●御坂商事ビル6F 彼等が請け負った仕事は簡単なものだった。 不幸にも『望まれぬ革醒』を果たしたサラリーマンを仕留める事。アークの請け負う業務の中で特筆するべきものもなく、これは予定通りつつがなく済まされる程度のものだった。 僅かな緊迫と、忙しない空気の後―― 「終わったな。この後のビールが恋しいぜ」 軽口を叩いた南雲隆志を遮ったのは突然に降って沸いた暗闇だった。 「――何だ……? 停電……?」 部屋の中を包んだ暗闇に声を上げたのは別のリベリスタである。慌てて窓の外に目をやるも、雑多な明かりを湛えていた夜景も暗闇に沈みこんでいた。外部電源を必要としない微かな電子光のみが星のように瞬いている。 「こんな時に……」 「いや、こんな時だからかも知れんぞ……」 隆志よりも年長のリベリスタが乾いた声で呟いた。 「本部から注意通達が出ていたのは知ってるだろ。例の『親衛隊』の話……」 任務の終わり際に起きた停電が偶然のものならば良い。何事も無かったかのように帰還して、予定通りビールを飲んで明日は休めばいいだけだ。しかし、隆志も他のリベリスタも時に自分達の稼業が『とんでもないもの』を招いてしまう事を知っていた。この世界の暗部に蠢く『神秘』が決して自らのような『凡人』に届かぬ危険な可能性を抱いている事を知っていた。 「……兎に角、早く撤収しよう」 唯の停電ならば数分以内に解決するだろう。 しかして敢えてここに留まるのは『可能性を考えれば』危険であった。 辛うじて用意していた懐中電灯を点けた隆志の言葉に五人の仲間達が頷く。 人は暗闇を恐れるものだ。そしてそれはとても賢明な判断である―― ●RIMIT9 「……『例の時間』まであと、三、二、一……九分って所ですね」 「しっかり、仕事をしないとね。相手が劣等なら、言い訳も尚更萎むから」 暗闇に包まれた街を走り、御坂商事ビルに侵入した人影は五つ。 ビルを注視し、鼠も逃さぬ構えなのがもう五人。 果たして――隆志達の予測を不幸にも肯定した『親衛隊』は合計十の戦力、二班で分隊を形成し、片方をバックアップに、片方をオフェンスに――チームでツーマンセルの状況を作り出していた。 四対六でも問題にしない自信があるが故の展開である。 送電をストップした暗闇の戦場が『猟犬』に優位なのも理由の一つ。 「突入開始しました」 軽く冗句めいた茶色の髪の女がトランシーバーに低く言葉を告げた。 『向こう側』から戻ってきたのは酷く理知的な女の声である。 『結構。予定通り任務を遂行なさい』 「はっ!」 『……ヤム曹長、くれぐれも時間を間違わないように』 「了解しました! 全ては誇りの為に! Sieg Heil!」 上官たるクリスティナの通達に居住まいを正して応えた女軍人は「分かっているわね?」と部下達に声を掛けた。『狩り』に許された時間はあと六分とそこそこである。任務をその手で果たせれば最上、そうでなくとも時間は進む。予定も進むという事だ。 遊んでいる暇は無い。獲物は易いが、任務は違う。 獲物は獲物に過ぎなくても、猟犬に対抗する猛獣共は又別だ。 「……曹長、中尉の読み通りなら」 「来るでしょうね、増援が」 日本各地で始まったアークと『親衛隊』の交戦は激化を続けている。アーク側の素早い対処が『親衛隊』側の思惑を挫かんとしている事は事実である。しかして、この戦場は元よりそれをも予期している。 「だから、責任重大なのよ。アマチュアにプロの違いを教えてあげる」 弱きを弄るのは楽しい。圧倒的優位から頭を割ってやった時等、胸がすく。 敵の取り得る手段を削り、警戒を重ねさせる事は重要である。 局面に置かれた布石はやがて機能し、敵の動きを縛りつける事だろう。 教えてやらねばならぬのだ。泥縄等通用しないという事を。 (クリス様の為に――) 暗闇の階段を猟犬達が駆け上がる。 激突はもう間もなく。獲物も彼女等の接近に気付いているかも知れないが―― 「――さあ、諸君。狩りの時間だ」 ヤム曹長は何処か楽し気にそう言った。 ●Dritte 「……全く、指揮官も楽ではないな。クリスティナ中尉」 「作戦の一環です。申し訳なく、ご足労を願いますが……」 「理想種たる僕が劣等如きに手を下す事等、本来有り得ない事だぞ」 御坂商事ビルから程近く――用意された特別製の大型ヘリに乗り込んだリヒャルトは小さく鼻を鳴らして言う。クリスティナの方も彼のそんな所には慣れたものだ。 「少佐の参戦こそ、猟犬達が士気を大いに高めましょう。 何よりも何かと煩いこの国のマフィアを完全に黙らせるには少佐のお力を見せてやるのが最も手早いかと存じます。身の程というものを知らない人間は何十年経っても尽きませぬ故」 ローターがバラバラと音をばら撒く。 夜空を行く二人の軍人は暗闇に沈む風景をせせら笑って眺めていた。 猟犬達の夜が始まる。幾多の運命を恐怖させ、飲み込む夜が始まるのだ。 「まぁ、いい。たまには動かねば体も鈍る。 劣等共にアーリア人種の優性、リヒャルトの意味を――教育してやるのも悪くは無いか!」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:YAMIDEITEI | ||||
