● ――愛を言霊に、夢の終わりを託す。 真冬に訪れた、夜の幻影。 月が満ちる時、狂わせるのは呪い歌。 其れは美しくも残酷な、イノセンス。 ● 「皆さんこんにちは、直ぐにでも向かって欲しい場所がありまして」 『未来日記』牧野 杏理(nBNE000211)は集まったリベリスタ達へそう言った。 遡れば昨年の出来事であった。 死神と契約した黄泉ヶ辻の少年は、死神に何時か殺される運命を辿るはずだった。 しかし運命を捻じ曲げ、壊して――少年は黄泉ヶ辻らしく不幸たる存在になる事を望んだ。 其の名は、『規格外』。 「相手はノーフェイスです。 以前、逆貫さんにも協力して貰って、架枢深鴇というフィクサードと死神というアザーバイドの接触を止めて欲しいという依頼があったのですが、其処で生まれてしまったエリューションが姿を現したのです」 ノーフェイスの姿は、アークエンジェともフライダークとも呼べない異形の姿という。 フライエンジェであったフィクサードが、死神であったアザーバイドを飲み込んだのだ。聖者とも悪魔とも呼べないものだが、悪夢的存在である事は言うまでもない。 「彼は周囲に絶望を撒き散らします。 もっと詳しく言えば、存在しているだけで一般人を死へと追い込む思想兵器……とでもいえば良いでしょうか。 兎に角。 彼が一般人の近くに居れば、その人は自然と『生きる事の絶望』しか考えられなくなります。 放っておけば、集団自殺はもちろん、考えられるあらゆる不幸が起きるのです」 其れを放っておくことはできない。 「彼は埼玉県の公園に出現します。 己が能力を認識しているのでしょう、周囲の一般人を殺しにかかっています。でも多分、呼んでいるんだと思います、アークを。だって―――」 ● 「どうしたの? 捨てられちゃったの?」 「……ううん、お母さんとお父さんが包丁持ってて、真っ赤で、恐くて逃げて来たの……」 顔を上げた少女は泣きじゃくった赤い瞳の中に目の前の存在を映した。 光よりも白い肌と髪。金よりも煌びやかな瞳。 女の様に細い身体を持った『化け物』が、公園のベンチに座る少女の手前で膝を折っていたのだ。 「天使……?」 「うーん……天使……うーん化け物かなぁ……」 少女の問かけに頭を抱えて考え込んだ化け物。 そして化け物の胸に衝撃が一つ。 少女が飛び込んで来て、抱き付かれて、再び大声で泣かれてしまっては困った顔をするしかなかった。 「天使なら、ううんばけものでもいいの、止められるよね、お父さんもお母さんもしなないよね!? しなないっていってよお!! しんじゃうんだあ!! みんなああみんなみんなみんなみんなみんな!」 「……あはは、うーん、ごめんねぇ、俺のせいで」 絶望のカンバセの、なんと面白い事。 良いものを視れた。 満たされ、満足した化け物は腕の中の少女の首を180度回転させて突き放す。 「俺はね、ちょーっと前まで超ダークヒーロー、マジ救世主だったんだけど……って設定超かっこよくない? あれ? やっべ、死んでる」 両手に残った、骨が折れる衝撃がまだ自己主張しているからか、身体の奥がぞくぞくと震えた。 「人って脆いよね、早く早く、ほら、早く来ないと、止めないと。皆皆死んじゃうよ。 安楽死、ショック死、焼死、凍死、溺死、窒息死、縊死、爆死、扼殺、絞殺、圧死、轢死、激突死、墜死、爆死、病死、内因性急死、怪死、渇死、餓死、感電死、憤死、悶死、狂死、笑い死、事故死、変死、腹上死、敗血死、中毒死、中枢神経障害死、衰弱死、脱水死、熱死、老衰死、自死。 お好みの方法で皆死んじゃうよ。愛しているよ、リベリスタ。 この想い貴方ほど壊してしまいたい人はいない、リベリスタってなんだっけなぁ……思い出せないなぁ……。 それより寒いなぁ、女の子でも落ちてないかな。 ……あ! 落ちてる!! 君面白い方向に顔が向いてるね」 化け物が化け物に成る前の記憶の中、個人の名前さえ忘れたが箱舟(リベリスタ)という存在を覚えていた。 