●患者は、以下のような文言を繰り返しており――。 「ああ、ご当地ペッキが食べたい。でも、俺は仕事があるから三高平から出られない。みんなが出先でご当地ペッキ買って来てくれたら元気になる」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田奈アガサ | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年06月10日(月)21:08 |
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■メイン参加者 17人■ | |||||
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● とある案件の結果、要塞ブリーフィングルームに篭城騒ぎを起こした赤毛のフォーチュナ・四門君は、今日もエレベーターホール横の自動販売機スペースの一角を陣取って、引継ぎ資料を読んでいる。 女子高生・イヴちゃんから、あれもこれもと抱えた案件を移管されているのだ。 ● (んー、迷った。アークって広いんだな) 湊、エレベーターホールで迷子。 「お、そこのぐんにゃりしてるひと、そう、あんた」 見回せども、いるのは四門一人。 「なあなあ、ここの案内してよ。今日来たんだけど迷っちゃってさあ」 「あれ、案内のおねーさんは?」 「はぐれちゃった!」 「頼むよー」 湊は、机に出しっぱなしの大量のペッキの箱に気がついた。 「ペッキ、好き?俺っちのおやつで良ければあるぞ。じゃじゃーん、俺っちの地元限定、砂糖大根ペッキだ」 「甜菜?」 「違うんだなー。砂糖大根ってのは地元のパティシエのあだ名でな、一本一本が別々のスイーツの味になってるんだ。ほら、コラボってやつ? ちょっと値段は高いんだけど、地元じゃあ人気なんだぜ」 どこまでもローカルをグローバルに追求します。そんなペッキ。 「これあげるから後でアーク案内してよ。後、俺っちと友達になってくれよな」 ぱああっと、四門の顔が明るくなった。 「ええっと、あの、俺、今、人を待ってるから、その人達が来たらでいい? そろそろくると思うから、あんまり待たせないと思う。待ってる間、これ食べていいから」 急に動きがわたわたと落ち着かなくなる。 「いいけど、何でこんなにいっぱいあるんだ?」 「えっと、それは――」 ● 戦闘帰りのリベリスタは、高揚感を背負ったままだ。 「お帰りー!!」 椅子を蹴倒し、リベリスタに駆け寄る四門の様は、げっ歯類というよりはわんこだ。 「了解了解、任せろよ、伊達に依頼であっちこっち依頼で飛び回ってねえよ。こなした依頼の数で俺に勝てるのは、どっかのDT二人ぐらいもんだろうね。ま、そういうわけだから、買ってきてやったよ!」 働き者の竜一は、紙袋から一個一個律儀に並べていく。 「まずは南から。ミミガー味な。次は黒豚味。んで、地鶏。サバやアジ味だって。馬刺し味。カステラ味にカニ味。めんたい味。かつお味、みかん味だ。うどん味で、さつまいも味。フグ味にお好み焼き味。きびだんご味。生姜味ときて梨味。クエ味。紫蘇味に牛肉味、たこやき味にぶぶ漬け味。鮒寿司味に牡蠣味、次は~…って」 ――全国? 「おいおい、どんどん食おうぜ! お前が食べたいつったから全国飛び回ってきたからな! たくさんお食べ!」 慈愛に満ち溢れている。いや、これ、大井川より西だろ、全部。 で、竜一より働き者の2DTの一人、快は、一点豪華主義で参戦。 「四門! ペッキだ! 何と、瀬戸内海から送ってきた!」 商品名:いかなごくぎ煮ペッキ。 いかなご、ってのは10cmくらいの小魚なんだけどさ、瀬戸内のほうじゃあ春先に穫れたやつを平釜で醤油やみりん、砂糖、生姜などで水分がなくなるまで煮込むんだ。で、曲がった釘みたいになった奴がこれ、「いかなごのくぎ煮」。 春になると、瀬戸内のお母さんが巨大な鍋に大量に作ってご近所に配る茶色い可食通貨。