● 森の中に、丸々としたひよこが行き倒れていた。 しかも、一羽や二羽ではない。見渡す限り、そこらじゅうに転がっている。 これは一体どうしたことか――? と、リベリスタ達がモニターに映る光景を見詰めた時、スピーカーから『ぐぅ』と音が鳴った。 ……もしかして、お腹すいてるの? ● 「はい、今回は集団行き倒れのひよこを餌付けして送還する任務です」 モニターの画面を切り替えた後、『どうしようもない男』奥地 数史(nBNE000224)はそう言ってリベリスタ達を振り返った。 ――送還ということは、このひよこってアザーバイドなんですか? 「そ。ひよこに見えるけど実はアザーバイド。 これが全部で30体ほど、この森のあちこちで行き倒れてるわけ」 偶然開いたディメンションホールからボトム・チャンネルに迷い込み、あてもなく森を彷徨っているうちに腹をすかせて力尽きた――ということらしい。 「ディメンションホールはいったん閉じてて、半日後くらいにまた開くことになってる。 ただ、それまで連中を放っておくと、空腹が限界に達して暴走するのでよろしくないわけです」 暴走と言えど何処かに走り去るだけで、取り立てて危険は無いのだが。 そこは腐っても上位世界の住人ということで、その逃げ足の速さたるやリベリスタでも捕まえるのは不可能に近いという。これは、攻撃を仕掛けた場合でも同様である。 フェイトを持たないアザーバイドをみすみす野に放つのは、アークとしては避けたい事態だ。 「そんなわけで、先にも言ったけど今回はひよこの餌付けがメインの仕事。 あいつらが限界を迎える前に現場に行って、適当に食わせて、夕方にディメンションホールが開いたら送還する、と」 ――なるほど、わかりました。それで、ひよこには何を食べさせれば良いんですかね。 「基本、何でも食えるっちゃ食えるんだけど……幾つか条件がある。 種類は問わず『手作りの料理』で、なおかつ『作った本人が食わせてやる』こと」 首を傾げるリベリスタに、数史は説明を続ける。 「前に、似たようなニワトリ型のアザーバイドが出たことがあるんだけど。 どういうわけか、『作り手の気持ちがこもった食べ物』しか栄養に出来ないらしいんだよな。 で、今回は全員が同時に行き倒れたもんで、自分らじゃどうにもならなくなった、と」 大切なのは気持ちなので、少しくらい料理が苦手でも問題はないようだ。 30体いるとなるとある程度の量は必要なので、皆で手分けした方が確実だろう。 「場合によっては、その場で作るって手もあるしな。火は使って大丈夫みたいだし」 何を作るか考え始めたリベリスタ達を前に、数史は思い出したように付け加える。 「――あ、今回は俺も行くから。そんな大したことはできないけど、頭数は多い方がいいだろ」 よろしくな、と言って、彼は手にしたファイルを閉じた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:宮橋輝 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年05月31日(金)23:05 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 道のりは、思ったより長かった。 引き篭りには辛い、と息を切らす『永久なる咎人』カイン・トバルト・アーノルド(BNE000230)を、妹の『刹那たる護人』ラシャ・セシリア・アーノルド(BNE000576)が支える。 体力的に鈍っているのは、『どうしようもない男』奥地 数史(nBNE000224)も同じらしい。カインに劣らず疲労の色が濃い彼の隣では、『ファッジコラージュ』館伝・永遠(BNE003920)が元気いっぱいの笑顔を浮かべていた。今回は、空腹で行き倒れたアザーバイドの群れに食事を与え、彼らを送還するという仕事である。ただの『お出かけ』ではないと承知してはいるが、ついはしゃいでしまうのは乙女心というものだろう。 「まずはひよこさん達を探すとしよう」 アーサー・レオンハート(BNE004077)が、重々しく口を開く。