● 「りーかーちゃーん」 ふらふら、と足を揺らしながら『偏屈少女』は拗ねた様に友人を呼んだ。 ビオレータと呼ばれた少女が利佳子利佳子と呼び続けるのだ。和服を纏う女の裾をついついと引っ張る少女の手にはバールが握られている。其れも、血に濡れたものだ。 「ビオの好みがいないの。ふふふーふー」 「ビオレータの好みのタイプを言ってみなさい。それから考えるのです。あまりいませんよ」 痛めつけて甚振っても死なない人だなんて。 呆れ半分で続いていく『偏屈少女のお茶会』。茶菓子は彼女らにとっては甘くも無い唯の手慰めであった。一般人を殺した所で余りに楽しくなかった。たまたま拾ったリベリスタ組織の少女を連れてきたら此れがまた上玉だ。 「ねえ、りかちゃん、入江ちゃんが男だったら好きだったかもしれないのに」 ねえ、と地に伏せったままの少女へと視線を遣ってビオレータが優しく笑う。唇から零れ出るヴァンパイアの牙は彼女が嗤っている事を表していた。 「ねえ? 入江ちゃん」 優しい呼び掛けだった。そろそろと地に伏せた少女が顔をあげると同時、彼女の頭に一気にバールが振り下ろされた。ぐしゃり。今までに幾度、ビオレータは彼女へとバールを振り下ろしたのであろうか。振り下ろされるたびに少女が嘔吐く。恨みと恐怖を乗せた瞳が真っ直ぐにビオレータを見据えている。其れにさえ少女の背筋は震えた。彼女は裏野部だ。殺して殺して、殺し尽くして、嗚呼、それでも足りなくて。死なない程度に、殴れば、彼女は従ってくれるだろうか。 「やーっぱり、良い男っていないねえ」 ビオレータが小さく笑う。ファーストキスは己が認めた人に、と決めて居た者だから。素敵な茶菓子が現れなくちゃ、食べる気もしない。 「りかちゃん、お菓子一杯探しに行きましょうね? 入江ちゃんも、解ってるよね?」 ● 「『偏屈少女のお茶会』とか名乗っているらしいんだけど、チーム名かしらね」 首を傾げる『恋色エストント』月鍵・世恋(nBNE000234)は「裏野部です」と告げる。 「お茶会の主催はビオレータという少女と、利佳子と名乗る和服美人。後者は性別が不明よ。 アークにもお茶会の招待が来たわけなのだけれど、彼女ら『偏屈少女』は『お菓子の様な可愛くて素敵な殺人』をする事を目指して動いているわ。 ……ビオレータは自分が殺しても殺しても死なない様な男性を探し求めてお茶会を開いている。『茶菓子』こと一般人を虐殺する事を楽しむという目的もあるみたいだけれどね」 趣味が悪いと唇を噛む世恋にリベリスタも頷くしかない。 普通のお茶会であればそれはどれ程良かったのだろうか。事実、彼女らのお茶会は『虐殺』パーティでしかない。裏野部らしく、人を殺して殺して、それに楽しみを見出す人種なのだろう。 「彼女らのお茶会の会場は薔薇園の迷路よ。招かれている一般人は三十人。今回、お願いしたいのは被害を最低限にして、裏野部フィクサード達を撃退して欲しい。 全員を護れ、とは言えない。けれど、半数を守り切って欲しいの」 ぎゅ、と手を組み合わせ、祈る様に云う世恋は不安げな眼差しをリベリスタに向けた。 「迷路の地図は此方。出入り口は4つ。一般人は散開している上に広いから苦労すると思う。 挙句の果てにはビオレータはフォーチュナを連れて居るわ。入江と言う名前のフォーチュナ。彼女は甚振られた結果、ビオレータに上手い事使われているんだけれど……彼女の場所は迷路の一番奥の広場。 彼女が一般人の場所を掴むことで、其れがビオレータや利佳子に伝えられるの」 先に彼女から通信機器を奪ってしまえば、敵の数は少なめであるために救う事が出来る可能性が大幅に上昇する。 