● 暗く深い海の底で、うごめくふたつの大きな影。 その影は陸を目指して水中をまるで弾丸のように真っ直ぐと、すごいスピードで突き進んでいる。 海に住む魚たちは、威容を放つそのふたつの大きな影に恐れおののき、その進路を譲るように逃げ散っていく。 「――なんだあれは!? 見ろ! 船の真下に何かいるぞ!!!」 沖合いに漁に出ていた一隻の漁船の甲板で、異変に気付いた船乗りが大きな声で叫びを上げた。 男のあまりの慌て様に他の船乗り達も船縁から身を乗り出して海を見ると、自分達の船の真下に巨大な影が確認できる。 その影は次第に海面へと近づいているようだ。 「なにをしている、取舵だ! 速度を上げろ! 巻き込まれるぞ!」 船長の怒号が飛び、慌てて操舵手が舵を切って速度を上げる。 船は速度増して大きく左に弧を描き、間一髪のところで浮上してきた巨大な影から逃れることに成功した。 ザバァァァン! 海面を大きく揺らして姿を現したのは、全長10メートルはあろうかという巨大なイカだ。 「……なんてデカさだ……あんなのに掴まれたら終わりだぞ! 全速で振り切れ!」 船長の号令でさらに速度を上げようとした操舵手の顔が、次の瞬間青ざめる。 「せ、船長……あれ……」 「なにをもたもたしている! 全速前進と言ってるだ――」 後方の巨大なイカを睨むように警戒していた船長が、命令を聞かない操舵手を叱咤しようと前を向いた瞬間見たものは、船の行く手を阻むように現れた巨大なタコだった。 「い、いったい……どうなってやがるんだ……」 前後を巨大なタコとイカに挟まれてしまっては、横に移動できない船はどうすることも出来ない。 船長をはじめ船乗り達の顔に絶望の色が滲む。 長大な足を船体に絡みつかせて、まるでおもちゃを奪い合うように前後から巨大なタコとイカが漁船を引っ張り合う。 「ひぇぇぇ!」 みしみしと軋みを上げる船体に亀裂が入り、錯乱したひとりの船乗りが悲鳴を上げながら海へと飛び込んだ。 このまま怪物にわけもわからず殺されるくらいなら、と一縷の望みを抱いての行動だったのだろうが、無慈悲な怪物は容赦なく海に飛び込んだ男を足に絡めとると、そのまま海中へと引きずり込んで捕食してしまう。 海面に広がる鮮血を目の当たりにした船乗りたちは、恐怖の表情を浮かべながら、同じ結末をたどることしか出来なかった。 ● 物静かな表情でモニターに映し出される映像を見ていた『リンク・カレイド』真白イヴ(ID:nBNE000001)は、映像の再生が終わるのを確認して集まったリベリスタ達に視線を向けた。 「見てのとおり。 とても危険な巨大タコと巨大イカが陸を目指して移動している。 このまま移動を続けると数日後には上陸して、その先にある街に大規模な被害が出ると思われる」 「それは放ってはおけないな!」 イヴの説明を聞いていたリベリスタのひとりが、思わず拳を握り締めてモニターに映る巨大なタコとイカを睨みつける。 それを見たイヴはコクリと頷いてから説明を再開した。 「今の映像で分かると思うけど、海上や海中での戦闘は圧倒的に不利。 迎撃するチャンスは海岸線付近しかない。でも注意して。 海岸線から200メートルほどの距離には、もう民家が立ち並んでいるから、なんとかしてその前に撃退する必要がある。 危険な任務だけどお願いできる?」 イヴの視線に射抜かれたリベリスタ達は、正面からそれを受け止め力強く頷く。 「任せてくれ! 俺達にしか救えない命、黙って見過ごすわけにはいかないからな!」 頼もしい返事を返したリベリスタにイヴはコクリと頷いた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:天白黒羽 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年06月07日(金)23:05 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 海と陸の境界線、とある海岸線の砂浜に8人のリベリスタがじっと海を見つめて何かが訪れるのを待ち構えている。 