きっと仲の良い友人だったのだろう、きっと愛する人がいたのだろう。 切り裂く様な、叫ぶような笑い声が響く。 青かった空が、今は赤く見えていた。 ● ブリーフィングルームから出て、輸送車の中。 『――という事なので、おそらくアークが規格外の目の前にいれば逃走する事は無いと断言します。ですが彼は以前の人であった時の記憶はほぼ無いに等しいのです。いいですか、絶対に規格外を信用してはいけませんよ』 杏理からの通信がやけに心配気だ。 如何やら新たに生まれたノーフェイスは非常に非情で、狡猾な存在であるようだ。 『フェーズ3相応の危険な能力が多いのです。気を付けてください。基本的には元になったフィクサードの高い神秘攻撃力と防御力が厄介かと思います。規格外の翼は速さを助長し、幾重にも仕掛けて来るので注意するべき点でしょう。 特に……ですね。運命を狩る死神を飲み込んだだけありますね、フェイトを回収して自分の体力回復を行う能力もあるようです。 ……大まかな部分は、ジャッジメントレイやマギウス・ペンダクラムのようなスキルを使うみたいですが……。 万華鏡で解析した結果ですと、一定時間で呪いを反射させる防御壁や、物理攻撃を許さない魔法陣を起こす様です。此の防御壁と魔法陣は狙えば壊せるようですが、一定時間で回復してしまいますので……上手くやってみてください』 少し間が空いて。 『それではお帰りをお待ちしております』 通信の奥で、杏理は深々と頭を下げた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕影 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年01月20日(月)22:42 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● コチリ――運命の歯車は正常に動いていた。はずだった。 「深鴇。約束を果たしに来た」 約束の意は埋葬。 『黄泉比良坂』逢坂 黄泉路(BNE003449)は、二又の弓であり剣を規格外へと向けた。 眼前の存在が彼では無い事を、黄泉路は重々解っている。あの時、目の前で融合を果たした彼は別の存在と成り、存在其の物が消えてしまった事も。 「ンー深鴇? 識ってるよ。俺が俺に成る前の俺だよね」 「そうだよ、深鴇ちゃん。だから俺様ちゃんはあえて規格外では無く深鴇ちゃんって呼ぶよ」 『殺人鬼』熾喜多 葬識(BNE003492)も約束をしていた。彼の約束の意は深鴇を……例え其れが規格外であっても殺す事。 「久しぶりだな、私の事を覚えているか?」 「ごめんね、覚えてないよ。君も、其処に居る他の7人も」 想定していた返答が来た事に『クール&マイペース』月姫・彩香(BNE003815)は、嬉しいとも悲しいとも表情を変えなかった。彼の最期が如何であったかは彼女は知らないが、ノーフェイスに成っているのであれば相当の事があったのだろうと大凡検討はつく。 それよりも彼のグラウンドゼロによって亡くなる人の数を減らす事が優先的だ。 歩いて移動するだけで周囲2キロ圏内の人間が自ら死を選ぶ。其れこそ規格外であり、想定外の絶望だ。 「なんで、君達は絶望しないんだろ。此れが運命を得た革醒者?」 「そんな事まで忘れちまったのか」 『一人焼肉マスター』結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)は両手に得物を持ち、規格外へと歩む。 深鴇が結局、救って欲しかったのか救いたかったのかの答えは竜一には出せない。善悪の狭間に居た奇妙なフィクサードであったからこそ、殺しきれなかったのは事実であろう。 だがもう、迷う事は無い。規格外は此の世の悪であり、絶望であり、不幸だ。 