●ジル、炎の妖精 真っ赤な髪に、オレンジの瞳。芸術品みたいな端正な顔立ち。水着に似た衣装を着用し、美しい肢体をこれでもかと見せ付ける彼女の腰からは、爬虫類の尻尾が生えていた。明らかに人ではない異界の存在。だが、誰もそのことに気付かない。 否、気にしない、と言ったほうが正しいか。 火の粉を散らしながら街中を歩く彼女に、通行人は皆、目を奪われ、魅了される。 老若男女問わず、皆の熱い視線を一身に浴びながら彼女(ジル)は、歩いていくのだ。これが当然、と言わんばかりの態度。事実、彼女にとってこのような光景は、実にありふれたものなのだろう。 幸い、というかなんというか。 彼女が現れたこの場所は、車乗り入れ禁止の商店街に似た区画だった。もし車の通行の激しい場所に彼女が現れていたなら、交通事故が多発していたことだろう。 「妙な所に出たけれど……。すぐ帰るのも勿体ないかしら?」 なんて、ジルは呟いた。楽しげに口元を歪ませて、周囲の景色を眺めている。どこか近くに開いているらしいD・ホールを潜ってこの世界へやって来たのだ。アザ―バイド、と呼ばれる存在である。 「数は多くないけど、妙な気配もいくらかあるし……。長居するべきではないのかもしれないけど。でも、この世界は面白いものねぇ。この気配、遭遇しそうになったら逃げるが吉かしら?」 それとも、喧嘩吹っかけてみるのも楽しいかしら? そう言ってジルはくすくすと笑みを零す。その度に、口の端から火の粉が散った。ジルの感情が昂るのに比例して、彼女の髪や体のあちこちから火炎が噴き出す。 その炎に引き寄せられるように、ジルの背後には人の列が出来ていた。まるで誘蛾灯だ。ジルに心酔したような人々の目。正気のそれではない。 見る者を強制的に魅了する魔炎。それがジルの本性である。 「あぁ、そうね……。追ってきたら、逃げるのが女の魅せ方かしら?」 ふらり、とジルの姿が掻き消える。 居なくなったジルを探すように、集まっていた人々もまた、ジルを探して三々五々と散っていった。 ●魔炎に魅せられて 「以上の通り、街に現れた彼女はアザ―バイド。ジル、と呼ばれる炎の妖精。その魔炎は人々を魅了し、自身の下僕と化すことができる」 美しい姿をしていても、彼女は人外の怪物だ。存在そのものが世界の崩壊に繋がる。歩く脅威、歩く異変。居るだけで異常事態である。 モニターに映った炎の妖精を見つめながら『』は溜め息を零す。 「悪意のある存在ではないようだけど、性格が面倒。遊び好きの気紛れ……。幸い、D・ホールは開きっぱなしになっているから、そこへ放り込んで送還して来てほしい」 今のところ人的被害も出ていない。言葉も通じるようだ。それなら、可能な限り双方穏便に事を納めたいではないか。 「もちろん、向こうが徹底抗戦の構えをとったり、一般人に被害者が出てしまった場合はその限りではないけど。討伐も止む無し、ね。彼女は炎を扱うようだから、あまり長く放置しておくと彼女の意思に関わらず火事が起きる可能性も無きにしも非ず……。消火活動が必要になるかも」 積極的に被害を拡大するような性格ではないだろうが、しかし、状況は刻一刻と変化する。現状、ジルはリベリスタの存在を知らないはずだ。とはいえ、ある程度リベリスタの気配を察知することはできるようである。 今後、彼女がどのような行動に出るかは分からない。 できるだけ穏便に、その上で臨機応変に対応してもらいたい。 「送還したら、D・ホールも破壊して来てね。街の近くに存在しているみたいだから」 そう言ってイヴは、仲間達を送り出すのだった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:病み月 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年06月14日(金)23:16 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●炎の妖精 誰もが降り向く美しさ。悠々と街中を闊歩する彼女は人間ではない。アザ―バイド、という異世界から来た存在だ。名前を(ジル)と言う。 燃えさかる炎のような髪。オレンジの瞳。