●強襲、迫る足音 やばいやばいやばい!? このままだとアレが、見つかってしまう。 距離は既に至近。残された時間は数瞬というのも憚られる刹那。対象はすでに王手をかけている。 ――さぁ、どうする!? 刹那が引き延ばされ思考が延々と巡る。 断罪のときは、近い――。 ●迎撃、渾身の被覆 「というSceneだ、Understand? リベリスタ」 したり顔で告げる『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)。集められたリベリスタのうち、うんうんと頷くものは男性に多数、女性にも少数。不思議そうな顔で首をかしげる者もいたが。 「このままThemのAttackを許せば、その街全域でLike thisな光景が繰り広げられる……特に思春期BoyにとってはNear DEATHな光景がな……」 沈痛な表情で語る伸暁。過去に苦い思い出でもあるのか、ググっと握られた拳はやや白んでいる。 「どんなSomeoneにも、どーしても明かせないSeacretのひとつやふたつあるだろう? こいつらはそーいうSomethingをどどんとOpenにしちまう奴らだ、社会的秘密が暴露される可能性をBrakeするついでに、Teenager達も守ってやってくれ」 ここでディスプレイが灯る。表示された画面に、リベリスタたちは息を呑んだ。 「Themは隠秘を明かす事に特化した神秘存在、All thingsを白日に曝す若き日の悪夢――コードネーム『おかん』だ」 表示されたのは人間と同等だとすれば40代程度の外見をした女性。誰もが抱く母という姿によく似た格好のアザーバイド……。 彼女たちの進撃を許せば、秘密という秘密が暴きたてられることだろう。 「他にもMany Existanceが一挙に都市部へと向かっているが、割けるMan PowerはNot so manyだ。Good Luck!」 ビシっとサムズアップして、伸暁はリベリスタたちを送り出した。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:Reyo | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年05月22日(水)23:34 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●ホームに電車が参ります、白線の内側まで下がってお待ち下さい その日、アークからの通達で戒厳令の布かれた市街は静まりかえっていた。 街角の喫茶店、戒厳令の影響で臨時休業となり、誰も居ないはずのその店内からまるで溶け出るように出現した4体のアザーバイドを見るのはリベリスタたちだけだった。 わいのわいのと喋りながら4体のアザーバイドは街を歩く。その存在が異界の者であると知らなければ、ごく普通に市街に溶け込みそうな集団である。 そして彼女らは、堂々と駅へと乗り込む。ご丁寧に誰もいない自動改札に購入した切符を通していくのは律儀というべきか。そしてその歩みの先には、アークが手配した臨時運行の電車と、物陰に身を隠したリベリスタたち。 (こういうまさにおかん! っていうのを生で見るのは初めてかも……) アザーバイドの感知能力範囲外からしげしげと目線を飛ばすのは『銀狼のオクルス』草臥 木蓮(BNE002229)だ。その横では『朔ノ月』風宮 紫月(BNE003411)がほう、と息を吐く。紫月の胸に訪れるのはもはや記憶にも薄い母への郷愁か。 「暴かれて困るような秘密も、私めにはございませぬ。――ふっ、どうやら、此度のアザーバイド、恐るるに足らずですな」 ぽそりと呟き『闇夜の老魔導師』レオポルト・フォン・ミュンヒハウゼン(BNE004096)はゆっくりと物陰で身を解す。レオポルトから見れば、壮年女性の外観は己の娘にもよく似た年齢のものだ。 余裕のある物言いに、過去に思いを馳せどこか挙動不審だった『深夜コンビニのバイト戦士』都築 護(BNE004463)が落ち着きを取り戻す。同様に、初の戦闘ミッションへの緊張でガチガチになっていた『金狐』鳴神 朔夜(BNE004446)の表情が和らいだ。老リベリスタの言葉は、自然と仲間の緊張を解きほぐしたのである。 