● 摩天楼。空の向こうまで続いていそうな高い高いビル。 細くて狭い階段を昇ること百数十階分を登りきる。 ペントハウスに住んでいるオーナーに「ハッピー・バースデー、ミスター・トーレスト!」と一番最初に挨拶した人には、毎年飛びきりのプレゼントが用意されていた。 そんな古きよき時代。 もうすぐ取り壊されるそのビルのペントハウス。 ずっと昔、誕生日を迎える前の日の夜、明日やってくるお祝いのお客様を楽しみにしながら安楽椅子で転寝をし、そのまま息を引き取ったオーナーが、今でもドアをノックされるのをわくわくしながら待っている。 彼のお誕生日は、まだ終わっていないのだ。 ● 「E・フォース。識別名「ミスター・トーレスト」基本的には無害なので優先順位が低かったんだけど、ビルが取り壊されるというので順位が赤丸急上昇」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、無表情でドンドンドンパフパフと言った。 「何しろビルが壊されたら、E・フォースの間合いに入るのに飛行機が必要になる」 飛んで上がるのはおすすめしない。と、サラッと言う。 「それにビルがなくなることで、E・フォースのフェイズがあがり、幻のペントハウス、発展して幻のビルヂングが現出したらしゃれにならない」 空中豪邸、空中楼閣。神秘秘匿は急務です。 ビルディングではなく、ビルヂングだ。そこがポイント。 「という訳で、お誕生日のお祝いに行ってきて。もちろん階段を登って。電気なんかとっくに切れてるし、自力で電気起こせたとしても、大時代のメンテもしてないエレベーターで最上階とか自殺行為だから」 ちょっと、ヒューマン・ダイナモに期待したのに。 「それに、ズルはいけない。ミスター・トーレストを怒らせるだけ」 リベリスタのスタミナに期待しているとイヴは無表情。 「それから、それはもう古い建物だから。階段の幅がこのくらい」 と、示された幅は、精々60センチ。 「それからステップの幅はこのくらい」 と、示される幅は精々15センチ。 「ステップの高さはこのくらい」 と、示される高さは40センチ。通常の倍。 「体格がいい人は、限りなく斜めにつま先しか乗らない階段を思い切り腿上げしつつ昇ることになる」 一般人だってやってたんだから、リベリスタなら簡単のはず。とイヴは言う。 「バブル崩壊後数十年放置されてるから、色々もろくなってるから、壁の崩落、手すりの崩壊、蜘蛛の巣、ネズミ、ステップの瓦解等色々気をつけて」 なんかひどいこと言ってない!? 「当然、休むところはない。ゆっくりお弁当食べるスペースもない」 心のよりどころ、ナッシング。 ちなみに、昔は各階ごとに飲み物とか軽食とかリタイアゾーンとか休憩スペースがあったそうだが。 「今は、全てのフロアに繋がるドアには鍵がかかっている。ピッキングマンとかで開けないでね。大人の事情で無理言って入れてもらうんだから」 はい。このビルには誰も侵入してないんですね、わかります。 「後は上って、目の前にあるペントハウスのドアを開けて、中にいるE・フォース――ミスター・トーレストに、『ハッピー・バースデー、ミスター・トーレスト』と声をかけて。それで、彼のお誕生日は終わるから」 とっくの昔に天国に行ったミスター・トーレストの心残りを空に帰してあげて。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田奈アガサ | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 4人 |
■シナリオ終了日時 2013年05月25日(土)23:02 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 4人■ | |||||