そして、その腰から生えた爬虫類の尾。 見る者全てを魅了する魔炎を身に纏い、ジルは妖艶に微笑んだ。 ●炎に惹かれて 「やーん、一般人の人に迷惑をかけないでほしいです」 人垣に遮られ『メガメガネ』イスタルテ・セイジ(BNE002937)はそんな事を呟いた。彼女たちの進路を遮る一般人たちは、皆正気の目をしていない。恐らくジルの魔炎に魅了された者たちだろう。 ジルの指示でも受けているのか、その動作は明確にイスタルテ達の妨害をしている。 「冬真っ只中に来るならまだしも、こんな暑くなりかけの季節に来られても良い迷惑ですね」 暑苦しい、と『黒犬』鴻上 聖(BNE004512)がぼやく。それから、彼の目が怪しく光る。魔眼というスキルだ。魔眼でもって上書きし、魅了を解除していく。 とはいえ、数が多い。 「やーん」 気絶する程度の力で、一般人を殴りつけるイスタルテ。2人がこの人垣から脱出するまで、もう暫く時間がかかりそうである。 「目を奪われ、魅了されるほどの美女ねぇ……ん? 炎の効果だったか?」 物影に身を潜め、そっと通りの様子を窺う『悪童』藤倉 隆明(BNE003933)。通りを行き交う人々は、何かを探すように行ったり来たりしている。恐らく、ジルを探しているのだろう。 「悪意はないのでしょうけど……困った方でございますね」 溜め息混じりに『レディースメイド』リコル・ツァーネ(BNE004260)は首を振る。周囲の地図や店、建造物など参考にジルの行きそうな場所を探しているのだが、今のところ発見できていない。 それというのも、一般人の中にはこちらの邪魔をし、襲いかかってくる者も居るからだ。その度に、隆明が殴って気絶させている。 「無事見つかればいいんだがな…………っと、連絡だ」 AFを取り出し、仲間からの連絡を受けるのは『アッシュトゥアッシュ』グレイ・アリア・ディアルト(BNE004441)である。 相手側の言葉が聞こえた瞬間、グレイは「え?」と目を丸くした。 「ジルと一緒に歩いているだと?」 時間は数分程巻き戻る。真っ先に彼女の存在に気付いたのは『LUCKY TRIGGER』ジルベルト・ディ・ヴィスコンティ(BNE003227)だった。3班に分かれてジルの捜索をしていた彼らだったのだが、捜索開始早々にジルベルトはテラスで紅茶を飲むジルの姿を発見したのだ。 燃える髪、爬虫類の尾。間違いないだろう。仲間達と顔を見合わせ、とりあえずジルベルトが声をかけることにした。 「Buon giorno、ジル。俺様はジルベルト。運命感じるだろ?」 「誰? 何故私の名を……あぁ、なるほど。君らか、あの妙な気配」 紅茶を置いてジルは言う。楽しげに笑うと、ゆっくり立ち上がった。 「まぁいいわ。ここがどこで、何があるのか、教えて頂戴」 長い尾でジルベルトの頬を撫で、ジルはそう訊ねたのだった。 それから数分。この世界の説明をしながら、街を見て回る一行。ジルの魔炎に魅了された一般人が道を開けてくれるので、楽々と歩きまわる事が出来ている。 「おっと……。危ない」 ジルが撒き散らす火の粉を、慌てて空中で掻き消すのは『痛みを分かち合う者』街多米 生佐目(BNE004013)。炎の妖精であるジルは、少し動くだけでも火の粉を撒き散らす。建物などに引火しないよう、生佐目は消火活動に忙しい。 「これは花火というボトムの遊具にございます」 手持ち花火を1本、ジルに手渡す老人。名を『ヴリルの魔導師』レオポルト・フォン・ミュンヒハウゼン(BNE004096)と言う。 ジルは、受け取った花火の先端にふっと息を吹きかける。花火に火が付き、美しい火薬の花を咲かせた。 「へェ……。なかなか綺麗じゃない」 暫く花火を眺めていたジルだが、やがて大きく口を開け、花火の先端に喰らい付いた。驚いたような顔をする生佐目。もごもごと租借し、顔を歪ませる。 「火薬はあまり、美味しくないわァ」 飲み込んだ火薬を吐き出して、ジルは一言そう言った。 「さて……。話は分かったけど、でも私思うのよ」 「何が?」 と、聞き返すのはジルベルトだ。傍で聞いていたレオポルトは、嫌な予感に眉をしかめている。にやり、と笑ってジルは続ける。 