配った分は、別のものに化けて返ってくる。情けは人のためならず。 「――そんないかなごのくぎ煮を、チョコレートと一緒にスナック部分にコーティングしたのが、こいつだ」 え、なにこれ、クランチ? 「どんな味か教えてくれ。な、四門!」 「――チョコがビターな分、あまじょっぱさが倍増――あ」 四門は快の鼻先にペッキを差し出し、指差した。 「目」 しょうがにまみれたイカナゴがチョコの隙間からつぶらな瞳で快を見ていた。 「今日もメソメソ泣いてんのか?シャキっとせぇや男ならよぉ」 火車は、手元にあったご母堂の実家のご当地ペッキを持ってきてくれたのだが。 (あっ? あぁ~しまった。わさび漬けチョコ味は今丁度オレの分だけだしな……) 火車的に意外と悪くないわさび漬けチョコ味とおやき味はみんな食ってしまっていた。 しかし! なんと! 安心すると良い! 「持って来てやったぞ いなごの佃煮チョコ味だ。な? 小館!」 火車敵に当然俺は食わんのが残っていた。ラッキー。 「いやオレもう満腹だし全く美味そうに見えんし結構だ絶対に食わん!」 そんなん人にくわすなや。 四門は、無言で受け取り、無言でパッケージを開け、ぽりぽりやり出した。 「どんな味だ」 「――チョコがビターな分、あまじょっぱさが倍増――あ」 四門は火車の鼻先にペッキを差し出し、指差した。 「目」 蜜にまみれたいなごがチョコの隙間からつぶらな複眼で火車を見ていた。 ● アーデルハイトが、氷に満たされたグラス片手に表れたとき、四門はじわっと涙ぐんだ。 氷を入れた銀のグラスに挿したペッキを持参いたします 「どうにも暑さが厳しくて。避暑がてらこのようにしてみましたが、いかがでしょうか?」 グラスには、金色がかったホワイトチョコをまとったペッキが数本ささっている。 「私、本当に夏と暑さは苦手なのです。気温が20℃を越えると疲れやすくなります。三高平で初めて夏を迎えたときは苦労いたしました」 涼をとる方法は、このちで学んだ。そのうちのひとつ。冷やしペッキ。 「富山県山上市 はちみつペッキ。北アルプスこと飛騨山脈を臨む養蜂場の蜂蜜を使用したペッキです。名前だけで愛せます。日本にもアルプスと呼ばれる山々がある。名づけた方は、欧州の山々と、その姿を重ね合わせたのでしょうか」 日本とジャパニメーションの洗礼を受けたフランスで育った四門としては、アーデルハイトでアルプスと聞くと、真っ白い小ヤギと長いブランコとセントバーナードが連想されるのだが、もちろん奥方様にそんなこと言えない。 「疲れたときには滋養強壮効果がある蜂蜜酒を……と思ったのですが、四門様は未成年ですので」 『滋養強壮』を強調して、意地悪く微笑んでみたアーデルハイト。 「やだなあ、そこまでおじーさんじゃないですよぉ」 微妙に意味を取り違えている。滋養強壮は、寝たきりのお年寄りが日常生活を始められるくらい元気になることだと思っているのだ。ピュア。 (世界は優しく厳しい。頑張りなさい、男の子) 彩歌は、とうとうとしゃべり始めた。 「焼き菓子にチョコレートを合わせて食べる場合、両者間の最適な割合――所謂「ブラキウムの黄金率」が存在する事は古くから知られていたが、それが依存するのはカカオ含有率、焼き菓子の塩分量その他諸々の「素材」のみであると思われていた」 「はい」 「ペッキにおけるパラダイムシフトはここに「体積:表面積比」を持ち込んだことにあり――」 民明書房刊「日本四大スナック菓子のルーツを探る(上)」より。 「――という解説は、本編には一切関係ないわ」 「はい」 四門の目は、彩歌の手に舌にあるペッキの箱に釘付けだ。 「というわけで、私が休日のついでで買ってきた特産の葱を用いたネギ塩麹味ペッキがここにあります」 休日と書いて、帰宅と読む。 ご家族の安全のため、詳しい地名は秘匿とします。 「四門さんが妖怪「ペッキおいてけ」にならないように」 妖怪『ペッキおいてけ』。アークのエレベーターホールでリベリスタを捕捉し、お土産を要求する。 