●彼は紳士<デスペラードミスタ> 蝮原咬兵は子供の泣き声が苦手だ。特に少女がわんわん泣いているのは耐えられない。他人だと分かっていながらも、ついつい雪花と重ねてしまうからだ。 「……」 果たして。咬兵の視線の先には少女が一人、道端で泣きじゃくっていた。後ろ向きなので顔は見えないが、それでも分かる程度には大泣きしている。 「……」 周囲を見渡してみる――親らしき者は居ない、というかそもそもこの辺には咬兵と少女しか居ない。 どうしようか。甲高い泣き声。聞きたくない。その少女は長い黒髪で、宛ら雪花の様で、だからこそ。嗚呼、嫌だ嫌だ。泣いてるガキは嫌いだ。心の中で悪態一つ。 「……おい」 低い声で一言。咬兵は溜息を押し殺して少女の傍にしゃがみ込んだ。 「お嬢ちゃん。一人か?」 出来るだけ怖い声を出さない様に。その声に、ようやっと少女が嗚咽を漏らしながら振り返った。 その、顔。 咬兵は思わず目を剥いた。 大きな目玉が一つ。例えるなら一つ目小僧かサイクロップス。少女は単眼だった。 (――アザーバイド!) 思わず半歩下がり、警戒。だが。少女はただ咬兵を見て。目をうるうるさせて。また、わんわん泣き叫ぶのだ。 そこに敵意はなく。悪意もなく。 一先ず警戒を解いた咬兵は耳を塞ぎたいのを我慢して、溜息を吐きながら問うてみた。 「おい、お前……ちょっと泣き止め。何だってそんなに泣き喚いてんだ」 すると少女は真っ赤な目を擦りながら、鼻をすんすん啜りながら、彼を見て。 「あなたも、迷子になっちゃったの……?」 「……俺が迷子だと?」 どうしてそんな事を、と訊く前に。ふと。咬兵は違和感に気が付く。 ……そう言えば自分の目線が低くなってないか? ……そう言えば自分の声が高くなってないか? 咄嗟に近くにあったカーブミラーを見遣ってみた。 そこには。 「何だとっ……!?」 何故か、少年の姿になってしまった『自分』の姿が……。 ●彼はUntouchable 珍しく彼から電話がかかってきたと思ったら。 『おい名古屋、どうにかしやがれ』 「えっと……蝮原様にしては声が子供っぽいと言うか……もしもし僕、お電話番号を間違えておりませんか?」 『馬鹿野郎、俺だ、蝮原だ! いいから俺の話を聴け。黙って聴け。 俺ァ今三高平にいるんだが、妙なアザーバイドに遭っちまった。ガキの見た目した一つ目の奴だ。何でも迷子になっちまったんだとよ。敵意はねぇようだが、こいつ、面倒臭ぇ事に……”目”を見たらこっちの身体までガキになっちまう』 「……はい?」 『言った通りだ。今すぐカレイドで解決法を調べろ。分かったな』 「ちょっと――」 そこで通話終了。 そんなこんなで。 「と言う訳でですね。アザーバイドを元の世界に帰してあげましょう」 集ったリベリスタに、事務椅子をくるんと回し『歪曲芸師』名古屋・T・メルクリィ(nBNE000209)がニコヤカ~に微笑んだ。 「アザーバイドの名は『ミチル』。単眼の少女ですな。彼女は偶然、ボトムに迷い込んでしまったようで……夕方になったらDホールができますので、そこから彼女を帰してあげて下さいな。それまでの時間は――彼女と遊ぶなり、市内を案内してあげたり! サテ、問題の彼女ですが。彼女の視線には不思議な力がございまして……その目を見ると、身体が10歳児ほどの姿になってしまうのですよ。 精神はその人によるそうです。完全に精神までそうなってしまったり、若干そうなったり、ならなかったり。あ、服もちゃんと10歳児サイズになるそうですよ。神秘って便利。 因みに彼女が元のチャンネルに戻るか、しばらくすれば元に戻りますのでそこはご安心を!」 ではでは。メルクリィはにこにこしながらこう言った。 「『ミチル』様と、蝮原様をどうぞよろしくお願いしますね!」