●怪人と妖怪 -Pianician & Spyder- 頭。 薄き皮膜、カルシウムの殻に包まれた、豆腐の様に柔らかい器官が人間の全てである。 微弱な電気がニューロンを伝い、その信号をやり取りする事で、思考と思索。人格に性質を司る。 そこには、魂や亡霊という概念など存在はしない。当然の常識として、存在するのである。 「神秘において存在とは何か。自己とは何か――」 脳が人の全てであるのに、しかし怨嗟怨恨人格を、神秘へと昇華させた『霊魂』を繰って、或いは脳の微弱な信号が最早通うこと無き屍を、操る集団が居た。 『楽団』――死霊術師――ネクロマンサー。 首を切断され、皮一枚残ったままに生存していた者がいて。 或いは、頭部に血を巡らせる心臓を木っ端微塵にされても立ち上がる。 霊の加護によって生と死の境界が、限りなく薄くなった道をさまよう冒涜者である。 「頭をちぎられるとは。なんと愛しき熱烈なファン達だ。“パフォーマー”様が熱狂されるのも分かる話だ」 謝肉祭の仮面を着用した燕尾服姿の怪人は、薄暗い部屋。ソファーに座り、シングル・モルトが注がれたコップを片手で揺らして、カラリと氷の音を響かせた。 部屋には、怪人の他にもう一人。 怪人の対面。タキシード姿の神経質そうな男がいた。 細い眉を緩めて、シングル・モルトに舌鼓を打ち、頬杖と共に怪人に言葉を発した。 「お嫌いか? 我が国の酒(スコッチ・ウィスキー)は?」 「今に飲む。瑪瑙とベッコウの雑種の様で何とも美しい。私が"音"に追求するのはこの色だ」 怪人は、くつくつとくぐもった笑い声を浮かべ、ただただグラスを眺める。 「指揮者殿への愛で存在していた“シンガー”様に、ただ音色を奏でんとする“パフォーマー”様。その両者のあり方を否定する心算は無いが、賞賛はしない。私は熱烈なファンの為に在り続けたい」 掠れた様な声が、酔った様に"在り方"を連ねる。 散弾を受け、脳と脳漿を垂れ流しても死なず。首を引きちぎられても死なず。頭をすげ替えても"自己"を保ったままに。 これに、タキシードの男は嘆息する。 「そして実際に生きているのだから、プロフェッサーでなければ計算できない境地だよ。ネクロマンサーというものは。コスタ殿」 怪人の二つ名は『幽霊鍵盤』。 名を、シルヴェストロ・“ピアニシャン”・コスタ。 コンサートホールの様に荘厳なる反響を伴ったピアノの音色と共に現れて、多くを殺し、何処かへ去っていく。 最早、"ヒト"と呼べるのかすら、疑わしき怪人であった。 「理論は前提。その先があるのだよ。ドリスノク殿」 Bravoの為だけにあり続ける怪人は、タキシードの男――ドリスノクに言葉を返すや、ここでアンティークな洋風の電話がベルを鳴らす。ドリスノクは首をすくめて「失礼」と一言。受話器に手を伸ばした。 「どうも、ポーロックさん。ええ、ええ。彼らについてですね。いやはや日々日々データを更新している。驚くべき速さというのが所感です」 二つ名を『英国の妖怪』。 名をリチャード・S・ドリスノク。 倫敦の蜘蛛の糸は静かに、領域を張り巡らせる様に。 「以前のデータはアテにできないと考えています。最新のデータですね。ええ、絶好の機会が目の前に来ています。私にお任せください。ええ、その為に私が六道に残っているのですよ」 しばし世間話めいた言葉を交え、やがてドリスノクが受話器を置く。 「失礼、“ピアニシャン”。次の公演についてだ。死体はいくらでも用意しよう。私は公演を記録させて貰えれば良い」 英国の妖怪は、伊国の怪人に『話』を続けた。 「そういうと思ったよ」 怪人は、無貌の仮面の奥からくつくつと再びくぐもった笑い声を上げる。 ●蜘蛛と楽団 -Emergency- 「急ぎ戦闘準備だ。楽団員残党が嘉手納基地を襲撃するらしい」 『参考人』粋狂堂 デス子は、苦虫を噛み潰した様な顔をして『これから起こる事件』を告げた。 