● 虹色半透明のなめらかな胴体。 美しい鏡面の巻貝様殻。 ぬめぬめ、ぬめぬめとカタツムリが動き回ると、ぬるぬるとした跡が残る。 跡は、明確に文字の形をしている。 『……それが世界の選択か』 ● ごはあっ! と、悲鳴を上げたリベリスタがいたが、『擬音電波ローデント』小館・シモン・四門(nBNE000248)は、仲間の屍を踏んで前に進む戦士の面持ちで話を先に進めた。 「イヴちゃんから移管されました。今年から俺が担当です。よろしくね――って言うか、これ毎年出るの?」 それはこっちが聞きたいぞ、フォーチュナ。 そんなリベリスタの熱視線を華麗にスルーしつつ、四門は資料を配った。 モニターの中には、こっぱずかしい妄想文章をぬめぬめコンクリートの壁に虹色プリントしていくカタツムリが延々と映し出されている。 「三高平市防疫強化施策。略して【三防強】の一環。今年で三回目。夏だし、いらいらするものはお盆が来る前に片付けて、気持ちよくご先祖を迎えたいと思うのが人の常。と、イヴちゃんが言ってました。俺もそう思います」 言いたいことは分かりますが、頭まっかっかの四門の口から出ると違和感がすごくあります。 「ちなみにこのカタツムリ、紙を食べてその内容を殻に蓄積。分泌液をインク、体をプリンタヘッドと化し、インクジェットプリンタの要領で、大きな壁面の上を這いずり回って、分泌物を排出、ぶっちゃけ印刷しまくりたい欲望に駆られている――って、なんなの、このピンポイントな進化」 こっちが聞きたいよ。責任者出て来い。 「目的は、排除とカタツムリが汚した壁掃除」 え~。と、リベリスタからブーイングの嵐。 壁掃除とかは、別動班の人がいつもやってくれるじゃ~ん。 「三高平は、近隣の市町村の中でもごみに分別率が高いと評判なんだってね。俺も引っ越してきたとき、気をつけろってすごく言われた」 すっかり血の気がうせた四門は無表情。 「このカタツムリ、一昨年も、昨年も大量発生した。複数のビルにプリントされた一見壁のしみ、一定方向から見るとモザイクになってる通信簿と忘れたい写真がテレビ放映」 うわ~。 「映画館の看板の横に厨二妄想映画ポスターもどき自画像。男の娘のエロゲテキスト的お仕事日記。大魔王のお嫁さんになりたい作文。徳が高い方の厨二ノートが中等部校舎に。ヤンデレブラコン妹の日常ツイート。腹ペコヴァンサンカンロリータのへぼへぼ日記」 あはははは。 「他にもいろいろあったそうで。聞きたい?」 ちなみに個人情報なので、実際の映像はお見せ出来ません。と、メモを読み上げる四門。 「女装男子は、すでに名誉女子の称号持ち。徳の高い人は歌詞引っさげてバンドデビュー。他もあれが外に流出してたらと、胸をなでおろし、後々そのときのことを夢に見るとカウンセリングルームに報告が……。放置は、リベリスタの人生に関わるからしっかりやらせろとイヴちゃんが」 お前はイヴちゃんの回し者か。――そうか。ならいいんだ。 「前回、カタツムリが最初に確認されたのは、燃えないごみの集積所――?」 ぎく。 「だから、この件を知ってる三高平のリベリスタは、ごみの分別をきっちりする。流出してはまずい紙類がカタツムリの餌食にならないように。しらなんだ」 だらだらと背中を滴り落ちる汗。 「あ、でも、人間、時として適当にしちゃうときとか、不慮の事故とかで、ごみの分別を適当になっちゃったりすることもあるよね。あるよ、だから、そんなに気にしなくていいんじゃないかなっ!?」 ぎくぎく。 「今、カタツムリがそれなりにあちこちの壁面にいろいろ印刷してるんだけど、誰が書いたのか特定出来る程度に個人情報が流出しているのがあって――」 四門の声に、ご愁傷様ですの気配が漂う。 もう心当たりがありすぎて、心臓の鼓動が激しくなってきました。気持ち悪いので、医務室行ってきていいですか? 「なんていうか、この班の選抜基準は、ある意味温情……?」 空調が効いているブリーフィングルームで、背中に冷や汗がどばー。 「壁の清掃、別動班の人に頼む?」 「いえ、自分らが責任をもってやらせて戴きますっ!」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田奈アガサ | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 4人 |