「やっぱり目的は、苦難を乗り越えた末に達成してこそ、意味があるし、嬉しいものよね」 その言葉を最後に、パッと、ジルの姿が掻き消えた。唖然とする3人の頭上から、くすくすという笑い声が降ってくる。見上げると、そこには屋根の上からこちらを見降ろすジルの姿。 「まぁ、捕まえて御覧なさいな」 楽しそうにそう告げて、ジルは何処かへ逃げ出していった。 時間は数分、先へと進む。 ジルが逃げ出した、とそう連絡を受けたイスタルテと聖。進路を阻む一般人をやり過ごし、街中を駆けまわっていた。 正直、冷静でなかった、と言ってもいいだろう。 1度は見つけた異界の脅威が、逃げ出してしまったのだから。おまけに相手は逃げきるつもりでいるらしい。 焦ってしまうのも、仕方ないことだ。 「あら? もしかして、彼らのお仲間かしら?」 逃げ出したジル本人が、突然目の前に現れたとなれば、尚更……。 角を曲がった瞬間、頭上から降って湧いた炎の化身。美しい女性、ジルであった。探していた当人を眼の前に、イスタルテは困惑していた。 思わず振りあげた拳をどこへ振り下ろすのか。行く先が分からない。 「さ、最初はグー!」 そしてついに、混乱極まったイスタルテは、思わずジル相手にジャンケンを繰りだしたのであった。力強く握った拳を高く高く振りあげる。 「お?」 釣られて、ジルも同じように拳を握った。 「ジャンケンぽーん!」 振りあげた拳に力を込める。全身全霊をかけた渾身の一撃。力強く振り下ろされるイスタルテのグー。それと同時に、ジルの拳も振り下ろされた。 気合いと共に繰り出されたイスタルテの手は、グーのまま。 一方、ジルの手はパーの形に開かれていた。 「な、なんでこんなに簡単に負けるんでしょう?」 混乱は未だ継続中らしい。あたふたするイスタルテを押しのけ、代わりに聖が前に出た。衣服を脱ぎ始めたイスタルテを押し留めることも忘れない。 「野球拳ではありませんので……。止めてください、年頃の女性でしょう」 やれやれ、とあきれ顔。どうにかしてジルの気を引きとめたい。そう考えた聖は、ポケットから花火を1本取り出した。 「それはもう見たわ。あまり美味しくない火よね」 ふっ、と息を吐き出すジル。ジルの吐息が、花火に火を付けた。バチバチと音を立て火薬が爆ぜる。 「それじゃあ、私は行くから」 軽々と屋根に跳び移り、ジルはそのまま逃走を開始する。咄嗟に飛び出す、イスタルテ。リュックを投げ捨て、自前の翼で空を飛ぶ。 「おお? すごいわね」 ジルへ向け、彼女はまっすぐに手を伸ばす。イスタルテの指先がジルに触れる。直後、ジルの体を炎が覆った。炎を纏い、踊るように屋根の上を飛び跳ねる。舞い散った火炎が、建物や植え込みに引火する。 振り抜かれたジルの脚が、イスタルテの胴を蹴飛ばした。 「やーん!」 ジルの炎舞に巻き込まれ、イスタルテに引火。バランスを崩し屋根から落下するイスタルテを、聖が咄嗟に受け止める。 ジルへ向け、十字手裏剣を投げつける聖。狙い違わず、聖の投げた手裏剣はジルの脚へと突きささる。 「痛いわ……。けど、面白そうね。君達と喧嘩してみるのもいいかもね」 血液の代わりに、火の粉が噴き出す。ジルはそのまま、火の粉を撒き散らしながら逃亡。ジルの炎が、建物などに引火するのが見えた。 「消火するのが優先ですね」 やれやれと首を振り、炎を消すため、イスタルテと聖は消火器片手に、そこら中を駆け回ることになるのだった。 「おっと……。しくじったか」 舌打ちと共にAFを閉じる隆明。仲間達からの連絡を受け、ジルが逃亡、捕まえようとしたが失敗してしまったことを知る。 おまけに、先ほどから彼らの周囲にはジルの魔炎に魅了された一般人が集まって来ているようだ。 「悪く思うなよっ」 一般人の鳩尾に拳を叩き込むグレイ。気絶させ、無力化していくがいかんせん数が多い。 この一般人達は、恐らくジルの差し向けた妨害であろう。リベリスタ達から逃げる為に足止めとして使っているようだ。 「皆さん纏めて、無力化します」 正面に群がる一般人目がけ、リコルがワイヤーガンを射出した。吐き出されたネットが、一般人を纏めて絡め取る。 動きの止まった一般人の上を、隆明、リコル、グレイの順に飛び超えていった。一般人を踏み台に、高く飛び上がる隆明の目が、屋根の上でこちらの様子を窺っているジルの姿を捉えた。 