●甘美なる世界 ふんわりとしたシフォンケーキ、しっとりとしたレモンタルト。 メープルシロップをたっぷりかけたパンケーキに、ベリーソースがけのふるふるプティング。 とろけるフォンダンショコラ、ホイップクリームを添えたクレープ。ティースタンドには色とりどりのマカロンや、さくさくのクッキー、果実を練り込んだスコーン――エトセトラ、エトセトラ。 円卓のテーブルに用意されたお菓子はどれも姫君の大好物。 淹れたての紅茶からは湯気が立ち昇り、やさしい香りを漂わせていた。 「今日のお茶会も実に素敵でございます。皆様のような方々とお茶が出来て、わたくしは光栄ですわ」 ケーキを口に運び、姫君は紅茶のカップを手にする。豪奢なドレスを身に纏った彼女の周囲には招待された一般人らしき客が座っていた。 だが――客人の様子は皆一様に妙だった。 「もう食べられない……」 「苦しい。駄目。甘い物なんて見たくない」 口元を押さえた顔面蒼白の少年、目の前に広がる世界から現実逃避する少女。それ以前に気を失っている青年など、目も当てられない状況だ。 確かに姫君の振舞うスウィーツは絶品だった。しかし、問題は一人分の量なのだ。 テーブルに並ぶ菓子は幾ら食べても減らず、減ったと思えば姫君が何処からか追加してきてしまう。テーブルのある空間からは何故か出ることが出来ず、客人達も既に限界だ。 「あら、皆様。粗相は駄目ですわよ。きちんと完食してくださいましね?」 姫君は彼等を嗜めるように笑顔を向ける。 だが、通りすがりに無理矢理招かれただけの客人達がこれほどの量を食べられるはずがない。食を進めようとしない人々を見渡した姫君。その顔は徐々に無表情へと変わっていき、そして――。 「あらあら、食べられないならば仕方がありません。死を以って償って頂くしかないですわね!」 次の瞬間。姫君の指先から神秘の力が発せられ、人々は跡形もなく消し飛んだ。 ●お茶会と姫君 「――という未来が視えたらしいのよ。アザーバイドって意味が分からないわ」 アークのブリーフィングルームにて。フォーチュナから伝え聞いた事を説明し、『ブライアローズ』ロザリンド・キャロル (nBNE000261)は困惑した表情を見せた。 彼女は通称『姫君』。 次元の穴から現れ、人々をお茶会に誘う異世界の存在だ。 ごく普通にお茶会を開いて楽しむだけならば良いのだが、姫君のそれは常軌を逸している。まずは何も無い場所に特殊なお茶会空間を作り出してしまうこと。そして、その近くを通りかかった者を無理矢理に空間に引き込む力を持っていること。更に一人に振る舞われる菓子類の量がものすごいということ。 最後に、菓子を完食できなければ問答無用で襲い掛かってくるということ。 「ね、凄いでしょ? まずどれから突っ込めば良いのかしらね……」 ロザリンドは常識では推し量れない姫君の行動を思い、頭を押さえた。 しかし、このまま放っておけば罪もない一般人が姫君のお茶会の餌食になってしまう。事件が起こらぬ内に自分達が赴き、姫君をどうにかしなければいけない。 「彼女が現れる場所はフォーチュナから聞いて分かっているわ。だから接触については心配しないで。問題があるとしたら……そう、解決方法なのよ」 彼女を元の世界に還す方法は大まかに分けてふたつ。 ひとつめは、お茶会の菓子をすべて平らげて満足してもらうこと。 ふたつめは、戦いを仕掛けて気絶させ、その間にバグホールに押し込んでしまうこと。 「実は振る舞われるお菓子は凄く美味しいらしいのよ。ちょっと興味はあるけれど……本当にひとりでは食べきれない量が出るから、穏便に解決するのは至難だと思ってね」 ロザリンドは個人的な感想を零しつつ、仲間に注意を呼び掛ける。 