●猟犬 「くそッ……!!」 七派のフィクサードが暴れる。 そんな話を聞いてアークから出向いたのが少し前だ。周囲の一般人に被害が出る前になんとか事を収めようと。 そう、決意して来たまでは良かったのだが、 「なんだこれは、どういう事なんだッ……!?」 現場に到着するなり彼らを襲ったのは、七派ではなく無数の銃弾だった。 その場を制圧するかの如く。埋め尽くし、逃がさんとする意思の嵐。暴れていた筈の七派フィクサード達の姿は何時の間にやらもう見えず。四方から聞こえてくる鉄の轟音が七派を無視し、リベリスタ達だけを追い詰めて。 おかしい。なんだこれは、この状況は。まるで、まるで―― 「待ち伏せ、じゃないかこれは――!! ッ、ぐぁああ!」 肩の肉が抉られる。 逃げ道は無く。突破は出来ず。僅かな障害物に身を縮ませ、耐え凌ごうとするも無駄だ。 彼らを追い詰めているのは鉄十字猟犬。 “狩る”側なのだから。 ●ブリーフィング 「皆さん、緊急の要件です! フィクサード撃退に赴いた人達が“親衛隊”の襲撃にあっていますッ!」 ブリーフィングルームにて、叫ぶ様に『月見草』望月・S・グラスクラフト(nBNE000254)は言葉を囃し立てた。その言葉の端からは焦りの感情が垣間見えて。 「現状はなんとか持ちこたえている様ですが、疲弊は限界に近く、親衛隊に包囲されている以上撤退出来ない様です……皆さんには現場に急行して貰い、救出任務に当たってもらいます! 親衛隊は連携能力の高い、正に“軍隊”です! 一筋縄では無いかないので、気を付けて下さいッ!」 親衛隊。かつて存在したドイツの中の――生き残り集団。 六十。いや、七十年の時を超えて再びその名を聞く事になろうとは、なんたる事態か。 ともあれ、バロックナイツの一角。リヒャルト・ユルゲン・アウフシュナイター率いる革醒者集団“親衛隊”は、以前の楽団と同格とされる一級線フィクサード達の集まりだ。油断は、出来ない。そして、 「七十年前の亡霊達に……今ある命、奪わせる訳には行きません! どうかお願いします! 彼らを助けてあげて下さいッ!!」 そうだ。 楽団と同格だろうが、バロックナイツの配下だろうが、そんな事は知った事では無い。 救いに行くのだ。命を、仲間を―― ●猟犬らの会話 「少尉。目標は包囲以降、急速に交戦能力が低下しております――もう間もなく、殲滅完了するかと」 「へーぇ。そいつは順調順調。結構なこった」 数多の銃声が鳴り響く中、その比較的後方地点において。二名の男女が言葉を交えていた。 一人、少尉と呼ばれた男は煙草を吸っていて。近くに居る年若い……と言うよりも“幼い”外見の少女からの報告を聞き取っている。まぁ双方ともに親衛隊の一員、革醒者なれば実年齢は分からないが。それはさて置いて、 「んじゃあ俺は帰るわ」 「――はっ?」 唐突に発せられたその帰宅宣言に、親衛隊の少女は面食らう。 何を言っているのだ貴方は――そんな目を即座に向けるが、 「ぁん? なんだよ。残った劣等連中ぐらい、テメェらで充分に殲滅出来るだろ?」 「いや、そうですけど。貴方、ここの指揮官……」 「良いじゃねぇか、んな細かい事はよ。大体ぃ? 指揮はめんどくせぇから……じゃなくて、信用してるテメェに毎回任せてるんだ。今更俺がいようがいまいが大して変わらねぇだろ」 「今本音が出たでしょう貴方ッ! 駄目ですよ、アークの救援とかが来る可能性も考えてるんですから……ちょっと、少尉!? 聞いてますかフォルクハルト少尉ッ!!」 うっるせぇな。とフォルクハルトは短く呟く。 あぁ知っている。アークの事は。“だから離れる”のだ。アークの万華鏡に、己の情報をなるべく渡さぬ為。