■難易度:VERY HARD | ■ ノーマルシナリオ EXタイプ | |||
■参加人数制限: 10人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年06月08日(土)22:39 |
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■メイン参加者 10人■ | |||||
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●ファースト・フェーズ 現代の夜は往々にして眠らない。 都市部の暗闇には無数の星が瞬いており、地上に銀河を作るが如しである。 頭上と足元に瞬く光は天の配剤が作り出す幻想と、人の配剤が求める人為的な光の海である。 さりとて――夜が来れば当然のように星が瞬くのとは対照的に、人の作り出した光は時に脆弱なものである。何者かが『それを消し去ろうと思ったならば』そう難しい事も無く。足元の夜は当然の闇に沈み切る。 揺れるライトが集団の存在を告げていた。 日常の中に茫と浮かび上がった非日常を切り裂く光は一筋の希望それそのものである。 「第三帝国の亡霊共め、WW2当時の友軍とは言え。軍勢を率いてこの国に足を踏み入れるとは」 「分別の無いわんこ共……かつての友邦国にたいしての狼藉、許し難し」 (有名な悪党との戦場舞台が日本になるとは思ってもみなかったですが――) 電気という電気の消えた暗いオフィス街に連続した足音を刻んだのは『陰陽狂』宵咲 瑠琵(BNE000129)であり、『デンジャラス・モブ』メアリ・ラングストン(BNE000075)であり、『ぴゅあわんこ』悠木 そあら(BNE000020)であった。 憤慨を口にした瑠琵にしろメアリにしろ、内心だけで一人ごちたそあらにしろ―― 「ソレニシテモ、メンドクセーナ!」 実に彼女らしい悪態を吐いた『瞬神光狐』リュミエール・ノルティア・ユーティライネン(BNE000659)にしろである。駆ける彼女等がその思考を向けたのは『暗闇に沈む街』を作り出した問題の敵の事であった。 ……第二次世界大戦を生き抜いた『亡霊』が日本に姿を現し始めたのはついこの程の事である。 ある種世界で最も忌避される集団である彼等は『忌避される理由をそのままに』現代の闇に潜み続けていた。かのバロックナイツの中でも指折りの『悪』は狂った理想を己が大義に据え動き始めたという訳だ。ケイオス・“コンダクター”・カントーリオなる大芸術家を辛くも退けたアークの次の対戦相手として。 (リヒャルトたちは放置できない倒すべき敵だと思うけど――今は、急ぐ!) 『大食淑女』ニニギア・ドオレ(BNE001291)の強い眼差しが見据えた先はその『歴史の闇』に侵食された六階建てのビルだった。今回の事件はその御坂商事ビルに赴いたアークのリベリスタ、南雲隆志一行を『親衛隊』と称されるリヒャルト麾下の部隊が襲撃するという情報を得た事から始まった。日本全国各地で展開される神秘事件の対応に赴くリベリスタ達の数は多く、神秘界隈における日本の警察として機能するアークがこの多くの事案に戦力を傾けている事は周知の事実である。さりとて、全てのリベリスタ達が今夜を駆ける『エース』と同じ実力を有している訳では無い。当然そこには戦闘力的に優れぬ者も存在し、同時に覚悟の無い者も存在する。『親衛隊』は日本の治安を防備せねばならぬというアークの泣き所を突き、全国に散らざるを得ない『弱い』リベリスタ達を襲撃するという作戦を取ったのである。かのケイオスとの戦いでも少なからず機能したアークの組織力を削り落とし疲弊させるというその狙いには国内で主流を形成するフィクサード七派からの情報提供もあると看做されていた。 「チッ、正面切って喧嘩も出来ねぇ根性無し共がよ……!」 