見渡す海の上空は、嵐の前ぶれであるかのように暗く重い雲が立ち込めていた。 アークの誇るカレイドシステムの予知のおかげで、この海岸線にエリューション化した巨大なタコとイカが来襲することを事前に察知していたため、周辺への立ち入りは制限されリベリスタたちの他に人影は見られない。 「来た!」 誰が呟いたのだろう、その声に全員の視線が海の一点へと集まった。 その視線の先には、海を大きく引き裂くようにして浮上した巨大なタコの姿が現れる。直ぐに間をおかずに巨大なイカも姿を見せると、リベリスタたちの表情に緊張の色がにじむ。 「おーでかいでかい。まるで安物の特撮映画だ」 乾いた拍手を打ちながら、それほど興味もなさそうに敵の第一印象を言葉にした『霧の人』霧里 まがや(BNE002983)は、特に戦闘準備というわけでもなく、常の日課となっている痛覚遮断をオンにする。 「はっははは。霧里さんの仰るとおり、巨大海棲生物が街を襲うとは……ひと昔前の怪獣映画を彷彿とさせますな」 まがやの言葉に同調するように、控えめではあるが快活な笑い声を上げた『ヴリルの魔導師』レオポルト・フォン・ミュンヒハウゼン(BNE004096)の表情は、笑ってはいても油断の欠片も浮かんではいない。 「映画といっても所詮はB級よ。そんな映画を見るくらいなら、あたしの舞台を見たほうがよっぽど楽しめるんじゃないかしら?」 見栄えのする華麗なターンを披露した『氷の仮面』青島 沙希(BNE004419)が、ほんの一瞬だけ三流役者を見下すような冷たい視線で巨大なタコをとイカを見つめたことを、その場の誰も気づく事はなかった。 「しかし、本当に大きいわね。たこ焼きにしたら何個作れるかしら?」 「たこ焼きですか、美味しそうですね。お刺身も高級そうで……」 実際の敵の大きさに目を丸くしながら呟いた『混沌を愛する戦場の支配者』波多野 のぞみ(BNE003834)の言葉を聞いたキンバレイ・ハルゼー(BNE004455)は、お腹をぐぅ~っと鳴らして口から涎を垂らしはじめている。 大好きなお父さんのためなら、慎ましい食生活も気にならないキンバレイだが、巨大な食材を目の前にして身体は正直に反応しているようだ。 「日本の料理は美味いと思うが……まさか、あれを食う気なのか?」 のぞみとキンバレイのやりとりを隣で見ていた『アッシュトゥアッシュ』グレイ・アリア・ディアルト(BNE004441)が、見た目として明らかに食欲をそそられない巨大なタコとイカを見比べながら、ふたりの反応に少し呆れ気味の様子で肩をすくめる。 「わたしの事前リサーチによれば、胴体内部の急所を狙うのが効果的。 まずは、あの硬そうな胴体の皮をぶち破って、急所を撃ち抜くのが妥当と思われる」 「そいじゃま、いっちょ派手に行きますか!」 『クオンタムデーモン』鳩目・ラプラース・あばた(BNE004018)がインターネットで調べた情報を的確に分かりやすく説明すると、『遊び人』鹿島 剛(BNE004534)が巨大なタコとイカが浅瀬から砂浜に上陸するのを見計らってフラッシュバンを投擲した。 ● 暗雲を切り裂くように眩しい閃光を発したフラッシュバンは、剛の正確なコントロールで仲間を巻き込むことがないように、巨大なタコとイカの少し後方で炸裂した。 しかし、陸に向かって前に進む敵には、後方で炸裂したフラッシュバンの効果は出ているようには見えない。 「ちぇっ、効果なしかよ!」 短く舌打ちする剛だが、戦いの口火を切る狼煙代わりとしての効果はあった。剛のフラッシュバンを合図にしたように、仲間たちもそれぞれが臨戦態勢に入っていく。 「まずは守りを固めるわね」 のぞみはディフェンサードクトリンを発動して、自身の持つ防御のための効率動作を仲間達と瞬時に共有。ハイバランサーの恩恵で機動力を損なうことなく砂浜を大胆に駆けるあばたは、シュレーディンガーとマクスウェルの二丁銃でB-SSによる神速の抜き打ち連射を正確に巨大タコとイカの胴体にヒットさせ、まるで銃弾による斬撃のように縦一直線に点線を刻んでいくが、巨大化した2体の胴は容易に皮を貫通することを許さない。 「くっ、そう簡単には破れないか……」 「だったら、破れるまで攻撃すればいいだけのことよ!」 