救出する!」

 誓う約束、娘の無事。
 その言葉が、カメラを通して『彼方の菱沼』にどれだけ勇気を与えた事か。
 彼方の班はあえて彼にその言葉を送らない、否、意地の悪い聖杯が健在するため送れなかった。だからこそだ、彼の言葉は判を留めさせる大きな護り盾と成ったのだ!!


 クリムが前に出た時、ツァインと交差した。
「テメェがクリムか、一言いいたかったんだよ。……女を見る眼は確かだなっ。だがそれ以外は論外だ。とっととおっ死ね!」
「……き、嫌われてる……!!」
 元気の良い少年だなぁと思いながらクリムはツァインを見逃した。
 フツの封縛が通らないのは予想外か、それとも予想の範囲内か。葬識は嬉々とクリムと刃を交えた。
「元気だった? この前は助けてくれてありがとー☆」
「いえ、どういたしまして」
 暗黒を放つ鋏が狙うは首――それをクリムは義手で掴んで止める。負けじと葬識は鋏を首へとねじ込んでいく。その執念と馬鹿力はその細い腕の何処から出てくるというのか。
「俺様ちゃん死ぬとこだったよー、まだまだ生きていたいもんね」
「俺も貴方が消えると面白くないんですよね」
「お礼にメイディルちゃん殺してあげる!」
 さっきの少年といい、目の前の殺人鬼といい。
「やっぱり嫌われてます!? どこをどう勘違いすればそうなるんですかねぇ」
 義手の無い腕、大鎌があった。それが葬識目掛けて横一閃。魔術機甲が砕け、脇腹から脇腹へ刃が顔を出している。突如、彼の吐いた血がクリムの肩を染めていった。そして耳元に添えられた唇。フードが邪魔だが声ははっきり聞こえた。
「そうそう、白衣の少年はかなり耐えましたが、貴方はあと何回でしょうかねぇ」

 アルシャンパーニュを撃つには近距離へ行く事が必要だ。飛んできたナイフを右手で払いながらいりすは進んだ。
 目の前――だが、アイオライトまではまだ遠い。そしてナイフに続いて鳩まで飛んで突撃してくる始末だ。選んだ道は暗黒の解放。
「痛ってーなァ、ぁんだよ、ァアんじゃねーか遠距離攻撃スキルをよォ」
 暗黒をまともに受けながらアイオライトは笑った。いりすは不審に思いながらも進む。鳩にナイフ、それが床に落ちた音が聞こえた。
「邪魔だね、邪魔だ、食い散らかす」
「ああ、いいぜェ、でもなァ」
 アイオライトが踏んだ近接の距離。直後、思考の濁流がいりすを飛ばした。そのまま天井から足が離れたいりすは床へと落ちていく。
「足場は大切だぜェ~」
 見下ろしたアイオライトの真下、いりすが見上げた。

 やはりネームドは一筋縄ではいかないか。
 苦戦を強いられる二人の姿を見て、フツは仲間の無事を心配していた。三尋木が逃げてくれるならそれに越した事は無い。だが、先に此方が撤退を強いられるような事に成るのだけは避けたい。
 フツにできる事と言えば、目の前のナイフの動きを札で封じる事。そして何より早く伽凛へと辿り着く事、だたそれだけなのに遠い。それをサポートする小梢。今日の依頼、成功した暁には、カレーをツァインが奢ってくれるのでどこかしらやる気が出ていた。導くは仲間を伽凛の元へ。十字の光をナイフへと差し込むものの、惜しくも精密さが足りない。ならばと集中しながらも、小梢は道を作るべく錯誤する。

