● 『死にたがりはご連絡ください』 雑誌の間に挟まっていた葉書を見つけて、私、高坂実咲はやっと死ねるのだと妙な実感が沸きました。 クラスに馴染めないと感じた時から死にたいと思い続けて居たのですから、『やっと』と思ってしまうのは仕方がないことなのでしょう。 「高坂さんですか?」 背後から掛かる声に振り向いて、私はそうですと微笑んだ。 ぼんやりと照らすライトの向こう、首を傾げてへらりと笑う『彼女』は抱き締めた分厚い本を開いてアナタを救済に参りましたと柔らかく笑ったのでした。 ――其処からは覚えてません。何故って? さあ、人は死ぬと、もう其処には居ませんから。 ● 「あのさ、今週号スッゲー面白くって! こう、こんなポーズ!」 びしり。突然、先ほどまで読んでいたという漫画のポーズをとった『槿花』桜庭 蒐 (nBNE000252) にリベリスタも苦笑いを浮かべるしかない。 棒状スナック菓子を嗜む先輩やツンデレ風味なインドア魔術師、どうしようもないおっさんらが蒐に「面白いね」と同意してから絶賛漫画にド嵌り中なのは流石は男子高校生か。 説明なさいと言う声に咳払いし資料を差し出した蒐は「ミッションだ!」と微笑む。 「つーわけで、今日のミッションはこれだぞ! 俺も一緒に行く。なんか、見過ごせねーじゃん? 簡単に説明すると、エリューションを倒すってことなんだけど、ええと」 ぺらりと資料を捲くり蒐は何を言えば良いんだと小さく呟いた。纏められた資料から物事を上手く伝えるのはあまり得意ではないのだろうか。うんうんと小さく唸る。 「――そのエリューション、識別名『死にたがり』。エリューションフォース。フェーズは1よ。 それから、そのE・フォースをアーティファクトを使用して操っているフィクサードが一人。 私がお願いしたいのはアーティファクトの破壊及び、そのエリューションに襲われる『一般人』の保護よ」 見かねた『恋色エストント』月鍵・世恋(nBNE000234)が御機嫌ようとリベリスタを見回して笑う。説明役から下ろされた蒐が後ろで「せれんれんー」と小さく抗議を上げていた。 「フィクサードは早河亜佳音。彼女の所有するアーティファクトの識別名は『週刊死にたがりマガジン』よ」 「は?」 「『週刊死にたがりマガジン』よ」 聞き返された言葉に応える世恋。蒐は俺と同じ名前だとフィクサードに興味を示していた。 「彼女は他殺志願者。自殺する勇気も無く、誰かに殺して欲しくて恨みを買う……まあ、性癖が少し歪んでいる、とも言えるのかもしれないけれども。 彼女はある場所に葉書を設置しておく。まあ、普通の雑誌の間とか、そう言うの? 一見して悪戯の様なものよ。『死にたい人はご連絡ください』って感じかしら……まあ、悪戯で済まないのは被害が出て居るからなのだけど」 連絡したら、終わりなんだけど、と白けた瞳を向ける世恋は「それから」と告げた。 「亜佳音はその葉書を受け取り次第、その葉書を出した相手を殺す。その時に『死にたがり』を使役し、一番惨めな殺し方をする訳ね。自分もこうやって殺されたい――そんな想いをこめて、ね」 資料を捲くり、顔を青くした世恋は蒐に視線を向け、後はよろしくねと囁いた。 「今回、葉書を出した子が居るんだ。実咲って女子高生。 彼女を護り切って、あか……早河が今後、そんな事件を起こさない様にするのが今回のミッションだぞ。 アーティファクトを壊せば彼女は普通の革醒者。言葉を投げかければ、聞く余地もあると思う」 だから、と蒐はリベリスタを見回して、「救えるものは救おうな」とハッキリと告げた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:椿しいな | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 7人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年05月25日(土)23:05 |
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■メイン参加者 7人■ | |||||
