●フロムグリムピルグリム 陰鬱だなぁ。 ここのところ、ずっとすっきりしない日々が続いている。 カウンセリングに相談したところ、「優性人種としての自覚と誇りを強く意識すれば万病は遠ざかる」などと言っていたので銃殺しておいた。科学力と精神論を履き違えた馬鹿に価値はない。 あの藪は、人種として優れていることとメンタル面で健康的なことがイコールであるとでも信仰していたのだろうか。馬鹿馬鹿しい。そもそもそんなことは、祖国ではなくこの東端の島にこそあるお家芸ではないか。 「根性論、でしたっけ。見せて下さいよ。ほらほら、見せてくれないと頸動脈がぷっちーんって。あら、切れちゃった。根性ないですね。次いきましょう次」 血を噴きだして動かなくなったそれをほっぽいて、ガタガタ震える憐れな被害者に目を向けた。生臭い。嗚呼まったく、これだからアーリア人でないものは嫌なのだ。 「同盟国だと聞いていたので、少しは期待していたんですけどねヤマト人。まあやはり、世界の端っこの国ということで」 震えて振り回す剣に手を添える。闇雲にしてどうこうできる相手だとでも思っているのだろうか。だとすれば、あのカウンセラーほどに愚かしいが。 得物を落とさせ、足をかける。重心を崩してやれば、そのまま受け身もとらずアスファルトの大地に転がった。強く頭を打ち付けたらしい。硬直した隙間に腹の上へとのしかかる。 大股開いているので下着が見えているだろうが、気にしない。そんな余裕も相手にはないだろう。 だうん。だうん。掌に銃弾。悲鳴。悲鳴。耳を劈くその心地良いハーモニーも、私の心を明るくすることはない。だうん。だうん。右眼に銃弾。ぷちゅっと潰れるような音は最初だけで、あとは肉と骨のそれ。凍った水たまりを割ったあの快感のように、悦に浸れるのはほんの一瞬だ。あとには戻らないおもちゃを使ってしまった残念さだけが残る。 「少尉殿。少尉殿」 でもここでお得情報。人間には眼球がもうひとつあるのです。だうん。だうん。 「少尉殿。少尉殿!」 「はい、聞こえてますよ曹長さん。どうされました?」 「……ええと、はい。そのリベリスタですが、既に絶命しております。時間があるわけでもありませんし、次の準備に移られたほうがよろしいかと」 「あら。あらあらあら。根性、なかったですね。どうなってるんでしょう、根性論」 「何を仰られているのやらわかりませんが、次の命令をお願いしたくですね」 「ええ、はい。わかっていますよ。でもそんなに慌てなくても大丈夫。だって、来るのでしょう?」 「はい、そのように情報を受けております」 「嘘をつく理由はないのでしょうし、ならばきっと来るでしょう。つまるところ、待機。待機ですよ曹長さん。もう少しだけ、静かになった夜を楽しみましょう」 「はっ、では警戒を緩めずしばし待機と致します」 ●バウンティライドフロイト 「今回のメインターゲットです」 全員が席につき、資料が手元に配られるや否や、『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)はモニターの電源を点けた。 映っているのは金髪碧眼と如何にも西洋人らしいなりをした女性である。身の丈以上の大きな鋼鉄のバックパックを背負い、ミニスカートに改造をしてはあるが、黒い制服と腕章の鉤十字が彼女の方向性を聴くまでもなく伝えていた。 親衛隊。世界中に悪名を轟かせる所謂『時代の亡霊』である。 「名前はタッシェン・ウーア。複数のフィクサードを引き連れ、任務中であったリベリスタを襲撃しました。リベリスタ側もエリューションの討伐後でありこれといった抵抗もできず、全員が死亡しています」 死亡。その言葉に、少しだけざわついた。和泉がそれを制することはない。彼らのプロ意識を信じてのことだろう。事実、誰が制止するでもなく再び静まり返る。 「どのようにしてこちらの行動を知ったのかはわかりません。放置すれば、今後の任務に差し支えるものでしょう」 それは、そうだろう。元来、十二分な勝利要素を持って仕事へとあたるリベリスタではあるが、そこに不確定な第三要素が含まれるというのであれば。