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廃病院を駆ける

●命知らずの身失い
 初夏の気配を緑色した自然の中に感じる今日この頃。
 現在進行形で青春を謳歌している者達にとってはポピュラーなイベントの一つ『肝試し』がここ廃墟の病院で行われようとしていた。
 虫の声をBGMに、荒れ果てた廊下を三つの影が進む。
「へへ。た、大した事ねぇっしょ、な? な?」
「お、おおおう。このくれーで、びび、ビビってたまるかよ」
「ちょーこわいわー」
 大学の同期なのだろう、男達は止めどなく口を開き続けては一歩ずつ、恐る恐るといった様子で歩みを続けている。
「あああ、ち、地下。地下行こうぜ、地下」
「まじかよ……たっ君ガチっしょ」
「ちょーこわいわー」
 そんな彼らが更なる刺激を求めて目を付けたのは、如何にもといえば如何にもな地下への階段。噂によればこの病院の霊安室が、地下のボイラー室の隣にあるという。
 そこに、出るというのだ。
「ここで帰るとか、マジ……格好つかねぇって、行くならとことんだろ」
「ひゅー」
「うわー、これガチだわ。ガチな奴だわー」
 廃墟という事もあり足場が悪い中、男達は必要以上のスリルを存分に味わい地下へと降りていく。手元の懐中電灯の光が頼りなく揺らめいていた。
 しかしそこは若さゆえか数がいる事による安心感か、誰一人として恐怖に負けて引き返そうとする者はいなかった。
「「「………」」」
 だが、ここまで何とかやって来た彼らも、ここは流石にヤバいと思った。
 はたして、ボイラー室の隣には彼らの目的としていた霊安室があった。扉に鍵も掛かっておらず、簡単に開けられそうだ。
「ごくり。行くぜ」
 ヤバいと思ったら帰ればいいのに、彼らをここまで先導してきたたっ君なる人物は扉に手を掛け、開け放つ。そして、
「おお?」
 そのまま吸い込まれるように部屋の中へと消えていき。ぱたりと扉が閉まった。
「…………たっ君?」
「逝ったか」
 数秒程度の硬直の後、残された男の片方(たっ君連呼してる方)が慌てて後を追おうと扉に手を掛ける。が、
「なんで開かねぇんだよぉおおお!?」
 大の男の腕力で以てしても、その扉はビクともしなかった。
「ヤバい、ヤバいって、ヤバいっしょこれマジでマジでマジで!!」
 冷静さを欠き必死に扉を開けようとするも、最早事は彼ら一般の人間ではどうする事も出来ない段階に至っていた。
「詰んだ?」
「うるさいっしょ!」
「みみをすませば」
 何処までも冷静な三人目(帽子君)の呼びかけの通りに、慌てていた彼もついにはその音を聞き取る。
「………」
 そして顔を真っ青に染めた。

 あぁぁぁぁぁ……   おぉぉぉぉ……

 ずるずると、何かを引きずる音と、その音と共に少しずつ近づいてくる、呻き声。
「で、で……」
 そして彼らの前に現れる、死したる者のおぞましい姿。
「でたーーーーーーーーーー!!」
 ああ、命知らずの身失い。