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ガンマ | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年06月14日(金)23:17 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●こどもをはじめよう 泣き止んだばかりの少女の傍らに、無頼は帽子を目深に被って佇んでいた。 「居た居た!」 おぅい、と『還暦プラスワン』レイライン・エレアニック(BNE002137)が彼ら――アザーバイドのミチルと『相模の蝮』蝮原咬兵に声をかける。子供時代、か。あまり思い出したくないのだが、レイラインは泣いている少女を放っておく事など出来ず。そして何より、 「にゃふふ、随分と可愛らしい姿になったのう、咬兵ちゃん?」 「まむまむが子供の姿と聞いてー! うおおー! もふもふしていいか蝮ー!?」 「いつもはメルクリィと並んでも引けを取らない大きさの蝮原さんがこんなに小さく……! あらやだ可愛いわね、撫でていい?」 溢れる笑みを抑えられないレイラインと、既に咬兵に纏わり付いている『殴りホリメ』霧島 俊介(BNE000082)と、目をキラキラさせる『雇われ遊撃少女』宮代・久嶺(BNE002940。 「あぁ゛? なっちまったもんはしょーがねぇだろうが……! ジロジロ見んじゃねぇ殴んぞ」 俊介をデコピンでばしーんと引っ剥がしつつ(彼は「ぐはぁん」と語尾にハートが付きそうな感じで地面に転がった)、少年咬兵はキッと一同を睨む。とはいえ子供のそれだけれど――「冗談よ、冗談」久嶺は苦笑を浮かべた。小さいのにやっぱり雰囲気あるわね。 「咬兵と同じ目線なのは、すごく新鮮な気分だ。普段は見上げるのが当たり前の相手と同じ目線というのも、中々ない経験だな」 ふんっと苛立っている少年の傍らに、小さなシスターがちょこん。目をぱちくりさせる『アリアドネの銀弾』不動峰 杏樹(BNE000062)。こうして縮むと、いつもよりさらに小さくなった。長い髪、ぺたんこの胸。『レッドシグナル』依代 椿(BNE000728)と『燻る灰』御津代 鉅(BNE001657)もまた幼い姿に。 「……ああ、こうなる訳か」 『家族想いの破壊者』鬼蔭 虎鐵(BNE000034)は寧ろいつもより雰囲気が大人しく、冷静淡々と幼くなった自分や咬兵を眺めていた。咬兵と目が合う。虎鐵はニヤリと笑う。ケータイを取り出す。ゲッと咬兵が顔を顰める。ピリロ~ン♪とシャッター音。 「虎鐡てめッ……」 「なんだよ。いいじゃねぇか……俺達親友じゃねぇか……なぁ? 咬兵」 「うるせぇ! てめぇ今撮ったヤツ消せ!」 肩に腕を回してニヤニヤしている少年虎鐡と、獣化部分である牙を剥いて虎鐡の手からケータイを奪い取らんとする少年咬兵と。どうどう。杏樹は彼の袖をちょいちょい引いて、虎鐡と共に咬兵を宥める。そうすれば、ややあってから盛大な溜息が返ってきた。「虎鐡てめぇ後で覚えてろよ」と。 一方、ミチルへの対応も忘れない。レイラインは彼女の傍にしゃがみ込み、 「お主がミチルちゃんじゃな? わらわ達が元のおうちに帰してあげるから……ってまだ挨拶終わってないからこっち見ちゃにゃぎゃー!」 そう言う訳でロリライン。不思議そうに自分の姿を眺めながら。ふーん、と。 「見た目はそこまで変わってないのね。胸は小さくなったけど、軽くなったしむしろ有り難いわ」 猫耳ぴこぴこ。傍らで、俊介はミチルの前で屈み目線を合わせながらニッコリ微笑んだ。 「俺は霧島俊介。すけしゅんて呼んで?」 「すけしゅん……?」 「そうそう! 君の帰る道を知ってる者達さ。でも帰る道は夕方に開くんよ、だからそれまでお兄ちゃん達と一緒に遊ぼ?」 目を合わせて、子供の姿になってもお構いなし。少女の姿になった『永御前』一条・永(BNE000821)も続けてミチルに声をかける。 「私は一条永と申します。貴方のお名前は?」 