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● 『死にたがりマガジン創刊号』だなんてセンスの無い名前の雑誌を『下剋嬢』式乃谷・バッドコック・雅(BNE003754)は手に取る気も無かった。 「うーん、一寸読んでみたいかもしれないけどね。だって、オレも『死にたがり』だし」 へらりと笑った『ハッピーエンド』鴉魔・終(BNE002283)は氷棺を手に周辺を見回した。暗視ゴーグル越しに見る景色には未だ他殺願望の少女の姿は見えちゃいない。 暗闇を掻い潜り周辺を索敵する『糾える縄』禍原 福松(BNE003517)はその幼さには似合わない溜め息を吐きだして、咥えたオレンジのキャンディを舌で弄ぶ。オーバーナイト・ミリオネアの銃口が敵を探す様に公園内を揺らめいた。 公園内でチカチカと点滅し続ける電灯の下。幼い子供が好みそうな遊具の上で少女は座っていた。彼女の姿を赤と黒と名付けた仮面越しに見詰め、何処か躊躇う気持ちに『続・人間失格』紅涙・いりす(BNE004136)が困った様に声を上げる。ああ、と漏らす声にちらりと隣に居たいりすへ目を遣った『槿花』桜庭 蒐 (nBNE000252) は「どうかしたのか」と囁いた。 何時ものいりすは空腹だ。退屈は毒であるが、空腹は更に毒に感じる。何時もの飢餓とは違う感覚にいりすは歯痒さを感じて居た。俗の言葉で言えば「もにょる」がピッタリと会うだろう。適当にその気持ちをどうにか出来るものでもない。 「もにょるから、蒐ちゃん舐め舐めしていい?」 「ぅ、ええ!?」 素っ頓狂な声を上げた蒐に冗談だとひらひらと手を振るいりすは仮面の奥で唇を舐める。会えばきっとその歯痒さの意味もわかるだろう。そんな二人の様子を見つめながら心配する様に頬に触れるシシィに大丈夫だと告げた『金雀枝』ヘンリエッタ・マリア(BNE004330)の赤い瞳は展開される強結界の行方と共にゆっくりと揺れ動く。 Dark Steal.の向こうで目を凝らし、死にたがりの位置を探す彼女ではあるが、『憎悪』という気持を未だ理解できない自分に躊躇いを隠せないで居た。死にたがりの他殺願望者――早河亜佳音は他人に憎悪を向けられたい。奇妙な歪み切った性癖が彼女を形成しているのであれば。 「オレは、分かり合えないのかな……」 ラ・ル・カーナに居た頃は皆の気持ちが分かったというのに、今になっては分からなくて。 分からない事を、怖いと感じたのは、何時だっただろうか。 聞き耳は、少女にとっては動作も無い事だった。 「安心しろ。私にもわからない。立つ鳥跡を濁さず、だ。別に命をどう扱うかなど構いはしないが、後を濁すな面倒だ」 溜め息交じり、カンテラを手に、耳を澄ませる『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)の溜め息と同時、福松が死にたがりの居場所を捉える。草むらに潜む様に存在する亜佳音の姿を探しあてた彼の声は『遊び人』鹿島 剛(BNE004534)の幻想纏いから聞こえて居た。 死にたがりの少女は気配を殺して、じっと死を待つ少女を見据えて居る。 「……誰」 訳の分らぬ介入者だと死にたがりは感じると同時、彼らなら己を恨んでくれるのではと気分が昂った。その声を耳にして、ユーヌが零す溜め息はただの一度も彼女を憎悪する事が無いであろうことを、告げて居た。 ● 死にたがりという気持ちは剛には分からない事は無かった。ショートボウを手に、仲間達の動向を見守る剛は暗視ゴーグルで視界を確保し、世の理不尽を憂う。 死にたいという気持ちは分からないでもないし、世の中には絶望が蔓延っているのだから。己が思うよりも柔軟な考えができるものだな、と小さく自嘲した。 ゴーグル越しに見据える景色の中、ゾウの滑り台へと近付く福松の姿が見える。とんとん、と階段を昇る音を立てる雅が制服姿、撫子一輪を付けた指先を手摺に這わしながら顔を覗かせる。 「あ、滑りますか。ごめんなさっ――」 雅へと意識が逸れた隙を付き、バチリと音を響かせたのは福松が手にしたスタンガンだ。首筋に宛がわれたソレにより揺らぐ体に彼女を見詰めて居た『何か』が立ち上がり動き始める。地面を蹴り、顔を出す少女が手にしていたのは分厚い本だ。 「邪魔しにきたの?」 弾きだそうとする魔力が形成されるその一歩手前、近付いた終が口角を上げ楽しげに笑う。