 後方、ゲルトへ巨大な獅子が涎を垂らして強靭な顎を唸らせていた。顎を掴んで食わせんと抗うゲルトに、獅子の爪が大きく食い込む。
「犬のお守りは勘弁だな」
 視線を送るのは更に後方に居たフェンリル。龍治は火縄銃の銃口を定めながら言う。
「早く終わらせる」
 それがゲルトへの返答だ。銃声と共に空中を突き抜けつつ炎を渦巻く弾丸。
「こんなの毎日やってるからな!」
 続いた木蓮が、合わせて撃つのはハニーコム。重なった弾丸、まるで弾幕ゲーと思わせるか如く横槍に弾丸の雨は降り注ぐ。そしてそれらは綺麗に仲間を避けたのだ。
 たった3回の連携で鳩は細切れになって地に落ちた。しかしナイフはまだ数本残っている。
 それにイラつかせたフィクサードが一人居た。
「仲間……壊さないで欲しい……かと」
 猛獣使いとして、獣を倒されていい気分はしない。やる気の無さそうに落ち込んでいたラピスの瞳がグワっと開いた瞬間だ。視線に射抜かれた葬識の防御本能が一気に低下していく。
「よォ、クソお怒りかよォ~、俺もクソ手貸すぜェー!」
「あいつ絶対者……クリムさん当ててぶち壊した方が吉かと……」
「あ~? クソめんどくさ、全部一気にドーン」
 ラピスに続いたアイオライトは幾重にも織られた気糸を放った。直線で移動するそれはほぼ全てのリベリスタを射抜く。
 いりすはクマに抑えられ、獅子はゲルトを翻弄する。ナイフがフツとツァイン、そして小梢の行方を阻むのだ。さて、ブロッカーがいないのは木蓮。
 フィクサードも徐々に数が減らされているとは言え、彼等の防戦はまだ突破できそうに無い。例えブロックを抜けて来たとしても、伽凛の傍にはアイオライトとラピスがくっついている。
 はてはて、この脱出ショー。雲行きが怪しくなってきた。


 時計の針は容赦無く進む。固定された腕が音を立てて軋み、伽凛がついに叫び声を上げた。
 その頃には龍治と木蓮の連携によってナイフと鳩は完全に沈黙していたため、伽凛へ向かって走り出すツァイン。少女の叫び声が大きくなるたびに、その心に重い物が乗っかった。吐きそうな思いで耐えろと叫ぶ。約束、契、契約、絶対に護らなければいけないものがツァインにはあるのだ。
 次にフツ達を襲ったのはラピスの怒りだった。
「大人しく……して、欲しいかと!!!」
「ぐ!! 誰が、大人しくするか……!!」
「もうちょっとだ、あと、少し……!!」
 放たれた閃光弾が目に直撃して周囲が見えない。立ち往生を食らうツァイン、フツ、小梢を気糸が貫いた。
 しかしその横、いりすがリッパーズエッジを振り上げてラピスへと切りかかろうとしていた――遠くでクマが血を流して動かないのが見える。
「おまえ……一人で……やったのかと!!」
「喰った、大分まずかったがな」
 振り落される刃を寸前で掴んだラピス。
「お前……許さないかと!!!」
 大事な友人を奪ったいりすにラピスの心は憤っていた。高々と健在するドラゴンの食欲は底なしブラックホール。

 小梢が何かに気づいて顔をあげた。その方向――体力がマズイ、と葬識は後退するために地面を蹴った。だが、胸倉を掴んできたのはクリムの腕だ。
「其方から向かってきたのに、勝手に帰るなんて酷いじゃないですか」
 義手が持つ大鎌の刃先が葬識の脇腹を貫通し、そのままぐるりと投げられて小梢へとぶつかった。一人でクリムを抑え、粘ったのは褒めるべき点だ。小梢はフェイトの加護に包まれる葬識を起こしながら、クリムを見れば。
 彼が狙うは後衛――木蓮。
「いいぜ……来いよ」
 ごくりと飲んだ唾。やたらと口の中が乾く。
 龍治の敵なんだ。もしかしたら次、身体の一部が消えるのは自身かもしれない。それでも良い、だが、やり返しの矛は覚悟しろ――。
「――クリムゥゥウウウ!!!」
 火縄銃の銃口がクリムを捉えた。その弾丸が彼の肩に穴を空けたとて、彼が止まる事は無い。
 彼が調子に乗れば、木蓮の防御は意味を成さないのだ。その通りに、投げられた大鎌が回転して飛んできては木蓮の首がぱっくり開く。そして伸びてきたAFの腕が木蓮の首をそのまま掴んで、彼女の背中を壁へと追い詰めた。
「かっ……く、かふっ!!」
 腕は容赦を知らず。木蓮の首骨が撓る程に絞められていく首。指の間から漏れる大量の血を舐め上げたクリム。
「好きなんですよねぇ、そういうの」
 女を甚振る事。違う。