任務の難易度は劇的に上昇する。 「よって、それに関する情報も必要ではありますが、撃退を第一に考えてください。捕獲を優先するのは非常に難しいことでしょう。では次に―――」 概要は伝え終えたと、和泉はその詳細に話しを移していく。リベリスタ達もまた、それに聞き入っていた。脳の片隅で、己にできる最大限を計算しながら。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:yakigote | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年06月11日(火)23:16 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●コールドオールドファッション 掛け声。鼓舞声。兵の士気を上げ、敵兵の威勢を削ぐもの。わかりやすく、耳に心地よく、精神を高めてくれるそれ。ジーク。ジーク。この国ではなんと言ったっけ。嗚呼、そうだ。万歳。万歳、万歳、万歳だ。うむ、心地良い。 夜だというのに、いやに蒸し暑い。日の当たる時間が長くなり、薄着も増えてきたものだ。 今年の夏はどこへ行こう。学校で、職場で、自宅で、携帯電話で、インターネットで。そんなことばかりささやき合っている。きっと、彼らもそうだったのだろう。 いつもの仕事。いつもの任務。死に近い点で、少しだけ日常からは離れていても。そこに麻痺すれば平常と変わらない。血を流した後でも、人は笑い合えるのだ。 それを、横からかっさらったのだろう。奪い去ったのだろう。そして、これからもその強盗を続けるつもりなのだろう。そう思うと、あの軍人共が許せなかった。 「誰一人救えないなんて……何でこんな酷いことを」 『尽きせぬ想い』アリステア・ショーゼット(BNE000313)は嘆くも、敵に言わせればそれは効率的な戦闘集団でしかないのだろう。横腹を突け。背面を襲え。漁夫の利を得よ。その肯定は勝者が決める。英雄と虐殺者の違いは成否にあるのだ。所詮、善悪など倫理観の都合でしかないのだと。だが例え、それが真理であろうとも。 「わたしは、あなた達を褒めることはできないよ」 狩りをする。猟をする。それは確かに、正面より相対する行為ではないのだろう。茂みに隠れ、息を潜め、けしてその牙に己を晒さず、ただ眉間への一弾を持ってのみ決着とする。開始線を相手に知らせず、一方的に終了点だけを突きつける。それが狩猟というものなのだろう。だがしかし、この行為はあまりにも。『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)は思うのだ。 「猟犬を名乗るハイエナに、これ以上喰らわせはしない」 「自分の生まれに誇りを持つのは良いことだと思いますが、それが高じ過ぎるのは、油断や慢心に繋がる気がしますかのう」 高位であること。高貴であること。それは誰もが望むものだ。より高みでありたい。他よりも優れていたい。そして、そうであることは素晴らしい。だが、それも過ぎれば劣等を軽んじる語意に変えてしまう。『怪人Q』百舌鳥 九十九(BNE001407)はそう考える。 「軍人相手に言うことでもないでしょうが」 「リベリスタへの襲撃、放って置くわけにはいきません」 勇者たれ。『勇者を目指す少女』真雁 光(BNE002532)からすれば、社会的な善悪の価値観など関係がない。正義は正義である。善は善である。悪党は悪党である。敵は敵である。そこに他意は含まれない。極端で危うくはあれど、その突き抜けた倫理観念においては、倒すべき敵としか映っていなかった。 「勇気、気合、根性、努力。ボク達の力を見せてやりましょう」 「やれやれ、疲弊してるところを襲って何を調子こいてるんだか」 作戦。戦略。戦術。言い分は多々あろうが、『狂奔する黒き風車は標となりて』フランシスカ・バーナード・ヘリックス(BNE003537)にしてみれば、卑小と断じるものになるのだろう。