歯噛みするあばたの横をすり抜けるように駆け、沙希は身軽に舞い踊るようなステップで直死の大鎌を連続で振るい、巨大なタコとイカの胴体を狙って斬りつける。 「そんなに硬くちゃ、煮ても焼いても食えなさそうだな! 悪いがコイツで射抜かせてもらうぜ!」 聖銀の十字架を形どった自動弓から魔閃光を撃ち出すグレイも、きっちりと巨大なタコの胴体へのダメージを蓄積させていく。 名状し難い雄叫びのような苦鳴を上げた巨大なタコが、敵と認識したリベリスタたち目掛けて墨の塊を吐き出すと、黒い霧状になって周囲の視界を遮っていく。 瞬時に目を閉じて腕で庇いながら、後ろに飛んで霧状の墨を避けたレオポルトは、マナブーストの詠唱によって体内の魔力を活性化させて増幅させる。 「相手が何をしてくるかを事前に知り、どのように対処するかを考えておくことで戦局を有利に進める…… これがリベリスタの闘い方にございます!!」 レオポルトは事前に知らされていた敵の攻撃情報から、すでに有効な対処を考慮して万全にそなえていたのだ。 「ふぇ~、真っ暗で前が見えないです~。みんなどこですか~?」 マナコントロールで周囲に存在する魔的な力を取り込んで、自らの力を高めていたキンバレイは、突然視界を奪われて困惑してしまいオロオロして砂に足をとられ、ズデーンと地面に突っ伏すように転倒した。 ビューン! 倒れたキンバレイの頭上を勢いよく何かが通り過ぎる。 次の瞬間、耳に聞こえる仲間たちの苦しそうなうめき声。 「みんな、どうしたんですか? 大丈夫ですか?」 ようやく晴れた霧状の墨だが、目に入った墨のせいで視界はぼやける。 それでも必死に周囲を見渡したキンバレイは、地面に転がり倒れこむ仲間たちの姿を見た。 事前に距離をとって仲間たちから離れていたレオポルトと、偶然に転んだキンバレイ以外のリベリスタは、巨大タコの霧状の墨で覆われた空間を、巨大イカの足が強烈に薙ぎ払った攻撃で大ダメージを受けて吹き飛ばされていたのだ。 ● 巨大な体躯の質量を乗せた薙ぎ払いは、凶悪の一言に尽きた。 痛覚遮断で痛みを感じないまがやも、身体へのダメージは確実に受けている。 前回の任務で重傷を負ったあばたの顔色は蒼白で、グレイは運命の加護を消費してなんとか踏みとどまっている。 「た、大変です。みんなすぐに回復するです!」 キンバレイが聖神の息吹で仲間たちを包み込むと、手酷く負ったダメージが治癒されて、タコ墨による視界のほやけも解消されていく。 「助かったよ、ハルゼーさん」 「だが、また今の攻撃を喰らったら今度はヤバそうだな……」 沙希が治療の礼を言い、グレイは額に冷汗を滲ませながら巨大なタコとイカを睨みつける。 仲間たちのからのお礼に照れていたキンバレイだったが、ふとその身体が宙に浮かび上がった。 何が起こったのかわからないまま、ただただ悲鳴を上げるキンバレイ。 その身体を宙に吊り上げたのは、巨大なタコの絡みついた足だった。ヌルヌルと絡みつくタコ足は、10歳にしては発育の良いスイカのような豊満な胸を締め上げ、ヌルヌルと這うように手足の自由を奪いながらうごめいている。 「痛い痛い! あはははははっ! 今度はくすぐったいです! んっ、んぐっ……」 タコ足に絡めとられたキンバレイは、締め付けられる苦痛とヌルヌル身体中を這い回る感覚にくすぐられ、叫んだり笑ったりと大忙しで騒いでいたが、一本のタコ足がキンバレイの口腔にズボリとねじ込まれて、その声を塞いでしまった。 (もしかしてタコさん、わたしがお腹を空かせているから足を食べてもいいってことなのですか?) ガブリッ! 巨大タコにそんな気遣いの意思があったとは思えないが、勘違いしたキンバレイは口腔のタコ足を思い切り噛み千切った。 ムシャムシャムシャ…… (タコのお刺身美味しいです~。あれ、食べた所がニョキニョキ再生してますね。このタコさんを持って帰ったら我が家の食生活は安泰、お父さんに褒めてもらえるのでは……でもこんなに大きいとどこで飼えばいいのかな……) 自身が危機的状況にあることも忘れ、お父さんに褒められる想像をしながら再生したタコ足をガブリともう一口食べるキンバレイ……。 