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● 「今回は簡単なお仕事じゃないみたいだし、翼の加護でぴゅーんとひとっ飛びだね。楽勝楽勝♪」 「最後の最後に最高のハッピーエンドを。いいわね、浪漫だわ」 『やわらかクロスイージス』内薙・智夫(BNE001581)と『運び屋わたこ』綿雪・スピカ(BNE001104)は、ブリーフィングをきちんと聞いていなかった。 背中の翼を広げ……ようとすると、リベリスタ、揃って首を横に振る。 今回は、きちんと自分の力で一歩ずつ階段を上がらなくてはいけないのよ。 「え? 飛んで行っちゃ……駄目? す、すみません。このビル、何階建て……?」 「あらやだ、冗談でしょ!」 二人でガクガク震えだしているが、心配しないで。ちょっと三桁に突入してるけど昔の建物だから天井低いから。実際はそんなに高くないよ、多分。 「こんなに立派なのに壊してしまうのは、まおはさびしいと思いました。最後のお誕生日会に、まおは行きます」 『もぞもそ』荒苦那・まお(BNE003202)の決意は固い。 「うーん、いい話。まるで映画だ」 『必殺特殊清掃人』鹿毛・E・ロウ(BNE004035)は、糸目を更に細めて何度もうなずいている。 人類文明と寄り添っている神秘には若干考慮の余地はあるらしい。 それも、この依頼が無事に済んでのことだろうが。 万一失敗して、空中数百メートル地点で安楽椅子をこぐ老紳士なんて神秘になったら、パラシュート背負って狩りにいくだろう。 「階段を登ってお祝いの言葉を言うぐらいお安い御用だよ――」 『ガントレット』設楽 悠里(BNE001610)はそう言って、建物を見上げる。 古い。かつては瀟洒な建物だったのだろう。外壁のあちこちに天使の飾りが半ば崩れかけながら留まっている。 「ええ話やー行こう今すぐ行こうってビルヂング高っけーアハハ」 『箱庭のクローバー』月杜・とら(BNE002285)がけたけた笑う。 「お祝いの花束を用意致しました! 喜んで頂けると嬉しゅうございますね!」 『レディースメイド』リコル・ツァーネ(BNE004260)は、ニコニコしている。 「お、おやすいごよう……だよ……ね?」 いえす。おふこーす。 りべりすたなら、りっぱにいってかえれます。 ● 『ソリッドガール』アンナ・クロストン(BNE001816)は、柔らかな微笑を浮かべていた。 「鉄火場に立っている自負はあるけど、最近は不動がお仕事のケースが増えてきました」 つまり、戦闘でても、忙しいのは口ばかりってことですね。 「前衛と同じ量食べてるとヤバイ」 作戦終わるのは大体深夜で24時間ファミレスに突っ込んでテーブルの上は大盛り。ええ、いい感じに蓄積されるんですよ、なにがとは言いませんけどね。 「丁度良く運動の機会なので、れっつちゃれんじ」 てへぺろ。 「それに、まあ。誰も倒さなくていい仕事って素晴らしいじゃない。たまには役得があってもいいわよね?」 お誕生日おめでとう。 ああ、なんて素敵な魔法の言葉。 ――なんて言えた二分前がひどく遠い過去のような気がしますが、仕様です! 建物の外階段を包むように作られた階段室。 重たい扉を開けると錆び臭い、カビ臭い、埃臭い、動物のトイレ臭い。 そんなえもいわれぬ空気の中、リベリスタを腐食した螺旋階段が待っていた。 「んっ、どうしたのだ青い顔なんぞして! なに(ピー)千段の階段など! スグだ! 行こう!」 『みんなのカイチョー』四十谷 義光(BNE004449)は、快活に笑った。 この手のタイプは、目からビームが出て、ターボエンジンもついてる。神秘関係なしで。 「準備体操もシッカリ! 万全を期す!」 義光に、新しい朝が来た。もちろん、第二まできっちりやるに決まっている。 「靴OK! 飲み物OK!」 悠里にも新しい朝が来た。安全靴にペットボトル! 「お祝いのクラッカーもOKですよ」 ロウがちゃんと持ってます。 登山の場合、先頭は副リーダー。以下、体力のない者から先に上らせ、殿はベテランというのが基本だが。 「じゃ、上ろう。僕は先頭をいくよ」 今日の悠里さん、輝いてる。 「まおは確実に階段に足を付けて登ります。何が何でも階段に足を付けて登りたいとまおは思いました。トーレスト様がしょんぼりしますから」 まおは、そういいつつももぞもぞして落ち着きない。面接着がないのが落ち着かないのだ。