「入江は元はリベリスタよ。悪い子ではない筈だけれど、今は協力しているという背景があるわ。 彼女の処遇については皆に任せるけれど、どうか、罪なき人達を救ってきてね?」 どうぞよろしく、と頭を下げて、世恋はリベリスタを見送った。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:椿しいな | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年05月20日(月)22:44 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 白薔薇の咲いている迷路の入り口で首を傾げて笑う『殺人鬼』熾喜多 葬識(BNE003492)は逸脱者ノススメを手に小さく欠伸を噛み殺す。 「白い薔薇は白いから綺麗なのにね」 「無理に血に染める等、美しさの欠片もないのぅ」 唇から零れる牙が『赤』を好み、己の養分になり得る事を『陰陽狂』宵咲 瑠琵(BNE000129)は知っていた。知りながらもその『赤』を拒絶するのは自分自身を犠牲にする意図が無いからだ。 「人助けと行くかの。お茶会を叩き潰してやろう」 「OK☆ お菓子の様な殺人なんてよく分かんないけどね。さあ、行こうか?」 リベリスタ達は其々地図を手にし、迷路内を3×3に区切り、1から9にブロック分けした彼等は4つの入り口から其々入っていく。内部は混雑している為に他ブロックに跨る可能性も否めないが其処は地図を頼りに何とかカヴァーしていた。 絡み合う蔦、咲き誇る白薔薇を見つめながら綺麗だと口にした『スウィートデス』鳳 黎子(BNE003921)の表情は優れない。言葉とは裏腹に、この場での『お茶会』は彼女にとって下らないものでしかないのだから。 「思い付きや暇つぶし。そんな本当に下らない鬼ごっこなんて趣味じゃないですから」 「けど、小生は鬼ごっこ好きだよ。なんてったって小生はこう見えても甘党なんだ」 暇潰しには丁度良い。鰐の牙が唇から覗き、餌を求める様に鈍く光る。葬識や瑠琵が入った出口の直線上、逆方向から足を踏み入れた黎子と『続・人間失格』紅涙・いりす(BNE004136)は其々探索を行っていく。耳にする音が、物音をしっかりと感知する。なりきり☆警官セットを見に纏った黎子は周囲の一般人誘導にも気を緩めては居なかった。 歩むたびに苛立つのは己の性であるのか。『墓掘』ランディ・益母(BNE001403)は一生懸命に周辺を見回す『アメジスト・ワーク』エフェメラ・ノイン(BNE004345)と敵を探して居た。ランディの苛立ちはこの茶会の主催者へ向けられている。裏野部の『偏屈少女』達。趣味の悪い敵に招かれるのは彼等にとって不愉快だ。 「何でボトムの人たちって人同士で殺し合うのかな……? ボクには良く分かんない」 「裏野部ってのはそう言うもんだ。だから言ってやればいい、お招きドーゾってな」 ふるりとエフェメラの背筋が震えた。花々に聞きながら進む彼女の目の前でへたり込む一般人が存在する。予め用意した地図のコピーを渡し、しゃがみこんだ彼女の姿はボトムチャンネルの人間と大差はない。幻視を使用した彼女は座り込み「此れを見て、そうしたら帰れるから」と囁いた。 震え、腰を抜かした一般人を横目に、戦いの気配が強く鳴る事にランディは気付いていた。 「……さぁ、今度は逃がさないぜ。俺は執念深いんだ」 目の前に現れた裏野部のフィクサードを見据え、裏野部よりも凶悪な人相を晒したランディの唇が緩んだ。 ● 絡む蔦。行く手を手さぐりで探す少女へと白薔薇があっち、あっちと囁いた。 「夏栖斗さん、次はあっちだと薔薇が言っている」 「有難う、ヘンリエッタ。一人でも多く助けよう。行こうか」 一歩一歩、確かめながら進む『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)に頷いて、白薔薇に礼を告げた『金雀枝』ヘンリエッタ・マリア(BNE004330)の表情に浮かぶのは緊張であった。 血の臭いが何処かから漂う事に夏栖斗は表情を顰めずには居られない。4箇所の入り口其々から潜入を開始した彼等は定期的な連絡を取り合いながら、進んでいく。 ふと、明るい声音が幻想纏いを通して定期連絡を運んでくる。続いて聞えた高く甘い少女の声音は瑠琵のものだろう。彼等は入江と言う少女の居場所を把握した。裏野部のナビゲーターとなっているフォーチュナ自体を掌握してしまえば、この戦いではより優位になるのだ。 居場所は彼等の行きつくラストの場所。入り組んだ最奥。彼等が「5」と宛がったポイントだ。その場所のベンチに倒れ込んだ入江の保護に向かうと歩みを速める夏栖斗にはっ、と顔を上げた様にヘンリエッタが「夏栖斗さん」と名を呼んだ。何処か男勝りな雰囲気を持った少女は魔弓を引き、その弓と共に己の連れるフィアキィ――シシィを舞い踊る氷精と化した。 「折角な綺麗な白薔薇を血に染められるのは哀しい。オレはそれよりももっと、誰かが死ぬことが嫌いだよ」 「血生臭いお茶会へのご招待どーも。所で、ビオレータちゃん知らない? 僕らなら彼女の『好みのタイプ』かもしれないよ? こんな血色薔薇の咲く場所、好みじゃないけどね!」 ゆったりと笑った夏栖斗の炎牙がフィクサードの剣を受け止める。身体を捻り上げる様に、その下から差し入れる炎顎。真っ直ぐに突き出すソレは破壊的な気を叩きこむ。無防備な腹を叩きつけるソレに嘔吐くフィクサードは緩やかに笑い、強引に踏み込んだ。気合を込めた打ちこみに、夏栖斗の足が滑ると同時、ヘンリエッタへと薔薇が『その向こうに人がいるわ』と囁いた。 「夏栖斗さん!」 地面を蹴り上げ、裏野部の体を飛び越える。構えたままの炎牙が剣を振るうフィクサードを受け流す。頭上を越えた夏栖斗の背で座り込む少女は震えている。裏野部のフィクサードがにぃ、と笑う。入りこんだ迷路の中、その奥でも同じ様な戦闘が発生している事にヘンリエッタは気付き、弓をぎゅ、と握りしめた。 入江というフォーチュナについて瑠琵とて同情しない訳では居なかった。身も心も矜持も己の信念を曲げ、悪事にその身を陥れた事に少女が後悔していないとも思わない。失望を感じているとも思った。 握りしめた天元・七星公主が魔力を内包する。葬識のナビゲーションの元、不意打ちを行うことでフィクサード達の中を越える事ができて居た瑠琵や葬識は一般人と出会うたびに地図を配っていく。 何も分からずに迷路の中、周囲を見回して居た一般人に首切り鋏を手にした『お茶目な殺人鬼』がまるでパーティの余興であるかの如き振る舞いで「お嬢さん」と微笑んだ。 「この迷路は人生の迷い路。今回はサービスしてあげる☆ スタート地点でもゴール扱いって怖いよね?」 「……え、ええ」 「お嬢さんは早くお逃げ? 鬼は首斬り職人だ。早く逃げれば生き残れるよ?」 錆つく赤に彩られた刃先を晒しゆったりと笑った葬識に少女は笑いながら、走りゆく。尤も、その出口までの道には『死者』が赤く花を彩っているのだが―― 「全く以って呑気じゃの。さあ、行こう。