 死を目前にして光る、反撃の眼だ――!!

 木蓮は酸素が薄くなって震える腕でクリムのAFの繋ぎ目へと火縄銃を刺した。それだけで簡単に取れる腕では無いが。
「そういうのが好きです。貴女が好きです。あ、恋愛じゃないですよ」
 そんな事言われても憎いものは憎い。絶対に、絶対に、絶対に、負けないと諦めない瞳の緑が煌々と輝くのだ。
「木蓮!!!」
 龍治の声が聞こえる。
 その目の前で大鎌、否、そんなもの必要無い。牙が木蓮の首へと食い込んで、彼女から湧き出る液体を吸い上げる――。

 ぐったりと、血塗れで倒れた木蓮を後に、クリムが次に狙ったのはゲルトだ。
「娘が、貴方の話をしていましたよ」
「朱里か……」
 クリムの娘がゲルトと会っていた。近日再び会う事になるのはまた違う時間の話だが。
「お前は娘を――」
 ゲルトが質問をひとつ投げかけようとした、その彼とクリムの間に突っ込んできたのは葬識と小梢だ。
「クリムさんはルメ子さんのことなんでそんなに気に入ってるの?」
 沖縄でも護ってくれた、言う事を聞いてくれた。それって恋愛感情なのだろうか。好きという気持ちにも色々あるのだろう。その本意を知りたいと小梢はクリムを抑えながら問うた。
「それは貴女に話て何になるのです?」
 返って来た答えは内緒、というやつか。
 途切れそうな息を吐く葬識。強引に血を拭いた腕には乾いていない血が広がっている。そして鋏は離れた場所から首を狙う――暗黒。
「おや、また寝ていた方が楽ですよ」
「俺様ちゃんの愛はしつこいよ☆」
 闇が直撃して息が荒れたクリム。ほぼ同時くらいには龍治の弾丸が義手の繋ぎ目を狙う――!!
「おや、左腕が欲しいんですか?」
「みたいだよ☆ 俺様ちゃんは違うものが欲しいけど!」
 攻撃は集中された。だからといって―――取れる腕では無い。もう一度試みる腕の吹き飛ばし。葬識、龍治は得物を構えた。色々思うところがあるのだ、色々思いながら来たのだ!!
「落ち着けよ、龍治」
「解っている……!!」
 傍で見ていたゲルトが龍治の肩を叩いた。
 恋人の血を口から流しているクリムに、龍治の腕は迷わず彼を狙った。その腕、再び吹き飛ばして、いりすにあげる約束を――しかしだ、今はクリムの手番。大鎌を振れば砲台の様なエネルギーが葬識と小梢のどちらかを吹き飛ばそうと。
 その時。

「あ、タンマタンマ、電話きたんですよーぐふっ!!」
「あ、ごめーん☆」
「謝らなくていいだろ」

 片手を上にあげて、クリムは拍子抜けな事を言った。そのまま葬識と龍治の攻撃が、うっかりクリムを射抜く。
 クリムの攻撃手番を阻んだのは一本の電話の合図。意味は三尋木だけが知る。