「ミチル……」 「ミチルちゃん、ね。大丈夫。ちゃんとお迎えが来ます。それまで、遊んでおいきなさい。たくさん遊んでたくさん食べて、たくさん――お話するといたしましょう」 誰も彼も子供の姿。笑いかければ、半泣き状態だったミチルも釣られる様に微笑んだ。うん、と頷いた。 「よっしゃ! じゃー今からお友達! 蝮も友達やからな、最後まで付き合え」 俊介はミチルの手を握って、振りむいた先の咬兵にもニヤッと笑って。溜息を吐いた無頼に永は苦笑を浮かべた。 「流石の相模の蝮も、泣く子が相手では分が悪いようですね……泣いている子は、笑わせればよいのです。ほら、貴方も左様になさってこられたではないですか」 口下手だろうと不器用だろうと、子供はその背をしっかり見ている。雪花を見れば、咬兵の『背中』がどの様なものであったかなど問うまでもない。 「……仕方ねぇな」 視線を逸らし吐息の言葉。気晴らしに煙草でも吸うかとポケットに手を伸ばすが、それはちょいちょいと久嶺が肩を突っついて止めて。 「蝮原さん、今子供なんだからね、煙草吸っちゃダメよ!」 「あ? 問題ねぇだろ」 「いや色々問題になるんだからね? 我慢よ我慢。今日一日くらい子供らしく遊ぶといいと思うわ!」 「……チッ」 「それにしても仁蝮組の面々に会ったらどうする気なんだ咬兵」 舌打った咬兵に続けて虎鐡が問う。「見られる前に殺る」と即答だった。流石。苦笑を一つ。 その間。永はミチルに広い鍔の麦藁帽子を被せ、杏樹はバイザーデザインのサングラスを手渡した。日差しを防ぐ為と、ミチルの不思議な視線を塞ぐ為。 子供の世界から来た子供――ややこしいけれど、常識が通じないのがアザーバイド。怖がらせないよう杏樹は努めて明るく、一緒に遊ぼう、と微笑みかけた。ウン、とミチルは嬉しそうに頷き返す。 さて準備も整ったなら。ふふん、レイラインがミチルに手を差し出した。 「あたしはレイライン、由緒正しきイギリス生まれなのよ! 今日はこのあたしに任せておくといいわ」 さ、行くわよ! 今日をとっても楽しい日にしよう! ●みたかだいらだいぼうけん 「――ここがアリアドネ教会だ。静かだけど、日が当たらない分は涼しいと思う」 のんびりしていってくれ、と皆を己の根城にしている教会に案内し終えた杏樹が振り返る。教会、というものが初めてなのだろうか。ミチルは不思議そうに辺りを見渡していた。 その様子を見て――ふむ。杏樹は思いつく。 「折角だし、教会の中を案内しようか?」 「いいの?」 「勿論」 一緒に行こう。手を引いて。ぱたぱた小さな足音。いつもより低い位置から見る教会は、まるで不思議なお城みたいで。冒険みたいで。皆で一緒に。それだけで、何だか楽しい。 「楽しい?」 「楽しい!」 振り返る問いに、笑顔の答え。何よりだ。杏樹も表情を綻ばせる。 「咬兵も楽しいか?」 「……さぁな」 素直じゃないなぁ、なんて。らしいっちゃらしい答え。 さて冒険も済んだなら。聖堂では騒げないので、他の部屋でのんびりまったりと。 少年俊介はミチルの傍ら。首を傾け、その顔を覗き込みながら。 「この世界は好きか?」 「うん、楽しいから好き!」 「もう寂しくないか?」 「みんながいるから、大丈夫っ」 「すけしゅん好き?」 「だいすき!」 えへへー。もふもふぎゅっぎゅ。 「よい場所がございます」と。次の案内人は永。辿り着いたのはアトリエ・ステラ。 「ここの絵に描かれているのは、皆この街に住む人達の姿。……これからも、増えてゆくでしょう」 「永ちゃんの絵もあるの?」 「ありますよ」 ほら、と見せると。わぁっと歓声。 「とってもキレイだわ!」 「ふふ、ありがとう」 永がそう言った直後。ぐぅ、とミチルのお腹が鳴った。あらあら。苦笑を浮かべて永は少女の手を取った。 お腹が空いたのなら、次は…… 「丸富食堂!!」 俊介が元気良く声を張り上げた。貸切にして、お待ちかねのご飯タイム。 「食堂の息子なめんな! 