● ブリーフィングルームのモニターに映し出されたのは、どう見てもいなり寿司だった。 美味しそうと言えなくもないが、それが群れをなして空を飛んでいるのはどういう訳か。 いなり寿司の群れが、たまたま行く手に通りがかった不運な鳥を蹂躙する。 命尽きて墜落した鳥と大きさを対比すると、一体の全長はだいたい50cmくらいだろうか。 ――ふおおおおおおおおおおお……! 獲物を屠った巨大ないなり寿司の群れは、謎の共鳴音を発して宙を翔ける。 ● 「……はい、こいつらが今回の撃破目標です」 投げやりに言い切った『どうしようもない男』奥地 数史(nBNE000224)の顔には、はっきりと疲労の色が浮かんでいた。 これ以上の説明必要かな。もう帰っていいかな。そんな言葉を呑み込むようにして、彼は続ける。 「アザーバイド、識別名『おいなりさん』。いなり寿司そっくりだけど生き物です。 数は合計20体いて、空飛んで街の方に向かってきてる。 こいつらを上空で待ち受けて、残らず撃ち落とすのが今回の任務」 まあ、割とよくあるといえばよくある話である。敵のシュールさも含めて。 「そこそこ数が多い上、全力移動後でも攻撃が可能だ。 麻痺や混乱といった状態異常もあるから、何らかの対策がないと厄介だろうな。 あと、2体から4体で協力して攻撃することがあって、これは威力が段違いに高い。 敵の数が多いうちは、特に注意しないと一気に持っていかれる危険もある」 ここまで言い終えると、数史はいったん言葉を区切った。 遠い目をした後、諦めたように溜め息をついて説明を再開する。 「……で、こいつらはどういうわけか人の顔に向かって突撃する習性がある。 いなり寿司のくせに生温いというか人肌レベルの体温があって、何と言うか感触がすげぇ微妙。 そんなもんが頬擦りするみたいににじり寄って来て心身を折りにくるわけ」 慎重に言葉を選んでいるらしいフォーチュナの目が死んでるのは突っ込まない方が良いだろうか。 大方、『万華鏡(カレイド・システム)』の精度が良すぎて、その『心までもばっきり折られそうな微妙な感触(※控えめな表現)』とやらを一足先に体感してしまったとか、そんなところだと思うが。 「人によってはトラウマになりかねないんで、マジで気をつけて下さい……」 数史はそう言った後、忌まわしい記憶を頭から追い出すように天井を仰いだ。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:宮橋輝 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2013年05月23日(木)23:32 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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● 木々の間を抜けると、雲一つない空が見えた。 歓声を上げて蒼穹を翔ける『いとうさん』伊藤 サン(BNE004012)の背には、『Wiegenlied』雛宮 ひより(BNE004270)がもたらした小さな羽。 「メタフレでも飛べるなんて素晴らしい。ひよりさんありがとう!」 はしゃぐ伊藤と対照的に、自前の翼を操る『へっぽこぷー』メイ・リィ・ルゥ(BNE003539)は微妙に浮かない表情である。 (……ホント言うと、飛ぶのって嫌いなんだよね) 普段は幻視で隠している翼を、どうしても意識せざるを得ないから。自分が、人ではないものに思えてしまうから。 複雑な心境で体内のマナを活性化させるメイの傍らで、『百合色オートマトン』卯月 水華(BNE004521)が集中する。 彼女にとっては、今回がアークでの初仕事だ。無論、緊張はしているが―― 「やっぱり、可愛い女の子との依頼って良いものよね!」 と、気合が勝っていたりもする。動機は割と不純だが、何にしてもやる気があるのは良いことだ。 陣形を整えて戦いに備えるリベリスタの視界に、彼方から飛来する敵の姿が映る。 