● 巨大ターミナル駅構内。地下フロア。 案内板の類は数多く出ているが、複数のビル地下街と結合するここは一見さんにとってラスボスのいるダンジョンにも等しい。 実際、神秘世界への出入り口があるとかないとか―― それゆえ、駅に不案内な乗降客のための「ガイド」が存在する。 リベリスタでもフィクサードでもなく、ただただ、この地下迷宮を「ガイド」する覚醒者たちがいるのである。 ● まだガイドになって日の浅い岡田由佳は金時計の下であたりを見渡しながら客を待っていた。待ち合わせの時間から5分が過ぎている。東京からやってくる外国人たちのために分かりやすい場所を指定したつもりだが、もしかしたら迷っているのかもしれない。 「広場が改札の中にあると思ってんのかな?」 スタート地点にすら立てないようでは、とてもじゃないが自力で目的の場所へはたどり着けないだろう。 その観光客にガイドを雇うだけの知識があったのは幸いだ。 とにかくここにきてくれさえすれば……。 さらに3分が経過した。 由佳はポシェットから携帯を取り出した。 客を紹介した旅行代理店へ電話を入れようとしたとき、やっと聞かされた特徴に合致する集団がエスカレーターを上ってくるのが見えた。 「ナゥタイさんですね?」 問いかけに集団の中の一人が無言でうなずいた。 トレーナーの袖を腰に巻いたジーンズに上は黒のタンクトップ。褐色の上腕に銀のプレートがつけられた腕輪をしている。プレートには小さな翡翠の球が1つ埋め込まれており、そのまわりに小さく6つの穴が空いていた。北斗七星のように見える。 短く刈った髪を立たせ、サングラスで目を隠しているがまだ若い。由佳とそう年は離れていないはずだ。もっとも覚醒者の外見年齢ほどあてにならないものはない。中身は齢100を越えていても、見た目は10歳なんて例はざらにある。 そう、新米ガイドの由佳にもナゥタイというのが男の偽名であることはちゃんと分かっていた。 「ぼやぼやするな。時間がない、急いでもらおう」 ――なんや、自分ら遅れてきておいて偉そうに。 むっとしたがなんとか顔には出さずにすんだ。心とは裏腹に、顔はにっこり笑う。 「まかせとき。15分かかるところを10分でつれていったるわ」 余計なことは詮索せず、自分はただこの巨大地下迷宮を「ガイド」するだけ。 背中に威圧する気の塊りを感じながら、由佳はナゥタイたちを伴ってダンジョンへ降りた。 ● 巨大モニターを背にして、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)はいつもの調子で集まったリベリスタたちに依頼内容を説明した。 「大阪駅前第2ビルの地下8階で黄泉ヶ辻の一派が、『厄籟笙(やくらいしょう)』という中国から渡ってきたアーティファクト使ってバグホールを生成しようとしている。そこへ本来の所有者が厄籟笙を取り戻しに来るのだけれど……。所有者が取り戻した笙で『禁譜』を吹くと梅田地下街が本物のダンジョンになってしまう。そうなったら『ガイド』がいない限り誰も地上に戻れない。厄籟笙の奪回、または破壊が今回の任務よ」 実は厄籟笙というアーティファクト、もともとは黄泉ヶ辻のものではない。大阪港で税関検査に引っかかって倉庫に留め置かれていたものを、たまたま目にした黄泉ヶ辻のフィクサードが破界器であることに気づき盗んだのだ。 さて、どんな効果があるのやら。面白半分に吹かしてみたところ、音の反響によって空にひずみが生じた。一定のリズムで吹かせているとひずみの向こうにうっすらと違う景色が見えるようになった。正しく音を鳴らすことが出来れば、もしかすると異界とのチャンネルが開くかもしれない。 