● それは、時空を旅する存在だった。 どこから来たのかは知らない。 いつまで歩くのかは見当もつかない。 それでも、前へ。 いつか倒れるまで前へ。 せっかく癒してもらったのだ。まだ、そのときではないが、すごく痛い。 また、手を煩わせることになると思うと心苦しいが、彼らなら何とかしてくれるのではないだろうか。 注意深く降りていく。 時空の狭間から、底辺の階層へ。 ● 「おととし来たアザーバイド。前は識別名『巨人』にしたけど、今回から変更。『患者』」 一昨年、空から落ちてきた全長50メートル長の巨人。ガリバーみたいなものとイヴは言っていた。 腹にできた腫瘍を切り取り、落ちてきたときにできた外傷を治し、次元の彼方に再び旅立ってもらったのだ。 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、モニターに巨大なもやを表示した。 「また具合が悪くなったみたい。即行お帰りいただく」 カメラが引くにつれ、状況が明らかになる。 どこかの山中。 人型のもやが山に寄りかかるようにしている。 「今度は、耳の奥が腫れてるみたい。すごく痛むようで、彼はグロッキー。入ってきたD・ホールまで登ることもできない」 ということは。 「今回も治療してあげることになる」 モニターに、耳の構造の模式図。 「ちょっと思い切った方法をとらざるをえない、みんなには、予想全長50メートル長の巨人の耳掃除をしてもらう」 癒すだけミッション、グルーミングバージョン。 「今回は、頭からロープ伝いに降りていって、耳の中の視界をさえぎるものを除去した上での幹部への回復術式詠唱という手順。何しろ、見えないと術が届かないから、まずは耳掃除から。ちなみに相手は巨人。ごく普通の身じろぎがとんでもないダメージにつながるから気をつけて。くすぐったいって暴れるのに巻き込まれたら、目も当てられないことになるよ」 ボタンぽち。 モニターは、外耳部分をクローズアップ。 「目立つ耳垢を除去して。透視でかけるとかは、無理。耳垢が物理障壁になるから。それに、幹部が不潔だと再発する。ぶっちゃけ、そうしょっちゅうこられても困る」 診療所じゃないんだから。と、イヴ。 確かに、敵意はないとはいえ、これだけ巨大なアザーバイドの出入りが次元に悪影響をオヨ場左内とは考えにくい。出来るだけ速やかに元気になってお引取り願いたい。 「耳かきなんか経験ないだろうから、多分それはもう暴れる。できれば麻痺させられればいいんだけど。クリーンヒットさせるのは難しそう。落下対策とか、味方の回復手段も考えておいて」 なんか、聞いてるだけで大事だ。 「幸い、まだかろうじて意識はあるみたいだから、うまく意思の疎通ができれば、治療に協力してくれると思う。どこが痛いとか、まだ痛いとこがあるとか教えてくれたり、動くの我慢してくれたり」 たぶん、前回のことがあるからそれなりに覚悟はしてきてくれてるだろうと、イヴ。 「治れば、自分の居場所はここではないと、ゲートから勝手に帰るから。後学のために眺めておくのもいいかもしれない」 とにかく、と、イヴは言う。 「こっちの巻き込まれが一番怖い。がんばってきてね」 机の上に出される、カレースプーンやら、シャベルやら、おたまじゃくしやら。 「耳かきの代わり。提供は、三高平商工会議所」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田奈アガサ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年06月17日(月)23:30 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「わ! 巨人、また病気と怪我……しちゃったの……!?」 (向こうでは、病弱なドジっ子さんなのかな……) 『みにくいあひるのこ』翡翠 あひる(BNE002166)は、この巨人の傷を治すため奔走した。 ぶっ飛ばされて、危うく赤いしみになりかけたりもしたが。 「でも、もう一度会えて嬉しいな……! 張り切って、綺麗に耳掃除、そして痛いの治しちゃうよ……っ!」 