現場から少しでも離れておいて、神秘の事象の一つとして捉えられぬ様にする為に―― 「ヴェラ。少佐殿にあんなクソ熱い演説かまされたんだ直後なんだ――ヘマやらかすんじゃあねぇぞ」 ぶっきらぼうな言葉だけを己の副官たる少女に残して。彼は去る。一旦ここから。 救援が間に合わなければそれで良し。間に合えば現場はヴェラに任せて己は観察しよう。 敵と成る、島国の劣等共が。 どれ程の力を持っているのかを。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:茶零四 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年06月04日(火)23:11 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●状況 ヴェラ曹長は“ほぼ”勝利を確信していた。 碌な抵抗は見えず。木々は然したる壁で無し。こちらは万全にして敵は戦意喪失。 負け得る筈が無い。ただ、一つ。状況が見えなくなる事態があるとすれば―― 「あきらめちゃ駄目――!!」 彼女らの様な“援軍”が来る事だろう。 方角にして西。包囲されているリベリスタ達に届けとばかりに吠えたのは『魔獣咆哮』滝沢 美虎(BNE003973)だ。親衛隊の注意も引く為。暗闇の中を軍用暗視ゴーグルと共に駆け抜ければ、 「アークの援軍だよ! ここはわたし達が抑えるから、あなたたちは直ぐに撤退してっ!!」 「あぁ安心しな! 助けに来たぜ!! アークのトップ、結城竜一が親衛隊なんてぎったんぎったんにすっから期待してなッ!」 「はぁぁ!? 俺かよ!! まぁ俺だけどな! 俺が行くけどなぁ!!」 『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)に『合縁奇縁』結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)も同様に。声を出し、希望を彼らに与えようとその“名”を叫ぶのだ。 彼ら二人は、数多くの者が所属しているアークの中でも群を抜いて名声が轟いている。ワーカーホリックとすら室長に言われる程に――いや、であるからこそか。その名を持つ者が救援に来たという事実は、追い詰められた彼らにとって大きな希望となって。 「親衛隊の皆様どうもこんばんは――ここから先は、わたしたちと遊んでね」 「これ以上好きにはさせぬ。突き崩させてもらうで御座るぞ!」 そして『本屋』六・七(BNE003009)と『影なる刃』黒部 幸成(BNE002032)が、闇の中を。己の目に宿りし力で見据えながら前進する。 暗闇であろうとも問題にせぬ力。暗視だ。邪魔な木々をいとも容易く踏み越えすり抜け。目標に接近。その背後から奇襲する形で己らが刃を抜刀すれば、振るって陣を崩さんとして。 「亡霊は、お呼びじゃないのよ。 今を生きている人達の、足を、引っ張らないで欲しいな」 その上で更に。『お砂糖ひと匙』冬青・よすか(BNE003661)が飛ばすのは、数多の邪気を祓う光だ。 疲弊した者らに既に重く伸し掛かっていた負。確実に全て取り除ける訳ではないが、それでもその温かな光があるか無いかでは天地の差である。時間を無駄にせぬように迅速に。それを可能にしたのは、 「なんとか連絡が届いて助かったわね。かなり、ギリギリだったみたいだけど」 蔵守 さざみ(BNE004240)がAFを介して連絡を取り合えたからこそ、だ。救出すべきリベリスタ達の負傷具合。戦況。