ああ、爪先がねっとりしない。 だけど、フェアプレイできちんと踏破してくる一番乗りさんをわくわくした気持ちで今でも待っているトーレストさんをがっかりさせるようなことがあってはならない。 「落ちるなよ、絶対に落ちるなよ、ですね。わかります!」 『戦姫』戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)さん、その認識は間違っています。 「とらは舞姫ちゃんの後ろにつけるよ♪」 「最後尾か、少なくとも後ろの方です」 ロウの笑顔がうさん臭い。 「リベリスタが転落する事はよもやありますまいが、念のために」 なんだろう。この安心できなさ加減。 「面接着持ちの身としては、命綱代わりと思って下さって結構です。いやいや決して――」 はい、ここから音量注意ですよ。 「後ろからなら女性陣の全力腿上げ見放題だぜ、やっふー!」 脳内暴露ありがとうございます! 「なんて微塵も思ってませんとも。カウンターに抵触したら出番チョッキンですからね♪」 ははは、そもそもそんな魅惑イベント起きない。 なぜなら、彼の前が『バットメード』エルフリーデ・バウムガルテン(BNE004081)さんだからだ。 黒地に白エプロンのメード午後服の長い長いスカートの裾をごく僅か上げ、背筋を真っ直ぐ伸ばしたまま、あごを斜め25度に上げ、つま先だけで音も立てずに歩く。 優雅なメードは、雇い主の誉れ。 そんなエルフリーデさんに、どじっこイベントなど起こりえない。 ではその前はどうかというと、アンナが木曜三時間目・体育だった。 具体的に言うと、下はジャージに上、体操服。胸のゼッケンに「クロストン」とカタカナで表記されているのがまじ女子高生だ。 通常的感覚からいくと色気もへったくれもない格好だが、ロウに特殊な趣味がないことを祈る。 ● 「ごめんなさい許して下さいお願いします簀巻きにされて芋虫状態だと登るの大変なんですYO」 「気にするな」 「一歩ずつっていうか、一匍匐ずつって感じなんで、膝とか腰が痛いんですYO」 「というか、私はそれで進んでる」 真ん中からちょい後ろの、智夫さんとアンナさんでした。 アンナは安全のため、智夫は脱走阻止の簀巻きのためやむを得ず、三点キープの匍匐前進で這い上がっている。 「がんばってー。特にナイチンゲールの人はきっと一着を目指してがんばってくれるってあたし信じてる」 アメリア・アルカディア(BNE004168)の目に、ハイライトはない。 今回はテンポを崩さないように体力尽きるまで一定ペースで上り続けるのがお仕事なのだ。 「さぽーとなのでかんそうできないそうです」 あたしも、ミスター・トーレストに「おめでとう」言いたかった。 「なのでかんそうできるひとをうしろからおいたてようとおもいます」 目がまじだ。 智夫がひいひい言いながら登り続けられるのはアメリアのおかげだ。 「でも脱走王後ろってまずいよねっ★ とら、ミニだし、うっかり悩殺しちゃったらどうしよっ♪」 「拙者、スカートには別に興味ないですしおすし」 こないだはいて任務行ったけどな。 「――智夫の人格の中では、ある意味オカマポジションな可能性とか、そういうのもあるかもしれない訳で……」 なんて意味ありげな視線を前方に送って見せたりして。 ちょっと精神的脱走したかっただけでしたと、後に脱走王は語る。 智夫の不運は、視線の先にいたのは悠里だけだったことだ。 彼は、拳を以ってでも貞操を貫く男だ。 「僕彼女いるし! Mr.Fとは違うんだ!」 ビビリは手すりがっちり握って、足を踏み外さないようにへっぴり腰で踏ん張りながらも、抗議はきっちりする。ところで、Mr.Fって誰ですか。 「ひゃっはー! 足がすべっちゃったー! とらちゃんに、ダイヴ☆」 悠里にびびった振りして、舞姫ととらがキャッキャウフフだ。 「きゃっきゃ♪ とらちゃんの羽根が、もっふもふでクッションだね! エアバッグいらずだよ。このもっふもふを、ラボで研究して世界平和に役立てるべき!」 今日も、MAI†HIMEは、絶好調です。 鉄製階段がぐらぐら揺れる。 