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騙りの愛情、偏りの愛情

 ――世界は幸福。人は自らのそれを盲目的に信じ、疑うことなどしやしない。


 ――……ああ、明日はどんな服を着ていこうかしら。

 呟くのは一人の女。
 若干、過ぎた細身と血色の良くない顔が、見る人によれば病人とも取れる。
 女は長い髪を揺らしながら、愛する彼の為にと、服も髪も化粧も、人並み以上に念を入れて選んでいた。

 ――清楚な服が良いと、暖かな装飾が良いと、貴方はそう言ってくれたわよね。
 ――ああ、でも、最近はそうでもないのかしら?

 女は歌う。独白のように。
 女は述べる。歌のように。
 呟く言葉は甘やかな恋人のそればかり。それは彼女が金でも物でも得られなかった幸せのカタチを見つけ、手に入れた証明。
 くすくす、くすくす。女は笑いながらクローゼットを開いて、更なる服を探そうとする。
 其処には、服と一緒に幾つかの写真が有った。
 平凡な男女二人が映された写真だ。二人のうち、女性は写真ごとに、容貌も服装もその気配すら変化しているが……その皆が皆、男の奴隷のように、壊れたような笑顔を浮かべて彼につき従ってる。

 ――二ヶ月前の貴方は派手な服が似合うと言っていたわね。
 ――三週間前の貴方は可愛らしいセミロングが良いと言っていたかしら?
 ――十日前の貴方は和装がしっくり来そう、なんて言ってたっけ。

 ……そう、要するに、『彼女ら』は『彼女』であったということ。
 女は呟く。女は囁く。
 自身に語られた愛が、全の内の一という意味の騙られた愛だと理解出来ない彼女は、笑いながら写真を覗く。
 其処から手に取った一枚は、自分とは似ても似つかぬ金髪の女性が、彼氏の手を取る姿。
 けれど、例え見目形が変わろうと、『自分』と彼氏のツーショットを見る彼女は、それはそれは嬉しそうに、キレイな笑顔を浮かべていた。


「……そう言う依頼」
 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)の説明を聞いて、リベリスタ達は重苦しいため息をつく。
 何時の世にもこうした男はいるものだ。
 責任を問わずに、ただ気に入った相手を食い物にし続けた彼の――これは、一種の報いだろうか。
 かと言って、その報いを受けさせるまで、彼女を放置しておくことはできない。
「解ってるとは思うけど、改めて説明する。
 今回の敵はエリューション・ノーフェイス。敵は先ほど言ってた女性。フェーズは現在2よ」
「能力を教えてくれ」
 何処か気だるげに挙手するリベリスタ。
 仕方ないとも言える。彼女が壊れた理由は彼女自身にも有るとは言え、その命を奪うほど彼女が『悪』であろうかと問われれば、確実に否だ。自然、殺気も相応に削がれてしまう。
 イヴはそんな彼らを何の感情もこもっていない瞳で見返し――淡々と内容を告げる。
「まず、彼女自身のスペックは完全なスピード型。攻撃方法は近づいて爪でひっかいたり、噛みついたりと言ったものだけ。逆を言えば、それだけの為に特化されたポテンシャルはみんなの想像を上回るはず。
 そして、スキル。彼女の能力は基本的に模倣……コピーが主とされる。
 コピーを行う条件は、相手を数秒目視することか、相手の体の一部を自身の体に取り込むこと。それによって吸収された人のステータスを、彼女は何の動作を取ることもなく即座に反映することが出来る。コピーステータスからコピーステータスへの切り替えには、若干の時間を要するみたいだけどね。
 更に、彼女はコピーしたスキルについても、装備や種族と言ったあらゆる制限を無視して使用できる上、その威力や精度は元となったスキル以上の効果を発揮する」
 予想を上回る手強さにリベリスタ達が唸っていると、イヴは「未だよ」と言って更なる解説を続けた。
「彼女は自分が追いつめられた際、自身のステータス面におけるコピー能力を封じることで、スキル面におけるコピー能力を強化し、模倣したスキルを複数混ぜ合わせて使用することが出来る。
 このスキルは原則的に威力、精度、バッドステータス等全てをそのまま加算したものである上、混合したスキルの中に複数、範囲対象となるスキルがあった場合、単体よりもそちらが優先されて貴方達を襲う。
 ……当然、それによって戦況が傾いたら、彼女はその隙に逃げようとするよ」
 簡単に言ってしまえば、必殺技同然のスキルをぶっ放し放題というわけだ。
 敵としては余りにも手強すぎる相手では有るが、当のイヴはそれに対して表情一つ変えはしない。
 薄情なわけではない。むしろその逆。
 彼女は信じているのだ。今ここにいるリベリスタ達が、必ずこのエリューションを倒してきてくれると。
「……場所は三高平市の外縁部にある公園内、彼女は其処で彼氏と待ち合わせしているわ。
 彼氏の方はこっちが手を回して暫く寄りつかないようにしておくから、存分にやって良いよ

