●来訪者、来る 街外れ。バブル崩壊と共に手放され、最早解体されることすらなく見放された廃墟の群れ。 人影を無くして久しいその街影で、ギィ、と扉が軋んだ音を立てた。 「ここがボトムチャンネル……超常現象の宝庫、か」 扉を開けてこの世界に脚を下ろしたのは、全身を濃い蒼のローブに包んだ若い男。男が開いた扉は本来なら煤けたコンクリートを映すはずが、今は何処とも知れぬ書斎のような部屋を映している。 おそらく、扉を媒体としてDホールを構築しこの世界を訪れたのだろう。事実、扉の向こう側、書斎にある無数の本や紙片に刻まれた文字はこの世界のものではない。 「多元階層より介入を受ける、神秘の溜まり場……堪能させて貰おう」 バタンと扉を閉じ、呟く。 片手に携えた古めかしい本を開き、男は早速この世界の記録を開始した。 ●神秘蒐集家 「市街地の外れにアザーバイドが出現します。彼はフェイトを持ちますが、諸般の事情があり早急に元の世界に帰って頂く必要がありますので、彼の者の送還が今回の任務となります」 集められたリベリスタは『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)の言う「諸般の事情」とやらに首を傾げた。一体どんな事情があるのだろうか。 「まず第一。彼は知的好奇心から、このまま放置すると様々な神秘事件に首を突っ込みます。介入された場合、任務達成が困難となる場合も予測されています」 任務達成が困難になるほどの介入方法とは、とさらに首を傾げるリベリスタ。 「目標神秘を観察したい、という理由でリベリスタを排除しようとしたり、逆にスキルを披露することと引き替えにフィクサードに協力したりと様々です。実際に起こってからでは遅いでしょうから」 確かに面倒なアザーバイドである。 「そして第二。彼のアザーバイドは『他世界のアザーバイドを一時的に呼び込む』能力を持ちます」 その言葉にざわ、とブリーフィングルームがざわめいた。 「呼び込む対象は限られているようですが……一時的とはいえフェイトのないアザーバイドを呼び込まれ、しかもその数が増大した場合、周辺に及ぼす革醒現象の規模は計り知れません」 厄介なアザーバイドだな、と誰かが呟いた。同意するように和泉が首肯する。 「幸運なことに対象とは言語によるコミュニケーションが可能です。メンバー選定後、迅速に接触、交渉の上元世界への帰還を促して下さい」 ただし、と和泉が続ける。 「対象の特性から考えて、おそらく何らかの神秘の披露、あるいは実践を求められるでしょう。万華鏡の予測にも、対象との模擬戦を行い、スキルを披露した場合の交渉成功率が高いと出ています。御一考下さい」 詳細な資料はこちらです、とレジュメを配り、和泉は一礼と共にリベリスタを送り出した。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:Reyo | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年05月31日(金)23:21 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●邂逅 7名のリベリスタがその廃墟に踏み込んだとき、ミスティコレクターは丁度魔導書を閉じたところだった。おそらく、この一帯の記録は済んだということなのだろう。そのまま感慨深げに空を見上げたミスティコレクターは、まだリベリスタに気づく様子を見せない。 「おす! ミスティコレクター。俺等は世界の守護者みたいなもん。来るのを待ってたよ」 口火を切ったのは『殴りホリメ』霧島 俊介(BNE000082)で、その声で漸く人の気配に気づいたのか、ミスティコレクターがゆっくりと首の角度を戻し、居並ぶリベリスタを見た。 「ミスティコレクターとは……まぁ、私以外に呼びかけられるような者もいないか」 かくんと首を傾け、そう応える。応答は日本語。ボトムチャンネルの観察により、すでに言語の壁は乗り越えたようだ。 