楽曲を演奏するように展開されるケイオス・“コンダクター”・カントーリオの一連の事件は、日本全国を恐慌させ、各地で七派のフィクサードをも巻き込んだ戦いに発展した。 最後は三高平の決戦にて、ケイオスを討つことで一旦は解決の兆しを見せたのであるが―― 「またしても奴――“ピアニシャン”か。下関で撃破した筈なのだが」 “指揮者”の退場により、散り散りとなった楽団員はアンコール(もう一曲)を企てた。 これにより、三高平の決戦で生存した“パフォーマー”“シンガー”も討ち果たし、“ピアニシャン”も討った筈ではあったのだが。 「嘉手納は米軍の管轄だぞ……怪物め」 怪人は、しかし再び舞い戻った。 かの偉大なる“指揮者”が幕引きの為に残したるソロ奏者。鍵盤を魔術師の如く滑走させるピアニストである。 「これに関しては恐山も動いている。増援が来る手筈だが、まあ、いつもの"暴力担当"連中だろう」 リベリスタの一人が疑問を口にする。 「フィクサードが増援だって?」 「日本のフィクサード達は事実上『楽団』とは対決姿勢にあり、今も有効だ」 かつて、アークにコンタクトを取ってきた『バランス感覚の男』千堂 遼一曰くして、主流七派については『裏野部』と『黄泉ヶ辻』以外についてはアークと遭遇した場合でもこれを当座の敵としないという統制を纏めたという。 同盟では無いがアークにも同様の統制を取って欲しい旨が入り。時村 沙織はこれを了承した運びとなっていた。それが今も有効という事であった。 無論、米軍の管轄である嘉手納が攻撃されたとあっては、政治的なダメージが深刻である。 株価変動などで最もダメージを被るのは、おそらくに小規模でインテリヤクザとされる恐山である。 「状況はどうなるんだ?」 更に問いが生ずる。 「“ピアニシャン”は死体を固めて肉巨人を作る男だ。死体と肉人形が三体。うち一体は三高平の――いや、革醒者の死体で作った肉巨人だ」 デス子は奥歯をギリリと軋せた。 ●終わらぬ組曲 -Endless Solo- ――沖縄県嘉手納市。 嘉手納基地、嘉手納飛行場と称される、米軍管轄の基地がある。 滑走路2本を有し、200機近くの軍用機が常駐する極東最大の空軍基地である。 夜。 温暖な気候にそぐわぬ霧が海から生じ、生じた霧の中から、呻き声のコーラスと共に死体が現れた。 続いてぬらりと大きな影が3つ。 血管内臓筋繊維が混沌とした肉の巨人。指先は人の足で出来ている程にデタラメな屍肉の人形。 海水で膨れ上がり、とかくその顔は最もおぞましく禍々しい。死体の眼球を、全て頭部に集中させたかのように、無数の眼球がびっしりと生じている。 ――Amore e morte! やがて炎上と悲鳴に、銃声がアクセントを加える未来視の中、ピアノの音色が塗りつぶされず。ただ魔性の向こうから響いていた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:Celloskii | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年05月24日(金)23:51 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●愛と死Ⅰ -Amore e morte 1- 暦の上では、夏至前だというのに。 じっとりとした湿り気と熱を帯びた風が、全身を舐めて過ぎ去った。 霧が、まるで似つかわしくないアンバランスな魔性の夜。 10mはあろうかという異形の影が三。まるで闇から練り上げられたかの様に潤み、汚い水音と共にぬらりと姿を現す。四足獣が如き姿勢の死体達を伴って。 「流行が過ぎても、一途だな?」 『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086) が死体の群れに対して、最初に呟いた。 