特製オムライスおまちどうさんっ」 ミチルの前に、子供俊介がオムライスをどーん。ケチャップで書くのは、『ミチル』の3文字。 「すごーい……! おいしそう!」 「食べてみ食べてみ!」 「うん!」 それでは皆で、いただきます。 「とりあえず作ってきた。好きに食べて構わねぇよ」 虎鐵は手製の弁当を人数分。ちょいと洋風な感じになっちまったがな、と言うが、料理の腕前はピカイチだ。 「交換しよう、色々食べれるときっと面白い」 杏樹はシンプルなサンドイッチを持ち寄り、永も和風なお弁当箱を広げれば、ミチルが興味深そうにそれを見詰めた。 「永ちゃん。これはなぁに?」 「出汁巻き玉子です。今日のは、特に上手にできたのですよ」 「ちょっと食べても、いい……?」 「えぇ、勿論」 皆で交換し合って、美味しく楽しくお腹も満ちれば笑顔が咲く。 (そう言えば俊介、食堂、継いだりするのかしら?) ふと、思いながら。レイラインは杏樹特製サンドイッチをもぐもぐしていた。 そんな『子供達』の様子を見守りながら、虎鐵は咬兵へと。 「よう。ミートスパゲティの弁当を持ってきたぜ。……要らなきゃ俺が食うがどうする? 腹ァ一杯か?」 白ワインや粉チーズとかも使って、ガッツリ肉の味を楽しめる仕様。咬兵は一瞬の間の後に、 「……食う」 「おう、食え食え。丹精込めて作ったんだからな」 からから笑う虎鐵に、咬兵はふんと鼻を鳴らしつつ弁当を広げ――ふと、正面に座る久嶺が頬杖を突きニコニコしているのに気が付いた。因みに久嶺は元々12歳なので外見の変化は殆ど無い。強いて言うならちょっと身長が縮んだぐらい。 「ふふー、今ならお子様ランチとか食べてもおかしくないわよ!」 「食うかよ、馬鹿」 「そう……結構美味しいのに。じゃあほら、アタシがあーんしてあげる、あーん!」 「あ゛ァ゛ーん?(てらーてろーる」 「ああーん……!」 ちびっこくても蝮は蝮だった。虎鐵が苦笑する中、仕方ないのでフォークを咬兵に返してあげた久嶺なのであった。 「うふふ、美味しい?」 「……悪くはねぇ」 黙々、もぐもぐ。確かに面影はあるけれど、幼い子供。うふふー、と久嶺はついつい笑みを零してしまう。 「可愛い可愛い……蝮原さんにもこんな時期があったのね……」 「うるせぇなぁ……」 そんなこんなで、次に向かったのは。 「ここは天守孤児院よ!」 じゃじゃーん、とレイラインが手を広げて指し示した。ここは子供のリベリスタばかりだ、ミチルがいても問題ないだろう。 (……後で大きいあたしがからかわれるだろうけど、今のあたしには関係ないわ!) そういう訳で。 「鬼ごっこする人この指とーまれ!」 レイラインが指を出せば、子供達がわぁっと集まってきた。杏樹はミチルを、そして咬兵の手を引きそれに続く。折角だ。巻き込んでしまえ。全力で。 そして始まる大鬼ごっこ。きゃーっと子供のはしゃぐ声。転んだ子は、俊介が聖神の息吹で痛いの痛いの飛んでいけ! そしてレイラインの足は速い。 「タッチ!」 「わぁ、レイラインちゃんはやーい!」 「ふふーん、あたし駆けっこには自信あるの!」 「たっち!」 「あ!」 ドヤッている間にミチルからタッチされるレイラインなのであった。 ドタバタ全力で遊んだら、次は。 「アンティークアジアンカフェ、陰ト陽へようこそ」 虎鐵が案内したのはシックなカフェ。さぁ、のんびりオヤツタイム。 「……む、思ったより苦い、な。普段からこんなだったか?」 煙草は拙いのでコーヒーを飲む鉅であるが、嗜好が子供になっていた。その傍らでは、彼が普段からコーヒーのお茶請けに用意しているお菓子が広げられている。少ないけれど、皆で仲良く食べれば問題なしだ。 「虎鐵ー、この紅茶渋いわ、淹れ直し!」 「はいはい、仰せのままにお嬢様」 我侭お嬢様のレイラインに虎鐵は苦笑しながらも――紅茶が渋いんじゃなくってレイラインが子供舌なんじゃないかと思いつつ――お砂糖多めの甘いミルクティー。 