●笹の葉さらさら 初夏も過ぎて夏もいよいよと本番へと。 うだるような暑さは三高平市をも例外なく襲い外に居るだけで何をしないでもいても汗が噴き出してくる。 そんな暑さを忘れて少しでも楽しもうとアークでは一つの催しを行うことにした。 「で、七夕まつりなわけか」 呼び出されたリベリスタの一人が手渡されたパンフレットを見てそう一言。 開催日は勿論七月七日。場所は三高平公園でイベントに出店にとそれなりに準備が進んでいるらしい。 しかしそれだけではわざわざリベリスタ達がブリーフィングルームに呼ばれる理由はない。 「貴方達には当日、これを運んで欲しいの」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)がコンソールを叩くと一つの資料がリベリスタ達の端末に届く。 そこに添付されている情報によるとアークの保有する破界器(アーティファクト)の一つらしいのだが。 「これって、笹?」 「そう。名前は『小さな幸せの笹』」 今回はその特別な笹を七夕まつりの為に特別に貸し出してくれるそうだ。そしてその護送をリベリスタ達にお願いするというのが今回の依頼だ。 「別に難しいことじゃない。勿論運び終われば七夕まつりを楽しんで」 そう、これは依頼でもあるが七夕まつりへのお誘いでもある。 普段はエリューションやフィクサード達との戦いに明け暮れる日々。その中でこういう緩やかな一時もいいであろう。 リベリスタ達はもう一度手にしているパンフレットに目を移す。 『夏の空に輝く星々。一緒に眺めてみませんか?』 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:たくと | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 4人 |
■シナリオ終了日時 2011年07月16日(土)23:08 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 4人■ | |||||
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●笹の葉ゆれて 夕暮れ時に三高平市の一角を列をなして歩く一行がいた。 一行が列になっているのには訳がある。そう、彼らは今宵開催される七夕まつりで使う笹を運んでいるのだ。 「願いを叶えてくれるか。ロマンチックなアーティファクトだわ」 『みにくいあひるのこ』翡翠 あひる(ID:BNE002166)は列の最後尾で目立たぬようにこっそり笹を支えている。でも一列になって笹を運んでいる時点で実は注目の的だが彼女は幸いかそれには気づいていないようだ。 そうこうしている間に会場である公園が見えてきた。本格的な開始までまだ時間があるがちらほらと七夕まつりを楽しみに来た参加者が集まってきている。 「盛況みたいだな。もう明るい感情で溢れかえってる」 会場の入り口からでもそれがハッキリと分かる。それを感じ取りながら『Silver bullet』不動峰 杏樹(ID:BNE000062)はすっと空を見上げる。今日は雲一つなく良い星空が見れそうだった。 「良い賑わいだな、こっちも楽しくなってくる」 笹を担ぎながら『首輪付きの黒狼』武蔵・吾郎(ID:BNE002461)は周囲を見渡す。出店からは既に良い匂いもあがり始めてこれぞ祭りだとそう感じた。 「わあ、これが七夕まつりかぁ……って、僕なんで笹ごと抱えられちゃってるの?」 「ははっ、楽チンでいいじゃん!」 少年の頃の姿の幻想を纏った『千歳のギヤマン』花屋敷 留吉(ID:BNE001325)は目を輝かせながら屋台やのぼりに提灯を眺める。ただその視界は何時も以上に高いところにあった。 留吉と同じく高い視線を保っている『駆け出し冒険者』桜小路・静(ID:BNE000915)は何時もと違う視点を楽しむ。 「やはり庶民の催しは賑やかだな」 その留吉と静を肩に担いでいるのは『王様の夏、日本の夏』降魔 刃紅郎(ID:BNE002093)だ。因みに彼は既に浴衣姿。王である彼は借り物でなく自前であるのが嗜みなのであろう。 「はふー。静殿、留吉殿……なんて、可愛らしいっ!」 