●討伐対象、エリューションアンデッド
「ん、と。私が視たのはそこから男の人達がばらばらに逃げていった所までね」
 ここまで淡々と自分の視た風景を説明していたフォーチュナ、真白・イヴは集まったリベリスタ達に視線を向けた。
「出現が確認されたのはエリューションアンデッド、それもこの様子なら数も相当数いると思う」
 どうやら件の廃病院はエリューションの巣窟となってしまっていたらしい。そこに突っ込んで行った若者達には同情を禁じ得ない。
「アークからの依頼は、最低でもそれらエリューションアンデッドの駆逐。生存者の救助に関しては皆の判断に任せる事になると思う」
 ばらばらになってしまった以上、彼らの捜索には手間が掛かり、同時にリベリスタ達に迫る危険も増す。
「幸い病院内を徘徊しているエリューションアンデッドはどれもフェーズ1の兵士級で、動きも鈍いみたい。問題は、霊安室にいるフェーズ2の個体」
 廃墟に隠れ、自らの配下を人知れず増やしてきた存在。それもエリューションアンデッドだとイヴは言う。
「どうやら、建物内の兵士級達を霊安室から操っているみたい。個体戦闘能力よりも支援に長けた性質のようね。きっと扉を閉じたのもそのためだと思う」
 閉ざされた扉は、彼女の説明によれば力で開けられる類の物ではないらしい。敵が籠城の構えを見せれば攻略は難しいだろう。
「多分兵士級達の数を減らせば、影響力が低下してその扉も開けられるようになると思うけど……同時にそれは敵を追い詰める事にもなる」
 イヴの表情には、ほんの僅かだが懸念する気持ちが窺えた。
「あと、戦士級を倒したところで兵士級は野に放たれるだけだという事も忘れないで。一体も取り逃がしちゃダメだよ?」
 あくまでエリューションアンデッドの殲滅を強調してからイヴは言う。
「どう考えて、どう動くかは皆の自由だと思う。だけど私は、皆が全力を尽くしてくれる事だけは期待するね」
 色を異なる双眸は、力強くリベリスタ達を見据えていた。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:みちびきいなり  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年06月18日(火)23:19
こんにちは、こんばんは。みちびきいなりです。
今回の相手はゾンビです。廃墟です。静岡ではない。

●任務達成条件
・エリューションアンデッドの殲滅

●戦場
今回の戦場は潰れて久しい地上二階(屋上付き)、地下一階の廃病院です。
このどこかにOPに登場した三人の大学生達がいます。
見事なまでの廃墟であるというのは留意すべき点でしょう。色々脆いですよ。

●敵について
フェーズ2、戦士級のエリューションアンデッド1体と、20体前後のフェーズ1、兵士級のエリューションアンデッドが相手です。
何れも見た目は様々な格好の動く死体そのものであり、フェーズ2の個体は白衣を着た医者の姿をしているようです。
フェーズ2はそもそもの戦闘能力は高くないですが支援する能力があり、フェーズ1は数はいますが恐ろしいのは火力だけです。
兵士級は大体各階に均等にうろうろしているようです。
以下はそれぞれの攻撃手段です。

フェーズ2
・生前のメス捌き
 手に持ったメスを振って近接単体に攻撃してきます。小程度の物理ダメージに加え毒、流血のバッドステータスを与えます。
・病院の支配者
 廃病院を己のテリトリーとしているが故の能力。廃病院内のエリューションアンデッドの物攻・神攻・命中を高めます。
 また、自己の集中と兵士級の力を借りて自分の潜伏場所である霊安室唯一の扉を開閉不能に出来ます。

フェーズ1
・噛み付き
 掴み掛って肩や腕などに噛み付き、近接単体を攻撃します。中程度の物理ダメージを与えます。
・毒撒き
 口から毒霧を吐いて近接範囲にまき散らします。小程度の神秘ダメージに加え毒のバッドステータスを与えます。

●三人の大学生
イヴの未来視によって以下の事が判明しています。
・巻き込まれるままに霊安室の中(たっ君)
・恐慌状態で上の階へと駆けていった(しょー君)
・冷静に近くの小部屋へと隠れた(帽子君)
全員を救助するにはHARDな覚悟と様々な工夫が必要になるでしょう。
見事、全員救助できれば大成功と言えるでしょう。

●霊安室の扉
 戦士級の能力により、開閉できなくなっています。兵士級が一定数撃破されると解除されます。

色々しようとすると考える事の多いシナリオです。
敵一人一人は大して強くないですが、数で押してきます。充分に注意を。
自らの意志で何を為し、如何にして勝つか。リベリスタの皆様、どうかよろしくお願いします。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
スターサジタリー
不動峰 杏樹(BNE000062)
マグメイガス
ラヴィアン・リファール(BNE002787)
スターサジタリー
雑賀 龍治(BNE002797)
マグメイガス
レオポルト・フォン・ミュンヒハウゼン(BNE004096)
ミステラン
ファウナ・エイフェル(BNE004332)
スターサジタリー
鹿島 剛(BNE004534)
インヤンマスター
赤禰 諭(BNE004571)
プロアデプト
五十嵐 千涼(BNE004573)