「初めまして、ミスティコレクター。……えーと、貴方の名前を教えてくれないかな? このままじゃちょっと呼び辛くて」 「――他人に名を訪ねるときは、己から名乗るのが礼儀ではないかね? 世界という壁を越えても、礼儀の一つくらいは共通していると思いたいものだ」 「あら、ごめんなさい」 会話を引き継ぎ、改めて名乗る『月奏』ルナ・グランツ(BNE004339)の周囲をディアナがふわふわと舞っている。フィアキィに気を取られたのか、ミスティコレクターの返答が少し遅れた。 「そのミスティコレクターというのは、この世界の言葉で【神秘を集める者】といったところか。よい名称だ、気に入った。いっそその名でも良いが……ベイレンと言う。よろしく」 一礼。リベリスタも各々が会釈や軽いジェスチャーで返す中、堂に入った辞儀を返すのは『ヴリルの魔導師』レオポルト・フォン・ミュンヒハウゼン(BNE004096)。名乗りを返しつつ続けるのは問いかけの言葉。 「名をありがとうございます、そして初めましてベイレンさん。我々は、このボトムに住まう神秘の繰り手、リベリスタと名乗りし者でございます。我々が未だ知らぬ世界からの接触を感知した故、この場所に出向いたのですが……」 「何をしに来たのか、聞いてもいいかな」 レオポルトの言葉を引き受けるように『金雀枝』ヘンリエッタ・マリア(BNE004330)が続けた。ベイレンがふむ、と考え込む姿勢を見せ、会話が途切れる。逡巡するような思いが俊介やルナの感情探査に出た。 ……だが、折り悪くというべきか、むしろナイスタイミングというべきか、その場に8人目のリベリスタが到着する。 彼方より亜音速で走り込み、その場に軽い土煙を巻き起こしたのは『神速』司馬 鷲祐(BNE000288)だ。 「――皆集まってどうした。それに、海依音も。こんな所で何を」 呆れ顔になった『ヴァルプルギスナハト』海依音・レヒニッツ・神裂(BNE004230)に話しかけつつ、周囲を見やった鷲祐の目がベイレンまで辿り着いたところで止まる。その間にも、海依音はゆっくりと鷲祐の死角へと移動していた。 「……アザーバイドかっ!?」 「ええ、ですけど交渉中です、はしゃぎすぎですよわしすけ君」 身を落として警戒態勢を取る鷲祐の後頭部に海依音の放った魔力弾が命中。うまい具合にバランスを崩されて鷲祐がつんのめり、そのまま勢いよく瓦礫の山にダイブした。 「……失礼しました。あらためてようこそボトムチャンネルへ、ベイレン様。私は最下層のしがない鶴の女にございますが、どうぞよしなに」 翼を広げ一礼する『天の魔女』銀咲 嶺(BNE002104)に、ベイレンが苦笑を含みながらジェスチャーで返した。 「そちらの彼は鷲祐、というのだね。これで名を聞いていないのはそこのレディだけ……訪問理由を語る前に、聞いてもいいかね?」 糸目で口チャックモードだった『第35話:毎日カレー曜日』宮部・香夏子(BNE003035)にベイレンが尋ねた。難しい話には口を出さない方針、とカレーでも揺るがぬ決意を胸に香夏子はただ簡潔に 「……宮部香夏子」 とだけ返した。 「どうも」 ぐるりとベイレンがリベリスタを見回す。 「そうだな、この世界に集った神秘――善悪の彼岸など関係なしに、私はソレを見に来た」 ●瓦礫の円卓 善悪の次第、それを問わぬというベイレンの言葉に改めてリベリスタの緊張が高まる。 「ようこそミスター、神秘を探求しにここまで来るとは酔狂ですね。本当は神秘なんて碌でもないモノですが、ボトムの運命の神様には愛されたようで幸いです」 それが良い事なのかはさておいて、と心中のつぶやきは漏らさず、堂々と答えるのは海依音。 「運命……? ああ、扉をくぐったときに体に纏わりつく神秘があったが、それのことかね」 「実態は判りかねますけどね。これがなければ、基本的にこの世界において、神秘はその存在を許されないものです」 「ふむ……そういえば、いささか疑問があるのだが」 「はい、なんでしょうか?」 