下記よりログインしてください。
ログインID(メールアドレス)

パスワード
















リンクについて
二次創作/画像・文章の
二次使用について
BNE利用規約
課金利用規約
お問い合わせ

ツイッターでも情報公開中です。
follow Chocolop_PBW at http://twitter.com






<剣林>こいこい


「名を売りたいのは僕だって同じだけどさ、……あのアークと喧嘩するって、京子本気で言ってるの?」
 まだ大学生か高校生くらいにしか見えない若い男は、京子と呼んだ女性の無謀な発言に溜息混じりに問い返す。
 まあ彼女が本気でそう決めたのなら、今更自分が覆せるとも思わないけれど。
「月、当たり前よ。アンタだってアークがどういう組織かは知ってるでしょ? アタシ等の名を売るには絶好の相手じゃない」
 リベリスタ組織『アーク』。
 最大級の神秘事件、ミラーミス『Rタイプ』の襲来、『ナイトメア・ダウン』によって壊滅的被害を被ったこの国のリベリスタ勢力を立て直さんと時村財閥が時間と資金と人材を費やして組織した、この国で最も巨大な神秘組織の一つ。
 組織発足後の僅か数年でめきめきと頭角を現し、この国の影であるフィクサード組織主流七派と並び数えられ、あまつさえ伝説の使徒すらもその手で打ち倒したと言われている。
 ……要するに確かに相手取れば名を売るにはもってこいだが、どう考えてもアンタッチャブルな相手。
 主流七派が一つ『武闘派』剣林に属するとは言え、まだ若い彼等が手を出すにはリスクが高すぎる。
「知ってるから反対してるんだけどな。……なあ、桜も何とか言ってやってくれよ」
 この場に居るフィクサードは3名。一人は『盃』の異名を持つ女、逆月・京子。そしてもう一人は『月』の生酉・月。最後に、
「噂は俺も知っているが、すまない月。知ってるからこそ、その名前を前にして、どうにも血の滾りが収まらない。それに……」
 静かに成り行きを見守って居た『桜』桜花・仁が、腕組を解く。桜花の胸中を過ぎるのは嬉々としてアークに挑み、そして散った剣林の先達達。
 彼等が敗れた事が桜花にはどうしても信じがたかった。事実は揺るがないとしても、彼等の負けるその光景が想像できない。
 ならば確めるしかないでは無いか。
「俺達のリーダーは京子だ。俺はその決定に従うだけだ。だから、月も手伝ってくれ」
 京子の味方をする桜花の言葉に、月の口からは再び溜息が漏れた。
 彼等は『六文』、剣林に属する若手チーム。そうこのチーム内では参謀役である月とて剣林なのだ。
 強敵との戦いを必要以上に厭いはしない。
「桜は京子に甘いなぁ……。判ったよ。けど実際どうやって相手を引っ張り出す心算なの?」
 2対1となった月は、両手を挙げて無駄な抵抗をやめる。其れが何時ものパターンだ。
 ストッパー役となる事の多い月だって本当は京子の願いを叶えてやりたいのだから。
「アンタ等って本当に仲良いわよね。まぁ、良いけど……。でね、方法は簡単よ。そのアークってのは起きる事件を事前に察知する力があるって話でしょ」
 月や桜花が自分に向ける想いを知らぬ京子は、あろう事か二人に対して腐った誤解を抱いている。
 その自信たっぷり京子の方針とは、適当な町で何か悪さしたらきっと出て来るんじゃないか? と言う実に大雑把かつ大らかな物だった。
「大丈夫よ。アタシ達『六文』の名は伊達じゃないんだから!」


「まあこんな光景が見えてな」
 集まったリベリスタ達を前に、フォーチュナ『老兵』陽立・逆貫(nBNE000208)が口を開く。
 その口元に僅かな苦笑いを浮かべながら。
「彼等はまだどんな悪さをするか決めかねていてな。成るべく一般人を巻き込まずに諸君を誘き出す方法をある町のカフェで相談している」
 いっそあの近くに見える銀行を襲おうかと誰かが言えば、銀行に入っていく年寄りを見て其の案がすかさず却下される。
 そんな事の繰り返しでは結論等出る筈も無いが、
「さりとて放っておく訳にもいかないだろう。いずれは些細であれ何らかの行動に出るのなら、いっそ諸君等から接触して手間を省くと良いだろう。まあそれに何よりもな……」
 そう言いながら逆貫が差し出すのは彼らの資料。