普段ののんびりした表情に真剣な色を乗せる傍らの恋人にチラリと視線をやった『墓掘』ランディ・益母(BNE001403)は敢えて彼女の緊張をほぐそうとするように強い言葉でそう呟いた。 「邪魔は、させん――!」 御坂商事ビルの内外には気を吐いた『折れぬ剣《デュランダル》』楠神 風斗(BNE001434)が敵と憎む『鉄十字猟犬』の部隊がそれぞれ存在する事が分かっていた。万華鏡が感知したのは内外の敵と――暗躍するその首魁リヒャルト少佐及びクリスティナ中尉の動向であった。この場に在る誰もがこの夜を死線と認識していた。隆志を救う事、そして自身等が生存する事は双方で一つの任務になろうという事も。 急行するリベリスタ達の視界の中央に位置するビルのエントランスが迫ってくる。気を張り詰め、漲らせるリベリスタ達だったが静やかな夜は彼等が想定した『鉄十字猟犬』の影を思わせない。 (ほう。これは……邪魔が無い――?) ある意味予期せぬ展開に目を細めた『閃刃斬魔』蜂須賀 朔(BNE004313)の腹の底から、何とも言えぬ愉快な感情が競り上がってきていた。危険に身を浸し、強敵と合間見える事を愛好する――彼女にとって自身の第六感とも言うべきその感覚を『捕まえる』事は最高の時間を証明するにも等しい事実だった。 大いに結構。通り一遍の時間稼ぎをされるよりも尚、今夜の闇は深くビルを包んでいるという事か。 「……面白い」 ビルに遂に到達し、隣にも聞こえぬ声で思わず漏らした朔の唇は成る程、上弦の月に吊り上がる。 その思惑は別にして『邪魔が無い』ならばリベリスタ達にとっては是非もなし。 元より罠と知って此処に来た。元より敵が領域と知りながら仲間を救わんとしているのだから当然だ。 「行くぞ――!」 六月の生温い空気を凛と切り裂く『誰が為の力』新城・拓真(BNE000062)の声に仲間達は気力と速力を増す。 暗闇の洞のように広がる御坂商事のエントランスを突き抜けて、猟犬共が跋扈する『戦場』に突入した。 (神様のくそったれ。いつにも増して理不尽な日だ。それでもこうして間に合ったのは感謝するよ――) 小さく息を吐いた『アリアドネの銀弾』不動峰 杏樹(BNE000062)はこめかみの奥にチリチリする危険な予感に敢えて気付かぬ振りをして、珍しく『ブン殴りたい位大嫌いな神様』に礼を言う。 この夜は恐らく死の運命に満ちているだろう。しかし、まだ―― ――まだ、誰も死んでは居ないのだから。 ●セカンド・フェーズ 「不意打ちに気をつけて下さいです!」 闇を含んだビルの中を揺れるそあらの手にした光源が照らしていた。 廊下を駆け抜け、階段を一気に駆け上がり、それを繰り返す。焦る気持ちを押し殺し、先導を瑠琵の作り出した影人に任せたリベリスタ達は一直線に六階を目指していた。リベリスタパーティは送電の停止した一帯の暗闇に対抗する為、暗視能力を持たぬ全員が暗視ゴーグルを装備してくるという周到さを見せていた。 「どんな手を使ってくるやも分からぬからのぅ」 『軍人』を標榜する連中の危険性を嫌と言う程知る瑠琵は敵の構える罠にもその意識を向けていた。 ストレートで到達すれば二分、それよりはもう少し掛かって二分十秒。リベリスタの到達より敵作戦開始から五分十秒、リミット9に対しては――五分三十秒。リベリスタが六階に到達したのは残り時間が三分三十秒(21ターン)を切った時点での出来事だった。 「オマエ等ノトクイ技カモ知レネーケドナ!」 階段より飛び出したリュミエールが全身に青白い雷光を纏う。 まさに『彼等』が遠き昔に得手としたグデーリアンのBlitzkriegはそのお株を奪うものである。 「時ヨ加速シロ私ハ誰ヨリモ疾イノダカラ――」 まさに神速と呼ぶに相応しい――究極の反射速度が続け様にしなやかな肢体を動かした。 身に纏う電気が全身に戦いのシグナルを浴びせている。眼を見開いた少女は水色の髪を揺らして闇の中に肉薄した。 猟犬のナイフと光狐のナイフが絡み合ってダンスを踊る。 無数の飛沫の如き刺突が奏でる甲高い金属音は宣戦布告を告げ鋼鉄の音色。 「おいでなすったわね!」 「ああ、お前達――!」 六階まで隆志等リベリスタを追い詰めたヤム曹長と隆志が遂に現れたパーティに声を発した。 リベリスタ達にとっても猟犬達にとってもそれは想定された未来である。その為にここに来たリベリスタは言うに及ばず、それを見越していた猟犬達も言うに及ばず。 「迎えに来た。帰るぞ」 「後は度胸と運次第、生き残りたければ覚悟を決めるのじゃ!」 