 ――がんばってきてね」

 ありふれていながら、それ故に少し気恥ずかしい台詞をぽつりと呟き、少女は去っていくリベリスタ達の姿を見守っていた。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:田辺正彦  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2011年07月11日(月)23:57
STの田辺です。
以下、シナリオ詳細。

目的:
エリューションの討伐

場所:
三高平外縁部にある公園です。時間帯は夜にさしかかった頃。
今回皆さんに戦っていただくのは遊具などがある子供用スペースでなく、だだっ広い芝の広場となります。

敵:
エリューション。タイプはノーフェイスで、フェーズは2となります。
基本的な能力はOPに書いてありますので、そちらをご参照ください。



それでは、参加をお待ちしております。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
インヤンマスター
朱鷺島・雷音(BNE000003)
ナイトクリーク
星川・天乃(BNE000016)
ホーリーメイガス
カルナ・ラレンティーナ(BNE000562)
インヤンマスター
ユーヌ・結城・プロメース(BNE001086)
マグメイガス
綿雪・スピカ(BNE001104)
ソードミラージュ
神城・涼(BNE001343)
クロスイージス
キャプテン・ガガーリン(BNE002315)
ソードミラージュ
天城・真希菜・イングリッド(BNE002549)


 月天。世界は夜を歩く者に魔性を憑かせ、その在り方を狂わせてゆく。
 自己の身を売る娼婦、酒に溺れ、理性を失う男達、或いは――人の死すら、闇が覆うと信じる愚者達の目覚めを誘うほどに。
 それを思えば、此度の異形――エリューションは未だマシとも言えるだろうか。
(……そんなワケ、無いでしょう?)
 自己の内に湧いた微かなる疑問を、しかし『ジャガーノート』天城・真希菜・イングリッド
(BNE002549)は一笑に伏せる。
 仮に『彼女』が唯の人間なら、或いは普通の女性として戻る機会はあったのかもしれない。男の在り方を唯の浮気性と理解し、憤怒し、悲嘆し、諦めたのかもしれない。
 だが――なまじその男の我儘を叶え得るだけの力を持ってしまったが為に、男は溺れ、『彼女』は狂った。
 結果として生まれたモノは何か?
 外面を虚飾で塗り固め、真実の自分を見失い。
 その結果で得た想いの無価値に、気付きもしない――無様な無様な、白痴の化粧。
 引き剥がしてあげる。そう語るイングリッドには一片の容赦もない。
 或いは――それこそが今の『彼女』の救いになると、理解しているが為か。
「……騙るは姿。だがその力侮るべからず」
 その折。
 『地球・ビューティフル』キャプテン・ガガーリン(BNE002315)が、イングリッドに応えるかのように、小さな呟きを漏らす。……それがガガーリン自身に向けた言葉だとは、彼女も直ぐに気づいたが。
 地球(テラ)の加護、地球への想い。それらを自己の重きとして置く彼からすれば――やはり地球から与えられた唯一無二の祝福、自己という存在を偽り続ける『彼女』は、許せない存在なのだろうか。
 解らない。彼は敵への心を態度へと表さない。揺るぎなきは倒すという唯一つの姿勢。それが正しいと言うことも――解ってはいるのだが。
「上辺をなぞるだけの……コピーか。
 まるで内面が伴わない、上辺だけの本性を現してるようだな?」