菓子を全部食べるとはいっても、味わわずに詰め込んだり、品の無い食べ方をすると姫君を怒らせてしまう。彼女が求めるものは優雅なお茶会であり、ただ菓子を消費するだけの時間などではないのだ。 お茶会で失敗すれば必然的に戦いになる。 それゆえに、とりあえずお茶会に挑戦してから戦闘に持ち込む心算でいても良いだろう。 「もちろん、最初から戦いを挑んでも問題はないわ。手っ取り早くお帰り頂くのも作戦だもの」 戦闘での姫君を侮ってはいけない。 可憐な外見をしていても様々な魔法を行使してくるらしい。また、用心しなければいけないのは彼女の傍に控えている執事の青年二人だ。お茶会では給仕に徹しているが、戦いになれば姫君を守るために動く。 どちらの能力も、この世界で言う上級レベルであるため油断は決してできない。 以上を踏まえ、二つの方法のどちらを選ぶかは皆の選択次第。 自分はそれに従うわ、と告げたロザリンドはお茶会と戦い両方への思いを強く抱く。 「甘いお菓子の所為で死人が出るなんて嫌だもの。私も頑張るから、どうぞよろしくね!」 少女の瞳は真っ直ぐに、リベリスタ達を見つめていた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:犬塚ひなこ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年05月29日(水)23:22 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 甘い香りに湯気立つ紅茶。色鮮やかにテーブルを飾る彩。 たくさんのお菓子とお姫様とのお茶会は、話だけを聞く分にはとても素敵なものだ。 だが、それが罪もない人々の死に続くものならば言語道断。わがままな異世界の姫君を元の世界に還すべく、『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)達はお茶会の空間へと踏み入った。 「あら、お客さまですのね。御機嫌よう」 「はじめまして、異界のお姫様。朱鷺島雷音だ。お招きいただき光栄だ」 今はまだ穏やかな物腰の姫君に笑みを向け、少女は制服のスカートの裾を摘んで会釈を返す。異界への共感覚を有した雷音の挨拶は、姫君にとっても快いものだったらしい。 全員が年頃の娘である面子を迎える姫君は、とても嬉しそうな微笑みを浮かべていた。 「ごきげんよう、姫君。本日はお招き頂けて光栄だわ」 『blanche』浅雛・淑子(BNE004204)も礼を返し、姫君と視線を交わしあう。彼女が身に纏うラズベリー色のクラシカルなワンピースはお茶会の雰囲気にも実に合っていた。ふわりと揺れるワンピースの色を姫君に褒められ、淑子はにこやかに礼を告げた。 「ほへー。すごいですねぇ……」 そんな中、用意されていた立派な食器や菓子の数々に、キンバレイ・ハルゼー(BNE004455)は圧倒されていた。今まで豪華なものになど縁がなかった小学生だ。これは食べて良いんですか、とキンバレイが問い、姫君がどうぞと答えれば、少女の瞳が心なしか輝く。 「初めまして。先ずはお茶会への招待ありがとうっ!」 『月奏』ルナ・グランツ(BNE004339)も姫君に明るい笑みを向け、もし良ければ名前を教えてもらえないかと願う。折角出会ったのだから、いつまでも“貴女”では互いに呼び辛いはずだ。 「私の名前は、ルナ。貴女のお名前は?」 「わたくしの名前ですか? ふふ、後で教えて差し上げますわ。お茶会が終わった後に、です」 くすりと笑んだ姫君は悪戯っぽく言う。 「言うなればご褒美という形かしら」 淑子は姫君の名前が聞ければ成功なのだと察し、聞ける事を楽しみにしていると告げ返した。 