■シナリオ終了日時 2013年06月12日(水)23:38 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 4人■ | |||||
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● 「もの凄い快晴っていうか……なんで毎回、こんなに暑いんだろうね」 『やわらかクロスイージス』内薙・智夫(BNE001581)は、空を仰ぐ。 「ごみの分別って何ー? どこの未開地域の風習だよーグンマ―? ボクのシマじゃノーカンだからそれー」 『ハルバードマスター』小崎・岬(BNE002119)ちゃん。三高平にはあります。その風習。 「黒歴史…それは痛々しい過去の記憶――」 『狂気的な妹』結城・ハマリエル・虎美(BNE002216)の目にハイライトがない。 「ただの敗残の記憶ならまだ良い。だけどこいつらの引き出すものは違うっ! 精神を根底から揺るがす破壊力を持つ何かだ」 漏洩したら、ゴム弾で無限狙撃だと目が言っている。 『銀の月』アーデルハイト・フォン・シュピーゲル(BNE000497)の愛称は、ハイジ。 本日の奥方様のいでたちはジャパニメーションのコスプレではなく、ディアンドルという民族的作業着である。 「雄弁は銀、沈黙は金でございます」 機密漏洩はそれ相応の報いを覚悟せよと目が言っている。 「飛行&マスターファイヴで捜索&掃除は楽になるはずだ」 『癒し系ナイトクリーク』アーサー・レオンハート(BNE004077)は渋く決めてくれた。 (街の美化清掃のお仕事! アイドルとして好感度をアップさせるチャンスではないか。後、知人友人の秘密を知ってニヤニヤ出来るし?) 『ミサイルガール』白石 明奈(BNE000717)は、発想がやんちゃ坊主だ。でもそこがいい。 「な、楠神!」 太陽光線直射にも似た笑顔を向けられた 『折れぬ剣《デュランダル》』楠神 風斗(BNE001434)の表情は永久凍土より硬い。 (人には誰しも、他者に知られたくない事柄の一つや二つある。そして、それを隠そうとするのも人の性。それを、一体誰が責められるだろうか) 命を懸けるばかりか、時として社会的フェイトも犠牲にしなくてはいけない。リベリスタとは、因果な生業である。 「まあ、つまり。表に出る前に消してしまえということだ!」 さあ、人が起きてこない内に清掃作業を始めよう。 ● 三高平学園の壁は今年も転写されまくっている。 「ミミミルノもしょーらいはミーノおねーちゃんみたいなりっぱなサポーターになるのですっ。 せくしーさでもまけないよーにまいにちカービーダンスをおどってぼん! きゅ! ぼん! をめざすのですっ」 小等部の壁に拳を握り締めたミミミルノの雄姿がプリントされている。 『さぽーたーみならい』テテロ ミミミルノ(BNE004222)のウエストがくびれるまで、後七、八年お待ちください。 というか、姉たちはぼんきゅっぼんだったろうか。遺伝的にどうなんだろう。言及しないほうが親切かもしれない。 「一人でやるより二人の方が捗るよなあ。楠神ィ! 掃除しようぜ!」 「俺は他のみんなのを手伝う気はもちろんある。速やかに消すべきだ」 肩には梯子。手にはモップに洗剤にバケツ。ジャガノ付与までする気だぜ。加護くれる破壊神様に謝れ。 「だが、俺のは、どれほど時間かかっても俺一人でやる!」 よらば、斬る。というか、舌噛みそうだ。 (内容についてはお口にチャック。ただ、映像とかで残ったのを勝手に他の人が見るのはしょうがないよね?) 楠神を横目で見て顔色を確かめつつケータイで撮影をもくろむ明奈。いけない。 「とりかえばや、えっちっち――」 以下、全裸タコだのラッキースケベだのナイスホモだの、通称で有名な類の報告書が延々と大学キャンパスの壁に写真付きで転写されている。こんな報告書に限って写真が多い。 カタツムリは、剣風ならぬモップウで瞬殺された。 フォントに凝るカタツムリによって、言語の体をなしていない「」の中が、行書体でプリントアウトされていた。どういう箇所かって――聞くなよ。風斗君が舌かんじまったらどうすんだよ。 がんばれ、風斗、負けるな、風斗。これからは衝動で配布された報告書を破って捨てたりしちゃだめだぞ。 行書体に加担してたりもする白石さんは別なものをじっと見ていた。 