「見つけたぜ」 「見つかっちゃったぜ」 にやりと笑うジル。リベリスタ3人と相対しても、余裕が窺える。それほどの実力を持っているのか、それとも単に舐めてかかっているだけか。 「ようネェちゃん、いい酒があるんだ……。ちょっと俺らと話さねぇか?」 「生憎、今はそういう気分じゃ無いの。それより、ちょっと運動しましょ」 パチン、と指を弾くジル。火炎の弾丸が、隆明目がけ射出される。火炎を回避し、隆明はジルへと突っ込んで行った。振りあげた握り拳を、ジルの胸へと叩きつける。 「あっぶないなぁ」 腕を交差させ、隆明の拳を受け止めるジル。燃えさかる炎が、隆明の腕を焼いた。 「本当に、困った方でございますね!」 ジルの背後に周り込んだリコル。大上段に振りあげた鉄扇を、渾身の力でもって振り下ろす。鉄扇はまっすぐ、ジルの肩へ。ミシ、と骨の軋む音がする。 顔をしかめ、屋根から落ちるジル。それを追って、グレイも屋根から飛び降りた。ボーガンを構え、その銃口をジルへと向ける。長い銀髪が風に踊った。凶暴な笑みを浮かべ、引き金に指をかける。 その直後、ジルの背筋に悪寒が走った。 「黒光に灼かれろ! ……ってな」 十字架のような形状のボーガンから、オーラを収束させた闇の矢が撃ち出される。放たれた矢は、空気を切り裂き、ジルの腹を貫く。 噴き出す炎。爬虫類の尾を振り回し、ジルは腹から矢を引き抜いた。 「思ったよりも強いわねぇ」 ジルの体が炎に包まれる。軽いステップで、闇の矢を回避。そのまま踊るように、グレイの胴を蹴り飛ばす。炎の軌跡を描き、舞い踊るジル。飛び散る火炎が、周囲の建物を焦がした。 「はい、ごめんね」 指を弾くジル。火炎の弾丸が撃ち出される。グレイの姿が炎に包まれた。瞬間、グレイの瞳が虚ろに変わる。どうやらジルに魅了されてしまったようだ。 「一気にいかせてもらうぜ……」 再度、オーラの矢を射出するグレイ。しかし、矢の先に居たのはジルではない。隆明だ。地面を転がり、矢を回避する隆明。矢が掠めたのか、隆明の頬から血が飛び散った。 「ちと乱暴かもしれんが……。まぁ加減はするさ」 グレイの矢を掻い潜り、隆明は地面を蹴った。握り拳は、そのまままっすぐグレイの頬に突き刺さる。 「撃破が目的ではないとはいえ……。厄介な」 リコルの頭上で、鉄扇が旋回。 これ以上被害が拡大しないよう、鉄扇での攻撃と、体を張った防御を繰り返しジルを喰い止める。 しかし、動くだけで火炎を撒き散らすジルのせいで、辺りには無数の火の粉が飛んでいた。 このままでは、この街が火の海へ変わってしまう。 最悪の光景がリコルの脳裏を過ぎる。嫌な汗が、リコルの頬を伝い落ちた。 ●ジル 建物に火が付いた。うっとりとそれを眺めながらジルは踊る。あっちへこっちへ、蝶のようにひらりと飛んだ。炎の翼を広げ、火炎を撒き散らす。 すっかり焼け焦げてしまったメイド服。頬や髪には煤が付き、それでもリコルは鉄扇を振り続けた。 加勢に加わりたくとも、グレイは魅了状態。隆明はそんなグレイを抑えているため、こちらへ来るには時間が掛かりそうだった。 「ペインキラーに切り替えていくつもりだ……」 虚ろな瞳で、グレイが呟いた。ボーガンに禍々しいオーラが収束していく。禍々しく、強大なオーラ。隆明の本能が、警鐘を鳴らす。 「まっすぐ行ってぶん殴る。目ェ、覚まさせてやるぜ」 元々好戦的な2人である。喜々として喧嘩しているようにも見える。 「火も消さないとなりませんのに……」 手数が足りない。リコルの口から、呻き声が零れた。 「火元はあそこです!」 声の主はイスタルテだ。すぐ隣には、消火器を担いだ聖も居る。千里眼を使用し、ジルの後を追って来たのだろう。 「これでもまだ、手が足りない」 消火剤をばら撒きながら、聖はそう呟いた。ジルがその場に居る以上、いくら火を消しても火の粉は飛び続ける。 聖の衣服はすっかり真っ白だ。ここに来るまでの間、何度も消火器で火の元を消して来たのだろう。 消火活動を聖に任せ、イスタルテはそっと目を閉じた。舞い散る燐光が仲間達を包み、その傷を癒す。回復が終われば、今度はグレイの受けた魅了の解除だ。 5対1。流石に分が悪いと判断したのか、ジルの表情に焦りが生じる。 