そして、『Clumsy thoughts』リッカ・ウインドフラウ(BNE004344)も興味津々にテーブルを見つめ、空いている席に腰掛ける。 ボトムはいろんな世界から、いろんなものが集まってくる。 残すことを由としない、もったいない精神というものがこの国にはあると聞いた。だが、この菓子を食べられなかった後に姫君が取る行動は、明らかにやりすぎの部類だ。 (――彼女の凶行は必ず止めて見せます!) リッカは心の中で決意を固めながら、手土産として持ってきたケーキを取り出す。 「これ、良かったら一緒にどうかと思って。ちゃんと人数分あるんですよ!」 ホームステイ先のパティシエの店で買ってきたそれは、テーブルの上にちょこんと置かれる。その機に合わせ、『月色の娘』ヘルガ・オルトリープ(BNE002365)も姫君へと贈り物を渡した。 「ここに並んでいるお菓子には遠く及ばないけれど、今日作ったお菓子があるの。よかったらおひめさまに食べてほしいのだけれど……いかがかしら?」 「まぁ、素敵ですこと。お心遣いに感謝致しますわ」 ヘルガが用意したのはボックスクッキーやモンブランなど。流れる穏やかな空気に、『ブライアローズ』ロザリンド・キャロル (nBNE000261)も口許を綻ばせた。 こうしているだけならば姫君はとても温厚に見え、とてもではないが殺戮を行うように見えない。きっと、お茶会を成功させれば穏やかなまま事を終わらせられるだろう。ヘルガはそっと意気込み、自分達の菓子がお茶会の一品として並べられていくのを見守った。 だが、これで良かったのだろうか。 給仕によって用意されていくお茶会の菓子は相当な量だ。そこへ更に持ち込みの物が入れば、完食までが少し遠くなってしまう。 否、姫君が喜んでいるから良いのか。少しばかり不安な考えを巡らせ、『BlessOfFireArms』エナーシア・ガトリング(BNE000422)は準備が整うのを待つ。 「……お茶会ねぇ。執事のように手配なら何度も遣ったことあるけど、何だか慣れないのだわ」 エナーシアが個人的な感想をぽつりと零し、これから先を憂う。 そうこうしているうちに全員のカップに紅茶が注がれてゆき――不思議なお茶会の幕は上がった。 ● テーブルに付き、まず雷音が手を伸ばしたのはスコーン。 紅茶の香りを楽しみながらも、終始上品さを心掛けようと少女は思う。気を付けるべき事は皿とフォークで音を立てないように丁寧に扱うということ。そして、作り手にも感謝する気持ちも大事だ。 「本当に美味しいのだ。パティシエールはそちらのお二人の御仁なのかな」 雷音は素直な感想を零し、ゆっくりと一つ一つを味わう。 淑子も口にした紅茶の芳しさに瞳を瞬かせた。予想以上の味に密かな感動を覚えながらも、淑子はマナーを破らないことを重視していく。 カップは右手で、ハンドルには指を通さない。 ケーキは尖った方から、スコーンは横に割ってから等など――。 淑子自身が知る基本のテーブルマナーは勿論のこと、姫君との会話も忘れない。 「素敵なカップね、お茶がいっそう美味しく頂けるよう」 「お褒めに与り光栄ですわ。うふふ」 姫君が機嫌良さそうに笑み、雷音も優雅な時間が流れていると胸中で安堵する。キンバレイは贅沢過ぎる現状に気持ちが追い付いていないらしく、どこかほわほわとしたままケーキを眺めていた。 そして、キンバレイは思いを呟く。 「給食以外でケーキを食べるのは7歳の時の誕生日以来です……。おとーさんとおかーさんが離婚してなくて、家族三人で……あ、でもいまのおとーさんとの生活に不満があるわけではないですよ? キンバレイ、おとーさん大好きですから!」 