やや色が薄いお揚げに包まれた、巨大ないなり寿司――アザーバイド『おいなりさん』の群れ。 その威容を目の当たりにした伊藤が、思わず口を開いた。 「きn……」 ――おっと、そこまでだ。アレはいなり寿司です。OK? 「……おいなりさんですね。ハイ、どこからどう見てもおいなりさんですね。 い、今のは『きんにく王国』って言おうとしただけなんだからね」 ――はい、よくできました。 いきなり危険球スレスレの伊藤をよそに、『足らずの』晦 烏(BNE002858)が咥え煙草で呟く。 「恐るべきおいなりさん、まるで地獄のジェットトレインさながらだな」 ちなみに、今回は嫌煙家のメンバーが含まれるため煙草に火は点けていない。周りに気配りが出来るのも、粋な大人の条件ということか。 「しかし、何て大きいんだ……!」 おいなりさんを凝視して、伊藤が息を呑む。あの、その言い方やめませんか。物凄く意味深に聞こえるから。 「……俺の華やかな依頼デビュー戦が異様な光景だよ」 目に映る状況を処理しきれずに呆然とする『金狐』鳴神 朔夜(BNE004446)の瞳からは、既に光が失われかけている。 気を落ち着かせようと狐の面の位置を直す少年の隣では、『八咫烏』雑賀 龍治(BNE002797)が瞼を閉じてこめかみを揉み解していた。 「確かに、この界隈では珍しくない話ではある。 何がどうなってこうなったのか全く分からん敵というのはな」 己に言い聞かせるが如く、溜め息まじりに呟く。愛用の火縄銃を握り締める彼の手は、微かに震えていた。 そう、色々な意味でアレでソレな敵は決して少なくはない。アークに長く所属していれば、一度や二度はこの手の敵に遭遇するものだが―― 「だからと言って、それを許容出来る訳ではない。いい加減にしろ……!」 カッと目を見開き、射殺すような視線を敵に向けて銃を構える龍治。正直すみませんでした。 そんな男性陣をよそに、女性陣の反応はというと。 「何と言うか、お腹が空きそうな相手ね……?」 おいなりさんに“S.N.S.”の銃口を向けつつ、至極まっとうな感想を述べる水華。 銀細工の鈴を連ねた“ゆめもりのすず”をしゃらり鳴らしたひよりが、いつもは眠たげな瞳に決意を湛えて言った。 「鳥さんや街のひと達が巻き込まれたらたいへんなの。 おいなりさんの進撃は、わたし達で喰い止めるの」 良識あふれるコメントをありがとうございます。ひよりさんマジ天使。妖精だけど。 脳の伝達処理を高めた『クオンタムデーモン』鳩目・ラプラース・あばた(BNE004018)が、『見えてはいけないものまで見える』神の目を通しておいなりさんを睥睨する。 「しかし、折角のおろしたてのスキルのお披露目がおいなりさん相手とは……」 新技の習得が間に合ったのは幸いだが、敵が敵なので素直に喜べない。 即座に気を取り直して、彼女は愛用の二丁拳銃を構えた。 「――まあよし。酢飯をぶちまけろ。ばら寿司になれ」 ちなみに、『ばら寿司』とは酢でしめたり、炊いたり焼いたりした山海の味覚を用いる岡山県を代表する寿司であるらしい。豆知識。 ● 空中に布陣したリベリスタを認めて、おいなりさんの群れが一斉に突っ込んでくる。 彼我の距離が20メートルに達したタイミングで、伊藤が機械の両腕に内蔵した5連砲を露にした。 「悪いおいなりさんは燃やさないといけないって脳内神託が来たので燃やします」 ――だからさ、意味深な台詞やめようよ。頼むから。 「妙な技を使われる前に、消し炭にしてくれるわ……!」 集中を研ぎ澄ませた龍治が、伊藤と呼吸を合わせて引金を絞る。 「スーパー弾丸の嵐レボリューションだ! ヒャッハー!」 大空に奔る無数の火線が、文字通り戦いの火蓋を切った。 続いて、フュリエの“姉妹”――『月奏』ルナ・グランツ(BNE004339)、『金雀枝』ヘンリエッタ・マリア(BNE004330)が動く。 「行くよ、ヘンリエッタちゃん!」 肩越しにかけられたルナの声に、黙って頷くヘンリエッタ。 