異界に迷い込み、お腹を空かせて動けなくなった彼らの不安はいかばかりか――。 やがて、彼は集団行き倒れのアザーバイド一行を発見した。森の中、点々と地面に転がる、丸いひよこの群れ。リベリスタ達が向かうと、そこにはブリーフィングルームのモニターで見た通りの光景が広がっていた。 「ひよこ、可愛いですよね、ひよこ」 表情を綻ばせた『Dreamer』神谷 小夜(BNE001462)の後ろで、カインが目を見張る。 「うひょ~~! こりゃカワイイな!」 ひよこを目の当たりにした瞬間、疲れも吹っ飛んだらしい。大きな鞄を抱えた『勇気ひとひら』大月 明里(BNE004528)が、海の色を思わせる青い瞳を輝かせた。 「えへへ、お仕事ですけどひよこさんと触れ合えるなんて嬉しいですっ」 それに比べたら、荷物の重さも、早起きによる眠気も、些細な問題でしかない。 女性陣(※性別不明含む)が歓声を上げる中、アーサーは黙してひよこ達を眺める。 (ボールみたいにまんまるなひよこさん……) 内心では、このように皆と似たり寄ったりの感想を抱いていたりするのだが、無理はあるまい。もふもふ好きにとって、あのふわふわ羽毛の誘惑は抗い難いものがある。 「かわいいひよこさん達に、愛情ごはんのお届けなの」 『Wiegenlied』雛宮 ひより(BNE004270)が持参のクーラーボックスを地面に置くと同時に、『blanche』浅雛・淑子(BNE004204)がひよこ達に語りかけた。 「ひよこさん、こんにちは。あなたたちのためにお弁当を作って来たの」 よろしければ如何? と問う彼女に、近くに居たひよこが一斉に顔を上げる。怯えさせないよう細心の注意を払いつつ、リベリスタ達は彼らに歩み寄った。 「ささ、これを食べるんだ」 ラシャや明里が差し出したサンドイッチを、じっと凝視するひよこ達。 すんすんと匂いを嗅ぐ彼らを、明里ははらはらと見守る。 「食べてくれるでしょうか……」 いっそ、目の前で食べてやれば警戒を解いてくれるだろうかとカインが考えた時、ひよこ達が相次いでサンドイッチに食いついた。 「――食べた!」 あっという間に完食し、羽をぱたぱた動かすひよこ達。もっと、と催促しているらしい。 リベリスタ達は手分けして、彼らに食事を与え始めた。 ● 料理が載った小皿を、小夜が倒れているひよこの元に運ぶ。空腹で動けないなら、まず食わせてやるのが先だ。 「下手に持ち上げて驚かせちゃったらいけないですしね」 独りごちつつ、周囲のひよこを数える。幻想纏いを通して連絡を受けた淑子が、小さく首を傾げた。 「2羽、足りないわね」 それを聞き、ひよりが森の奥に足を伸ばす。はぐれた2羽は、程なくして見つかった。仲間の食事を探すため、最後の力を振り絞ったのだろうか。そう考えるといじらしい。 「もうだいじょうぶなの。こっちへ来て、おなかいっぱい食べましょうなの」 彼女の手からおにぎりを受け取り、2羽のひよこは「ひよ」と嬉しげに鳴く。 ひよこ達を一箇所に集めた後、暫し餌付けに専念するリベリスタ。 ――ひよ。ひよひよひよ。 口を揃えて空腹を訴えるひよこ達を前に、明里が頬を緩ませる。本人(鳥?)達は必死なのだろうが、仕草がどうにも可愛らしい。彼らを飢えたまま放っておくと大事になるので、仕事は仕事として頑張らねばならないが。 「えと、精一杯作ってみましたっ」 そう言って、明里は早起きの成果を披露する。4種のおにぎりにハムと玉子のサンドイッチ、そしてウィンナーやポテトサラダを始めとしたおかず類。込められた想いは、料理経験の乏しさを補って余りある。 「ひよっ」 我先にとがっつくひよこ達を眺める明里の近くでは、永遠が小鍋でチーズを溶かしていた。芳しい香りに興味を惹かれた何羽かが、彼女の手元を見詰める。 チーズフォンデュに、BLTサンドを始めとしたサンドイッチ数種、そして温かいコンソメスープ。ひよこ達の好みは謎だが、ピクニックと考えれば充分か。 「愛なら籠っております! ひよこ様、どうぞお召上がりになって!」 熱々のチーズを焼いたパンに絡めてやると、ひょいと飛び出した1羽が真っ先にかぶりついた。 