語られる身の上話は少しばかり切ない。 だが、姫君や仲間達はそれゆえに感動に打ち震えているキンバレイの姿に心を打たれそうになった。遠慮なく召し上がってくださいまし、と姫君が告げれば、少女はこくりと頷いた。 リッカもパンケーキを切り分け、口に運ぶ。 会話を交わしながら進むお茶会は開始から暫しの時間が経っている。普通ならばお茶菓子はそろそろ半分以下になっても良い頃合いなのだが、現時点でも菓子類は山盛り。小食なリッカは既に満腹気味だった。 (早めにギブアップしちゃいそうです……) 口には出さず、念じることで仲間に告げたリッカ。しかし、ヘルガはもう少し頑張ろうという旨の念を送り返してくる。リッカは小さく頷き、弱気になりそうな自分を奮い立たせた。 「わ、これも美味しいね! チョコレートがとろけて絶妙だよ」 「自慢の一品ですのよ。執事達が作る中でも絶品ですの」 フォンダンショコラを一皿平らげ、ルナは甘い口どけを堪能する。流石に量が多過ぎるのだが、用意されたお菓子は純粋に美味しい。少し辛くなってきた現状でも、ルナは今を楽しもうという想いを忘れずにいた。 何故なら、お茶会は互いに楽しむ気持ちがないと成立しない。 その気持ちは姫君にもちゃんと伝わっているようで、歓談はとても和やかだ。 「それなら、貴女はそのお菓子が一番お好きなのかしら?」 淑子が問えば、姫君はくすくすと笑った。 「決められないのですわ。何故なら、お菓子はすべてが至高のものでしょう?」 「一理あるわね。流石は姫君だわ」 さも当然のように返された言葉からは、本当に甘いものが好きなのだという姿勢が見て取れる。ロザリンドは興味深く頷き、納得する。 きっと、根本から悪いアザーバイドではないのだろう。ただ、この世界との倫理観が違うだけ。 エナーシアは冷静に分析しつつ、目の前の菓子を平らげていく。 元より大喰らいな彼女であるからして、自分の分を食べることには然程苦労はしないはずだ。だが、ちょっと困った問題があった。 「うぎぎ……。菓子ばかりで紅茶に手を付けてないのは、べ、別に熱くて飲めないからじゃ無いのですよ?」 哀しきかな猫舌。 否定するエナーシアではあったが、それも微笑ましい事柄だ。姫君も雷音やキンバレイと共に笑っており、機嫌を損ねるようなことは何もない。 「なんか紅茶を飲むと大人になったような感じがするのです!」 キンバレイも普段は食べられないご馳走や美味しい紅茶を前にして、とても幸せそうだ。 そうして、巡るお茶会はとても順調。 ヘルガは飲み物を挟むことで菓子を片付けて行き、このまま無事に解決できれば良いと願った。 食べる時はゆっくりと、おしゃべりや周囲の不思議な景色を楽しみながら、ヘルガは姫君と会話を続ける。 「おひめさまの服、素敵ね。他にも沢山あるの?」 「ええ、たくさんございます。それにしても、貴女のお洋服も愛らしいですわ」 ヘルガの着ている白のワンピースが気に入ったらしく、姫君は上機嫌だ。 菓子はやっと半分まで減った所か。エナーシアはマフィンを頬張りつつ、残りの分を計算してみた。 盲点ではあったが、実はこのお茶会に時間制限などない。いくら常人では食べきれぬ量があるといっても、とてつもなく時間を掛けさえすればクリア可能なのだ。 その事には淑子も気付いており、この流れならば事を荒げずに解決できる。その、はずだった。 ● だが――運命の時は残酷にも巡ってしまう。 (ごちそうさまでした……) フォークを置いたリッカが早々にギブアップの姿勢を示す。今の状態では限界だと感じ、元よりお茶会が失敗すると思っていた故に戦闘に持ち込む事を決意したのだ。そのことは仲間内だけのテレパスで告げられたのだが、キンバレイも駄目だと察してごちそうさま宣言をしてしまう。 