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<三ッ池公園特別対応>魂が落ちるとき

●ソードレイン
「『楽団』の次は『親衛隊』か。アークも休む暇がないな」
「まぁ、それだけ連中に注目されてるってことだろ?」
 そんな会話を続けながら夜の公園を歩くリベリスタ。テレパスと暗視の加護を持つチームは、公園の見回りに最適である。
 ここは三ッ池公園。かつての戦いで『閉じない穴』が開き、危険な存在が跋扈する場となっていた。また『穴』による騒乱もあったためアークはこの公園の維持のために、かなりの人員と防衛費を割いていた。
「何もないのはいいことだけど、たまにはフュリエみたいな女性アザーバイドが落ちてこないかなぁ。ブルマの」
「引くわー。昭和リベリスタマジ引くわー」
「……あれ? あそこに誰か立ってね?」
 リベリスタの指差す先に、一人の少女が立っていた。先も言ったとおりこの三ッ池公園は『穴』の影響により危険な存在がいるのだ。アークによる封鎖も行っており、ただの一般人が倒れているはずがない。とすればあれは……。
「運命の輝きは、ない」
「ノーフェイスか」
「チャイナ服か。ブルマじゃないとかどーよ」
「どうでもいいです。本気で」
 ふざけあいながらも破界器を構えるリベリスタたち。彼等も公園哨戒を任されるほどの実力者である。エリューションの見かけで油断するほど愚かではない。
「チーム『ソードレイン』、哨戒中にノーフェイスと遭遇。これより撃破に移る。場所は――」
 幻想纏いでアークに連絡を入れるリベリスタ。その間に回復役を守るように展開する。オーソドックスだが、大半の相手には有効な陣形だ。
 だがしかし――

●アーク
「チーム『ソードレイン』からのレポートはここで終わりだ」
『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)は集まったリベリスタ達に向かって、説明を開始する。
「アイツら、無事なのか?」
「そいつを含めて今から説明する。正直危険なミッションだ。スペック的なものではなく、メンタル的な面で」
「メンタル?」
「結論から言えば『ソードレイン』は生きている。だがその心は砕かれ、リベリスタとして再起するのは難しいだろう。
 お前達、ノーフェイスがなんなのか知っているか?」
「……革醒時に運命の加護をを得られなかった人間」
 唐突な質問に一部のリベリスタが何をいまさらと言う顔をし、別の一部が苦々しい表情で答える。
「そうだ。そして革醒時に運命を得たがそれを喪失した者もノーフェイスになる。
 あのノーフェイスはお前達に『運命の加護を失い、ノーフェイス化した自分』という幻覚を見せてくる。我欲に溺れ、それを叶える力を得る。そんな幻覚だ」
 ざわめくリベリスタたち。
 それは戦い続ければいつか自分がそうなるかもしれない未来。
「『万華鏡』による予知を開始した結果、そのノーフェイスとの遭遇場所を予知できた。お前達にはそこに向かってもらいたい。
 おそらくテレパスによる精神感応を利用しての幻覚だ。一度打破すれば互いに精神的に繋がっている為相手の心が折れる。そうなれば二度と同じ幻覚は使えないだろう」
「一度……ねぇ」
 その一度が大変なのだ。それは伸暁だって分かっている。相対するのは革醒者なら誰もが危機する自分自身のバッドエンドなのだから。
「面倒だな。『親衛隊』が狙っているこの時期に」
「そのあたりは『万華鏡』で十分にチェックした。連中が乱入する確率はゼロだ。だからといって楽な相手(オポーネント)ではないがな」
 リベリスタたちはモニターに写るノーフェイスの姿を見て、伸暁の言葉を理解する。そこに写るのは六道のフィクサードだったナイトクリークの姿。その戦い方と性格に怒りを覚えるリベリスタもいる。
「幻覚に打ち勝ったすぐ後でノーフェイスとバトルするのはハードだぜ。何人幻覚を打ち破れるか分からないからな」
「今回は幻覚を打ち破ることだけに集中しろってことか」
「YES。相手の切り札(カード)を打ち破れると思えば悪い戦いじゃない。
 任せたぜ、リベリスタ」