「ぼくのかんがえたさいきょうのわざ」 呪文と身振り手振りが下手くそなイラスト付きで書かれているのは、よくあるほほえましい厨二病の産物であるが、日付が今年の五月だ。 「楠神ぃ」 「なんだ、白石っ! こっちくんなよっ!?」 「――いつから、体に混沌竜なんか封印してんだ?」 見えにくい壁の隙間を指差して見せる明奈。 楠神の顔色が、右の白目と同じくらい緑色になった。 「――そんじゃあ聞くが、白石よ。こっちの百烈サンシャインパンチの元ネタってあのゲームだよな?」 手負いの獣に牙を剥かれる。 『明奈ちゃんヒーローノート!』と書かれた表紙からずらずらプリントされてる壁の制圧権は、この楠神風斗がいただいたぁ! 状態である。 互いの厨二技ネタを抱えてにらみ合う二人。 「『究極皇帝竜擊斬(アルティメットカイザードラグーン)』 って、楠神はハイジーニアスだろうが」 「おまえこそ、ジーニアスだろが」 (ある意味実現可能な現在だけど、ジーニアスだしクロスイージスで派手な技ないし、今更恥ずかしいので捨てた一品。シュレッダーにかけたのに復元されるとは!) クロイーだって、リーガルブレードは光るんだよ!? 「そこどけよ。消すから」 「そっちこそ」 攻めのデュランダル、守りのクロスイージス。 厨二的黒歴史をめぐり、にらみ合いはしばし続いた。 ● それは初恋の彼女から、参加のお礼として送られてきたフリーペーパーの一部だった。 『スカートの中を取ろうとするなんて不埒です!』 『どんなに足が速くても、わたしの超絶技巧からは逃げられません!』 『シューティングスターの輝きを見よ! 魔法少女マギテック、ハイパーマギテックビーム!』 と、二ページかけて、写真のコラージュ、見開きこま割フルカラーが高所に印刷されております。 新連載の告知みたい。雑誌名書いてないけど。 マナーが最悪のフィクサードに、ハイパーマギテックビームという名の神気閃光撃っちゃった一部始終だ。 もちろん即ばれして、反省文を三枚書かされている。 (ま、まあいいんだよ。こっちは) 内心智夫はほっとしている。もう一枚――というかその裏の写真の方がやばい。 そっちはないみたいでほっとしていた矢先。 「あ。剣林の『辻蹴り』」 智夫の死角になったビルの壁面に、二人のマギテックコスプレイヤーが指を絡めてほっぺっぺでかわいらしく写っている。うん、百合百合しい。 『それが世界の選択ですっ!』 のきめ台詞ロゴ入り。 智夫の不幸は、剣林フィクサード『辻蹴り』安藤ジュンと直接やりあった『戦姫』戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)と『さくらふぶき』桜田 京子(BNE003066)がいたことだった。 (多分、この写真は色んな意味でアウト……っ) 「そ、そのときは剣林の人って知らなかったんだよ。お化粧してたし、髪の毛もウィッグだったし――っ!」 ダンデライオン戦後、おうちに帰ってきてから気が付いて、慌てて処分しました。 「見ちゃらめぇっ! ジェムが濁って魔女化しちゃううう!!」 男は魔女化しないから安心していいよ、智夫君。 みちゃらめぇといえば、『箱庭のクローバー』月杜・とら(BNE002285)のパンツ全開すけすけネグリジェ写真もビルに転写されていた。 「何でこんな薄着でちらちら歩き回るかなぁ、まぢで!」 乾いた笑いしか出てこない。 今は眠る少女人格は、その辺ユルユルだった。 成人男子人格としては、まさしく消したい過去。対外的には、あれやったのは俺じゃねえと叫べない。 (霊長類ヒト科として、ぱんつは穿くもの、そして見せないもの。ていうか何で俺がこんな事……普通逆じゃね?) このストレスは、スリルで発散するしかない。 上からデッキブラシ構えて垂直にすべり落ちながら洗浄。 「ヒャッハ――☆」 空中停止に失敗して、地面に激突。 「あ゛っ――!!」 そのまま、担架で退場。ついでにカウンセリングも受けるといいんじゃないかな。 更に、らめぇと叫ぶ声。 「もう、京子さんたら、こんなはにゃ~んな子猫ちゃんライフをラブいポエムを書き綴るなんてっ! ピンクは淫乱。いやぁん、らめぇ!!」 智夫と舞姫のうちの近くには、カタツムリの群生地でもあるのではなかろうか。 今年もかっ飛ばしたMAI†HIMEポエムを消すと、勝手にKyo†Koのポエムをペイントし始めた。 (そう……、歴史とは自らの手で切り拓き、新たな過去を作り上げること!) 人、それを捏造という。 