式を放ち、深き闇色の影法師がひとつ。続けて二つ。 「ケイオスすら既に忘れられる消費社会。だらだら続けて。しつこい客引きは減点だ」 この領域に潜入し、敵を捕捉して布陣したるリベリスタ達は、各々初動が最も大切になるという結束の下で動き出す。 「というか、まだピアニシャン居るんかい!」 ユーヌの横。『レッドシグナル』依代 椿(BNE000728)は、半ば呆れながらに声を上げる。 響くピアノの音色と死体のコーラスは、これで三度目である。下関で首まで飛ばしたというのに。 「というか、頭部失ったのに復活とか楽団どうなっとるんや……。いや、なんか楽団とかそういう問題や無い気もするんやけど」 確かにこの目で見た確信。"まとも"ならば絶命する筈なのである。 椿は、思索の中。設置用のトラックを幻想纏いから取り出し最後列に置いた。 「……どうやって倒したもんやろなぁ。ピアニシャン」 「本体を倒せるに越したことはないな。だが先ずは他人様の所への不法投棄からだ。ゴミ掃除が面倒だ」 「あちらから一般人多数です!」 ここで、『贖いの仔羊』綿谷 光介(BNE003658)が、暗視を用いた千里眼の後に声を上げる。 ユーヌが頷き、手を手刀の様に振り下ろす。生み出した影達は後方へと走り去る。 続き光介も、椿と同じようにトラックの設置へと動きだす。 「死者の尊厳も、一般市民の平穏も……これ以上脅かさせやしません……!」 誰かのために、1つでも自分のなせることを。という想いが胸の内に決意を口にする。 策。トラックでバリケードを築くこと。全方位は防げないにしても心理作用があり、最悪でも、数秒くらいは稼げる確信があった。 「うふふふふぅ、今宵は狩りの時。滅びかけの死霊術士等喰らい尽くしてア・ゲ・ル!」 『ヴァイオレット・クラウン』烏頭森・ハガル・エーデルワイス(BNE002939)は、ぴらぴらと死体達に身を呈し。銃口を向けた。暗視のできるこの目に、この夜は別段、影響は無い。 「それにしても、まだ生きてたのですねぇ、こいつ。邪魔だから、そろそろ退場してもらえないかしら」 この音色は今宵で二度目。そして裏で手引きする倫敦の蜘蛛の巣も二度目。 良き狩りの夜に、十字を切って発砲する。開戦を告げる。 開戦の銃声に、死体達の前列が爆ぜて血味噌を散らせる。 動きがまるで速くなる。四足獣が如き姿勢から跳ね飛んで、人型のスーパーボールと形容できる動きへと変じる。 エーデルワイスに続いて、『金雀枝』ヘンリエッタ・マリア(BNE004330)は攻勢へと足を踏み出した。 「『せいじ』はまだすべての仕組みを理解出来てはいないけど、楽団が相手とあれば迷う事はない」 ヘッドギア型の暗視ゴーグルで暗夜を補いながら、携えたる魔の弓を大きく引く。矢から手を離す。放たれたる火の矢が爆発を起こし、死体の群れを後退させる。 「今だ! 珍粘さん!」 「今ここに黒死病の出番ですね? 黒死病の出番ですよね!? あとヘンリエッタさん、私は『那由他・エカテリーナ』です」 『残念な』山田・珍粘(BNE002078)が、嬉々として手を翳す。後退した死体の群れの真ん中へ、死の病を解き放つ。 「それはそうと、楽団の生き残りってまだ居たんですね? しぶといなー、感動だなー」 病は伝染して、死体達に黒い斑が次々浮かび、エーデルワイスが穿った銃創から、体液を撒き散らして溶けていく。 肉の蕩けたる死体に、『戦士』水無瀬・佳恋(BNE003740)が斬りこんだ。 烈風を纏った白刃が死体を切り刻み、肉巨人への道筋をつける。いい加減にしてほしい、という腹立たしさが喉の奥から込み上げてくる。 「楽団……最後の最後まで腹立たしい組織です」 10mの肉巨人が三つ、眉に迫る。その風貌は何とも鬼魅が悪かった。 