「素敵なところね、ミルクティーもおいしい!」 「気に入ってくれたようでなにより。何か食べたいものはあるか?」 「えぇっとねぇ、それじゃあねぇ……!」 微笑むミチルに、虎鐵も笑みを。 杏樹はそんなミチルの隣でアイスココアを飲みつつ、咬兵へ視線をやってみる。彼もまた、ミチルと同じミルクティーを飲んでいた。黙々と飲んでいる辺り、気に入ったのだろう。 「美味しいか?」 「……まぁな」 小さく、一言。 「ここは三高平公園よ!」 久嶺の声が響いたのは、昼下がりの日に包まれた三高平公園。俊介が陣地作成を行い、一般人が来る事は万が一にも無いだろう。 「おしゃーギリギリまで遊ぶぞー!」 「おー!」 ミチルの手を引き走り出す俊介。「いやっほー」と久嶺も続き、滑り台やブランコで全力でハシャギまくる。 「ひゃっふー!」 中一だとちょっと恥ずかしいけれど、小四なら許される気がする。久嶺は全力でブランコを漕ぐ。羽による飛行とはまた違う、空を切る感覚。飛び出した。羽ばたいて咬兵の前にふわりと着地。 「ほらー、蝮原さんも!」 「な……なんでだよ」 「たまにはいいじゃないのよ、観念なさい! さっブランコ二人漕ぎするわよ!!」 手を引っ張れば諦めたのか、「仕方ねぇな」と。 それから、みんなでかくれんぼ。色鬼。鬼ごっこ。リベリスタごっこ。 楽しそうな声が公園に満ちる。 あるいは微笑ましく見守り、あるいは全力で楽しんで。 そして――遊び疲れて、日が暮れて。 楽しい時間はあっという間だ。 帰りたい、けど帰るのは寂しい。だってこんなにも、楽しかったのだから。Dホールの前で間誤付くミチルのその手を、俊介はぎゅっと握った。 「残念だけど帰る時間やで。今は故郷に帰ってな、ミチルの友達とか心配しとるやろ? それに、これが最期の別れやないで。またきっと何処かで会えるさ……それまでさよならや、な?」 「そうそう……また遊びに来てもいいのよ。その帽子とサングラスはあげるから、大事にしなさい!」 「もう次からは気をつけなさいよ? また会うときがあったら、その時はよろしくね!」 レイラインと久嶺もニッコリ微笑み、永はミチルの頭を優しく撫でた。 「行きはよいよい帰りはこわい――さあ、たくさん遊んだ後はお家に帰る時間です。迷わず、ちゃんとおかえりなさい」 皆に促され。ミチルは涙を堪えて、しっかと頷いた。 それじゃあ――繋いだ手を離す。踵を返す。振り返って。手を振りながら。笑いながら。 「本当に、本当に、ありがとう! またね!」 「どういたしまして。また遊ぼうな――またね」 笑みを返し、杏樹もミチルへ手を振り返すのであった。 ●アフター ブレイクゲートも完了し、体も元に戻り、さて。 「ふー。今日は久々に童心に還れて、楽しかったわ~」 久嶺はぐっと伸びをする。任務完了、一安心だ。 「お前は元々子供だろうが」 ようやっと元に戻れて何処か疲れた様子の咬兵が小さく苦笑した。いやまぁ、と久嶺もまた苦笑を浮かべつ。 「よくませてるとか言われるけど……この世の中いつまでも子供だと生き辛いのよ」 なんか年寄り臭くなっちゃったわね。そう言う彼女に咬兵は否定を述べなかった。ただ、「そうだな」と。久嶺の頭にぽんと手を乗せる。 そしてリベリスタは帰路に就く。 夜が来る。 「虎鐵」 「っと……なんでござるか咬兵」 「飲み行くぞ」 珍しく咬兵から。今日は色々あった。だからこそ。 「仕方ないでござるなー」 なんて茶化すように笑いながらも。さぁ、ここからは大人の時間。 ……飲ませて油断させて、虎鐵が取った写真のデータを咬兵がこっそり消去したのは、また別のお話。 『了』 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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