●展開
 月明かりの下、荒れ果てた道を『ヴリルの魔導師』レオポルト・フォン・ミュンヒハウゼン(BNE004096)の用意したゲレンデヴァーゲンが進む。
「あ! あれ、あれ!!」
 夜目を利かせていた『スーパーマグメイガス』ラヴィアン・リファール(BNE002787)の指す方を見れば、そこには三台のバイクがあった。
 傍に車を止め林道へと降り立った八人のリベリスタ達は、早速それぞれの役目を果たすべく動き出す。
「全く……」
 『アリアドネの銀弾』不動峰 杏樹(BNE000062)がバイクに残った人の匂いを覚える間、
「鳴き声、聞こえますか?」
「あー、多分これだな。ゴロスケホッホーっての」
他方で『落ち零れ』赤禰 諭(BNE004571)が『遊び人』鹿島 剛(BNE004534)の集音装置による補助を受けながら、己の眷属とする夜目の利く鳥を探す。
「地上班と地下班でそれぞれ四人ずつ、人命救助を最優先で。幻想纏いは常に起動状態を維持する、と」
「ああ。……それにしても、こう言った考えなしの馬鹿はちらほらと湧くな」
 もう何度繰り返したか分からない打ち合わせを重ねていた『風詠み』ファウナ・エイフェル(BNE004332)に、『八咫烏』雑賀 龍治(BNE002797)が零す様に呟いた。
「どうせ碌な情報も備えも警戒もなく勢いだけで進んだのだろう。全く傍迷惑な奴等だな」
「それも蛮勇、という物でしょうか」
 自らの言葉から頭の片隅に浮かぶ影を押し流し、ファウナは気持ちを新たにする。
(……一人でも多く救いたい所ですが)
「若い内の肝試し等、誰もが一度は通る道。……決して命を失うべき咎ではございませぬ」
「子供を救うのは正義の味方の役目だからな!」
 重ねる様に会話に混じるレオポルトは、ともすれば今すぐにでもかっ飛んで行きそうなラヴィアンを隣に。
 しばらくして目当ての鳥を眷属にする事に成功した諭と剛、杏樹が合流した頃、拡声器を手にした『ツンデレ兵器』五十嵐 千涼(BNE004573)が満を持してとばかりに現れた。
 視線の先にあるのは、今はもう使われなくなって久しい廃病院。そこに囚われてしまった者達への呼び掛けを行なおうというのだ。
「いくわよ! 準備はいい? せーのっ」
 息を吸い、声を張り上げようとした瞬間。
「ぎゃあああああーーーーーーーーーーーー!!」
 突如響いた男の叫び、それはイヴの視た未来が訪れた事の証左。
「っ、行くぞ!」
「まるっとお見通しだぜ。ラヴィアン・アイ!(きゅぴーん)」
「下は任せたぞ」
「畏まりましてございます」
「加護、付与します!」
「人命救助と敵の撃破。ま、二兎を追って足掻いてみますか」
「早速役に立って貰うよ、行け!」
 七人は叫びに即応し、すぐさま駆け出した。
「な、も……」
 突然の声にビックリしていた千涼も、少し遅れはしたもののすぐに仲間の後を追う。
「べ、別に悔しくなんかないんだからね!!」
 拡声器を片付けながら、相手には悠長に話を聞いている時間は無いのだと今更の様に思い当たりながら。