かなり簡易ではあるものの、それらをよすかの行動前に連絡を取る事が出来た為。中々に良い形でリベリスタ達は先手を取る事が出来ていた―― だが。 「アークの援軍か! 東と南から戦力を振り分けろ! 西を抑えるんだ!」 豁然と。ヴェラは指示を飛ばし、リベリスタらへの対応と成す。 援軍の到達も予測済み。なればこそ混乱は少なく、立て直しの速度も早い。この辺りは“軍人”である親衛隊ならではの十八番か。 狩られるのか。それとも護れるのか。 介入により状況は分からなくなったものの、だからこそどちらが有利とも言えぬ。 「やぁドイツの皆さん。お楽しみのハッスル中悪いんだけど、今度はSHOGOと遊ぼうぜ」 そんな状況下において『SHOGO』靖邦・Z・翔護(BNE003820)は口調こそお気楽に、親衛隊と相対する。 己が銃を。パニッツュを構えて、 「それじゃ最初は揃えていくかい? キャッシュからの――パニッシュ!☆」 銃声同時。殺す為ではない。仲間を救う為の一撃を、放つのだ。 ●意思 戦場は変化を見せていた。 包囲していた親衛隊戦力。それが、西へのカバーの為に東と南からそれぞれ一名ずつ移動したのだ。東の者が北方面を経由して西へ。南の者がそのまま直に西の方へ。北は動かずそのまま遠距離から支援を。 本来なれば一旦中央を殲滅し、その後刃を返す形で救援部隊と対決する形が親衛隊にとって理想なのだが―― 「これだけ近いと銃の取り回しも大変そうね。ま、だからこそこっちにとっては都合が良いのだけれども」 リベリスタ達が中々的確な方面から攻め上がってきた為、中央殲滅が難しい事態となっていたのだ。 なぜならば西は遠距離型のサジタリの塊。さざみの言う様に、銃を所持し、近接寄りでは無い彼らでは一斉に攻め込んで来た数多きリベリスタ達を抑えるのは難しかった。故、中央との合流を阻止出来ず、 「ここは僕達に任せて逃げてよ。流石に戦闘は無理でも、それくらいならなんとかできるっしょ? なぁに。こんな卑怯な手を使う連中なんて、僕達が必ず倒してみせるからさ!」 親衛隊の注意を引く言葉を放ちつつ、夏栖斗が合流を果たしたのだった。 誰一人として欠けさせぬ。必要であるならば注意を引いて、逃げやすい様に道を作ってみせよう。 強き意思が彼には宿っている。見捨てる気など一切ありはしない。論外とばかりに。 「さ、足掻こう、か」 そして、よすかの癒しなる歌が皆の傷を塞いで行く。救出対象を主として、続けざまに守護の印を結べば防備が固まり。これもまた死なせぬと言う意思の表れだろうか。全てを全て護り抜く、などとは言えないが、 「けど――頑張れば、カッコイイ事ぐらい、出来るかもしんないね?」 伸ばした手が誰かに届けば救えるかもしれない。 例え一人でも。二人でも。己の努力が人の生死に届くのなれば。 「そうだよ。ほっとけないんだ。ほっとく訳には、いかないんだよ。 仲間が襲われてるのを見過ごすなんて、わたしには出来ないから」 七が突っ込む。遠距離型の親衛隊の懐に跳び込んで、両の手に装備した爪を振るって一閃。 何故見捨てねば成らぬ。自身の目に映って、生きている者達がそこに居ると言うのに。半数が生き残れば良し? 知らぬ存ぜぬ認めはしない。 「逃げる事に。生き残る事に全力を尽くして頂戴。皆で、生き残ろう」 敵は捩じ伏せよう。両の爪で親衛隊の首を削いで。敵を減らして。 必ずや、生き残ろう―― しかして。皆が皆、全員生還の目標を見ている訳ではない。 「難しい場合は……やむをえぬ、で御座ろうな」 幸成である。彼は慎重に現状を見極め、選択の思考を行っていた。 必要とあれば“忍”から“刃”と成り得るかもしれない。だが、それでも。必要であるのならばやらねばならぬだろう。 