拒否すると、参加した依頼が過酷であることを後から知る可能性が非常に高くなる。 民明書房刊「三高平の最新都市伝説」より。 ● ルアと壱也がそろったら、男は戦慄を覚える。 「こんにちは! ルアだよ! ほわほわで可愛いものが大好きだよ! あとね、エイちゃんとスケキヨさんが大好きだよ! はっ! もちろんちーちゃんも大好きだよ!」 にっこにこ。 「今日は、シモン君にお土産を持って来ました!」 「ありがとう~」 「ルアと一緒にいってきた薄くて高い…おっと、まあ、ごっついお買い物で地方いってきたんだ~。そんときにこれ、シモンよく食べてるペッキ! 発見したから買ってきたよ」 なに、この口のところに穴の開いた濃い顔したお兄さんのお面。 「「ひとりペッキゲームinメンズ」よ! 何がinかというとね、ほら、この兄貴風(顔だけ)のメンズの口をそっと開いてみて?」 「あ、ペッキ」 「意味、分かるでしょ? 兄貴風メンズにそっと手を添えてこっち側から食べていくのよ。さあ! 早く!」 「もちろんわたしたちシモンくんを思って買ってきたんだから、今、ここで、食べてくれるよね? ペッキも限定ものなんだから~! この黒い生地に白いチョコが何重にもかけらてて、おいしそうでしょ? 食べて」 なぜに、携帯カメラ用意するのか、君達は。お腐れ様の洗礼、キタコレ。 逃げて、四門、超逃げて。と、柱の影から今までいろんな目にあってきた男性リベリスタが叫んでいる。でも、直接たすけたりはできない。それはそれで、変なエンジンを回しだすからだ。薄い本が厚くなるような燃料投下はしないよ!? 「え、こう?」 「そう。そうよ!」 それがなにを意味するのかこれっぽっちも考えない小館・シモン・四門。 彼の頭の中では、お面はあくまでお面であり、擬似キスの相手ではないのだ。 もちろん、ぺたぺたくっつく半生タイプのホワイトチョコがなにを連想させるかもまったく考えてない。 「シモンくんかわいい。はい、本当のお土産! ぺっき、いか焼き味」 「え? これもおいしいのに?」 ぽりりん。 「新人フォーチュナさんにプレゼントフォーユー☆」 よっこいしょっと、終が段ボール箱サイズのペッキを取りだした。 「ペッキの生誕何十周年を記念して作られたギネス記録もある大型ペッキだよ☆ これはペッキの聖地と呼ばれる場所で限定生産されている伝説のペッキで一時期はただのデマだと思ってたけど、ほんとにあった。入手するのも持って帰るのも超大変だった……」 「うわ~、でっかぁい! ありがとうございますー!」 取り出すと、ジャベリンのようだ。恵方まきより更に長い。 「さ、思いっきり豪快にかじってね☆ 味は普通のペッキらしいけど、大きいってそれだけで魅力があるよね……食べるの超大変だけど」 「ね。あごはずれそう――なぜ、カメラ?」 腐女子よ。なぜ、鼻息が荒いのだ。 四門逃げて超逃げて! と、柱の影の男子リベリスタが心で叫ぶが、誰もハイテレパスは持っていない。 「わたしたちのことは気にしなくていいよ!」 「チョコが解ける前に食べるといいわ。いえ、溶けてもぜんぜんかまわないのだけれど!」 四門にとって、ペッキはあくまでペッキであり、妄想のネタにされるとは露ほども思っていない。 あーん、べきぼき! 「!?」 妄想たくましくしようとしていた腐女子の心をへし折る音。 かかかかかかかかかっ!! 二つ名のローデント――げっ歯類の所以。ペッキとはなめるものではなく速攻噛み砕くものである。 あんな勢いで噛み砕かれたら、再起不能やでぇ。 「ルアちゃん? 羽柴さん? どうしたの?」 もっきゅもっきゅ。噛み砕いたペッキを頬袋にためてかみなおす四門に、表情を硬くする腐女子。 「――大変だろうけど、これからもよろしくね☆」 大変の意味もよく分からず、終に四門はご馳走様ですと頭を下げた。 ● 「フォーチュナ様も大変でございますね……」 リコルさん、そんなしみじみと。 