見た目も可愛らしいおにぎり弁当は、ひよりの力作だ。重箱に詰まったおにぎりは、ひよこの体格に合わせて小さめサイズ。丸型に海苔で顔を作ったり、ベーコンとチーズを巻いた俵型にカラフルなスティックが刺してあったり、どれも手がこんでいる。 「えへへ、君はどれが好きかなあ?」 重箱を覗いて、慌しく視線を彷徨わせるひよこ。やがて、食いしん坊な1羽は片っ端からおにぎりを制覇しにかかった。お米の力は偉大である。 「せっかくだから、食べたことなさそうなものを、と思いまして」 そう口にする小夜が作ってきたのは、彼女の実家がある秋田の郷土料理だ。『麦まき』と呼ばれる小麦粉入りの卵焼き、旬のニラを用いた酒味噌和えにハタハタの煮付け、イタドリの幼茎『さしぼ』の胡麻和えといったラインナップに、ふっくら炊いたご飯を添えて。 ひよこ達が食べやすいよう低めの重箱に詰めてきているが、適宜、小皿に取って振舞ってやる。 美味しいですか、と訊くと、ひよこ達は「ひよ♪」と答えた。 独り身ゆえ料理には慣れているが、誰かの為に作るという経験は初めてで。 (少しでも、ひよこさん達の心を癒せるといいんだが……) そんな真心たっぷりのサンドイッチを、アーサーはそっと差し出す。厳つい印象を人に与える彼だが、ひよこ達が恐れる様子はない。ひよひよと囀りながら、次から次にお代わりをせがむ。彼らにクッキーを与えてやりつつ、アーサーは周囲をぐるりと見回した。再びひよこを数え、食いっぱぐれた個体が居ないことを確認する。任務成功のため万全を期すという意味もあるが、それ以上に悲しい想いをするひよこが出ないようにという願いの方が強かった。 程近くには、カインとラシャの猫耳姉妹。ちょっとビビり気味のひよこの前に、カインが屈んだ。 「怖くないよー」 視線を合わせ、ブロッコリーの和えものと、小豆と雑穀の根菜サラダを見せる。ボトム・チャンネルのひよこが鰹節を好むことを考慮し、いずれも鰹節をふんだんに用いていた。 妹に教わり作ったものの、不慣れなため出来ばえに若干の不安は残る。でも、料理に込めた愛情は皆にも負けない筈だ。 自分の料理を啄ばむひよこをにまにま見詰める姉を横目に、ラシャはツナサンドを別の1羽に食べさせてやる。それをすぐに平らげると、ひよこは翼で野菜サンドを指して「ひよ」と鳴いた。 「これも食べるか?」 「ひよっ」 気持ち良いくらいの食べっぷりで、ひよこ達は料理を胃袋に収めていく。 皆で食べることも考え、全員が多めに準備してきたので、足りなくなることはなさそうだが。 「これで満腹になってくれると良いが」 そう言ってひよこを撫でる、ラシャの表情は優しい。 心の篭った料理と聞けば、淑子は母が焼いたスコーンを思い出す。 まだ両親が健在であった頃、一家は時折、庭でピクニックを楽しんだ。 当時を懐かしみ、淑子はふふ、と笑みを零す。 (お母様、それしか作れなかったのよね) だから――彼女もスコーンを作る時だけは、母のレシピ。 温かな幼き日を胸に描き、心を込めて焼き上げたそれを、ここに持って来たのだ。 食事用に作った甘みのないスコーンを割り、クリームチーズやスモークサーモン、生ハムなどを乗せてひよこ達に振舞う。勿論、甘党のためにジャムや蜂蜜も忘れていない。 「ひよこさんはどちらがお好き?」 淑子が問うと、ひよこは考え込むように立ち止まる。どっちも捨て難いらしい。 ● 満腹になる個体が出始めると、ひよこ達の多くはデザートを求めるようになった。 一口大に切ったリンゴと、卵抜きで作った優しい味のクッキーを提供するラシャの傍らで、ひよりがクーラーボックスを開ける。 「せっかく新緑の季節にきたんだもの。この土地の四季を味わっていって?」 そう言って取り出したのは、4色の寒天を角切りにして紫陽花に見立てたあんみつ。葉の緑は抹茶で表現するという凝りっぷりである。 ベリーソースのパンナコッタを振舞う淑子も、押し寄せるひよこ達を前に大忙しだった。何しろ、腕は2本しか無いのだから。 やがて、すっかり満足したひよこ達が食休みとばかり横になると、リベリスタ達もようやく一息つくことが出来た。 