「ああ……」 杏樹の、瑠琵の力強い一言に頷いた隆志の表情が緩む。 「今、助けるのです。皆でさおりんの所に帰るのですよ!」 「流石、専属秘書だな……!」 力無い冗句だが、それは隆志の気力が尽きていない事を告げている。 『名声の高い』そあら等からの通信で希望を保った彼等にとってもこの未来は信じたかったものであった。 隆志達にとってこの数分は連続する『死』に抗い続けねばならぬそれであった。万華鏡の感知した『状況』よりも彼等の分は尚悪く『生きているのも実力差からすれば不思議』であろう。 それでも彼等は――パーティの立案した『脱出の為の作戦』を受け取り、今まだここに居る。 それが――意味する『事実』は別にして。 少なくともパーティは考えた通り隆志等の下へ急行し、彼等は信じていた通りの顔を見れたのだ。 位置関係と通路幅から容易く合流する事は難しいと言えたのだが―― 加えて虎口からの脱出口となる『逃げ場』は『親衛隊』がカバーしている。 「主の為に羊を追い立てる狩りの様相だな。猟犬とは良く言ったものだ」 唇に皮肉を乗せた朔は状況にも全く冷静と――平静を保っていた。 リュミエールに続き廊下を走る彼女の手には言わずと知れた『葬刀魔喰』。アシュレイが元は妹の為に鍛えた刀はまさに魔を斬り呑み喰らう不吉なもの――『我が身朽ちたとしても、神秘的悪を撃滅せんとす』の蜂須賀の矜持を体現するものだ。 「心せよバロックナイツ。そして、その狗。 貴様が手を出したのは狩られる羊ではない。爪牙ある狼と知れ――」 自身を『蜂須賀の不良』と認ずる朔とてこの戦いに到れば『正義』を為すばかりである。 朔が狙いを定めたのはリュミエールが仕掛けた対象と同じ――敵プロアデプトである。 正義と闘争欲求を満たす舞台は――戦神のように透き通る彼女の意志と刃を引き立てた。 「貴様アッ!」 「おっと、失礼」 抜群のスピードから閃いた切っ先は『誇りある彼等の軍服』の端を散らしていた。 身に纏う衣装に彼等がどれ程の妄執を抱いているかを考えればコレはダメージ以上に『効く』と言える。 「生憎と――遊んでる暇はねぇんでな!」 さりとて、止まらない。猛る猟犬が対応を取るよりも素早く真打ちたる赤い野獣が目を爛々と輝かせた。 二メートルをゆうに超える巨躯は墓堀りの名を冠する大斧を軽く担いでいる。『状況上、仲間を巻き込まないように』動く事は不可能だったが、男は――ランディはまさに獣を屠る獣の如しであった。 「おらああああああああ――!」 怪物(フリークス)の咆哮と共に繰り出される鬼の烈風は集中打を加えんとした対象を中心に敵陣に暴威を撒き散らす。『それを知っている』二人の仲間は辛くもこれを避け、猟犬は僅かに下がりダメージを殺す。 「今回は――守るだけじゃ済まないわよ!」 恋人の奮闘に応え、追撃に出たのはニニギアである。 ホーリーメイガスの彼女は回復を得手とする扇の要である。しかし練達の神秘は破邪の詠唱と神聖を帯びた呪言をトリガーに己が敵を焼き払う浄化の炎に昇華する。 「この俺を――阻む障害は、打ち砕く!」 更に『壊れた正義』を振り抜いた拓真の剣風が舞い、襲う。 「っ、く……!」 猟犬が更に白炎と刃の風に薙がれてくぐもった声で苦痛を漏らす。 これを倒し切るに至らぬのはそれ自体が敵の戦力を意味しているが――『通用』もまた確実であった。 一方で――パーティはニニギアが『任せた』回復の方にも余念が無い。 「しっかりして下さい。今、癒すのです!」 「敵は全て蹴散らすまで! まだ眠るには早い時間じゃぞ――!」 彼女の動きとほぼ同時にそあらとメアリ――支援役の二人がまずは傷付いた隆志等を賦活する神秘の力を紡ぎ出した。隆志等は救出対象であると同時にこの苦境を共に切り開く『戦力』なのだ。 「主等が『美味い』気はせんのじゃが、な」 「一気に――叩く!」 「狂犬に構ってる暇はない。そこを退いて貰おうか――」 指差した瑠琵のエナジースティールが、デュランダルを繰り出す風斗が、戦場を赤い炎に染める杏樹が猛烈に攻める。たまらずプロアデプトは膝を突きフェイトを燃やし、苦渋にドイツ語の悪態を吐く。 「報告の通りだわ。『極東の空白地帯』が聞いて呆れる」 ヤム曹長は少なからぬ感嘆を込めてそんな風に呟いた。 リベリスタパーティの動きは歴戦の相応に洗練されていた。 猛烈な勢いで攻め立てるリベリスタ達はまずこの会敵で勢いを有していた。 恐らくは唯の数年でこれ程に熟達した者はそう居ない――高い評価が何一つ間違いでは無かった事を戦いで証明していた。 