敵陣に飛び込んだ2人のフィアキィが氷精となって舞い踊り、たちまち周辺のおいなりさんを凍てつかせた。 氷結を免れた10数体が、全速で間合いを詰める。 『わたしがおいなりさんだ』『わたしもおいなりさんだ』『いやいやわたしが』 ――喋りやがったよ、このいなり寿司もどき。 突っ込む間もなく、ウザ……喧しい連中はリベリスタの顔面ににじり寄って来た。 頬を撫でる生温かい感触が、何だかとても気色悪い。 思わず動きを止めてしまった仲間達を見て、ひよりが詠唱を響かせた。高位存在の力を具現化した癒しの息吹が麻痺を消し去り、皆の失われた体力を取り戻す。 「甘くておいしいおいなりさん。こりこりれんこんの入ったのが特に好きなの」 いなり寿司の好みを語るひよりの前で、朔夜がふるふると頭を横に振って体勢を立て直した。 「……うん、おいなりさん美味しいねんな」 虚空を蹴り、残像を纏ってレイピアを振るう。 「でも飛んでくるのはなんかちゃうねん、なんかおかしい!!」 現実の否定とともに繰り出された鋭い刺突が、次々においなりさんを穿った。孤立しないよう慎重に位置を調整しながら、メイが呟く。 「今回の敵って、エリューション化したおいなりさんじゃなくて、 見た目が似てるだけのアザーバイドなんだよね」 それなら流石に食べるわけにもいくまいと、彼女は迷わず積極攻勢に出た。 「墜ちちゃえー!」 厳然たる神気の閃光が、蒼穹を白く染め上げる。新型の村田式散弾銃“二五式・改”を携えた烏が、ぽつりと言った。 「……いやしかし、おいなりさんだけで良かったと言うべきなのか」 ブリーフィングルームのモニター映像を思い出しつつ、散弾でおいなりさんを狙い撃ちにしていく。気分は弾幕シューティングですね――と囁き、あばたが“シュレーディンガー”と“マクスウェル”を連射した。まあ、生憎ボムもレーザーも無いけれど。 「なるほど、足場が無いところで射撃するとこんな感じなのか」 宙に浮遊する感覚、銃の反動の影響。初めて経験する空中戦の全てを、余さず記憶していく。 いずれは、ボトム・チャンネルとラ・ル・カーナの双方に混乱をもたらしたミラーミス――『R-TYPE』とも戦う日が来るのだろう。今からあらゆるシチュエーションに通じておいて損は無い。 ――ふおおおおおおおおおおお……! リベリスタの猛攻を浴びたおいなりさんが、謎の共鳴音を響かせる。 それを耳にした瞬間、龍治は思わず全身を強張らせた。『フェンリル』として深化を果たした獣の本能が、これでもかと警鐘を鳴らしている。此処は危険だ、一刻も早く離れろ――と。 「だ、駄目だ、こんなものに惑わされてはいけない……!」 集中しろと己に言い聞かせ、インドラの火を落とす。雨の如き銃火に、『有象無象を焼き尽くす』伊藤の炎が加わった。 降り注ぐ神秘の弾丸を掻い潜るようにして、朔夜がレイピアで敵に攻撃を浴びせていく。 お返しとばかりに聞こえてきたのは、おいなりさんの合唱。 『わたしも』『わたしも』『わたしも』――『『『みんなおいなりさんだ』』』 口を揃えて襲いかかる彼らに群がられて、あばたが混乱に陥る。 「やめろ、顔に迫るのはやめるんだ。なするな。握って潰すぞ! ボムるぞ!」 二重の意味でアイタタな台詞とともにおいなりさんを引っ掴んだ彼女の傍らでは、トレードマークの覆面を身代わりに恐怖の挟み撃ち(おいなりサンド)を逃れた烏が大きく息をついていた。 「覆面が無ければ危なかったな……」 渋く決めたのも束の間、あばたが放り投げたおいなりさんが彼の脇を掠める。危ない。 喧騒に包まれた戦場に、ひよりが聖神の息吹を呼び起こす。我に返ったメイが、厳然たる意志の光で敵を灼いた。 それにしても、釈然としないのはブリーフィングルームでのフォーチュナの態度である。 「……数史ちゃんは何であんなに、ゲンナリとしてたんだろ?」 見た目が食べ物の敵は、その分類を問わず今までも散々出てきている筈なのに。どうして、今回に限って拒絶反応を示したのか、メイには理解し難い。子供の頃に嫌な思い出でもあったのだろうか。