●落魂陣
 運命の加護を受けた革醒者は、世界に愛される恩寵を用いて死の運命を回避できる。
 だがそれは世界の法則に反すること。故にいずれは世界から愛想をつかされ、世界の敵となる。世界を滅ぼす因子となり、いずれ世界は崩壊するだろう。
 自分がそういう存在になったと気づいたのは、いずれそうなるだろう覚悟があったからだ。革醒者の世界で兵士として戦い、明日死ぬかもしれない世界の中で使い潰された。それはよくある話だ。
 六道紫杏という娘がいた。聡明だが世間知らず。六道頭首の異母姉妹という立場もあるがキマイラと呼ばれる研究により六道という組織内でもかなりの権力を有していた。彼女の傘下に入ったのは、有り体に言えば大樹に寄ってしまおうという程度だ。適当なところで裏切るつもりだった。
 だが六道紫杏はその師匠である『教授』の策により組織を離れ、その配下のものはアークとキマイラの戦争の中に『教授』の部下により殺害された。そのとばっちりを受ける形で自分も胸を貫かれた。
 かくして六道紫杏の庇護を失い、何よりもそのときの傷で運命の恩寵を失ってしまえば六道に戻ることなど叶わない。世界の敵として、六道の裏切り者として、逃亡生活が始まる。全てに裏切られたのだ。

 だが、そんなことはどうでもよかった。
 ノーフェイス化して得た力は、運命に愛されていたときよりも多様でそして強いものだったのだ。

 幸いなことに、当時は『楽団』と呼ばれる組織の対応に手一杯であったため組織的な討伐隊は組まれなかった。それによりフェーズ進行の時間を得ることができた。
『穴』の影響で発生した不安定な磁場が、通常よりも強くフェーズを進行させるのだろう。皮肉な話だ。六道紫杏が得ようとして得られなかった恩恵を、こんな形で自分自身が受けることになろうとは。
「ケケッ! オメーラ、アークのリベリスタダナ? 運がなかったと思イナ!」
 ――そのノーフェイスの名は『チャプスィ』。



■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:どくどく  
■難易度:HARD ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年06月12日(水)23:50
 どくどくです。
 バッドエンド一つ、お届けします。敵はアナタの未来です。

◆勝利条件
『落魂陣』の幻覚から立ち直ること。
 4人以上立ち直れば、成功です。

◆敵情報
『チャプスィ』
 ノーフェイス。フェーズ3。元六道のフィクサード。
 拙作『<三ツ池公園大迎撃>呑口、闇に開く』で受けた傷でノーフェイス化しました。本作品においては『落魂陣』の使用者という程度の存在です。知らずとも問題はありません。
『落魂陣』展開時は彼女も行動ができませんので、攻撃を仕掛けられることはありません。

『落魂陣』
『チャプスィ』と精神的に繋がり、ダイレクトに『ノーフェイスになった自分自身』の幻覚を見せられます。バッドステータスではないため、BS回復スキルなどでの回復は不可能です。
 幻覚の中であなたはノーフェイスになります。
 例えば、力を求めていたものは進行性革醒現象により圧倒的な力を得て他者を蹂躙することができるでしょう。
 例えば、愛する者がいたものはその人を増殖性革醒現象により力を与え、共に世界を支配できるでしょう。
 例えば、エリューションとしてかつての仲間に狩られるでしょう。
 例えば、崩界する世界の要因となるでしょう。
 それが幻覚であることは理解できますが、深い絶望と失念は避けれません。
 幻覚の中で死を選べば、心は救われますが肉体的に傷を受けます。大ダメージを受けて、立ち直れなくなります。フェイト復活? あなたはノーフェイスです。できません。
 幻覚を受け入れたなら、肉体は救われますがリベリスタの心が折れます。カオスゲージが大きく減少し、立ち直れなくなります。
 死を選ばず、しかし矜持を失わず。大切なのは幻覚を見せられた後、どう立ち直るかです。