かくして黄泉ヶ辻は梅田地下での実験を行うことにしたのである。 「黄泉ヶ辻を襲う謎のフィクサードたちは4人。アークのトップクラスよりやや上の覇界闘士が1人。種族はビーストハーフ。その他3名は中の上といった実力。黄泉ヶ辻は5名いたけれど、貴方たちが介入するころにはひとりを除いて全員戦闘不能になってるわ。彼らに関してどうするかは一任する。それと――」 イヴは先を言いよどんだ。 この願いはリベリスタたちにとって負担になることは確実だ。 分かっているよ、とうなずくリベリスタたちに勇気をもらってイヴは口を開いた。 「『ガイド』と呼ばれている、戦闘能力を持たない覚醒者が1名。謎のフィクサードたちと行動をともにしている。彼女もできれば助けてあげて」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:そうすけ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年05月31日(金)23:15 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● しん、と肌に落ちる冷気と耳朶へ微かに届く肉断の音。 梅田第2ビルのある幻の地下8階。ゆっくりと閉まるドアの隙間から差し込んだ最後の一筋を赤い髪で受け、『紅蓮の意思』焔 優希(BNE002561)は気配を殺した。 「行こう」 闇に目が利く者を先に立てて、リベリスタたちはフィクサードたち戦う場所を目指す。 しばらく進むとライトの光が集まる場所が見えてきた。あの明かりは黄泉ヶ辻が用意したものだろう。 柱が邪魔をして足を止めたところからは七業らの姿は見えなかった。林立する柱の間を抜けていく短い悲鳴と鉄筋コンクリートの柱が砕ける攻撃の音が目指した場所であることを教えてくれている。 『Dr.Tricks』オーウェン・ロザイク(BNE000638)は透視能力は活性させた。レンズの奥で目を凝らす。 「1人離れているのが左手に……黄泉ヶ辻だな。七業たちは右にいる。確認したのは3人、ガイドとあと1人は3人から離れているようだ」 どこにいるのか暗くてよく見えない、と言った。 オーウェンの横に並んで、『シャドーストライカー』レイチェル・ガーネット(BNE002439)が口を開いた。 「ガイドと一緒にいるのは、たぶん厄籟笙の元の所有者ですね。まだ気づかれていないようですし、ここで二手に分かれましょう」 「ああ、しかし」 「リーダー格の姿もあの光りの中に入ってみればすぐ確認できるだろう。そう離れたところにはいないはずだ」 オーウェンの躊躇いに『境界のイミテーション』コーディ・N・アンドヴァラモフ(BNE004107)が答えた。 「姿を捉え次第ハイテレパスで交渉する。私たちが彼らの意識を引きつけている間に、オーウェンとレイチェルたちは黄泉ヶ辻の背後に回りこんでくれ」 了解、とうなずく。 「……面倒な事になる前に、問題は簡略化されるべきだ。厄籟笙を奪取したら俺は直ちにこの場から離脱する。みんな、フォローを頼む」 それぞれの役割を再確認すると、リベリスタたちは闇の中で二手に分かれた。 ● 『無軌道の戦姫(ゼログラヴィティ)星川・天乃(BNE000016)は、長い黒髪のツインテールを跳ね上げながら光の中へ足を入れた。 「アークの星川・天乃」 動きを止めたフィクサードたちへ名乗りをあげたその顔はわずかも揺れず、しかし発された声は心から楽しそうな響きを帯びていた。とんと軽く跳んで踏むステップが天乃の昂ぶりを表している。 天乃と背をあわせるようにして躍り出てきたのは『デストロイヤー』双樹 沙羅(BNE004205)だ。 