わらわも少し腹が減ったのでな」 くつくつと笑みを浮かべる瑠琵にそうだね、と笑う葬識。或る意味で、狂気に染まりこんだ二人は誰よりも早く中央を目指して居た。 彼等の声は入江に届いている。掌握した指揮系統。何処に誰が居るのかを少しずつでも把握できる事ができ、その情報をナビゲーションする二人により、リベリスタ側が進み易くなったことには違いは無かった。 戦闘に手間取っていた訳ではない。無論、一般人を救うことにも気を使わない訳では無かった。グレイヴディガー・ツヴァイを振るうたびに、目の前で攻勢を強めるフィクサードに舌打ちを零す。 「で? お前らは知ってんだろ? 俺が用事があるのは主催の方でね。いい女が奥に居るってなら行かねぇ訳にはいかねぇだろ!」 「いい女がメインディッシュなら添え物もキチンと食べてって貰わなきゃいけないね!」 「生憎だけどボクにはそんな趣味、ないんだよ! キィ、行くよ!」 ぎゅ、と握りしめた魔弓。周囲を飛ぶキィと名付けたフィアキィの励ましを聞きながら矢を放つ。突き刺さるソレに笑うフィクサードは闘争の塊だ。けたけたと笑う彼に向って踏み込むままに斧を振り下ろす。 一閃する様に振り下ろされる斧を受け止める事が出来ないフィクサードが吐き出す銃弾がランディの腕を抉る。だが、彼は掠り傷だと言う様に笑っていた。 『交戦中ですか? ――どうやらお先に頂いちゃいますけど』 幻想纏いを通じて聞こえた声には黎子の物であった。緩やかに笑う彼女はバトルドレスを揺らし、双子の月を握り直す。赤と黒。両方の三日月を回すたびに擬似的な赤い月を作り出す様に、薔薇園を彩った。 運命のルーレット。球を生じながら、黎子は目の前に立っている着物の少女を見据えて柔らかく微笑む。 「別に会いたくはなかったですけど、私の不運と悪運を分けてあげますよう」 「小生は逆に会いたかったよ。『お菓子の様な可愛くて素敵な殺人』。そいつはおもしろいと思ってね」 同意いただき感謝ですと柔らかく微笑む彼女にいりすは美味しそうだと笑った。己が満たされぬ事を知っていた。己が、誰よりも彼女を捕食する事を望んでいる事を知っていた。 「けどさ、『これ』は違うんじゃない? まぁ、お互い求めるモノは簡単にゃ手に入らないって事だろうが」 小生が、好きになったら皆死んでいくんでね。どんな良い女でも、強い女でも必ず。 嫌なジンクスで嫌な人生だと笑ういりすに黎子は目を伏せて、その運命をなぞる様に魔力のダイスを振るった。 ● 「大丈夫? なんだか、ちょっとトラブル起きたみたい。残念だけど帰った方がいいかも」 息を切らし、傷だらけ。浅く息を吐き続ける夏栖斗の言葉に絶句しながら頷く一般人は地図をもとに走っていく。何か非日常に足を突っ込んでしまった事は夏栖斗やヘンリエッタの仕草や雰囲気から分かり切っていた。 「あ、あの……血が……」 「ああ、大丈夫。オレ達が『危険』の足止めをする。だから君は早く脱出して」 その言葉に次いで、ヘンリエッタが曲がり角に行きついた時、薔薇が彼女へと語りかける。 危ないよ、と囁くソレにヘンリエッタが弓を構えた。周囲をシシィが心配そうに飛び交った。 「なーんだ、誰かがビオの楽しいお茶会を壊してるって思ったら……リベリスタかぁ」 ぴたり、と足をとめたその時、影になって居た場所にぼんやりと少女が立って居る。黒い学生服、長い髪。鮮やかな瞳を細めて、笑う彼女を視界に入れ、逃げる一般人をその彼女の視線から隠しながら夏栖斗はぶん、とトンファーを振るった。 「ご機嫌麗しゅう、ビオレータちゃん。今日のお茶会にはアークも飛び入り参加はOK? なかなか死なない自信はあるよ? 