バスケットの様に複雑に絡み合った背骨が、でたらめに積み上げられた肉と内臓を零さない様に覆っている。 とかくその顔は最もおぞましく禍々しい。死体の眼球を、全て頭部に集中させたかのように、無数の眼球がびっしりとはりついている。 そして、E・フレッシュゴーレムと称される個体は、どこやら違う。 所々にアークの旗印が挟まって靡いているだけではない。 もっと異質な。エリューションであるという異質さが直感できるのである。 オオオオオAAAAhhhhhhhhh――――!! E・フレッシュゴーレムが咆哮を上げた。 他二体の肉人形は傀儡の様だというのに。爆ぜる様に骨が飛び出して、リベリスタ達に注がれる。 「く……虐殺を、防ぎます!」 至近距離で散弾を受けた佳恋は、肩口から滴る血液を感じながら、白き剣の握りを改めた。 『BlessOfFireArms』エナーシア・ガトリング(BNE000422)は、概ねこの場に居るリベリスタの胸裏を統括するような言葉を口にした。 「まったく、益体もないのだわ」 専用の弾丸を装填した小火器で、下半身の千切れた死体や、最早動けない死体等も含めて、ダメ押しの如くバラバラにする。 これで肉巨人は吸収はできない。しかし、根本的な解決にはならないという無念が心に翳る。 この鳴り響くピアノの息の根を止めない限り、また現れる。それらの胸裏も含めての『益体がない』という吐露でもあった。 「終わりだと言えるだけの真面目な公演が出来ないだけじゃない」 勘違い野郎、と口にしそうになる。 これが全て熱烈なファンの期待に応える為だというのであるならば―― 「精々楽屋裏で遠吠えしてないさいよ。舞台にも立てない奏者気取りさん」 再び、銃口を肉人形へ向けた所で、肉人形が二つ。腐敗液を撒き散らしながら、眼前。大きな腕を振りぬいてきた。 ●謀略の交錯 -Intermission- 「アイちゃんは合流を急げ。俺は"連中"をどうにかしておく」 「承知しました」 "恐山の暴力担当"という実働部隊を統べたる男は、最初に補佐の女へと指示を飛ばした。 女が配下を連れて滑走路へと駆け出した事を確認すると、当人は一寸合流を踏みとどまり、通信機を片手に何処かへと通話を飛ばして。 「よう、俺だ。見ての通りらしい。だが、予定通りがオススメだぜ。初心貫徹って言葉が日本にある」 この損益でしかない楽団員残党の襲撃においても、組織の最大利益の確保に動くのが、恐山である。 「――いやあ誤解だぜ。恐山も予想外なのさ。『アークがこの場にいる』なんてな」 男は、通話の相手に『多少の偽り』を交え、連ねながら、"この通話相手"の矛先が、ブレない様に誘導する。 「という事でだ。そっち頼むぜ。リップイェーガー少尉殿」 通信機を切り、男は戦場へと目を向ける。戦況が進んでいる。 「クソアマと妖怪女と――カレーんときの長耳がいるな。こりゃ、貸し一つだな」 恐山が動きたる同時刻。 倫敦の蜘蛛の巣は、完全に想定外とも言える『招かれざる客』の存在に歯噛みした。 「如何したかね。ドリスノク殿」 「フン族(独逸野郎)どもが動いている。『同格』だ。アプローチを若干変えた方が良い」 連中は戦前から足が速い。と『英国の妖怪』は言葉を続けると、仮面の怪人は。 「おお、中断など、折角のファン達に失礼極まりない事だ! ――独奏(Solo)から二重奏(Duo)。三重奏(Trio)。四重奏(Quartet)、五重奏(Quintet)。心を高ぶらせる。六重(Sextet)、七人(Septet)、Octet八人、九重(nonet)! 芸術を解せぬキャベツ頭どもに、私が怖気づく? 馬鹿な事だ!」 「忠告はしたよ」 『英国の妖怪』は、糸をスッと仕舞うように夜の闇へと消えて行く。 されど『幽霊鍵盤』の音色は響き続ける。 ――Amore e morte! ●愛と死Ⅱ -Amore e morte 2- 滑走路上の戦いは激化した。 