――まあ、知らない方が良いことも世の中には存在するわけだけど。 さりげなく少女たちの近くに陣取った水華が、敵が密集した地点に銃を向ける。 「空中戦は慣れないけど……まぁ、数撃てば当たるわね」 放たれた弾丸が傷ついた1体に喰らいつき、これを葬り去った。 森に墜落するおいなりさんを見送り、水華がところで――と口を開いた。 「おいなりさんを見てると蕎麦を食べたくなるのは、私だけかしらね?」 ――いいと思います。いなり寿司に蕎麦。 しかし、戦いの最中にリベリスタの食欲を刺激するとは、おいなりさんも罪な存在である。回復役として全員の様子に気を配りつつ、ひよりがしみじみと呟いた。 「お空の上にはきっと、ボトムチャンネルの欲望を具現化しちゃう世界があるのね……」 惜しむらくは、彼らとは共存できそうにないことだろうか。 ● 青空をバックに、人とアザーバイドの熾烈な戦いは続く。 圧倒的な火力を誇るリベリスタは敵の数を半減させていたが、彼らのうち朔夜と水華の2名は既に運命を削っていた。 空中では受け身が取れないため、脆いメンバーにとってはたった一度の被弾でも命取りだ。回復で仲間を支えるひよりやメイの尽力がなければ、この時点で戦闘不能者が出ていただろう。 「流石に……この数を相手にするのは、厄介ね?」 銃のトリガーを絞る水華の表情に、疲労の色が滲む。次々に襲い来るおいなりさんを迎撃する伊藤の脳裏に、ふと名案が閃いた。 ――顔を狙ってくるのなら、そこに手を構えとけば自動的に大雪崩落できるじゃン! っしゃーいくぞおらー、とおいなりさんを引っ掴み、雪崩の如き勢いで膝に叩き付ける。 「砕き散らすッ!」 哀れ、おいなりさんは『ドゴォ』とか『グシャ』とかいう擬音で破裂した。 「伊藤の辞書に慈悲の文字は時々無いよ」 中身をぶちまける敵手を横目に、この一言である。マジ容赦ねえ。 一方、烏は慌てず騒がず“二五式・改”を構え……って、あれ、銃口が味方を向いてますよ? 「……そう、狙うのは『おいなりさん』だけなわけでな」 恐怖のフレンドリーファイア、炸裂。あー、混乱してましたか。はい。 阿鼻叫喚の様相を呈してきた戦場を視界に映し、ひよりが己の顔をぺちぺち叩く。 甘辛く煮たお揚げの頬擦りで気力を削られはしたが、彼女が麻痺や混乱に陥ることはない。もっとも、この状況下で正気を保ち続けることが幸せかどうかは謎だが。 「うにに……あまあまべとべと、きもちわるいの」 ぼやきつつ、聖なる神の力で仲間を癒す。彼女の支援を受けて、朔夜が再び前に出た。 「俺はまだまだ弱い、ちっぽけなリベリスタやねんけど……!」 気持ちだけは負けないと、残像を生み出して攻撃を仕掛ける。敵はアレだが、仲間の助けになろうと必死に戦う少年の心意気は買いたい。 リベリスタは孤立を避けることで敵に協力攻撃を使わせまいとしてきたが、ここに来てとうとう犠牲者が出た。火縄銃で誰よりも多くおいなりさんを屠ってきた龍治が、一瞬の隙を突かれたのだ。 『『――成☆敗!』』 左右から顔を挟まれた龍治の視界が、闇に閉ざされる。 刹那、彼の五感は触覚のみに支配されていた。 中に寿司飯が詰まっているとは思えぬ、柔らかく滑らかな肌触り。 心の奥底を刺激する、どこか懐かしさを覚えるような温もり。 皮膚を通して脳髄までも揺さぶる、この無駄なフィット感はどういうことか―― (ああ、心地いい……) スゥ――と音を立てて、龍治の目からハイライトが消える。 彼が地獄のサンドイッチから解放された直後、ルナがすかさず失われた気力を補った。 同じく、おいなりさんに心を折られかけた水華が“S.N.S.”を乱射する。 「このくらいなら、女の子からの頬擦りと思えば耐えられ……る訳ないでしょうがっ!!」 まあ、想像力にも限度がありますよね。うん。 抵抗及ばず、おいなりさんの猛攻の前に朔夜と水華が力尽きる。メイも危うく落下しかけたものの、運命の恩寵で辛うじて体勢を立て直した。 「回復役が先に墜ちちゃだめだもん」 戦場に舞い戻ったメイを、伊藤が颯爽と庇う。墜落した仲間は、地上に待機した別働班が受け止めてくれたようだ。 