「そろそろ、わたし達も頂きましょ」 淑子の呼びかけに、あちこちから賛成の声が上がる。何しろ、ここまで全員の料理をゆっくり眺める暇も無かったのだ。 「皆さんはどんなお弁当を持っていらしたのかしら」 大きなレジャーシートを敷き、各自の弁当を並べる。 どれも素敵ね、と微笑む淑子の隣で、明里が控えめに口を開いた。 「あまりお料理とかしたことないので、美味しいか分かりませんけど……。 あの、皆さんのお弁当も頂いても宜しいでしょうか……?」 ――無論、首を横に振る者など一人も居なかった。 「おいしいの」 それぞれの個性と真心たっぷりの料理に舌鼓を打ち、ひよりが満面の笑みを浮かべる。 再び食欲をそそられたのか、横になっていたひよこの何羽かがいつの間にか寄って来ていた。 「――食べるか?」 アーサーの言葉に、ひよこ達がはしゃぐ。弁当を分け与える彼の表情は、心なしか緩んでいるようにも見えた。 「みんな料理上手いものだな。私ももっと頑張らねば」 感心して呟くラシャが、数史にサンドイッチを手渡す。 「奥地さんもどうぞ」 「あ、ありがとう」 続いて、ドレッシングで味付けした根菜サラダを勧めたカインが、数史とアーサーを見比べて言った。 「……なんか『ひよこ父』みたいだな」 色は違えど、翼を持つ男2人が丸いひよこに擦り寄られている様は微笑ましい。 傍らのひよこを撫でつつ料理を堪能する小夜が、「あ、念のため――」と皆に声をかける。 「食べすぎ、飲みすぎには気をつけて下さいね。ブレイクイービルでも治りませんから」 スノウ・ライラックの髪を揺らして、淑子が答えた。 「送還までが仕事だもの、お腹を壊すのは優雅じゃないわね」 「カロリーの摂り過ぎに注意して楽しみましょう」 まあ、前者はともかく後者はさほど心配要らない気もするのだが……。 皆が和やかに食事を楽しむ折、永遠が意を決して数史の袖を引く。 「奥地様」 「ん?」 振り返った彼に、彼女はランチボックスを差し出した。 「交換致しませう」 「いいよ。味は保証できないけど」 ランチボックスと引き換えに自作の焼きそばを手渡し、笑う数史。 蓋を開けた後、彼は思わず傍らの永遠を見た。 「厚焼き卵とアスパラのベーコン巻き、お好きだと窺ったので」 そういえば出発前、そんなことを訊かれた気もする――。 「……ありがとう」 俯き加減に礼を告げる数史を、永遠はにこにこと笑って見ていた。 乙女の奮闘を挟みつつ、リベリスタ達は料理を胃に収めていく。 姉が作った和えものとサラダをゆっくり味わうラシャの隣で、カインが野菜サンド片手にしみじみと言った。 「どれもんまいが、やっぱりラシャが一番! だな~」 やはり、絆と愛情に勝る調味料なし、ということだろうか。 ――大満足の中、全員でご馳走様。 ● やや遅い昼食を終えたら、念願の触れ合いタイムである。 すっかり満腹になったひよこ達も、行き倒れていたのが嘘のように元気いっぱいだ。 森の中をボールの如く転げ回るひよこを受け止めつつ、アーサーがふわふわの羽毛を撫でる。 「ひよひよひよ」 対するひよこも、くすぐったそうに笑いながら大人しく彼の手に身を委ねていた。 この様子なら、気兼ねは要らないだろう。もふもふ好きの1人として、思う存分楽しもうではないか。 一方、淑子は大人しめのひよこに手を差し出す。 「掌に乗せたりしてもだいじょうぶかしら」 動物の言葉を操る淑子も、アザーバイドである彼らと会話することは叶わない。だが、互いの思いは充分すぎるほどに伝わっていた。 よちよちと掌によじ登るひよこを見て、目を微かに細める淑子。 「ふふ、かわいい……♪」 彼女が持つ温かな雰囲気に安心したのか、彼(あるいは彼女)は掌の上でころりと横になる。 眠たげに瞬きするひよこを、淑子は優しく撫でてやった。 同じ頃、明里はやんちゃなひよこ達と追いかけっこに興じる。 あんなに丸っこいのに、中には割と足が速い個体も居るらしい。周りのひよこ達を見失わないよう気を配りつつ、明里は彼らに手を伸ばした。 「ひよ!?」 捕まった1羽が、じたじたと翼をばたつかせる。 