恐るべき耐久力を持ち、吸収する度に強化を重ねるE・フレッシュゴーレムは、椿とエーデルワイスの呪縛で強力に封じられたものの、一度引き千切れたならば、その大きな腕でもって、大きな被害をリベリスタに下した。 佳恋はE・フレッシュゴーレムの一撃で、血を吐きかけて飲み下す。 これが下手して二倍になったならば、あっけなく前線が崩れる事は想像に難くなかった。 「虐殺は、防ぎます!」 短く、しかし気合を込めて一体の肉人形を奥に切り飛ばし、E・フレッシュゴーレムがフレッシュゴーレムを吸収する事を阻む。 尻目の米兵も油断はできない頃合い。 チラチラと発砲を加える米兵が増えていく。そして、この肉人形は埋まった銃弾を反射するかの様に射出させる。 「させない!」 ヘンリエッタが機転を働かせる。反射に穿たれた米兵に、即座にエル・リブートをする。 フィアキィが踊った癒しによって九死に一生を得た米兵が、周囲に対して呼びかけるや、一旦後退を始めた。 おそらく、戦車や戦闘機といった、より強力な兵器を持ち出してくる可能性がある。しかし。 「今の内です! 術式、迷える羊の博愛!」 米兵に可能な限り被害を出さないことに集中していた光介には、とびきりのチャンスに映った。 聖神の如き息吹が、味方全体の傷を大きく癒し、被害から立て直す。 「あ、どぉもどぉも、お久しぶりやね」 椿がゆるりと挨拶する先。 ここで、恐山が友軍として戦列に加わる。別段やりとりも無い内に、恐山派のフィクサードから、リベリスタ達を含めた攻勢戦術が展開された。 マスターテレパスを介して、米兵の熱源を表すマーキングが全員へと伝わる。光介の千里眼も相まって、予断なく対処する事が可能となった。 エナーシアが改めて僅かな肉片を砕きながら、今到着した友軍に言葉を投げかける。 「デカイのが小さいのを食べて再生するから、バラバラに殴っても拉致があかないわ。狙いを合せて頂けるかしら?」 『全面的にあなた方の作戦を支援するように、上から指示されております』 次の目標として、肉巨人を指し示せば、恐山の友軍を纏めている女がテレパスでもって返事をする。 バリケードを築き、影人を用いて稼いだ短き時を、かつ短く駆け抜ける戦いで、恐山の友軍をも攻撃に回す。 エナーシアの、――いやさリベリスタの判断は、正しかった。今までの鍔迫り合いの如き戦況が動きだす。 「……恐山か」 ユーヌは、恐山を一目。次に肉人形へと視線を移す。 ピアノの音色に煩わさを覚えながら、護身銃から発砲すると、フレッシュゴーレムの一体は容易く奥へと吹き飛んだ。 E・フレッシュゴーレムのみが突出した形となる。 「しかし、木偶人形か。木偶だな。大した演奏だな? 不細工な動きによく似合う」 完封とは言わずとも、かなり優勢な戦況を無表情な目で、無表情に眺める。 米兵。死体に米粒一つ喰わせない、とアッパーユアハート――最後の時間稼ぎをいつでも使えるように。 「あれ、係長は?」 エーデルワイスは、一番見知った顔がいない事に疑問を入れる。 『ええ、少々。……直に合流します』 「ふーん? あ、今宵の私は聖人君子ですから♪ とってもきれいなココロだよ☆ 難ならリーディングで確かめてくださいね~。ツケは係長に」 飄然と、しかし狙いはブレない。E・フレッシュゴーレムのみが突出した良き位置。良き頃合い。 「さぁ、血と肉と魂を撒き散らせ!! あははははhhh!」 エーデルワイスから鉄の鎖が伸びて、E・フレッシュゴーレムを再度縛る。 「ほな行こか!」 椿が断罪の魔弾でE・フレッシュゴーレムを貫く。エーデルワイスの絞首刑に、呪詛が大きく作用する。 「あっは、みんな黒き死に飲まれてしまえば良いんですよ!」 珍粘は歓喜した。黒死病を多用していた事が、ここで幸を呼び、猛毒により残りたる死体が全て溶け去った。 