 伽凛の叫び声が聞こえるのだ。
 ラピスに呼び戻された獅子がツァインを押し倒しては食らおうと牙を剥く。
「うわわわわあああ餌は勘弁しろー!!」
 獅子の顎に剣を差し込みながら、ツァインは抵抗を強いられた。その隣ではフツがラピスを札の結界に閉じ込め、動きを封じた。前へ出たいりすをアイオライトがラピスごと吹き飛ばし――。
「チッ、やめだやめだ」
「まだ戦いは終わってない、お嬢さんを――?」
「ああ」
 アイオライトは、突っ込んでくるいりすから遠退くように身を後退させた。ほぼ同時、ツァインを襲っていた獅子でさえ身を引き、ラピスの元に戻るのだ。
「なんの……つもりだ」
「意味が、無くなったかと」

 後方ではクリムが葬識の鋏を掴んで抑え、龍治に静止を求めていた。
「俺等の仕事の意味が消えました。まあ、此方としては交渉が続く限りの契約でしたので、彼方が早々に決着した以上、って、意味解ります?」
 葬識が不満気な顔をひとつ。そういえば先程からAFでメイガスの少年の声が聞こえる。つまりは、交渉をしていた本拠地の三尋木が交渉決裂したまま撤退せざるを得ない状況になっていたのだ。
「まだ早いのにね」
 小梢はAFで時間を見た。時間にして3分に到達するには、まだ……早すぎる時間というもの。
「まさかそっちが停戦を言うとはな。これ以上は必要ないだろう? あの拷問器具を止めてくれ」
「ああ……いやぁ、あれですね」
 ゲルトの言い分は尤もだ。だが、クリムは若干冷や汗を流しながら目を逸らして言うのだ。一回動き出したら止められない、と。
「向うの仁さんが『止めろよ!!もう交渉は終わった!!』って超うるさいんですけど、あーどこかの組織が止めてくれませんかねーあーあー」
「いや止め方とか覚えておけよ!!」
「時間が無い、やるぞ、ツァイン、いりす」
「ほい」
 即座にフツ、ツァイン、いりすが動いた。
 動き続ける歯車。伽凛は荒い息と涙と恐怖に彩られて、もはや精神崩壊の手前だ。
 フツが魔槍を、ツァインが剣で、歯車を破壊。それと同時にいりすが、少女の腕を掴んで離さない固定具を断ち切った。
 腕はまだ無事。恐怖と痛みから解放された伽凛はそのままいりすの胸へと飛び込んでいった。それを見ていた仕掛け人は鼻で笑いながら、拍手をするのだ。
「素敵な脱出ショーですね。無事大成功というやつですか」
「仕掛けた奴がよく言う……!!」
 銃口を向けたままの龍治。
「種も仕掛けもありますよ、マジックってそんなものです」
 いい加減な事を吐きながらクリムは後退を始めた。それを誰一人追おうとしないのは、お人好しなのか、それとも無暗な戦闘をしない配慮か。厭きれ顔でクリムは三尋木へ撤退するように呼びかけていた。
「クリム、お前は娘の事は好きか?」
 ゲルトの些細な質問だった。突然の問にクリムは心底驚いたが、笑って返す答えに偽りは無い。
「愛してますとも」
 その時だけ、彼の瞳が本気で笑ってくれていた様に感じた。
「それでは皆さん。短い時間でしたが、御付き合いに最大限の感謝を。本日の公演はこれにてお終いです」
 また次のショーをお楽しみに。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
依頼お疲れ様でした
結果は上記の通りになりましたが、如何でしたでしょうか

皆さんの愛が凄い
予想以上に早く終わった…!だ、だれだよ三分って決めたのー(震え声)
早く終わらずとも、16T目に伽凛さんに辿り着く事はできていますので、どちらにしろ此方は成功。あとは『あっち』次第、でした!

MVPはツァインさんへ。連動先の人質の心を護り、人質の心が折れて失敗という分岐を消した行動を大きく評価します
連動、ナイスファイトです!

それではまた何処かでお会いしましょう