チーム六文
『盃』:逆月・京子。チーム六文のリーダーでインヤンマスター。その他に戦闘指揮2lvを持つ。
『月』:生酉・月。チーム六文の盾でクロスイージス。EXスキルとして『月見酒』を持つ。装備は巨大な盾と剣。
『桜』:桜花・仁。チーム六文の剣でクリミナルスタア。EXスキルとして『花見酒』を持つ。武器はナイフと銃の2刀流。

EXスキル
『月見酒』:逆月・京子が手番を使って指示を飛ばし、更に生酉・月が手番を使って発動。盃に映る月の光が味方を癒す。神遠味全、大幅回復。
『花見酒』:逆月・京子が手番を使って指示を飛ばし、更に桜花・仁が手番を使って発動。舞い散る桜の如き無数の斬撃が敵の全てを切り裂く。物遠全、出血流血付きの強力な攻撃。



「諸君等にとって決して侮る事は出来ないだろう実力の相手だが、だからこそ実戦経験を得るにはもってこいの相手だと私は考える」
 彼等は殺意で動くでなく、狂気で動くでなく、復讐に動くでなく、己の力を見せ付け名を売る為に戦いを挑んで来る。
 あらゆる意味で『手頃』な相手なのだと逆貫は言う。
 まあ尤もこのフォーチュナの言う実力に関しての手頃とは、割合『厳しい』だったりする事が非常に多いのだけれど。
「アークは常に強者を打ち倒して来た。諸君も同じくである事を私は期待しよう。諸君等の健闘を祈る」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:らると  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 6人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年10月10日(木)23:01
 冒頭は長いですが、要するに喧嘩しようぜ!です。
 成功条件は勝利。
 接触後は一般人を巻き込まない場所へ移動できます。場所を提案する事も可能ですが、あからさまに罠っぽい場所等の都合の良すぎる提案は当然断ります。
 敵は多少脳筋気味な所はありますが馬鹿では在りません。
 京子は指示出しのフェイント等も使います。

 難易度ノーマルは、油断すると失敗する事がありえると考えています。
 皆さん頑張って下さいね。
 それではお気が向かれましたらどうぞ。
参加NPC
 


■メイン参加者 6人■
覇界闘士
嵯峨谷 シフォン(BNE001786)
ホーリーメイガス
字代 菊理(BNE004445)
ダークナイト
閑古鳥 黒羽(BNE004518)
ソードミラージュ
中山 真咲(BNE004687)
スターサジタリー
イズル・Z・シュタイフ(BNE004727)
覇界闘士
絢藤 紫仙(BNE004738)


「剣林が一人、嵯峨谷一刀の子、アーク所属の嵯峨谷シフォンであります」
 舞う様な足運びから『飛行機だって殴ってみせる』嵯峨谷 シフォン(BNE001786)が繰り出した双鉄扇が、『桜』桜花・仁のナイフと火花を散らす。
 シフォンの口から唐突に出た剣林の名に仁は訝しげに眉を顰めるが、まだまだ組織内では若手の彼が全ての構成員を知る訳でもない。
 まあ深く気にするだけ野暮と言う物だろう。
 それに何より……、
「しばらく自分に付き合っていただくであります。よもや逃げるなんて言わないでありますよね?」
 眼前に自分と戦いたがる相手が居る。ならば剣林としてやるべき事は一つだろう。
 シフォンの双鉄扇と打ち合う仁のナイフとは逆手の拳銃が、返事の代わりに火を噴いた。