 プレイングには『ノーフェイスとなってどんな幻覚を見たか』『その後どういう方法で立ち直ったか』を書いてください。書かなかった場合、どくどくが自己判断します。
 なおこの依頼はハード依頼です。プレイングの他にステータスシートやあなたが今まで参加した依頼なども参考にさせてもらうかもしれません。あらかじめご了承ください。

◆場所情報
 三ッ池公園内。かつてキマイラとの戦いがあった場所。
『ソードレイン』は近くの茂みで忘我しています。
『チャプスィ』と10メートルの距離を離して相対しています。不意打ちに近い形で『落魂陣』が展開されます。

 皆様のプレイングをお待ちしています。

参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
インヤンマスター
朱鷺島・雷音(BNE000003)
ナイトクリーク
犬束・うさぎ(BNE000189)
クリミナルスタア
エナーシア・ガトリング(BNE000422)
クロスイージス
★MVP
ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680)
デュランダル
阿野 弐升(BNE001158)
スターサジタリー
雑賀 龍治(BNE002797)
クリミナルスタア
晦 烏(BNE002858)
スターサジタリー
靖邦・Z・翔護(BNE003820)


『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)は運命を失い、逃亡していた。
 ノーフェイス。世界を滅ぼす因子となり、リベリスタに狙われる存在。
 背中の羽一枚一枚にインヤンマスターの力が込められている。羽一片がリベリスタであったときよりも強く鋭い付与と不幸を与える。空を舞い、羽を降らすだけで革醒者の群れは息絶え、あるいは石像と化した。
 無力を嘆いていた少女は、運命の加護を失うと同時に力を得た。誰かを守れる力。誰かを支える力。
「でも、ボクはもう運命が無い」
 その事実が彼女の心を苛み、さらにフェーズを進行させるなど誰知ろう。転がるように状況は変化する。彼女にとって、最悪の方向に。
「……ああ」
 来ると思っていた。自分を殺すのは、この二人だと信じていた。
 血の繋がっていない父と兄。
「……お願いします、ボクを殺してください」
 彼等の心の中に残るのなら、殺されてもいい。

 首吊り狸。それがそのノーフェイスに与えられた名称だった。
 無害な格好をして誘い出し、気がつけばそのものの首を吊っている。元アウトサイドのナイトクリークである『夜翔け鳩』犬束・うさぎ(BNE000189)が運命を全て失い、ノーフェイスとなったモノ。
 その足元に転がる無数の骸。
 うさぎの知人だった者、友達だった者、想い人だった者。
 心配してくれた者、逃がそうとしてくれた者、味方になるといってくれた者。
 それら全てを無表情に見下ろしていた。
「これでもう……」
 これで苦しくない。苦しくない。後ろめたくない。
 自分を縛るしがらみは全て消し去った。これでもう、遠慮をする必要がない。心をなくし、獣と化す。
 そこにいるのは闇に生きる暗殺の獣。

『群体筆頭』阿野 弐升(BNE001158)は運命を失ってもなお戦い続けていた。
 右手にギロチンの刃、左手にチェンソー。凶悪かつ巨大な刃はその重量だけで首を切り取る。ノーフェイスになってその刃を軽々と扱えるようになり、デュランダルだったころよりもはるかに強い破壊力で敵を凌駕していた。
 かつての同僚が、友が、仲間が、知り合いが、知らないものが。運命を失った弐升に襲い掛かる。それら全てを一蹴し、打ち砕き、砕いた。
 圧倒的な力。それを振るう歓喜。破壊そのものによる爽快感と、破壊によって生まれた悲劇を楽しむ心。
 何よりも、これで死ぬまで戦うことができるというバトルマニアとしての到達点。
「悪くない。むしろ上等だ」
 刹那的かつ直情的に自らの状況を受け入れる弐升。
 灰色の修羅は血まみれになりながら刃を振るう。