●一人目
 諭は五感を共有した梟を飛ばし、上空から素早く探査を開始した。目標は上階へと逃げた一人。
(見下ろすとカンテレがちょっと眩しいけど、これなら)
 ざっと見て回り、どうやら1、2階にはそれぞれ七体の兵士級が居る事を確認する。
(逃げた人は……居た!)
 諭のファミリアが対象を見つけたのと同時に、龍治の声も響く。
「階段で板か何かをブッ飛ばした音があった。恐らく2階だ!」
「こっちでも確認しました。2階です!」
「幸先良いわね、飛ぶよ!」
 二人の言葉に確信を得て、杏樹が跳ぶ。ファウナの付与した加護の力も借りて、迷わず2階の窓の方へ。
「はぁぁ!」
 加速を付けたまま、勢い良くそこを蹴破った。
「ひ、ひぎゃああああ!?」
 突如現れた謎の影に逃げていた者が叫び声を上げる。
「匂い確認、あんたがしょー君(仮称)ね。助けに来たわよ」
「へぇあ?」
 月明かりに照らされた古びた修道女の服装は、彼の目にどう映ったのだろうか。
「死にたくなかったら。生きるための最善を考えろ! いいな?」
 再び掛けられた声にそちらを向けば、窓枠に手を掛け、白銀の尾と耳を顕わにした龍治の姿があった。
 もうこの段階で、彼の脳は許容量を超えて久しい。
「そこのゾンビの仲間にはなりたくないんでしょ、男だったらしっかりしなさい!」
 叱咤を飛ばす千涼は、騒ぎに集まってきた兵士級の一人に一矢を浴びせ、叫ぶ。
「こっちよ! 飛びなさい!!」
 2階の、それも窓の外からの言葉。到底現実とは思えない事の連続の中、その言葉に彼は――従った。

●二人目
「フラッシュバン投擲!」
 閃光が奔る。その輝きをまともに受けた兵士級二体が、ショックを受けてその場でよろめく。
「今の内! そこの階段、壁軽く踏んで蹴って真っ直ぐ!」
 出来た道に、ラヴィアンが最短の道筋を定めてナビゲートする。言葉こそ無茶な様に聞こえるが、翼の加護も加味された順路に異を唱える者は無い。
「全く惚れ惚れ致しますな。五十嵐さん方も含め皆様が居なければ、此度の命を救う試み、かなり難しい物となっていたでしょう」
 しょー君の確保は開きっぱなしの幻想纏い――AF(アクセス・ファンタズム)から即座に伝わっていた。非戦技術よりも実践技術を優先しているレオポルトは、彼らの助けに心からの賛辞を贈る。
 ほぼ無傷の状態で、地下班は目的の階層へと降り立つ事に成功する。要救助者が二人居る難度の高い状況で、これは嬉しい展開である。
「たっ君(仮称)様の囚われている霊安室はボイラー室の隣、帽子君(仮称)様もその近くの小部屋にいらっしゃるはずです」
 休みなく歩みを進める一行に、地階をうろついていた兵士級達が気付き、襲い掛かる。
 そんな中、その内の一体がある扉の前で尚もそこを開けようとしているのを、ファウナは目ざとく見つけた。
「レオポルト様、彼は恐らくあの部屋の中にに」
「む、ではたっ君は」
「霊安室の扉の近くだ!」
「……多少順序が入れ替わりますが、致し方ありますまい!」
 ラヴィアンの回答も受けたレオポルトが、足止めを恐れず前に出る。自らの秘匿の術を展開し、魔弾を扉に張り付く兵士級の横っ面に叩き込んだ。
「……!」
 同じく足止めをされながらも、剛が視界に捉えた霊安室の扉の取っ手部分を狙い撃つ。
 チュイン。と、放たれた弾丸が弾ける音がした。しかしそれ以上の変化は何も起きなかった。
(扉自体の破壊は、やはり難しいか)
 視界の端では、助勢を受けて兵士級の囲いを振り切ったファウナが要救助者の居るだろう部屋の前へと張り付く事に成功している。
 この分ならば彼は助ける事が出来る。であれば、早くこの扉を何とかするべきだ。そう、剛は考えた。
 その時だった。
 思わぬ所で、タイミングで、重く響く打音と何かが崩れる音がした。