「下手すりゃ精神ダメージがやばいことになりそうだぜ。だが、覚悟を決めて挑めばな」 己に言い聞かすように言うのは『ヤクザの用心棒』藤倉 隆明(BNE003933)。隆明の手は懐に伸びており、戦いの場には不要にも見えるくたびれた1冊のノートを撫でている。 「隙あらばおかんの秘密を暴き返す心意気でいきましょう? 大丈夫よ、秘密のひとつふたつ程度じゃ、信頼は揺らがないもの」 どこか悲壮さすら感じさせる隆明に明るい声で話しかけて『大食淑女』ニニギア・ドオレ(BNE001291)は微笑む。心意気は十分、女性なら誰しもおかん予備軍の素養があると考えながら、戦いへの覚悟はすでに万全のようだ。 「さて、電車が参りました。皆さん、参りましょう」 どこの国でも母とは強いものだと思いつつ『レディースメイド』リコル・ツァーネ(BNE004260)は仲間を促した。 突風と金属音。その2つを纏った車体が、ゆっくりと速度を落とし、乗車位置と扉をピッタリと合わせて停止する。 自動ドアが開き、4体のアザーバイドは何か勘働きでもあったのか、ちらりとリベリスタに目線を投げつつも乗車。それを確認したリベリスタたちもワンテンポ遅れて乗車した。 それぞれ別車両に乗車した彼我の距離は車両間のドアを挟み、およそ40m程度。 出発進行を告げるホームのベルとともに、閉ざされた戦場はゆっくりと動き始めた。 ●車中の秘密 ドアハンドルを捻り、車両間を移動する。リベリスタはアザーバイドの能力範囲に踏み込んでいく。不意打ちこそ成立しないが、陣形を乱さず速やかに移動を済ませたリベリスタに応えるように座席から立ち上がるおかん達の動作はほぼ同時。 パリっとスーツを着こなしメガネをかけたいかにもキャリアウーマンといった外見のアザーバイドがついとリベリスタを一瞥。心の表面を撫でられるような感覚と共に、リベリスタは情報が読み取られたと自覚した。 「リベリスタというのですね。確かに私たちは異界の者、とはいえまだ駆逐されるような事をした覚えはございませんが」 クイ、とメガネを人差し指で押し一言。そうよ、と彼女以外のおかんも声を大にして同調する。 「貴方たちはフェイトを持たず存在するだけで崩界を招き、その能力は世間を混乱させます。倒すには十分です」 後衛位置から己の肝に銘じた言葉で応えるニニギア。その返答と読み取ったリベリスタの存在意義に交渉の余地無しと悟ったのか、おかんたちも戦いの構えを取る。 「隠された物事が明かされるときのエントロピーこそ、私どものエネルギー。それを得るために、少々手荒になるのは仕方ありません」 純日本風の和服を着込んだおかんが、スーツ姿のおかんに並ぶ。それと同時、先ほどとは比べものにならないほど深く深く、心の奥底を覗き込まれるような感覚が前衛に位置したリベリスタを襲った。 それがおかんの攻撃であると気付くのに一瞬。その一瞬で和服おかんはリベリスタの秘密を手に入れたのである。 「そこの――草臥さんと言いましたか? どうせならそのお写真、彼氏さんにも見せてあげればどうです? アドバイスが貰えて、2人の記念になるかもしれませんよ? あと、電子媒体と紙媒体、両方に持つことは保存の観点から見るととてもイイ事ですね」 「え、ちょ!? 秘蔵のフォトブックのことまで!」 にこにこという表現が似合う顔で暴露されたのは木蓮の持つ秘蔵彼氏写真集の存在。こっそりと、何重ものパスワードの先に隠したフォルダの存在を一瞬で暴かれ、しかも丁寧なコメントまで付属。木蓮の心が動揺に染まる。 「それに……あらあらまぁまぁ」 半目になり、袖で口元を覆いながら和服おかんは護に視線を投げる。 「な、なんだよ」 「鍵つき棚の奥、ビニール袋に入れた冊子……ふふ、これはなかなか照れるわねぇ」 言外にそれが何であるかを知っているぞ、というセリフに護がガタッと床を踏む。 「断じてっ! 熟女に興味があるわけではなく私はロリ魂であって年増のBBAに世話になったことはないからなというかそんな眼で私を見るなぁぁ!」 一息で言い、肩で息をしながら最後は頭を抱えて床に土下座しかねない勢いで。というかおかんがせっかくオブラートに包んでくれたのを自ら暴露。ロリ魂をロリコンと聞き間違えたのか、女性陣がすっと護から距離を取った。 「そして、藤倉さんは――」 「そこから先はいわせねぇっ! そうだよっ、ガキのころはすげぇ妄想をしてたぜっ! 