甚振られる趣味はないけどね!」 「大丈夫、趣味になくても直ぐにヨくしてあげるってのがビオの趣味なの。んーふふふー」 甘ったるい声はまるで砂糖菓子を想わせた。血の色の白薔薇は趣味じゃない。手の甲で血を拭い、真っ直ぐに少女の元へと飛び込む夏栖斗を避ける様に少女は重い一撃を彼へと振るう。 その彼女の一撃を喰いとめたのは逆方向から辿りついたランディであった。斧が彼女の体に狙いを定めている。一度、貫く其れにビオレータは闘争の気配だとくすくすと笑った。 「おっと、いい女に甚振られるのは悪くねーが、俺ぁ攻める方が好きなんだよ!」 「そーゆーのも悪くないけど、ビオも苛めたい方なの。苛めたいならりかちゃんを苛めてらっしゃい!」 ね、と笑った少女の学生服の裾が破れる。真っ直ぐと身体を貫く衝撃にもビオレータは笑っていた。支援するエフェメラに狙いを定めるビオレータに彼女が痛みを堪え、微量ながら回復を施していく。 避ける事が得意でない彼女と対面していたヘンリエッタとて、運命を一度は支払っていた。 裏野部のフィクサードとの戦闘は幾度も行われる。蓄積する其れに、耐えきる事は未だ難しかったのであろう。人数が少ない戦闘では前衛後衛はあまり器用していなかった。きり、と引いた弓。励ますフィアキィに緩く笑ってヘンリエッタがエフェメラと呼んだ。支援を行う友人が頷く。 「キィ!」「シシィ!」 同時に呼んだフィアキィが彼女らの声に合わせて飛び交った。 癒しを齎す様に、少女達を支援するソレ。前線で戦う夏栖斗が炎牙でビオレータを受け止めて、目線を上げる。ビオレータのバールが曲がる。折れそうになる其れをもう一度、夏栖斗の腹を横殴りにする。 「ほら! 痛い? 素敵でしょ! キャハハッ! ビオ、もっと苛めたい!」 「苛められるままで終ると思っちゃ大間違いだ!」 振り下ろされる斧が少女の眼前に迫る。弾ける様に一歩、下がる少女に狙いを定める様な炎牙。真っ直ぐに、その全てを越えて与えた攻撃にビオレータの視界が点滅する。 「残念だけどさ、僕らにはこのデートプランは合わないみたいだ」 「甚振られるのだって、偶には悪かねぇだろ。如何だよ? 『偏屈少女』ビオレータ」 その声に小さく笑う。悪くないわね、と笑った少女の体を貫く圧力が彼女の体を薔薇の壁へと押し付けた。 「ご褒美にビオがちゅーしてあげよっか? んふふ、うそ」 再度、繰り出された攻撃に少女の体が拉げる。赤く染まる白薔薇に、綺麗じゃないと零すヘンリエッタは其の侭、重力に沿って倒れていく少女の体を見降ろして、小さくため息をついた。 「入江、大丈夫かえ?」 座り込み、彼女へと回復を施した瑠琵は拘束を解き、し、と指を唇へと当てる。彼女が通信を使う事はもう必要ないだろう。影人を召喚し、中央地点で入江を庇うように指示した瑠琵の隣、血に飢えた殺人鬼がにたにたと笑っている。 「大丈夫、君をたすけてあげる。さあ、利佳子ちゃんはどーこ?」 「……あっち」 指差す場所へと葬識と瑠琵は頷きあって進む。薔薇の花弁が散る。白薔薇は未だその純潔を保っていた。だが、進むにつれて、段々と血の気配が濃くなっていく。 疼くその気配に葬識がくすくすと笑いながら闇を待とう。瑠琵の笑みも段々と濃くなった。遊びを楽しむ様な宵咲の女は曲がり角から飛び出して、指先を向ける。 「お茶会を叩き潰しに来て遣ったのじゃ」 「楽しいお茶会にドーモご招待有難う。でも虐殺じゃ美味しくないよね? お作法は習わなかった?」 暗黒の魔力を乗せた首切り鋏。不格好な其れが音を立てて開かれる。刃の先へと慌てて一般人を投げ込んだ利佳子に葬識は瑠琵へと「ねえ」と声を掛けた。 