 雑賀衆というのは紀伊国(和歌山)にある集団の総称である。戦国の世の中に生まれた集団で、高い軍事力を持つもそれを解体しようとする権力の動きにより歴史に消えていった。
 歴史は繰り返すのか。『八咫烏』雑賀 龍治(BNE002797)もまた、アークにより狙われていた。説得に応じず、アークを離反した愛する人を連れて、逃亡する。
 ノーフェイスとなった龍治は、擬似的なフォーチュナ能力を得ていた。見える未来は精々一秒。だがしかしその能力が様々な危機を察知し、そして射撃の精度を上げていた。その隻眼に狙われた瞬間、もはや死は逃れられぬ。
 並のリベリスタでは太刀打ちできない射撃の腕。その傍らには愛する人。
 二人でどこまでも行ける。どこまでも逃げよう。
 だがこの逃亡劇の結果は見えている。
 リベリスタに二人とも討たれるか。あるいは自らが愛する人を手にかけるか。
 歴史は繰り返すのか。

『SHOGO』靖邦・Z・翔護(BNE003820)がノーフェイスとなって生まれた欲望は、ウェットなものだった。
 後悔の記憶を消すように、自分がたどってきた足跡を遡っていた。自分のへまで焼いた村。泣いている女の子。古い洋館。沖縄の空港。自販機一時廃棄場……。破壊を行い、殺しを行い、全てを消すように翔護は動く。
 それ故に追っ手に出会うことも多い。アークの仲間もいた。翔護の友人もいた。かつて肩を叩き合った者が破界器を持って襲い掛かってくる光景は……実のところ特に感慨を生まなかった。
「クールにいこうぜ。言ってるだろうクールなものは救われるって」
 カードデッキが音もなく翔護の周りを飛び交う。近づくものには刃となって切り裂き、遠くにいるものには弾丸を死角から叩き込むための反射板となり。翔護本人が狙われれば魔力壁を形成して、盾となる。
 カードと銃。怜悧に残酷に翔護は歩いていく。

 永久凍土といってもいい程の寒さの中、『T-34』ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680)は黙々とナイフを振るっていた。
 リベリスタであったときもそうであったように、ノーフェイスとなったウラジミールはノーフェイスを狩っていた。
「バカな、俺達は同族のはず!」
「それが私の任務だからだ」
 胸のドッグタグを握りしめ、自らを律するように今トドメを刺したノーフェイスに告げる。
 だが分かっていた。たとえ自分が世界の敵しか攻撃しないとしても、リベリスタは自分を許容したりはしないだろう。
 ノーフェイス化して得た故郷の心象風景。極寒と吹雪による視界妨害。それによるゲリラ的な戦い。だが『万華鏡』はそれを打ち破る精度を持ってウラジミールを追い詰める。
 交戦の果てにかつての仲間を殺し、矜持を失う。
 守りたいものなど、はるか昔に失っていたのだ。
 矜持も誓いも、全て零れ落ちていた。

「ノーフェイスにかぁ。外道の類だがおじさん嫌いじゃなかったけどねぇ」
『足らずの』晦 烏(BNE002858)は落魂陣に捕らわれる前、『チャプスィ』と視線が交錯する。そのまま幻覚に意識を捕らえれ――
「……崩界した世界か」
 空は血のように赤く、大地は生物の血が固まって赤い。全ての生命が息絶え、世界が壊れていく様を烏は見ていた。
 それを行ったのは自分ではない。確かに崩界の要因になるほど強力な個体になった。『二重スパイ』と呼ばれる独特のスキルにより警戒心を薄め、隙を生む射撃手。戦闘においても二重の烏が戦場に存在し、息のあった波状攻撃で数多のリベリスタを葬ってきた。、
 だが、それでも勝てぬ相手がいた。
「『R-TYPE』……」
 全てを捨てて力を得ても勝てない相手。運命を捨て、仲間を失い、それでもなお勝てぬ絶望。
 意識は静かに、暗い海に沈んでいく。