 剣林の若手である『六文』とアークの若手、両者の合流は決してスムーズとは言わないものの大きな問題はなく行なわれた。
 どうやってアークを誘い出すかを悩んでいた剣林のフィクサード達は、アークの方から出向いてくれた事に驚きこそしたもののそれを歓迎せぬ謂れは無い。
 どうやって近寄ろうか悩んでいた鴨が葱と鍋を背負って自らやって来たようなものだ。
 まあ尤もカフェで行き成り大人数が一つのテーブルに集まる様は異様な雰囲気を醸し出していたし、
「アークだが? 何か企んでいるお前らを倒してやるが?」
 眼帯で片目を隠した『ナハトリッター』閑古鳥 黒羽(BNE004518)の発言には恐怖とはまた違った心のざわめき、具体的に言えば黒歴史ノートを直視させられたような気分を掻きたてられてしまったけれど、……まあここに集った者達は多少特異な見た目が混じれど基本的にはさほど不良っぽくない少年少女が多い。
 周囲も訝しげな視線を向けはすれど、それ以上の行動を取る者はいなかった。
 何より、一行の中では数少ない大人である字代 菊理(BNE004445)が店員に待ち合わせであるとキチンと告げていたのが大きいだろう。
「お待たせして済まないね。アークのリベリスタを探しているのだろう? 僕達がそうだ。未だ未熟な身ではあるが、お相手願えるかい」
 菊理は丁寧に自分達の意を伝え、そして場所の移動を提案する。
 当然の様に出てくる『何処へ?』との疑問に応じたのは、
「人目につかない場所ならどこだっていいさ」
 煙管を口に咥え、瞳を細めた『山紫水明』絢藤 紫(BNE004738)。
「楽しく喧嘩するのに邪魔が入らない方が良いだろ」
 判り易いその言葉に3人のフィクサード達の表情に笑みが宿る。並の人間では一生浮かべる事がないであろう、闘争への期待を孕んだ剣呑な笑みが。
 若く見えようと、そして実際に若手であろうと、ここに集った者達は誰一人として常人では無い。
 通常の理をハズレ、血と刃に満ちた棘だらけの道を裸足で歩いていく者達。
 狂った理不尽な世界で、運命の寵愛と言う名の呪いを受けて、正気で生きねばならぬ者達。


「Freut mich!」
 ドイツ語の挨拶に載せて、放たれるは光の弾丸スターライトシュート。
 人一人分より少しばかり高い位置に簡易飛行で浮かび上がった『soliloquy』イズル・Z・シュタイフ(BNE004727)からの攻撃は、その高さ故に六文の3人を余さず捉える。
 イズルの挨拶を略さず述べるならFruet mich Sie kennenzulernenやFreut mich sehrになるのだろうか。
 どちらも意味は然程変わらない、日本語で言うならはじめまして。或いは、あなたに会えて嬉しいです。
 イズルは、彼女はこの出会いと喧嘩を幸いだと受け止めたのだろう。
 未だ血と闘争に染まり切らぬ若手らしい感性と言えるだろうが、だがその攻撃の威力は本物だ。
 しかしだからこそ、イズルの攻撃は『盃』逆月・京子には届かない。京子の前に立ち、彼女への攻撃を阻むのは六文の盾である『月』生酉・月。
 剣である桜、盾である月、そして其れ等を扱う頭脳である盃、最初から完全に役割を分担している彼等の立ち位置は決まっており、京子を庇う月を遮る事はかなわない。
 しかしその盾を力と速度で揺るがせたのが『黒刃』中山 真咲だ。
 月に向かって叩きつけられるのは、華奢で可愛らしい真咲が振るう事が、実際目の当たりにしても俄かには信じがたい巨大な戦斧。
 重さを無視したかの様に澱みなく繰り出される戦斧での連続攻撃は、けれども喰らってみればその質量と速度が生み出す衝撃に身体を抗いがたい痺れが縛る。
 無論六文とてやられるばかりでは決してない。戦いは未だ序盤に過ぎぬし、このまま押し込めるほどに六文の3人は容易い相手でもなく、何よりそんな楽な戦いが楽しいはずもない。
 不意に真咲の動きがピタリと止まる。月を麻痺で縛った事で余裕を見せた訳ではなく、真咲自身も周囲に展開した呪印、京子の放った呪印封縛に囚われたのだ。
 子供相手であろうと油断無く、……寧ろ子供が巨大な戦斧を振り回す異様さにこそ警戒を払って。

 リベリスタやフィクサード達が訪れたのは、先程のカフェがあった町からは大分離れた郊外の林。
 そして念の為にと菊理が施した強結界により、強い理由の持ち主以外はこの場所には近付かなくなっている。
 まあ元よりこんな場所に好き好んで来る者としたら、この土地の管理手入れをする者か或いはサバイバルゲームに興じる者達位だろうけれど。
 耳を澄ませて周囲を探り、他に人の気配が無い事を確認した彼等が取り出したのは、サバイバルゲームよりも大分と物騒な本身の武器群。
 銃器に刃、そして何より本気で相手を打倒する戦う意思。
 地面に落ちたら開始だと確認し、真咲の指が合図のコインを弾く。
「こんな時は……、こういえばいいのか」
 ゆっくりとコインが宙を舞う様に、紫仙が相手を見据えて口を開いた。
「絢藤紫仙推して参る」
 そうして漸く、楽しい楽しい喧嘩が始まる。