「お前はここで終わるんだ。なぁ、死神野郎」 「終る? 俺が?」 爆発的な風が深鴇を中心に放たれ、リベリスタ達の髪が風圧に揺れる。 形成された魔法陣は頭上を覆って天使の輪の如く。薄い透明な膜に守られた白き六枚羽が大きく伸びた。 見た目こそ、大天使か。いやいや堕天使だ。 「そうだよ。俺こそ規格外。君達の絶望を餌に生きてまーす!」 ● 生きてはいれど、残骸か。心ありきのフィクサードなら食べ甲斐もあったというのに。 『Type:Fafnir』紅涙・いりす(BNE004136)は最速だ。風でも通ったかと錯覚させる速さで規格外を通過したいりすは、右足を軸に方向を急転換。回転に力を乗せ、腕から放つ闇に飛行せし規格外と陣と壁を貫く。 「さっき人数に含めちゃったけど君は知らない人だなぁ」 「だから言った。通りすがりだと」 言うなら、初めましてである。 前方には『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)が体勢低く構えていた。 「全く。こんな傍迷惑な生き物を作ったのは何処のどいつだ」 背に在るはずの羽の存在は視えねども、ユーヌはアークエンジェ。彼女も規格外の後方へと廻るが、いりすと違うのは飛んでいる事。 「這いずり回れ」 空中に居られるのは何かと面倒だ。現時点で飛び上がられたら溜まったものでは無い。 振り上げた拳。簡易護符手袋に包まれた腕を振り上げた彼女は其れを規格外の背に落した。一瞬だけ見えた魔力の陣が暴発、地面へと叩きつけられた規格外こそ驚きを隠せない。 『祈花の導鴉』宇賀神・遥紀(BNE003750)は地面に落ち、不気味に蠢く6枚羽の動向を見ていた。 顔を上げ、起き上った規格外の顔は懐かしくも相対した架枢深鴇そのもの。 癒したい。 救えない。 其れが神聖術師故の絶望か。 仮にも同じホーリーメイガスという位置に立っている遥紀ならば、彼の気持ちを些か解ってあげられただろうか。 「嫌いじゃあ、無かったんだけどな……」 確かにノーフェイスは、アンデットは救えない。でも泣いていたから救っていた深鴇。 フィクサードだからこそ救えるもの。 其れは正に道を違えた遥紀賜物であるという。 仲間に翼を与えていた遥紀。しかし刹那、闇を切り裂く圧倒的な光が彼等の視界を奪ったのであった。 ほんの少しの時間であった。遥紀が暗闇に目が慣れれば、眼前にあったのはぐるぐの背。 「なかなか痛いですね」 「すぐ、回復する」 両手を広げ遥紀を守っていたぐるぐ。ジャッジメントレイと互角、否、威力は其れ以上か。ぐるぐの体力が3分の1ごっそり持っていかれ、序に今丁度かけた加護まで弾き飛ばされて――。 冗談では済ませない威力の攻撃を放ってくる規格外。加えて、視界移動しユーヌへと放つディプラヴィティ。間一髪で避けた彼女だが、掠っただけでもユーヌにとっては痛い傷。 最中に結界を張り終えた竜一は駆けた。両手の筋肉を急激に膨張させ、耐え切れないと血管が千切れては彼の軌跡を紅く染める。 「いくぞ、露草ァ!!」 ――主が思うままに。 「付き合うよ、結城ちゃん」 同じく葬識は竜一の隣を並走した。運が良かったか、ブレイクの光が通過した後に自付が可能な事。 竜一は規格外へ接近し、葬識は少し離れた場所で止まった。 「俺様ちゃんたちを呼んだ癖に。もう何処にも行かせないよ」 本心は、置いて行かないでよ。 睨む規格外は何のこと?と言わんばかりに顔を斜めにしていた。 「君はまだ、俺様ちゃんの標的のままだ」 時刻は夜中。夜とは闇が多い。ダークナイトの力が栄える時だ。 漆黒解放。 葬識を中心に影が舞い上がった。影が形成せしは、剣、槍、鋏に刃刃刃。其の黒武器を掴んだ彼は規格外へと、壁へと陣へと向けて投げて投げて投げた。 「無茶苦茶するねぇ」 剣が規格外の右腕に、槍が陣に、鋏が壁を貫き――そして。 