 空を見上げ、月を見る。『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)の表情は、戦いを前にしても変わりはなく。……同様に、それは心情に於いても。
 骨の髄まで愚かだと責めはしないと彼女は語った。人に恋することは人の常であり、故に時としてそれに溺れることもまた、否定すべき事象ではないと。
 だが、それが常となれば――やんぬるかな。最早末路など聞くには愚かしすぎる。
 倒すしかないのだ。そんなことは既に解っていたこと。
 握る銃派の冷たさが、彼女の心を表すように。迷いはなく――躊躇いもなく。
「…あわれなこ」
 対せば、躊躇いとは言わずとも……其処に何らかの想いを抱く者も存在する。
 『わたくさひめ』綿雪・スピカ(BNE001104)は、まさにその一人。他人を着飾り上辺を繕い、自覚する自分など疾うに亡いと気づかぬ『彼女』の道化振りを、嗤うでもなく忌むでもなく、唯哀れむ。
 其処に罪は在るのか? 問うて答えが出るならどれほど楽だったか。
 解ることは、唯、異界の極彩に染まった『彼女』の存在は、この世では罪であると言うことだけ。
「……止めてあげるわ。わたし達が、全力で」
 決意。それを眩しそうに見る『冥滅騎』神城・涼(BNE001343)は、少しばかりおどけた調子でスピカに言葉を返した。
「まあ、少し気が重いけれども。女の人が元々悪人、てワケでもないしな」
 現実の女性を知らぬ者の理想か、知らぬからこその俯瞰者の極言か。
 容姿は兎も角にしろ――醜い化け物となった『彼女』に対しても、軟派者の心は何処までも優しい。
「けれども、手を血に染めるのを見過ごすワケにもいかないしな。きっちりとやることはやらせてもらおうか」
 『彼女』に向ける切っ先が、せめて鈍にならぬよう、せめて触れるより先に落ちぬよう、二束三文の正義論を吐いて意気を整える。
 内に潜む煩悶を堪える彼の心に、未だ残る揺らぎは――小さくない。
「……『彼女』の愛は、本当に愛なのだろうか?」
 各々の意見を聞いた故に、だろうか。
 『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)が、小さく疑問を零した。
 糸しい糸しいと言う心。それはソレだけに全てを捧ぐ盲目ではなく、時に別のものを見て、時に
見方を変えて、また時に、少しばかり目を離すことも必要なモノではないだろうか。
 答えは出ない。当然だ。彼女は恋を知らぬ一人の少女なのだから。
 ――けれど。
「私自身は……恋をしたことはありませんから、ハッキリとは言えません。
 ですが、恋は外見にではなく内面に対するものだと信じております」
 推論は、出る。
 それは『シスター』カルナ・ラレンティーナ(BNE000562)の、頼りないものであろうと。
 愛とは、恋心とは、きっと内面に出でるもの。
 だから、それに見向きもしない男も、その男の言葉に唯々諾々と従い続け、自己の心が変容する様を気づかなかった『彼女』も、きっと、何か何処かが、間違っていた。――狂っていたのかもしれない。
 少女達が紡ぐ歌戀。両者は互いの意見を述べ合って、小さく苦笑し合った。
「何にせよ、私たちはただ、戦うだけ……。
 男の方は……その内、痛い目でも見れば、いい」
 二人の雰囲気を邪魔しないためか、戦いを前にした昂揚を口に出すことは控え、『ゼログラヴィティ』星川・天乃(BNE000016)が全員に呼びかけた。
 既に敵は近く、時は更に間近。各々の装備を構え、一同は公園の広場へとたどり着く。
 その中央には――彼の女性が、一人。