●三人目
 霊安室。
 そこに囚われていた大学生グループのリーダー、たっ君こと真雁卓郎は、目の前で起こっている現象に目を剥いていた。
 暗闇の中でも目に留まるぼんやりと光る白衣の男が、神経質そうな所作でああではないこうではないと呟いている。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
 浅く荒い呼吸はいつまで経っても収まらない。鼻で呼吸をする事もままならない。なぜならば、
(なんで、何でここはこんなに、物の腐ったみたいな臭いがするんだよぉ……!)
 彼は気づいていなかった。いや、信じられないでいるのだ。この世界に数多居る、常識を超えた怪異の存在を。
(彰一の叫び声もしたし、何が、何が起こってるんだ。あれは本当に、その……お化けなのかよぉ!?)
 何度扉から出ようとしても、手に力が入らないのか開かない。ひと睨みされて、それ以降彼は扉の傍でへたり込んでいる。
 しばらくして、白衣の男が金切声をあげた。それからはずっとイライラした様子で部屋の中をうろうろとしている。
 また外が騒がしくなってきた辺りで、遂には彼にもハッキリと聞き取れる声がした。
「出て行ケ、出テ行け! ああ、殺しテヤル、殺してやる!!」
 聞き取れた言葉の恐ろしさに、極度の緊張の中にある卓郎は、もうボロボロと涙を流してがくがくと震えるしかなかった。
 その時だった。
 彼から見て右側、ボイラー室とを隔てていた壁が、突如として吹き飛んだのは。
 そして現れる、カンテラを持った10を数えるかどうかといった風の、華奢な体付きの小柄な少女。
「スーパーヒーローのラヴィアン様、登場だ!」
 威勢のいいこの少女が壁を破壊したというのか。答えは是。彼女の放った魔弾が薄壁となっていた部分を吹き飛ばしたのだ。
「く、キゃあアアああ!!」
 突然の闖入者に対して白衣の男が再び金切声をあげる。手にしたメスを振り上げて、部屋の中へと入ってきたラヴィアンに狂乱のままに飛び掛かる。
「よっと!」
 僅かに身を切られるも、ラヴィアンはその攻撃をいなして反撃に転じてみせた。
 ブラックチェインストリームと彼女が銘打った必殺の魔術が、黒鎖を疾らせ白衣を切り裂く。
 その様子を、よろよろと立ちあがりながらも卓郎は見つめていた。
「………」
 ――およそ、彼の知りうる現実的な空間とは言えない物だった。
 そんな彼の視界に入ったのは、ラヴィアンが開いたボイラー室へと続く横穴である。
 それに気づいた瞬間、彼の中の、何か大切な糸が切れてしまった。