『BlessOfFireArms』エナーシア・ガトリング(BNE000422)は一杯のコーヒーと共に午後のまどろみをかみ締めていた。苦い味が口に広がる。
 重火器の祝福を持つ彼女がノーフェイス化し、半年の年月が流れる。神秘世界の軍事パワーバランスは一変し、エナーシアが所属するノーフェイスの国は世界の三分の一を支配していた。
 かつての仲間は全て屍と化すかノーフェイスとなり、それを脅威と思った欧米諸国は団結。ヴァチカンを中心に世界は一つになった。
「なんて素晴らしいことなのでせう」
 創造主の元に人類が集い、人間同士で戦う愚行がなくなったのだ。これほど喜ばしいことはない。
 ならば私は世界の敵でいましょう。
 硝煙の香が、鉄の弾丸が、重火器の祝福が世界を救うのなら、私は喜んで世界の敵になります。
 神秘の力を持たないノーフェイスは世界のために世界の敵となる。


「違う……」 
 雷音は唇をかむ。これが幻覚だということは分かっている。雷音はリベリスタだ。
「ボクは帰るんだ! 大事な人の元に!」
 それが雷音の大事なもの。戦いを恐れながらも立ち続けてきた彼女の矜持。リベリスタとして戦う理由。
 折れて屈し、そして立ち上がる心。
『オマエはその家族になんて言っタンダ?』
 その心に響く声。自分を殺しにきた兄と父になんと言った? 殺してくれ、とそういった。
『家族の顔を見てミロヨ。オマエは大事な人を傷つけタんだゼ!』
 みれば家族の顔は苦痛に歪んでいる。家族に『殺してくれ』と頼まれて平静でいられるものがいようか。その愛が深ければ深いほど、その傷は深い。
 ましてやその一言は、彼等の心に残りたいという雷音のエゴからの言葉だ。
「ああ……」
 これが幻覚だと分かっている。でも本当の『家族』はきっと同じ顔をする。ボクは、大事な家族を、傷つけてしまった。
「ああああ……!」
 心は再び折れる。大事な人への愛ゆえに。

 たとえ家族を全て失っても、
「はは、畜生。そういやそうか、死なせたって無駄だわ」
 乾いた声がうさぎの口から漏れる。
「とっくに分かってた事じゃないか。死んじゃっても、思い出は消えやしないって」
『家族』と過ごした日々は幸せだった。今この時も『皆』がいるから幸せなのだ。
『その家族にオマエは何をシタ?』
「……殺した。でも――」
 その『家族』を失い、リベリスタとしての運命を失い、それでも残るものがある。
「怖くて苦しくて後ろめたくて、その積み重ねが私の『心』なんだ!
 今更運命を喪った位で捨てれるもんか!」
 絶望を、傷の痛みを、罪を、全て受け止めてなおうさぎは自分自身を見る。叫ぶたびに心が痛む。それでも叫ぶ。
「私は私だ! リベリスタだろうがノーフェイスだろうが……フィクサードだろうが関係ない!」
 それは絶望の淵で叫ぶ自暴自棄の叫び。故障寸前のエンジンを無理やり動かす自殺行為。
「私は私が、私の『心』がやるべきだと思う事をする!」
 それでも、確かに『心』は動いていた。

 死ぬまで戦い続ける。まさに修羅道。バトルマニアの本懐だ。
「本当に、さぁ。それも悪くない。むしろ、上等だって思うんだけどさぁ」
 弐升は手に刻んだ傷を見る。幻覚に捕らわれる前に刻んだ大事なこと。
『リベリスタで在る事』
 その思いを込めて、弐升は叫ぶ。
「俺は、リベリスタの……群体筆頭アノニマスだ。下らねぇマヤカシ如きで俺を止めようなんざ、笑止千万だってのよ!」
『じゃあオマエは、何故『リベリスタ』なんだ?』
 聞こえてきた声はいつかどこで出会ったフィクサード……だったモノの声。
『正義の味方、と吐き捨てる悲観主義者。オマエがリベリスタである理由はナンダ?』
 言葉は心に染み入るように入ってくる。刹那的かつ直情的に人を助ける弐升。オマエが世界を守る革醒者である理由は、どこにある? 心の中は戦闘への渇望が占めているのに。
 弐升の心の奥にはその『答え』があるのだろう。だがそれをとっさに返すことができなかった。
 幻覚が弐升の狂気を加速する。意識は再び戦いのなかに。