「仕方ないかぁ」 はぁ、と溜め息を零すジル。 瞬間、ジルの体が業火に包まれた。 業火の中から現れたのは、爬虫類染みた形相をした、炎の魔人であった。トカゲの尾を振り回し、周囲に火炎をばら撒いていく。 「手加減してやるが、まぁ痛いぜ」 そう呟いたのはグレイであった。炎の魔人と化したジルへボーガンを向ける。番えられているのは、呪いを孕んだ禍々しい矢だ。轟音と共に、矢が放たれる。 「おっと、あぶなぁい」 業火を纏ったジルの拳。魔人と化したことで、その大きさや迫力の桁が違う。矢を打ち砕き、グレイへ迫る業火の拳だ。叩きつぶされる、と誰もが思ったその直後、拳とグレイの間に人影が飛び込んだ。 飛び込んだのは、生佐目だった。身体を張って、グレイを庇う。 「ここで遊び過ぎると、我々は、遊ぶ事ができないほどに燃えてしまうのです」 それほどまでに、ジルの炎は強力だ。炎に焼かれながらも、生佐目は刀を構えた。 「今日はジルを満足させにきたんだが、俺様にエスコートさせてもらえないか?」 ジルベルトが叫ぶ。二丁拳銃が連続で火を吹いた。放たれた弾丸は、しかしジルの火炎に焼き尽くされる。 「構わないわよ」 なんて楽しそうにそう言って、ジルはその炎の拳をジルベルトへと振り下ろす。それを回避し、ジルの胸へと弾丸を放つ。近づくだけで、燃えそうに熱い。吹き荒れるジルの炎を縫って、ジルベルトは彼女の真下へ回り込んだ。 「申し訳ございませんが、貴女が此処に留まる事がこの世界を壊す要因となってしまうのでございます…貴女を傷つけたくはありません。何卒、お帰り頂けませんか…?」 そう問いかけるレオポルト。その隣には、リコルが並ぶ。慇懃に、丁寧に、できれば争いごとなど避けて通りたいのである。 ただ、問題は……。 「もうちょっと遊びましょうよ?」 ジルからしてみれば、これは戦闘ではなく、単なる遊びでしかない、ということか。 大上段から振り下ろされるジルの拳。連続して放たれる火炎のラッシュが、レオポルトを焼く。魔弾で応戦するものの、しかしジルには届かない。否、届いたとしても炎を撃ち抜くだけで、ジルの身には届かない。 「これほどまでに、我々の世界は脆いのです……。どうか、お帰り願えませんか?」 生佐目の刀に、暗黒のオーラが巻き付いた。振り下ろされたジルの拳と、生佐目の刀が衝突。炎と闇が周囲に飛び散る。轟音と共に、ジルの拳が地面を砕いた。 「う……ぐ」 地面に倒れる生佐目。じわり、とアスファルトに血だまりが広がる。意識を失っているようだ。 一方、ジルは呆然と自分の腕を眺めていた。真っ黒い箱に囚われ、動かす事の出来ない腕を。 「今です!」 そう叫んだのはイスタルテだ。 それを合図としたかのように、ジルベルトが銃を構える。 同時に、隆明とレオポルトはジルの尾を掴み、動作を封じる。右腕を箱に、尾を隆明とレオポルトに捕まえられたジルは、身動きが出来ない。 「楽しい時間はあっという間だな。満足できたかい?」 銃声が1発。弾丸はまっすぐ、魔人の眉間を撃ち抜いた。 魔人の炎が弱まっていく。魔人の消えた後に残ったのは、額から血を滲ませたジルだった。 「やー、楽しかったわ! 君ら、強いね」 なんていって、朗らかに笑う。 それを見て、聖は大きな溜め息を零した。 「後は、早目に元の世界に戻ってもらうだけですね」 消火器も丁度、空になった。 消火器を投げ捨て、聖はぐったりと、その場に座り込むのだった。 「いやぁ、騒がせてしまったみたいでごめなさい。でも楽しかったわ。良い運動も出来たし、満足よ。機会があったらまた遊びましょう」 ひどくスッキリとした笑顔で、ジルはDホールへ飛び込んだ。ジルの姿が見えなくなったのを確認し、レオポルトがDホールを破壊。 ジルが暴れまわったせいで、死傷者こそいないものの、結構な数の家屋や植え込みが被害を受けたようだ。 「燃えた建物は…時村なら、時村なら何とかしてくれる…ッ 隆明の言葉が、虚しく響く……。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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