見捨てる事も、だ。普通に撤退しただけではまず間違いなく親衛隊からの追撃がある。それを阻む為にも敵の撃退か、あるいは撤退にまで追い込まねばならない。無論救出できるのなら全員生還が一番良いが、 「どこぞやらにいる少尉にも気を配らねばならぬと成れば。覚悟も必要で御座る……!」 今は姿が見えぬ少尉。 介入が行われない様に気を付けながら、彼は援軍として西へ来た親衛隊を、抑える。全身から放つ気糸で相手の動きを縛り、その上で刃を円弧状に回して袈裟切りに。相手を倒さんとするのだ。 「やあやあはじめまして! 君、きゃわうぃーね! どう? 今度、俺と一緒に遊びにいかない? 色々デートスポットとか知ってるんだけど」 「な、何を言うか劣等の分際で! 煩わしい!」 本気か冗談か。西の排除を完了した竜一が向かった先は、指揮を執っているヴェラの元だった。 あらら残念、とヴェラの返答を聞けば軽口も出るが、それはそれ。 地を蹴り、両の刃を構えて。上半身を捻る様にして旋回。北に展開する三名全てを巻き込むように刃を振るって薙いで。 「ヴェラ曹長、ご機嫌麗しゅう。 そっちは卑怯なやり方を軍人の手札とかいっちゃうの? 御立派な事だけど、撤退するなら今だぜ?」 されば同時に夏栖斗も。親衛隊側の癒し手たる人物に目を付けて、一気に接近。口を大きく開いて首元に襲いかかれば、血を貪らんとすべく首元に噛みついた。 それはただの吸血に非ず。更なる力を秘めた、強力な一撃。終われば視線をそのままヴェラに向け、言葉も共に。 「敵が嫌がる事をするのが効率的だろう? この行動を卑怯と言うのならば、それだけ成果がある証明だな……そして貴様ら如きに撤退? 笑わせるなよ!」 しかし返って来た言葉は完全なる拒否だ。卑怯は効率。そして撤退するにはまだ足りぬと。 西からの攻撃は親衛隊の包囲を突き崩した、が、まだだ。ヴェラからの加護を受け取っている親衛隊と、救出対象を逃がすべく動いているのがほとんどのリベリスタでは動き方が違う。各方向から銃弾の嵐は未だ続いて、癒し手も健在。指揮役も健在。まだ親衛隊側が不利とは限らぬ。 そしてヴェラも。不可視の刃を己が周囲に生み出して、それを西へ西へ。撤退している救出対象らへと叩き込めば、血が舞い、穿つ。 「……ッ! これ以上はさせないよ……! 追わせる事はしないんだから!」 美虎だ。流石に遠距離攻撃を止める術は無いが、ならば追う足を止めれば良いだろうと。救出対象へ少しでも近付かんとする親衛隊のブロックに取り掛かる。 「とらぁ……じぇのさいっ!!」 直後に放つは紫電の輝き。全身に纏い、そのまま乱舞する形でムエタイの動きへと。相対する者へ隙を見て放つ一撃一撃であり、脚を放ち、肘を叩きこみ、膝で捻り潰す。なるべく多くの対象を巻き込んで、少しでも味方を生き残らせようと思考し。 「よっし! ここまで来れば大丈夫だろう……トラック出すからそれに乗って逃げな!」 SHOGO――もとい、翔護が言葉を放ったのは、親衛隊側の遠距離攻撃範囲から出た場所だ。 この地点にまで到達すれば後はトラックで逃げてもらう事も可能だろうとそう思い、予め用意していたトラックをAFから。林の中である為移動はしにくいかもしれないが……彼らがこのまま親衛隊を抑える事が出来ればなんとかなるだろう。 そして。戦闘中、追撃こそいくらかあったものの、救出対象が結局として一人も欠けなかったのは行動が迅速であったがこそ故。的確に西から攻め入り、合流を果たし、ヴェラ達を抑え、車両も用意していたのは無駄ではなかった。 彼らの意思と策が、実を結んだのだ。 「――あ。りゅーにゃん。