●恐慌の代償
「う、うわあああああーーーー!! 助けてくれえー!!」
 いくつかの轟音の後、聞き知らぬ誰かのそんな叫びを聞いて、剛は何が起こったのかを把握した。
(誰かが壁をぶち抜いたのか? ……早すぎる!)
 即座に周辺を確認し、自分達の置かれている状況を確かめ、そんな自らに焦りが生まれた事を自覚した。
(俺とミュンヒハウゼンさんは囲まれてる。エイフェルさんは……あそこから動ける訳がない、か)
 確保した扉の向こう、居るであろう帽子の青年へ呼び掛けを行っていたファウナも、そしてレオポルトも何事かと慌てていた。
「すぐにフォローを……チッ!」
 それでも動き出そうとした剛だったが、その隙を突かれて兵士級に噛み付かれてしまう。
 噛み合わなかったのは、救助の手順だろうか。
 皆が自らの出来る事、役割に注力した結果、他者との認識に齟齬が生まれてしまったのか。
「地上班の皆様方、霊安室に動きがありました! 至急応援をお願いします」
『ああ、分かってる。分かってる。が、だ!』
 レオポルトの必死の呼びかけに、常時開放されているAFの回線から龍治が応えるも、その返事は鈍い。
『どうやら地下に仲間達を集めようとしているらしい。階段があいつらで埋め尽くされてやがる!』
 直後に鳴り響く燃え盛った様な音は、杏樹の放ったインドラの矢か。
「なんと、それでは……!」
 地上班からの援軍には頼れない。
 ボイラー室から何の警戒もせずに、青年は姿を現した。
 恐慌に逸る彼は迷わずに自らが歩いてきた道を行こうとして、悪い足場につんのめる。
「あっ」
 そんな小さな囁きが聞こえた様な気がした。
「待て!」
 後を追って来たのだろうラヴィアンの声がする。
 だが悲しいかな。発狂し暴れていた敵を引き剥がすために彼女が強いられた時間は、余りに多かったのだ。
「く、の!」
 自らも肩を強く噛みつかれながら、剛は銃を撃ち放ち、彼に迫る兵士級の一体をノックバックで押し返す。が……
 自分とレオポルトがそれぞれ二体を請け負って、残りは三体。一体は魔術で蹴散らし、そして今一人撃った。そこが限界だった。
 兵士級は、七体居た。
「あ、うわあ!!」
 覆いかぶさる様に、残った一体が卓郎を押し倒し、直後。
 断末魔の叫びと、肉の砕ける音がした。
「まだ、隠れていて下さい!」
 ファウナが叫び、即座に自らのフィアキィに助力を求める。
 求めに応えた彼女の友たるフィアキィは乱戦を潜り抜け、卓郎の元へ。
(お願い、間に合って!)
 そんな彼女の必死の願い。それも、届かなかった。
 即死、だったのだろう。
 極度の緊張と出血からくるショック死、だったのかも知れない。
 助けようと心に決めていた一人は、作戦のほんの少しの綻びから、救えなかったのだ。
 ファウナがうな垂れるのを確認して、レオポルトが静かに回線に言葉を乗せた。
「救助目標一名、……死亡いたしました」

●廃病院の支配者
「っくしょーー!」
 慟哭と共に、ラヴィアンが尚も死体に鞭打たんとしていた兵士級に最大級の一撃を加える。
 小さな手の平に掴めなかった己のか弱さに苛立ちが募った。
 その背に、あの不快な声が届く。
「出て行け、ここはワタシの場所だ。出て行かないのならバ、殺ス!」
「こ、の!」
 振り向き渾身の一撃を再び打ち込もうとして、思い出される、作戦。
(こいつをやるのは、皆と合流してから、だ!)
 自らを抑え込み、ボイラー室から脱出する。
 その場に守る者が無くなった地下班一行は、全力を以て眼前の敵に攻撃を仕掛けていた。
「我紡ぎしは秘匿の粋、黒き血流に因る葬送曲!!」
「弾けて!」
 レオポルトの秘術に重なり、ファウナが火球の雨を降らせる。
 そうしている所に、地下班の視線の先、階段の所に火線が奔るのを見た。
 地下に殺到しようとしていた兵士級の群れを薙ぎ払った二筋の矢。杏樹と龍治の放ったインドラの矢だ。
「お前達に還る場所は無いのかもしれないけれど、どうかその身にも安息と安寧が得られる事を……Amen」
「こいつをお伽噺の火器なんざとは、言わせないぜ」
 次いで響く砲撃の音が、廃病院のボロボロの壁を揺らす。
『しょー君こと、彰一さんは無事に連れ出しました。敵もここに集まってる奴らで全部みた……っと』
『ごめんあそばせ! なんてねっ!』
 AF越しに聞こえてくる諭と千涼の声。どうやら上階で打ち漏らした敵を仕留めている様だった。
『その、今は気を落としてる場合じゃないんだからね! やる事を全うしなさいよ!』
 千涼の励ましは、全員に少なからず火を点す。
「残り、八体か。さっさと薙ぎ払うぞ」
 所々に決して浅くはない傷を負っている龍治と、似たような体の杏樹が、遂に地階のメンバーと合流を果たす。
 彼らの視線は、自然とラヴィアンに向いていた。
「……できる?」
「言われなくても、やってやる!」
 強く言い放つ彼女に、龍治も杏樹もそれ以上目を向けず、剛達を掴み、苦しめている兵士級達へと攻撃を開始した。
 数を揃えたリベリスタに、元々数任せだった兵士級達はその利を失っていた。
 霊安室へ奇襲を果たした事により、敵が地下へ無理やり数を集めようとしたのも功を奏していた。
「あいつら馬鹿みたいに固まっていただろう。まさに木偶の坊だったよ」
 とは杏樹の弁だ。
 そして戦力差は覆り、数分も経たない間に兵士級達は皆打ち倒されていた。
 リベリスタ達も相応の傷を負ったが、深手はファウナが癒していた。
 霊安室の扉を蹴破る。
 そこにはただ一人残り、この状況で尚ここに引き籠る事を選んだ、白衣のエリューションアンデッドがいた。
「く、来るな! ここはワ、私の場所なんだ! ワタシの!」
 彼の白衣には、院長を示すプレートが付いている。
「覚悟は、いいだろうな?」
「これで作戦終了だ」
 龍治と剛が、それぞれに手にした銃を構える。
 それからいくつかの銃声がして、最後の殲滅対象が世界から消失した。