癒し手にとっては、腕のふるい甲斐のある案件だ。 「祝! 治すだけの簡単なお仕事!」 『ソリッドガール』アンナ・クロストン(BNE001816)は、鼻血を吹かせる系癒し手である。 (十分難しい気もするけど、気分的には切った貼ったよりとても楽です。別チャンネルの草食動物戦士軍団とか今頃どうしてるかしらねえ……) 誰かが死んだり消えたりしない仕事は幸せだ。 「……気持ちいいのに。耳かき」 カリカリと自分の耳をかいているのは、『神速』司馬 鷲祐(BNE000288)だ。 「全長50mなら、170cmで換算して約30倍。綿棒の軸は直径約2mm、30倍で6cm……太目の木の枝位か。長さはある程度以上ならそれでよし」 しゃこーしゃこーと枝を削る「」『夜翔け鳩』犬束・うさぎ(BNE000189)が無表情で怖い。 ちなみに削っているのは、特大綿棒の軸となる部分である。きちんと棘を取っておかないと、二次災害の恐れがあるから真剣だ。 前回は、口から入って食道付近で免疫細胞と戦ったのだ。それに比べれば今日は楽だ。 「現場到着です。降下お願いします!」 ヘリのスライドドアが開けられると突風が吹き込んでくる。 「ロープ下ろします!」 八本のロープが放たれた。 そこから真下をのぞく『やわらかクロスイージス』内薙・智夫(BNE001581)の頬が真っ白になる。 「ちょ、患者さんって大山童さんと同じくらい大きくない!?」 正確に言うと、本日の作戦対象であるアザーバイド識別名『患者』は、先日集落・壇示で討ち果たされた大型海棲神秘存在・識別名「大山童」の2.5倍ある。 「無理無理! 逃げよう脱走お……う? え? 何で縛られてるの。あきらめろって、たすけてミラクル――ゲェッ、ミラクルクイーン!? ちょ、まって。アッ――」 説明しよう! 内地智夫は度し難いびびりである。しかし、作戦に参加する意志はある。 彼は脳内茶番を繰り広げることにより恐怖心をねじ伏せているのである。決して多重人格ではない。本人の心の折り合いの問題である! 本日鞭を使うので、清純派のミラクルナイチンゲールではいけない事態に対応した新キャラ、ミラクルクィーン登場! これで、お姉さま系もOKだ! ちなみに、まだキャラが不安定なので、本日智夫君はえっちなボンテージスーツです。えっちです。ベースがえっちな水着なのだから、えっちに決まっています。 今日の写真がおかしな市場に流出しないことを信じています。 「それでは、みんなに翼をあげますわ。アタシにお礼を申し上げなさいっ」 あえて言う。胸が絶壁なのがいい。いや、ある訳ないが。 ヘリからのダイナミックエントリー。幸いここでファンぶる者はいなかった。 「時空を旅する巨人ねえ。浪漫だな……」 『関帝錆君』関 狄龍(BNE002760)は、ロープを伝い降りながら、うんうんと頷いた。 かなり不安定だが、唾液まみれになって胃袋まで降りていくより数倍ましだ。 「折角頼りにしてくれてンだ。バッチリ治して今後もフォローして、ボトムのカッコつけようぜ!」 『レディースメイド』リコル・ツァーネ(BNE004260)が頷く。 昨今の戦うメイドさんはフリークライミングのたしなみもあるのだ。シーツを干したりするのに役に立つかもしれない。 「ただの耳掃除がお仕事であっても、相手がこれだけ大きな方ですと大事でございますね……」 何しろ、後頭部がオーバーバングだ。 「……まさか命懸けの耳掃除をしないといけないなんてね……」 『虚実之車輪(おっぱいてんし)』シルフィア・イアリティッケ・カレード(BNE001082)は、本日ぴっちぴちでむっちむっちのわがままバディを四年前のナース服に押し込んでパッツンパッツンである。 というか、看護婦さんであった過去もないのにどうしてナース服を持っているんだろう、当時19歳。そして、それをなぜ日本行きのトランクに突っ込んだんだろう、当時22歳ぐらい。 この高所作業必須の現場で『あえてはかない』というその勇気ある行動に僕らは思わず涙する。 しかし、見えちゃったとしても、嫁以外目に入らないコモドドラゴンと性別ハテナが二人と性別ナイチ女王様、それ以外はまじめな女子しかいないこの現場では、ラッキースケベイベントの起こし甲斐がない。 