「今度こそ、てめえを殺す!!」 「怖いなぁ。命を潰す事が好き? 俺も好き!!」 限界を超えた竜一は、戦鬼のかんばせを魅せる。されど対照的に規格外は余裕の笑みを持っていた。 月光が露草の柄から剣先まで伝う。振り落された刃は確かに規格外の右肩から左腹まで切り裂いたのだ。 刹那、規格外頭上の陣が光り輝く。 「か……はっ」 規格外に着けた傷と全く同じ傷が竜一の胴に刻まれたのであった。 ● 例え彼が別の存在であろうとも。 きっと深層心理にはまだ彼が居るのでは無いだろうか。 儚い期待に、黄泉路は規格外に問いかける。手では暗黒を形成し、放ちつつ。 「あんたは誰だ」 「規格外」 「名は?」 「規格外」 「あんたは何がしたいんだ?」 「規格外!!」 成程、元が深鴇であっただけに言葉遊びは好きなようだ。最初と2回目の質問は他意も違いも無いが、最後の質問だけ心中で思っている事が言葉と違った。 「此の世の命全てを摘むだなんて、それは無理だ規格外。諦めろ」 「フォールダウンさせてからが本番でーすしー」 規格外の指が黄泉路を向いた。 少しばかりの嫌な予感、そして的中。黄泉路へ直撃したディプラヴィティに、無暗の中敵と味方の見分けがつかなくなったのだ。 彩香は苦い顔をする。規格外の攻撃、ブレイクが尽く彼女の付与を弾き飛ばしていくのだ。 攻撃も、防御も補強する事は大切であっただろう。しかしだ、そればかりに固執していては攻勢に手が回らない。ブレイクからの再付与に追われ続けるくらいならば、諦める事も必要だ。 「それでも、皆を支える……っ」 そして。理解したい。深鴇がアザーバイドと融合した仕組みや、深鴇が何処に行ったか。その他諸々含めて、此の存在全てを。 彩香はドクトリンの付与を回しつつ、瞳に規格外を映し続けた。深淵を覗ける力を持ち、其の深淵をものにするが為に。 「諦めないのは撫でまわして誉めてあげたいけれど」 「いらない、必要も無い。むしろ不名誉だ」 「えー」 くるり、再びユーヌの方へ向いた規格外。彼女の大きすぎる命中が非常に目の上のたん瘤であった。 放つ、爆発的な光にいりすとユーヌが飲み込まれていく。早くも、ユーヌの体力は零を突破したのであった。 その時であった。 「難儀よなぁ」 硝子が破損した音が響く。驚いた規格外がいりすの方に焦点を合わせた。 「暇潰しに、と思ったが。なかなか骨があって噛み砕きにくい」 だがそれも此れまでだ、と。 閃光に当てられ、身体の部位が焦げて煙立ついりす。しかし直後にいりすの暗黒がプリズム破壊に成功していたのだ。 「おまええぇぇ」 「油断したのはそっちだ。能力に頼り過ぎると良くないのでな」 いりすの攻撃は続いた。規格外がディプラヴィティをいりすに放つ、直前。駆けたいりすは規格外の目の前まで、吐息が掛かる場所まで接近した。 喰う。フェーズ3? 其れが、何だと言う。 光沢飛散。振り上げた刃は規格外の翼を一枚もぎ取り、そして魅了の呪いに落し込んだのであった。 暴発した、光。規格外が規格外自身に攻撃し、そして頭を抱えて唸った。其の声さえ全て聞き流し、運命を使ってさえ淡々と戦闘に臨むユーヌはある意味最凶とも言えたか。 「ずっとそうしてくれると楽なのだがな」 容赦ない言葉と共に、容赦の無い攻撃が飛ぶ。 「不運だな? いや幸運なのか。何かしら想って貰えて、満足かは知らないが」 星儀。祈るは敵の暗。マギウスの陣で跳ね除けられようとも、祈り、呪い、乞い続けた。 ならば此処でひとつ。 「うう、クルシイ……苦しいよ」 「え……」 ズキン、と遥紀の心が痛んだ。迷う、神聖術師として目の前の存在が助けを乞う事に。 其れがもし深鴇本人であり、まだ助かる見込みを信じるのであれば回復に混ぜる事を遥紀は考えただろう。 「耳を貸さなくて、いいのですよ」 「うう、ん……」 ぐるぐの言葉を聞いてでも。 「僕だよ!? 