あくまで笑顔を崩さないスタイルは道化の様でもあった。葉書を手にした終の速さに少女の足が一歩下がる。突撃されるその技に亜佳音が「きゃ」と声を上げた。 「どーも、死にたがりマガジン編集長様へ☆ 夢は天国に就職希望。終君でっす」 葉書の宛名は『死にたがりマガジン編集長様』。送り主の名前は『死にたがりの終君』となっている。投げ込まれる手紙が見事シュートされた所で、少女はその葉書を手ににたりと笑った。 死にたがりの少女の他に、もう一人死にたがりが増えてしまった。しかも、『友達』を連れてきた。となれば、殺せば恨まれるではないか! ビバ、怨念! 「――全く、良い趣味とは言えんな。手間を撒き散らすだけなら死ぬ勝ちすら無いな」 ふわりと浮きあがり、黒い髪を揺らしたユーヌは使役する影を召喚する。式神は彼女の声に応じてその姿を表した。小さなその影の前を真っ直ぐに飛び交うのは福松の弾丸だ。亜佳音の連れるエリューションを貫く弾丸に歪みは無い。点滅する電灯の下に未だはっきりと姿を現さずともその姿を彼は捉えて居た。 「キチンと出て来いよ、死にたがり。殺しに来てやったぞ。お前のリクエストに応えてやれるかは分からんがな」 シキを手にその声を聞いていた雅は気を失った一般人の少女、高坂実咲の体を庇う。式神が直ぐに彼女を庇う芸当が出来ない事を彼女は見越したうえで、実咲を守るべくその場所に立ちはだかった。 亜佳音の目線は実咲へと向いている。その事にさえも何処か違和感を感じるいりすは殺したがりの死にたがり、愛されたがりであるからであろうか。 「小生の事、見てはくれないのかしら?」 ちかちか、と反転する光と闇。ぼんやりと浮かび上がる赤と黒。恍惚世界ニルヴァーナに包まれた躯は一気に亜佳音へと接近した。無銘の太刀は光りの飛沫を上げて彼女の体を切り裂いた。一手、下がる彼女が繰り出す雷が荒れ狂う様に公園へと降り注ぐ。穿つ雷に眉を顰めながらもヘンリエッタは止まる事を知らなかった。 「亜佳音、キミが亜佳音だろう? キミを殺しに来たよ」 死にたがりの聞きたい言葉を零すヘンリエッタへと視界が逸れた時、彼女の体を叩いたのは蒐の炎の拳と剛の矢だ。神秘の介さぬ戦闘になれた剛の矢が亜佳音の頬を掠める、背後のエリューションへと飛んでいく。 『死にたがり』だなんて、名前すらも与えられぬ無様なエリューションを掠める事が無い矢に青年が小さく舌打ちを漏らす。 光りの飛沫を纏う武器を見つめながら、未だ歯痒さを感じ続けるいりすはその気持ちの行方を想っては如何したものかと小さく囁く。 愛憎表裏。憎まれたいは愛されたい。憎むは思うことであるのだから、きっとそれは愛情飢餓だ。そうは思っても、彼女は愛されたいとは口にしない。何時も口にする「好き」だという言葉をいりすも口にはしなかった。 『死にたがり』を巻き込む弾丸を吐き出して、福松はちらり、と視線をもう一人の『あかね』へと送った。眼鏡の奥で機械化した瞳が亜佳音を見据えて居る。前線で闘う事となっていた少年へ襲い掛かる『死にたがり』の腕を吹き飛ばし、フォローを行いながら闘う福松の瞳は敵を離さない。 「お前の望み通りに殺してやれるほど、オレはお人よしじゃないんでな。これも仕事だ、悪く思うなよ」 その姿やまるで極道。オーバーナイト・ミリオネアが打ち出す弾丸に続け、近接した死にたがりをアウトロウ・アピアランスで受け止める。シキを指で持て遊び、実咲から離れた雅が口角を上げ、挑発姿勢をとる。 「ハッ!死にたがってたくせに死にきれてねえなんてざまぁねぇぜ! 意志を誰かにゆだねるからそうなんだよ!」 その言葉に、彼女に対し群がる死にたがり。ソレに巻き込めなかった死にたがりをユーヌがぼんやりとした瞳で見つめながら、小型護身用拳銃を向けて首を傾げる。 「ふむ、死にたがりか。死ねてないという事は臨死体験でもしたのか? さて、踊ろうか?」 彼女の言葉につられる死にたがり。嗚呼、その姿でさえも彼女は生き汚いと小さく零した。死にたがりの癖に生き汚く、未だにその生を真っ当する。なんと下らないジョークだろうか。 「亜佳音ちゃん。死にたいのって分かんなくないよ。オレも死にたがりですから」 「そりゃ、葉書くれましたもんね、『死にたがりの終君』さん!」 亜佳音の雷がその身を穿つその前に、終は早く動き、死にたがりを巻き込んで、『時』を切り刻む。