さっきのヴェラヴェラしてたのは写メって妹さんに送ってたから宜しくね!」 え、ちょ、おま。と言う表情を竜一は出すが、SHOGOはなんのその。 さぁ。救える者は救った。あとは親衛隊を撃退するのみである――! ●決着の道筋 暗闇の中ではあるものの、双陣営共に暗闇は障害になっていない。 それはお互いに暗闇対策をしているからこそだ。ゴーグルか、あるいは暗視の力か。 少なくとも親衛隊側は皆ゴーグルだ。ならば、とそれを狙ったのは。 「皆、すごいロリコンは見たとこ、北にいるみたいだ! 気を付けて行こうぜ!」 救出対象地点から再び復帰したSHOGOだ。針の穴すら通さんとする精度で親衛隊のゴーグルを狙い、撃ち落とさんと銃弾を放って行く。 同時に。彼は千里眼の力において少尉の位置を探っていた。どこにいるか分からなかった為に探すのに手間取ったが――どうやら少尉は、北方面に居るらしい。恐らくは指揮役たるヴェラの様子を見ていたのだろう。万が一、彼女が倒れそうになれば介入する気だったのかもしれない。 「ならば、なんとしても少尉が来る前に敵を退かせようで御座る! 自分はこっちを担当するで御座るよ!」 意思持つ影を顕現させて。己の力と幸成は成す。 情報不足の敵との戦闘は不安が残るものだ。故、一瞬の余裕と隙を見て強化を施した彼は万全の状態にて親衛隊とぶつかる事を望み、眼前の親衛隊員を倒さんと、往く。 オーラで作り上げた死の爆弾を炸裂させて。確実に滅さんとする一撃を放てば、 「クッ――! おのれ、だが、まだだ。まだ負けてはいない……!」 ヴェラが徐々に。徐々にではあるが不利を悟り始める。 中央に展開していた救出対象がいなくなったからこそ。もはや包囲の概念は無く、全ての戦力を一点に集中させての総力戦状態だ。しかしこうなると序盤が痛い。遠距離型が後方からの集中攻撃で早期に落ちた事が不利に繋がってしまっているのだ。 何の成果も無いままでは帰れぬと。親衛隊も全力を尽くすが。 「可愛い顔して、意地悪、な曹長さん。 よすか、何時か貴女を、砂糖菓子みたい、に、食べちゃう、かも」 リベリスタ側の癒し手であるよすかの健在が有利不利に更に拍車を掛けていた。 よすかは言う。舌で弄ぶ様に。存分に楽しみ。蕩ける様な感覚を味わう為に、 とってもとっても意地悪な曹長を――食べてしまうかもしれないと。 薄く、笑みを見せて。 「ふふ……なんちゃって、ね?」 「貴、様ッ――!」 舐めるなと言い、彼女を狙うが、無駄だ。 リベリスタ側のライフラインとも言える彼女のカバーに付いている者は多い。夏栖斗と美虎は常に注視し、射線を塞ぐように立ちまわっている。場合によれば夏栖斗は庇いにも入る為、やはり攻撃が届かない。 「七派のやっつけに行って、待ち伏せされて壊滅状態かー…… 全く。今はともかくとしても、私達も気を付けないといけないかもしれないねー」 罠に嵌る危険性は、自分達にもある。 親衛隊がエース級ではなく比較的弱い側を狙っているとはいえ、毎度必ずとは限らない。注意しておかねば成らぬだろう。いずれ、本格的にぶつかり合う事もあるだろうから、 「とら……あっぷぁ――!!」 そして美虎は思考と共に、敵後衛を庇うイージスを。その鎧の上から砕かんとする一撃を叩きこんだ。下から上にカチ上げるイメージの、アッパーだ。敵の防御を超えて、砕いて、捩じ伏せんと全力を注ぎこむ。 「火薬の臭いは好きじゃないのよ。……そろそろ終わらせてもらうわ」 鼻に付く火薬の臭い。 好きでは無い。嗅いでいて気分の良い物では無いソレが充満している戦場など、さざみにとっては早く終わらせたくて仕方ない。 だから、往く。