片方が万全ではない。虚を突いただけに過ぎない。正面からの戦闘ではない。 「根性論がどうとかどうでもいいんだけど、とりあえずウザってーから始末させてもらうわ」 「奴らがどの様にして此方の情報を手に入れたかは、想像に難くないが……」 情報の収集。それも大事なことではあるのだろうが、『閃拳』義桜 葛葉(BNE003637)らに託された任務はそれではない。戦闘、戦闘、戦闘だ。振りかかる火の粉に土をかけろ。目前の悪意を打ち払え。これ以上を臨ませるな。過去から這い出た悪量共を、三千世界が向こうへと追いやってしまえ。 「我が拳、振う時は今……覚悟をして頂こう!」 「だうん。だうん。ごきげんよー、時代遅れの雌ボッシュ!」 『断罪狂』宵咲 灯璃(BNE004317)はテンションが高い。 「陰鬱そうだけど欲求不満? それとも便秘で詰まり気味? 尻にヴルスト突っ込んで奥歯ガタガタ言わせたげようか?」 その言葉の意味を、仲間ですらよく理解できなかったが。そこに混ぜ込まれた感情だけは読み取れた。つまりは、殺意である。 「折角の戦争、折角の戦場。もっと楽しく殺し合おうよっ!」 装備の確認が終わったのだろう。『てるてる坊主』焦燥院 "Buddha" フツ(BNE001054)が、腰をあげた。 敵は十全を持って不全を叩いた悪徳の奴原共であるとはいえ、さしたる苦もなくリベリスタを駆逐したことは事実だ。 だがそれを、恐怖に怯え部屋の隅で唯々鬼が過ぎ去るのを待っているほどには。人間ができてはいない。 暑い空気に、少しだけ風が吹いた。汗ばんだ首筋が少しだけ心地良い。 さて、それでは。 戦争をしよう。 ●ステイシスステイスパイシー 土の臭い。硝煙の臭い。血の臭い。吐瀉物の臭い。それらの交じり合った得も言われぬ刺激が私の鼻を曲げる。曲げた。とっくのとうに、曲げてしまった。あれを、死の臭いというのだろうか。もう、麻痺してしまったけれど。 「はい、お待ちしておりました」 地べたにしゃがみこんでいた女が、こちらの姿に気づくやその腰をあげた。 背中のバックパック。ミニスカートに改造した制服。金髪、碧眼。資料通りであるならば、彼女がタッシェン・ウーアなのだろう。 「あらあら、皆さん怒り顔。良い根性論が見せてもらえそうですね。頑張ってくださいヤマト人。ええっと―――」 「少尉殿、少尉殿」 「はい、なんですか曹長さん」 「―――開戦です」 ●サマータイムループ 鳴っていない筈の銃声。夜毎夢に出る戦友の顔。極度のストレス。日常が疎ましい。嗚呼、なんて憂鬱。戦おう。争おう。踏みにじろう。踏み潰されよう。撃ちあおう。貶しあおう。滅ぼしあおう。 煌めき輝く大剣を、光が横回転にぶん回した。 轟音、その刃筋は空虚すらも切り裂いて、荒れ狂う不揃いの牙となり犬共に襲いかかる。 手応えは大きい。だが、やはり彼らも自己に怠惰であった十把ではない。浅くない傷を残したものの、その統率性を持って隊列を取り戻していく。 隣を走り抜けようとした兵が居た。そうか、後ろを狙うのか。知るがいい。魔王からは逃げられないが、勇者にもまた黙殺叶わぬことを。 剣を振った勢いを殺さぬまま、その横腹を彼へと叩きつける。衝撃。インパクト。瞬間に力を込め、思い切り後ろへと投げ飛ばしてやった。 「ボクの横は抜けさせませんよ!」 詠唱。蓄電。解放。拡散。暴れまわるイカヅチを呼び起こす。そうら、貫いていけ。 幾人か、電熱に膝を折る。その向こうに、微笑む女の姿が見えた。 「なるほど、先の彼らよりはよさそうですね。それじゃあ、景気付けに一発いきましょう」 右腕に装着された巨砲。空に向かい、打ち上げられる。 それが、果たしてなんと呼ばれる存在なのか。ヒトには陳腐な言い回しでしか表現できないそれ。その存在のほんの一欠片を、アリステアは探り、掴み、仲間の救済が為に果たしていた。 タッシェンの放った榴弾による被害は大きい。だが、予め定めていた治癒への論理思考が、戦線を崩さぬ支えとなっていた。 事前にチャージされていたのか、それとも外見からではわからないのか。