一手、その手が時を切り刻んだ後に、ナイフを持ちかえもう一手を繰り出した。二手の攻撃に『死にたがり』が本当の死を与えられる事に亜佳音の血の気が失せる。 魔術師としての才能が彼女に在るのかと問われれば、それは「NO」であった。少なくとも、この場のリベリスタと亜佳音は同等とは言い切れないからだ。 死にたがりを撃つ矢。ついで、一体、逸れていた死にたがりが剛の腹を切り裂く様に攻撃を繰り出した。鍛えられた肉体であれど、その攻撃に唇を噛む剛へとヘンリエッタが癒しを齎す。微量の回復に繰り返される攻撃。 「これがフィクサードって奴かよ。根っからの邪悪ってより歪んでるなぁ。世の中色々居るってことがよーく解る。他人様の性癖までどうこういうつもりはさらさらないが、人命は救わんといかん」 其れが己の職業であったと剛は強く再確認する。後衛位置に居ても、全体攻撃を得意とする魔術師の少女によって、彼の運命は一度萌えた。死にたがりを狙い撃つ彼によって蓄積したダメージを爆発させるように福松が穿つ。行動を阻害するそれをユーヌが打払いながらもくつくつと咽喉で笑った。 時を切り刻むその刃が死にたがり全てを消滅させる。動きを止めさせるように凍精を放ったヘンリエッタが亜佳音の名前を呼ぶ。手にした魔弓をぎり、と引き焦点を合わせたままに困った様に小さく笑う。 「キミも革醒者なら知っているだろうけれど、どれだけ葉書を受け取って恨まれても一般人は君を殺してはくれないよ? どうしてキミはそんなにも死にたいの?」 その言葉に亜佳音が否だと頁をめくる。雷がヘンリエッタを狙い撃とうとし、彼女の腕を貫いた。痛みを癒す彼女はそれでも少女を殺す事はしない。 死にたがりの所業は、同じ様に殺されたいと言う他殺願望が故であるか。 「生きる事は楽しいよ。一緒に楽しいこと、探して見ないかい?」 その言葉は憎悪を理解できなくとも楽しみなら共有できると感じたヘンリエッタ奈良で派だった。生きるも死ぬも亜佳音の心次第だと、そう思う。だから、その心を動かせるなら、それでいい。 「あー、交戦しちまってから言うと何だが、投降しちゃくれないか。殺さずに済むんら殺したくないんだ」 心から、剛はそう思う。殺したくないなぁと小さくぼやき、再度繰り出す矢が『死にたがりマガジン』を庇う少女の腕に突き刺さる。趣味の悪いタイトルの付いた週刊誌を狙った攻撃を避ける様に依然と攻撃を続ける亜佳音の体を幾重にも縛り付ける様に不吉が襲う。 「運が無いな、他殺志願者。週刊雑誌等読み飽きたら捨てるだけ。プレミアがあるなら、破ってやろう」 くすり、と笑みを漏らすユーヌが髪を揺らし、不吉を告げた。続く様に、不吉を渡す雅の気は昂っている。可憐な少女の口から飛び出すにしては余りに似合わない『言葉』は刃の様に少女へと突き刺さる。 「よお、テメエの事は割と如何でも良いんだがよ。変わった性癖だよな!」 「――悪いかしら」 打払う事の出来ぬその苛みに少女の体が止まった所へといりすは滑り込み、ねえ、と笑う。リッパーズエッジが少女の体を傷つける。それでも、普段よりも手を弱めたそれは『殺す事が無い様に』と気を使ったものだった。 一人で死ぬのも一人で生きるのも寂しい。自殺なんてそんな甲斐のない死に方は御免だった。 ――嗚呼、似てるのかもしれない。けれど、どうかわからない。 「小生の好きになった子は、大抵死ぬんだ。だからさ、とりあえず、お友達からはじめてみない?」 真っ直ぐに打たれた魔力でいりすの仮面が顔からずり落ちる。仮面の向こう笑ったはいいろと鰐の牙。 一歩近付いて、亜佳音の腹へと突き刺さる氷棺。ユーヌが災いを打ち払うと、少女は息を吐く。死にたがりがゆっくりと微笑んで、亜佳音にとっての呪詛を吐きだした。 「亜佳音ちゃんは誰かに無残に殺して欲しくてこんな事をしてきたんだよね? だったらオレは君を殺してあげない」 それが『死にたがりマガジン編集長』に向けた『死にたがりの終君』からのメッセージだ。 殺す事も逃がす事も選ばない。ただ生かす事だけを選んだリベリスタに、呆然とした亜佳音はへなへなと膝を折った。 「もう一度、キミに聞きたいんだ。オレ達と、一緒にこない?」 もう一度、ヘンリエッタが伸ばした指先を亜佳音はぼんやりと見詰め、そのまま座り込む。手から零れるアーティファクトはリベリスタがしっかりと確保した。