●救われた者。救われなかった者。
 廃病院を後にして、リベリスタ達はレオポルトの車に保護されている彰一の元へと向かった。
「あ、あ。どうなったんだ?」
 待ちわびていたのか、彰一は皆の姿を確かめるとすぐさま車から飛び出し駆けてくる。
「生存」
「博史!」
 帽子君こと博史との再会を喜ぶ彰一。だが、すぐに足りない何かに気づいて口を開く。
「……たっ君は?」
 降りる沈黙。彰一の笑顔が引きつるのを見て、ラヴィアンは唇を噛んだ。
「たっ君は、ダメだった」
 淡々と、博史が言う。誰でもない彼が言った事で、彰一はそれが事実だと悟った様だった。
「そう、っすか」
 すっかり意気消沈した彰一だが、その顔にリベリスタ達を責めるような色は無い。
「彼らは頑張ってくれた」
「……っしょ」
 続く言葉に、頷きを返す。
「馬鹿やった俺ら、本当なら全員死んでても可笑しくなかったワケっしょ? それがこうして生きてるってのが、おかげっしょ」
「俺達三人は、自己責任」
 冷えた頭が現実を冷静に受け止めさせたのだろう。生き残った二人は口々にリベリスタ達に礼を言う。
「すまなかった」
 それでも剛が謝罪を口にしたのは、彼の歩んできた半生故だろうか。
「差し出がましい様ですが、この世の中には洒落にならぬ物も存在するのです。以後はお気を付け下さいませ」
「ん」
 レオポルトの忠告を、博史は真摯に受け止めている様だった。そして、冷静に浮かんだ疑問を尋ねる。
「たっ君。卓郎はどうなるんですか?」
「神秘の存在は秘匿されないといけない。だから、悪いけど真実そのままに伝える事は出来ない」
 恐らく彼は肝試し中の事故として処理されるだろう。そこまでは諭の口からも言えなかった。
「人助けって、難しいわね」
「そうですね」
 ぽつりと呟いた千涼に、傍にいたファウナが静かに同意する。
 今回の件は彼らにとって、悔しさの残る結果となってしまった。
 だが他方で、為し得た事があるのも事実だった。
 今、傍にいて笑っている二つの命。
 その重さを、彼らは心の奥底で噛みしめていた。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
お疲れ様でした。
あと一人、優先順位の差から手順が狂い場が混乱してしまった事と。そのフォローが見受けられなかったというのが大きな判断材料となりました。
いずれの方法も作戦会議中に提示されていた部分だったのが更に惜しい事に。

ですが、依頼は成功です。
むしろ、敵の殲滅に加えて二名の救助に成功した事は喜ぶべき事だと思います。
助けられた命が大切に育まれていく様にと、望んで止みません。

このようなドラマも楽しんでいただけたのでしたら幸いです。
また機会ございましたら、よろしくお願いします。