その頃、庭球だの極道だの篭球だのから派生した腐った手紙を自らの手で葬り去った京子は、うっきうきと捏造にいそしむ舞姫を見てふっと笑った。 (それはいいんです。闇の中では黒は見えない) 「もー! 戦場ヶ原先輩ったら、私の黒歴史を勝手に作らないでくださいーっ!」 「舞姫さん、だめだよ。ポエム自作しちゃ」 智夫も伊達に三年ポエム消してない。あっという間に、文体でばれた。 ● 「はいけいふひとにいさんひごろからいつもきにかけてくれてありがとう」 岬は、見覚えのあるそれに三秒ほど首をひねっていたが。 「――ってボクのじゃん!」 忘却のかなたのことだよチョコとか手作りしちゃったよすぐに爆発四散したから結局渡さなかったんだっけーっておにいちゃんに手作りチョコとか超かわいいな当時小学三年生ってそれで爆発するチョコとかすごくね? 「馬鹿兄ィの名前が史とかすっかり忘れてたよー」 ふははははと、不穏な笑い声をもらす岬。 (4年くらいまえのバレンタインカードだなー) 「つーか、むしろ誰だよ! 馬鹿兄ィに好意的めいた手紙とかー。実兄に好意とか2次元までの話だろー常考ー!」 でろでろと湧き上がる暗黒。 岬が馬鹿兄ィを口で言うほど嫌いじゃないのは、誰も知らなくていいことなのだ。 「洗浄とか時間かかりすぎだろー!」 よって、四年前のバレンタインは、たまたま世間の流れの真似をしてみただけであって、チョコ爆散させて泣いちゃって、色々飛び散った台所のお片づけしてくれたのは馬鹿兄ィだったとかいう記憶も忘却の彼方でいいのだ。 「蝸牛と一緒に壁の塗料も暗黒でやみのまー。暴食しろーアンタレス!」 岬とラブラブなのは、アンタレスなのだ。それでいいのだ。 「そんなことないよ」 岬と対極にいる妹、虎美。今日も脳内おにいちゃんと一緒だよ! 「妹がお兄ちゃんを愛する気持ちは止められないノンストップスーパーナチュラルなことだよ!」 君の場合は、好意じゃなくていろいろ重い愛だから。 「だから、ちゃんと処理するよ、お兄ちゃん!」 公園野外ステージにプリンティングされた、超かっこいいポーズを決める半裸のお兄ちゃんが鈴なり。 虎美の兄の名誉のために言っておけば、実際にこんなポーズを取った訳ではなく、あくまで虎美の念写による捏造で……え? 隠し撮りもある? 聞かなかったことにして下さい。 その下に、びっしりと書かれている「お兄ちゃん大好きですの」「お兄ちゃんと私は結ばれる運命ですの」「私お兄ちゃんのお嫁さんになる、ですの」「ですのですのですの――」 乙女かギャルか購買層が分からないPCゲームのポスターみたいになってる。 「うわだめだこれさっさと処理しないと精神が削れてハイライト消えちゃう!!」 頭抱えて、虎美が叫んだ。 (うっかりHDDの片隅から発掘した日記なんてプリントアウトしなければ良かった。何で印刷したのかって? 過去を振り返りたくなる時もあるんだよ) もう二度とやらないという決意表明的意味で! 「錯乱状態の私を支えてお兄ちゃん!消えろ過去の私! お兄ちゃんには今の私がいればそれでいいのそうだよねお兄ちゃんお兄ちゃん大好き愛してるですの!」 虎美さん、お掃除は銃ではなく、モップを使ってください。 ● アーデルハイト様の脳裏に、使用人ハンナの笑みが浮かんでくる。 『親愛なるハイジ様へ。これは遥か極東の地でお寂しく過ごされないようにという、老婆心でございますぅ』 SDカードに入っていた、家族や使用人、故郷の近況のビデオレターは文句の付け所がない見事な編集だった。 しかし、別れの夜の夫婦の寝室の写真はいかがなものか!? 布団がなければ即死だった! というか、いつどうやって撮った!? 「お先に」 カタツムリ発見の一報に、簡易飛行で全速力。 (貴族たるもの、目立つことを恐れていてはならない。けれど――!あのような姿を、よりにもよってセンタービルに晒されたとあっては恥以外の何ものでもない!) 奥方様のデコルテより下の観覧権は、旦那様だけのものです。 (転写されていたのは布団のみ。まだ寝姿までは転写されていない――!) ちなみにお布団にプリントされていた家紋が個人特定の決め手になりました。 高速詠唱から滴る血を鎖に変えて、カタツムリを完膚なきまでに殲滅。 見られてはまずい上の方から、洗剤をたっぷり泡立てて壁をこする奥方様のお手並みは、ハンナならば「奥方様、シュピーゲル家のハウスメイド採用試験に合格できるほどでございます」と申し上げるほど見事でございました。 ● 「○月×日 シリウスたんとの生活が始まって一週間が経った。最近は少し懐いてくれたのか、俺の手から直接ご飯を食べてくれるようになった。(以下略)」 商店街では、アーサーが市場から仕入れ帰りの人々に暖かい微笑で迎えられていた。 遊歩道に延々とプリントされていたのは――。 (一年くらい前に拾ったもふもふで可愛い狼さんのシリウスたんとの日々を綴ったふわもこ日記(写真&コメント付き)!?) シリウスたん。といっている時点で、全てを諦めるしかない。 (……よりにもよって人通りの多い商店街に印刷されるとはっ……!? そういえば2、3週間前くらいから妙に人だかりが出来てたがまさかっ……!?) 写真の横には、「かわい~」とか何とか小学生の字で書き込みがしてあったりしている。 苦悩するアーサー、顔が怖い。 (……いや待て落ち着け。俺だと結びつけられる者はいない……って、なんでそんなピンポイントで俺の写真と名前がうぁぁぁ!) 「□月△日 俺が寝ていると布団の中に潜り込んで一緒に寝るようになった。気持ちよさそうに眠るシリウスたんは、それはもう可愛くて可愛くて(以下略)」 『アーサーさんと一緒!』とか、シリウスたんの口元に吹きだし台詞手書きしてたら分かるよな。 (だって可愛かったし……シリウスたん可愛かったし! もふった時の幸福感とか、可愛い仕種を目撃した時のときめきとかを忘れないように残しておきたかったんだよ) 「お兄さん、これ消しちゃわなくてもいいんだよ? うちでも犬の本が売れるし、ペットショップのご主人も白いわんチャンがよく売れるって喜んでたし――」 本屋のおばちゃんがそんなことを言う。 「いえ、消させていただきます――」 (だからそんな生暖かい眼差しで見るのやめろ!) ● 生暖かい視線にのたうちまわっているのは、『ピンクの変獣』シィン・アーパーウィル(BNE004479)も同じだった。 自宅周辺の道路や建物のあちこちに色々プリントされまくっている。 通りすがりの『姉妹』達が、肩を叩いたり、ほっぺむにむにしていったり、頭をなでて行ったり、中には涙を浮かべてぎゅっと抱きしめてきたりする年長者もいて大変である。 「○月●日 記憶が無い私は、現状途轍もない不安に駆られている。己の個性を見失い、どうしようもなく自分が孤独に感じるのだ。その解決のため、まずは演じることによって個性の獲得を図ることにする。まず、ネット上での人気キャラとやらから始めよう」 ――から始まる日記は数ヶ月分におよび、直近のものは、 「☆月▼日 辛いことがあったら相談してくれと、慰められてしまったのだぜ。一体どういうことなのだぜ? また俺は失敗してしまったのぜ?埒が明かないのぜ、またキャラを変えるのぜ」 という試行錯誤が記されている。 「しかし、妾は何時になったら口調や一人称が固定できるのじゃろうか?」 最期の一文、涙でかすんでよく見えません。(とあるフュリエの感想) (こんなもの見られてしまえば、私が普段がキャラを作っているとバレてしまいます! 速く消して、無かったことにしませんと! ああ! 本で叩いたら飛び散って更に日記の写しが!?) 自爆気味のシィンの作業を、全員が黙々と手伝った。 真っ赤になって無言のシィンが話し出すのをじっと待っていた。 日記の全てをけしおえると、シィンはニッコリ笑った。 「皆さん、今日は何も見てませんし、聴いてませ……無いですよね?」 全員が大きく頷いて見せた。 「かたつむり――」 シィンがぷちっと潰されたカタツムリが印刷していたのは、原寸サイズの写真一枚だった。 黒髪ロングの大人しそうな少女が窓際の席で本を読んでいる、何の変哲もない写真。 物静かで、少し思いつめた感じが気になる横顔。 明奈が洗剤べっとりのスポンジでそれをこすり始めた。 その横顔と写真の横顔の共通点に気づいた者はいただろうか。 「――これで、全部かな!」 ぱっと花咲く明奈の笑顔は、お日様の笑顔だ。 変わることは、けして嘘をついているということではない。 今回の洗浄は、全て終了の運びとなった。 いつか今日消したちょっと人にはいえないことが、笑い話になりますように。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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