それでも敢えてはかない。そんなシルフィアさんは、かっこいい。 ● さて。日本の東西では、シャベルとスコップの定義が違うらしい。 ここから下の記述では、JIS規格に基づきシャベルは足をかける部分がある大きなもの、スコップは移植ごて的サイズと定義する。 ● 「よっ! 久し振りだな! 俺らが来たからにはもう大丈夫だぜェ」 前回、手術チームの狄龍。 「おひさしぶり……!元気……では、無いよね……今回も、痛いの全部治して……元気になって帰ってもらうからね……!」 前回、包帯チームのあひる。 「それでは、今日はよろしくお願いします」 たとえ言葉が通じなくても挨拶を忘れないうさぎは礼儀正しい。 「それでは、治療を始めましょう!」 掲げられるシャベル! あんまりでかいと耳の孔に入らないので携行用の小型シャベル、俗に言う塹壕シャベルである。 「……治療……?」 うさぎの動きがやや止まる。自分の中の常識と折り合いをつけています。少々お待ちください。 「――まあ良いや!」 自己完結まで二秒。 「集中を最低一回は重ねた上で、掃除担当者が速度順にローテーションし順番に耳垢処理。自分の順番が来るまではひたすら集中ですね」 手順の確認に、全員頷く。 「精神集中してより完璧な掘削を!」 おー! (……うん、やっぱ治療に使う言葉じゃねえですね。まあ良いや) 「両耳が痛む訳ではないとしても、今後の為に両耳とも綺麗にしておいた方が良さそうでございますね。 取りあえず痛む方の耳からお掃除を。シルフィア様、痛むのはどちらか聞いていただいてよろしいでしょうか?」 リコルの手にもシャベルである。なるたけ先が尖ってないものを選びました。耳当たりは大事。 「照らして癒す簡単なお仕事」 アンナさんの発光により、耳の中の影が消える。クリアな視界。 でこからばかり出ている訳ではないのは大事なことなので、常に言及する。 『はぁい。今回の患者さんは貴方ね? 治療をする前に幾つか約束事があるのだけど、いいかしら?』 息でふっとんでいかないポジションに顔側に陣取ったシルフィアは、ハイテレパスで患者に話しかけていた。 『1つ、なるべく頭を動かさないで欲しいの。治療する人達が危なくて治療できなくなっちゃうから。2つ、痒かったりくすぐったかったりするかもしれないけど、耳はかかないで我慢して欲しいの。3つ、もし痒くて我慢できないって時は、右目を閉じて合図して欲しいわ』 インフォームドコンセント、大事。 『この3つを守ってくれるのなら、今すぐ治療をするわ。さしあたって、動きにくくなるように体を鈍らせてもかまわないかしら。ちょっと痛いと思うけれど』 ミラクルクィーンからのお願いです。 『こっちは意思の疎通完了よ。お手数おかけしますが、よろしくお願いしますって! こっちは、向こうの世界の話とか聴いたりして、気を紛らわしておくから、できるだけそっとね!』 AFからシルフィアの声がする。 「たとえアザーバイドであっても……迷える子羊ならば優しく導いてアゲルのがミラクルクイーンの努めですわ」 手にしているのは、からめとる必要上、ブルウィップである。どっかの戦う考古学者が持っていそうなあれである。 ミラクルクィーンによってぶんっと振るわれた鞭が、患者の耳たぶと髪の毛を一緒に纏め上げてしまった。動けない。下手に動くと、首ぐきってなる。 「キャー! クイーン(男)!」 声は熱狂的だが、顔は無表情のうさぎ。 これで、準備は万端。 さあ、お耳掃除ですよ! ● 「喜べ、治しに来てやったぞ。対フィクサード戦もかくやというこの人員の戦力、身を以て味わえ!」 鷲祐はきらっきらの笑顔で手に持っているのはカレースプーンである。 速度順だった。鷲祐の前には誰もいなかった。まさかそんなことをしでかすとは思わなかったのだ。 「新雪を踏み抜くが如く、未知の深淵へ風穴を開けるのみ。……新雪というには、ちょっと、こう、黄色みがかっちゃいるだろうが……ゴホン」 耳垢だからね。 「そう! 己が脚で、未来への戸口を蹴破るが如く!」 最初のワンストローク。 黄色どころか、ぴたぴたと周囲に赤い液体が飛び散った。 ――え。なにこれ。 鷲祐の動きが速すぎて、ストップがかけられない。 アル・シャンパーニュの刺突の衝撃で、デリケートな耳の中の血管が炸裂したのだ。 たとえ、武器は外していたとしても、ソードミラージュの速度はそれだけで武器だ。 しかも集中した分、連撃が発生している。ブリッツクリークで物攻に+85。 カレースプーンであることも考慮して、基本ダメージ501からお願いします。 常識的にどうなのさ。 止めに入ったときには、すでに大惨事。 シルフィアは見た。患者の顔色が真っ青になり、吐き気を催したように口元を押さえて、痛みによるショックでえづき出したのを。 痙攣しながらも閉じられる右目のまぶた。 「――対ショック防御!!」 AFから最大音量のシルフィアの警告。 患者のうねるような筋肉の動きに、リベリスタが肩から振り落とされる。 更に振り回す腕に巻き込まれて落下する。 足元では痛みによるストンピング勃発中。 なだめようにもシルフィアも脊髄反射によるヘッドバンキングに巻き込まれるわけには行かないので、必死に回避専念しないと赤いしみになる。 いきなり大惨事だよ、おいぃ!? 「――これの出番がこんなに早く来るとは思いませんでしたよ!?」 とっさに飛んで空に逃れたうさぎが、巨大綿棒もどきを耳の穴に突っ込む。 とにかくあふれた血が固まってかさぶたになる前に血を吸い取って視界を確保しないと、回復詠唱の効果がだだ下がりだ。 「ほんとはおみやげにするつもりだったんですけどねっ」 ずぼっと引っ込ぬかれた綿棒と入れ替わりで、 「わああ……!! 急いで塞ごう……! 痛いよね、待っててね……!」 振り落とされないように耳にしがみつきながら、あひるは、えぐれた耳壁を癒しにかかる。 アンナは、見える範囲のリベリスタともちろん患者に向けて最大出力で癒しをぶちまけ、目的達成前に、赤いしみになる事態だけは回避されたのだ。 患者は、それなりに覚悟はしてきていたようだった。 『前回は、腹の中で暴れられたから。って言っているわ』 本当に? と、シルフィアはいぶかしむ。 入りました。と、狄龍とうさぎが自己申告。 「不意に動いて申し訳ない。ですって」 脊髄反射は仕方ないね。こちらこそ申し訳ありません。 「すまん。もう、アル・シャンパーニュは使わん」 鷲祐は潔く頭を下げた。謝れる男、かっこいい。 当たり前ですよ。癒し手全員ほっぺ膨らまして怒っちゃいますよ。 今回、フェイト使わないだろうって油断してきた人、結構いるんですからね。 「ソニックエッジにしておく。一気に耳垢を削り取って――」 耳の中で音速の壁が破れたら、鼓膜も破れるでしょうが! 新幹線で耳がおかしくなったことある人、手を上げて! 危険なトカゲは吊るそう。すがすがしい結論。 「落ち着け、お前ら。患者は一人で十分だ!」 「吊るされたくなかったら、司馬さん、枕ください」 うさぎが、腕組みして言い放った。 布団六点セット持ってきてるのは、ねたが上がってるんだ。 「持参した綿は、さっきので使い切ったんですよ」 「――枕、上げる」 だから、吊るさないで。 「それと、これもつける」 三高平のとある酒屋さんで買ってきたアルコール度数が高いお酒です。 「完治した後、これをしみこませた布団で耳の中を掃除すれば――」 気持ちいいもんだ。と、鷲祐は主張した。 リベリスタによる審議中。 提案は採用され、トカゲは磔刑を免れた。 ● という訳で、後の面子はそれはそれは細心の注意を払って耳掃除に従事した。 「これだけ大きな方の耳を傷つけてしまうようではお嬢様の耳をお掃除する事等できません! メイドのプライドにかけて優しく丁寧にお掃除を!」 なんか納得の一言だが、実はリコルが事前にファイナルスマッシュ的な一堀りしようとか思っていたのは秘密だ。 人の振り見て我が振り直せ。トカゲはメイドの犠牲になったのだ。 アンナは、ずっと作業中のリベリスタの後ろに仁王立ちしている。 そして光っている。 耳掘り要員が交代するたびに、耳の穴の中に頭突っ込む。 「……洞窟探検家の気分。」 そして、ずっと回復詠唱を繰り返しているのだ。さすがに患者に鼻血は吹かない。なかなかどうして消耗していたらしい。 