「あら、貴方達。こんな夜中にどうしたの?」


 返答は、宣戦を以て返される。
 速度を利とする相手に対して、先ず天乃が放ったのは、短剣に織り交ぜた気糸の群れ。
 剣閃と共に『彼女』に向かうそれらは、しかし届くより前に、『彼女』が飛び退いたことで失敗、消失する。
「レクイエムを届けに来たわ。ラヴ・ソングじゃなくて悪いけど、大人しく受け取りなさい」
「ごめんなさい。私が好きなのは甘やかなバラードなのよ」
 手向け代わりの言葉をあっさりと拒絶した『彼女』に対しても、イングリッドはふんと鼻を鳴らすだけ。
 たん、と言う足音が鳴る。瞬間、彼女は動き始めた。
 狙うは攪乱。他者を視認することで模倣を行う『彼女』に対して、視界を狂わせると言う意味。
 あら、と『彼女』は呟いた。視認による模倣は継続した注視が必要なのかは賭だったが、この反応を見る限り、ソレには勝ったらしい。
 最も、ソレが直截な勝敗を左右するかは――未だ解らないが。
「自らと他を偽る者よ! 真実はひとつ、この美しい地球(テラ)だ! 地球の代行者、キャプテン・ガガーリンが相手になろう!」
 蒼星の守護者が朗々と叫んだ。直後、十字の砲撃が『彼女』を襲う。
 直近からの攻撃は避けられるわけもない。そのはずの一撃すら、『彼女』は紙一重で直撃こそ避けた。
「真偽なんて構わないわ。私が私である限り、彼が喜ぶその限り」
 言って、彼女は動作を行わない。唯ガガーリンを見て――姿を変えるだけ。
「!」
 容貌が変わる、容姿が変わる。
 虚像の姿見は彼の姿をそのまま形取り、直後、ガガーリン本人と全く同じ十字の砲撃を撃ち放つ。
「ぬ……!」
 防御態勢。隔壁越しに受けた衝撃は彼の骨を軋ませるが、倒れるには至らない。
 逆を言えば、避けることには失敗したという意味。
 理性を損なう。世界が朱に染まる。濁流の如き怒りの感情は、彼の役目を放棄させ、『彼女』に対する攻撃へと向かわせた。
「選定を誤ったか……!」
 後衛への視線を封じるための『壁』が消えたことで、彼女らは『彼女』の視線に晒される。
 庇護を。そう考えるものの、既に後衛陣は散開していた。自身の脆さを敢えてコピーさせるべくカルナはガガーリンの庇護を抜け、スピカは攻撃の度に相手を捉えるべく、一定時ごとに敵に姿を見せている。
 庇えるのは雷音のみ。自身もまた、カルナ同様防御が薄い。模倣できるならしてみろ。そう口中に呟き、彼女は雷音を視線から庇う。
 だが、『彼女』はそれを気にも留めない。
 訝しむユーノ。その思惑に気づいたのか、『彼女』はくすりと笑って、言った。
「今は遠慮しておくわ? 此処のみんな、ナイフ一本で切れそうな薄い服ばっかりなんだもの」
 今まで一般人であった『彼女』からすれば、受ける攻撃はそのどれもが致命となりうる攻撃。ならば無闇矢鱈な模倣は避けるという慎重な思考は当然持っている。
「……その代わり」
 言うと同時に、ダン、と言う音が近くで響いた。
 瞬間、『彼女』と、その直ぐ横に赤が咲く。
「避けることに関しては、真似る価値がありそうだけど」
「――――――ッ!」
 貫いたのは、イングリッドの胸。
 貫かれたのは、『彼女』の臓腑。
 負傷の度合いが大きいのはどちらか、聞くまでもない。作為的な奇跡を用いて出血を抑えたイングリッドを、『彼女』はじっと見る。
 見る。
「來々! 三千世界の鴉よここに――」
 その瞬間を見逃さず、雷音もまた攻撃を仕掛けた。
 模倣に気を取られていたためか、イングリッドの姿を取った『彼女』はそれを避け損ねた。腹部の一撃に伴って出血は多量、しかし尚も倒れる気配は見あたらない。
 返す刀とばかりに薙いだ双爪を、受け止めたのは、涼。
「ったく、作戦通りにはいかねえか!」
 ギアの上昇。トップスピードを以て、幻影が、『彼女』の頬を裂いた。
 見えたのは赤い血肉、そして口腔。なまじ姿が人間じみているため、彼が抱く嫌悪感は何時ものそれより断然違う。
「悪く思うなよ! 見逃せる程余裕がないもんでな!」
「言葉を返すわ、お兄さん。彼が来るまであと少しなの」
 頬の割れた顔面を血に濡らしながら、爪を立てた『彼女』は笑って涼を抉る。
 肩口の灼熱、そして出血。生命の流出が意識の散逸を招く。堪えたのはカルナの癒しの涼風あってこそ。
 だが、被害はそれに留まらない。
「――――――『よし』」
「ッ!」
 声に気付いて見上げれば、そこに立つのは涼の姿を奪った『彼女』の姿。
 容姿や容貌、装備すらも模倣しきったその姿に、雷音が自身の想いを叩きつける。
「戦いまでコピーで――キミに真実の自分というものはあるのかい?」
「そんな物に興味がないわ。私の興味は彼が喜ぶことだけ」
 それを受け止める心さえもない『彼女』に、そんな言葉は意味を成さなかったが。