「ペッキでしたら、この間珍しい物を購入しましたので持って参りました!」 きっと、お嬢様のために買ったんだろうな。 「ホワイトチョコレートがかかったペッキなのでございますが、そのチョコレート部分に不思議なあまじょっぱい粉が振りかけられているのでございます!」 日本人、あまじょっぱいの、だいすきー。 「名前は忘れてしまいましたが、幸運を呼びそうな名前のスナック菓子の生産工場がその地方にあるらしく、そのコラボ商品だそうでございます」 なんとでもコラボする。それがペッキのジャスティス。 「あまじょっぱい粉末と甘いホワイトチョコレートが合わさって病み付きになる事間違いございません! これを食べて元気をお出し下さいませ……」 「リコルさん、これ並ばないと買えないやつじゃ――」 「早起きいたしました」 「モンちゃん! 今カエッタゾー!!☆ ほうら、お土産だー」 とらが、すたーんとなにやらファンシーにカラフルな箱を持ってきた。 「首都圏の某おされスポット限定賞品! 今はやりのリコッタパンケーキ味! 生地がリコッタチーズを練りこんだパンケーキの風味で、チョコレートは生クリームをイメージした牛乳チョコレートフレーバー、その周辺をぐるぐるとラズベリーソースが螺旋状に巻かれています!」 「こっちも、すごいうまそーだぁ!」 「さ、四門様。遠慮はなしですよ」 この二品、すごくうまそうだ。 病み付きになったら行列に並ぶ人生が待っている。否、並べないから、誰かに泣きついて買ってきてもらう人生が待っている。 どうする、四門。すっげー食いたいが、どうする!? ――ペッキ様の誘惑には、勝てなかったよ。 「しかし某所は凄かった、何が凄いってリア充だらけ。まあ、薄着のお姉さん達のファッションは楽しめたわけだけどね」 「そこらへんのあんちゃんくさいよ。ゆってることが。気をつけないと。女の子なんだから」 だって、中身はあんちゃんだもん。 「そいえば、モンちゃん水着って持ってる?学校のじゃなくてさ。とらも今年は新調しようかな?ねえ、どんなのが似合うと思う?あと、今度一緒に夜の港で海面ダイブしよう。結構スリリングだよ?」 「『女の子』 は、夜の港で海面ダイブとかしちゃだめだってばっ!」 見えちゃったフォーチュナは、「女の子」に夢見がちである。 ● 「やっほー、四門のつかいっぱされにきたよー! 黎明ちゃん真面目にお仕事してないからものすごく難題だね!」 要するに、まだどこにも仕事で出かけてないよ。 「でもでもフォーチュナさんがお仕事してくれないの困っちゃうし! だから買って来てやったぞ! さあくえくえ!」 ごとごと。 「えーっとえっとね、みそおでんでしょ、おネギでしょ、やきまんぢうでしょー?……味噌率高いな」 「これ、どこの――」 「グンマー帝国」 それどこ日本? 「え? グンマー帝国しらない? 今時槍と弓武装のおそろしいトコロだよ?」 それどこ日本? 大事なことなので二度聞いてみました。 「あ。ちなみに味の保障はしない。黎明ちゃんは食わない。黎明ちゃんはフツーのくう」 そういって、他のリベリスタが置いてった語当地ペッキを上手に避けて、四門のふつーのチョコペッキぽりぽり。 「四門はなんか小動物みたいで、頬袋張り裂けそうでこわいなあ。ていうか四門もお外出ようよー、たまにおひさま浴びないとひょろっひょろになるよ?」 「いや、顔色は八分の一白人だからで……」 ほっぺたぷぎゅう。頬袋を押さえられた四門はわたわたした。 「依頼で行った場所で買ってきたよ。その名も霞ペッキ」 悠里は、アルファ波が出そうなのを買ってきた。 「天嶺山って山があって富士山程じゃないけど高い山でね。頂上は雲の上にあるんだよね。昔は偉いお坊さんがここで修行して仙人になったっていうお話があって、そこから生まれたのがこの霞ペッキらしいよ」 「食べたら、悟れそうですねー……」 パッケージを開けてみると、なんかしっとりしたペッキ。 「でも霞チョコってどんな味なんだろう……」 「え? チョコかかってるようには見えない――」 かみ締めたら、歯ごたえがむちょ。