再度かくんと首を傾けたベイレンは海依音を見た後、またリベリスタを見回した。 「……立ち話もなんだ、丁度いいサイズの『椅子』もあることだ、掛けて話さないか?」 ベイレンが近場にあった瓦礫を指さし、腰かける。リベリスタたちも手近な瓦礫を引き寄せるなりして、車座になるように腰かけていく。 「さて……それで疑問のほうだが、君たちのような神秘を扱う存在が、こんなにも素早く私に接触できることには、何か秘密があるのではないかね? 偶然というには出来すぎだろう。そして、接触する意義も不透明だ。出会い頭に霧島君の言っていた、世界の守護者とやらに関係するのかもしれないが」 走り込んできた彼は本当に偶然かもしれないがね、と鷲祐に目をやるベイレン。当の鷲祐は土埃まみれになりながらも漸く瓦礫から身を起したところだ。周囲を見やり、鷲祐も適当な瓦礫を椅子代わりに腰を落ち着ける。 「んー、そうだなぁ……」 「それについてはわたくしめから説明いたしましょう」 どう言うか悩んだ俊介に代わるようにレオポルトが前へ。 「簡単にいえば、我々の中には異世界の接触や存在を感知できるものがいるのです――わたくしめのように」 「ほう? なにか証を出せるかね?」 「そうですね……例えば、貴方様はこの世界とは違う法則により成り立つ魔術を扱う方だとお見受けいたします。また、その手に持たれたのは魔導書でございましょう? 様々な神秘の記録と再現、そのために用いる書だと推察いたしますが」 「……確かにその通りだが」 「このようにこの世界に在らざる神秘を理解し、またその存在を感知することができるのですよ。感知については、貴方様の来訪にあわせてここに現れた、それで十分でございましょう」 ホッホッホ、と好々爺じみた笑い声を上げるレオポルト。話してもいない自身の技能や魔導書のことを言い当てられ、ベイレンはしばし考え込んだあと、納得したように首肯した。 「では次、接触の理由について聞こうか」 「そっちは単純。このボトムは確かに神秘の集う場所かも知れねぇが、やっぱり異界からの干渉ってのは俺等にとっては厄介でさ、この世界が壊れちまう原因になりかねない。だから早めにお帰り願いたいんだ。なるべく平和的にね」 俊介が手早く返答する。 「帰れと言われても――さすがに収穫なしではいそうですか、と頷くほど私はお人よしではないぞ」 「そりゃ承知してる。話が通じなかったらともかく、あんたはそうじゃないだろ? だからこう言える。できる限りの神秘の披露や、俺等が関わってきた神秘事件の話をする用意があるってさ」 俊介は指で天を指しながらそう提案する。 「言い方は悪いけど……なるべく、この世界で迷惑をかけないようにしてほしい……っていうのもあるね。もちろん、私も貴方の求める神秘を披露する準備があるよ」 「オレもだ。今使えるスキルの全て、それに強化魔術や回復術の実体験もやるだけの準備がある」 続けるのはヘンリエッタとルナ、フュリエの二人。それぞれ、異世界からこの世界に根付いた者としての覚悟があるのだろう。言葉は真摯にベイレンへと投げられる。 「ム……なるほど。ならば、異界の者たる私は早めに用事を済ませて去るのが良いようだ。丁度良いことに、神秘を披露してくれる者がいるのだからな。普通ならば神秘を披露できる者に接触するまでが一大事なのだが――なるほど、海依音嬢のいう『運命の神様の愛』とやらのおかげかね」 「さて、どうでしょう? 少なくともワタシの知る神の愛は1回1万GPですから」 ハッハッハ、と笑い声が瓦礫に響いた。 ●神秘実演講座:お代はお帰りによって 「まずは俺から! 俺は神聖術師だ! 種族は吸血の系譜を辿るノワールオルール」 闇のオーラを纏って俊介が決めポーズを取る。ベイレンはいつの間にか魔導書を開いており、白紙のページを指先でなぞりそこに次々と文字を刻み始めている。 「海依音も神聖術師だな、使えるスキルには少し差があるけどさ」 そして近場の的代わりになりそうな瓦礫に向けてJ・エクスプロージョン。 「ほう、思考の爆発か。