「半分生き残れば大丈夫なんだっけ?」 「無論、半分生き残れば大丈夫じゃ――やれやれ」 NOと応えても止まらない癖にと囁く声に笑った殺人鬼の刃が一般人をも越えて利佳子を傷つけた。目を剥く彼女は未だ少女でしかないのだろう。砂糖菓子の如き純情と幻想。 殺人鬼が人を殺さずに何と言うのか――! 「案外リベリスタも嫌な奴らばかりなんですね」 「私からすると貴女が一番嫌な女ですけどねえ」 炸裂させるダイス。爆発する花の中、淡く散る白薔薇に視線を移し、黎子が指先でダイスを弄ぶ。傷つく利佳子の足が一歩、下がる。 4人と1人。その力の差は歴然だった。だが、少女は止まらない。 その歩みをとめたのは、腹を空かせた捕食者であった。 濁ったはいいろが柔らかく細められる。愛情を浮かべた様に細められる其れにびくりと背筋を伸ばした利佳子が身構えた。一度出逢った時に、喰う事ができなかった事をいりすは覚えて居る。捕食本能がその身を苛む様だった。疼くのだ心が。酷く腹が鳴き声を上げる。 「美味しそうな匂いがすると思ったら、素敵なお嬢さんだ」 ぐい、と利佳子の腕を引いた。フィクサードの少女の体は予想に反して細い。 溶けて蕩けて消えて、舌先で溶ける砂糖の甘さに辟易する様に方を竦める。握りしめたリッパーズエッジがぐい、と少女の体を突き刺さる。唇が触れ合うスレスレ。牙が覗き緩やかに笑った。 「小生とちゅーした子って100%死ぬからな。小生が好きになると大体死んじゃう。君はどうだい――」 「生憎、其れを決めるのは皆さんの様ですけれど……私、死にたくないんですよ」 柔らかく笑った彼女の首を狙った鋏が着物を切り裂く。肩を其の侭スライスする様なソレに笑みを浮かべた利佳子の表情も曇っていく。 殺人鬼と裏野部。性質が似ていると利佳子は想う。彼を引きこむ事が出来ればどれだけ楽であるのか。嗚呼、けれど葬識の好みでは無いティーパーティに彼は興味は無かった。 「ね、ねえ、あなた、私と組めばいいじゃない? 素敵なお茶会が楽しめるわよ!」 「俺様ちゃん、君達のお茶会すきじゃないんだ。大事な命だよ? 一つ一つ、丁寧に、ねえ?」 笑う声に、たじろぐ『偏屈少女』。幻想纏いを通じ、ビオレータを撃破したという声が聞こえた時に、背を向ける少女の行く先を黎子が塞ぐ。前方後方共に囲われた状況で唇を噛む彼女が真っ直ぐにナイフを黎子は突き立てる。 「其処を、どきなさい!」 「やですよぅ? 退いたら居なくなっちゃうでしょ?」 黎子の双子の月が運命を占った。赤か黒か。そのどちらであれど待ち望むものはバッドエンドであろうけれど。 「残念ながら、その行き先は死だけじゃ。お主のお茶会はわらわには合わん」 べ、と舌を出す瑠琵が撃ち出す符が不吉を告げる。同時に、ルーレットが示したハズレはお茶会の終わりを告げる。 甘ったるい匂いでは無い、血に塗れたその匂いの中、切迫したいりすが牙を覗かせて緩やかに笑って見せる。胸を抉るソレが心臓に到達し、その内部まで更に抉りとろうと真っ直ぐに突き立てられた。 唇から溢れる血がいりすへと掛かっても鰐は其れをどうとも思わない。ただの食事の途中でしかないのだから。 「ほら、御馳走様」 とすん、と音をして、力を喪う身体が、そのまま倒れていく。 倒れ切った少女の首を慣れ切った動作で跳ねて、葬識は詰まらないなあ、と小さく囁いた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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