「撃って投げて蹴って護って、それが伊藤サジタリのメタル闘士――そう、僕は『伊藤さん』だ!」 斬風脚で残る敵を牽制しつつ、『おいなりさん』への対抗意識を燃やす伊藤。彼の背に守られ、メイが天使の福音を響かせた。 『あなたも』『わたしも』『みんな』『『『おいなりさんだ』』』 襲い来るおいなりさんの攻撃を間一髪で凌ぎつつ、ヘンリエッタが彼らに声をかける。 「キミたちが可食部のないおいなりさんなのは認めよう」 生真面目な口調と表情で、彼女はただし――と付け加えた。 「オレたちはおいなりさんじゃないよ。なかまじゃない」 ヘンリエッタから気力の供給を受け、ひよりが癒しの息吹を呼び起こす。 我を失った仲間を引き戻し、過酷な戦場に再び放り込むことに対して、心が痛まなくもないのだが。そもそも、異界から進撃してきたおいなりさんが悪い。能力の嫌らしさも含め。 「ひどいの。みんなにいえーがーされちゃえなの」 その言葉を聞き、烏が「我らは狩人ってな」と嘯きつつ数体を撃ち落とす。“ゲテモノ”とも称される二丁の銃を携えて戦場を翔けるあばたが、つっけんどんに口を開いた。 「――お前らでかいんですよ。ちょっとした枕ぐらいの大きさだぞ」 体長50cmのいなり寿司アザーバイドに照準を合わせ、トリガーを引き絞る。 「どこの地方の伝統だよ。もしくはチャレンジメニューかよ」 2発の弾丸に貫かれたおいなりさんが具をぽろぽろと零しながら落ちていった直後、『明らかにヤバい方向にスイッチが入った』龍治が引金に指をかけた。 「残らず殲滅してくれる……!!」 怖い、目が怖い。 流星の一射が、残る獲物を狩り尽くした。 ● 壮絶に散った敵を眺めやり、伊藤が「恐縮至極に米粒の塵と成り果て死ぬがよい!」と叫ぶ。膝においなりさんを受けて(ぶつけて)しまった彼だが、まだまだ元気だ。 「あーー、奥の手として貫通射撃スキルも習得するかなー」 銃を下ろしたあばたが、今回の戦いを振り返って呟く。彼女らが着陸を果たした時、負傷した朔夜や水華は既に目を覚ましていた。 「ああ、しばらくはおいなりさん見たくないわ……」 遠い目をする朔夜の傍らで、龍治が虚空を見上げる。忘我の境を彷徨っていると言うか、茫然自失と言うか……まあ、暫くそっとしておいた方が良さそうだ。 「う~ん、帰りにまともな稲荷寿司が食べたいかも」 心底うんざりした様子のメンバーをよそに、メイがあっけらかんと言う。ひよりと水華が、彼女に賛成の意を示した。 「五目稲荷が食べたくなったの……。ふつうの大きさですりすりしてこないの」 「お姉さんが、美味しいお店に連れて行ってあげるわよ?」 他の2人はともかく、水華は『おいなりさん』の感触を記憶からデリートしようと努めていたわけだが――。 一部メンバーの心身に多大な傷を残したこの戦いだが、事件はこれで終わりではない。 「あ、お帰りなさい」 アーク本部でリベリスタを出迎えたフォーチュナに、烏が『慰労を兼ねたお土産』を差し出した時、もう一つの悲劇が幕を開けた。 箱いっぱいに詰まったいなり寿司(おいなりさん)を見て、数史が顔色を失う。 「奥地君、あーんしなさい、あーん」 ふるふると首を横に振るフォーチュナに詰め寄りつつ、烏はふと独りごちた。 「しかし、あのおいなりさんが最後の一匹とは思えない。人類が今後も悪事を続ける限り、 第二、第三のおいなりさんが現れるかもしれないな――」 あの、シリアスに決めながら人を追いつめるのやめていただけませんか。 というか、あーんとか言いつつそれ顔に押し付ける気じゃ……って、やだやだやだ、すみません勘弁してください本当に……っ!! 数史のそんな心の叫びは、もはや声にならず。 当然、彼の懇願が受け入れられることなど無かった。 「成☆敗」 ――暗転。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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