「落ち着け。笹が擦れるぞ」 はしゃぐ二人の姿に悶えている『蜥蜴の嫁』アナスタシア・カシミィル(ID:BNE000102)に、『汝、我が胸に抱かれ囁けガイアよ』司馬 鷲祐(ID:BNE000288)は苦笑しながら軽く注意を促す。 「羨ましいな。私もあの人と来たかったなぁ……でもお仕事お仕事! お祭りも命一杯楽しもう!」 軽い夫婦の絡みを見せられてがっくり肩を落とす『ラブ ウォリアー』一堂 愛華(ID:BNE002290)だが、すぐさま気を取り直して心を躍らせる。 祭り会場の真ん中を進み、リベリスタ一行は漸く笹の設置場所にたどり着いた。祭りの運営係がそれを受け取るとぽっかりと明いた広場の真ん中に設置に向かう。そしてリベリスタ達には折角ですからと笹に吊るす為の短冊が渡された。 「……刃紅郎、これは何をすればいいんだ?」 短冊とペンを手にして『影使い』クリス・ハーシェル(ID:BNE001882)は首を傾げる。彼女は日本の祭りは初めてで全く勝手が分からないらしい。 やれやれと言わんばかりに刃紅郎は七夕についてを説明してやる。王とは博識なものなのだ。 そうしている間に一番に笹に短冊を吊るすのは『運命狂』宵咲 氷璃(ID:BNE002401)だった。 ただ、何時もとは違いゴスロリ服でなく浴衣姿だ。蒼銀色の髪を結い上げ、片手には暑さを凌ぐための逆十字の模様の入った団扇でパタパタと自分を扇ぐ。 「たまにはこういうのもいいと思うわ」 己の短冊を一瞥して氷璃は祭りの雑踏へと足を向けた。 「よし、それじゃあ七夕まつりを楽しもう!」 短冊を飾り終えたリベリスタ達はそれぞれに祭り会場へと向かう。 『来年も賑やかな七夕になりますように』 『鷲祐がこれからも元気で、怪我もせず、笑った顔を見せてくれますように』 『大切なものが見つかりますように』 『フツがずっとずっと、健康でいられますように』 『彼と共に笑顔でいられますように』 『あの女に一泡吹かせられますように』 『気の合う奴と末永い付き合いを』 『嫁と一緒にいられるように』 『皆が幸せでありますように』 残された笹に飾られた短冊は風に揺れてくるりと回る。 すると笹に吊るされた短冊が僅かだが淡い光を放ちだした。 ●祭りは賑やかに 屋台の並ぶ一角には人が集まり賑やかな雰囲気を作っている。 留吉は首に下げたがま口財布に触れちゃりちゃり音を立てながら視界に収まる出店を指差して言う。 「ふっふっふ、あひるくん。どれが食べたい? おにいさんに言ってごらんっ」 奢ってあげる気満々で隣を歩くあひるに訪ねる。あひるは笹の護送までは三つ編みをしていた髪型を纏めておだんごヘアにし、服も山茶花柄の浴衣へと着替えていた。そして少し赤い顔でぷるぷると頭を振っている。 「あひるくん?」 「ひゃ、ひゃいっ!」 どうやら自分の声が聞こえていない様子に留吉がもう一声かけるとあひるは少し飛び上がって答えた。 声無く慌てるあひるのその様子に笑いながら留吉はリンゴ飴の屋台を指差す。 「一緒に食べよ?」 「……ええ。食べて食べて食べまくって。目指せ屋台制覇よ!」 調子を取り戻しりんご飴の屋台へ走るあひる。その途中にあったわた飴の屋台にも目を奪われたりと彼女はとても忙しそうだ。 そして結局あひるはりんご飴とわた飴を両手に持ってホクホク顔だ。 「隙ありー! ……ふふ、油断したね?」 留吉は自分の分を器用に片手で持って空いた手でカメラを構えていた。そしてわた飴をはむはむ咥えていたあひるを写真に収めこちらもホクホク顔になる。 騒がしくも和やかな雰囲気で二人はまた次の屋台を探しに歩き始めた。 その二人から一つ屋台の通りを隔てた側を歩くのは杏樹と静だ。 杏樹は普段の修道服とは違い白に赤い金魚が泳ぐ浴衣へと着替えていた。 「七夕か。私も幾年月たっても会いたいと思える人に出会ってみたいな」 日も沈み夜空に輝きだした天の川を見上げて杏樹はポツリと呟いた。今あの川の橋の上で織姫と彦星が逢瀬を楽しんでいるのかなと考えながら。 「杏樹さん?」 名を呼ばれてそちらを向けば不思議そうな顔で自分の顔を見る静と視線が合う。 「いや、何でもない。それより何か食べようか」 「おう、もうぺこぺこだからさ。腹一杯食べようぜ!」 