 恋人を失う。
 それは龍治の想像しうる最悪の未来。彼女は龍治のためならアークと敵対することも辞さないだろう。
「俺の様な下らん男に只管に愛をくれる者を、俺のせいで死なせる。そんな未来など認められるか」
 二人で進む道こそ、共に歩むべき道なのだ。
『ナラ、ソイツもノーフェイスにしちゃえヨ。今のオマエならできるゼ』
 声が龍治の心に滑り込む。
「そんなマネができるか!」
『じゃあこのままリベリスタに二人とも討たれて死亡ダ。生き残るためにはお前達が強くナラネーとナ。
 あの女も、それを望んでルゼ。アークを裏切った時点で覚悟があるんダヨ』
 龍治の心に声が滑り込む。
 恋人と共に生きる手段があるとすればそれしかない。
 パートナーは確かに心の絆足りうる。だがそれを守るために、苦悩する。二人で生きるためのなんらかの手段か気概を思いついていれば、この言葉に抗することができたのだろうが。
 恋人がその苦悩を察したのか龍治の名を呼び、その銃口を自分の心臓に当てた。
 あなたのものになるのなら。無言で伝わる心。
 絶望が判断を鈍らせる。リベリスタに討たれて還らぬ者となるのなら、いっそ――
 
翔護はポケットに違和感を感じ、それを取り出す。五十枚一組のカードデッキ。そして手に刻まれた数字。それは幻覚に捕らわれる前に自分に刻んだ対抗策。
『16/50』
 それは五十枚デッキの中にある切り札の数。確率で言えば32%――三回に一度はで手にすることができる切り札。
 一ターン目の酷い失敗。二ターン目に失った次の人生。三ターン目で生き残れる確率は半々だ。それでも翔護はカードを引く。奇跡はつかめる。確率的にはこれで引けない道理は――
『チゲーヨ。引ける確率は16/48。33%ダ』
 翔護はドローする寸前で声を聞く。デッキの数は四十八枚。その中にある十六枚を引く確率は、一ターン目とそれほど変わりはない。何度カードを引こうが、前のドローと今のドローに因果関係はあまりない。数字は常にクールだ。
「……それでも俺は、ドローに移る」
 確率が問題なのではない。本当にほしいのは人の営みを支える力。ここで留まる理由は、ない。
 ゆっくりとカードを引き――

 ウラジミールは白く染まった世界を見る。この世界は故郷の風景。だが自分自身の心象風景でもある。
 何もない世界。
 矜持を失い、心を殺し、愛するものを失い、故郷に裏切られ、誓いはもう叶うことはない。
『オマエは全て失っタ。この風景がその証ダ』
 ああ、その通りだ。真っ白の景色の中、唯一の自分。
 そう、自分はここにいる。悲しく、孤独で、地獄といってもいいこの風景でも。
 ウラジミール・ヴォロシノフはここにいる。
 たとえ全てを失っても、誓った理由は『ここ』にある。それを忘れない。
 地獄など通ってきた。体が殺される事も体験した。ノーフェイスになることも知った。
 それでもなお、自分には為さればならないことがある。世界を守ると誓った理由がある。
「男ならただ愛する女性のために死ぬものだ」
『その女はもういない。無駄だゼ』
「それでもだ」
 鋼の意思を持って声に応じる。
 声はもう聞こえない。極寒の世界が崩れだす。

 全身を苛む激痛の中、唯一『質』の違う痛みが右手から伝わってくる。首を動かし、その傷を見た。落魂陣に入る前に刻んだ傷。
『煙草』
 なんなんだろうなこれは。自分でも何故この言葉を書いたのか不思議に思う。その失笑と共に自分を思い出す。
「深い絶望と失念? だからどうした」
 ノーフェイスになったからといって、そこまでして得た力が目標に届かなかったからといって。そこで足を止める理由がどこにある?
 深き絶望に臥い伏したとて己の総てを持って地虫が如くでも這いずり、絶望の先の果てを目指すのみだ。
『それが答えカ?』
「チャプ君か。ノーフェイスになったんだって?」
『あー、ソーサ』
「フェーズ3ならもうフェイトを得ることはない。残念だな」
『ヘー、何が残念ナンダ?』
 烏の足元に何かが絡みつく。
『オマエ(ノーフェイス)は深い絶望の中でも進むんダロ? なのに何故同じ立場のワタシ(ノーフェイス)を哀れム?
 答えは簡単ダ。オマエはオマエ(ノーフェイス)を先のない終わりと思ってるのさ。ワタシを哀れむように自分を哀れミナ』
 絡みついた影は、烏の心を沈めていく。