「……ハルゼーさんは大丈夫みたいだわ。 今なら先ほどの攻撃もしてこないはず、一気に集中攻撃するわよ!」 そう言うと、のぞみはオフェンサードクトリンで攻撃のための効率動作を瞬時に仲間たちと共有した。 するとまがやは巨大なタコをすり抜けるように駆け出し、後ろに控える巨大イカへと肉薄してフレアバーストを放ちながら突っ込んだ。 そしてあっさり巨大イカの足に絡めとられるまがや。 痛覚を遮断し自己再生に高速再生を備えた彼は、そうして囮となって敵の足を封じることで、先程の強烈な足の薙ぎ払いが仲間たちに向かわないようにわざと絡めとられたのだった。 ● キンバレイとまがや、ふたりが巨大タコと巨大イカの足の半数を封じることで、強烈な薙ぎ払い攻撃を恐れる必要がなくなったリベリスタたちは、この好機を逃すまいと動き出す。 「最初にタコの方を倒すわよ。前衛後衛に分かれて敵の攻撃に対処!」 のぞみの指示で近接武器を持った沙希が前衛として突っ込み、舞い踊るようなステップのダンシングリッパーで華麗にタコとイカの胴体を切り裂いていく。 一定の間合いをキープしつつ、B-SSの正確かつ神速な銃撃で確実に胴体を狙い打つあばたの攻撃にあわせるように、剛もハニーコムガトリングでタコとイカの胴体を蜂の巣にしていく。 「神聖四文字の韻の下に……我紡ぎしは秘匿の粋、禍つ曲の四重奏ッ!! 今ですぞ、ディアルトさん!」 「おうよ! お前たちの犠牲は無駄にはしねぇ! すぐにカタをつけてやるぜ!」 レオポルトが放った属性の異なる魔術のの四連撃が巨大タコの胴体に直撃した直後、先程の強烈な薙ぎ払いによるダメージを呪いに変えて上乗せしたグレイのペインキラーが、巨大なタコの胴体を恨みの力で破壊した。 胴体を失ったタコ足は力をなくし、絡めとられていたキンバレイも晴れて自由になる。 「あれ、もうタコさんの足が再生しませんね…… お父さん、喜んでくれると思ったのに残念です……」 ガブリと噛み千切ったタコ足が、もう二度と再生しないのを見てションボリ顔のキンバレイ。 しかし、残った巨大イカが前衛として前に躍り出た沙希までをも絡めるのを見て我に返ったキンバレイは、自分の経験した痛くてくすぐったいのを思い出して沙希を助けるべく、イカ足を狙ってマジックアローを解き放つ。 「あたしは大丈夫よ。それよりも今がチャンスだわ。あたしにかまわず一気に止めを!」 身体中を嘗め回すようなイカ足の感触におぞましさを感じながらも、舞台女優らしくその不快感を一切表情に出すことなく、仲間たちに攻撃を促す沙希の言葉に、仲間たちもその意図を汲んで救助よりも殲滅を選択した。 「我が血を触媒と以って成さん……我紡ぎしは秘匿の粋、黒き血流に因る葬送曲!!」 万が一のことを考えて、いつでもイカ足を破壊して仲間を助けることができるようにと、レオポルトは自らの血液を黒鎖として実体化させた濁流で、巨大イカの胴体と共に数本の足にも攻撃を加える。 のぞみの天子の息とキンバレイの聖神の息吹が、仲間たちの傷を癒すことで、さらに万が一の事態を遠ざける。 (でもこれって、ある意味苦痛を長引かせるだけ……ううん、すぐに助けるんだから問題ないわね♪) 一瞬のぞみの脳裏に迷いが生じようとしたが、残る敵は巨大イカのみである。すぐに倒せば問題ないと綺麗サッパリ迷いはなくなる。 すべての足が塞がった巨大イカは、せいぜい墨を吐く程度だ。リベリスタたちは絡めとられた仲間に攻撃が当たらないように注意しながら、巨大イカの胴体を狙って攻撃を繰り返す。 それほど時間もかけずに巨大イカの胴体を破壊して、とらわれた仲間も無事に救われた。 「ありがと」 そっけない沙希の感謝の言葉に、戦いの終了を実感したリベリスタたちの表情が自然と緩んでいく。 任務は無地に達成され、後に残った巨大タコと巨大イカの残骸を、食べたり食べなかったりしたリベリスタたちであった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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