「皆様まおがふんだところ弱くなってるからきをつけてくださいぃぁー」 今日面接着ないのを忘れて、穴だのヒビだのに躊躇なく足をおいて、階段のHP削っているのは誰だい。まおちゃんだよ。 「揺らさないでえええっ!?」 悠里の悲鳴。 (とても高い→怖い→意識が飛ぶ) 結果:落ちる。 「それじゃ、もいっかい、足を滑らせたフリで、ひゃっはぁぁぁぁあああ!?」 悠里にぶつかり、吹っ飛ぶ舞姫。 「――ふおお、とらちゃん余所見してるぅぅうううう」 「あ、ごめん。燃料系飲料ラッパ飲みしてた」 「とーらーちゃーあああああぁぁぁぁ……」 そして静寂。ゴッドスピード、舞姫! 君の笑い声を忘れない! 「ふぎゅっ」 悠里が、智夫の上でバウンドした。 「……怪我はないか!?」 「男なら、出番チョッキンもないですね」 義光とロウが、悠里をレスキュー。 「軽い冗談だったんですけど、みんな酷い……こんな状態で進んでると、マジそういう方面の余裕ないんですYO」 先は長いぞ、しっかりしろ。 ● 「ふう…あともう少しでございますね……」 リコルは、何気なく髪を撫でつけようとして硬直した。 「……リボンが。お気に入りのリボンがございません……」 リコルはそれまで抱いていた花束をトラに託した。 「申し訳ございませんが、皆様先に進んで下さいませ……!」 リコルは、立ち止まる。 「お嬢さまがお小遣いを貯めて贈って下さった誕生日プレゼントでございます。蔑ろには出来ません。どうぞ、ミスター・トーレストによろしくお伝え下さい」 それから、ほどなく、頭をぶつけたスピカは動かなくなった。 「どうか、わたしの代わりに……これを」 開くとバースデーソングの音楽が鳴るファンシーなカード。 「あたしはここまでだけど、あんたはのぼるのです。ナイチンゲールの人ー」 アメリアは、智夫をどやしつけ、その場にへたり込んだ。 ● 階段室の重たい鉄の扉を開けると、そこからは足首が埋まりそうなじゅうたんが敷かれていた。 急に世界が変わったかのような、柔らかな光。壁にかけられた控えめな絵画。 重たいマホガニーの扉を開けると、そこには安楽椅子に座った背の高い口ひげを生やし髪を後ろに撫で付けた白髪の老紳士がわざとらしいしぐさで本に目を落としている。 老眼鏡をはずし、リベリスタを見ると嬉しそうに微笑んだ。 無言で、何かを待っている。 「「「「ハッピー・バースデー、ミスター・トーレスト!」」」」 まおは、スピカのカードの伴奏でハッピー・バースデーを歌い上げる。 とらは、リコッタに託された花束片手に突進する。 リベリスタ達は大事に持ってきたクラッカーを次々打ち鳴らした。 とらとまおは、プレゼント! と、老紳士に手渡した。 『いやいや、君達。よく来てくれたね。たいへんだったろう』 そう言って、ミスター・トーレストは手を伸ばしてフィンガー・ベルを取る。 『お祝いにきてくれた君達、去年私が食べた内で一番美味しかったお菓子を一緒に食べようじゃないか――』 それが、毎年のごほうびだったのだろう。 ミスター・トーレストの空中庭園で、最高の景色と一緒に飛び切りのお菓子をいただく。 ちりんちりん。 フィンガー・ベルに呼ばれてやってきたのは、メイド長ではなくお迎えの天使だった。 天使に手をとられて微笑むミスター・トーレストが、どんどん空気に融けていく。 「あ゛っ――……」 もふもふし足りないとらは、頓狂な声を上げた。 (いあ、爺は幸せに逝ったんだ笑顔で見送ろう) クラッカーの余韻の中、この部屋のありし日の風景がどんどん色あせていく中、義光は、実際に生きている彼のためにここまで上がってきた者達のことを考える。 (とびきりのプレゼントと、彼の笑顔。これが得られるのならば、容易いものだろな) 「せ、拙者だって、空気読むんだからねっ」 床に転がる智夫は、なぜかツンデレ風味だ。 悠里は祈る。 (彼が幸せに包まれて天国にいけますように) 「のっぽさんの魂が、今度こそ安らぎますように」 ロウはそう言って、かぶっていた帽子を取った。 「……じゃあね。迷わずいってらっしゃい」 アンナの別れは、再会の約束のように聞こえる。 