 剣も銃も魔法さえも綯い交ぜにした暴力的な攻勢は続く。『彼女』は時に変身を解き、時にそれぞれの攻撃に適した姿を再び模倣してやり過ごす。
 カルナの回復を受けたイングリッド、立ち直ったガガーリンによる模倣の阻害、ソレは確かに効果を及ぼすはずである。背後に立つ存在が、大人しく其処に隠れたままならば。
 命中の精度を高めるために、短時間とは言えど敢えて彼らの庇護を抜けたスピカ、自身の脆さを寧ろコピーさせようと隠れることを捨てたカルナ、それらを庇おうとする為に、結果として同様に姿をさらすユーノ。
 統一された意思のないちぐはぐの陣形、それが果たして単一の意志を以て、何の混乱も起こさず行動する彼女に何の意味を成すのか?
 戦闘が続く時間はおよそ一分と少し。その間に、彼女は雷音を除くほぼ全員をコピーし終えている。――当然、ソレまでの間に『彼女』が受けたダメージも、最早限界と言って良いが。
 変わる変わる人相の万華鏡。姿形に於いてのみ精緻に模するその姿を見ながら、スピカはころころと笑った。
「そうやって。着飾っていないと、気がすまないのね」
「ええ。本当に貴方達は良い『装飾品』ね。成熟には遠いけど、彼はきっとその程度の姿も愛してくれるわよ?」
「……」
 不快。不快だ。
 十数年を経て自己を形成してきた様々な要因。人があり物があり事象があり、それら全てを経験して成った自身が、唯一人の男を愛するための道具にしか使われない。
 侮辱と言って、未だ弱い。
 陵辱と言って――足りるかどうか。
 だから、スピカは最早他に無しと、餞の言葉を発したのだ。
「飾らない姿は、ときに美しいの。それを知らない貴方には、誰の心も射止めることは出来ないわ」
「言ってなさい、お嬢様。子供に愛を教えられるほど、私は無知じゃない」
 『彼女』の顔から、表情が消えた。
 瞬間――その手に、今までとは違う何かが形成される。
 出でたのは、十字を背負った白鴉の姿。
 それが何を意味するのか、鴉使いの雷音とユーノが、十字砲使いのガガーリンが、魔弾使いのスピカが、解らないはずもなかった。
「精々、自分たちの技で死になさい」
 飛翔、それを理解したとき、ガガーリンの身体は朱に染まっていた。
 唯の一撃。それだけで、体力の何割が削れただろうか。思わず膝さえ屈する彼の身体を、どうにか立ち直らせたのはカルナの涼風。
「頑張ってください、後もう少し――!」
 それを、さらに貫いた白鴉。
 戦闘に関する経験など無い『彼女』に、カルナが狙われたのは恐らく理由など無い。隙があったから、それだけの筈。
 だが例えそうだとしても、後衛の、しかも回復役が視界をストレートに通してしまう位置に在るというのは、間違いなく失敗だ。
 傾ぐ身体。元来の耐久力が低い分、一撃を食らえばそれが多大なるダメージとなることは必定。
 本来なら倒れるはずの運命をねじ曲げて堪えたカルナに、更なる攻撃が――
「――――――ッ!」
 襲う、より早く。
 天乃の糸が、『彼女』の腕を捉えた。
「本当の、あなたは……そんなに、自信が無い? 中身も、外見も」
「いいえ? けれど付ければ見栄えが良くなる物を、付けない道理が何処にあるの?」
 衣類、ないし装飾品、彼女にとって人間の容姿はそれだけの価値しかない。
 ねじ曲がっている。だがそんなことは最初から解っていたこと。
 気糸の拘束を解こうとする『彼女』と、天乃の膂力が拮抗する。ぎりぎり、ぎしぎし、気糸が音を立ててその限界を告げている。
 解けるに要するはおよそ十秒にも満たない。
 だが、それで十分だった。
 既に『彼女』の姿は瀕死と言って良い。腹部と顔面の流血。飛び交った魔弾の直撃、速度を恃みとする『彼女』に対する積み重ねは、間違いなくリベリスタ達の勝利へのファクターである。
「私は早く貴方達を倒さなければいけないの」
 イングリッドの双短剣が、『彼女』の胸を裂く。
「今日はとても楽しいところに連れて行ってくれると言っていたわ」
 涼の小太刀が、『彼女』の肺腑を貫く。
「夕食の場所も決めてあるんですって」
 スピカの魔弾が、『彼女』の両足を吹き飛ばす。
「そうして、最後に彼の家で愛を交えるの。最高、で、しょ――?」
 そして、雷音の鴉が、『彼女』の喉を食いちぎった。
 倒れる身体。手折れる身体。
 偏りの愛情に溺れたまま、『彼女』は笑顔で、命を失した。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
田辺です。相談お疲れ様でした。
個々の心情が余りにも上手すぎて、心情描写と戦闘描写のバランスにかなり悩みました。
次回以降、皆さんの相談、プレイングに期待しております。
本シナリオのご参加、本当に有難う御座いました。