ふやけてる。 「これって……水……? 水がペッキを湿らせてこれは――」 微妙な顔を見合わせる悠里と四門。 四門は箱書きを読み上げる。 『カリカリのペッキを天嶺山の霞と一緒にパッケージしました。朝一番のすがすがしい霊気がしみこんだやさしい味をご堪能ください』 「うん。美味しく――ない!」 断言する悠里に、けらけらと四門が笑い出した。よし。つかみはOK。 というわけで、本題。四門君の目的意識を前向きにしてみよう。 「――そういえばシモンくんは工学部に入って、やりたい事とか目標とかあるの?」 大学のラウンジでそんな話をしていたのだ。 「僕は将来的に孤児院とか建てたいと思ってるからそういう勉強してるんだよね。弟の事とか、色々あってそう思ったんだ」 「せっかく発現した未来予知の力を、アーティファクト作るひらめきとかに転用できないかなって――。将来は、ラボとか研究班の方に進みたいんです」 たはは~と笑う。 「あ、でも、直近は友達たくさんかな。戦えって教えてもらったので――」 「うん」 「要塞ブリーフィングルームの改造がんばります! 俺がみんなと真剣勝負できる機会、そうとこしかありませんから!」 悠里の目から、ころり、ころりと涙の玉が落ちた。 かつて、あの部屋のドアを決定的にひん曲げたのは悠里だ。それ以来、壊されては治し、壊されては直しするうちに、すっかり分厚くなった要塞ブリーフィングルームの隔壁。 「悠里さん!? え? 何で泣いてるんですか、悠里さーん!?」 この日、悠里は本気で泣いた。 自分がやらかしたことでこんなことに。 因果応報という名の大人への階段を登った気がした。 「しーもーんーさーんっ!」 ミドルネーム的に合ってる。 遥、ダイブ。 いかに戦闘能力がないとはいえ、一応は革醒者。 遥に怪我はないように、四門は椅子の上で踏ん張って、後にこけることだけはしませんでした。ぐきって変な音したけど。 「山形県白沖市限定、匠のペッキ・鰻の骨。塩味とタレ味の二種類。白沖漁港漁師と有名料亭店主監修の元、生地に鰻の骨を練りこみ焼き上げ味付けし、絶妙な旨みと食感を実現しました」 箱の浦に書いてある解説を読み上げる遥は上機嫌だ。 「お父さんとお母さんが身辺整理を済ませて米沢から三高平に引っ越してきた! 近くに住んでたおじいちゃんとおばあちゃんが持たせてくれた荷物に入ってたみたい」 高校生の娘を一人で旅立たせるのは忍びなかったのだろう。 そうやって家族ごとここに来る人達もたくさんいる。 「よかったねぇ」 四門がそう言うと、遥はくすぐったそうに笑った。 「街中案内してたら、カルチャーショック受けてたよ……ボクが来たときは戦争の直後で酷い有様だったことも話した」 四門が来たのは、その戦争の真っ最中だった。ぼろぼろ泣きながら予知をして、戦場に出るみんなに心配をかけてしまった。 「見たいものも見たくないものも見えるフォーチュナの苦労はボクには計り知れないけど、少しでも、元気になってくれたらいいな」 「ありがとう」 四門は、笑顔を見せた。 ● 大山童掃討成功の報から、6時間後。 担当チームが帰還した。 「湊君、お待たせ。待ってた人たちが帰ってきた」 (ペッキか。四門にはイカ退治の時も貰ったっけ) 「イカの塩辛を練りこんだペッキ。チョコ代わりにイカ墨をお好みで、だそうだけど」 杏樹が差し出したのは、ポーションがついていた。 鼻を近づけてかいで見ると、塩のにおいがする。 山奥の壇示から帰ってくる途中、リベリスタはなぜか海産物がやたらと食べたくなる。 「おいしいか?」 塩辛ペッキをポリポリ。 「大人の味がします」 「意外といけるかも。でも塩気がすごいな」 杏樹は、自販機にコインを入れた。 「四門にもジュースを。見た目そうは見えないだろうけど、これでも年上だし、同じアークの先輩だからな」 「ごちになりますっ!」 なんか、飲み物とかおごられると後輩って感じがする。 