「全く『報告の通り』ですね」 「そういう事――」 しかし、部下とのやり取りに薄く笑ったヤム曹長は凛と声を張り叫んだ。 『鉄十字猟犬』のオフェンスチームを率いる女軍人にはまだ確かな余裕が存在していた。 「――諸君! 今度の獲物は『爪牙ある獣』だ! 相応の武力を以ってこれを制圧せよ! 油断無く、慢心無く。全ては我等、鉄十字と勝利の名の下に――」 一声と共に敵陣の空気が切り替わる。 「――無慈悲に! 徹底的に! 容赦無く嗜虐的に反撃せよ!」 ●サード・フェーズ かくしてRIMIT9を睨む両者の戦いは激しいものになっていた。 幸先良く素晴らしい連携を見せたリベリスタ側ではあったが――結果的に言うならばその勢いは長く続く事は無かったのである。それはヤム曹長以下鉄十字猟犬達が精強だったからという理由だけでは無い。 それは―― 「成る程、やる事為す事いちいち道理じゃな。全く『頭が固くて』面倒じゃわい」 ――苦笑いを浮かべた瑠琵の反応が物語る『事実』から来るものだった。 「さすが軍隊なのです。千堂並みに統率の取れたバランス良い構成なのです……!」 任務遂行の為のバランス。全く粘り強い編成。無論、高い戦闘能力。 そあらの言う通り『鉄十字猟犬』は軍人である。過去の亡霊であり、時代の忌わしき遺物であろうとも軍人であった。 リベリスタへの罠として用意されたこの場所に『本命』が侵入する事を彼等は決して拒まなかった。隆志等『雑魚』を仕留める事等、彼等にとっては元より容易い児戯だったという事だ。パーティが到着するまでの時間、彼等が生存した理由は『パーティをこの檻の中に引き込むが為』に他ならぬ。 つまる所、『本当の獲物』が檻に入ったならばハンターはその動きを切り替える。 来るまでは拒まず、来てからは決して逃さない。 まるでそれは野生の獣を捕らえる為の罠のようである―― 「気をつけろ! 陣形を崩すな――!」 拓真の声に仲間が頷いた。 『後方に出現した』敵バックアップチームは単純にこの現場に急行せざるを得なかったリベリスタ陣営を追いかけたに過ぎない。オフェンスチームと挟撃する形を作り出したのは当然の成り行きに過ぎなかった。 ヤム曹長の号令はその実両者に向けられたものだったという事である。 「ええい、煩い!」 幾度目か攻める瑠琵がやや苛立った声を上げた。 「メンドクセーナ! 時代遅レメ!」 スピードを武器に集中と攻撃を繰り返すリュミエールも肩で息をしている。 パーティの攻め手も猟犬達を傷付けている。しかし、潮目が変わったのもまた事実である。 「生憎と――倒れてやる心算は、無い!」 消耗を気丈な一声で振り払わんとする拓真の姿を見るまでも無く。 戦場から安全圏が減ればリベリスタ側の被害も自ずと大きくなっていく。 『何時もリベリスタ達がするのと同じように』連携を以って優位な状況を作り出す敵は厄介極まりない。 猟犬の向こう側の隆志等もリベリスタ達を援護せんとしているが――力は足りぬ。 「卑怯な連中め! しかし、この程度……!」 闇の中に鮮血が散る。肉薄してきた猟犬の刃に風斗が傷付けられた。 力づくでこれを押し返した彼は怯まぬとばかりに吠え掛かる。 「この程度で、剣を折れると思うなよ――!」 風斗にとって全ての力は理不尽なる運命に、悪辣なる敵に立ち向かう為の武器であった。 大切な存在を失う事への恐怖を彼は知り過ぎる程に知っている。 この世界に悪夢(ナイトメア)が降りたその日から――鈍色の痛みを彼は決して許していない。掌から零れ落ちようとする『何もかも』を見捨てない。痛みに歯を食いしばる少年を何時も支える想いは、あの黄泉ヶ辻京介ならば間違いなく笑い飛ばす青臭い理想に他なるまい。 だが、それでも。揺らがぬ少年の想いは時に運命に突き立つ刃となるだろう。 「――死なせない! 失わせない!」 そして、叶うならば死ぬまい。 「そのための――『力』なんだ!」 裂帛の気を吐いた風斗に応え愛剣(デュランダル)は闇の中に赤い紋様を浮かばせる。 目前の敵をこの瞬間圧倒した気迫は剣に十分な威力を乗せて強かにその威力を炸裂させた。 「元々今回は顔見せ興行じゃ。仲間はさっさと奪回して帰らせてもらうぞよ」 「誰も――置いていかないから、絶対!」 嘯いたメアリが、強く言ったニニギアが力を振り絞る。 俄然忙しさを増すホーリーメイガスの戦いは何よりも状況の厳しさを理解させるもの。 猟犬達と精鋭リベリスタ達の戦闘力差に大きいものはない。されど、考えれば分かる事だ。