「私は貴様らなどに構ってはいられないんだ。さっさと終わらせてもらう」
 月が麻痺した隙を突き、京子へと迫るは漆黒の闇を纏った黒羽。
「見せてやろう、災厄を運ぶ鴉の旋風を」
 黒羽の体の各所から、禍々しい黒光を帯びた鋼糸付きの鏃が飛び出す。
 今回集ったリベリスタの中では随一の攻撃力を持つ黒羽の一撃は、辛うじて真芯を外して掠めるだけに留めた京子に、それでも大きなダメージを与えた。
 けれどそれに対する報復として黒羽を含めたリベリスタ達に突き刺さるは弾丸、シフォンと相対しながらも彼女よりも他を見据えて放たれた仁のバウンティショットスペシャル。神速の抜き撃ち連射、B-SSがリベリスタを血に染める。
 シフォンの技量が仁を引き付けるに足りなかった訳では無い。集まったメンバーの中でも平均以上の実力の持ち主である彼女に足りなかったのは技量では無く覚悟、眼前の相手が目を逸らせないだけの気迫、或いは気概。
 好機とばかりに仁の攻撃に重ねて放たれようとした京子の陰陽・氷雨に対してリベリスタ達が1人の犠牲も出さずに済んだのは、2人の攻撃の僅かな隙間に菊理が回復を挟んだからだ。
 響き渡るは詠唱の歌声。癒しの奇跡を呼ぶ天使の歌。菊理から注がれた暖かな光が銃撃に減った体力を賦活し、次に飛来する氷雨にリベリスタ達を持ちこたえさせた。
 無論それでもリベリスタ側の被害は軽くない。誰一人として倒れる事こそなかったが、それでも回復した以上に次の攻撃で削り取られ、体力が比較的少ない菊理やイズル、そして紫仙は限界近くまで追い込まれてしまっている。
 中でも特に悲惨だったのは紫仙だ。彼女自身以上に、氷の刃や銃撃にボロボロにされた着物が痛々しい。
 だが紫仙は身体の傷にも、そして傷付いた着物にも頓着はせずに、寧ろ今まで取っていた魔氷拳では有効打は放てぬと悟って戦術を切り替え、
「こんな着物姿でも足技はちゃんと出せるものさ」
 着物の裾を大きく割って脚を宙に躍らせた。鋭く振りぬかれた蹴撃が生み出したかまいたちが宙を切り裂き京子へと飛ぶ。
 そして同じくシフォンも仁へと斬風脚を放つが、何故だろう。この戦いでの斬風脚の使い手は視線を集める的な意味で非常に危ない。

 一進一退。攻防が続く。
 そして戦いを繰り広げる誰もが、この戦いが始まったばかりの頃よりも動きの鋭さを増していた。
 動く間に戦いへの集中力が増したばかりでなく、実際に彼等はこの戦いの最中に成長し、戦闘への進化適応を果たしているのだ。
 未だ完成されざる若手の特権。リベリスタも、六文も、一手交えるごとに互いを高めていく。
 だが戦いの優劣は誰の目にも次第にはっきりと見え出した。リベリスタの優勢と言う形で。
 六文の盾である月の体力はその頑丈さの前に然程削れては居なかったけれど、最速で動く真咲の攻撃が植えつける麻痺に、京子を庇う昨日を十全に果たせなかった事が最も大きい要因だ。
 更に並べれば回復役の有無がそれに次ぐ。六文の攻撃力はリベリスタ達を上回っていたが、例えギリギリに追い込まれようとも倒れさえせねば菊理からの癒しが飛ぶ。
 仁が回復役の菊理を狙えども、自身も決して頑丈とは言えぬ筈なのに身を挺したイズルが運命を対価にしての踏みとどまりすら使用して癒し手を守った。
 イズルの瞳は語っている。新人なれど戦意は充分だと。
 決して折れず、諦めず、相手が新人だったから楽勝だったとは言わせない、落胆させず、相手にとって不足なしと言わせ、……いや違う。本当に望むは勝利をその手で掴んで離さない事。
 リベリスタの若手達の連携はまだまだ拙いが、身を削り、運命を削り相手の攻撃を耐え凌ぐ。
 そうなるとやがて、積もったダメージに京子の表情がゆがみ始めた。
 何より、京子に張り付き攻撃を加え続ける黒羽の存在が重い。
 今回集ったリベリスタの中では最も実力者である黒羽とて決してベテランでは無く、名を知る人間と本気で戦うのは初めてだ。
 けれど彼女はその内心の思いを表情には欠片も出さず、経験の少なさを態度にも出さず、的確な攻撃を続ける事で京子に大きなプレッシャーを与え続けていた。
 六文とて回復手段はある。京子自身が持つ傷癒術に、京子と月の2手を必要とする『月見酒』。
 だが京子が傷癒術で自身の回復に回ればそれはリベリスタ達への攻撃の手が緩み、彼等に立て直す時間を与える事になる。
 苦しいのはどちらも同じだと思うからこそ、京子は攻撃の手を緩めない。
 仮に月が動けたならば、月見酒による回復力は2手を犠牲にしようと余りある大きな物であるが故に京子も回復を選んだのだろうけれど……。
 