ニカッと口元を上げ笑った静は先を走り美味しそうな香りのする屋台を片っ端から覗く。その様子に微笑を携え杏樹はその背中を見失わないように追いかけた。 屋台通りのすぐ近くには落ち着いて食事が出来るようにと簡易ながらテーブルとイスが用意されている。その一つに大量の食べ物が詰まれた席があった。 「どう、鷲祐? 美味しい?」 藍染の生地に三匹のコウモリが舞う浴衣を着たアナスタシアはリンゴ飴にカプリと噛み付きながら目の前に座る鷲祐に問いかける。 並べられたたこ焼きやヤキソバ、焼き鳥にフランクフルトなど熱々で美味しそうな料理を黙々と食べていた鷲祐は一度手を止めて口の中の物を飲み込んでから答える。 「ああ、嫁と一緒だしな」 「はふふ、あたしもー♪」 完全に二人の世界を作り出す夫婦。ただこの場ではそれを悪く思う者は居ないだろう。今日は七夕で空の恋人を祝福する日なのだから。 「食べ終わったらちょっと散歩しよっか」 「ここに目新しい場所なんてないぞ?」 自分の家がすぐ近くにある鷲祐にとってこの場は庭のような場所だ。勿論アナスタシアにとっても見知った場所になる。 「はふふ、それでもいいの。あたしが鷲祐と散歩したいんだよ」 「……分かった」 何時の間にやら食べ進めており最後の一口を口に放り込んだ鷲祐は立ち上がる。アナスタシアも食べ終えたパックなどをゴミ箱に捨ててすぐに鷲祐の隣に並んで腕に抱きつく。 「はふー、それじゃ行こっ」 「ああ」 二人はそのまま七夕まつりの会場をのんびりと歩きだした。 「で、やっぱり夏と言えばこれは欠かせないな!」 カキ氷屋の前で腕を組んで頷く吾郎は店主にカキ氷を注文する。 「吾朗さん沢山食べるね。さっきもトウモロコシとお好み焼き食べてたし」 黒地に青い蝶が飛ぶ浴衣を着た愛華が感心したように言葉を溢す。 「祭りを存分に満喫したいからな。ほら、愛華も食いな」 吾郎は赤いイチゴシロップの掛かったカキ氷を愛華に差し出し、自分は普通のものより随分と大盛りの黄色いレモン味のカキ氷を掻きこむ。 時折コメカミをトントンと叩きながら二人は屋台の間を抜けていく。その一角で吾郎は足を止めて一つの屋台を指す。 「よし、運試しでもしていくか。愛華もどうだ?」 そこにあったのはくじ引き屋。吾郎は店主にお金を渡し籤の入った箱に手を突っ込む。 引いた籤を開くと『6等』という文字。景品は回すと光るヨーヨーだ。 「あー、ちょっとハズレたな」 「あはは、私はちょっと当たりかも」 どうしたものかと頭を掻く吾郎にくすくすと愛華は笑いを溢す。その手には黒い漆塗りの柄をした扇子。それを開くと数匹の蝶が舞う姿が描かれている。 「さっ、次はあっちを回ってみましょ!」 ここは射的の屋台。この祭りで一番大きな景品を置いてある人気の屋台だ。 「強敵だな」 「というか落ちるのかなアレ?」 杏樹が目標を確認して相手を難敵だと認める。その隣で銃にコルクを詰める静はもっともらしい疑問を呟いた。何せその景品のぬいぐるみの大きさが自分の身長と同じくらいに見えるのだから。 周りで他の客が試しに数発撃ってビクともせずに早々に諦めているのが見える。それでも杏樹は諦めずに目標へと銃を構えた。 リベリスタとしての力を使うわけにはいかないが日頃の鍛錬の賜物か、重心を見切りそれを崩すように一点集中でコルク弾を飛ばす。 ざわめく観衆。あの微動だにしなかった巨大ぬいぐるみが僅かに揺れたのだ。 「……難しいな」 しかし、その一回でこの手では落ちないと悟り杏樹は唸る。 「梃子摺っているようだな」 と、後ろからかけられる声。振り向けば腕を組み仁王立ちをした刃紅郎が居た。 その隣には割り箸の棒を咥えたクリスも居る。その視線は今しがた揺れた巨大ぬいぐるみに向けられていた。その目が輝いているのは気のせいではないだろう。 「静よ。共同戦線だ――落とすぞ」 「……あぁ。了解だ!」 突然に声をかけられ一瞬呆けた静だがすぐに意図を知りニッと笑って返事を返す。 数分後。屋台の一角で大きな歓声が生まれた。 祭り会場にて日傘を差す氷璃は周りより少し目立っていた。しかしそれを気にすることもなく片手に傘を、もう片方に少し膨らんだ袋を手にして会場を歩く。 そして公園に備えられたベンチの一つの前に立ち止まった。