仮にその実力比較をやや楽観的に見積もって『ほぼ五分』とした所で――『ほぼ五分の敵が同等以上の連携を見せたならばどうなるか』。『ほぼ五分の戦い』は必然的に相打ちに近い状況を作り出すものであるし、リベリスタ達は『勝たねば』仲間を救う事は成らず、予め提示されたリミットは容赦なく差し迫る。 焦れる状況に焦りが募るのは必然だった。 「やるわね。でも」 リベリスタ達を『アマチュア』と称したヤム曹長はまだ余裕の構えを崩していない。 「諸君、仕掛けるわよ。次の動きは分かるわね?」 号令と共に猟犬達が動き出す。 意図的に付近の送電をカットした彼等はあくまで待ち受ける側であった。 彼等が『全員』暗闇を苦にしないのは決して偶然等では無い。 正確無比な銃声が戦場に響き渡る。『部位狙いをものとしない攻撃』で彼等が狙ったのはそあらの光源であり――リベリスタ達が暗闇に抗する為の頼りとした暗視スコープ達であった。幾人かは辛くもこれを避け、幾人かは暗視スコープを必要としない異能を身につけているが、全員ではない。 「くっ……!」 風斗がすかさず予備のライトでフォローするが何時までもつか。 「クソがッ! ちまちまと――鬱陶しい――!」 全身より怒気を迸らせ、ランディが暴れる。 数的優位を生かして早期に強引な突破を図らんとする彼の考えは妥当なものと言えたが室内戦闘のロケーションは数的優位を減じさせている。又、後方に食いつかれた以上脆い後衛のフォロー含めて対応しない訳にもいかないのが厄介だ。時間を或る程度稼ぐという敵方の目論見に比べて、チーム全体でのコンセンサスがやや取れていないのも重要な問題か。 「実に的確だ。私が君達でも同じ手を選ぶだろう」 逆に冷静に『親衛隊』の手際の良さに感心する朔が刃を振るった。 「大好きな中尉の為だもの。失敗は出来ないわよね?」 「あら、分かってるじゃないの」 ニニギアの挑発をヤム曹長は軽くかわす。 「私は、中尉が大好きなのよ! 綺麗で頭が良くて最高の上官!」 激しさを増す戦闘は長いようで短い時間と互いの余力を急速に食い潰しながら続いていく。 「亡霊には奪わせない――」 修道服(いたんだしんこう)とその身に傷を刻む敵を炎のような双眸で見据えた杏樹が呟いた。 「――世界最強だろうが邪魔させない。皆で帰るんだ!」 魔銃バーニーが火を噴いて幾度目か敵陣を灼熱の炎の渦に咽ばせた。 ごうごうと唸る魔炎が何事か――ドイツ語のやり取りを遮断する。 「は――!」 そんな炎を気を吐いた漆黒の剣士が切り裂いた。 そこに居る敵を火焔と一緒に薙ぎ払う、拓真の刃は生と死を占う絶対の意味を持っている。 「ある意味で――お前達と同じだ」 「劣等風情が何を」 「同じなんだよ」 どれ程狂っていようとも、どれ程無様であろうとも。 その言葉を拓真は敢えて言わなかった。唾棄すべき悪、亡霊と同じと自嘲さえしてみせて。 「俺は、俺が正しいと思う事を貫き通す。この命、果てる迄――!」 それでもビリビリと夜を震わせる彼に迷いは無い。 理想の迷宮に彷徨う『誰の為でも無い正義』は今夜ばかりは言い切った。 果たして、戦いは極めて厳しいものであった。 パーティと『親衛隊』の双方が運命に縋り、暗い夜に徒花を咲かせ続ける。 「俺の後ろにはニニも居る……通さねぇし、生きて踏ん張るさ。死んで傷になるなんてダセェだろ!」 「ランディも――皆も全力で癒し守る。それが私の出来る事!」 ランディが吠え、ニニギアがそれを支える。 (まずい展開じゃな……) 生命を掠め取る瑠琵の指先が『親衛隊』を抉るも、敵側の支援も中々しぶとい。 彼女は自身の影人で味方を庇わせる事も考えたが、『安全圏の無い挟撃の只中で作ったとしても』いよいよ手番を喪失するばかりである。 (猟犬は主が撃ち易い位置まで獲物を追い立てるものかえ――) 死線に踊る戦士達は間近に迫る『本当の死』の影を知っていた。 故にリベリスタは可能な限り早い決着を望み、猟犬達はこの時間が長く続く事を願っていた。 リヒャルト・ユルゲン・アウフシュナイターという死神がこのビルに到着するより早く。 或いはリヒャルト・ユルゲン・アウフシュナイターという切り札がこのビルに到着するのを待つように。 時計の針はあくまで冷徹に――間もなく刻限(リミット・ナイン)を示そうとしていた。 「『分かってる』わね」 ヤム曹長はもう一度そんな台詞を口にして――そして『その時』は始まった。 ●RIMIT9 バラバラとヘリのローター音が近付いてくる。 「くっ――」 痛恨の声はリベリスタの何れかが漏らしたものであった。 