「――時間が来るまで、いっぱい遊びましょうねっ」 そう言って放してやると、自由になったひよこは再び走り始めた。 「ひよひよ、ひよっ」 今度は負けないからな、と――そう言いたげに。 自分に懐いたひよこを連れて、小夜は付近の探索を行っていた。 蜂の巣でも見つかれば念のため駆除しておこうと思ったが、幸い、この近くには無さそうだ。 「ひよひよ」 遊ぼう、とせがむひよこの視線を受けて、傍らに屈む。 「良いですよ。何しましょうか?」 小夜が撫でてやると、ひよこは嬉しそうに鳴いた。 木陰では、ひよりがお昼寝の構え。 「おねむの子は、わたしといっしょにお昼寝しましょうなの」 彼女が声をかけてやると、よちよち歩きのひよこが何羽も集まってきた。やはり、お腹いっぱいになると眠くなるものらしい。 ひよこ達と一緒になってころんと寝転び、穏やかな風に身を任せる。 小さな寝息を立てたのは、果たしてどちらが先か? ソマリの姉妹は、おやつのリンゴをお供にひよこ達と戯れる。 「ひよこさんもふもふするぞー!」 丸っこいひよこの羽毛を撫でて、その柔らかな手触りを楽しむラシャ。 悪戯心を出した彼女が姉の頭にひよこを乗せると、カインも負けじと乗せ返し。結果、姉妹の頭上で2羽のひよこがドヤ顔。 「もふもふふわふわ、こりゃあいい!!」 ひよこを集めてご満悦のカインの視線の先には、穏やかな笑みでひよこと触れ合うラシャの姿。 「フヒヒ! 満足満足♪」 表情を緩ませるカインの前で、ラシャは「可愛いな」とひよこを撫でた。 連れて帰れないのが残念無念。 「見てくださいませ! とても可愛いのです」 手の中のひよこを撫でて、永遠がはしゃぐ。 数史が笑って頷くと、彼女は一拍置いて言葉を続けた。 「奥地様は小さな動物ってお好きですか? たとえば兎とか……」 「兎? うん、好きだよ」 その答えを聞き、永遠の耳がそわ、と動く。 えへへ、と笑った後、彼女は数史の黒い翼を見た。 「奥地様の羽に憧れます。いいなぁ、お空……」 一緒に飛んで同じ景色を見たいのだと告げた後、永遠は口を噤む。 何でもないのです――と誤魔化そうとした時、数史が言った。 「実は、飛ぶのは得意じゃないんだ」 だから、きっと。見ているものは、同じだよ――。 ● 陽が傾けば、もうお別れの時間。 「あの、えぇと、どうも1羽足りないような……」 改めてひよこを数えていた明里が、少し慌てて告げる。 ここまで来て、取り零しては大変だ。急ぎ、全員で捜索にあたる。 「迷いひよこやーい!」 大声で呼びかけるカインの優れた聴覚が、ひよこの小さな鳴き声を捉えた。 好奇心に駆られた1羽が、いつの間にか群れを離れていたらしい。人騒がせなひよこが御用になった後、森にDホールが開いた。 分かっていたけれど、やっぱり寂しくて。ひよりの大きな瞳には、涙が滲んでしまう。 「ばいばい、またね」 1羽ずつホールに誘導し、精一杯の笑顔で送り出す。永遠が、別の1羽の頭を優しく撫でた。 「今度は遊びにいらしてくださいね?」 逃げるのはだめでございますよ――と念を押す彼女に、「ひよ」と頷くひよこ。 淑子が、ラシャが、笑って手を振った。 「さようなら、どうか元気でね」 「ひよこさんお疲れ様ー!」 最後の1羽が次元の穴を潜ったのを見届けた後、アーサーが名残惜しそうにDホールを塞ぐ。 「……何度経験しても、少し寂しいわね」 淑子の呟きは、全員の心中を代弁しているようでもあった。 カインが、妹の手をそっと握る。 「また、会えるさ」 ラシャが黙って頷いた時、小夜が全員を振り返った。 「それでは、帰りましょうか」 夕暮れの色に染まった森を、9人はゆっくりと歩く。ひよりは空を見上げた後、慌てたように首を横に振った。 後片付けの暇もなかった台所の惨状は、今は考えないようにしておこう。 せめて、家に帰るまで――。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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