液状化した死体をぐちゃりと踏み潰しながら、米兵の存在が無いことを確認する。 そして、肉巨人全てを巻き込んだ死の病を解き放つ。反射により、残念ながら運命をくべる事になろうとも攻め手は止めず、黒き波動を放つ。 「こんな楽しい時間を直ぐに終わらせるなんて勿体ない」 猛毒によりぶじゅりと各所より腐汁を撒き散らすE・フレッシュゴーレムを嘲笑う様に、再び立ち上がる。 呪詛が大きく作用したるE・フレッシュゴーレムは不動のまま。 ここへ、どこからかドリルが飛んできた。 「おまたー、なんてな」 恐山の暴力担当の男が続き合流。放った飛翔するドリルが爆発し、E・フレッシュゴーレムが炎上する。 「――よし、やっちまえ!」 ヘンリエッタは、カレーを食べた時に挨拶した男の声に頷き、魔弓を引いた。 呪詛と共に猛毒で蕩けた肉人形の表面には、火矢が容易く突き刺さって炸裂する。 大きく穿いだ穴。 「これで終わりです」 佳恋が、その滑走路のコンクリートを機械化した足で大きく蹴る。 両手で扱う白い剣。左肘を大きく曲げを右肘を伸ばし。左から右へ。一線した時。 オオオオオAAAAhhhhhhhhh――――!! E・フレッシュゴーレムが咆哮を上げ、ぐじゅりと融解してピンク色のタンパク質へと変わった。 「米兵、戦車を駆り出してきたぞ」 ユーヌはため息をつきかけた。 遠目にも見える戦闘車両。敵性エリューションのフェーズ3以降は防御障壁を持つが、リベリスタはそうも行かない。 残りの肉巨人は時間の問題ではあったが、米兵対応に集力しているユーヌには、何とも骨が折れる様だった。 「もうひと頑張りです」 光介が戦車に注意しながら、柔らかな光を全員に施す。 そしてふと、千里眼の端。蒼く揺らぐ亡霊の様な鍵盤を操りたる仮面の怪人を垣間見る。 「……あれが“ピアニシャン”?」 仮面の怪人はしかし、煙の様に消え去った。 幻覚の様にも思えた数呼吸の間である。光介は頭を切り替える。 この後、エーデルワイスと椿の連携による呪詛が、備わるならばと冷静に思索して。 回復が火力を上回る可能性を見た時、勝利を確信する。 戦いは崩れるようにリベリスタへと傾いた。 : : : 「終わりね。思ったより被害軽微」 エナーシアの最後の銃撃で、肉人形が醜くジェリの様な塊に変じた時。残る懸念は、戦車を駆り出して、砲撃を加えてくる米兵達であった。 「長居しても仕方ない状況だと思うわ」 悠長に話をせず、撤退するのが良い状況。潮時である。 「あ、『係長』さん。先日はかれーを有難う」 「きゃっほー、係ちょ――」 「係」 一言だけ、とせめて挨拶を望んだ時。恐山の暴力担当の男は、ヘンリエッタと椿を普通に見て、次にエーデルワイスに対して苦々しい表情を浮かべる。 そして、人差し指を立てて唇にあてがった。静かにしろというサインであった。 『盗聴の危険があるのでテレパスで失礼します。後はこちらに任せて撤退してください』 暴力担当の補佐を務める女は、マスターテレパスを使ってリベリスタ達にメッセージを伝えた。 それは一刻も早く、この場からアークを撤退させたい旨の内容の他には無いもない。 『"バロックナイツ配下組織"が近くにおります。あなた方"アークには敵"。"七派には味方"。連戦などしたくないでしょう?』 まだ敵がいるという。 楽団は、七派に敵対している。此度は利害の一致による共闘。 しかし、七派と結束を結びたる、新たなバロックナイツ組織の胎動を告げるものだった。 アークとのパイプを保ちつつ、七派の体をとる恐山の姿勢は、実に"らしい"のであるが。 ...To Be "Hunter report" |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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