パーティは『親衛隊』の狙いが自身等をビル六階に引き付けた上での砲撃と読んでいた。そしてその実それは概ね正解であったと言える。しかして、彼等の誤算は『敵の意図を知りながら、敵の狙いを読み切れなかった事』に集約される。 パーティは確かに高い士気で任務に臨んでいた。 彼等の戦意を疑う事は馬鹿馬鹿しく、彼等の能力も高いものだった。 さりとて、そこに落とし穴は無かったか。『自身等の企図する作戦と思惑を成算するものと見込み過ぎ、希望的観測に拠ってはいなかったか』。 確実に合流を果たす為の手段の模索。 敵バックアップが自身等に挟撃という『オフェンス』を仕掛ける可能性。 RIMIT9を最初から作戦の肝に据える彼等に対しての警戒然り…… 敵には敵の――作戦に対しての思惑と行為が存在する。せめても『読み切っていたならば』結果は変わったやも知れない。だが、今夜の状況に対してやや『前のめり』となったリベリスタはそこに無頓着過ぎたと言わざるを得ない。 敵は逃がせば意味は無いのだ。ならば逃がさぬ策を講じるのは必然。リベリスタ側からするならば『逃げたい』という結果願望以上に『どう逃げるか』という手段構築が最大懸案になるのは言うまでも無い。 この夜は難関の夜(ベリー・ハード)。 相手は些細な油断と綻びを許さぬ敵だったという事である―― 「景気がいいわ!」 ヤム曹長の声は閃く爆花に対しての歓声であった。 運命のRIMIT9を直前に事態は急激な加速を見せたのである。ヤム曹長の指令を受けた敵インヤンマスターは狙い澄ましたように最後に動き出し、リベリスタ陣営を陰陽・結界縛に捉えたのだ。 身のこなしに優れる瑠琵、リュミエール、更には奇跡的な動きを見せた朔はこれを辛うじて回避したが――パーティ全体の鈍化は如何ともし難くその動き出しを遅らせた。続け様、怒涛のように先手を打ち始めた『親衛隊』はフラッシュバンによる苛烈な光の弾幕でパーティの動きを激しく封じたのである。 一部リベリスタは敵の狙いに敢然と立ち向かう。 だが、次々と瞬いたこの攻勢を流石に逃れ切れる由も無い。 「いい線いってたわよ。でもこれまでね」 RIMIT9を迎えた戦場に猟犬の嘲笑が響く。敵方は後方のバックアップチームを階下に下げ、オフェンスチームは窓を破って脱出する『予定通り』の動きを見せていた。 行動を取り戻すまで最短僅か十秒。 されど全員が戻るには明らかに大きな時間のロスがある。近付くローター音が僅かなロスが決定的な時間である事を知らしめていた。 「……リヒャルト……!」 見ずとも分かる。 窓の向こうに現れた強烈な存在感に杏樹が小さな声を上げた。 幾人かのリベリスタは漸く動きを取り戻したがが――『もう間に合わない』。 「くそ、こんな事で……!」 風斗が痛恨に吠える。されども縋る運命もまだ及ばぬ。 大型ヘリの立てる爆音は本来この時間には余りに不似合いだ。 黒雲から覗いた月の下、空に浮かぶ要塞に狂った軍人が佇んでいる。 魔術書を携えた美しい中尉を副官に、その美貌を苛烈に歪め嗤っている。 「流石と言えるのかな!? 中尉!」 「お褒めに預かり感謝いたします」 やや甲高い声で言ったリヒャルトに慇懃無礼なクリスティナが礼をした。 「過分な光栄に感謝しろ――」 ヘリの扉を開けたリヒャルトは吹き付ける風にアーリア人種の誉れたる見事な金髪をはためかせ。 携行型の88m(アハト・アハト)なる有り得ざる代物(ばけもの)の照準を六階に定めていた。 彼のアーティファクトに小細工は無い。小細工も妙な手品も全く不必要。唯、純然と強く。唯、純然と嗜虐的。敵国がエイティ・エイトと恐れた祖国、鉄血の栄光は全く――彼にとっては至高の一品であった。 不快な夜にゾクゾクとその身を震わせて。 半身を乗り出すようにした傲慢な軍人にもうこの時を厭う気配はまるで無い。 「――吹き飛べ、劣等!」 リヒャルトが歓喜の声(こうきょうきょくだいきゅうばん)を奏でたのと、 「その目に焼き付けよ、我が運命――我が力!」 間一髪動きを取り戻したメアリが青い炎を吹き上げたのはほぼ同時の出来事だった。 奇跡よ、起これ。奇跡ならずば生存の道が無いならば――今を置いてその時があろうものか! ――望みに応えよッ! 歪めて曲げろ黙示録―― 暴力の塊が殲滅の檻に炸裂する。 ヘリが大きくバランスを崩す。だがそれは想定の内。その為の特別製。 「はは、ははははははははは! 見たまえ、中尉! まるで連中は塵芥だな!」 強烈な反動を恐れるべき膂力で押さえ込んだリヒャルトの哄笑が響く。 