「ペッキに合う飲み物が分からないけど」 「あっついお茶にしましょうっ。しょっぱいからっ」 熱いペットボトルをテーブルに置きながら、杏樹は言いたかったことを言う。 「いつも帰りを待ってくれてるから、頑張れる気がする。ただいま、四門」 「お帰りなさい、杏樹さん」 四門が発音すると、アンジュの響きが天使に似る。 綾乃の持ってきた箱は、ちょっと横に長かった。 (ふむ、ご当地物を欲しがるということは普段のものには飽きてきたのかな? まあ丁度いい。お土産はご当地ペッキなのだからね) 三高平市には、限定ペッキないんですよ。売りがないから。 「というわけで、海産物系の味詰め合わせを食べるがよい。イカ! タコ! あ、ウミウシは流石にないけれどナマコがあるな」 山奥の壇示から帰ってくる途中、リベリスタはなぜか海産物が以下同文。 「なんかコリコリしますよ。え、ツブツブ入り?」 うわぁい、磯臭い。 「うん? 珍しくない? そうか、ではこれを出さざるを得ないな」 なんだか不穏な外国語がみえましたよ? 「フォーチュナ的に危険を感じたので、お断りさせていただいてもいいですか」 じりじり下がる四門をがっちりホールドしつつ、注意書きを読み上げる彩音。 「そう、これこそが……えっと……屋内で開けないでください? そんな注意書きのある『シュール様味』ペッキだ」 「そんなバロックナイツ級危険臭気の発生源、地下に持ち込まないで下さいよっ!?」 セキュリティに、臭気物の持ち込み禁止の条項、至急追加請う! 「おっと、私のいる間は開けないでくれたまえよ。あと、犬とか嗅覚の強いビーストハーフがいる場所もダメだ。いいな、絶対あけるんじゃないぞぐわぁー」 ちなみに、そこでお茶飲んでいる杏樹さんは猟犬を持っている。 火まみれ蜂の巣にされたくないので、四門は自重した。 (構い過ぎてウザがられる系おっさん参上) 伊吹はなまじ見た目が二十代のままなので、娘さんは絶賛反抗期中。 (やり場のない愛情のはけ口を求めて不憫な子に会いに来た) 不憫な子は、この子でござい。 「どうした四門、何やらやつれているな。悩みがあれば聞くぞ?」 うぶえ~っと、泣き出すが口にはしない。守秘義務。というか、人として最後の意地。 「大山童の件では世話になったな。そら、土産だ。ご当地ペッキ、海産物味だぞ」 山奥の壇示から帰ってくる途中、リベリスタは以下同文。 「――ん、誰かと被ったか?」 「壇示帰りの方は、皆さんお土産が海産物味です」 「ふっ、だがこのペッキはそこらの物とはひと味違うのだ。超レア物のシーフードカレー味なのだ!」 「おおおおおっ!」 食いつきがいいペッキマニア。 「写メ撮ってペキラー仲間に自慢するが良い」 お土産が当りでどや顔のお父さんのような伊吹も写メに収めておくといいと思う。 どこかで、何かが光ったのはいうまでもない。 「うむ、なかなかいけるなまあ俺にはどれも同じ味だがどうだ、うまいか?」 間が持たないのか、ややうつむき加減で味見で中途半端にあいた小袋から次々とペッキを引き抜く口に運びながらしゃべる伊吹の不器用な様子に、思春期は脱しつつある四門は、コクコクとうなづいた。 「うむ、よかった」 よかった。と、伊吹はもう一度重ねて言った。 「そういえば四門、友達はいるのか?」 いないと答えられたらどうするつもりだったのだろう、この実年。 しかし、今日はその心配は要らないのだ。 「――出来た。さっき出来たよ。湊君。今日、アークに来たんだって!」 わやわやと集まりだしたリベリスタをおっかなびっくり見ていた新米君が、ベテランの輪の中に放り込まれた。 そして、六月病フォーチュナは、即席アークめぐりツアーのコンパニオンになった。 終わった頃には、腐った魚は掃討されていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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