「ボク、よろー♪」 やはり楽しげな声で黄泉ヶ辻へ挨拶をすると、死神の鎌を体の前で回して風音をたてた。 「ちっ! 鬱陶しいヤツらが出てきたな。何しに来やがった?」 俺を助けにきたとか。皮肉に口を歪ませて、いまやたった1人になってしまった黄泉ヶ辻フィクサードがいう。 「まさか」 『狂奔する黒き風車は標となりて』フランシスカ・バーナード・ヘリックス(BNE003537)は、沙羅の横に並ぶと彼の世界で手に入れた大剣をAFから呼び出した。 血に飢えた『アヴァラ』の黒き剣を目にして、黄泉ヶ辻フィクサードが後じさりする。 「フランシスカ・バーナード・ヘリックス。よしなに」 沙羅とフランシスカは足並みを揃えて前へ出た。 拳を固めた天乃を前に、日本刀を手にした七業の1人がかかとを滑らせて足を軽く開いた。全身から力みが消えている。いままさに獲物に飛び掛ろうとする猫のようだ。 影から現れた優希が天乃の横に並ぶ。 優希は鋭い視線でソードミュラージュを威嚇すると、そのまま眼力のみで日本刀を構えた男をマグメイガスとホーリーメイガスがいる位置まで押し下げた。 「俺は焔 優希だ。そちらの名を聞かせてもらおうか」 冷笑が3つ返ってきた。名乗りを上げるつもりはないらしい。こちらを値踏みするような目を向けてくるばかりだ。とくに左端で杖を構えた女。先ほどからせわしなく目を泳がせている。 「そっちはどう? 聞いてあげるよ。これから殺す相手の名前ぐらい、ね」 沙羅は黄泉ヶ辻に笑いかけた。 ああ、なんて優しいんだろうねボクは。 「あ、そうだ。ボクは沙羅くん。あらためてよろ~」 「くそガキがふざけやがって。黄泉ヶ辻を舐めるなよ!」 「あはは、舐めるだけの価値もないね。……名乗らないならさっさとボクに殺されろよ、死に損ない!」 コーディは『祈花の導鴉』宇賀神・遥紀(BNE003750)とともに、優希と天乃、沙羅とフランシスカの壁が作り出した空間へ滑り込んだ。七業側へ目を向けて、3人の奥に禄存らしき男の姿を捉えると、ゆったりとした口調を心がけつつハイテレパスで語りかけた。 『我々の事は知っていると思う。こちらが用があるのは黄泉ヶ辻のフィクサードだけだ。君たちと積極的にやりあうつもりはないので、よかったら攻撃しないでもらえるかな?』 返事を待たず、コーディは禄存との精神同調を切った。 今度は禄存の後ろにいるであろうガイドにむけて意識を伸ばす。 『こんにちは。無事だろうか?』 ほえっ、と間の抜けた女の子の声があがった。 『私達は極力君には生きて貰いたいと思っている。出来ればすぐ彼らのそばを離れて、ここから立ち去って欲しい』 コーディはガイド・岡田由佳の思考に躊躇いを読み取った。思わず手を由佳に向けて差し出す。 『あるいは私たちのほうへ――』 「わかった、禄存! 真ん中にいるあの男よ!」 七業の女が杖の頭を遥紀に向けて突き出した。 腰に巻いたトレーナーの袖を解きつつ、若い男が闇の中から姿を現した。合わせるように前へ出た優希を目で止めつつ、気負わぬ仕草でトレーナーを床へ落とす。 ――と同時に場が動いた。 「後ろだ!」 黄泉ヶ辻に向かって叫びつつ、ソードミュラージュが天乃に切りかかった。 天乃は下段から斜めに振り上げられた日本刀の切っ先をバックステップひとつでかわす。着地と同時に体を前へ。振り上げ剣を下ろす暇など与えない。間髪いれず、大きく開いた男の体へ気のみなぎった拳を突き入れた。 拳を構えなおしながら、天乃は牽制をかねて禄存に声をかけた。 「禄存? 闘う度、に色々な相手、が出てくるね。残り四人、が楽しみ」 七業を名乗るフィクサードと戦ったのはこれが初めてではない。