アハト・アハトの殲滅威力が『六階そのもの』を呑み込んだ。爆発ならぬ消滅に等しいバロックナイツの砲撃はその場に存在するモノ全てを――生命体の全てを消し飛ばすだけの力を秘めていた。否、秘めず堂々と凱歌のように勝ち誇っていた。 だが―― 「少佐。『これがアーク』です」 ――爆発と粉塵による視界がクリアになった時、クリスティナは静かに呟いた。 当然あるべき『消滅』の風景はそこには無い。直撃の瞬間、青い炎を吹き上げたメアリの運命はそこに在るモノを守ろうとするかのように――天使の翼を広げていた。 暴虐たるリヒャルトの喜びの歌さえ遮って、辛うじて傍らの仲間達を守り抜いていたのだ。 しかし、それでも――隆志等を救えた訳では無い。『代償の犠牲が無かった訳では無い』。 更に余波によるダメージは大きい。リベリスタは何れも余力を殆ど残していない。 「『報告の通り』ですね。彼等はしぶとい。マフィア共も手を焼く訳だ」 「……僕の砲撃を防いだと? 不愉快な虫けら共が……!」 歯茎を剥くように怒りの表情を見せたリヒャルトにしかしクリスティナが言葉を添えた。 「少佐の攻撃をただ防げる者等居りますまい。少なくとも『七人』消し飛ばしたのは確かです。 唯の一撃で七人です。挨拶はこんなもので十分かと。 彼等が『まぐれ』で永らえたとて、外には猟犬達が居る。彼等はヤム曹長が仕留めましょう」 「……チッ……!」 自身が泥に塗れた戦いをする等、リヒャルトの中では有り得ない。 換えの弾を用意していなかった彼は舌を打ち、ヘリの操縦主に乱暴な口調で帰還を指示する。 アーリア人種に失敗は無い。何故ならばそれは全てが至高であるからだ。 つまり、予定はつつがなく遂行されたという事だ。失敗は無い。リヒャルトはアーリア人なのだから。 「けるな……」 叫んだ。何時も上手くいかない。全て上手くいかない。 この世界には不条理と、怒りばかりが満ちているかのような。 「ふざけるな――ッ!」 短い言葉に全ての想いを込める――それは拳を床に叩き付けた風斗の慟哭だった。 遠ざかるヘリを見つめる拓真が深い息を吐き出した。 「落ち着け……いや、俺も無理か」 得物を握る拓真の手は極自然に震えていた。 恐れは無い。しかし、知らぬ内に震えていたのは確かだった。 御坂商事ビルの『六階だった場所』は殆どが吹き飛ばされ――丸裸も同然になっている。 いや、そんな事はどうでもいい。重要なのはこの場に『九人』しか居ない事である。 「冗談ジャネーヨ……」 呆れたように呟くリュミエール。 もし『阻まれなかったならば』あの砲撃で何が起きたかは考えたくない。 「ムカつくぜ、こんなにムカつく事はねぇ……」 「……同感じゃな」 すん、と鼻を鳴らしたニニギアの頭を強く胸に抱き寄せたランディは傷付いた身体に似合わぬ程の殺気を放ち、瑠琵は何処か無表情にそう応えた。 「まこと忌々しい」 敵に翻弄された屈辱と、誓いを守り抜けなかった虚無感、仲間を失った喪失感は何とも言えぬ程の重みを疲れ果て、傷んだその身体に圧し掛からせている。 「……やっぱり神様の、くそったれ」 「でも、まだなのです――」 呟く杏樹。目元をごしごしとやったそあらが気を取り直す。 この夜は終わっていないのだ。脱出した猟犬達は余力を失ったパーティを狙っている。 外が騒ぎになれば、リベリスタ達が阻まねば――また余計な誰かが犠牲になる可能性は否めない。 『彼に会う為にも』ここで終わる訳にはいかない。泣くのは少なくとも後でいい。 戦いは次の幕を迎え、この猶予一拍の後には『生き残る為』の時間が始まるのは間違いなかった。 (全く素晴らしいな、アウフシュナイター君……) 胸を焦がすのは痛烈なまでの敗北感。それは当然の痛恨であり、苛烈に輝く痛快であった。 明日があるかは知れない。もしかしたら無いのかも知れない。 朝日を見れるかは分からない。ともすれば大それた願いなのかも知れない。 しかし、朔は腹の底からこみ上げる予感を今度は確信に変えていた。 妹がそうであったのと同じように、蜂須賀の死生観は逸脱の淵を覗く。 仮に自身が撃ち抜かれても平然と賞賛を口にしたであろう、そんな女は彼方に去るヘリを最後まで見つめて呟いた。 「いよいよ――君の首に喰らいつく日が楽しみだ。また会おう」 嗚呼、我が愛しき世界最悪の、亡霊よ。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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