そしてその正面に腰掛けていた少女に声をかける。 「Bonsoir……始めましてね。私は氷璃、宵咲氷璃よ」 「? ……ああ、リベリスタの方ですか」 少女――月河 瑪瑙は無表情でぺこりと頭を下げた。彼女はアークに所属するフォーチュナになりたてのひよっこだ。 ここで話すのはなんだと氷璃は瑪瑙を適当な場所に誘う。瑪瑙はそれに一つ頷いてその後に続いた。 「大根、タマゴ、ちくわ。あと黒はんぺんをお願い」 氷璃が選んだのはおでん屋。そしてさっそく席に着き注文をする。瑪瑙も適当なものを頼み暫くは箸でつつく。 「黒狼に関して、幾つか聞きたい事があるのよ」 「構いませんよ。答えられる限りですが」 冷たい水をくぴくぴ飲みながら瑪瑙は頷いた。すると氷璃の目の前にホログラムウィンドウが浮かび幾つかのデータが表示される。 データを確認しそこで浮かぶ質疑に瑪瑙は淡々とだが丁寧に答える。 「つまり、黒狼は同種であり別固体なのね?」 「はい。最初の事件の死体はアークで処分しましたから」 解を得て氷璃は思考を巡らせる。その頭の中では如何なる考えが生まれているのだろうか。その隣で瑪瑙は特に何をするわけでもなく氷璃の横顔を眺めていた。 「……何してるの?」 「な、何って……えと、ど、どちら様だったかなー?」 屋台を物色していたエリスはある集団に遭遇していた。幼い少女が一人と少女より少しばかり年上……12~3歳くらいの少年が一人。その内で少女の方にエリスは見覚えがあった。 少女の方は素早く頭にかけていた猫のお面を被るが既に顔を見られているのであまりにも遅すぎる。隣にいる少年もあっちゃーと言わんばかりに頭を抑えていた。 「ねっ、だから不味いって言ったじゃないか。早く退散しようよ」 少女の浴衣の袖を引き少年は場を後にしようとする。エリスはそれを見てピコンと髪の毛の一部を動かした。 「チョコバナナ」 「えっ?」 エリスの言葉に少女が反応する。 「チョコバナナ奢ってあげる」 「ホント! わーい、それじゃあ早速行こっ!」 「た、隊長ー!」 着いて来いと言わんばかりに歩き出すエリスの背中を少女は喜んで突いていく。それに少年の方も会われて後を追いかけていった。 ●煌めく川に花は咲いて 時は流れて七夕まつりもそろそろ終了の時間が近づいている。 リベリスタの数人は最後の催しを良い場所で見ようと鷲祐のツリーハウスに集まり花火のあがる窓際に集まる。 そして咲き始める夜の花。赤、青、緑と空の一部の色を変えてしまう。 「くわわー! たーまやー」 日本ではお決まりの掛け声を叫ぶあひる。その隣に居る留吉は声は出せないもののその輝きと彩りに目を輝かせてただ見惚れている。 「かぎやー!」 吾郎も花火があがる度にやんやと囃し立て声を大にして掛け声を上げる。 「やっぱり日本の夏って面白い……ねっ、鷲祐?」 隣で冷えた飲み物を飲む鷲祐にアナスタシアは笑みを向ける。鷲祐は優しげな視線だけでそれに是と答えた。 「ほら、沢山買ってきたし皆も食べてくれな」 「ジュースも沢山買ってきたよ」 そう言って杏樹はテーブルにたこ焼きやヤキソバを並べて笑みを浮かべる。両手に袋一杯の缶ジュースを手にした静も同じく笑顔だ。 「今度は疾風さんと一緒にきたいなぁ」 空へと思いを告げる愛華。それが空の二人に届いて叶えてくれるかもしれない。 公園にある池の畔。空が開けたその場所で空に上がる花火を見上げる人影が二つ。 「花火か。風流なものだな」 「綺麗だな……こんなに感動したのは久しぶりだ」 空を見上げる刃紅郎とクリス。背の関係からか隣に立つクリスには空にあがる花火と刃紅郎の横顔が同時に見える。 クリスはなんとなく、ただ心と体が望むままに刃紅郎の手に触れた。そしてそっとその手のひらに自分のものを合わせる。 刃紅郎は一度視線を落とすが何も言わずにまた空を見上げた。 「着て良かった……来年もまた一緒に花火を見よう」 「ああ……約束する。王は約束を違えぬ」 花火が咲き終わるまでの間二人はその手を繋いだままその時を過ごした。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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