「もう食べきれないのでごちそうさまします。美味しいものを食べさせてくれてありがとうございました」 礼を告げるキンバレイだったが、姫君の表情がみるみる怒りに染まっていく。 「駄目、いけないよ……!」 「あらまぁ、そんなに残すのですか。ならばお仕置きが必要ですわね」 ルナが慌てて弁明しようとするが、既に時遅し。 それまで上機嫌だった姫君が立ち上がり、執事達も戦いの姿勢を見せる。 何とかお茶会を続けたかった雷音だったが、こうなってしまっては応戦するしかあるまい。瞬時に武器を取り出した雷音達は戦闘態勢を整えた。 「申し訳ないが、そろそろ帰っていただく時間だ。お菓子の味はとても美味しかったのだ」 元より戦いの覚悟はしている。 どんな手段を使ってでもアザーバイドを還すのが自分達の任務なのだ。既に執事達は自分達の力を高め、姫君も魔術を行使する。エナーシアは小火器の銃口を差し向け、姫君を狙って銃弾を打ち放った。 「仕方ないのだわ。此方も全力で当たるしかないわね」 銃弾は敵となった姫君を打ち貫き、衝撃を与える。 しかし、相手はまったく怯まなかった。片方の執事が前に出た雷音を気糸で絡め、姫君も雷撃を紡ぐ。 「マナーを犯したならば、死を以て償って頂きますわ!」 「待って、私たちは……」 ――もっと、貴女とゆっくりお話がしたかった。 言葉にしかけた思いを飲み込み、ヘルガは唇を噛み締める。リッカやキンバレイ達に広がった雷の衝撃を癒すべく、ヘルガは詠唱で癒しの風を呼び寄せた。 気持ちは通じていると思っていた。穏やかに終わらせられるのだと信じたかった。 だが、今や互いは戦いの場に立っている。ルナは姫君へと一瞬だけ悲しげな瞳を向け、すぐに首を振った。何も此方が相手を殺してしまうわけではない。ただ、元の世界に還って貰えれば良いのだ。 「やっぱり戦うしかないんだね。――行くよっ!」 ルナが指先を差し向けると降り注ぐ火炎弾が炸裂する。姫君と執事に焔が宿り、補助効果を打ち消した。 そして、駆けた淑子が片方の執事を抑える。戦斧を振り上げ、一気に斬撃を見舞った淑子はその最中に、怒り狂った姫君に呼び掛けた。 「勿論マナーは大切よ。けれどそれ以上に、ホストもゲストも楽しい時間を過ごして、互いが気遣う事で気持ちの良いお茶会をつくる方がずっと大切じゃないかしら」 それを壊したのは、一体どちらだったのか。 こちらからすれば襲い掛かってくる姫君が平穏を壊したのだと思えるが、相手からすれば食べる事を放棄したリベリスタの方だと主張されるだろう。淑子は価値観の違いに歯噛みし、刃を振るい続ける。 ロザリンドも悔しげに頭を振り、魔術式を解き放つ。 周囲の魔力を取り込んだキンバレイも攻撃へと転じるが、姫君達の攻撃は容赦なく襲い掛かってきた。リッカも仲間に守りの力を施し、敵に語りかける。 「殺すのはやりすぎです! お茶会ってみんなで楽しむものじゃないんですか!」 「平伏しなさい。そして、自らの愚行を恥じるのですわ!」 「わ、どうしましょう」 キンバレイは激しい雷撃が迫ってくる現状に危機を感じた。姫君も自ら完食を諦めた者を聡く察知し、全体に広がる攻撃で以てあっという間にリッカを倒れさせる。それはただ、強いとしか言いようがなかった。 そして、攻防は幾度も巡り――。 ● リベリスタは果敢に戦い、それぞれが運命を引き寄せて耐えた。 エナーシア達の攻撃によって敵の体力も幾らかは削れており、ヘルガの癒しの力で持ち堪えることは出来ていた。しかし、既にキンバレイも倒れてしまっている。 「拙いのだわ。確実に押されているわ」 此方とて手を抜いている訳ではない。事実、エナーシアや雷音は執事相手に善戦していた。