お前が3人目だ、と暗に言葉に含みを持たせる。相手から七業に関する情報が出てくるのを期待してのことだ。 しかし、禄損は僅かに首を横向けただけで天乃の話に乗ってこなかった。かわりに禄存は由佳に向かって何やら呟いている。 怒号が飛び交う中で、優希の耳は由佳に向けてかけられた禄存の言葉を辛うじて拾い上げた。 『――ていろ。なるべく遠くへ』 禄存は由佳を戦いに巻き込む気はないようだ。 逃がすと知った優希は爆ぜた。 「では相手をしてもらおうか、禄存とやら!」 腹を押さえて体を折る男の脇を抜け、優希は一気に禄存の元へ走る。 「――なに!?」 優希の視界から禄存が消えた。 消えた禄存の代わりに目に映ったのは、ぱたぱたと靴をならして遠ざかって行く由佳の華奢な背中だった。階段と反対の方向へ遠ざかっていく。 「くっ……どこへ行った。出てこい、禄存!」 由佳の行方は追わず、優希は禄存の姿を求めて辺りを見回した。 単純に影に潜んでいるわけではなさそうだ。そうであるならば暗視を持つ優希の目が逃すはずがない。さりとてただ柱の影に隠れた様子もなかった。 ――やつは動いている。 トラはじっと草むらに身を潜め、伏せて獲物が近づくのを待つ。あるいは静かに、その爪や牙が獲物に届く範囲まで忍び寄る。いずれも隠密行動が基本だ。 捕食者が忍ばせる足音を捕らえんとして優希は耳を凝らした。が、激しさを増す戦いの最中においてはそれも難しい。 単独でいるのは危険と判断した優希は、身を守るため天乃と背中を合わせた。 ● 七業の1人が発した警告とほぼ時を同じくして、レイチェルは黄泉ヶ辻の周囲に気糸を張り巡らせた。フィクサードをその場に縫いとめて自由を奪う。 すかさずオーウェンが地中から黄泉ヶ辻の真横に姿現した。 上から下へ、順に体を叩いてアーティファクトのありかを検めていく。 「はっ、なにをしている? もしかして……探しているのはあれか?」 黄泉ヶ辻の目の動きを追って、フランシスカと沙羅の顔が同時に動いた。 太いケーブル線の向こう側に落ちている厄籟笙を見つけたのは沙羅だった。 「やるね。拘束前に捨てたの?」 レイチェルとフランシスカが沙羅の示した場所へ走り出していた。やや遅れてオーウェンが続く。 「それはオレのものだ!」 「おおっと、ボクを無視してどこへ行く気かな?」 沙羅は放電する鎌で拘束の解けた黄泉ヶ辻を牽制した。 「どけ!」 「ヤダね」 厄籟笙を探す3人の足元でとつぜん床を這っていた細いケーブルが動き出した。 超直感でケーブルを飛んでかわしたレイチェルと空を飛んでいたフランシスカは難を逃れたが、オーウェンは動き出したケーブルに足を絡め取られてしまった。正面からコンクリートの床へ倒れる。 ケーブルを持ち上げ動かしたのは七業のホーリーメイガスだ。 「くそ!」 珍しく感情を露にして毒づくオーウェン。 「やってくれるじゃない!?」 フランシスカはオーウェンが倒れているところへ戻ってくると、黒剣を振るってケーブルを断ち切った。切断面から火花が飛び散り、辺りを照らしていたライトのいくつかが切れた。辺りがぐっと暗くなった。 「あった! オーウェンさ――」 厄籟笙を拾い上げたレイチェルに四色の魔光が打ち込まれた。レイチェルの手から厄籟笙がすべり落ちた。 それを暗がりを透かして見ていた遥紀はすぐレイチェルを癒そうとしたが、術が発動する直前、正面に禄存が出現した。 突然のことにひゅ、と息を飲む。見開いた目に、突き出された禄存の褐色の拳が映った。 完全に不意をつかれた遥紀は防御が取れず、ただなすがまま禄存の爪と牙の餌食になる。 「ぐが、あ……ぎ、あぁ!!」 