 戦い続ければいずれ運命を使い果たしノーフェイスになる。
 知っていても、識っているわけではない事柄。故にエナーシアに覚悟などできようはずはない。
 ずいぶんと長く居ついた場所。それを手放して、平然としていられるノーフェイスの自分。運命をなくしても平然としていられる自分にこそ、恐怖を感じている。ここまで自分は原理主義だったのか。
『絶望したカ? 重火器の祝福?』
 声が聞こえる。それと同時に鼻腔をくすぐる匂い一つ。
 それは一片の羽根。それは強敵だったフィクサードの羽根。
 ああそうか。けしてノーフェイスに変化しても変わらないのではない。
「世界の凡ては素晴しい」
 この事実を知っているから。半生、識り続けて来たのだから。
『運命なんか端数なんやろ。失くしたくらいでどうしたんや』
 この羽根の持ち主ならきっとそう言って笑う。事実、あの暴走戦車は運命を失ってなおその名に恥じぬ存在だった。
「運命なんてあろうがなかろうが私は私。一般人を目指す何でも屋。それ以上でもそれ以下でもないのだわ」
 羽根を手にエナーシアは答える。
 視界が白く染まり、そして――


 時間にすれば風が吹き通る程度の時間だったのだろう。落魂陣の生み出した幻覚は消え、うさぎとウラジミールとエナーシアが起き上がる。
 雷音と弐升と龍治と烏は身を起こそうとして、そのまま崩れ落ちた。精神的な傷が深く、戦意を搾り出すことは難しいだろう。そして――
「――ドロオォォ!」
 他人には分からない叫び声をあげて翔護が立ち上がる。
「オネンネしてりゃー、楽にイケたのにナァ……」
 起き上がる四人のリベリスタを見て『チャプスィ』が口を開く。落魂陣の展開は身体と精神にも負担がかかるのか、声に覇気がない。
 破界器を構え、一斉に攻めるリベリスタ。武器から伝わる確かな手ごたえ。
 いける。だが追撃を制して、エナーシアが問いかける。
「落魂陣って十絶陣の一つだったわよね」
 その問いかけに薄く笑みを浮かべる『チャプスィ』。その笑みの裏にある真意を、エナーシアは感じ取った。
「……引きましょう。まだ陣を隠し持ってる可能性があるわ」
 ぞくり、と背筋が寒くなる。対応策なしに別の幻覚を見せられれば、対抗する術もなくやられるだろう。
 その隙を突いて『チャプスィ』は闇に跳んだ。
 追うには準備が足りない。リベリスタは仲間を抱えて、撤収に移った。

 落魂陣の幻覚は虚構だ。
 だが忘れることなかれ、革醒者。運命の喪失は誰もがありうる未来。
 あの幻覚が夢となって消え去ることを願って――


■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 どくどくです。
 四人帰還で成功です。『ソードレイン』も無事に回収できました。
 靖邦様に関しては実際にサイコロを振らせていただきました。ええ、安定のどくどくダイスでしたよ(舌打ち)。

 家族や恋人の絆は強い要素です。ですが、それに依存してはいけません。その家族に対し、自分がどんな答えを返すか。そこも見させていただきました。
 ノーマルなら全員帰還でした。ハードである以上、さらに一歩難易度が上がります。
 まぁ、『チャプスィ』が語りかけてくるなど予想の外だったでしょうが。

 MVPはヴォロシロフ様へ。幻覚の中でも己を貫いた矜持を評して。

 ともあれお疲れ様です。ゆっくりと傷を癒してください。
 それではまた、三高平市で。