深鴇だよ、なんで僕、こんなこんな事にぃ!!?」 「本当に……?」 頭の隅では、彼が規格外に成り果てた事実を知っていた。されどあそこまで苦しい表情されたら――遥紀が上位の神に願わんとしていた。 ――が。 「深鴇のツラして、カスな事言ってんじゃねえ!!」 「其れ以上、深鴇の声で喋るな!!」 竜一と黄泉路が攻撃を揃えて規格外を打ち払うのだ。血を拭き、そして何かが崩壊したか――アンフェアが消えた。 「俺様ちゃんとしては、深鴇ちゃんであっても殺すんだけど」 飛ばされた先まで追いかけ、鋏を振り上げた葬識の顔が逆光で見えない。 あ。葬識を見上げる自分。 何故だか懐かしい気がした。そして、鋏は石化の呪いを持って振り落されたのだ。 ● いりすとユーヌが同時に攻撃を仕掛けていく。抑えられるいりすの腕、弾かれたユーヌの攻撃。 確かに彼の将軍級として実力はものを言うのだろう。現に、彼の体力が全く低下していなかったとすれば――。 「残念無念」 再び放たれた高高威力の光。弾き飛ばされた彩香の身体がぽーんと飛んだのだ。刹那、潤うのは規格外自身。 あえて運命に頼りはしなかったのは仲間の為になるか、仇になるかはまだわからない。それでも彩香を死なせまいと、その分のフェイトは彼女が望まなくともの使われてしまう。 意識薄れていく中、彩香は規格外へ手を伸ばした。 「私の事を、好……き、だと言った事は……覚えているか?」 「覚えてるよ。覚えてる、今でも好きだよ。だから俺の事助けてくれてありがとうでーす☆」 「なら……言わせても、らう。私の、名前を、言ってみろ」 「……」 答えられない。成程、彼の事を信じてはいけないというのは本当か。彩香は思う。恐らく規格外は目的の為なら虚言も裏切りも厭わないのだろうと。 流石元黄泉ヶ辻と言いたい所だが、彩香は更に深淵を覗いていた。 深鴇とアザーバイドが溶け合ったきっかけとなったアーティファクトの存在は見えないし、深鴇自身が規格外に成っている以上『別の存在に切り替わった』という結論が正しいだろう。 「君はそんな。こんな事の為に生きてきたっていうのか」 彩香は奥の歯を噛み、そして視界がブラックアウト。 まずは一人落としたと笑った規格外が次に狙ったのはユーヌであった。 「規格外! こっちを視ろ!」 「やーだよー」 遥紀は回復を行わんと詠唱を……されど、こんな時に精神力が回復分無い。苦い顔をしながら、インスタントチャージに切り替えるが間に合うかは知れない。 俺様ちゃんは、天邪鬼である。 葬識は振り上げた刃に此の世の呪いを乗せ、規格外の背に突き刺した。刃が突き出た胸から徐々に石化が始まり、規格外は嘆く。 「なんで、笑ってんの?」 「君が、絶望の顔が好きみたいだから」 だから、信用するなと言われたら信用したくもなる。 「ねえ、深鴇ちゃん。深鴇ちゃんにはもう会えない?」 其の侭、刃を右へと引けば規格外の内臓が引きずり出されていった。 「埋葬の為に態々来たんだ。礼の一つくらい言ったらどうだ?」 続いた黄泉路の刃が規格外の右腕を吹き飛ばした。痛い顔一つせず、飛ばされた腕を眼で追った彼の瞳に黄泉路は映らない。 何度も違う存在だと思い知らされた。そろそろ終わりにしたい。 「あいつは、バカでアホで情けない変態野郎だったが、クズじゃあなかったんだよ!」 最後に飛び込んで来た竜一の刃が左腕を飛ばした。 温存している力も残り少ない。光の飛沫を腕に乗せ、いりすは刃を前に出したが血に滑ったいりすの攻撃は当たらない。 「ぐ、ぐ、ぐぎゃぎぎぎがぐううう!! この、ごのぉぉカクセイシャどもがあああ!!」 血を吐き、呪いを薙ぎ払った規格外は吼えた。 「なーんちゃって」 ――とまあ、信用してはいけないものなのだが。放つ光がユーヌの体力を最後まで持って行った。刹那、無くなった腕が引きずられて行き、胴へ元通りにとくっついたのだ。 状況は切羽詰まっていた。 