物理現象に転化するとは、なかなかのものだな」 「そりゃどーも」 ペラリ、とベイレンの手がページを捲った。 「そうだな、俺からは俺の歴史を語ろうか。神秘を知りたいのなら、俺達を――俺達が関わってきた事件を知るのが早いだろうからな」 アーク創設当初から戦い続ける鷲祐の言葉は少々重い。鷲祐の口から語られるのは機械や竜との戦い、人であることを捨てて神秘へと変じた者の話、異種族についての彼是。その全てが闘いと隣り合わせの出来事だと締めくくられ、ベイレンの手がまたもやページを捲る。 「続きましてはこちらの二人をご覧ください。彼女らはワタシ達の上位存在です」 「うん、私たちはフュリエ、いろいろあって、この世界に根付くことになった異種族」 「オレたちの元の世界はいろいろ大変でな。その時、お前にするみたいにリベリスタの皆が助けてくれて、今は仲間として戦ってるんだ」 「ほう、美談だな」 自身と同じようなボトムチャンネル以外の住人であることに共感を得てか、ベイレンの手がわずかに止まる。 「なるほど、君ら2人だけ、少し外観が違うと思ったがそのせいか。……横に引き連れているのは、使い魔か何かかね?」 「ううん、違う、この子はフィアキィといってね」 ルナがかいつまんでフィアキィという存在について説明する。常に共にある大切な存在だと。ところどころでヘンリエッタが補足をして、フュリエとフィアキィについての説明を終える。 「好奇心だけで容易に触れると君らに叱られそうだね。過ぎたる好奇心は身を滅ぼす、説明、感謝するよ」 「どういたしまして」 好奇心だけで世界の壁を乗り越えてくるのはどうなんだろうか、とふと疑問を差し挟みそうになった香夏子だが、難しい話題なのでスルーを決め込む。 「あとは……そうですね、害意があるわけではないのですが、実際に戦ってみるのが一番身に沁みてわかるのではないでしょうか?」 嶺が首をかしげながら提案。超火力の方もいるので、うっかりベイレンさん消し炭になったりしないでしょうかという疑問もある。 「ほう……なるほど、模擬戦というわけか」 ガタッ、と机があれば蹴飛ばしてそうな勢いでベイレンが立ち上がる。 「ええ、いかがでしょうか? 相応の神秘をお見せしますよ」 海依音が微笑みながら答えて、その背後で香夏子が軽いストレッチを始めている。話の成り行きを見守っていたレオポルトもそれならば、とスーツの襟を正した。 「しかし、模擬戦とはいえ死闘はよろしくないな。記録ついでに訓練フィールドを用意させてもらおう……ついでに、神秘の的もな」 ベイレンが魔導書を捲る。1枚捲ればバラバラと音を立てて複数のページが魔導書から分離、そのままリベリスタとベイレンを取り囲むように円を為す。 「私の世界で、危険な魔術実験や闘技場での試合のときに使われる術式だ。精度は安心してくれたまえ」 さらに幾枚かのページが魔導書から分離、ベイレンの周囲をたゆたう。 「的は私の選りすぐりだ。3つ用意するので、思う存分君たちの神秘を披露してくれ。無論――私を狙ってくれてもかまわんよ、それもまた神秘蒐集の醍醐味だ」 紙片が3体のアザーバイドとなり、模擬戦開始の吠え声を上げた。 ●神秘実践講座:お代は運命にツケて 「それではお見せしよう、俺の速さをな」 「これはなんかぎゅーんって強くなるアレです!」 「神経伝達速度向上、演算状態極めて良好――派手なものではありませんが、これも神秘です」 鷲祐、香夏子、嶺の3人がまず自身の能力を高める神秘を使用。ベイレンの目が好奇に輝く。 「エンチャントの類か。術者本人を強化とは、なかなかこの世界の神秘存在は殴り合いが得意なようだな」 ベイレンは片手の魔導書に記述を追加しつつ、仮初の配下へ命令を下す。オーダーは回避行動と反撃。鳥、獣、人をそれぞれ模ったアザーバイドがそのオーダーに従い動き出した。 「次は」 「オレたちだな!」 ルナの手には白の炎が宿り烈火の驟雨となり、ヘンリエッタの魔弓が狙い澄まされた速射弾幕を放つ。 「私たちフュリエが扱える炎の魔術、エル・バーストブレイクよ!」 