あの軍人がチャージ動作を見せた様子はない。 予測できない大砲火。しかし、そのダメージを見越した上での役割遂行に勤めれば、けして耐え切れぬものではなかった。 気になっていたことを口にする。敵だ。敵であるのだから、返答への期待もそれほど大きいものではなかったが。 「軍人さんって、誉れ高いものじゃなかったの? こんなやり方で、何を得られるというの」 「如何にもヤマト人らしい。しかし、正面玉砕はそちらの歴史ですよ」 それと、と。女は付け加える。 「あなた、少々面倒ですね」 まずいと、快は直感する。 敵の目標が、殺意が、こちらの回復役に向いたのだと。 嫌な予感は当たるものだ。聞きなれぬ言語による命令文。敵兵の銃口が、一斉にアリステアの方を向く。 放たれる無機質の危険。しかし、気づいたは快が先である。己の身体を射線と彼女の間に滑り込ませ、その弾衾を一身に負った。 一度目。鉛弾が、自分を抉る感触。大丈夫、これが初体験ではない。 二度目。金属のそれらに混じり、業火が皮膚を肉を焼いた。 三度目。骨を砕いていく横雨と、十二分な殺傷性を伴った榴爆弾の死神に、思わず膝をついた。 四度目。それでも最悪の未来を否定して、運命を削り尚立ち塞がった。 痛い。痛い。千切れているのではないかという錯覚。失われているのではないかという幻覚。耳鳴り。どこか遠い。それでも、これが誇りである。捧げられた勲章である。 「本物の根性論ってやつを、見せてやるよ!」 その様、憂鬱の女も思わず目を見張る。 「こっちより数が多いというのがまず不利ですよな、減らしましょう」 なんでもないような物言いで、九十九という怪人は軍人共の頭を狙うのだ。 ばん、ばん、ばん。不規則に響く火薬と、音速超の音。向こうと同じように、傷を癒す者を。弱った者を。狙っていく。 「性別、人種、思想の区別なく。負けて死ねば全部おしまいですしのう。ある意味平等ではありますよな?」 勝てば官軍。その、逆。それは賊軍ではない。負ければ、敗ければ、死んでしまえば。それはもうなにものでもないのだ。死んだ人間は未来に動的な何かをつくり上げることができない。例え雄弁に語り、精神に刻み込んだとしても。それは過去の遺物である。成してきた、という過ぎ去った残響であるのだ。 ばん、ばん、ばん。響く。銃声が鳴り響く。眼球を穿ち、頭蓋を爆ざせ、脳漿を撒き散らせながら。それでも怪人はいつだって、 「今日の食事も美味しく食べれると良いのですが」 こんなことを言うのだ。 フツの突き出した穂先。それに貫かれた兵の傷口から、冷気が溢れだした。血液が凍る。流れは止まったものの、まさかアイススプレー代わりの性能でなどあるはずはない。なにせ、攻撃なのだから。 冷気は熱を奪い、奪い、奪い、その身の自由を失わせていく。凍る身体。脳の命令に従わない。動きの止まった彼を、フツは返す刀で切り伏せた。 ひとり。口には出さず、意識で数えている。次をと視界を巡らせ、未だ自分達の方が兵数として劣っていることに憂れ思う。 否、落胆するな。倒した数はこちらのほうが多いのだ。これを繰り返せ。脳の片隅にすら、後ろに心をもたげるな。 袖の下から紙片を取り出し、短い詠唱の後に投げつける。それは鴉の形。擬似生命。たちまち紙から黒鳥に姿を変えたそれは、敵兵を襲う。 少しだけ、息を整えた。数呼吸の間に、自分の状態を確認する。 傷、多数。コンディションは万全の6割程か。 問題ない。問題は、ない。 また走りだす。 心は、未だ折れぬ。 ぶちかませ。 「さぁ、親衛隊共! 闇の力存分に味わえ!」 フランシスカの持つ巨大な鉈の先端から、怨嗟が溢れ走る。 黒い黒い竜巻は、呪いを伴って現世を染めていく。にくい。にくいにくいにくいしねころせつぶれろくだけろあふれでろちぎれろくだけろふみつぶされろこまぎりにされろしね、しね、しねしねしねしね。 それは兵を巻き込み、その奥に悠然と立つタッシェンまで届いていた。 「嗚呼、素晴らしい。無残に死んだ匂いがします」 「タッシェンだっけ? 