見えないところが膿んでいたとも考えられた。変な臭いもしなくなっている。 「うん。これでOK」 治療終了。 患者は、うさぎと鷲祐がこしらえた枕を突き刺した木の棒、もとい、綿棒酒しみしみバージョンを持って空の向こうにあるD・ホールに片足をかけつつ大きく手を振っている。 煙突にもぐりこもうとするサンタクロースにもさも似たり。患者が詰まってると狭そうだが、縮尺を考えれば馬鹿みたいにでかい。 「それではまた……あ、いや、もう来ない方が良いのか」 (なるほど、これが患者の退院を見送る看護師さんの気分かあ……) うさぎは、うれしくもありちょっとさびしくもある。 「耳掃除はちゃんとすること……! また会えたのは嬉しいけど……怪我にも、気をつけてね。もうきちゃ、だめだよ!」 正しいお手入れの仕方を伝授したあひるは、あらん限りの大声を出しつつ腕も千切れろとばかりに手を振っている。 「向こうの世界の人にも、ちゃんと伝えてね……!」 隠して、底辺世界流公衆衛生の概念が広がっていくかもしれない。 「風呂とかにも入れよー。歯ぁ磨けよー」 もし、しなかった場合の疾患が怖い。 (基本的な事を言ってみる。常識のレベルが違うかもしれないしな) 狄龍の隣で、 「今回、意図的に訪問された事を考えますと――完全にボトムの位置を覚えられてしまったようでございますね……」 リコルが、神妙な顔をして言った。 ということは、またなんかしたら来るかもしれないってことかい? 風呂をサボったら、そして歯磨きをサボったら――。 狄龍の片方だけの目が限界まで見開かれた。 「風呂入れよ!? 歯ぁ磨けよぉ!?」 大事なことなので、二度言ってみます。 (勿論、こっちに来られるのが迷惑だってンじゃねェ。むしろお前さんの旅を応援したいのさ。いつ終えるのか、そもそも終わりなンざ無くって、終わらせる物なのか。旅がどんな物かは知らねェけど、何にせよ納得のいく物にしてェだろ?) 遠い大陸から流れてきた狄龍だ。今はアークに落ち着いているが、これからどうなるかは分からない。 だから、できるだけ、元気で。 「ゴッドスピード! また来いよ」 怪我や病気以外の用件で。 「また来る事があれば可愛がってア・ゲ・ル」 この次は、女王様じゃなくてナイチンゲールがいいんじゃないかな、かな。 「お大事になさって下さいましね!」 リコルが叫び、皆で消えていく背に手を振った。 以上、ここまで、シルフィアのテレパスによる同時通訳でお送りしました。 ● さあ、みんな。アザーバイドを送還した後のお約束、大きな声で言えるかな? せーのっ! 「帰っていくのを見送ったら、ブレイクゲートで、ばいばい! ――あら?」 あひるが元気に手をあげて~しても、半数以上が目をそらす。 結界とか大事だよね。人跡未踏の山の中で人目を気にすることないって言われたけど、結界大事と思うんだ!? 使ってなかったけど! 「あとは、笑顔で送り出して今度こそブレイクゲートだ!」 狄龍はブレイクゲートが必要だと覚えていた。二年前、二十数人いた内でブレイクゲートを持ってきたのは片手に満たなくて、それは苦労していたのを覚えていた。しかし。 「――スキルセット間違えた。持ってくんの忘れた」 うわー。うわー。うわー。 ちなみにあの時いたうさぎは完璧に忘れていた。 「く、くわ。だ、だいじょうぶよ、あひるは忘れてないわ。ちゃんとセットしてきたから、あきっぱなしってことはないわ」 震える声でくわくわ言いながら、あひるは決死の覚悟で笑顔を浮かべる。 「それで、後は誰が持っているのかしら?」 アンナとリコルが持っていると頷く。 三人で、すっごくたっかいとこにある、ばかでっかいゲートをブレイク。 一人で出来る範囲には限界があるのだ。 前回は四人で死にそうになったけど、今回は三人だよ。 「が、がんばろう」 ほら、それこそファイナルスマッシュな感じで。 三人の笑顔の吹っ切れっぷりは、後々まで語り継がれた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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