コーディはすぐ隣で純然たる殺意が膨れ上がるのを感じ、マグメイガスへの攻撃を中断して顔を横にした。 目を焼くまばゆい光の中で、四方から禄存の猛攻をうける遥紀が血を飛ばしながらきりもみしていた。腕を折られ、足を折られ、あばら骨を折られ――糸の切れた繰り人形のように遥紀が崩れ落ちる。 「遥紀!!」 叫ぶコーディの右脇腹に、いつの間に近づいたのか禄存のテッ・スィークルーン(ミドルキック)が叩き込まれた。 ぐっと、息をつめて体を曲げるコーディ。その背に広がっていた翼が苦痛に折りたたまれる。 コーディの首を狙って伸ばされた禄存の腕を、間に割って入った優希が手で払い流した。その勢いを利用して回し蹴りを放つ。 禄存は足を上げて優希の蹴りをガードした。 天乃は死のオーラをまとった拳でホーリーメイガスを殴りつけると、そのまま軽くステップを踏みながら禄存の前へ踊り出た。 「さあ、踊ろう?」 優希とタイミングを合わせ、ふたり同時に拳を突き出す。燃え上がる炎のような闘気と冷ややかな漆黒の闘気が絡まり、螺旋を描いて禄存へ襲い掛かった。 禄存はあわてず半歩後ろへさがって技の威力を殺すと同時に、あわせた腕で2つの拳を受け止めた。引き戻されるリベリスタたちの腕を掴もうとしたそのとき―― 「くそったれが! てめーら纏めて死にやがれ!」 沙羅に片腕を切り落とされた黄泉ヶ辻が叫んだ。その頭上にひときわ暗い極小の穴が開いている。 音もにおいもなく、ただ速やかに。全ての免疫を破壊する死の毒が拡散して行く。 災いを呼び込んだ代償に黄泉ヶ辻が血を吐き出した。死を振り払うように目蓋をしばたかせ、霞む目で柱の隙間を見通す。ほとんどの者がコンクリートの床に膝をついていた。 アークのホーリーメイガスはあの禄存と呼ばれた男が仕留めている。やつらはすぐに全身に毒が回って動くことすらできなくなるだろう。 七業たちが回復しないうちに、と判断して黄泉ヶ辻は逃げ出した。あのアーティファクトは惜しいが、自分の命はもっと惜しい。 「あは、残念だったね。死神からは逃げられないよ」 それなりにダメージを受けはしたが、絶対者である沙羅に毒は利かない。 「それに……どんなに殴られても切られても痛くないしね」 へらり、死神は笑う。 沙羅は絶望を顔に浮かべたフィクサードの前に立ちふさがると、直死の大鎌を大きく振り回して風切りながらその首を跳ねた。 黄泉ヶ辻の頭が血の筋を空に描きながら飛ぶ向こう側では、オーウェンとフランシスカが厄籟笙を奪いにきたソードミラージュと闘っていた。 「オーウェン、こいつはわたしが引き受ける」 言葉とともに風車の黒い羽が赤く染まる。 次々と繰り出される幻影の刃の間を赤く染まった風車がすり抜けていく。敵に刺さると同時に、フランシスカの肩を日本刀が貫いた。 激痛に目が霞み、意識が混乱する。 「――がっ!?」 オーウェンは厄籟笙を手にしたままよろめいた。首をまわすと、アヴァラブレイカーを持ち上げて襲い掛かろうとするフランシスカの姿が見えた。とっさに仲間からの攻撃を避けたところへ、ソードミラージュの日本刀が厄籟笙を持った手の甲を切った。 その場で落としものを拾うこと叶わず。 オーウェンは混乱して敵味方の区別がつかなくなったフランシスカと七業ソードミラージュの同時攻撃を、柱を突き抜けて逃れた。柱を回ってソードミラージュへ攻撃しようとしたとき、癒しの息が柱と柱の間を吹き抜けていった。 一拍遅れて属性の異なる光の弾がオーウェン目掛けて放たれた。 回復を果たしたソードミラージュに気を取られていたオーウェンは、横手から飛んできた魔光をまともに食らってしまった。 それまで伏せていたレイチェルが気力を振り絞って立ち上がり、オーウェンに代わってソードミラージュを狙い撃つ。 