同じ親衛隊でもこの前戦ったフェヒターとはえらい違いね。まだあいつの方が好感持てたわ」 「おかしなことを言いますね。戦争で、好感だなんて」 構えられる第一兵装『ファウスト』。全知を夢見た男の名を冠した魔弾が、フランシスカを掴む。 痛い痛い痛意に解すな。暗黒を手にした時から、とうに痛みが、呪いが、この身を蝕むことなど覚悟している。 剣を振りかざせ。咒いを口ずさめ。殺意を含み、それは罵倒にも似て。 血と氷で無残に成り果てた敵の頭を、適当に放り投げた。砕ける音がしたから、きっとそうなのだろう。 赤く濡れた両手を見せつけるように広げ、葛葉は獰猛に笑ってみせる。 「随分と優越に浸っている様だが、疲労を蓄積した様な相手に勝利し悦に浸るなどアーリア人とやらもたかが知れると言う物。飼い主の所に戻って尻尾でも振っていろ、犬風情が」 何人かは思惑通り、こちらを狙い発泡したものの。後ろのふたりは涼し気な顔だ。特に後方のマリーエンがすかさず指示を出したことで、向いていた注意も別ベクトルに移されていく。 効果薄し。そう判断し跳躍する。空中で身を捻り、振り上げられた凶脚。その三日月は、重力に逆らわぬまま頭上を仰がぬ一兵卒へと落ちていく。 衝突。コンフラックス。メテオストライク。研ぎ澄まされた身体性能より生み出されるそれは、最早斬撃に等しい。己の成果を見ずに次へ。跳ぶ。飛ぶ。さながら流星のように。 犬は、犬らしくしていればいいのだ。 自意識を持つかのように、赤と黒の双剣は刃を伸ばした。長距離まで届く刺突と、急速の収縮。その連続が、施錠銃を持った彼らに無尽の針山を見せていた。 灯璃による徹底した、雑兵狙い。数で負けているのだから、それを減らせば良い。それも手近なところからだ。戦力として大きいであろう主体から手を出す必要はない。 「そっちも雑魚狙い、こっちも雑魚狙い。お相子でしょ?」 「命の価値は平等ではありませんし。偉大なるアーリア人を減らした罪は高く付きますよ」 タッシェンの行動。切り替えから攻撃までは淀みなく、その瞬間を追うこともできない。火炎放射器をしまい、取り出された榴弾砲。EX最終兵装『カデンツァ』。何人も逃さぬ無慈悲の爆発がこの身を焼いたのは、何度目だろうか。 忌々しい。だがそれでも、まだ立っている。欠けるな。倒せ。崩れるな。駆逐しろ。それを続ければ勝者である。しかし、そんなことよりも。 「つか、第二兵装寄越せーっ」 あげられません。 ●アイアムネイムエイム 手段のために、目的を作ろう。目的が見つからなければ、手段だけを行おう。 「戦況は?」 「はい、半数が落ちました」 「侮っていたかもしれませんねえ、根性論。今の兵装で覆せるとも思えませんし、撤退しましょうか」 「はい、撤退を。撤退を致しましょう」 「ええ、では、『最後のサビまでには帰るように』」 「はっ、総員撤退する! 最後のサビまでには帰還せよ! 繰り返す、最後のサビまでには帰還せよ!」 曹長の発する復唱の直後、また榴弾が発射される。如何に早い兵装展開とは言え、この短い時間に何度も見せつけられては身体が覚えるというものだ。事実、それは刹那に防御へと徹したリベリスタ側に大した影響を及ぼすものではなかった。 しかし、それが狙いであったのだろう。肌を焼く熱風が失せた頃、視界に最早タッシェンとマリーエンの姿はなく。微かに、殿を走る兵の姿だけが見えていた。 逃げられたと、思いはしない。向こうの数は減らしたものの、こちらの被害も小さいとは言えないものだ。あのまま続ければ、双方ともに痛み分けでは済まない泥沼になっていただろう。 だから撃退。撃退だ。自分達は無事、任務目的を遂行したのである。また見える機会はあるだろう。決着というなら、その時に。短針と長針のようなものだ。どこか必ず巡りあう。なにせ、両者互いを向き。混ざり逢えぬ。 了。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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