座り込んだその腕をぐい、と掴みいりすは「ほら、お友達だ」と常よりも弾んだ声で囁いた。 ● 静けさを取り戻す公園で気を失っていた実咲が目を開けた時、其処に合ったのは滑り台を滑ろうと登ってきた高校生の少女の姿だ。気が強く見える黒目の瞳。明るい金髪が夜風に静かに靡く。 「なぁ、死にたがりマガジンって知ってるか? 何か、ソレに葉書送ったって聞いたんだけどさ」 話さないか、と背中合わせに坐った雅は静かに少女へと声を掛けた。俯きがちの彼女がぽつりぽつりとつぶやく言葉は学校に馴染めないという思春期特有の悩みだ。 「馴染めねーか。あたしも昔はさ、こんなんじゃなかったから友達全然いねーしいじめられるしでしんどかったわ」 「えっ……」 くすくすと漏らす雅の声に驚いたように実咲は零す。その滑り台の下、ゾウの足元で耳を傾けるヘンリエッタは学校とはどの様な所なのだろうと首を傾げて居た。 「あんた、真面目だろ。馴染めないのは自分が悪いとか、想いすぎんなよ。今の場所が嫌いなら学校サボりゃいい。悪いのは周りだって少しくらい思って良いんだ」 「で、でも……」 「あんな奴等の所為で自分が死ぬだなんて勿体ない。そう思えよ。その内、否応なく環境は変わるんだ」 はあ、と溜め息をつく雅が実咲の体を押す。滑り台を滑り降りる彼女の目の前に立っていたのは片目を隠した笑顔の青年だ。ハァイ、と手をひらひらと振る彼を見詰めながら実咲は首を傾げた。 「夢の様な世界にいらっしゃーい。実咲ちゃん、可愛いんだからさ、死んじゃったら勿体ないよ☆」 その言葉に気を失っていた事も、今目の前で繰り広げられる死についての説法も、そもそも『死にたがりマガジン』も夢であったかのような気がして、実咲は瞬いた。 「え、っと……、あの……」 「どうせいつかは皆死んじゃうんだから、楽しく面白くやりたいこと遣ってからでも遅くないよ?」 だから生きようよ、とそう告げる死にたがり――終の言葉に少女が目を伏せれば、其処に彼は居ない。入れ替わる様に立っていた福松が何処か目線を逸らしながら、なあ、と小さく囁いた。実咲よりも幾つか年下の彼を見据えながら、少女はその言葉を待つ。 夢の中、彼はどの様な言葉を言うのだろうか。死にたいと、思ってはいけないと言うのだろうか。 「死にてぇか。死にたいと思った事を頭ごなしに否定は出来ん。でもな、辛かったら逃げたって良いんだ。 一度死んだ『つもり』になって学校サボってどこかに言ってみたらどうだ? きっと世界が広がるぜ」 真面目な少女にはサボりという行為がうまく飲み込めなかった。嗚呼、けれど、そうだ、死んだ『フリ』をして何処かに行ってみても良いだろう。そう思わせてくれるような不思議な言葉。それは少女が純粋な一般人であるがゆえに生じた感情だ。 「……電車に飛び乗って、何処かに行きたいなあ」 「うん、そうすればいい。そしたら、変わるって」 な、と笑う雅が瞼を伏せて、眠りに落ちる少女を見降ろした。少しすれば彼女を心配した親なり友達が彼女を見つけるだろう。 座り込んだ『死にたがりマガジン編集長』こと亜佳音の手を引いていりすはゆっくりと歩む。 残された雑誌を手に、どんな漫画が載っているんだろうねと笑う終は雑誌を開いてからパタン、と閉じる。 「……どうした? 面白いのか?」 「う、ううん。ユーヌちゃんは見ない方がいいかなっ! 趣味悪いなあ……」 囁いた声に頬を膨らます少女はぼんやりと点滅し続けるライトを見つめて静かに泣いた。 行き先を照らしてくれる人が居れば良い。けれど、行き先が今は分からない少女の手を引くいりすが「小生のジンクスがあってね、好きになった子は大抵死ぬんだ」と小さく笑う。 お気の毒さま、と声を漏らす殺人者にいりすはでも、と囁いた。 「小生が亜佳音ちゃんを好きになるかもしれないし、ならないかもしれない。でも、二人なら、きっと楽しいかもしれないよ?」 ぽたり、と落ちる涙の中で、少女は何時か私を殺してね、と小さく囁いた。 死にたがりマガジンのコミックは発行停止。小脇に抱えた終は溜め息をついて、その場を立ち去った。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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