距離の遠さに舌打ちを一つと嫌悪の表情を出しつつも、四色の魔光を放って敵後衛の癒し手を狙う。元より遠距離よりも近接を好む彼女の質もあるか。舌打ちをしたのは。味方のブロックが中々に機能していて接近戦が出来ぬのが残念である。 「皆、いまから“撃つ”から――気を付けて、ねッ!」 その時だ。夏栖斗の声が、戦場を飛んだ。 それは攻撃の合図。味方に注意を促し、敵のみを穿つ為に。 何もかもを貫いて進む武舞が、親衛隊のものらのゴーグルを狙い、破壊して行く。見事な一撃がヴェラにすら届いて。貫き、その身に傷を刻んで。 「なぁ、見てんだろ!? フォルクなんたら少尉! あんたの猟犬は優秀だよ。だから、今度はあんたと遊ばせてよ!」 己らは劣等では無い。観察される気分は悪かったが、どうだ見た事かと声を張り上げて。 そして。ここまでだ。救出対象も退いた上、親衛隊もいくらか削った。これ以上自分達が残る意味も薄い。 撤退を皆に進言しよう。そう思い、口を開こうとした―― 瞬間。 「――いんやぁ? 俺は別に今やりあっても構わねぇぜ?」 声が、聞こえた。 「戦場の最中によ。目の前の敵放って、あんま余所見ばっかするもんじゃねぇぞ劣等?」 言葉が終わるなり射撃音。 ――いや、なんだこれは。銃声ではある。だが、先の親衛隊が使っていた銃の音とは比べ物に成らない程の連続的な轟音が戦場に炸裂している。 そして、その対象は、翔護だ。 常なる監視と同時に攻撃を行う事は難しい。双方手番を使うとなれば、どちらか片方に力を注ぐか、ある程度工夫が必要だっただろう。その隙を見た少尉が、彼に銃弾を集中的に叩き込んだのだ。 「ぐ、ぉ――このすげぇロリコン、が……!」 「あ! テメェが件のロリコン少尉か! うぜぇなおい!」 「あぁ!? うっせーぞ劣等共ッ! パンツァーぶち込まれてぇか!」 吐血する翔護に続いて、言葉を放ったのは竜一だ。 ようやくにも莫大な戦気を纏う事が出来た彼は少尉への警戒を行う。元より手の内を晒す気の無かった彼が出て来たという事態は、充分に注意すべき事態だ。厄介な相手であると言う認識はある故に。 どうなるのか。更なる激闘がここから始まるのか。 運命を燃やす事すら覚悟するリベリスタ達――だったが、 「……退くぞヴェラ」 少尉の唐突な一言が、全てを決定付けた。 「敵のエース級連中の実力も見れたんだ。成果もゼロじゃあねぇ。 そっちはどうするよ劣等。来るってんならこっちも相手してやるが――」 「……正面からぶつかるのは得策じゃないね――向こうが退くというなら、こっちも退こうか」 七は言う。情報が欲しいのは確かだ。しかし物事には適切な時期がある。少尉が出てくるまでにいくらか疲弊した自分達では、相手を倒し切れるか、無事でいれるかどうかに不安が残る。 とは言えそれは向こうも同じだったのだろう。少尉が出てきたとはいえ、この状況から被害を抑えつつリベリスタの撃退を果たせるかは疑問だ。ならば退こう。ここは死力を尽くす場面では無いのだから。 「猟犬さん、人を劣等、とか言って、喰らうより砂糖菓子、を食べなよ。 そっちの方が、きっと、お腹も心も、幸せだよ?」 「ハンッ! 俺らはなぁ、敗北とかいうクソくだらねぇ辛苦を舐めて生きてんだ…… 今更甘味なんて俺らにはあわねぇんだよ!!」 よすかの言葉を乱暴にあしらって、少尉は親衛隊達と共に退いて行く。 不気味な程に静かに。闇の中へと。 鉄臭い、硝煙の臭いを残して―― |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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