最強の自分、教室にテロリスト、そしてクラスメイトを助ける俺カッケェェ!」 和服おかんの言葉を遮るようにしてばばぁんと隆明が掲げたのは、懐に仕舞い込んでいた古ぼけたノート。開かれ、提示されたページには「サイキョーのオレ」というタイトルの自画像にひたすら最強という文字が躍るステータス設定。厨二病極まれりである。 「自分から明かされてしまいました……」 どこか残念そうな表情の和服おかん。よほど自分で告げたかったのだろうか。おかん、怖し。 「大丈夫、そんなこと気にする必要ないわ、きっとそれもそれで魅力的よ」 暴露された秘密になるべく笑顔を保ったまま仲間をフォロー。ニニギアのフォローとともに発せられるマイナスイオン的な何かと、回復の息吹が精神的ダメージを僅かに治していく。 「聞いていませんから、動揺せず早く倒してしまいましょう」 自分の秘密が暴露されていないという余裕もあるのだろう。暴露された秘密は聞き流すスタンス、ということで紫月は火炎を纏った矢をつがえて射出。 「人の形であろうと、容赦はしませんよ――お覚悟を」 きゃあ、というおかんの悲鳴をBGMに、燃えさかる矢が車内を一瞬サウナに変える。 「こんな狭いところでそんなの撃ったら服が燃えちゃうでしょっ! 紫月!」 ややふくよかでサマーセーターを着たおかんが紫月を一喝。纏わり付く炎を振り払い鎮火した影響か、何故か頭髪はアフロである。 ビリビリと空気が震えるような一喝にリベリスタは耳を塞ぎ、特に名指しで呼ばれた紫月は気圧されるような感覚を覚える。もし神秘の付与があればそれごと砕きそうな喝破に、母が生きていればこういう風に叱ったのだろうかと紫月の心が傾ぐ。 「皆さん、気を確かに! 事前の作戦通り、1体ずつ片付けていきますぞ!」 魔曲を紡ぐ神聖四文字を刻み、仲間を叱咤する声と共にレオポルトの手から4色の魔光が飛ぶ。 「そういうアンタは――」 割烹着をきた、どこぞの大衆食堂にでもいそうなおかんが魔光を受けつつ、反撃のように己の能力を発動。ぞわりと、レオポルトをはじめとした後衛リベリスタの心が覗き見られる。 「年甲斐もなく小顔リンパマッサージなんかしてるんやな!」 大阪おかん(仮名)の関西弁は素早い。え? と疑問を抱くような表情でレオポルトを見る者も少数。 「……わ、私めがそのような事をするはずががががが」 仲間からも意外な目でみられて応えたのか。余裕たっぷりの微笑みがひきつる。 「夜毎にケータイで写真とったりとかええご趣味やん!」 その言葉で余裕が消えた。 誰にも言っていない、見られていないはずの秘密を暴露され、しかも携帯の写真という申し開きの出来ない証拠に激しく動揺。先ほどまでの余裕はどこへやら、言われてみれば年の割にシワの少ない顔を真っ赤にしている。 「恐るべきはアザーバイド……これ以上余計なことを言わないうちに、全員抹殺するが宜しゅうございますな」 だがそれでも羞恥を闘志へと変えるのはさすがと言ったところか。 「あとそこの、そうそう、お菓子ポッケにいれてる子!」 「え、あ、私ですか!? ってなんでお菓子の事を!?」 ズビシ、と指さされたのはニニギア。なお、他人を指で指すのは行儀が悪いです。 「もう大晦日も越えてるんやから、パスケースの写真の人とはよ結婚しちまいや? にしても、パスケースに恋人の写真とは乙女でかわええこっちゃなぁ」 「きゃぁぁ!? 何でわざわざそっちをって乙女で可愛いとか年齢とか気にしてるのよ!?」 「気にしてるから秘密なんやろ?」 ニヤニヤ笑顔の大阪おかん。この個体、なかなかタチが悪い。 「あとそこのメイドさんや」 「わたくしでございますか?」 これといって隠しだてする秘密はないとリコルは目線を返す。だが、リコルを見詰める大阪おかんの目線は非常に真摯だ。 「誰かを護る為に自分の命を賭けるのはええこっちゃけど……それで、その人を悲しませたら本末転倒やで?」 「――皆様、お嬢様には内密でお願いいたしますよ?」 一瞬のシリアス。苦笑と共にリコルは唇に人差し指を添えた。情けない秘密を暴露された幾人かが、少し羨ましそうにリコルを見た。気高い誓いも、また秘密のひとつだ。 「あと、そこのキツネくんはベットの下、気ぃつけや? いやー、青春やねラブレタ-!」 