「オレのは技量により研鑽した殲滅攻勢だ! ここまで鍛えるの、大変だったんだよ」 炎と矢がベイレンを含め全てのアザーバイドへと降り注ぐ。ベイレンは事もなげに炎を回避するが、矢はそうもいかずローブの肩口に命中。配下もこの攻勢を避けきることはできず、特に鳥型アザーバイドが深い手傷を負ったようだ。 「それでは、次はわたくしめの魔術を披露いたしましょう――我が血を触媒と以って成さん…我紡ぎしは秘匿の粋、黒き血流に因る葬送曲!」 ジワリ、とレオポルトの指先から鎖を模した血液が漏出する。数を増し続ける血鎖もまた、ベイレンは興味深そうに記述していく。 「さって、俺は回復役だけど……こういうのもできるんだぜ!」 十字の結印とともに俊介の体から閃光が放たれる。光に灼かれて、鳥型アザーバイドがその身を霧散させた。 「……! 確かにあの鳥は耐久に劣るが、たった3手でやられるとはね! 大した力だ」 ベイレンの称賛。そこに、俊介の後追うように放たれた海依音のジャッジメントレイが再び突き刺さる。 「同様のスキルですが……聖なる力で敵を焼き尽くす神秘です」 「はは、拍手する暇もないとはね」 ローブの裾を光で焦されてベイレンが苦笑する。 「そちらの3人も、まさかエンチャントだけじゃないだろう? 的を用意したんだ、全力で来てくれたまえ」 「言われずとも、なっ!」 最速を超え神速。鷲祐の体が、華麗に宙に舞った。目にもとまらぬ速さで背後を取られ、ベイレンが驚愕の色をさらに濃くする。 「いまから4手、俺の全てをお見せしよう。まずは1手」 「なるほど、君が私に体験させてくれるということか」 鷲祐の鋭い下段蹴りをベイレンは軽いステップで回避。その間にも、嶺と香夏子が攻撃用意を整える。 「これがボトムの神秘です――羽衣の舞、ご覧あそばせ!」 「これはライアークラウン、ってスキル、どうぞ」 練られた気糸は縦横無尽に戦場に網を掛け、鋭く投擲されたカードは人型アザーバイドへと突き刺さる。 次々と披露される神秘の数々に、ベイレンは満足そうに笑い声をあげていた。 ●交渉終了 「――さて、記録も終わった、そろそろ帰らせてもらおう」 模擬戦で得た軽い打撲や手傷を海依音の神の愛(なおお代は鷲祐他フュリエ2名に回った模様)で癒やされ、ベイレンは満ち足りた顔で扉に手を掛けた。 「そういえば、お前は何で神秘知識を欲するんだ?」 俊介が問いながら片手を差し出す。一度ドアノブから手を離し、その手を握り返すベイレン。 「何、ちょっとした好奇心と……少しでも多くの知識を、後世に残すためさ」 「素晴らしいもんだな。あんたの研究が、いつか何かの手助けになることを」 再度ドアノブに手をかけるベイレン 「最後の一撃、確かに頂を踏む者とはよくいったものだよ。その速度は、これまで回ってきた世界でも初めて見た」 ドアを開きながら鷲祐を見る。アル・シャンパーニュというスキルとともに見せつけられたその速度を再度目に焼き付けるように。 「――手土産だ、持っていけ。この世界の神秘の欠片だ」 鷲祐が事もなげに頭の鱗を剥がし、ベイレンへ投げつける。 「……ふっ、ありがたいね、首飾りにでもさせてもらおう」 受け取り、ベイレンは扉の向こうへと。 「そういえば、この国の言い回しに、次のような言があるそうだね――『立つ鳥跡を濁さず』」 それでは、とベイレンが手を一振り。リベリスタがホールブレイクするまでもなく、今まで異界とこのチャンネルを繋いでいた扉は、変哲もない廃墟を映すモノへ戻った。 「また来そうで厄介ですね……疲れました、わしすけ君。イイお酒の飲める店に連れて行ってください」 「……奢りは一杯だけだぞ! 他の連中もどうだ? 軽く打ち上げと洒落込もうじゃないか」 ――それもまた、神秘の坩堝たるこの世界の一幕。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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