お茶会を重視しながらも、戦いへの心積もりも忘れてはいない。それはヘルガやルナ、淑子だって同じことだ。 それでも、仲間が倒れてしまっては戦力が足りない。 次々と見舞われる衝撃に耐え、淑子は向けた刃先から力を奪い取る。 「素敵なお茶会と出会いが、こんな風に終わってしまうのは悲しいわ。あなたもそう思わない?」 その際にも淑子は呼び掛け続けた。 先程まで会話をして、楽しい時間を過ごしていたのだ。望めば友人にだってなれたはず。淑子自身は拒む心算など無かった。だが、向こうは此方を拒んだ。 ルナは気力を消耗した仲間へフィアキィを使わせ、戦線を支える。 「お茶会って言うのは、お菓子を食べるだけのものじゃないよね。貴女になら分かるはずだよ」 「戯言ですわ」 懸命に言葉を投げかけるルナだったが、姫君は聞く耳すら持たなかった。癒しは此方が攻め手に出ている時ならば強い後押しとなるものだ。だが、押されている現状では更なる後手に回る行為となってしまう。 余裕ができた合間に姫君がルーンシールドを張り、守りをさらに強固にする。 「これ以上は好きにさせないのだ」 雷音はすぐさま動き、不吉な影で敵を覆い尽くした。何とか守護の力は打ち消すことが出来たが、その間に執事が気糸を放って仲間を絡め取る。 鋭い衝撃がエナーシアを抉り、後方に居たロザリンドごと穿った。 「皆さん、頑張ってください……!」 ヘルガが必死に癒しに回って仲間を支え続けようとしたが、回復はそれが最後。それ以上はもう、何も手が打てない状況にまで追い詰められていた。 そんな中で淑子と雷音の一撃によって執事が倒れ、僅かな機が此方に向く。 しかし、勝機はまったくと言っていいほど見えなかった。 ――やがて、幾許かの時が流れた戦場は静かになる。 お茶会の場だった其処には戦う力を失ったリベリスタ達が膝を突き、荒い息を吐いていた。気を失っている者もおり、完全なる敗北が彼女達の前に訪れていた。 「あらあら、此処までしても死なないなんて」 姫君はリベリスタ達を見回し、呆れたような溜息を吐く。 皆がしっかりと戦っていれば勝てる相手だったはずだ。この状況を招いたのはそれぞれの認識と戦闘への心掛けの相違。今や、仲間達には抵抗する気力すら残っていない。 このまま自分達は殺されてしまうのだろうか。雷音が覚悟を決めた時、姫君はふっと息を吐いた。 「興が乗りませんわ。仕方ありません、命までは奪わないでおいてあげます」 「え……?」 淑子が掠れた声で疑問を零すと、姫君は告げる。この温情は少しでも楽しい時間をくれた故なのだ、と。 あのお茶会は、決して無駄にはならなかった。エナーシアと雷音は安堵めいた思いを抱くが、自分達はこうして敗北してしまったのだ。ふたつの事実は、非常に複雑なものだった。 「この場から去りなさい」 そして、姫君の冷たい言葉が紡がれた瞬間、リベリスタの身体は空間の外に放り出された。 暫く振りに見た空の色は突き刺さるように眩しく、目に痛いほどだ。きっと、もう二度とあの空間には戻れないだろう。満身創痍の体を支えたヘルガは、暫しその場で放心していた。 「おひめさまはもしかして、寂しかったのかしら……」 「仲良くなって、お友達に……なりたかった、ね。……彼女の名前、何だったんだろう」 ルナも痛みを堪え、姫君を思う。 零れた言葉への答えを知る者はこの場にはいない。 甘く芳しい残り香すら今は物悲しく、敗北という事実はリベリスタ達に重く圧し掛かった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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