「うぐはっ!? いや、ベッドの下にえっちな本とかラブレターなんかしまってへんしぃ!?」 強烈な精神打撃。朔夜の目の前が真っ暗になるほどの心への衝撃。感受性豊かな少年にとってベッド下の本とラブレターは死守すべき秘密であったが、いとも容易く暴かれたことに思わず一撃昏倒、だがまだ倒れてはならぬと運命に抗う意志がなんとかその体を支えた。 「さぁてもう暴露される秘密もないっ! 最強な俺の拳をくらいやがれっ!」 もう過去の黒歴史をいっそ引っ張ることにしたのか、隆明が半泣きの震えた声で拳を振りかぶる。暴れ回る大蛇の如く縦横無尽な拳は4体のおかんズを纏めて打撃。特に自分から秘密を暴露することになった和服おかんには痛恨の一撃が入る。 「フォトブックのアドバイスはありがとうだけど――これも仕事、駆逐してやるっ!」 ガンケースから拳銃を引き抜き、そのまま精密な射撃を放つ木蓮。レオポルトの言葉通り、1体ずつ片付けるという方針に従い、狙うは隆明の拳がクリティカルヒットした和服おかん。 「なかなかの手際、これが世界を護る者の実力ですか!」 明らかに致命傷に近い打撃を貰った和服おかんをかばおうとスーツおかんが動く。 「失礼、そちらは簡単にはフォローさせませんよ」 だが、その動きはリコルが妨害。そのまま割り込ませた体を捻り、双鉄扇による重撃がスーツおかんを叩き伏せる。 「くっ、秘密を明かされて一瞬どうしようかと思ったが――いいぜ、今まで暴いた他人の秘密、血ごと吸って取り返してやるよぉ!」 そして、リコルが確保した隙間を縫うようにして護が前へと出る。顕わにした牙で和服おかんの喉笛を狙う姿は伝承に残された吸血鬼そのもの。 ぶつりと皮膚を裂く牙の音、こぼれ落ちたのは鮮血。人の形をしていれば異界の者でも血を宿すのかと思いながら護はその液体を啜り上げた。 和服おかんが崩れ落ち、そのまま明滅するようにして消えていく。 「さぁ、まずは1体だ」 数の利とそれを生かした作戦。秘密を暴露され精神的にボロボロになりながらも、戦いの趨勢は決まりつつあった。 ●まもなく次の駅に到着します、お忘れ物のないようお気を付け下さい ブレーキ音と突風を纏って電車がホームに滑り込む。 開いた自動ドアの向こう側、そこに残っていたのはリベリスタだけであった。 「なんというか、疲労よりも恥ずかしさの方が大きいわ……」 降車しつつ、ニニギアはちらりと車内を振り返る。そして、無意識のうちに糖分を求め、ポケットの菓子を探っている自分に気付いてため息をついた。 (帰ったら写真の意見聞いてみよう……健康日記も、お酒、バカ呑みじゃなければいいみたいだし) むん、と任務前よりも気合に満ちているのは木蓮。秘密を明かされて恥ずかしいというよりは、例えアザーバイドからとはいえ、母の外見をした者から貰ったアドバイスは彼女を勇気づけたようだ。 「全く……人騒がせなアザーバイドでした」 ニニギアと同じようにため息をつきながら、紫月は他の仲間を心配している。確かに、明かされた秘密が「まだ胸がサイズアップしていて最近苦しい」「友人のプリンをこっそり食べてしまった」だとかなら、大した精神ダメージにもならないものだ。 「ああ、もうなんか疲れたぜ……酒だ、帰って自棄酒だぁ! 高いのも全部開けて呑んでやらぁ!」 そして降車しつつ叫び、そのまま改札へと走っていく隆明。改札近くのゴミ箱で一瞬立ち止まり黒歴史ノートを叩き込むか迷う仕草を見せたが、結局懐に仕舞いなおして走り出した。 「……恐ろしいアザーバイドでございました」 表情には年齢相応のシワ。今晩もリンパマッサージを続けるか悩みつつ、レオポルトはそっと携帯の写真フォルダを空にした。 続いて降車してくるのは、戦闘中に再度戦闘不能となり倒れた朔夜を負ぶったリコルだ。心中で「護る者のためにその人を悲しませたら本末転倒」という言葉を反芻しつつ、リコルはそっと朔夜を抱えなおして改札へと向かう。 「……帰ったら処分すっか」 何を、とは言わない。 何かを決めた護の背後で、乗客を無くした電車がゆっくりと走り出した。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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