「……グッバイ、ミスター・トーレスト」 エルフリーデは、ミスター・トーレストの母国語で別れを告げた。 ● 大きな窓を開け放てば、すぐテラス。 「――さて、降りましょうか」 「はーい」 いそいそと、柵さえない端っこに行くリベリスタ。 「え? みんな飛び降りるの!?」 素っ頓狂な声を上げる悠里。 「ええ」 そっけなく答えたエルフリーデは、傘を広げ、スカート押さえると、皆に向かって優雅にお辞儀した。 「それではお先に。ごきげんよう」 世界的に有名な英国のナニーよろしく、ピシッと背筋を伸ばしたまま落下していく。 「っひょー★」 「さよーなーらーわぁぁぁぁ」 しっかり抱き合いながら、とらとまおはダイビング(落下制御付き) 「……一気に「駆け下り」ましょうか。壁面を」 ひゃっほーっ!! と、ロウが壁面を駆け下りていく。 「僕は飛行とかないから素直に階段で帰ろうかな……」 悠里は、誰に言うでもなくつぶやいた。 「うむ! ワシもそうする! お先に失礼するよ! それでは階段を一気にっ……ぐわああーッ!!」 義光の悲鳴がこだまする。 行きでさんざん手すりだのリベリスタだのが落下し、もうやめて階段のHPはとっくに0よ。状態。 そして、今。とっても重たい系メタルフレームがおっこっていった。 「……はっ!? 私、移動手段一切もってないっ!?」 今の今まで、ミスター・トーレスト昇天の余韻を噛み締めていたアンナはようやく現実を思い出す。 「――あはは。どうしようね」 悠里はうつろな笑い声を上げて、下を覗き込む。 エルフリーデととらとまおは、ゆっくりと落下中。 とらとまおは、きゃーきゃー言いながらなのでかなり騒々しいが。 ロウも壁を駆け下りている。 (とても高い→怖い→意識が飛ぶ) 結果:落ちる。 「そう何度も同じ落ちなんて許されるかー!!」 これで、アンナさん、結構すばやい。悠里がメタルフレーム系でなくてよかった。何とか、屋上に引きずり上げることに成功した。 十二人のリベリスタがいたってさ。四人が仕様で途中棄権。 一人が傘で、二人がゆっくり落ちて、一人は壁を歩いて、もう一人は階段を転げ落ちて行ったとさ。 残る二人が置いてけぼり――。 「ちょっとまて」 アンナが数えなおす。4+1+2+1+1+2=11。 誰か、足りない。 「――任務終了でござるYO。これほどいて欲しいでござるー」 ひよひよした声がする。コツコツとテラスに続くガラス戸に頭突きする――簀巻きの智夫。 「脱走なんて言うからこうなっちゃうのよ」 梱包を解かれつつも、智夫は唇を尖らせる。 「だって、翼の加護でひとっ飛びだと思ってたんでござるYO」 「「――それだ!」」 がしっと、智夫の手を握る二人。 「さあ、帰ろう。羽根生やして帰ろう。あなたと私は戦友よね」 「僕と智夫君も友達だ!」 「え、うん。あ、さっきのは軽い冗談――」 「もちろん、わかってるよ!」 智夫はよく事情を飲み込めないままに、詠唱を始める。 ひゃっほうと悠里は、ビルの端まで歩いていった。 「ボロボロになっても上って来てよかった。こんな幽霊なら大丈夫。今日は怖くなかった。こわ――」 いきなりばたんと閉まる扉。発光する天使のレリーフ。 (おばけ→怖い→意識が飛ぶ) 結果:落ちる 「悠里さーん!?」 「学習せんかー!」 アンナの怒号がこだました。 同じ頃。 「在りし日のビルヂングをてっぺんから綺麗にしてみたかったなあ。ピッカピカに磨いた壁とガラスを駆けあがって、朝日を拝むんです。きっと美しいですよ」 壁面を駆け下りるロウが、ふと違和感を感じ、ビルヂングの中を覗き込んだ。 在りし日のビルヂングがそこにあった。 ぴかぴかの壁、窓、中で楽しげに働く人々。 光が溢れて、すぐに消えた。 「――ほら、思ったとおりだった」 神秘現象だが、今日は大目に見てもいい。誕生日だし。 空の向こうに天使が消えていく。お祝いの花束を胸に抱いた老紳士と彼が愛したビルヂングの魂を連れて。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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