「禄存っ!」 男は倒れこみながら拾い上げた厄籟笙を禄存へ投げた。 「取らせん!」 特殊な呼吸法で自己回復すると、優希は厄籟笙に手を伸ばす禄存へ炎の拳を突き入れた。 禄存はバランスを崩しながらも空中で厄籟笙を掴み取った。足を踏ん張ると、反動を利用して優希の側頭部にティー・ソーク(肘うち)を見舞った。 「壊すんだ!」 オーウェンは暴れるフランシスカを組み敷しくと天乃に向かって叫んだ。 奪い返せたとしても自分たちに逃げ切るだけの体力は残されていない。 「分かった!」 黒いツインテールを後ろへ流し、天乃は禄存の引き締まった褐色の肌に死の刻印を刻んだ。 「さあ、その……笙を壊させて、もらおう、よ」 禄存の腕が天乃の首にまわされる。 「女を蹴るのは趣味じゃないが」 間合いを奪ったことが逆に仇となった。首相撲で体の軸を大きく振られた。へその下に禄存の膝が打ち込まれた。その威力につま先が床から離れ、ぐんと体が浮き上がる。 禄存は優希に天乃の体をぶつけると、2人がよろめいた隙に再び身を隠した。 マグメイガスとホーリーメイガスも禄存にならって柱の影へ逃げ込む。 レイチェルが嘲りの言葉で七業たちを挑発した。 「死にかけの私たちを影からこっそり狙わなければ勝てませんか。この臆病者ども!」 しばらくして柱の影へ逃げ込んだ2人が姿を現した。 再登場を狙っていたコーディが即座に魔炎を召喚し、地獄の業火で2人を包み焼く。 「禄存、姿を現せ! 出てきてオレと闘え!」 ● きゃっ、と悲鳴が上がった。由佳の声だ。 「邪魔なガイド。きみはなんでこんなところでなにしてるのかな?」 沙羅は戦いの場から遠く離れた柱の影で小さく縮こまっていた由佳を見つけた。厄籟笙が奪われたいま、敵の逃亡を防ぐためにガイドを殺す必要があると判断してのことだ。 沙羅の鎌が由佳の体を切りつけようとした刹那、闇の中で和音が奏でられた。鳳笙という美名に相応しい音色が地下世界に宇宙を呼び込む。だが、その旋律はまとまりを欠いていた。 鎌が由佳ではなく何か固いものを切り裂いた。 次に悲鳴を上げたのはレイチェルだ。沙羅の鎌は時空を越えてレイチェルがもたれかかっていた柱の上を削り取っていた。 厄籟笙の音をたよりに優希は禄存の居所を探った。 「オーウェン、右斜め後ろだ!」 優希の情報を元にフル回転したオーウェンの頭脳が禄存の正確な位置を割り出す。腕を振り向けると同時に、手甲から薬きょうが排出された。 曲は中断されが、歪んでバラバラに結ばれてしまった空間は戻らない。 禄存を追って駆け出した優希は、なぜか戦いの場から大きくはなれたところへ飛ばされてしまった。 コーディに襲い掛かったはずのホーリーメイガスはフランシスカにぶつかって倒れた。 正気を取り戻したフランシスカがすかさず敵を倒しにかかる。 華奢な手が伸びて七業の女の襟首を掴むと、風車が体に刺さる前にひずみの中へ引き込んだ。 続いて瀕死のマグメイガスが、やはりどこからともなく伸ばされた手に腕をとられてのひずみの中へ消えた。 コーディが階段の方角に顔を向けると、果たしてそこに由佳を従えた禄存たちがいた。 『どうして彼らを助ける!』、と由佳にハイテレパスで問いかける。 『この人たちお客さんよ! それに、あんたたちあたしを殺そうとしたじゃない!』 お腹がすくまでそこで迷ってたらええねん。 由佳の捨て台詞とともに禄存たちは姿を消した。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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