「勝敗は明らかだろう。そろそろ退いては貰えないかな」
 京子の顔色に、勝ちの見えた現状に、戦いの終わりを提案したのは菊理だった。
 特に憎しみを持って戦い合う訳でないのだし、必要以上に互いに傷付く必要はあるまいと、この辺りが引き際だろうと、己の事さえも第三者的に俯瞰する癖がある菊理の、合理的な申し出。
 だがその癖は今回は悪い方へと転がった。
 憔悴気味だった京子の瞳に宿る怒りの炎。
 馬鹿にされたと感じた訳では無い。現状、追い詰められてしまっているのだ。確かに脳筋気味ではあるけれど、チームの指揮官としてそれを理解出来ぬ程に彼女は愚かでは無い。
 京子が怒りを感じたのは、菊理にでは無く、好敵手にそんな言葉を吐かせてしまう、燃え上がる戦いを何時までも続けていられない自身の弱さに対してだ。
「桜ッ!」
 それまでの京子の指揮は全て僅かな仕草を持って行なわれていた。阿吽の呼吸で月と仁はそれを察して動く。
 だが今はっきりと口に出された其れは彼女の願い。惚れた女の願いを叶えんが為、男の心は震え立つ。
 全てを出し尽くさぬままには終われないとの願いを。
「応」
 短く一言発した仁の身体からこれまでとは比較になら無い闘気が溢れた。
 リベリスタ達に緊張が走る。それは京子の指示が何を意味するかを万華鏡の情報で知っていた以上に、仁の闘気が一瞬とは言え彼等の知る強者、アークの先達に近しいレベルにまで膨れ上がった事を感じたからだ。
 ならば襲い来るであろう一撃の恐ろしさも予測が付く。
 花札で、桜に幕、菊に花の2枚を揃えて出来る役がある。僅か二枚の組み合わせで出来てしまうその最速の役はルール次第では採用されぬ事もあるけれど。
 花見で一杯。
「「花見酒」」
 京子と仁の声が重なり、舞い散る桜の花びらの如く無数の斬撃と圧縮された闘気がリベリスタ達を切り刻み、噴出した血が辺り一面を盃の様な朱に塗り上げる。

 しかしそれが六文の最後の攻撃となった。響く銃声に肩口を撃ち抜かれた京子が倒れ伏す。
 攻撃を放ったはイズル。巻き込まれていれば到底耐え切れなかったであろう花見酒の射程の外から、アーリースナイプを用いて限界間近だった京子に最後の駄目押しを加えたのだ。
 仁が悔しげに表情を歪める。京子が倒された事だけにではない。無論それも大きいが、それ以上にアークのリベリスタ達が想像以上に自らの最高の一撃に耐えていた事が俄かには受け入れがたかったのだ。
 耐え切れずに倒れた者も勿論居る。新たにフェイトの消費を余儀無くされた者も。
 だがそれでも立つ者達の闘志は消えない。何故なら彼等は知っているからだ。
 仁が放った一撃よりも強力な攻撃を。眼前の仁よりも強い、自らの先を歩く先達を。そして何より、何れは自分達もその先達と並び立ち、今よりも遥かに強い相手と戦いを繰り広げねばならぬ事を。
 ならばこんな所で躓いてはいられない。


 引き上げていく六文を見送り、イズルの肩から力が抜ける。
 意気は兎も角、内容は辛勝も良い所だったから。あの一撃の後、尚も仁が戦いを望めば……、敗北を喫していた可能性は十二分にあったのだ。
 黒羽に庇われた事で、倒れずに済んだ菊理が仲間達を癒して行く。
 真咲と協力して黒羽は倒れた仲間を担ぎ上げ、静かに苦味を噛み締める。
 得た勝利を素直に喜ぶには、自分達の未熟さを思い知らされすぎた。
 何れ彼等と再び戦う事もあるのだろう。
 けれどその時こそは……。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 参加有難うございました。
 この様な結果ですが如何でしょうか?
 お疲れ様でした。