周囲の一般人に影響を及ぼし、其れを食い止める様に言われているのであれば制限時間がある件だ。 死ぬ一般人の許容範囲な明確な数をフォーチュナは語らなかった。其れは戦闘中に数える暇も無ければ、数える方法があったとしてもそんな事に集中を削ぐ訳にもいかないであろう考え故に。 だからこそ、『速攻で規格外を倒す』という考えは間違いでは無い。 しかし何故だ、リベリスタ全員が感じていた――時間をかけ過ぎている事に。 敵の命を大優先に潰さなければいけない状況下、其れ以外の無駄に手数を使い過ぎているのだ。攻撃の火力が足りないのではない、規格外への攻撃の手数が足りないのだ。 「ほら!」 リベリスタ達の目の前で、規格外は舌を出し眼を見開き笑った。 「今もほら、此処周辺の人皆皆死んでいく」 細く、骨ばった指が見えない遠くを指差した。 「ほら、あそこ見てよ。今女の子が屋上から落ちた。あっちは、ほらほら、男が首を吊ったし家も燃えてる!」 救えない。救えないね。フォーチュナが言う「犠牲者の一定数」を超えるのにあと数十秒も、無い。 そんなの関係無いと葬識の様に攻撃を続ける者も中には居るだろうが、誰もが絶望を感じた其の時。 「認めませんよ」 立ち上がったぐるぐの瞳は輝いた。何故だろう、今ならなんでもできる気がするのだ。 彼女の周囲にやわらかい風が舞う。 規格外。 其れが深鴇が望んだ姿だと言うのか。 今の状況を深鴇が望んだ事だと言うのか。 死神太郎を名乗っていた愉快な彼を愛していたぐるぐとしては。 結構、残念である。 だって、貴方の事。好きじゃあないんだもの。ならば書き換えるしかない、理を、過去を、運命を! 空気が変わった事に脅えの表情を魅せた規格外。風を遮るように両手で壁を作りながら首を横に振った。 「なにを!? 此の俺を、規格外を否定するか!!?」 「規格外には、用は無い!!」 ――運命の歯車が止まる。即座に逆回転を始めた。 全身が発光し、フェイトの加護が抜け落ちていくぐるぐを目に、葬識は苦笑いをした。 運命なんて、奇跡なんて信じなかったのに。此の状況が奇跡の前兆である事を否定する事ができないのだ。 「深鴇ちゃん、帰ってきてよ、最後位は人に戻りなよ」 巻き上がる暴風に身を晒されながらも、葬識は規格外へと言の葉を思うが儘に散らした。 静電気でも発生したかのような、其の音が大音量で響いた。 此れ以外に、もう、方法が無いのなら。其の軽くなったトリガーを引く機会こそ逃すまい。 死神を名乗る彼の笑顔を見るために。禍々しい灯から引きずり出すには、これしかない。 「もう一度――君の。君の姿が視たい」 狂おしい言葉と共に、ぐるぐから放たれた光は規格外を打ち払う。 一つだった身体から二つの影が発生。 「は、えっ!? な、何をしているんだ。灯集め!! 『僕』を引きずり出すなんて」 懐かしい『架枢深鴇』の声にぐるぐの口角が上にあがった。 砂を巻き上げ、風を起こし、一つの影(深鴇)だけを残して、もう一つの影(死神)は潰されたように消えていく。 「歪曲運命黙示録!? そんな……そんな奇跡で僕の因果律に干渉し、改ざんしたっていうのか君は――!!」 深鴇は手を、台風の中心に居るぐるぐへと伸ばした。其処まで好きだと言ってくれた君が、此の侭消えるなんて許せなくて。 「ボクはまだ、君に言いたい事があるから――死神タロちゃん。改めましてグリムハウンドに来ませんか?」 「……うん、約束するよ。もう黄泉ヶ辻には帰れないからね」 何度も風に遮られた手と手が、結ばれる。もう二度と逃すまいと誓って。 死と生の踊る優雅な夜。 昼よりも眩しい光が周囲全てを飲み込んだ。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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